第19話・2人の望む景色!
”ゼータ”開催まであと1か月。
グラボを買って天音宅に帰った2人は、まず部屋に入るや座り込む。
最近では、すっかり雄二も入り浸っていた。
そんな彼も、今回の事態には驚きを隠せない。
「まさかユリアさんがペアを組んでくれるとは……、さすがに想定していませんでしたね」
「ねぇ、それってそんなにイレギュラーだったの? 雄二さんなら想定してたと思ってた」
「彼女は基本一匹狼のソロプレイヤーです、大手の配信者でも基本対戦ばかり。ペアなんて絶対に組まないことで有名です」
「じゃあなんでわたしと……」
不思議がる天音に、雄二は忌憚なく言った。
「天音さんになら、背中を預けても良い……きっとそう思ってくださったのでしょう」
「わたしが……ユリの?」
「えぇ、彼女ほど頼もしい味方はいません。ゼータ、今から楽しみですね」
ニッコリと笑う雄二に、天音は拳を握った。
「うん! じゃあそうと決まれば、早速グラボ交換しよ!」
十数分程度で、PCの中身が替えられる。
今まで天音を支えていたRTX3070TIにお礼を言って、RTX5070TIを装着。
グラフィックドライバーを入れ替え、動作検証に移った。
「通常、グラボを変えても他のパーツが足を引っ張れば性能は出せません。これをボトルネックと言います」
「ふむ、してわたしのPCの場合は?」
「無いとは言いませんが、かなりマシです。PC知識皆無の天音さんにしてはとても良い構成でした」
「具体的には?」
「調べたら、CPUがAMDの7800X3Dでした。メモリも32GB。これなら5070TIの性能をほぼ100%発揮できます」
言うより見た方が早いと、雄二はEPEXを起動。
今度は以前と違い、モニタリングツールを導入。
画面左上に、細かい計測データが表示された。
そのFPS――――
「に、240FPSにビッチリ張り付いてる……!!」
「では天音さん、操作してみてください」
椅子に座り、マウスを握る。
軽く振った瞬間、彼女はもう違いに気づいた。
「さらに残像感が消えてる……、なんかゲームの世界を直接見てるみたい」
「人によっては240FPSというのは体感しにくいですが、天音さんなら違いに気づける。早速マッチに潜ってみましょう」
前の時と同様に、野良マッチへ。
100人バトルロワイアルで、開幕から敵に遭遇するも――――
「うわわっ!」
照準が外れ、あやうく負けかけた。
「なんで……? いつも通り狙ったのに」
これを見越していた雄二が、すぐさま回答した。
「マウス感度そのものは変わっていません。ただ、表示と入力の遅延が減ったぶん、今まで無意識にやっていた“遅れ込みの補正”がズレたんです」
「モニター変えた時は大丈夫だったよ?」
「それはまだギリギリ天音さんが自分で補正していたんです。ただ、ここまで変わるともう瞬時の適応は難しいでしょう。ですが――――」
天音の肩を叩いた雄二は、頼もしさをもって続けた。
「貴女ならすぐにモノにします」
「ッ……」
確かに、フレーム数が増えている分マウスの動かし方はだいぶ違う。
それでも、
「よっ」
試合開始から10分で、天音は240FPSの世界に適応。
そして、そこで初めて気が付く。
「エイムやりやす!!!」
まるで世界が生まれ変わったようだった。
これなら――――
「うっし!」
早速の1位。
もはや天音の足を引っ張るボトルネックは、かなり解消されたと言って良い。
これなら、最低限ゼータでも環境が問題で負けることは無いだろう。
「ありがとう、雄二さん」
「えっ」
ヘッドフォンを外した天音は、その長い銀髪を振った。
「わたし知ってるよ、雄二さんが私のパソコンの性能を寝る間も惜しんで計ってくれてたの」
「……バレてましたか」
「だから必要なパーツを的確に把握できた。雄二さんのおかげで、わたしの”見たい景色”が見れるかもしれない!」
興奮する天音に、雄二はふと聞いてみた。
「良ければ教えて欲しいものですね、その景色がなんなのか」
雄二が知る限り、天音は金銭的事情から配信業を始めた。
そこに間違いは無いはずだが、人間は金だけで継続できる生き物ではない。
もう一つ、天音の描くビジョンがあるはずだった。
「良いよ、雄二さんにだけ教えてあげる」
ニッコリ笑った天音は、雄二の胸を叩いた。
「”1を極めた世界”!」
「1を……極めた世界?」
「そう、わたし……昔から何もかも中途半端で、何かをやり遂げるなんてしてこなかった。だから!」
椅子から立ち、雄二を見上げる。
「この配信の世界で、トップになりたい。今度こそ――――一つのことを極めた人間になりたいの」
見つめる紅目は、雄二を掴んで離さない。
これほどまでに純粋な気持ちは、会社員をやっていてなかなか出会えるものではない。
義務感でも労働契約でも、金銭目当てでもない。
正真正銘――――トップを目指す意思。
天音がそれを志す姿に、赤井雄二は他の全てがどうでも良くなる。
それほどまでに、眼前の少女は自分がかつて諦めたモノを持っていた。
「なら俺も、貴女に話します。俺の見たい景色を」
「雄二さんの見たい景色……」
「はい、それは――――」
赤井雄二は、かつて同じことをしていた。
一度燃え尽き、この世の全てがどうでも良くなっていた時期に見つけ、組むことになったのが天音だ。
ならば、そのパートナーの意思に共鳴するのは必然。
「天音さんが―――トップの舞台に立った瞬間です」
空井天音も確信する。
彼はもうただの仕事仲間ではない。
自分にとって特別な、”人生のプロデューサー”。
そんな雄二の想いに、彼女は拳を出して応える。
「おっけぇ! 絶対見せてあげる! わたしがトップ・オブ・ストラトスになる瞬間」
「天音さんなら絶対にできます、なんたって――――俺が認めたんですから」
お互いに夢を確認し合い、その絆が深まった時。
――――ピロンッ――――
メールが届いた。
雄二が携帯で確認し、数秒後に……。
「天音さん」
「な、なに?」
スマホの画面を、明るい表情で天音に見せる。
「天音さんのチャンネル、”収益化”申請が通りました」




