第30話・ゼータ第一回戦
秋奈の宣言と同時に、トーナメント表の初戦が拡大された。
空井天音&ユリっち。
その向かいには、揃って髑髏の仮面を被った2人組。
『おっと、開幕から面白い組み合わせ! 天音とユリっちの相手は、近接武器への愛が重すぎるお2人です!』
『弾薬代を節約しに来ました!』
『大会では弾薬無料なんだけど?』
秋奈のツッコミで、公式配信が笑いに包まれる。
「初戦、あの人たちか……」
『気をつけてください。あの2人、見た目と発言は愉快ですが、近距離に入ってからが速いです』
「うん。でも近距離ならわたしも得意だよ」
『頼もしいですね』
ユリアの声は弾んでいた。
天音も緊張を残したまま、それを楽しさへ変えていく。
雄二は2人の画面を見比べた。
試合中、彼から指示は出せない。
1週間で積み重ねたものを信じ、見守るだけだ。
『それでは第1回戦、第1試合――――開始!』
◇
戦場は、使われなくなった貨物駅だった。
中央には長いホーム。両脇に倉庫と整備用の通路が並ぶ。
遠くまで見通せる場所と、入り組んだ屋内。
どちらも使い方次第で有利になるマップだ。
「ユリ、わたしは右の倉庫から入る」
『了解です。わたしはホームの上から見ます。接近してきたら知らせますね』
「おっけー!」
天音が走り出す。
その姿を、雄二は静かに見つめていた。
1週間前なら「行ってくる!」とだけ言い、相方がどこにいるかも確かめなかっただろう。
今は自分の進路を伝え、ユリアの射線が届く場所を選んでいる。
そして、最初の銃声が響いた。
『見つけました。中央ホームに1人』
ユリアの狙撃。
だが相手は着弾の直前、ホームから飛び降りた。
弾丸は髑髏仮面の肩を掠め、シールドを僅かに削る。
「かわした! あれ反応速くない!?」
『えぇ。もう1人も見えません。天音っち、倉庫へ入るのは待ってください』
「了解」
天音は扉の前で足を止める。
直後、内側から何かが転がってきた。
「うわっ、煙幕!」
白煙が広がり、ホームと倉庫の間を覆う。
近づけば狙撃を受ける。
ならば視界を塞ぎ、一気に距離を詰める。
髑髏ペアは、最初からユリアを狙っていた。
【ユリっちの射線を潰した!】
【あの2人、接近戦はマジで強いからな】
天音は煙の中へ飛び込もうとして、踏みとどまる。
見えないまま突っ込めば、自分までユリアの援護を受けられない。
「ユリ、わたしの左から抜けて。多分そっちへ行くつもりだと思う」
『わかりました、煙の出口を見ます』
数秒後。
白い壁から髑髏仮面が飛び出した。
すかさずユリア発砲。
だが敵は身を捻り、弾丸を避けた。
『速い……っ!』
近接武器を構えた相手が、ホームの階段を駆け上がる。
あと数秒で、ユリアのいる場所へ届く。
だが彼は、足元から聞こえた声に気づかなかった。
「ユリばっか見てると、危ないよ!」
煙の外側を回った天音が、階段の下からショットガンを撃ち込む。
髑髏仮面のシールドが砕けた。
「なっ、いつの間に!?」
『今です、天音っち!』
ユリアが、退路へ狙撃銃を向ける。
後ろには下がれない。
前には天音。
迷った瞬間、2発目のショットガンが命中した。
『撃破! まずは天音、ユリっち組が1人落としました!』
しかし、敵のもう1人は既に倉庫から出ていた。
「天音っち、後ろです!」
「わかってる!」
声と同時に天音は身を低くする。
頭のあった場所を、敵の刃が通り過ぎた。
「ちっ、先に気づいたか!」
髑髏仮面が距離を詰める。
ショットガンを構えるには近すぎる。
天音はサブマシンガンへ持ち替えながら後退した。
だが敵も、むやみには追ってこない。
ユリアから見えない倉庫の壁際へ、天音を押し込もうとしている。
――――狙撃が届かない場所で、天音さんと戦う気ですか。
雄二の手に力が入った。
天音ならそこで撃ち勝てるかもしれない。
けれど今回必要なのは、個人技による勝利だけではない。
「ユリ! これ以上下がると、そっちから見えなくなる!」
『なら、わたしが位置を変えます。3秒だけ持たせてください』
「任せた!」
天音が正面から撃つ。
敵は壁を蹴って弾を避け、そのまま飛び込んできた。
重い音と共にシールドが削られる。
「っ、強いなぁ!」
天音は笑いながらも、決して深追いしない。
敵を倉庫の中へ入れず、壁際に留める。
そこへ――――
––––ダァンッ––––!!!!
ホームの端へ移動したユリアの狙撃が、敵の横腹を捉えた。
「なっ……そこから!?」
「ユリが見えるところに、いてもらったからね!」
体勢の崩れた敵へ、天音のサブマシンガンが火を噴く。
敵チーム全滅。
第1ラウンド、天音とユリアの勝利。
「よっし! ユリ、ナイス!」
『天音っちも。最後まで敵を押し込ませなかったおかげです』
天音は思わず頬を緩めた。
「これ、楽しいね!」
『えぇ……わたしもです!』
◇
「……見事ですね」
雄二は、小さく息を吐いた。
天音は途中でユリアへ助けを求めた。
ユリアは天音のいる場所を見て、狙撃位置を変えた。
どちらか1人でも自分で倒し切ることにこだわっていれば、最後の敵を仕留めるのは難しかったはずだ。
そして今、2人は互いの働きを自然に褒めている。
練習中は意識してやっていた会話が、本番でも途切れない。
「ちゃんと……一緒に戦えている」
雄二の目に映るのは、強いプレイヤーが2人いる光景ではなかった。
同じ敵を倒すために動く、1つのチームだった。
◇
第2ラウンドが始まる。
髑髏ペアも、同じ手は使わない。
今度は煙幕を中央へ投げた後、2人揃って整備通路へ突っ込んだ。
『天音を先に倒すぞ! ユリっちの狙撃も屋内までは届かない!』
『わかってる! 今度は2人で行く!』
先ほどはユリアを狙い、天音に横から崩された。
ならば最初に天音を倒す。
近接武器を使う彼らにとって、筋の通った作戦だった。
天音のいる通路に、足音が2つ。
「ユリ、2人ともこっち!」
『見えています。天音っち、右の出口まで下がれますか?』
「下がれるけど、追いつかれるかも!」
『撃ち合わずに走ってください。出口を見ておきます』
「……おっけぇ!」
天音は敵へ背中を見せ、全力で走った。
単独なら危険な動きだ。
あと少しで追いつくという距離まで、髑髏ペアが迫る。
【逃げ切れないだろ!】
【後ろから斬られるぞ!】
整備通路の出口。
そこから射し込む光が、天音の視界に入った。
『出たら右へ!』
「はいっ!」
天音が外へ飛び出し、横へ跳ぶ。
直後、追ってきた先頭の髑髏仮面へ、ユリアの弾丸が直撃した。
「ぐっ……!」
敵は止まる。
後ろの相方も、出口の手前で急停止した。
天音は振り返り、ショットガンを構える。
その動きに合わせて、ユリアが次弾を装填した。
通路へ戻れば、天音が追う。
外へ出れば、ユリアが撃つ。
『……まずい、挟まれた』
髑髏仮面の判断は早かった。
相方と別れ、通路内の脇道へ飛び込む。
2人を同じ射線に並べず、どちらか片方へ攻撃を通すつもりだ。
「ユリ、奥に行った方を見て!」
『了解です。出口の相手は天音っちへ任せます』
天音は前へ。
ユリアは横へ。
敵の分断に合わせて、2人も役割を切り替えた。
出口から突っ込んできた髑髏仮面が、天音へ刃を振る。
天音は1歩だけ踏み込み、相手の腕を避けながらショットガンを発砲。
「近距離でなら……わたしだって負けないよ!」
シールド破壊。
追撃のサブマシンガンで、まず1人を倒す。
一方、脇道へ逃れた敵は、倉庫の裏口からユリアの側面を狙っていた。
だが屋外へ出た瞬間、その動きが止まる。
『そちらを選ぶと思いました』
ユリアの照準は、既に裏口へ合っていた。
――――ダァンッ!!
敵が被弾し、よろめく。
そこへ天音が駆けつけた。
「ユリ、詰める!」
『お願いします!』
ユリアは敵の退路を狙い続ける。
天音が倉庫の角から現れ、至近距離でトドメを刺した。
『決着ぅ!! 天音、ユリっち組が2ラウンド連取! 第2回戦進出です!!』
「勝ったぁぁぁ!!」
天音の声が、部屋いっぱいに響く。
ヘッドフォンからは、ユリアの笑い声が返ってきた。
『おめでとうございます、天音っち。初戦突破です』
「ユリもおめでとう! めっちゃ頼りになった!」
『こちらこそ。近づかれた時に天音っちがいると安心できますね』
コメント欄には、試合開始前と違う言葉が流れていた。
【2人とも強すぎる】
【ユリっちの狙撃と天音の接近、噛み合い方やばいな】
【あの近接ペアを近距離で返したの熱い!】
雄二は画面を見つめたまま、拳を握る。
最後の敵を倒した瞬間より、天音とユリアが自然に声を掛け合った瞬間の方が、胸に残っていた。
自分が用意した練習は、試合を前にしてちゃんと2人のものになっている。
――――この2人なら。
前回準優勝のユリア。
まだ誰も到達点を知らない、超新星の天音。
互いの強さを信じて動けるなら、どこまで行けるだろう。
トーナメントを勝ち上がった先で待つ、新海秋奈――――ベルセリアにさえ。
「……勝てるかもしれませんね」
つい、声が漏れた。
天音が振り返る。
「今、なんか言った?」
「いえ。初戦突破、おめでとうございます」
「むふふっ、ありがと! 次も勝ってくる!」
雄二が笑うと、天音はすぐにトーナメント表を開いた。
16組から8組へ。
次の第2回戦は、準々決勝となる。
「次の相手、決まってる?」
「今、隣の試合が終わりました」
表示が切り替わる。
勝ち上がったのは、毎日射撃訓練を欠かさない社会人ペア。
試合結果の横には、対戦相手が倒されるまでに要した時間が並んでいた。
「……2ラウンドとも、速くない?」
『えぇ。それに、この命中率……』
ユリアの声から、先ほどまでの浮かれた調子が消える。
雄二も映像を再生した。
社会人ペアは、敵の移動先へ先に照準を置いていた。
片方が撃てば、もう片方が逃げ道を塞ぐ。
無駄弾も、無理な追撃もない。
初戦の髑髏ペアとは、まるで違う強さ。
天音は映像を見終えると、マウスを握り直した。
「なるほど……次はこっちが、遠くから撃たれる番か」
ユリアが静かに答える。
『でしたら今度は、わたしたちが近づく方法を考えましょう』




