014 生きろ
命とはなんぞや。問われて答えられるものは、あるいは真面目に考えるものは、そんなに多くはない。空気や太陽の光と同じで、当たり前に享受しているものが実はとても価値がある、と言う現実を突きつけられる頃には、命は失われている。
それに、だ。命は放って置いても、いつかは消える。時として、突然奪われる事もある。その度に、哀しみ、怒り、苦しみ続ける。
命とはなんぞや。もののあわれとはなんぞや。神の身ならぬ人の身である2人には、到達できない領域であるが、分かっている事は1つだけだ。
「統制者はぶっ殺すしかない」
月の裏側。常に暗闇に支配されている衛星の裏側には、統制者0号が集めた「軍団」が、整列して自分の主に頭を垂れていた。統制者0号、宇宙を創った存在は、その姿を見ることが出来ない形として、この場に存在している。確かに存在は感じ取れるが、その姿は目に捉える事が出来ない。まるで空を掴むような姿を感じて、「軍団」は頭を垂れる。
「面を上げよ」
と言われて、無数の「軍団」は顔を上げる。矢張りその姿を目にする事は出来ない。その統制者0号は、「軍団」に呼びかける。
「うぬらの命は、われが創った。あの星にて生きている命も、われが創った。うぬらがあの星に行くと言う事の意味を知らぬ者は、ここに居ることは許されていない」
掴めそうで掴めない。聞こえているようで実は音として発せられていない声を聞いている。
「うぬらの命、今こそ燃やし尽くせ。あの星の命と共に、今こそ燃やし尽くせ。あの星の命に、もののあわれと言うのを教えてやれ」
もののあわれ。命の儚さを表す言葉である。人間には、「もののあわれ」が分かっていないというのか。そこまで明言はしていない。
「命とはなんぞや!」
その問いかけに、「軍団」は答える。
「何かを為す事!」
その答えに、0号は更に問う。
「その「何か」とはなんぞや!」
その答えを、「軍団」は答える。
「後世に残せるもの!」
その答えに、0号は満足して問い返す。
「あの星に生きているものは、「何か」をしているのか、「何か」を残しているのか!」
「一切無し!」
「その命が、我らを狙っている、そんな事が許されるのか!」
「断じて有り得ず!」
「では、奴等に「もののあわれ」を教えてやれ! うぬらと共に、あの星に降りたって、われも教えてやろう、「もののあわれ」を!」
掴めない、見えない、感じ取れはする統制者0号の気配が消えた。
統制者1号と2号は、その「軍団」への演説の後に、0号と謁見する。
「今回の一件、しくじったな。うぬららしくないミスだ」
「返す言葉も御座いません」
1号はすぐに自分のミスを認めていた。2号は何処か不服そうであったが、頭を垂れて言う。
「もう少し、利口な生き物だと思っていたのですが」
「既に発生したミスは仕方が無い。これから後始末を行うが、お前達にも当然戦ってもらおう。うぬの命も燃やし尽くせ」
「まさか、対応が間違えれば、我らが負けると思っているのですか」
1号は嫌味とかお世辞とかではなく、本気で尋ねていた。0号はこれに断固たる声で答える。
「奴等は強い。うぬらも見守り続けたのだから、あの「命」の強さは知っていよう。鷲の精神を持った「命」は少ない。その少ない内の1つが、奴等だ。うぬらもわれも、油断を1つもしてはならないぞ。言っておくが、奴等に負ける統制者を生かしておくほど、われは優しくは無い」
「肝に銘じておきます」
「我らの命も燃やします」
その星に生きている全ての命が、同時にその声を感じていた。あらゆる命が、その言葉を感じていた。その瞬間、全ての命が、日々の営みを止める。
「お前達に、統制者0号として命じる。そこで死ね。うぬらの作り方を間違えた。また次の命でやり直す。うぬらも遂に、完成を見ずして終わる命であったか」
声が途切れる。その瞬間、全ての命が吠える。全ての命が、自分達が逆らうべき存在を感じていた。統制者0号を名乗る声に、全ての命が吠える。
「私達は生きる」
彼ら、彼女らの思いは、同じであった。自分達が戦うべき理不尽と不条理を見つけ出した瞬間であった。「死ね」と言われて本当に死ぬ「馬鹿」が何処に居るのか。全ての命が吠える。
「私達は生きる」
月の裏側から、暗闇が表側を侵食し始める。「軍団」の姿である。それを観測して、あの声が空耳であると思っていた人々に現実を突きつけていた。このままでは、ここで殺される。この星を枕にして、全員討ち死にだ。
「軍団」が次々と月の裏側から表側に出てくる。その数は、正しく「暴力的」であった。あの「暴力」に勝てるのか。どんなに綺麗事を並べても、どんなに勇ましい言葉を並べても、あの「暴力」は容赦も躊躇もしないで殺してくるだろう。
噂の「アドラー」はどうだろうか。あんまり良い噂は聞こえてこない存在であるが、この際、連中に頼るしかないだろう。
全ての命が、空を見上げながら、自分達の正念場が今正に目の前に迫っているのを感じていた。
お互いに、この点だけは理解していた。
「負けたら終わり」
だと言う事だ。




