第24話・初レビュー案件!
数日後、天音の家に案件のマウスが届いた。
丁寧な梱包を剥がし、ついにご対面。
「おぉ……!」
現れたのは、まだ未発売の新作マウス。
明らかに普段使っている物とは質感が違い、さらには――――
「かるっ!」
思わず驚愕する天音。
驚くのも無理はない、そのスペック。
・重量60g。
・2.4GHz対応。
・ラピッドトリガー搭載。
・専用ソフトウェアで調整可能。
まさしく、FPSゲーマーには最適と言えるゲーミングデバイスだった。
「よっし! じゃあ早速レビューしていこう! 存分にやっちゃって良いんだよね?」
「もちろんです、そのために好き勝手言えるよう断ったのですから。バッサリ行っちゃってください」
「じゃ、まず持った感じから!」
録画開始の合図に、天音がマウスを握り直す。
左右に滑らせ、持ち上げて、また下ろす。
その動きを何度か繰り返した。
「60グラムって数字では見てたけど、普段のと比べると全然違うね。あ、でも軽いだけじゃないなぁここ」
親指を側面に添え、軽く持ち上げる。
「横をそんなに強く挟まなくても持てる。わたし、マウスを戻す時に持ち上げるから、ここ滑ると嫌なんだよね」
指を開いたり閉じたり。
今度は薬指の位置を変え、何かを確かめている。
「うん、こっちも窮屈じゃない。手の大きさで変わるだろうけど、わたしにはかなり合ってる!」
雄二は背後で頷いた。
仕様表の数字を読み上げるだけなら、誰でもできる。
しかし天音は、それが自分のプレイでどう役立つかまで、自然に言葉にしていた。
「接続は2.4GHzの無線、ケーブルに引っ張られないのも嬉しいよね。で、専用ソフトを入れると……」
設定画面が開く。
項目を順番に眺めていた天音が、ぴたりと止まった。
「おっ……あった」
身を乗り出す。
さっきまで形状を確かめていた時より、明らかに目が輝いていた。
「ラピッドトリガー。これ! これが一番触ってみたかった!」
クリックが反応する押し込みの深さ。
そして、押した指を戻した際の入力解除。
それぞれを調整できる項目が並んでいる。
「マウスでもここまでいじれるの、ちょっと楽しいなぁ……」
早速、反応を敏感にする。
試しに左ボタンへ指を置いた。
直後。
意図せず設定画面をクリックした。
「……おっと?」
雄二が小さく吹き出す。
天音は振り向かず、片手を上げた。
「今のカットしないで。大事なとこだから」
そのまま設定を一段戻す。
「一番敏感なら一番強い、ってわけじゃないね。わたし、結構ボタンに指を預けるから。これだと撃つつもりがない時にも押しちゃう」
何度か試し、納得したように頷く。
続いて右ボタン。
こちらは左よりも慎重に調整した。
「右は照準を覗いたままにしたいから、指の力がちょっと抜けたくらいで解除されたら困るね。左右別々にできるの、結構助かるなぁ」
ただ褒めるだけではない。
自分には何が合い、何が合わないか。
試しながら、その理由まで伝えている。
雄二が口を挟む必要はなかった。
やがて、ゲームの射撃訓練場へ。
感度をそのままに、まずは軽く視点を動かす。
一体目の標的を狙った照準が、僅かに行き過ぎた。
「あ、軽い分……いつもの力で振ると行き過ぎるね。ちょっと待ってよ……慣らす」
大きく振って止める。
小さく合わせて撃つ。
それを何度か繰り返すうちに、照準の動きが落ち着いていった。
そして、単発式の武器に持ち替える。
乾いた銃声。
1発ずつ、間を置いて撃つ。
次に、標的を変えながら続けて撃った。
「……あ」
天音の声が変わる。
もう一度。
今度は指先を意識しながら、ゆっくりと。
「これ、押し込みを戻す方が気持ちいいんだ」
左ボタンを押し、ほんの僅かに指を戻す。
そこから再び押し込む。
「押した後、次に押せるところまで指を戻すでしょ? その動きが小さくて済む。次を撃とうとした時に、指がもう待ってる感じ!」
また1発。
標的の頭に命中する。
「銃の連射速度そのものが上がるわけじゃないけど、押し直すのが楽。わたし、これ好きかも!」
今度は移動しながら撃つ。
遮蔽物から出て、1発。
隠れて、また別の位置から1発。
「こういう時! 1回撃って隠れて、次に出た時。押す戻す、また押すって指の動きが小さいから、狙う方に集中しやすい!!」
説明しながらも、手は止まらない。
狙いが外れれば「あ、今のはわたしが悪い」と笑い、上手く当たれば素直に喜ぶ。
雄二は、その後ろ姿を見つめていた。
––––初期のたどたどしさは、完全に消えたな。
以前なら、喋ろうとしてプレイが止まり、プレイに集中すると言葉が途切れた。
今は、自分が何をしているのか。
どこを見て欲しいのか。
視聴者に伝えながら、いつもの実力を見せている。
何より、楽しそうだった。
その楽しさを、画面の向こうにも分けようとしている。
「うん。わたしはラピッドトリガー、かなり気に入った。ただ、最初から設定を敏感にしすぎるのはオススメしないな。さっきのわたしみたいになるから!」
笑いながら、さらに別の武器を手に取る天音。
雄二は録画時間を確認し、苦笑した。
使える場面が多すぎる。
今度は、どこを残すかで悩むことになりそうだった。
◇
「……はい、一旦ここまでにしましょう」
「え、もう? まだ試したいんだけど」
「構いませんよ。ただ、レビューの結論は何日か使ってからにしてくださいね」
「そだねー、長く使って手が疲れないかも見たいし」
そう言いつつ、天音はマウスから手を離さない。
雄二の視線に気付き、少し照れたように笑った。
「……でも、たぶんこれ、使い続けると思うな。超気に入った」
「それだけ手に合う物が見つかったなら、ゼータに向けた準備も進みましたね」
「うん、ちゃんと慣らしとく!」
豪華な遊び道具を手に入れた笑顔が、勝負に向かう顔へ変わる。
その切り替わりを見届け、雄二は次の話を切り出した。
「では、案件に続いて天音さんのチャンネルをもう一段階進化させます」
「具体的には?」
雄二が笑う。
「収益化有効の配信です」




