第23話・案件到来
あれから一晩。
結局、雄二は天音の家のリビングで就寝した。
そして当然ながら、朝一番で顔を合わせたのだが。
「あの、雄二さん……わたし、昨日なんか変な事言ってないよね?」
顔を真っ赤にした天音が、身を小さくしながら聞いてくる。
雄二としては、覚えているという次元ではない。
ハッキリと想いを受け取った。
さすがに一瞬固まったが、即座に切り替え。
「熟睡していたので、ベッドまで運ばせてもらいました。お湯焚いてるのでまずはお風呂どうぞ」
「あ、ありがと……」
天音を浴場に誘導。
一旦だが難を逃れた。
「……変なんかじゃなかったですよ」
後ろ姿を見つめながら、小さく呟く。
その後天音は日課のランクマ練習を行い、雄二は在宅ワークで仕事を素早く済ます。
最近は天音の家にいることが多いので、ノートPCや各種デバイスを、かなり持ち込んでいた。
そして、入っていたメールを見て階段を駆け上がった。
「天音さん、案件です」
いつもの配信部屋。
突然そんなことを言いだした雄二に、天音はヘッドフォンを外して振り返った。
「はぇ?」
「なんですかその変な鳴き声は」
「いや、雄二さんも冗談言うんだなって」
「冗談だと思うなら、共有メールのボックスを見てください」
すぐさま開く。
そこには、
【レビュー依頼】。
そう書かれたメールが映っていた。
PCの画面と、雄二の顔を交互に見返す。
「マジ?」
「大マジ」
「あっはは。わたしに案件出す企業なんているわけ……、いるわけ……」
だが、現実は変わらない。
確かに、そこには案件のメールが置いてあった。
「いるじゃん」
「ようやく認めましたか。内容は“マウスのレビュー依頼”です」
「マウスってパソコンのだよね?」
「はい、あの有名デバイス会社のG社からです」
雄二の言葉に、天音が椅子から跳ねるように立ち上がり服を掴んだ。
「あのG社!? 今使ってるマウスもそこだよ!?」
「く、首を絞めないでください……!! まさにそこですから!!」
なんとか引き剝がし、天音を座らせる。
案件の内容は、新作マウスを先行提供するのでレビュー動画を作って欲しいというシンプルなもの。
しかもこのマウス、性能が凄まじかった。
「2.4GHzに超高ポーリングレート……、マウスの押し込み感度調整可能。各種ソフトで調整オーケー……やっばぁ」
おそらく、普通に買えば数万は下らない超高級マウス。
それを提供してくれる上、
「報酬……50万円!? なんかぶっ飛びすぎじゃない!??」
動画が適合した暁には、そのような高額報酬も提示されていた。
そのあまりの金額に、恐れおののく天音。
「登録者数だけで見れば破格です。ただ、天音さんは直近動画の再生数とエンゲージメント、それにEPEX上位層へ直接刺さる視聴者層を持っています。メーカーからすれば、下手な10万人より価値があります」
「で、でもなんか実感湧かないなぁ。わたしが案件かぁ……」
しかし、このようなお話を受けない択はない。
だがと、雄二は前置いた。
「レビューは良いですが、天音さんのスタンスだけはハッキリさせておきましょう」
「スタンス?」
「そうです、”天音さんがオススメしたから欲しい”。そう視聴者に思わせるには必須です」
案件とは、下手を打てば信用の切り売りになりかねない。
なんでもかんでも褒めていれば、視聴者からの信頼を無くす。
それを防ぐため、事前の決め事は絶対に必要だった。
「それならもう決まってるよ」
二ッと笑った天音が、続けて言い放つ。
「製品として未熟なら、動画は出さない」
この言葉に、雄二も頷く。
「では先方に伝えますね」
メールは即日で送った。
もちろん、こちらのスタンスもキッチリ伝える。
【製品に致命的な問題があれば公開しない。内容への恣意的な修正要求は受けない。仕様上の事実誤認のみ修正に応じます】
後日、G社からは「構わない、どうぞ好きなように評価して欲しい」と送られてきた。
天音の初プロモーション動画が、始動した瞬間だった。
「言っとくけど、わたしは結構マウスにうるさいよ?」




