第8話・登録者5万人のチャンネルとコラボ決定!
「コラボ……? わたしが天音さんとですか?」
かなり訝し気な表情をしたユリアが、雄二に聞き返した。
「聞き間違いとかじゃないですよね?」
「いえ、そのまんまの意味です。ウチの天音さんとコラボ配信をしませんか?」
この言葉に動揺したのは、何もユリアだけではない。
隣に座っていた天音も、いきなりの言葉に大汗をかいていた。
「ゆ、雄二さん……! いきなりどうしたの!? 相手は5万人超えたチャンネルの配信者さんだよ!? 普通に考えて無理に決まってるじゃん!!」
天音の言う事は至極最もだった。
なぜなら、雄二自身が以前にコラボについて辛辣な意見を言っていたからだ。
コラボが成立するのは同規模の配信者のみ。
メリットは視聴者のシェアであって、天音のような未だ収益化すら達成できていない人間と、コラボする意味など無いのだ。
そんなことは、ユリアも当然理解している。
「天音さんの言う通りです。配信は私にとって仕事、明確なメリットも無いまま安易に頷くことはできません」
「知っています。では……そのコラボでユリアさんが納得する報酬があれば良いのでしょう?」
「極論ですがそうですね、なにか提示できるのです?」
「えぇ、これが理由にはなりませんか?」
「ッ……」
雄二が見せたのは、天音のチャンネルの通知欄。
プロデューサーということで、アカウントをシェアしていたのだ。
スマホの画面には、
「先日天音さんのチャンネルを、あなたのアカウントが登録しています。これは本人と見て相違ないですか?」
ユリアの眉が動く。
天音にいたっては、何が何やら全く追いつけていない。
「ユリアさんは、個人的に天音さんに興味を持っている。配信者として……同業として。違いますか?」
「だとして、それが何になると言うのです? 誤登録の線は考えないのですか?」
「もちろん考えました。ですが、不思議に思いませんか? 登録した翌日に……わざわざ台車を持って俺たちの前に現れる偶然を」
「……」
「最初から、天音さんに会いたくてこの施設に来たんじゃないですか? モニター運びはあくまで隠れ蓑、本命は天音さんとの会話の口実作り」
妙な話ではあったのだ。
モニター運びに困っていたところへこれ見よがしで台車を持って現れ、喫茶店で見ず知らずの人間と話したがる。
”人間不信”の雄二からすれば、何かあると思うのが自然だった。
「……貴女は俺が持ちかける前から、天音さんに興味があって仕方なかった。証拠に、会話中も視線はずっと天音さんを向いていましたから」
「えっ、そうなの!?」
驚く天音に、ユリアはため息をついた。
「……どうやら、本当に優秀なプロデューサーがついたようですね。良い作戦だと思ったのですが」
カップの紅茶を飲み干したユリアは、顔を上げた。
「確かに、天音さんには個人的に興味があります。モニター売り場で出会ったのは本当に偶然でしたが……口実にしたのは当たっています」
一拍目を閉じてから、今度は視線を雄二へ向ける。
「それで? それを脅しにコラボをしたいと?」
「まさか、言ったでしょう。ユリアさんにもメリットはちゃんとあります」
「教えてもらいましょうか、優秀なプロデューサーさん?」
雄二は笑みを浮かべると、天音の肩を叩いた。
「”推し”と一緒に配信できます」
「雄二さん!!?」
思わず碧眼を見開くユリア。
そこへ、雄二は間髪入れずに差し込んだ。
「ウチにはお金もシェアできる視聴者も用意できません。ですが、天音さんと過ごす楽しい時間なら提供できます」
日本に来て数年。
ずっと冷めていた魂が、ほんの僅かに震える。
真っすぐな雄二の目を見て、ユリアは胸中で呟いた。
――――このプロデューサー、全部お見通しですか。
クッキーを一口頬張ったユリアは、口調を崩さずに回答した。
「良いでしょう、そのコラボ案件……お受けいたします。ただし――――」
飲み込んだ彼女は、人差し指を雄二へ向けた。
「もしわたしがコラボの意義無しと判断した瞬間、その場で終わらせていただきます」
この言葉に、雄二はすぐに返事をしなかった。
「天音さん」
「な、なに?」
「この案件、どうしますか?」
「わたしが最終決定すんの!?」
「えぇ、配信者はあくまで天音さんですから」
笑顔で狂気的なことを言うプロデューサーに、天音は異議を申し立てたくなったが……。
「そうか……、雄二さんはあくまで頂点に立つために導くのが仕事……」
状況を整理して、天音も理解。
これは通常あり得ないコラボ案件が、突然目の前に降ってきた状態。
失敗のリスクは莫大だが、成功した時のメリットも比較にならない。
この先どうやったって、5万人規模のチャンネルにはすぐ認知してもらえないだろう。
「わかった。コラボ――――しよう! ユリアさんとなら熱い配信ができると思う」
雄二は見逃さなかった。
ユリアの頬が僅かに吊り上がったのを。
「では3日後、夜の8時に。ゲームは天音さんの得意なEPEX。企画内容は明日送付いたします」
ここに、チャンネル登録者5万人の配信者。
ユリアとのコラボが決定した。
後にこの配信は、業界で知らぬ者がいないものとなる。




