第17話・手に入れろ! RTX5070TI
「グラボ……!! まじか!!」
通称グラボ。
中心となるGPUが映像処理を担う、ゲーム用PCでは特に重要なパーツだ。
これが無いと、そもそも過半数のPCゲームが遊べないのだ。
「天音さんのグラボはRTX3070TIでしたね? 悪くはないですが、今の状況ではさすがに力不足です」
「そうかなぁ、普通に足りてるような気がするけど……」
「本当にそう思いますか?」
言いながら雄二は、天音のPCを使って測定したベンチマーク。
その数字を見せた。
「天音さんは240Hzモニターを買いましたが、厳密にはその性能を発揮できていません。これが証拠です」
「150FPS……? えっ、240に届いてなくない?」
「はい、爆発エフェクトが集中したり、配信したりすればもっと下がります」
「うっそ! 体感めっちゃヌルヌルだったよ!?」
「60から150まで上がれば、確かに実感するには十分です。ですがまだ240の天井を叩くには足りていないんです」
モニターが240Hzだからと言って、画面が全てそうなることはない。
PCが出力するフレーム数も、同じように高くないと意味が無かった。
つまり天音は、240FPSと思い込んでいただけに過ぎなかったのだ。
「ですが、こうも捉えることができます」
人差し指を立てた雄二は、優しく笑った。
「天音さんには、まださらなる飛躍の可能性があります」
「確かに……、もし本当にこのグラボ交換で240FPS出せたら、もっとやりやすくなるってことだよね!?」
「そういうことです」
「じゃあそうと決まったら早く入ろ! 雄二さんチョイス期待してますよ」
意気揚々と入店。
中に入ると、天音は思わず圧倒された。
「うわっ、一面パーツだらけ」
さすがに現在成長中の都市のお店。
品揃えはかなりの物で、フロア一帯にPCやパーツが置かれている。
グラボ、CPU、マザーボード、CPUクーラー、SSD、メモリ。
雄二たちにとっては、まさしく遊園地。
2人は店内を歩き、お目当てのコーナーを目指す。
「しかし、少し懸念事項があります」
「なぁに?」
「昨今のAIブームで、メモリを始めとしたパーツが急高騰してまして……値上げ幅がヤバいんですよね」
「どれくらい?」
「2万円台だった32GBメモリが、今だと10万円を超えます」
天音の顔が強張る。
AIデータセンターで使うメモリも、個人が使うメモリも、元は同じ原材料から生まれる。
世はまさに大AI時代。
データセンター建設のため、個人向けの市場が圧迫されていたのだ。
そして、グラボコーナーに着くが……。
「やはり……予想通りでしたね」
雄二の眼前には、ウィンドウ越しに飾られたグラフィックボード。
その値段は、一言でいえば常識の外。
「去年なら15万円で買えたRTX5070TIが、21万……思っていた以上です」
「いくらなんでも高すぎでしょ!!」
「はい、正直言って高いです。ぼったくりと言っても良い。ですが――――」
そこまで言って、雄二は天音を一瞥。
「俺たちには秘密兵器がある、この時のための」
そう、グラボを買うだけなら前に行った家電量販店でも買える。
ではなぜわざわざPCショップに来たかと言えば――――
「ユリからもらった10万円クーポン、ここで使うんだね」
「むしろここしかありません、そのために来たのです」
前回のコラボ配信で、天音はユリアからこれを貰っていた。
2人にしてみれば天啓。
ユリア自身も、これでもっと環境を良くしてほしいという想いが強かったのだろう。
「雄二さん、狙うは?」
「Palit製のRTX5070TI、これ一択です!」
雄二が差したのは、数多ある中の1つ。
唯一違うのは、同じ5070TIでも他のブランドより数万円安かった。
「18万円? なんでこのグラボだけ他よりこんな安いの?」
「Palit製は仕入れ工程の違いから、他社メーカーより安いんです。選ぶならこれしかありません」
「安いなりにデメリットは?」
「外見がプラスチックでチープなくらいでしょうか。性能は他社製と変わりありませんよ」
「そうなんだ、じゃあみんなこのメーカー買うんじゃないの?」
「PCオタクは外見や冷却性能、静穏性も重視する方が多いです。そういう意味では少し劣りますね」
だが、天音は特別そこに拘ってはいない。
何より、雄二の理路整然とした説明に納得できた。
「天音さんのパソコンのCPUは、まだ余裕があります。グラボ交換だけで十分効果は見込めるでしょう」
「よし、わかった……買おう! 実質8万……高いけど必要経費。行ってくるね」
レジへ向かう天音。
見送った雄二は、しばらく帰ってくるまで待とうとして――――
「やっぱり、来ていると思いました」
「えっ?」
振り返ると、そこには金髪のショートヘアを下げた1人の少女。
エメラルドグリーンの碧眼が、嬉しそうにこちらを見つめていた。
「こんにちは、赤井さん」
ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトが、優しい表情で挨拶をした。




