第16話・変わり始めた日常
天音のチャンネル登録者が1.8万人を超えた。
同時に、雄二との関係性も一段進んだ夜から2日後。
「おはようございます天音さん」
「おはよう、雄二さん」
――――蒼空市内、中心部。
大勢の人が行きかうメインストリートで、2人は待ち合わせをしていた。
以前のモニター買い出しと、状況としてはなにも変わらない。
変わらないのだが――――
「ッ……」
雄二の心臓が、途端に心拍数を上げた。
原因はもちろん、こっちに歩いてきた天音だ。
格好は半袖の薄いシャツに、デニムのショートパンツ。
今回はそれに加え、髪型がサイドテールに纏められていた。
「あ、天音さん……その格好は?」
「ん、これ? 暑いし髪長くなってきたから今日は縛ったんだけど」
「そうですか」
妙な間が生まれる。
雄二も天音も、互いに少し顔が赤かった。
「に、似合ってるかな……? 普段下ろしてばっかだったからイメチェンのつもりだったんだけど」
「凄く似合ってますっ、清涼感があって個人的に好きです」
雄二の言葉に、さらに顔を紅潮させた。
あの夜から、お互いになぜかこういう現象が多くなっていた。
それまでは仕事的な関係だっただけに、慣れない気持ちが大きい。
「とりあえず暑いですし、店に向かいましょうか。歩きながらニュースもお伝えしますよ」
「はーい」
隣同士で歩き始める。
何度か指が当たってしまうが、雄二は口調を崩さずに話をなんとか始めた。
「いやしかし、あらためて一晩で2万人近い登録者を獲得するとは……やっぱり俺が見込んだ通りです」
「雄二さんのおかげだよ、ユリがコラボしてくれたからってのもあるし。わたしは配信者として楽しんでただけだもん」
「そんな天音さんに魅力を感じたからこその結果です。ここは、謙遜せずに誇っても良いんですよ」
あの配信は、ネットの界隈に衝撃を与えた。
ユリアの腕は誰もが認めていた、それを天音は正面から競り勝ったのだ。
上位帯のプレイヤーはざわつき、天音のプレイを純粋な研究対象にするレベル。
だからこそ、雄二は今回伝えるニュースも妥当なものだと思っていた。
「いやぁ……照れますなぁ。むふふっ、それでさっき言ってたニュースってなに?」
「はい、EPEXの公式デュオ大会――――”ゼータ”から天音さんに招待が届きました」
「……」
天音の足が止まる。
「どうしました?」
「雄二さん、エイプリルフールはもう過ぎたよ?」
「いやマジです、嘘じゃありません」
感動でまた顔を真っ赤にする天音。
雄二に駆け寄り、その胸を勢いよく掴んだ。
「”ゼータ”って、あの!?」
「そうです、EPEXの国内上位者のみが集うあのゼータです」
「わたし、ずっと憧れてたの!! ゼータで活躍できる配信者ってもうそれだけで輝いてるし!! トップへの登竜門じゃん!!」
天音が興奮するのも無理はない。
ゼータは”主催者”の独断によって選ばれたプレイヤーしか、参加権を得れない。
明確な基準は公開されていないが、少なくともトッププレイヤー……加えて“有望な配信者”にしか枠を与えないことで有名。
今回天音は、その謎の主催者から直接招待を受けたのだ。
雄二からすれば、完全に有望な配信者枠。
プロデューサーとして、自分ごとのように嬉しかった。
「うはぁー……! マジかー、もう今年何回嬉しいことあるんだよぉー」
「良かったですね」
「じゃあさ、今日雄二さんが呼び出した理由も……?」
「お察しの通り、そのゼータを見越した買い出しです」
2人が立ち止まったのは、ビルに構えたPCショップ。
「今日はグラボを新調します」
第2章開幕です!
応援是非に!!




