みやび Side 『相棒』
休憩中のみやびは打ちひしがれていた。
私なんかがこんなレベルの高いバンドで一緒にって……
分かっていたつもりだったけど、場違いだったかな……
真理さんも陽菜さんもめっちゃうまいし、あいつは相変わらずだし……
私だけ圧倒的にへたっぴじゃん……
悔しい気持ちでふっとドラムセットに目線を向けると碧音と目が合った。
「どーした? みやび、 調子悪いんか?」
すぐに目を逸らし、指先を見つめる。
「別に…… 調子悪いわけじゃないけど。ただ、みんな上手すぎて私が足引っ張ってるんじゃないかって思ってただけ」
「はい~出ました~、 みやびのネガティブ志向」
「ネガティブじゃないもん! 事実を言ってるだけだし! みんながあんたみたいにポンポン叩けたり、弾けたりできるわけじゃないんだから!」
思い通りに弾けないジレンマと、図星を突かれたことへの苛立ちから悪態をついてしまう。
「……まぁ、俺ってば天才だしな。 ポンポンできちゃうんだ、これが」
そんな態度に怒りもせずにおどけてみせた笑顔に胸がギュッとする。
「天才とか自分で言うな! まぁ...否定はしないけどさ。碧音のドラムは本当に凄いと思う。でも私も負けたくないんだよ」
「いいか? みやび」
碧音がドラムセットの向こうから真剣な顔つきでみやびを見据える。
「上手い下手とかテクニックとか、そんなもんは時間かけて練習すりゃどうにかなる。ただ上手いだけのベーシストでいいなら陽菜さんたちだってとっくの昔に別の先輩とかと組んでたさ。けどさ、そういうのと別にそいつにしか出せない音ってあるんだよ。 もちろんみやびにも。俺たちはそのみやびの音が欲しくて一緒にやってるんだ。だから焦るなよ、みやび。 もっと自信持っていいよ」
突然の碧音からの言葉に驚いて顔を上げ振り返り、ポニーテールが揺れる。
「私にしか出せない音…… そんなのあるかな。いつもみんなの演奏についていくので精一杯なのに……」
「いいんじゃね? 今は精一杯で」
「そう、かな…… でも、やっぱりもっと上手くなりたい。碧音みたいに堂々と演奏できるようになりたいよ」
「なれますかね~? 俺みたいな天才に」
「もうっ……」 みやびの顔に明るい笑顔が戻った。
「それにさ、みんなだってわかってるよ。みやびがずっと練習してるの」
「え……? なんで?」
「そりゃわかりますよ~。 左手の指、気付いてないとでも思ったか?」
弦の押さえすぎでボロボロになった指先を見て、恥ずかしくなりサッと椅子の下に隠す。
「帰ってからもずっとやってんだろ? 練習」
静かに小さく頷く。
「あんまし無理しすぎんなよ? 腱鞘炎とか怪我で離脱されちゃおれも困るし」
「な、なんで碧音が困るのよ?」
「あのな~、ドラムとベースのリズムセクションってバンドの要だろ? だから俺のリズムに合わせるのはやっぱりみやびの音じゃなきゃダメなんだ。ブルカタのリズム隊は俺たち二人で魅せるって決めたんだ」
右手でドラムスティックを軽く回しながら続けた。
「頼むぜ? 相棒!」
その言葉には確固たる信頼が込められており、みやびのベースを握る手に思わず力が入った。
「そ、そんな…… 急にお前じゃなきゃダメだ、とか…… 告られてるみたいで恥ずかしいじゃん……」
「ば、バカッ! お前…… そんなんじゃねーし!」
二人で頬を赤らめながらひとしきり笑い合う。
「相棒、か……」小さな呟きが漏れ、胸の中で熱いものが膨らんだ。
認められたような嬉しさの裏側に、違う目線での特別を欲してしまうほんの少しの切なさが交錯する。
みやびは気持ちを切り替えるように両手で自分の頬をパンッと叩き、碧音の期待に応えようと決意した。
「うん、頑張るよ、私。ちゃんと私の音、碧音にもみんなにも届けられるように!」
午後の西日が窓から射し込み、黄金色のシンバルとポニーテールをキラキラと輝かせる。




