第4話・最初の快進撃!!
その日、某有名書き込みサイトに1つのスレが立った。
内容は、
【EPEXのランクマでメイン垢賭けて配信してるヤツいて草】
URLと共に書きこまれたレスに、早速反応があった。
夜8時ということもあり、レスポンスが早い。
【どういう意味?】
【そのままだよ、1位取れなかったら配信でも使うガチのメイン垢削除】
【ウッソだろwww、実質引退配信じゃんww】
【これでタイトル釣りのフェイクだったら?】
【無いね、だってそのアカウント最高ランク帯でプレイ時間3000時間超えてるし】
貼られたスクリーンショットには、確かにそれを裏付ける内容が映っていた。
人間というのは、賭け事が大好きだ。
このレスを見かけ、そんな愚か者見たさで多数の人間がURLを踏んだ。
【ガチじゃんww】
【お祭り会場はここですか?】
【仕事終わりの酒の肴にちょうど良いの見っけ】
天音の配信のチャット欄に、早速スレ民が湧く。
同時にスレの方でも同時中継が行われ、開始20分時点で300レスを超える盛り上がり。
また配信の同接も、導線が機能したおかげか早くも250人を突破していた。
「まっ、開始30分ならこんなものでしょう」
PCのブラウザを操作しながら、雄二が一言。
そう、スレッドを最初に立てたのは雄二だった。
「いくらタイトルの釣り性能が高くても、導線が弱かったら意味が無い。この時間なら酒の肴に楽しむ方も多いでしょう」
底辺配信者最大のジレンマとして、配信への導線の弱さが挙げられる。
雄二はその現実を誰よりも知っていたため、外部サイトから強固な導線を引っ張ってきた。
こんな大馬鹿者がいる、一度きりのお祭りだから見に来い。
配信時間をこのゴールデンタイムに設定したのも、なるべく流入を増やすためだ。
「さて、お手並み拝見」
まずプロデューサーとして最低限の仕事はした。
雄二は配信の画面へ視線を落とす。
「ちょちょちょ! 死ぬ! 死ぬ!! こんな初っ端でフルパじゃんこれ!!!」
一方の天音は、凄まじい勢いで増えていく同接へのワクワクと、一回でも負けたら垢削除という緊張感で心臓がバクバク状態。
しかし、
――――やっぱり雄二さんは凄い……! 負けてられないや。
障害物越しに囲まれ、3方から攻められる天音。
相手の装備はポイントマンがサブマシンガン、後方支援のリーダーがライトマシンガン。
極めて合理的なガチパだった。
【早速ピンチキター―――――――!!!!!】
【これ終わったんじゃね!?】
【天音さんサヨナラ!】
スレ民も含めた視聴者が、熱狂に包まれる。
だが天音に同接の緊張はあれど、”ゲーム内の緊張”は一切無い。
「よっ」
なんと天音は、相手のポイントマンが突っ込んできたと同時に、自身の足元へフラッシュグレネードを落とした。
当然自分を含む相手全部の視界を奪うが、天音の紅い瞳にそんな障害は通じない。
銃を使わず格闘モーションで怯んだ敵2人を殴り、そこから銃で射殺したのだ。
【見えないのにどうやったんだ!?】
【チート!?】
【いや、違う! 近接攻撃には微弱だけどエイムアシストが乗る!! それを頼りにしたんだ!!】
【嘘だろ!!】
――――さっきまではわかんなかったけど、今なら雄二さんが言ってた意味がわかる!
障壁を飛び越えた天音は、ジャンプモーション中に発砲。
ライトマシンガンのエイム速度が遅いことは知っていたので、勝敗は一瞬でついた。
次いで、立てかけていたチャット用スマホの画面を一瞬だけチラ見。
「凄い! チャット欄の人正解! 今の一瞬で見抜くなんてガチプレイヤーさん?」
【一応高ティア帯です! まさかこんな上手い人が埋もれてたなんて知りませんでした!】
「ありがと、いずれマッチできるの楽しみにしてるね」
配信を進める天音に、もはや垢を失う恐怖は無い。
ただこの瞬間という、配信者として至高の時間を楽しんでいた。
【声も前より聞きやすい、なんか全体的にQOL上がった?】
【こんな可愛い声で、カッコよく殺して来るの良いな……ギャップがたまらん】
配信は過去最大の盛り上がりを見せ、天音のボルテージも最高潮へ。
ノリに乗った彼女は、赤井が見込んだ通りに生存を最優先にしつつも、魅せプレイを欠かさず配信。
3時間のぶっ通し配信の末、
「よっしゃあああああ!! 勝ったぁ!!!」
空井天音、予定時刻に至るまでに0デスを達成。
気持ちのいい大汗をかきながら、笑顔でチャット欄を見る。
「ありがとう! みんなが戦闘中もアドバイスくれたから、助けられた部分も多かった」
【簡単に死なれたら酒の肴にならないからな】
【チャンネル登録しましたー】
【次回にも期待!!】
最後に挨拶をして、配信を閉じる。
ふと、天音は自身のチャンネル情報を見て……。
「あっ……」
そこには、チャンネル登録者1020人という文字。
マウスから手を離した天音は、数秒息を止め……。
――――カチッカチッ――――
ブラウザの更新ボタンをクリック。
映ったのは、チャンネル登録者1022人の文字。
むしろ増えている。
夢でも、バグでもない……。
現実の数字。
「やっっ、た……!!!!!」
歓喜に満ちた声を絞り出した。
そこで、通話アプリから雄二が話しかける。
「おめでとうございます、天音さん。チャンネル登録者1000人。達成です」
「グスッ……雄二さぁん! ありがとうぅ! 雄二さんが人を集めてくれたおかげだよ!! まさか1000人達成なんてできると思ってなかったぁ!!」
「はて、何を言っているのでしょう」
「へ?」
雄二は優しい笑顔で、ただ自分のやったことを伝えた。
「自分は最初の起爆剤として3割程度しか誘導していません。登録者1000人への爆発は天音さん……あなたが押し上げたんです」
「わ、わたしが……?」
「言ったでしょう、あなたには資質がある。視聴者を数字として、人間として平等に見る最高の目が」
赤井雄二は遠慮なく称えた。
「誇っていいです、改めてまずは最初の一歩。おめでとうございます」
空井天音のゲームチャンネル。
現在の登録者――――1024人。
「――――やはり、間違ってなかったですね」
ヘッドフォンを外した雄二は、いつ以来かぶりの達成感に浸った。




