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〜超底辺配信者のプロデューサーを始めた俺、難題を全て改善して行ったら何故か彼女にとっての特別になっていた〜  作者: たにどおり


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第25話・初スパチャは腹パン並みの衝撃

 

 ––––夜の8時、いつもの配信時間。


 以前まではバラバラだったそれらも、雄二のアドバイスによって統一されていた。


『投稿サイトに、天音さんのチャンネルはこの時間にいつも始まると学習させるんです』。


 そうすることによって、オススメ表示の確立を上げるテクニックだった。

 少なくとも同接の安定度合いは桁違いで、予約配信にすることによって、視聴者のスケジューリングにもしっかり配慮。


 結果として、今夜の配信は同接1000人超えからスタートできた。


「あー、あー、お待たせ―。みんな聞こえてますー?」


 天音の声に、早速視聴者から反応が返ってくる。


【聞こえてるよー!】


【こんばんは! 今日も待ってた】


【あれ、今広告流れた?】


【俺も出た。もしかして収益化通った!?】


 早い。

 まだ挨拶すら終わっていないのに、もう気づかれてしまった。

 天音はマイクに少し近づき、ちょっとだけ得意気に声を出す。


「むふふっ。お気づきになられましたか」


【おおおおお!!】


【おめでとう!!】


「そう! 空井天音のゲーム部屋、無事に収益化が通りましたー!!」


 途端に、チャット欄がお祝いの言葉で埋まった。

 おめでとう、待ってた、ついにか。

 次々と流れる文字を、天音は目で追いかける。


【引退するって言ってた時に見てたから感慨深いわ】


【あの時やめなくて良かったなぁ】


「っ……、それ言われると弱いんだよねぇ」


 ほんの少し、声が詰まる。

 誰にも見つけてもらえず、もう終わろうと思っていた自分の配信。

 それが今では、始まるのを待ってくれる人がいる。


 椅子に座り直した天音は、画面へ向かって頭を下げた。


「みんな、本当にありがとう。ユリの配信からの人、最初に見つけてくれた人。そういう方々が積み重なってここまで来れました」


【こちらこそ配信ありがとう!】


【毎晩の楽しみになってるよ】


「うん……っ。これからも、見に来て良かったって思ってもらえる配信にするから!」


 しんみりするのは、ここまで。

 天音はマウスを握り直し、いつもの明るい声へ切り替えた。


「というわけで! 今日は記念すべき収益化配信! 初戦から景気良く勝っちゃいましょう!!」


【フラグ立てたな】


【開幕死したらどうすんの】


「その時は今の挨拶からやり直します」


【編集できないぞww】


 笑いが広がる中、マッチングが完了。

 天音のキャラクターが、いつもの戦場へ降り立った。


 ◇


「良い入りですね」


 階下のリビングで、雄二はノートPCを開いていた。

 映っているのは、天音の配信画面。

 片耳にイヤホンをつけ、進行を見守っている。


 視聴者を待たせず、話題を引っ張りすぎない。

 感謝を伝えた後は、きちんといつものゲームへ戻す。


 かつて一言目から噛んでいた配信者とは、もう別人だった。


『あっ、そこ降りる? わたしと同じ建物? 良いよ良いよ、仲良く物資分け合おうねー』


 画面の中で、天音が屋上へ着地。

 足元のサブマシンガンを拾い上げると、振り向きざまに発砲した。


『ただし弾は直接お届けしまーす!』


【物資ってそういうwww】


【挨拶代わりに撃つなw】


 武器を拾ったばかりの敵が、慌てて物陰へ逃げる。

 天音はその背中を追いかけず、屋上の端へ走った。


『さて、この人は今から何をするでしょう?』


【回復】


【階段から逃げる】


『正解は――――』


 隣の足場へ飛び降りる。

 ちょうど窓から脱出しようとしていた敵と、真正面で鉢合わせた。


『こっちでしたー!』


 短い銃声。

 体力を削られていた敵は、着地するより早く物資へと変わった。


【待って今のどうやって分かった?】


『足音! 階段の方に行かなかったからね。じゃあ窓かなって』


 説明しながら弾薬を拾い、次の場所へ。

 その動きを見て、雄二は僅かに身を乗り出した。


「……やはり、変わりましたね」


 新しく届いたマウス。

 天音はあれから毎日使い、手に馴染ませていた。


 その成果が、今の戦闘にも表れている。

 敵へ照準を合わせた最後の瞬間、以前なら僅かに行き過ぎていた動きが、ピタリと止まる。


 軽さだけではない。

 握りやすさやクリックの感触も含めて、天音の手に合っているのだろう。


『よっ、危なっ! 今の当ててくるの上手いなぁ!!』


 別方向から射撃を受けた天音が、即座に反撃。

 遮蔽物へ滑り込みながら、相手のシールドを割った。


 敵が見えなくなれば、すぐに指を戻す。

 再び姿を出した瞬間には、もう次の射撃へ移っていた。


 ――――本人が気に入っていた、押し直しの感触。ちゃんと実戦でも活きているな。


 もちろん、マウスを変えただけで勝てるほど甘いゲームではない。

 だが天音には、それを活かせる腕がある。


 そして、それ以上に雄二の目を引いたのは。


『この人強いねぇ……、正面から撃ち合ったら負けそう。というわけで天音さん、ここで卑怯な大人になります』


【いつもでは?】


『誰ですか今のコメント書いた人! 後で職員室ね!!』


 煙幕を張り、移動。

 相手の注意を元いた場所へ向けさせたまま、側面から撃ち抜いた。


『はい勝ち! 知恵と工夫と言いなさい、知恵と工夫と!』


【大人って汚い】


【でもうめぇww】


 思わず、雄二も笑ってしまう。

 ただ敵を倒すだけなら、天音は以前からできていた。


 今はそこに、見ている側が参加できる余地を作っている。

 問いかけて、反応を拾い、戦いの結末まで楽しませる。

 自分の上手さを、一方的に見せつける配信にはなっていなかった。


「もう、立派な仕事ですね」


 広告が付いたから、そう呼ぶのではない。

 画面の向こうにいる人間の時間を預かり、それに見合う楽しさを返している。


 雄二は確信した。

 天音はもう、プロとしてお金を受け取れるだけのエンタメを提供できていると。


 ◇


 異変が起きたのは、その次の試合だった。


『残り5人! このまま連勝いけるかなー?』


 岩陰から顔を出した敵へ、天音が照準を向ける。

 単発式のライフルでシールドを削り、あと一発という時。


 視界の端に、いつもと違う色が現れた。


【¥2,000 収益化おめでとう! いつも仕事終わりに楽しませてもらってます!】


「……えっ?」


 ほんの一瞬。

 天音の視線が、チャット欄へ引っ張られた。


 同時に右手が動き、放った弾が敵の肩の横を通り過ぎる。


「やばっ!!」


 返ってきた銃撃が、シールドを削った。

 慌ててしゃがみ、岩で射線を切る。

 そのまま反対側へ回り込み、追撃しようと出てきた敵の頭へ照準を戻した。


 ――――ダァンッ――――!!


 撃破。

 なんとか倒しきった天音は、回復を使いながらチャット欄を二度見した。


「ちょ、ちょっと待って……! 今の……スパチャ!?」


【初スパチャおめ!】


【めっちゃエイムずれて草】


【よく今の立て直したなww】


「いやズレるって!! だって2000円だよ!? 普通に美味しいご飯食べられるじゃん!!」


 表示は消えない。

 確かに、自分の配信へお金が送られていた。


 チャンネルの収益化が通った時とも、案件のメールを見た時とも違う。

 今この瞬間、見ていた誰かが、自分の配信にお金を出してくれたのだ。


「っ……、ありがとう! お名前、えっと――――」


 送り主の名前を呼ぶ。

 続けてメッセージを読み、天音は唇を噛んだ。


「お仕事終わりに……見てくれてるんだ。そっかぁ……」


 きっと、疲れて帰ってきているのだろう。

 その時間にわざわざ自分を選んで、楽しんでくれている。


 そう思った途端、声が少しだけ震えた。


「本当にありがとう。明日も仕事頑張ろうって思えるくらい、楽しませるからね!」


 その直後だった。


【¥3,000 初めて投げます! ゼータも応援してます!】


「増えたぁ!!?」


【反応良すぎるwww】


【こっちまで嬉しくなる】


「ありがとう! ゼータも頑張る! 頑張るけど、みんな無理はしないでね!? 見に来てくれるだけでも十分嬉しいんだから!」


 また礼を言いかけた瞬間、足音。


「っ、ちょっと待って! 今すっごく大事なお礼言ってるから!!」


 天音は回復を終え、武器を持ち替えた。

 突っ込んできた敵を至近距離で迎え撃ち、ジャンプで照準を外させながら撃ち倒す。


【感動しながら普通に殺すなww】


『こっちにも生活が懸かってんのですよ!!』


 いつもの声が戻った。

 笑いながら、次の遮蔽物へ走る。


 雄二は階下で、静かに頷いた。

 嬉しさで配信が止まってしまうかとも思ったが、心配は要らなかったようだ。


 感謝は伝える。

 その上で、楽しみに来ている他の視聴者も待たせない。


 今の天音は、その両方を自然にやれていた。


 ◇


 その後の配信は、いつものように賑やかに進んだ。


 勝てば大喜びし、負ければ悔しがる。

 調子に乗って突っ込めば、チャット欄から総ツッコミ。

 それに言い返しながら、また次の試合へ。


 最後のマッチを終えたところで、予定していた終了時刻となった。


「じゃあ、今日はここまで! みんな来てくれてありがとう! スパチャも本当に嬉しかったです!」


【お疲れー!】


【今日も楽しかった!】


「また次の配信でね。おやすみー!」


 終了ボタンをクリック。

 配信が切れたのを確認してから、天音はヘッドフォンを外した。


 途端に、椅子の背もたれへ沈み込む。


「うっはぁ…………」


 余韻が凄い。

 何度思い出しても、顔が勝手に緩んでしまう。


「スパチャ……もらっちゃった」


「お疲れ様です。良い配信でしたね」


 部屋へ上がってきた雄二に、天音は勢いよく振り返った。


「雄二さん!! 見た!?」


「もちろん。初スパチャで敵から大反撃を受けたところも、しっかり」


「そこは忘れて!?」


 笑った雄二に、天音も笑い返す。

 そして、もう一度画面を見た。


「……わたしの配信に、お金出しても良いって思ってくれたんだよね」


「えぇ。楽しかった、その気持ちを形にしてくださったんです」


「そっか……。むふふっ、そっかぁ……!」


 嬉しそうに足を揺らす天音。

 明日のご飯代にだってできるお金を、自分に送ってくれた。

 その事実だけで、また配信したくなってしまう。


「ねぇ雄二さん、次はもっと面白くしたい。今日投げて良かったって、あの人たちに思ってほしい!」


「その気持ちがあれば、きっと大丈夫ですよ。ところで――――」


 雄二が、手元のスマホを操作した。


「今日はもう一つ、お見せしたいものがあります」


 通知音。

 届いたのは、動画のURLだった。


 天音が開くと、そこには見慣れたゲーム画面。

 ユリアと対戦した時の、自分のプレイが映っていた。


「あれ、これわたし? でもウチのチャンネルじゃないよね?」


「えぇ。こちらは見本として送っていただいたものです」


「見本?」


 首を傾げた天音に、雄二が笑う。


「天音さんの配信を切り抜きたいと言う方が何人かいます、収益できたら山分けとのことです」


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