第28話・最強のソロプレイヤー2人
――――ゼータまで残り一週間。
マウスのレビューも一段落したところで、雄二は攻めの姿勢に転じた。
「っというわけで、今日から一週間……ユリアさんとの強化練習期間を設けます」
「おぉ、遂にですか……」
「えぇ、既にユリアさんからも了承は得ています」
ゼータは2人1組のデュオで戦う大会。
先日の新海秋奈からも、天音は個人技に頼り過ぎると指摘があった。
アレに間違いは無い。
だからこそ、この1週間で極限まで詰める。
天音とユリアを、真の意味で同じチームにする。
「では、始めましょう」
約束の時間になり、グループ通話を開始した。
『こんばんは天音っち、それに赤井さん。今日からよろしくお願いいたします』
「うん! こちらこそよろしく! ユリ!」
『お2人共、体調に問題はありませんね?』
雄二の言葉に、天音とユリアは元気に返した。
「もちろん! 今日はユリと組めるって聞いて、昼から楽しみにしてたんだから!」
『わたしもです。前は敵でしたが、今日からは頼もしい味方ですね』
声だけでも、お互い笑っているのがわかる。
雄二は2人の画面を確認し、マッチング開始を促した。
まずは普段通りに戦ってもらう。
装備も降下地点も自由。
現状を把握するための、最初の1戦だった。
「ユリ、奥の建物に2人降りた!」
『見えています。まずは武器を――――』
「拾った! 行ってくる!」
『えっ、はや––––!』
天音がサブマシンガンを手に、建物へ飛び込む。
まだ装備を集めていた敵と遭遇し、そのまま至近距離で撃破。
そこへ、別方向から銃声が重なった。
『もう1人、こっちも倒しました』
「はやっ! どこから撃ったの?」
『隣の屋上です。そちらへ向かった敵が見えたので』
「さすがユリ! これ余裕じゃない?」
好調な滑り出し。
画面には、敵チーム撃破の表示が浮かぶ。
だが、雄二は何も言わなかった。
次の敵と接触した際も、2人は圧倒的に強かった。
天音が正面から詰め、ユリアは別の入り口で撃破。
”互いの射撃が届かない位置”で、それぞれが敵を倒してしまう。
「こっち終わり!」
『こちらもです』
「合流しよう! って、ユリどこ?」
『天音っちこそ、なぜそこに?』
少しだけ、妙な間が生まれた。
それでも試合は進む。
天音が削った敵へ詰めようとした時には、ユリアも既に同じ相手を狙っていた。
「今行く!」
『撃ちます』
2人分の火力を受け、敵が倒れる。
直後、その相方が横から発砲。
「うわっ! そっちいた!?」
『っ、下がってください!』
天音のシールドが割れる。
しかし、振り向いたユリアが相手へ連射し、天音も遮蔽物へ逃げながら反撃。
結局、また力ずくで勝ってしまった。
その後も似たような場面が続き――――
「勝ったぁ!」
『初戦勝利ですね』
優勝の表示。
喜ぶ2人を見ながら、雄二は静かに頷いた。
「予想通りですね」
「えっ、勝つと思ってた?」
「はい。ただ、連携が成立しないことも含めてです」
「……へ?」
天音の笑顔が止まる。
ユリアも、少し声を落とした。
『赤井さんからは、そう見えましたか?』
「お2人とも十分強いです。ですが、今の試合は別々に敵を倒して、最後に合流した場面がほとんどでした」
雄二は先ほどの戦闘を振り返る。
「同じ敵へ攻撃が重なり、もう1人を自由にしてしまった場面もありましたね。あそこで天音さんが倒されていれば、ユリアさんが1対2を強いられます」
「うっ……」
『確かに……倒せると思ったのでそちらを優先していました』
「その判断自体は、ソロなら正解だったでしょう」
敵が見えたから確殺まで持っていく。
2人はその判断と実行が、とにかく速い。
相方へ相談するより、自分で解決した方が早いのだ。
「つまり……わたしたち、組んでる意味が薄い?」
「今のところは、強いソロプレイヤーが2人いる状態ですね」
天音が椅子へ沈む。
期待していただけに、指摘が刺さったのだろう。
一方の雄二は、既に次の準備を始めていた。
「なので、次は装備を俺に指定させてください」
『装備を?』
「はい、ユリアさんは長距離用の狙撃銃を優先。近接武器や近距離向けの銃は持たないでください」
通話が静かになる。
続いて、天音にも指示を出す。
「天音さんはショットガンとサブマシンガン。遠距離に対応できる武器は、今回は拾わないように」
「いや、ちょっと待って!? それ遠くから撃たれたら何もできなくない?」
『わたしも……詰められた時の対応がかなり厳しくなりますが』
「大丈夫です、その構成でお願いします」
平然と言い切る雄二。
天音は思わず、隣に座る彼の顔を見た。
「……わざと弱くしてない?」
「試せばわかります」
以前、どこかで聞いたような言葉だった。
◇
次の試合。
2人は物資を集め、指定された構成へ装備を寄せていった。
ユリアが見つけたサブマシンガンを天音へ。
天音が拾った高倍率スコープは、ユリアへ渡す。
「この狙撃銃も使う?」
『助かります。代わりに、こちらの拡張マガジンをどうぞ』
装備が揃った頃、先に敵を見つけたのはユリアだった。
『前方、道路向こうの建物––––屋上に1人います』
「見えた! でもこれ……わたしの武器じゃ届かないよ」
距離がある。
普段なら天音もライフルで削り始める場面。
だが今の装備では、弾をばら撒いて居場所を教えるだけになりかねなかった。
『撃てます、少し待ってください』
乾いた銃声。
屋上の敵が身を引き、姿を消した。
『命中、シールドを大きく削りました』
「じゃあ、その間に近づくね!」
天音が道路へ飛び出しかけ––––止まる。
別の窓にもう1人いたのだ。
こちらの進路を見ている。
そのまま走れば、天音は遮蔽物のない場所で撃たれるだろう。
「ユリ、下の窓! あっちから射線通ってる!」
『見えました! 頭を下げさせます』
ユリアが狙撃位置を僅かに変え、即座に発砲。
窓枠の横で火花が散り、敵が奥へ退いた。
『今です』
「おっけぇ!」
天音が走る。
道路を渡り、外壁へ張り付くまで敵からの射撃はなかった。
撃とうと顔を出せば、ユリアが狙っている。
相手もそれを理解していたのだ。
「建物についた! 中へ入るね」
『ここからでは室内が見えません。無理はしないでください』
天音は返事をし、入り口から一気に踏み込む。
近くで待ち構えていた敵へ、ショットガンを発砲。
初弾を当て、そのままサブマシンガンへ持ち替えて押し切った。
「1人倒した! もう1人は――――」
『外階段から逃げています。そちらへ位置を送ります』
画面にマーカー。
天音は屋上へ向かわず、すぐに反転した。
建物の角を曲がった瞬間、階段を下りてきた敵と遭遇。
ユリアに削られたシールドは、まだ回復しきっていなかった。
「そこっ!」
短い射撃と同時に、敵チーム撃破。
天音はマウスを握ったまま、目を丸くする。
「……今の、めっちゃ楽だった」
『えぇ……わたしも、接近して仕留める必要がありませんでした』
ユリアは遠くから削り、敵の動きを制限する。
その間に天音が距離を詰め、近距離で決着をつける。
単純だ。ある意味で超初歩的。
だが、さっきの試合とは明らかに違っていた。
「俺がやりたかったのは、それです」
雄二が口を開く。
「お互いが好きな武器を持つと、結局いつもの個人技になります。なので強制的に連携できるよう、この装備を優先して拾っていただきました」
「自分じゃどうにもならない距離を、わざと作ったってこと?」
「はい。自分で何でもできると、相手に頼む前にまた自分でやってしまいますから」
天音は手元の武器を見る。
遠くへは手が出せない。
だが、そこにはユリアがいる。
逆にユリアは、建物の中まで追いかけられない。
だから、近づいた後は天音が仕留める。
『なるほど……。相方へ任せる部分を、装備で強制的に決めたのですね』
「その通りです、慣れたら構成は広げます。まずは自分ができないことを相手に頼む感覚を覚えてください」
言い終わる前に、別方向から銃声がした。
今度はユリアの近く。
狙撃音を聞きつけた敵が、距離を詰めていたのだ。
『接近されています、こちらの岩まで下がりますね』
「おっけー! わたしが行く! そのまま下がって!」
天音が素早く走る。
ユリアは無理に撃ち合わず、岩の裏へ移動。
追ってきた敵の側面へ、天音が滑り込んだ。
「ユリに近づきすぎ!」
至近距離から、ショットガン。
怯んだ相手を撃ち倒すと、天音はすぐに岩へ隠れる。
「もう1人いる! 奥!」
『任せてください』
距離を取り直したユリアの狙撃が、敵を貫いた。
相手の足が止まった瞬間、天音が飛び出す。
今度も決着は早かった。
「っ、これ……!」
『えぇ、わかります』
通話越しに、2人の笑い声が重なった。
自分が仕留めた敵。
けれど、自分だけでは倒せなかった敵。
その感触が、ようやく2人の間で共有された。
「背中任せるって、こういう感じなんだ!」
『頼もしいですね、近づかれてもさっきほど難しくありません』
「わたしも! 走ってる間、ユリが見てくれてるってわかるから!」
雄二は、ようやく表情を緩めた。
たった1戦で完成するほど、連携は簡単ではない。
それでも、これで練習する効率が変わる。
2人とも今、自分以外の強さを使って勝つ楽しさを知った。
その後も、ユリアが援護し天音が詰める形を繰り返す。
射線の通らない場所では足を止め、互いの位置を確かめてから動く。
最初の試合にはなかった会話が、自然に増えていった。
そして、最後の敵を倒した天音が声を上げる。
ビクトリーロイヤルだ。
「よっし! 連勝!!」
『今度はちゃんと2人で勝てましたね』
「うん! さっきよりもっと嬉しい!」
勝利画面を見つめながら、天音は拳を握った。
その横で、雄二も次に確認すべき課題をペンで書き留める。
すると、ユリアが少しだけ声の調子を変えた。
『赤井さん、天音っち。少しよろしいですか?』
「どうしたの?」
『今の試合で少し形が見えました。天音っちとなら、できるかもしれません』
雄二の手が止まる。
その声には、強敵を前にした時と同じ熱があった。
『1つ、試したい戦術があります。ゼータ主催者––––ベルセリアさんを倒す奇策です』




