第9話・240Hzモニターの衝撃
あの挑戦を叩きつけてから1日。
ユリアからメールでコラボ企画の内容が送られてきた。
「雄二さーん、ユリアさんからメール来たー」
「わかりました、少しお待ちを」
――――天音宅。
相変わらず散らかった部屋を片付けていた雄二は、天音の座るPCデスクに近づいた。
画面には、Windowsのメールボックス。
【題名:EPEXコラボ配信について】。
今見ても天音は信じられなかった。
チャンネル登録者5万人規模の配信者が、直にメールでコラボの話をしてくるのだ。
無意識に手が震えるが、その上から雄二が優しくかぶせた。
「大丈夫です、俺がついてます」
その行動は、千の言葉より安心を天音に与えた。
内容はかみ砕けば、以下の通りだ。
【コラボ内容は雑談ではなく、敵対した状態でカスタムセッションに参加。100人バトルロワイアルでより高順位を目指し合う】
次いで、下段に文字が詰めてあった。
【もしつまらないと感じた瞬間、その時点で配信は終了】
明確に、今の天音とユリアの差を示す文章だった。
だがそもそも、こんな話自体がこちらにとって本来得しかない。
どう転んでも、ユリア側は経済的メリットが皆無の状態。
雄二たちが提示したのは、そんな彼女を熱狂させるという条件。
それが満たせないなら、妥当とも言えた。
文章を読み終えた雄二は、余裕気な笑みを浮かべた。
「良かったです。下手に雑談中心だったら、天音さんの現在のトークスキルでは無理ゲーでした」
「要はこれ、ユリアさんとガチバトルして勝てば良いんだよね?」
「極論はそうです。しかし油断はできません」
そう言って、雄二はスマホの画面を彼女に見せた。
「ユリアさんは、現役の最高ティア帯プレイヤー。一時は日本ランク上位すら入っていた本物の猛者です」
確かにそこには、ユリアの強烈な戦績を誇るプロフィールが映っていた。
「K:D6.3……、カスタムマッチ試合勝率86%……。ビクトリーロイヤル率67%!?」
それは、ガチ勢ひしめくオンラインゲームにおいて、一線級のプロにも届く数字。
「ユリアさんの配信の売りは、その圧倒的なプレイングスキルです。天性のセンス、配信者という立場を活かした練習時間。普通にやって勝てる相手ではありません」
そう、相手はもはや準プロ級と言っても差し支えない猛者。
おそらくプロチームからのスカウトも来ているだろうが、確実に蹴っている。
「勝てる……かな?」
「以前の天音さんなら無理でした」
「以前……? 今なら相手になるの?」
「不安はわかります。では試しましょう」
言いながら雄二は、Windowsの設定画面を開いた。
「天音さん、新しいモニターの使い心地はどうですか?」
「この240Hzモニターだよね? うーん……確かに画質は前より良いけど、なんかまだヌルヌルって感じがしないんだよね」
雄二に買ってもらったフルHD240Hzゲーミングモニター。
最初こそウキウキで試したが、失礼な話全く体感が変わらなかった。
正直に告白するも、雄二はどこか嬉し気だ。
「良かったです、もしヌルヌルするなんて言われたら困りました」
「えっ、どういうこと?」
「こういうことです」
同時に、雄二はディスプレイ設定を開く。
そこには、モニターの上限リフレッシュレートが映っていて――――
「上限……60Hz?」
「はい、いくら良いモニターでもWindows側で設定を解放しないと、60Hzのままなんです。だから天音さんの体感は合ってますよ」
「た、謀ったなぁ!!?」
「失礼しました、でも知ってほしかったんです」
マウスをクリック。
画面が一瞬暗転したかと思うと、またついた。
「さぁ、マウスを振ってみてください」
「えっ、これまだデスクトップ画面だよ?」
「はい、ですが……わかるはずです。もう以前のモニターではないと」
半信半疑でマウスを動かした天音は、最初の一振りで違いに気づいた。
「なにっ……これ! 全然違う! ヌルヌルだ!!」
ただのいつもと変わらぬデスクトップ画面が、まるで別物かのような挙動を示したのだ。
まさしく、表現するならヌルヌル。
純粋なリアクションに、雄二は満足気だった。
「では、早速練習です。EPEXを開いてください」
ゲームを起動していつもの練習場へ行くと、天音は思わず叫んでしまった。
「いや別ゲーだろこれぇッ!!!」
天音は痛感した。
今まで見て来たモニターは、不良品だったのではないかと。
そう思ってしまうほどに、マウスを振った時の画面の滑らかさ、キーを押した時の応答性が段違い。
「こういったガジェットは、使い手の基礎能力が高いほどに恩恵を受けます。天音さん……これがあなたの本来の動きです」
試しに入った野良マッチはもう圧巻の一言。
「残像感全く無い! エイムが吸い付く……! キャラが手足みたいに動く!! 楽しい!!」
あっという間に1位争いのタイマンへ。
普段なら見逃していた敵の動きにも、彼女は神速で対応。
「敵の切り返し、キャラコン……全部見える!」
決着。
画面に映るのはビクトリーロイヤルの文字。
脱力した彼女は、あまりの進化に震えていた。
「本当に……これがわたし?」
「えぇ、間違いなく天音さんの実力です。安心してください」
元々60Hz縛りをしていた天音は、今240Hzの世界を手に入れた。
その伸びは尋常ではなく、いつもの3分の1の疲労度で1位を取ってしまった。
これなら、練習効率も段違いになる。
「さぁ天音さん、武器は手に入れた……後は戦うだけです」
「うん……! 絶対、ユリアさんや視聴者を楽しませて見せる」
2日後の夜、遂にユリアとのコラボ配信が開始された。




