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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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10/15

Episode.10


ミネルバの可愛らしく微笑う姿に、しばし目を奪われる。シリルは思い切って聞いてみた。


「しかし、お嫌でしょう?元婚約者の、しかも貴方に辛く当たった男と同じ顔の者に触れられるなど‥‥」


シリルは今日、出来る限りお洒落をして来た。家着の様な格好でミネルバに会いたくはなく、アレックスの服を借りてでも、ミネルバに格好良く映りたかったからだ。支度の際に、メイドが言った。

『前髪をお切りしてもよろしいですか?』


前世の感覚が蘇り、以前の様に誰の目にも映りたくないとも、引き籠ろうとも思わなかった。故にこの長ったらしい前髪は邪魔でしかない。

だが、アレックスと同じ顔に、ミネルバが少しでも嫌悪感を示したら――‥‥シリルはゾッとした。とりあえず切るのはやめて、上げてもらうだけにした。


(ミネルバの反応を見て決めようと思ったのだが‥‥)


反応を見るのが怖い。恐る恐るミネルバを見ると、大きな空色の瞳できょとんとしている。


「昨夜も申し上げましたが、シリル様とアレックス様は全く違います。触られても、‥‥‥嫌ではありません」


シリルはミネルバを見つめていたので、すぐに気付いた。最初は普通に言葉を紡いでいたのに、最後の言葉でミネルバが詰まった事に。更に言った後、顔が紅くなっているではないか。

(触っても嫌ではないだって?)


前のめりにミネルバの顔を覗き込む。

「良いのですか?触っても?」

ミネルバはいきなり距離を詰めたシリルに驚き、後退った。ソファーに足をとられ身体が傾く。シリルは咄嗟に倒れるミネルバの腰を支えた。ミネルバに覆いかぶさらないよう、片手で支えてはいるものの、吐息を感じる程近付いていた。


「すみません、驚かせてしまいましたね」

シリルは我に返り、身体を離してミネルバを起こした。自分の欲望を抑え込むのに必死だったので、ミネルバの様子に気付いていなかった。起こされたミネルバは微動だにしない。顔を見ると、これでもかと言うほど真っ赤だった。その目には涙が浮かんでいる。


(な、泣かせた!?)

シリルは頭を殴られたように衝撃を受けた。

固まっていると、ミネルバが声を絞り出して言った。


「ま、前を留めてください‥‥」

何の事を言っているのか瞬時には理解出来ず、オロオロしながらライナスに視線を送る。ライナスは蒼白な顔で自分のシャツのボタンを指差した。


(やっぱりボタンか!)

「も、申し訳ない。見苦しいですよね?」

なぜだか恥ずかしくなり、シリル自身も顔が紅くなるのを感じた。


シリルが確認するようにミネルバを見ると、ミネルバはもはや両手で顔を覆い、シリルを見ないように努めている。


(そ、そこまで‥‥)

シリルは泣きそうな気分で再度謝罪した。

「本当に申し訳ない。これは兄の物で、サイズが合わずボタンが留められないのです」


前が開いているとは言っても、第二ボタンまでだ。そこまで重要視していなかった自分に腹が立つ。

(当然だ。貴族のご令嬢なんだぞ。男の上半身など見たくもないだろう)


もう帰った方がいいのではないかと思い始めた時、ミネルバは覆っていた手を離し深呼吸した。


「いえ、私こそ騒いでしまって申し訳ありません。びっくりしただけで、もう大丈夫です」

そう言って紅くなった顔をパタパタと手で冷まそうとしている。その仕草すら可愛いらしいと思ってしまう。


「サラ、お茶を入れ直してくれる?」

ミネルバが侍女に声をかける。まだ居てもいいのか!とシリルの沈んでいた感情が浮上した。


「ライナス」

名前を呼ぶと、顔色の悪かったライナスがサッと従者の如く箱を差し出した。先ほど買ったケーキだ。


「手ぶらで謝罪に来る訳にはいきませんので、ケーキをお待ちしました。お好きなものはありますか?」

シリルの言葉にミネルバの表情が明るくなった。


「まぁ‥‥!こんなにたくさん」


(甘い物が好きなんだな)

シリルはその事実を脳内に刻み込み、きらきらと輝く目でケーキを見るミネルバを見つめた。

会うたびにケーキを買って来なければ。あ、そういえば一つ減らしたのだった。シリルは一応確認した。


「桃のケーキはないのですが、大丈夫でしょうか」


メイドが近付いて来て、ケーキを皿に移す。

「お嬢様は桃のアレルギーなのです。ご存知だったのですか?」

シリルは少し目を見開いた。


「いえ。それは偶然です。桃は私も好きではありませんので、排除して正解でした」


我知らず、にやりと笑みが溢れる。機嫌の良かったシリルは気づかなかったが、後ろに控えていたメイドが数人小さく声を上げた。



訪問はケーキを食べて、少し談笑して終わった。ライナスは胸を撫で下ろして、帰りの馬車でシリルに言った。


「次からはくれぐれも、先触れと、シャツのボタンを気をつけて行きましょう」

「そうだな。年頃のご令嬢に不快なモノを見せる訳にはいかないからな」


真意がいまいち伝わっていないが、ライナスは後はメリザに任せようと思った。







読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
シャツのボタンがきつくて締められないってシチュは男女問わずドキドキしますなぁ…! シリルのよい胸板ごちでした!
これは…というシチュ、ごちそうさまです。お嬢、気を確かにね!w
可愛ぃなぁ♡2人とも! この恋ゎまるでジェットコースターww(*`艸´)♪ 不安な気持ちも!少しの恐怖も!在るけれど…ソコに憂慮する間さえ無いw怒涛の如く押し寄せる感情ゎウキウキでwドキドキでwワクワ…
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