第5話・チャンネル登録者1000人達成祝勝会!!
「あれ、雄二さんってお酒とか飲まないんだ」
「ジンジャーエールが好きなものでして。っというか、自分アルコール駄目なんですよ」
2人がやってきたのは、蒼空市内のファミレス。
低価格ながらも質の高い料理が売りで、一般層の頼もしい味方。
ではなぜ来たか。
決まってる――――
「ではチャンネル登録者1000人突破、カンパーイ!!」
「乾杯」
天音の音頭と共に、グラスを当て合う。
カキンと心地よいガラスの音が響くと、お互いに飲み物を口へ。
「しかし、まさか本当に天音さんが一晩で目標を達成するとは思いませんでした」
「えっ? 全部雄二さんが仕込んでたんじゃないの?」
「言ったでしょう、自分は最低限の場を整えただけ。一晩で1000人突破はかなりの博打でした」
料理が届く。
頼んでいたのは、辛口ソーセージとチキン。
デカい料理を一気に頼むのではなく、こういった小皿をこまめにつまむのが、2人の一致する好みだった。
「あらためておめでとうございます、1000人突破は間違いなく天音さんの成果ですよ」
笑顔でソーセージを齧る雄二に、天音もホッとしたような表情でチキンを頬張る。
「このチキンうまぁ……っっ、普段食べてる小麦粉の水団子とは比較になんねぇ……っ」
リアクションが凄く良い。
奢り甲斐があるというものだ。
「モグっ……今だから聞くんだけどさ」
「なんです?」
「あの日……、なんでわたしをプロデュースしようって思ってくれたの?」
「そうですね、強いて言うなら”熱”です」
「熱?」
「あの時の天音さんからは、私を動かすほどの熱量を感じた。それだけです」
あっという間にソーセージが消え去る。
メニュー表を取り、次の品を選ぶ。
「そんなあいまいな理由で……、決めちゃって良かったの?」
「良いんです、元はと言えば貴女の配信にちょっかいを出したのが始まり。なら最後まで責任は持ちますよ」
赤井雄二は真面目な男だ。
今回の祝勝会も、お金のない天音へ奢っている。
自分から誘ったのだから、当然だという判断だ。
「……フーン、雄二さんって一貫してるね」
「世の中が捻じ曲がってますからね、せめて自分だけでも真っすぐでいたいんですよ」
その理念は正直わからなかったが、天音はとりあえずチキンを噛み潰した。
「次の目標は2000人?」
「確かにそうですが、その前にやるべき目標があるのを忘れてませんか?」
グッとジンジャーエールを飲み干した雄二は、優しい顔で言い放った。
「”収益化”ですよ」
「しゅ、収益化……!!!」
天音の紅い瞳が輝く。
グラスを持つ手に力が入り、半そでから出た細い腕が震える。
「そうです、今の天音さんは2つある収益化の条件を片方満たした」
「チャンネル登録者1000人……!!」
「そうです、そしてその次に過去4000の再生時間」
「よ、4000分じゃなくて……4000時間!?」
天音が驚くのも、まずは無理ないかと雄二はうなずく。
――――”収益化”。――――
それは全配信者が最初に目指すべき関門であり、絶対に通らねばならない道。
世の半数以上の挑戦者はそのチャレンジを軽く見て、あまりの壁の高さに絶望する。
いざやってみたら、登録者100人未満なんて当たり前だ。
ゆえに、雄二は念を押す。
「天音さんは既に一番の難所を超えました。この時点で偶然じゃない、再現性のある必然です」
「必然……わたしが」
しばし考えた後、めちゃくちゃ嬉しかったのだろう。
天音はニコニコになって、ちょっと高いラム肉を頼んだ。
雄二も今回はご褒美のつもりなので、彼女が遠慮せず食べられるよう同価格帯のデザートを注文。
「でも……、大丈夫かなぁ」
そう言いつつ、ジュースを飲み干した天音は顔を上げた。
「わたし、確定申告とかしたことない」
「へっ!!??」
ここに来て、初めて変な声を出す雄二。
「就職してた頃は会社に任せっきりだったし、配信者になった後も全く稼げてなかったから」
「あぁ……、そうなら仕方ないですね。大丈夫です、税金関係も俺が教えるんで」
「マジ……、雄二さんにプロデューサーやってもらって良かったぁ……!」
眼前の天音が、思わず脱力。
ここに来て、雄二の中に1つの感情が芽生えた。
喜びながらご飯を頬張る、一見すれば中3相当に見えてしまう少女。
「……天音さんって」
「なに?」
「もしかしなくてもやっぱ可愛いですか?」
「い、いきなり何!?」
「今日の服装、肩出しににショートパンツなんて恋愛経験の無い男にはちょっと眩しいんです」
「あ、暑いんだから仕方ないじゃん!! 日本の夏はサハラ以上だよ!? っていうかいきなり褒めんな恥ずかしい!!」
顔を赤くしながら配信者として満点のリアクションをする天音に、雄二はやはり確信した。
「やっぱり、プロデュースするなら”推し”と言えるくらい可愛くて好きじゃないとな」
その日の祝勝会は昼から夜まで続き、雄二と天音の仲をより一層深めた。
チャンネル登録者1000人の配信者が誕生した一方、同市内のある高層マンションで――――
「フーン、空井天音……ですか」
完全に整った配信空間。
高級オフィスチェアに座り、眼前のQD-OLEDモニターを見た金髪の小さな少女が呟く。
「まぁ、すぐに現実を知って消えるでしょうね」
画面に表示された天音のチャンネル。
マウスはおもむろに動き、”登録ボタン”をクリックした。
――――空井天音のゲームチャンネル。
現在の登録者は1056人。
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