第7話・序盤で大ボスと遭遇してしまった件
「むはぁ……! なにこの甘いケーキ、初めて食べたぁ……!!」
家電量販店のある複合施設内、その高級喫茶店に3人はいた。
普段であれば絶対に入らない場所だが、
「フフッ、気に入っていただけたようで何よりです」
テーブルの対面に座ってそう言ったのは、金色の柔らかい髪をショートヘアの長さにした、童顔ながらもおしとやかさを持った少女。
傍には、先ほど雄二が買ったゲーミングモニターの入った袋が、キャスター付の台車に乗せられている。
「改めてありがとうございます、まさか台車を持っている方に手助けしていただけるとは」
頭を下げる雄二に、眼前の少女は首を横に振った。
「モニターは決して安い買い物ではありません。もしぶつけたりしたら、悲しいでは済みません。申し遅れました――――」
そこまで言った少女は、紅茶の入ったカップを置いた。
「わたしは名をユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトと呼びます。お見知りおきを」
「ゆ、ゆり……シュヴァ?」
唐突に出て来た長すぎる名前に、少女は軽く笑う。
「日本では馴染みがありませんよね。気軽にユリアとお呼びください」
「わかりました、ユリアさんはドイツ……それも貴族の出身と見えますが」
「あら、なぜそう思ったのですか?」
「ドイツでは土地、そして地位などが名前に加わります。フォンは貴族称号、ブラウンシュヴァイクは土地あたりかなと」
「日本の方でそこまで詳しい方は初めてですね、驚きました」
そう言った雄二だが、たまたま昔勉強した部分を思い出したのだ。
ドイツに対して詳しいだとかは、実はあまり無い。
「ねぇねぇ、ユリアさんはなんで日本で暮らしてるんですか?」
天音の問いに、ユリアは迷いなく答える。
「それはもう、日本のサブカルチャー文化に憧れてです」
「わお……」
「昔から日本のアニメや漫画を見て育ったものですから、こうして日本で暮らすのが夢だったんです」
雄二や天音からすれば、こういった外国の人間と話すのは珍しいイベント。
会話が弾んだところで、ユリアが質問する。
「ところで、お二人はどういった関係なのですか? 恋人とかでしょうか」
「雄二さんはね、わたしのプロデューサーなんですよ」
ケーキを頬張りながら、天音が返す。
「プロデューサー? じゃあ天音さんはアイドル業とかを? まぁその容姿なら納得ですが」
「あー……まぁ似たようなもんです、”配信者”って知ってますか?」
この言葉に、ユリアの紅茶を持つ手が止まった。
「配信者……天音さんが?」
「はい、まぁまだ収益化すらできてないですが……でも、こないだ登録者1000人突破したんですよ! それも、この雄二さんがプロデュースしてくれたおかげです!」
自信満々で自慢する天音。
一方のユリアは、表情が少し変わった。
その一瞬を、赤井雄二は見逃さない。
「ユリアさんのご職業をお聞きしても? もしご縁があるなら今度お礼がしたいので」
この言葉に、彼女はカップをソーサーに置きながら答えた。
「そうですね、正直に言えば……天音さんと同じですよ」
「えっ、じゃあユリアさんも……配信者なんですか!?」
「はい、日本ではそれで食べさせていただいてます」
食べている。
つまり、既に収益化をしているという意味。
それもフリーランスとして、こんな喫茶店へ来れるくらいには稼いでいる。
恐る恐る、雄二は聞いてみた。
「差し支えなければ、チャンネルを教えていただけませんか? せっかくのご縁です」
「構いませんよ、ただ……」
一拍置いたユリアの顔が、”闘争”を帯びたものへ変わる。
「ビックリしないでくださいね」
出されたスマホに映っていたのは――――
【ユリっちチャンネル・チャンネル登録者”5万人”】
「ご、5万……!!」
「ッ……」
ケーキを喉に詰まらせかける天音。
スマホをしまいながら、ユリアは水を彼女に差し出した。
「現在はゲーム配信を中心に、各種案件などをこなしています。でも天音さんと職業としては一緒ですよ」
いや、全く違う。
初期村と大ボスくらいには違う。
ユリアは社交辞令で謙遜しているが、こっちは収益化すら達成していない。
対して彼女は、収益化はもちろん案件までこなして生計を立てている。
こんな1品が余裕で1000円を超える喫茶店でご馳走できるだけの経済的余裕を、既にユリアは持っている。
明らかな超格上だった。
その上で――――
「ユリアさん、これは1つの提案なのですが」
彼女の直前の表情からある推測を立てた雄二は、迷いなく言葉を続けた。
「ウチの天音さんと、”コラボ配信”してみませんか?」




