03 散った花
人はいずれ死ぬ。そして、1日には大勢死んでいる。だから、ここでそれが起きたとしても、何も不思議じゃない。世界中で起きている戦争、紛争、動乱に比べれば、ここで大勢死んだところで、全体に比べれば鼻くそほどのスケールでしかない。
奴等はすべてを私から奪っていく。金も、愛も、尊厳も、何もかもだ。私が何かを言っても、何かを訴えても、誰も何もしてくれない。話は聞けども行動はしない。それは、最も不誠実な行為であり、最大級の裏切り行為であった。他人なんてあてにしたらいけない、自分の人生は自分でどうにかしろ。昔の人は真実を見抜いていたのだ。
だから、鼻くそほどの価値しか無い人間達を、自分の学校の生徒を、教師を皆殺しにするのだ。この世の理不尽や不条理を打ち消していけ。そう言われて、自分は変身ヒロインとなったのではないのか。さえない女子中学生が、変身ヒロインになったのだ。もう、友達も恋人も仲間も居ない喪女じゃない。私のファン達にアサルトライフルを持たせて、校舎まで進軍してきた今、やりべき事は1つだけだ。
「私の事を甚振ってきた報いを受けるべきだ。私のファン達も、同じ気持ちの男達や女達だ。公立昌里中学校の全校生徒、そして全教師に、今まで自分達がしてきた事がどう言う事なのか、教えてやる」
って、言うのが、SNSにて投稿されていた「犯行声明」って奴である。これが投稿されたのが、3日前だ。今頃は、学校に辿り着いて、派手にドンパチしているに違いない。それを止めてきてくれ。いや、もう間に合わないかも知れない。でも、1人でも多く救うんだ。
自分が一番だと思い込んでいる勘違い女に、教えてやれ。お前のした事、している事は、八つ当たりも良い所の、同情の余地もない理不尽な暴力である、とな。
中世ファンタジーRPGであれば、それは「オーク」や「ゴブリン」の群れと言える光景であったが、手に持っているのは、そんな洒落にはならない物騒な得物であった。アサルトライフルを手に持ち、弾倉のタップリ入ったバックパックを腰に巻いている。
その先頭に立つのは、アニメに出てくる変身ヒロインのそれそのものの姿をしている少女である。「オーク」や「ゴブリン」を率いて、この街の公立中学校に向かっている。今は朝の授業1限目だ。獲物は大勢居る。
その前に、1人の少女が、全く同じ姿をしている変身ヒロインが立ち塞がっていた。校門の前にて、仁王立ちと言う姿勢を絵に描いて額にいれた風情で立っていた。
「帰れ」
とだけ、相手は言う。「オーク」や「ゴブリン」は、手に持っている武器を向けようとしたが、先頭を歩くヒロインがそれを手で制して言う。
「今までカツアゲされたお小遣いは31万円、殴られた回数は132回、悪口を言われたのは541回。私、あいつらにされた事、ぜーんぶ覚えているわよ。あいつらは、今日も平気な顔で、友達と一緒に、学校に通っている。こんなの、許される筈が無い。もしこの世に正義と悪があれば、あいつらは絶対に悪よ。私が全員殺してやっても良いじゃない。私が今までされていた事を、全部やり返すだけよ」
「なる程、ただの臆病者だ。自分の事しか考えられていない」
仁王立ちのヒロインは、臆病者と呼んだヒロインに言い放つ。
「その後ろの手下達が居なくても、そして銃を持たせなくても、お前の今の力なら、独りで出来る筈なんだ。なのに、そんなに手下に頼って、しかも武器まで持たせて、殆ど無力な人間を大量虐殺しようなんて。お前の言う「正義」ってなんだよ。お前こそが「悪」じゃねぇか。笑わせるな」
「あっそう、お気遣いどうも。それで、どうしろって言うの?」
「帰れ」
「嫌よ」
「帰れ」
「……じゃあ、あんたを退かすしかないようね」
「帰れ」
仁王立ちする松田龍平は、臆病者と指弾された菊池公子が殴りかかってくるのを、真っ正面から受け止める。
「これが最後だ。帰れ」
「だから、嫌よ」
「じゃあ死ね」
龍平のキックが、公子の胴体を横薙ぎに叩き付けられる。これで体勢が崩された公子の身体に、龍平のパンチとキックが嵐のように叩き付けられていく。
最後の1発が、顎への右アッパーが炸裂すると、菊池公子の身体が宙を舞い、地面に叩き付けられる。それでも、公子はユラリと言う擬音が相応しい仕草で起き上がる。
「あんた、女の子を殴る蹴るして」
「てめぇにそんな事言う資格なんてねぇんだよ」
「そんなに私のしている事って間違っているの?」
「帰れ」
「もう後戻りなんて出来ないの。私を止めようとしたパパもママもお祖父ちゃんも、皆殺しちゃったんだもの」
「……止めだ」
「はっ?」
「お前には殺す価値も無い。お前に必要なのは、俺じゃない。お前に必要なのは、彼処じゃないのか」
龍平は、学び舎を指差す。困惑する公子に、龍平は尚も言う。
「まだ殺していないのなら兎も角、既に家族を殺している今、お前に必要なのは罰じゃなくて治療だ。あそこには、それが出来る奴らがいる」
「でも、私は」
「殺す価値なんて無いんだ。独りで行けないのならば、俺も行く」
泣いた。病気で死んだお祖母ちゃんの葬儀の時以来、彼女の瞳からは滝の様な涙が流れる。
「私、まだ、行けない」
「なら、帰れ」
後に居る手下達に、松田龍平は言う。
「おーい、お前ら、そう言う事だから、武器全部捨てて、家に帰れ」
泣きながら家に帰る途中にて、生ける憎悪に出会していた。こいつも同じ、変身ヒロインであろう。統制者2号の手下なのか、あるいは1号の手下なのか、まだ分からないが、その顔には憎悪の炎が揺らいでいる。
「情けないじゃないか。同じ統制者から鷲の精神を見出されながらも、相応しくない力の使い方をするとは」
何の事だ。と返そうとした時、公子の脳裏に、自分が殺した家族の最期が過る。
「不条理で理不尽な世界を正す筈なのに、自分自身が不条理で理不尽な振る舞いをするとは、許しがたい罪だ。弁明の余地無し。ここで死ね」
菊池公子の頭を割るのは、佐藤拓の拳である。公子は、抵抗しなかったからこそ、頭を割られてしまったのだ。
菊池公子の骸を見下ろす拓の隣に、桜田賀雄が並ぶ。
「やっぱり、SNSの情報通りだったわね」
「一体、どちらの統制者の鷲なのかな。銃を持った手下と一緒に学校に殴り込みにかかる様な奴に、そしてそれを止めようとした家族を殺す様な奴に、恩情をかけて生きて返すなんて。それはそれで格好良いけど、格好付けすぎだね。14歳が犯すのには、重すぎる罪だ」
佐藤拓と桜田賀雄は、その場を去って行く。




