↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〜超底辺配信者のプロデューサーを始めた俺、難題を全て改善して行ったら何故か彼女にとっての特別になっていた〜  作者: たにどおり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/37

第27話・新海秋奈VS赤井雄二

 

「ゼータ主催者……、新海秋奈さん?」


『えぇ、初めまして。夜遅くにごめんなさい。お時間大丈夫かしら?』


「その前に、なぜ俺の番号を知ってるんです」


 雄二の低い声に、秋奈は全く動じず答えた。


『ゼータへの参加にあたって、いつでも通じる番号を書いたはずよ? 忘れたかしら?』


「では、大会についての連絡事項ですか? 通常はメールだと伺ってましたが」


『まぁそうね、”半分”は合ってる』


 曖昧な返答だった。

 雄二は閉じかけていたノートPCを開き直す。


「残りの半分は?」


『わたしの個人的な興味。空井天音と、そのプロデューサーについて少し話したくて』


 声は若い。

 だが、相手の出方をうかがうような遠慮は一切なかった。


 新海秋奈――――ベルセリア。

 登録者120万人を抱え、国内外の大会で優勝を重ねるプロゲーマー。

 その名前を、かつて業界にいた雄二が知らないはずもない。


「天音さんについてなら、配信を見ていただくのが一番だと思いますが」


『見たわよ、今日のも。収益化おめでとう。初めてのスパチャであそこまで喜んでくれると、投げた側も嬉しいでしょうね』


「……ありがとうございます」


『2000円でエイムが飛ぶのは面白かったわ。あの状況から立て直せるのも、基礎がしっかりしてる証拠ね』


 どうやら、本当に見ていたらしい。

 雄二は椅子に座り直し、スマホを持ち替えた。


『あとは最初に見た時より、喋りながら戦うのが自然になった。コメントを拾う余裕もあるし、配信者としてはかなり良い感じじゃない?』


「本人がどうすれば楽しんでもらえるか、ちゃんと考えていますから」


『あら、あなたが全部指示してるわけじゃないのね』


「俺が話す内容まで決めたら、それは天音さんの配信じゃありません」


 通話の向こうで、小さく笑う気配がした。


『なるほどね。エーベルハルトが気に入るわけだわ』


「ユリアさんから何か?」


『色々と。ただ、経験上聞いた話だけで判断するのは好きじゃないの。だからこうして直接電話したわけ』


 その言い方に、雄二は少しだけ引っ掛かるものを覚えた。

 天音だけではない。

 この少女は、明確に自分自身も見定めようとしている。


「それで、実際にご覧になった感想は?」


『良い配信者だと思うわ。伸びるでしょうね、今後も』


 一拍。

 秋奈は声の調子を変えずに続けた。


『でも、今のままじゃゼータで優勝はできない』


 雄二の指が止まる。

 台所の時計が、静かに秒を刻んでいた。


「……随分と、ハッキリ言うんですね」


『曖昧に褒めてほしかった?』


「いえ、理由を聞きたかっただけです」


『簡単よ。今日の配信、苦しい場面をほとんど個人技で解決してたでしょう』


 雄二は無言で耳を傾ける。


『撃たれてから振り向いて撃ち勝つ。位置が悪くても、相手を1人倒して逃げ道を作る。あれは上手い人にしかできないし、見ていて面白いわ』


 褒めている。

 だが、その先があることは雄二にもわかった。


『ゼータでは、その1人が簡単に倒れてくれない。その間にもう1人が詰めてくる。2人とも、天音が撃ち合ってきた相手より強い可能性だってあるわ』


「……そうですね」


『エーベルハルトも同じ。単独では強い。でも、強い二人を並べたら強いペアになるとは限らないわ』


 反論できない指摘だった。

 雄二も、ユリアと組めたことで全て解決したとは思っていない。

 天音が自分で勝ててしまうからこそ、これから覚えるべきものもある。


『相方が何をしてくれるか。どこまで任せて、自分は何を捨てるか……それを考える前に勝てちゃうのよ、今のあの子は』


「今日の配信だけで、そこまで見ましたか」


『それが仕事だもの』


 軽く言い切る。

 120万人という数字以上に、その一言が雄二には重く聞こえた。


 この少女は、実際に頂点を争う場所で戦っている。

 ただの意地悪で、天音を低く評価しているのではない。


 だからこそ、雄二も姿勢を正した。


「今の課題については、概ね同意します。ですが、優勝できないという結論には同意できません」


『どうして?』


「それを決められるのは、天音さん自身です」


 即答だった。

 通話の向こうが、僅かに静かになる。


「残りの時間で、何を身につけるか。ユリアさんとどこまで互いを理解し合えるか。それを今から積み上げるのに、俺が先に限界を決める理由にはなりません」


『本人が信じれば勝てる、と? 根性論だわ』


「そんな話はしていません」


 雄二の声は低いまま、揺れなかった。


「課題があるなら潰します。必要な練習があるならその時間を作る。天音さんが勝つために使えるものを増やすのが、俺の今の仕事です」


『その結果、高みに届かないことだってあるでしょう』


「あります。ですが、それを恐れて今から諦める方を俺は選びません。貴方もエンターテイナーならご存じでは? 人生は……博打でしか切り開けないと」


『……』


 手元の画面には、先ほどまで確認していた天音の配信が映っていた。

 初スパチャを受け取り、声を弾ませている場面。


 この笑顔だけを見ていれば、ただの陽気な少女だ。

 だが雄二は知っている。

 ユリアに勝つため、失敗すればその場で終わる作戦へ頷いたこと。

 勝利した後も満足せず、新しい環境へ必死に慣れようとしていたこと。


「ッ……」


 天音は期待されるだけの人間ではなかった。

 期待を向けられた時、それに応えようと自分から走り始める。

 そういう女の子だ。


『随分と信頼してるのね』


「はい」


『じゃあ、根拠を見せて』


 秋奈の声に、僅かな鋭さが混じった。


『わたしは今日のプレイを見て、今の評価を出した。あなたがそれを覆せると思うなら、何かあるんでしょう? 2人で試した戦術? 練習試合の結果?』


 もっともな要求だ。

 プロデューサーを名乗るなら、期待だけでは話にならない。

 雄二はそれを理解した上で答えた。


「今は出せません」


『……へぇ』


 勝つ確信はある。

 だが、天音とユリアが実際に動き、通用する形になるまではただの構想に過ぎない。

 それを完成済みの切り札のように語るつもりはなかった。


『迷いが無いわね、潔いとも言えるわ』


「今のままではダメ。ですが少なくとも、今日と同じ天音さんで挑むつもりはありません。そして――――」


 雄二は画面を止め、ユリアとの戦いを思い出す。

 自分が作れるのは、対等に戦うための土台。

 最後の一手で相手を上回るのは、天音自身。


「当日は、必ず貴女も天音さんに熱中するはずです」


 電話の向こうで、息を止めた気配がした。


「それを期待して、招待枠を用意したのでしょう? 秋奈さん」


 今度こそ、返事が途切れる。

 雄二は構わず続けた。


「完成された強さだけが欲しいなら、他に呼べるプロ選手はいたはずです。それでも貴女は実績の少ない天音さんを選んだ」


『……続けて』


「ユリアさんとの試合で何か滾るものを見た、数字や過去の成績だけでは測れないものを。だから今日の配信まで見に来た」


 夜遅く、わざわざ電話まで掛けて。

 大会主催者としての用件だけなら、こんな会話は本来必要ない。


「今のままでは足りないと伝えたかった。それで俺たちがどう返すのか、知りたかったんじゃありませんか?」


 数秒の沈黙。


 その後、スマホのスピーカーから笑い声が弾けた。


『あっはっは! さすがに見込んだだけはあるわね!』


 それまでの、余裕を含んだ小さな笑いとは違う。

 心底楽しそうな、年相応の声だった。


『いいわ、楽しみにしてる。そこまで言うなら、わたしの評価を当日ひっくり返してみなさい』


「そのために全力を尽くします」


『普通はもう少し怯むのよ? わたしに勝てないと言われたら』


「俺まで怯んだら、天音さんが安心して挑めませんから」


 言ってから、雄二は僅かに笑う。


「それに、貴女も見たでしょう。天音さんは強い相手に会うと楽しくなる人です」


『知ってる。だから呼んだのよ』


 今度の答えには、隠す気すらなかった。


『勝てそうな相手を選んで、自分の強さを見せる。そういう配信も仕事としては成立するわ。でも……天音は違った』


 秋奈の声が、少しだけ熱を帯びる。


『エーベルハルトが想像より強かった時、あの子は笑ったでしょう。あれが良かったの』


「……えぇ」


『なら、ゼータはきっと楽しいわよ。思い通りにならない相手ばかり集めたから』


 その中には、当然この少女自身も含まれているのだろう。

 雄二は、天音がその舞台へ立つ姿を思い浮かべた。


 怖くないはずはない、ゼータというトップの巣窟。

 それでも、行かせてあげたかった。

 本人が望み、自分も見たいと願った場所。


 ––––”トップ・オブ・ストラトス”へ!


『そうね。そこまで期待させてくれたんだから、わたしからも一つ用意しようかしら』


「何をです?」


『優勝した時の、特別なご褒美』


 秋奈が、楽しそうに告げる。


『エーベルハルトと一緒に挑んできなさい! 優勝した暁には現在の“トップ・オブ・ストラトス”に会う枠をあげるわ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
天辺で待ってろよ。ふえ面()かかせてやる。いや、おいしいの意味が違うかw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。