第3話・目指せ、配信者の頂点––––トップ・オブ・ストラトス!
「天音さんは、画面の向こうにいる視聴者を――――人間として見れる?」
それは、一見すれば当たり前のこと。
答えが用意されていると言っても良い、実に簡素な質問だった。
だからこそ、雄二は試した。
『視聴者なんて数字でしょ、綺麗ごとで配信者なんてできないって』
脳裏にかつて言われた言葉が蘇る。
現実主義、商業主義、資本主義。
そんな当たり前を含んだ言葉に、天音は即答した。
「少なくとも……”数字”だけとしては見ない」
「ッ」
「配信者と視聴者……、この関係である限り数字は絶対に付きまとうと思う。だから同接は絶対に意識する。でも――――」
そこまで言って、天音は前のめりになった。
「だからと言って、その奥にいる人まで数字扱いしちゃいけないと思う! わたしが配信を選んだのは、それが現実と夢――――両方に向き合えるから」
「現実と……夢?」
「そうだよ、伸びなければ終わりっていう数字の現実と。好かれたらたくさん愛情を貰えるっていう夢。だからどっちかに偏ったら意味無くなる」
赤井雄二は確信した。
この言葉に嘘は無い、こちらを見つめる紅い瞳はいたって真剣だ。
「赤井さんがプロデュースしてくれるなら、わたしはもっと現実を伸ばして、夢を追いかけられると思う! だから――――」
もう一度、空井天音は銀髪に包まれた頭を下げた。
「わたしを……プロデュースしてくださいっ」
「ッ!!!」
雄二の中で押さえていた何か……言うならば”熱”が、湧き上がってくるのを感じる。
配信者、空井天音……彼女は自分が好きな底辺であると同時に、トップへ行く資質があると直感で感じさせた。
次の瞬間には、雄二の口が開く。
「……わかりました、その案件――――受けましょう」
「ほ、ホント!?」
「はい、試すような言葉を放ってすみませんでした。そして――――」
雄二は人差し指を立てて、天音の前に突き出した。
「たった今誓います、俺はあなたを……世界一の配信者。”トップ・オブ・ストラトス”になるまでプロデュースして見せます」
「と、トップ・オブ・ストラトス!!?」
それは、文字通り数字上において世界一の配信者に与えられる、最強の称号。
全ての者の頂点――――ネットという天空の上に立つ人間がそう呼ばれるのだ。
「わたしが……、トップ・オブ・ストラトス……」
「はい、必ずそこまで導きます。天音さんにはその素質があります!」
いつぶりだろうか、こんなに熱く滾るのは。
もうこの業界には関わらないと決めていたのに、そんな誓いはあっけなく崩れ去る。
それがこの少女――――空井天音の魅力とも言えた。
「なので、早速プロデュースを開始します」
「いや早いね! もう始めるの!?」
「明日頑張るじゃダメです、今から始めるのです」
「おぉ……! すっごい説得力」
しかし、天音が底辺配信者なのに変わりはない。
ここで都合よくイベントが起き、バズって大手事務所に見つけてもらう。
だがそれは創作でのお話だ。
しかし、本気を出した雄二の脳内に、チャートは既にできあがっていた。
「天音さん、昨日の配信から登録者は何人増えた?」
「えっと、数十増えてちょうど300人」
「十分です、では今日の夜に配信を行います。そして――――」
雄二はスマホのメモに書いた数字を、天音に見せた。
「今日で登録者”1000”人越えを達成します」
――――数時間後。
午後8時ジャストに、天音はいつもやっているeスポーツ系FPSの配信を開始できるよう準備。
雄二はチャット通話アプリで、天音に指示を送ることにした。
昨日と機材は変わっていないが、既に別の大きな変化があった。
「うへ……、これ達成できんのかな」
配信開始直前の画面。
そこには【イーペックス配信~1位取れなかったら即メインアカ削除~】。
っという、企画としてはあまりにハードモードなタイトルが映っていた。
「あのー、雄二さん? ちょーっと聞きたいんですけどね? これ、失敗したら終わりの実質リアルオワタ式っすよね?」
「そうですね、なので頑張ってください」
「いや、なんかこう……もっと、大手配信者とコラボで増やすとか思ってたんすけど」
天音の声に、自室でヘッドフォンをした雄二は腕を組む。
「天音さんは底辺配信者です、そんな相手とコラボしてメリットを感じる人がいるとでも?」
「言葉の暴力ぅ~っ、どっかにいるかもしんないじゃん!」
「いません、よく聞いてください」
メモを起こしながら、雄二は天音に言い聞かせた。
「よしんばいたとしても、それは同じ登録者帯の配信者のみ。それでコラボしたらどうなります?」
「仲良くなれるかもしれないし……」
「コラボのメリットは視聴者のシェアです、少ない者同士がやったところで2~4人増えれば御の字。そんなことより、この企画の方が遥かに集客になります」
「雄二さんの言ってることが半分くらいしか理解できぬ……」
「今はそれで良いです」
二ッと笑った雄二は、時計の針が予定の場所に差し掛かったのを確認。
「配信を開始してそうですね……1時間、わからない残りの半分は簡単に理解できますよ。なにせあなたは今日––––チャンネル登録者1000人の壁を越えて大多数を出し抜くのですから」
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