第20話・ゼータ主催者、新海秋奈
「収益化……通ったの?」
未だ信じられないと言った表情の天音に、雄二は若干興奮しながら続けた。
「えぇ、かなりの爆速認定です。次出す動画や配信からはもう広告が付けられますよ!」
雄二にとっては二度目のイベントだが、その嬉しさは淡くなるものではない。
自分の全部を注ぐと決めた少女が、今目の前で躍進したのだ。
これを喜ばないプロデューサーはいない。
「あっ……はは」
椅子に力なく座った天音の瞳から、涙がこぼれる。
「な、なんだろ……凄く変な感じ。まるで自分のことじゃないみたい」
「天音さんが成し遂げたことです、誰でもできることではありません」
勘違いされがちだが、チャンネルの収益化は簡単ではない。
きちんと活動で結果を出し、運営に認められて初めて仕事にできるのだ。
ユリアとのコラボからさらに増えて、今の天音のチャンネル登録者は2万人。
現実的に見るなら、既に上澄みの部類だ。
「な、何か手続きとかいるよね?」
「はい、確定申告や税の情報など、事務仕事は盛りだくさんです。けど――――」
スマホを置いた雄二は、まず天音の流した涙を指で拭った。
「今は、ただこの喜びを一緒に噛み締めましょう」
「グスッ……雄二さんっ」
「安心してください、わからない事は教えます。改めて――――」
視線を合わせ、今一番送りたい言葉を選ぶ。
「おめでとうございます、天音さん」
◇
――――蒼空市内中央部、喫茶店内。
ジャズが流れる癒しの空間で、金髪を揺らした少女がコーヒーを飲んでいた。
味はブラック、舌に触れるとピリッとした苦みが楽しめた。
「そろそろですかね」
カップを置いたユリアは、腕時計を確認。
直後に、1人の人間が来店した。
店内を一瞥したその少女は、ユリアを見つけて近づく。
「あら、エーベルハルトから呼び出しなんて、今日って天気予報雪だっけ」
そう言ったのは、黒色の髪をサイドテールにした少女。
服装は純白のワンピース姿で、身長は少し低め。
スタイルに関してはユリアと同等のレベル。
まるで、アイドルのようだった。
「お久しぶりです、”新海秋奈”さん。いえ……ゼータの主催者と言った方が良いでしょうか?」
「別に秋奈で良いわよ、ここはリアルなんだから実名で」
秋奈と呼ばれた少女は、とても凛々しい雰囲気を持っていた。
まるで、ゲームのみならず異世界でずっと戦っていたような。
「アンタにしては良い趣味の店じゃない、オススメ教えてよ」
「カプチーノとチョコケーキ、お値段は張りますが」
「じゃあそれにしようかしら」
秋奈は迷いなく注文すると、ユリアの対面で静かに座った。
「で、用件は? 言っとくけど前置きは怠いから無しで」
「じゃあ聞きます。なぜ天音さんをゼータに招待したのですか?」
お冷を飲んだ秋奈は、ニヤリとした顔でユリアを見る。
「面白そうな子だったから。あなたとのコラボ配信を見て、きっと大会が盛り上がると確信したの」
「それが根拠ですか?」
「そうね、わたしのお父さんの言い方を借りるなら……”直観”ってとこ」
カプチーノとケーキが出される。
確かに、ユリアの言う通り非常においしそうだった。
「では、まずいただこうかしらね」
フォークを握り、パクリと一口。
その直後だった。
「ふぇえ……っ」
秋奈は至高の表情で、甘い鳴き声を出した。
「フフッ、相変わらず美味しい物を食べるとその変な声が出るんですね」
「だって美味しいんだもん、日本の食べ物はやっぱ格別ねー」
上品ながらも美味しそうに頬張る秋奈。
彼女こそ、今EPEXのゼータ大会主催者。
そして――――チャンネル登録者”120万人”を誇る、超大手プロゲーマー。
新海秋奈こと、ネットでの名前は”ベルセリア”。
「ちょうど良かった、教えてよエーベルハルト。空井天音ともう一人――――優秀なプロデューサーについて」




