第21話・赤井雄二の正体
超大手プロゲーマー、新海秋奈。
ネット上での名前はベルセリア。
僅か16歳にして、国内外問わずあらゆる大会で優勝を総舐めした最強の選手。
その出自は謎に包まれており、ユリアですら前回のゼータ大会で初めて知り合った。
「元はと言えば、エーベルハルトもわたしがコラボして有名になったもんね」
「おかげさまで、秋奈さんには感謝してもしきれません」
「まぁ恩に着せるつもりは無いわ。で、聞かせてよ……例の2人について」
興味深そうにしながら、ケーキをつつく秋奈。
姿勢を正したユリアは、なんの気なしに話す。
「元々天音さんは、お世辞にもウケる配信者ではありませんでした。それを――――ある方が一瞬で変えてしまいました」
「それが例のプロデューサー?」
「はい、名を赤井雄二。その卓越したマーケティング能力はわたしを超えていると認めざるを得ません」
秋奈のフォークを動かす手が止まった。
その黒目が、睨むようにユリアを見つめる。
「赤井雄二……、今そう言った?」
「えぇ、言いましたが」
飲み物を一口飲んだ秋奈は、ニッと笑った。
「へぇ、アイツ……もうこの業界には戻ってこないと思ってたのに」
「知っているのですか?」
ユリアの問いに、秋奈は当然とばかりに答えた。
「だってその男――――”現トップ・オブ・ストラトス”の元プロデューサーだもん」
「えっ……?」
呆然とするユリアに、秋奈は笑みを浮かべながら続けた。
「面白くなりそうね、あの赤井雄二が業界に戻ってくるほどの逸材。早く会いたいわ」
◇
――――天音宅。
雄二が溜まり場にしたことで、前までお世辞にも綺麗とは言えなかった部屋も、かなり片付いてきた。
やはり部屋の乱れは心の乱れ。
足場が増えて天音も安心したのか、はたまたどん底脱出で余裕が生まれたのか。
以前より、明らかに活発になっていた。
「雄二さん、お話があります!」
椅子に座った天音は、眼前の雄二に正対する。
相変わらず長い銀髪、吸血鬼のような紅い瞳。
その幼い容姿もあって、成人済みとは思えなかった。
「なんですか? ゼータまであと4週間。何かお悩みでも?」
「いや、悩みとかじゃなくってさ……そのぉ。あのっ」
少し顔を赤らめた天音は、雄二を見上げた。
「いつも雄二さんにお世話なりっぱだからさ、お礼がしたいの」
「お礼? 天音さんがですか?」
「うん、ここまで来れたのも雄二さんがいたからこそだし」
10秒ほど、雄二は沈黙し……。
「天音さん……ッ!!」
「うわわっ! なんで泣いてんの!! ティッシュティッシュ!!」
「すみません、天音さんの健気さポイントが100億点を急に超えたので……思わず涙が」
「大げさか!! まぁでもそんなに喜んでくれるなら、奮発した甲斐があったな」
そう言って天音が取り出したのは、1本のボトルだった。
「これは……シャンパン? って、めっちゃ良い銘柄のヤツじゃないですか!!」
「わたしもお酒は好きだからさ、今晩一緒に飲もうよ。雄二さんいっつもコンビニの一番安いヤツじゃん。たまには良いの飲も?」
「天音さん……!」
確かに雄二は最近、会社員とプロデュース業で二足の草鞋状態。
どうせ酔えれば良いという理由で、かなりおざなりな趣味になっていた。
天音も他人をよく見る人間だ。
そんな追い詰められた雄二を、ひっそり心配していたのだ。
「まぁ収益化祝いってことで、ここは奢らせてよ。言うならば雄二さん大感謝祭!」
その場で泣き崩れる雄二。
「天音さんが良い人なのは知っていましたが……、改めて突き付けられます……!!」
「すげーリアクション……、いや嬉しいけど」
「たった数週間で登録者2万人行って、収益化達成。さらには格上の相手とのコラボも成功……偉すぎる……!!」
今まで抑え込んでいた感情が、ここに来て爆発。
教え子からの優しさが、何よりのご褒美だった。
「飲みましょう天音さん! 収益化達成祝い!!」
大盛り上がりする2人。
しかし気づかない。
そのシャンパンの普段飲まないアルコール度数に。




