第6話・購入、高性能モニター!
「っというわけで、次の企画をやるにあたって機材を少し買い足しましょう」
――――蒼空市内中心部 某家電量販店。
エアコンの効いた広いフロアの中で、赤井雄二は呟く。
「機材……? 前に見てもらった時に言ってたやつ?」
売り場の新型TVを見つめながら、天音が返す。
その格好は昨日と同じ、肩を露出したシャツにベージュのショートパンツ。
雄二をもってすら美少女と言わざるを得ない天音は、その長い銀髪もあって周囲の注目を集めまくり。
多分、この場所ではTVよりも天音を見る客の方が多いだろう。
「コホン、前に天音さんのメインモニターの話をしましたね?」
「うん、確か……60。60Wって雄二さんが言ってた」
「60Hzですね……、ドライヤーじゃないですよ?」
それはともかくとして、雄二は軽く説明する。
今のモニターでは単純に画面の滑らかさが低い。
現代のスポーツ系ゲームは環境も大事だと。
「じゃあ何Hzのやつがわたしの用途に合ってるの?」
Hzとは、言い換えればリフレッシュレート。
天音のモニターの上限が60なので、1秒間に60枚しかパラパラ漫画を映せないとイメージすれば良い。
「それでは、動きの速い敵に対して遅れを取ります。天音さんの腕を考えれば240Hzは欲しいですね」
「240って……! 私まだ収益化してないよ!? 高級モニターじゃないそれ!?」
「ご安心ください、2024年に中華モニターがコスパモデルで価格破壊して、天音さんが思っているよりも値段は落ち着いています」
「雄二さん何でも知ってるね……」
「まぁガジェオタなので……」
少し饒舌になりすぎた雄二であった。
一応AI関連でPCパーツの値段は上がっているが、モニターは逆に値下がり傾向。
このタイミングで追加投資するなら、ここがベストと雄二は判断したのだ。
「では早速見て回りましょう」
「こ、国産ができれば良いんだけど……」
「もちろん、国産で良いモニターはありますよ。日本企業も頑張ってますから」
歩き出した雄二、だが––––
「っ!!!?」
見れば、天音が雄二のシャツの袖を摘んでいた。
「わ、わたし……こういう店員さんが多いところ苦手だから……、緊張する」
緊張するのはこっちだと叫びたくなったが、雄二はなんとか赤面した顔を隠す。
改めて考えてみても、こんな可愛い配信者が自分の隣を歩いている現実が、あまりに非現実に思えた。
2人で歩いて、やって来たのはゲーミングコーナー。
「す、凄い充実具合……!!」
「そうですね、自分も初めて来ましたが……最近の家電量販店はガチですね」
最近では専用のスペースが整備されるくらい、ゲームというジャンルは盛り上がっている。
視界に入る部分だけでも、
専用にビルドされた自作PCが数十台。
実際の配信者の部屋を模したスペース。
あらん限りのゲーミングモニター。
雄二や天音にとっては、まるで遊園地のようだった。
「ねぇ雄二さん、このWQHDってなに? 見た感じすっごい画面綺麗だけど」
天音が見たのは、27インチのIPSモニター。
「あぁ、解像度のことですね」
「それって一時期流行った4Kとかそういう?」
「正解です、天音さんが使用しているのはフルHDといういわば4Kの4分の1の画素数です」
「じゃあさ、一番きれいなモニター選べば良いんじゃないの? 敵もよく見えるんじゃない?」
天音の言い分は、モニター初心者なら誰もが通る理屈。
もちろん、雄二は首を横に振った。
「これが意外とそうでもないんです」
「っと、言いますと?」
「確かに映像は綺麗ですが、4KはPCへの負荷が尋常じゃないんですよ」
「そっか、単純計算でもフルHDの4倍か……PC固まっちゃうね」
「本格的に4Kで運用したかったら、グラボもRTX5080やRTX5090が必要になりますね」
「それっておいくら?」
「前者が22万円、後者にいたっては70万円を超えますね」
「こえー……」
素直にフルHD解像度のモニターを吟味する天音。
ちなみに彼女のPCのグラボは”RTX3070TI”と呼ばれるミドル帯。
4Kなんて夢のまた夢なのだ……。
「これなんてどうですか? フルHDで240Hz。3万円切ってます」
「確かに良さそうだけど、やっぱ今の私に3万は高いなぁ……別に60Hzでも困ってないし」
怯む天音だが、雄二にとっては想定内。
「良いですよ、今日は俺が出しますので」
「えっ、え!? いやいやそれは流石に悪いって!! 雄二さんの自腹は……」
「何言ってるんです、私は貴女をトップ・オブ・ストラトスにまで導くと決めてるんですよ。それに、もちろんタダなんて言ってません」
モニターの番号表を手に取った雄二は、優しい笑みを見せた。
「このモニターを駆使してもっと有名になって、収益化した時にでも返してくれれば良いです」
「ッ……」
天音は言葉が出なかった。
この人は、本気で自分に可能性を見出してくれている。
それが、その事実が……天音の中で鐘のように響いた。
「わかった、収益化して最初の収入は……雄二さんへの投資の還元に使う」
素早くレジを済ました雄二だが、ここに来て全く想定外の事態に直面した。
「すみませんお客様、現在運送会社がトラブルを起こしておりまして……お買い上げ後はお客様がご自身でお持ち帰りしていただく状態でして」
「え?」
笑顔が硬直する雄二。
モニターは、箱のデカさから普通の男性が持てるギリギリの重さ。
まして、華奢極まる天音に持てるはずもない。
ここは型番だけ調べて、後日ネット通販かとも考えたが。
「新しいモニター……、むふふっ。楽しみ……」
後ろで会計を待つ天音を見て、赤井雄二は即断した。
「構いません、自分で持って帰ります」
っと、全力で覚悟を決める。
それでもかなりの重労働。
筋肉痛を覚悟した時だった。
「あのー、よろしければお手伝いしましょうか?」
「え?」
振り返れば、そこには天音と同じくらい身長が低い金髪の女の子。
「ゲーミングモニターは男性でも重いですから、ご無理は禁物ですよ」
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