表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/7

細かいこと。

病室では二人ののんびりした時間が流れている。

10時を過ぎると面会と言われ、部屋に通される人がいた。


「西村さん。原田さん。面会の方がこられていますが。」

「どうぞ、いいですよ。」


そういうと、ひかりの父が入口に現われた。


「弓弦、元気そうだなぁ。顔色もいいし。」

「伯父ぃ。ごめんね、心配かけて。でも大丈夫になりそうだ。」

「すみません、守ってあげれなくって。」

「いやいや、西村さんのせいじゃない。おっと、私は弓弦の伯父で山本と申します。

 ひかりと弓弦といつもお世話になっています。」

「いえ、きちんと挨拶しなければいけないのは俺の方で。西村と言います。」

「弓弦から聞いています。ありがとう、心配かけて申し訳ないのに。

 そしてこんな弓弦を・・・・・よろしくお願いします。」

「伯父ぃ。ちゃんときちんと言うから決まるまで待っててよ。」

「決まったことじゃん。おいおい、まだ弓弦はぁ。」

「退院してきちんと挨拶するまではということ。それでいいんでしょう?西村さん。」

「それでいいんでしょうではなくって。弓弦は本当に・・・・あぁ、もう(笑)」

「伯父ぃ。ちゃんと紹介する前にこんなことになってごめんね。

 でもこのさいだもん。この間言った通り、この西村さんとあたし結婚するから。

  結婚しないと伯父ぃにも伯母ぁにも心配ばかり掛けちゃうし。」

「ベッドの上なのに、すみません。でも、弓弦が退院したらきちんとお伺いします。

 一緒に。一緒にお伺いしますから。ただ、来週事件に関連しての

 記者会見があるので俺・・・・退院の報告と弓弦の紹介と結婚を発表します。

 ご迷惑かかるとは思いますが、よろしくお願いします。」

「こちらこそです。こんな悪がきで言うこと聞かない頑固者で

 誰に似たのか、女らしくなくってそういう風に育ててしまって

 申し訳ないのに、この子ででも嫁にもらってくれるのは

 喜ばしい事です。こちらこそこれからもよろしくお願いします。」

「伯父ぃ。そんなに言わないでよ。」

「弓弦がそういう風だから周りが謝ってばかりだろ?」

「西村さんまで・・・・もぉ。」

「ふくれっつらしてもだめだぞ、弓弦。お前に、話があってきた。」

「なに?伯父ぃ。」

「爺さんだ。爺さんがえらく心配している。うちに電話してきたよ。」

「あちゃ。だから騒がれると嫌なんだよなぁ。」

「騒がれるとって弓弦・・・・。これは不可抗力だ。仕方ないじゃないか。」

「西村さんの言うとおりだ。こんな大きな事件、報道がさわがしくなくってどうするんだ。

 しかも、強盗に誘拐だぞ?」

「伯父ぃ。お爺ちゃんは?」

「あぁ。お見舞いというか、ここに来たいと言ってたぞ。」

「嫌だなぁ・・・・。まだ西村さんのことも話してないのに。」

「この部屋に二人いるということも知らないだろうしな。」

「伯父ぃ。何か話した?」

「まだ何にも話はしていないが、でも、西村さんとの結婚なら別に反対せんだろう。」

「お爺ちゃんは、かなりやきもち焼きだからなぁ・・・・・。」

「伯父さん。」

「なんだい?西村さん。」

「いつみえられるのですか?」

「それがな・・・・・・。さっきの電話では今こっちに向かっているらしいんだが。」

「まじでか(汗)

「どうする?弓弦。」

「伯父ぃ。午後からにしてって言って!お願い!午後から西村さんリハビリに行くから。」

「おいおいそれはないだろ?

 俺はちゃんと面と向かって弓弦さんをくださいって言えるぞ?」

「あたしが・・・・・。」

「弓弦観念しなよ。西村さんがいるんだ。大丈夫だ。」

「あたし本当に・・・・・いいの?本当にあたしでいいの?」

「弓弦何度も言わせない。伯父さん、大丈夫です。」

「んじゃ、もうすぐだろうから入り口で待つよ。で、一緒に上がってくるから。」

「では、またあとで。」




弓弦は無言のまま横を向いている。顔を赤くして横を向いている。

部屋のドアが閉まると、西村は弓弦のそばによると手を握った。

握られた瞬間、西村の方に向いた。大きな目にあふれんばかりの涙をためて。

今にも落ちてきそうな涙。



「弓弦?」

「・・・・・・・・・・・。」

「どうしたんだ?」



西村の方へ振り向いた涙目の弓弦にびっくりした西村。

黙って涙目の弓弦は西村を見つめる。



「弓弦?」

「こんなあたしでもいいの?」

「だから何度も言ってるじゃないか。そのままの弓弦がいいんだって。」

「ねぇ。」

「なんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「なんだ?弓弦。」

「泣いていい?」

「なんで泣くんだ、泣く必要があるのか?」

「悲しくて泣くんじゃないの。」

「弓弦?kissしていいか?」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「こっち向いて。弓弦、俺さ、本当に。」

「・・・・・・・・・・・西村さん。」

「弓弦。結婚しよう。弓弦としか結婚は考えれない。」

「ありがとう。本当にあたしで?」

「当たり前じゃないか。」

 



弓弦は涙を流しながらも、西村の方を向いている。

怪我をして力もなく上がらない両腕を西村に差し出している。

西村はそんな弓弦が愛しくて黙って抱きしめる。

西村を見上げる弓弦に優しく触れた。



「弓弦、愛している。」

「あたしは……あたし・・・・・・。」

「弓弦?」

「あたし・・・・・も・・・・・。」

「泣くなよ、弓弦。わかっているから、俺はわかっているから。」

「爺さんが来ても、もう動じない。記者会見で何があっても

 西村さんが恥ずかしいと思わないようにしゃんとする。

 大丈夫、愛されているんだもの。大丈夫。」

「弓弦。」


西村は泣いている顔のままの弓弦を抱きしめた。

俺が弓弦を守っていくと約束すると耳元でささやいた。

初めて会った時の弓弦の笑顔がよみがえる。

弓弦が久しぶりに笑顔を見せてくれている。

あの、出会った時の弓弦の眩しい笑顔がそこにあった。


「もう大丈夫だよな。弓弦のおじいさんが来ても

 記者会見で俺が喋っても。堂々と隣に座ってくれるよな?」

「えぇ。大丈夫。きっと大丈夫。」


少し経つと落ち着きを見せる弓弦。まだ、爺さんとは会えていないのか

伯父さんが上がってこないねと話をしながら弓弦はbedの上で、

その横に寄り添うように西村がいた。


「西村さん、原田さん。面会の方がお見えになられましたよ。」

「どうぞ。」


そういうと西村は椅子から立ち上がりドアを開け出迎えた。

ドアの外には弓弦の伯父と背が高く弓弦の面立ちによく似ていて

寡黙な誠のような雰囲気を持つ白髪の人が立っていた。


「あの。」

「弓弦、来られたよ。」

「お爺ちゃん。お久しぶり、このままでごめんね。」

「いや、弓弦。大丈夫か?ニュースで見てから生きた心地がしなかったよ。」

「お爺ちゃん、心配かけてごめんね。でも大丈夫。大丈夫だよ。」

「お前のその姿を見て、わしはわしは・・・・・」

「そんな泣かないでお爺ちゃん。」

「あの。」

「えっと、君は確か。」

「西村と申します、初めまして。」

「いつか見かけたような・・・・・弓弦と同じ高校の吹奏楽部の。」

「西村正弘と申します。同じ長崎出身で。」

「1986年のコンクールで個人賞をとられた人じゃな。

 そういうのは覚えとる。その時佐世保の女の子も一緒に賞をとったからな。

 なかなか同じ地区内で個人賞をとるのは珍しいからのぉ。」

「今は、歌い手として活動しております。

 そして弓弦さんにもそれを手伝ってもらっています。」

「そうじゃそうじゃ。弓弦いつか話してくれたなぁ。」

「えぇお爺ちゃん。彼がその西村さんです。」

「西村君、このたびは弓弦のことで大変ご迷惑をかけた。

 怪我までおわせてすまなかった。」

「いえ、俺よりも弓弦さんの方が怪我がひどいんです。

 守れなかった俺の責任もあります。」

「なぁ、おい。」

「なんですか叔父貴。」

「とりあえず聞くが、なぜ一緒の病室なんだ?」

「西村さん、伝えたいことはきちんとな。叔父貴は何も反対はしない。」

「あの。原田さん、お願いがあります。俺の一生のお願いです。」

「なんだね?西村君。」

「きちんとご挨拶に行って言わなきゃいけないこと。

 こんな病院の一室で話すことじゃないんですが。」

「そんなにかしこまったことかね?」

「そうです。だけど俺的には今すぐにでも・・・・。」

「まぁ、そうあわてなさんな。緊張しているのかね?

 落ち着いて私に伝えたいことを順序良く話してみなさい。」

「あの。弓弦を、弓弦さんを俺にください。

 弓弦には何度も何度もプロポーズしてきました。

 今回のことで弓弦を離したくないと弓弦にも言いました。

 お願いです。俺に俺に弓弦さんを。」

「西村君、落ち着かんかね。」

「お爺ちゃん・・・・・・。ねぇ、お爺ちゃん。話を・・・・。」

「弓弦。少し黙っておかないかね。私は、西村君と話がしたい。」

「弓弦、叔父貴は怒っているのではない、ましてや機嫌を損ねたんでもない。」

「西村君。君が何度も何度も弓弦にプロポーズしているのは

 弓弦から聞いて知っておる。

 そして弓弦が君のことを心底好いとることも知っている。」

「お爺ちゃん。」

「弓弦。お前が初めてこの人と出会い、お店に来た時のことを

 びっくりしたと言って話をしてくれたなぁ。」

「あたしこんなに有名な人とは知らずに同窓会で話してた。

 いろんな話をする中で、ちょっとだけある共通点になんだかうれしくなって

 その時の同窓会、最後までいるつもりはなかったんだけど

 話をしていたらつい最後まで話し込んじゃって。

 お互いにお互いの話をして、楽しかった。共通の話題ってこんなに楽しって

 そう思わなかったんだ。別れ際にさ、西村さんあたしのいるbarを教えてって言われてさ

 話した感じが悪いひととは思えなくって素直に話したんだっけ。

 で、お店にいるときに来店してくださって。

 その時一緒に来られた人がみんな有名人で。」

「わしはな、弓弦にちょっかいを出す輩は気に入らんでのぉ。

 西村君は聞いたのかね、弓弦の高校の時のことを。」

「聞きました。それが自分なんだと言って。」

「そっか。話せるまでに信用はしておるのじゃの。

 じゃぁ、話は早いんじゃないか?もう気持ちはお互い決めておるのじゃろ?

 不安なことは何もないんじゃないか。わしも心配の種が減る。

 それに弓弦は男ばかりのバーで働いておったじゃろ?

 あのことがあってかなり神経質になってしまってたんじゃが

 やっぱりのぉ、一度深く深く傷ついた弓弦が不憫でな

 また誰かに傷つけられたらと思うとどうにもこうにも気になって仕方がなかったんじゃ。

 だから弓弦にまとわりつく男はすべて敵だと弓弦に言って聞かせていた。」

「・・・・・・お爺ちゃん。」

「それがどうだ。弓弦は西村君が同じく音楽人だと知って

 それを生業にしていると聞き、そして弓弦の腕を貸してほしいと言われ

 私でいいのかと迷っていた。それをわしに相談してたんじゃ。

 始めのうちはそんな有名な人の手伝いなんてできないと言ってたが

 面白いと、作り上げていくのにあんなに真剣に音というものを理解しようと

 何度も何度も繰り返し、息が合うまで繰り返す。

 音が耳に心に入り込んで心地よくなるまでに何度も何度も繰り返し

 納得するまで響かせる。それが自分の中でも面白くて面白くてたまらないと

 そういう風に楽しそうに話すようになった。

 わしの家はこう柔らかく心にしみる音などないところでな

 今まで弓弦に教えてきた音楽とは、古の心を守り続け

 伝えることを押し付けてきた。弓弦の音はそこでとまってたんだがな

 君と出会えて、音に触れあうようになって弓弦はかなり変わった。

 わしと一緒に居て話をしながら笑うときも

 優しい女らしい顔をのぞかせるようになった。

 それから何度も、お前は女なのだからもっと女らしくしなければいけないと

 怒ったが言うこと聞かないんだよ、この弓弦は。

 でも、わしは弓弦が不憫で仕方がなかった。」

「えぇ。高校の多感な時期に大変な目にあって。心に傷までおって

 その心の傷が弓弦をかたくなに心を閉ざさせていたことも。」

「弓弦の母から、数年ぶりに電話をもらい弓弦がひどい目にあったことを聞いた時は

 すぐに長崎に飛んでいきたかった。その時ちょうどわしも入院しててな。」

「お爺ちゃんそんなこと。体の具合悪い事ちっとも言わなかったくせに。

 ちゃんと言わないと、弓弦とお爺ちゃんしかいないんだから。」

「お前に心配されたらわしもおしまいじゃ。

 西村君とやら。この5,6年弓弦を大切にしてくれてありがとうなぁ。」

「これからも、ずっとずっと弓弦と。」

「弓弦はわしのたった一人の孫じゃ。そりゃ弓弦には弓弦の母の妹がおる。

 その家族がおる。この山本もそうじゃが弓弦の家族じゃ。

 しかしわしの家族は弟の一郎と弓弦とだけじゃ。弓弦が嫁に行くとわしは・・・・・。」

「お爺ちゃん。お爺ちゃんを一人にはしない。

 まだまだ退院は先だけど、また一緒に出掛けることもできる。

 お爺ちゃんがここに来たいだけ来たらいいじゃないか。」

「弓弦。お前はもう25にもなるのだぞ?

 それにもうすぐ誕生日が来る。26だ。嫁に行かないと行き遅れてしまうぞ。」

「お爺ちゃん・・・・・・。」

「のぉ、西村君。君は粘り強かったなぁ。」

「俺には弓弦しかはじめからそして今もこれからも見えていません。

 弓弦しか俺と歩んでいく人はいないとそう信じています。」

「そんにまで弓弦の事を思ってくれているとわしも安心していいなぁ。」

「俺はこれからもずっと弓弦と弓弦の家族とみんなと一緒に歩みたい。

 もちろん原田さん、あなたもです。俺の家族になるかただし

 あなたの家族の一員となれる俺です。共に歩むことを考えてほしい。」

「西村君。」

「はい。」

「君はこんなわしに似た弓弦を口説き落としたのか? 」

「頑張ったつもりです、そしてやっと返事をもらったつもりです。

 弓弦は俺の言葉に誠実に答えてくれたと信じていますし。」

「弓弦。お前はこの西村君のプロポーズ、返事はしたのか?」

「お爺ちゃん。あたしは西村さんについていきたい。

 あたしは西村さんしかいないとそう思う。

 こんなあたしに西村さんはずっとプロポーズしてくれていた。

 あきらめもせず、あきれもせず。他に口説く人がいても

 あたしを信じて黙ってみててくれた。

 そしてこの事件でかなり心配をかけてしまったけど

 助けを求める電話は誰でもない西村さんにかけた自分がいるんだ。」

「そうだな。お前は携帯でかけるのであればわしの所でもひかりの所でも

 誰にでも電話はできた。しかし弓弦お前は西村君にかけた。

 起きているかもどうしているかも、もしかしたら出てくれないかもしれない電話を

 弓弦、お前は西村君にかけた。それが弓弦の答えだったんだろう。」

「えぇ。誰かにも話したけど地球が終わる瞬間共に一緒に居たいとしたら

 西村さんしかあたしの中にはいないと言ったわ。

 本当に、あたしの中では西村さんが大切な存在になってた。」

「それが弓弦の答えなんだろう。弓弦、父や母の分まで

 幸せになることがお前のこれからなのだよ。

 西村君。弓弦を弓弦をよろしく頼む。」

「・・・・・。本当に、弓弦を。」

「君しかいなんだよ?弓弦を守ってもらうには君しかいないんだ。

 しっかりとしてくれよ、西村君。」

「お爺ちゃん・・・・・・ありがとう、お爺ちゃん。」

「弓弦、ちゃんと幸せをつかむんだ。生きているうちに幸せはつかむ物じゃて。」

「きっと、退院したら改めてお伺いします。

 きちんと挨拶をしに伺います。それが礼儀だと思いますし

 弓弦を大切に思う俺の気持ちです。」

「あぁ。待っとるよ。必ず、待っておる。」

「二人ともこれで一つ落ち着いたかね?」

「伯父ぃ。」

「弓弦。伯父ぃじゃなくて伯父さんだろっ(笑)」

「だって、ずっとそう言ってきたし急には(笑)」

「こんな子じゃ。西村君、手綱を緩めないようにな。」

「お爺ちゃんのお見舞いはお小言もついてくるんだよなぁ。」

「それは弓弦のことを心底心配しているからだろう?」

「西村さんったら。これじゃお爺ちゃんが二人になっただけじゃん。」

「そんなこと言うもんじゃぁない。弓弦。お前の生涯の伴侶だ。

 しっかりと共に歩まないとな。」

「お爺ちゃん・・・・・・。」

「弓弦さんを、俺の嫁に頂く挨拶をしに必ず行きます。

 これからもよろしくお願いします。」

「あぁ、弓弦を。このかわいい孫をよろしく頼む。

 弓弦、幸せをつかむんだぞ。今日はなそれを言いにな。」

「お爺ちゃん、ありがとう。」

「それでなんですが、今週に入って事務所の方と打ち合わせ後に

 病院内で記者会見があるんです。」

「ほぉ。それは無事に帰ってきたという報告か?」

「えぇ、強盗が発生し弓弦がさらわれ俺ともう一人の怪我人が出たが

 命に別状はなく無事に退院となったと。

 そして弓弦も帰ってきた。その報告と、警察からわかった範囲での

 発表があると思います。」

「きちんと解決するといいんだがなぁ。」

「そして一応俺と弓弦の婚約発表を一緒にします。

 しておかないと、弓弦がまたさらわれそうで俺が心配でならないんです。

 だから、婚約としての発表をさせていただきたいんです。」

「なんだか弓弦が遠くなっていってしまうなぁ。(笑)」

「お爺ちゃん。発表しても弓弦は弓弦だから。」

「婚約かぁ。結婚の準備をしなくちゃいけないな。弓弦、うちから嫁に出るか。」

「お爺ちゃんの家から?」

「これだけは譲れないしきたりというかお前の父と母の家のはずだった我が家。

 その家から白無垢で嫁に出てほしい。私の願いだ。」

「そうしなきゃダメ?西村さんはバージンロードをと言っていたから

 教会でかとあたしも思ってた。」

「白無垢ですか・・・・・いいですね。それいいかも。一度見たことあるんです。

 長崎でも、旧家ではそうやって娘を送り出すと。

 長与の旧家では、家であいさつをした後、白無垢のまま

 車に乗り込み嫁に出す風習があって、お見送りに出たことあります。

 これぞ日本のという感じで。白無垢のお嫁さん綺麗だったなぁ。」

「じゃろう。そう思うじゃろ。」

「婚約発表だからそういうことはおいおい詰めていけばいいじゃないか。」

「そうだなぁ叔父貴、これから詰めていけばいい。

 これから決めていけばいいさ、西村さん。」

「そうだ、これからのことを一緒に考えようじゃないか。

 わしの孫・弓弦の旦那になるんじゃからのぉ。」

「ところで、弓弦退院したらどうするんだ?どうせしばらくは動けんのだろう?」

「俺が先に退院するのですが、当分はここに泊まり込んで弓弦の看病をと考えています。」

「そうか。いやな、西村君と弓弦が嫌でなければこの爺さんの家に

 来てはくれぬかと・・・・。」

「お爺ちゃんの家はここから一番遠い。多分通院とか自宅療養とかを考えると

 狛江の伯父ぃの家が一番なんだ。」

「そうかぁ、んじゃ仕方がないのぉ。おい、頼むぞ?」

「叔父貴わかってますって(笑)」

「ところで、西村君には誠のことは話したのか?」

「誠さんから聞きましたけど・・・・・弓弦の血のつながった兄だと。」

「そうかぁ・・・・。」

「お爺ちゃん、誠さんとも話をしてくれるのでしょう?」

「遅かれ早かれそうしないといけんじゃろうなぁ、うらんどるじゃろうなぁ。」

「俺には恨む恨まないんじゃなくて、身内がいたということがすごくうれしい事だと

 そう誠さんから聞きましたが。」

「チャリコンの前々の夜に話をしたよ。お爺ちゃんが話をしてくれた通りに

 誠さんに話をしたよ?驚いていたけれど、恨んだりはしてないと思う。

 そうでないと、西村さんやお店の仲間たちと共にあたしを探したりはしないもの。」

「でもなぁ・・・・・。」

「弓弦が話しをし、私ら夫婦もその時にいたよ叔父貴。

 彼は静かに聞いていた。弓弦の高校の時のことを聞き、自分のことを聞き

 西村君のプロポーズを受けたことをはなし

 その話す弓弦の顔を、ほほえましい兄の顔をして聞いてたよ。

 大丈夫さ、きちんと誠に話さなければいけないことを話せばいいんじゃないか?」

「そうじゃな。孝太郎と恵美子さんの子じゃ、きっと思いやりのある人間に育ったのじゃろう。

 弓弦との話を聞けばそう思う。」

「んじゃ、お爺ちゃん。誠さんい会ってくれるのね?

 誠さんと話をしてくれるのよね?」

「もちろん。誠がわしに会ってくれたら、わしは何でも話そう。」

「良かったぁ、誠さんがお休みの日、朝からここに来るだろうから

 それがわかったらお爺ちゃんに電話する。

 誠さんにもきちんと話をするから。それでいい?」

「あぁ、弓弦も一緒に居るつもりか?」

「もちろん、家族でしょ。ここに来ればいいじゃない。

 西村さんもいるしあたしもいるし。伯父ぃ、誠さんと一緒に来ればいいじゃん。」

「それは仕事抜けれたらの話じゃろ(笑)」

「誠さん伯父ぃと仲がいいもんなぁ。

 だってね、お爺ちゃん。よくあたしと誠さん釣りに行くんだけど

 伯父ぃも良く一緒に行くよね。お爺ちゃん、3人で釣り三昧するぐらい

 仲がいいから伯父ぃが一緒だと一番いいかも。」

「そうなのか?」

「よく釣りには行きますねぇ、一緒に。うちにはひかりしかいないでしょう?

 男の子が欲しかった私ら夫婦は別に誠君が弓弦の兄じゃなかったとしても

 きっと今と変わらない接し方だとそう思う。

 ひかりと結婚してくれても良かったのだがなぁ。」

「誠さんなら一発OKなんだ伯父ぃ。」

「ひかりにはもういるぞ?お前何にも知らないのか?」

「ほんと?本当に?」

「まだひかりが話してないということは話せないか。あとで聞け。」

「そっかぁ・・・・・・。でもこれで一安心じゃん。伯父ぃ。」

「あの、おじさん。」

「なんだ?」

「弓弦のいる離れなんですが・・・・・。」

「弓弦お前そういえばあの離れから引っ越すと言ってたが?」

「伯父ぃ。あのね、もうちょっと待って。もうちょっとだけ。」

「いや、おじさん。弓弦の自宅療養とか通院とかリハビリを考えると

 あの離れが一番都合がいいんですよ。

 もし誠さんが使わなければ、そのままって思ってて・・・・。」

「まぁ、その時はその時じゃないか。あそこはまだそのままにしておくよ。」

「ありがとうございます。」

「ありがとう、伯父ぃ。」

「弓弦。疲れてないか?」

「いや大丈夫、結構このベッド楽に座れてるから。」

「そうそう、うっすらと思いだしたことがあるんじゃ。」

「なに?お爺ちゃん。」

「そのお前の名前。」

「名前?」

「弓弦。孝太郎と由起子さんがつけたお前の名前。」

「あたし何にも知らない。お母さんも何にも言わなかったもの。」

「弓弦・・・・素直に漢字だけ読むと弦楽器の弓と弦の事じゃ。」

「そりゃそうだけど・・・・・・。」

「弓のようにしなやかな人生と弦のように人生を奏でてほしいと

 そういってつけられた名前じゃ。特に孝太郎がこだわってな。」

「そうなんだ。」

「弓弦のお父さんはバイオリニストだろ?」

「そうじゃ、小さいころからバイオリンが好きでの。いつの間にか

 その道に入っていった。」

「恵美子さんと知り合った時の孝太郎のバイオリンの音はすごかったのいぉ。」

「へぇ。すごく幸せだったってことだね。」

「うちにあるぞ。孝太郎のその頃の演奏した曲の音源が。」

「伯父ぃ、ほんと?それ知らなかったけど?」

「わしの部屋に有る。レコードだから聞けるのがないと聞けないしな。」

「退院したら聞かせて。お父さんのバイオリン。」

「その後由起子さんと知り合い弓弦が生まれた時は本当に孝太郎のバイオリンの音は

 誰の耳にもとまり、幸せになれるような気持にさせる演奏じゃった。

 今度うちに来た時にでも、CDに入れておかせるから持っていくがいい。

 お前のすべての始まりは孝太郎のバイオリンの音色じゃからの。」

「お爺ちゃん、それ一番うれしいかも。」

「お前に残しておるバイオリンもある。孝太郎のバイオリン。

 弓弦はバイオリンは弾けるじゃろ?」

「引けるよ、大丈夫。」

「弓弦、バイオリン弾けたっけ?」

「れ?引いて見せたことなかったっけ?」

「俺のアルバムにはバイオリンのメロディはないもんなぁ(笑)」

「そうだっけ?ギターとかベースとかばっかりだもんなぁ。」

「そうそう、由起子さんが使っておった8弦のロマニリョスがうちにあるぞ。」

「お爺ちゃんそんなこと一度も話したことないのにどうしたの?」

「由起子さんが亡くなる前に弓弦にと送ってきたんじゃよ。

 なかなか弓弦に話す機会がなくて今まで黙っててすまんの。」

「お母さんのギターかぁ。退院したらもらいに行くよ。」

「それまでにはきれいに手入れさせとくよ。あれは弓弦の物だからな。」

「ありがとうお爺ちゃん。」

「あの・・・・。弓弦は・・・・・。」

「小さい時から弓弦にはいろんなものを与えた。楽器なら何でも。

 だから一通りはできる筈じゃて。」

「お爺ちゃん・・・・・そういうこと言うと仕事変な風に増えるでしょ。」

「言っちゃいかんかったか?」

「それにコンクールの審査員。降りるって言ったでしょ?去年も外れてなかったけど?」

「そうだったかのぉ?(笑)」

「もうだめよ?次のは本当にできないし、次の次もずっと。」

「さみしいのぉ・・・・・・お前の耳はいいもの捉えるから安心して任せられたのに。」

「弓弦、審査員はすごくやりがいのある仕事じゃないのか?」

「あたしの仕事はバーテンダー。あたしを指名してこられるお客様に

 心を込めて作り幸せを感じていただくのが仕事。」

「そこまで言うとなぁ(笑)」

「まぁ、弓弦の人生でたくさんの人が幸せになるのであればそれでいいじゃないか。

 なぁ、西村君。」

話をしている間は、弓弦のそばの椅子に掛けて話をしていた原田。

少し疲れたのか、話すはやさもかなりゆっくりとなってきた。

それでも弓弦と西村と伯父と原田で笑いながらも、これまでの話をしていた。

懐かしい話や、弓弦の小さいときの話。弓弦の父と母の話や原田の話を。

そうしているうちに弓弦の担当医が部屋に来た。


「回診です。西村さん、原田さん看護師から体温計をもらって計ってください。」

「はぁい。」

「おぉ、君か。君が弓弦の担当なのか?大久保先生。」

「お久しぶりです、原田さん。やっぱりお孫さんでしたか。

 そうじゃないかと思ってたんですよ。」

「お爺ちゃん知り合いなの?」

「わしが前にかかった時の担当の先生じゃよ。」

「そうだったんだぁ。」

「先生。弓弦を頼みますよ。」

「えぇ、わかっています。彼女は強い、大丈夫ですよ。」

「西村さんのは36.7です。原田さんは?」

「えっと35.1ですねぇ。」

「低いなぁ・・・・・もう少し平均までぐらいにはならないと。」

「弓弦もともとは?」

「もともとは・・・・・忘れちゃった。」

「弓弦、自分の体を過信してないか?ちゃんと気を使わないと。」

「そうじゃ。弓弦、お前は本当に他人ばかり気にして

 自分はほぉっておいて、感心せんぞ?」

「お爺ちゃん。だって風邪も引いたことないし、

 貧血だってただの貧血だし。それぐらいじゃ病院にはかからないって。

 それに伯父ぃと伯母ぁが作る料理はおいしいしバランスいいし。」

「まぁ弓弦は吞まないからその分だけか。」

「弓弦、お前たばこは?やめたのか?」

「伯父ぃ。ここでは吸えないだろ?吸わせてもらえないし。ちょっと手が震える(笑)」

「いい機会だ、煙草やめよう。お爺ちゃんもそう思われるでしょう?」

「あぁ、お前まだたばこすっとったんかぁ?西村さんも吸うのかね?」

「いえ、仕事に影響しますからやめました。」

「弓弦も辞め時だな。煙草も卒業しなきゃな。」



 `tururururururururu tururururururur'



「はい、山本です。あぁ、誠か。どうしたんだ?あ。ちょっと外にでますね。」


誠が出勤前にそっちに行くと電話をかけてきたのだ。山本が

弓弦の所へ行くとは聞いてたのでと。伯父がいる間にそっちに行けたらと

電話をして来たのだ。もし何か持っていくものでもあればと。


「誠君?」

「お爺ちゃん、誠さん。誠さんです。」

「今は?」

「今は伯父ぃの所にいるはず。あたしがこんなことになって

 伯父ぃも伯母ぁもひかりもすごく不安な状態で家にいたから。

 あの強盗があってあたしが誘拐される前の日に、

 実はねってお爺ちゃんから聞いたって、誠さんがあたしの腹違いの

 兄だってことを話したの。その前の日にプロポーズされて

 あたし、結婚すること決めたから。だからあたしのお兄さんとして

 家族としてこれからもと話をしたんだ。

 だから、お爺ちゃんもここにいたら?ここにいてきちんと話をしてほしい。

 誠さんへ話せること全部。」

「わしはあの子の母親と弓弦の父の結婚を認めずに別れさせた人間だぞ?

 やっぱりちょっとなぁ。快く話を聞いてくれるか?

 まだ早いのではないのか?」

「大丈夫。お爺ちゃん、ちゃんと大丈夫だよ。

 誠さんはただ真実が知りたいと、それだけだと言っていた。

 自分がこの世に生まれてきて本当に良かったのか存在の意義を知りたいと。

 お爺ちゃんを恨んでいるとかそういうことはないと思う。」

「そういう大事な話をするところに俺がいてもいいんですか?」

「あぁ、構わない。弓弦と誠と家族なのだからもちろん西村君も一緒じゃ。

 家族なのだからきちんと知っておくべきだろう。」

「伯父ぃ!伯父ぃってば!」

「ちょっと待て、誠。なんだ?弓弦どうかしたか?」

「誠さんでしょ?電話。来るんならお爺ちゃん待ってるから早くって。そう伝えて。」

「誠、聞こえたか?原田が一緒に来ている。弓弦がいるうちに来いってさ。」

「原田・・・・・話ができるんですか?弓弦と西村さんの病室で?」

「いつかは面と向かって話さなければならないぞ。

 今、それができるのであれば気持ちがあるのであればすぐに来い。

 誠、爺さんが待っている。早く来るといい。」

「わかりました。すぐに行きます。」

「叔父貴。誠が来ます。会ってくれるのでしょう?

 誠にきちんと話をお願いします。でないと誠も不憫で。」

「わかっておる。わかっておるが、誠はわしを恨んでいるんだろうなぁ。」

「お爺ちゃん。誠さんはそんな人じゃない。あたしも知らないことがあるでしょう?

 全部話して。お願いだから全部話をして。

 そうでないと中途半端に家族には・・・・。西村さんもいるしこのさい全部教えて。」

「誠さんがお兄さんかぁ。俺よりいい男だから気が引けるな。」

「これからまとまっていく家族じゃ、しこりのないようにしないとな、弓弦。」


そうしているとお昼だと看護師がつたえてきた。


「お昼ですけどどうしますか?」

「ちょっとこれから家族会議なので、お昼はあとで。」

「後にするの?誠さん来るまでまだ時間あるんでしょう?」

「どうだろう。伯父ぃ、30分ぐらい?」

「それぐらいか?もうちょっとかもな。」

「んじゃ、2階にあるレストランから持ってきてもらおうよ。

 看護師さんいいよね?」

「えぇ、大丈夫でしょう。病院食であまりおいしくはないかもしれませんが

 健康を良く考えたものですからおすすめですよ。」

「んじゃ、お爺ちゃんと伯父ぃの分。頼んでもらっていいですか?」

「では西村さんと原田さんの分もこちらにいいですね。」

「お願いします。」

「弓弦、弓弦は大丈夫なのか?腕が上がらんのだろう?」

「大丈夫。自分で食べれるようにしないといけないし。」

「俺が早く食べ終わるんで、食べ終わった後は手伝っていますが

 なかなか言うこと聞かなくて(笑)」

「そういう風に言わない。頑張ってリハビリって思ってるんだし。」

「弓弦は本当に気が強いな。西村さんにはこれからも迷惑をかけていきそうだ。」

「迷惑とは、何とも。でも、今の段階ではまだそんなにうまく動けてないから

 汚れると取り替えるのが大変で。もう少し、動けるようになってから

 考えないかなぁって思うんですが。」

「弓弦の好きなようにさせとくといいさ。弓弦は自分の体だから

 きちんとリハビリしたいんだろ?」

「伯父ぃ。いいこと言うなぁ。」

「ったく。とりあえず、まだ一人じゃ無理だから急がないでいいから。」

「弓弦形無しじゃな。」


そう話をして笑い声が響く病室に配膳の人が4人分のお昼を持ってきた。

弓弦はまだおかゆだが、朝よりも多い量が来た。

西村と原田と山本にはレストランの食事が。

話しながら食べていると西村が先に終わり、弓弦の横に行く。

弓弦の右手に持たされているスプーンを取り上げると、

ふくれっつらの弓弦の口元に運ぶ。原田も山本もその弓弦の表情に

笑いが止まらなくなってしまった。

そうこうしているうちに、食事も済み配膳の係りの人が

食器の回収に来る時間だということで西村が一人片づけをして表に出した。

その時誠が病室の前についた。


「やぁ、誠さん。」

「今つきました。伯父さんと原田さんは?」

「今食事が終わりゆっくりとしていますよ。さぁ。」

「誠さんこられました。」


そう言って部屋のドアを開け、西村が誠を招き入れる。

弓弦のベッドのそばに、伯父さんと・・・・・。


「初めまして、相原誠と言います。」

「初めまして。わしが・・・・。」

「お爺ちゃん、硬い言葉は使わない。誠さんはきちんと話を聞きたくて

 お爺ちゃんがいる今日ここに来たんだから。」

「弓弦、ありがとう。大丈夫だ。」

「西村さん、こうやって叔父貴と弓弦と誠と並ぶと

 私は弓弦の父を思い出すよ。どこかしら似てる気がする。」

「お爺ちゃん。お爺ちゃんが気づいたのもお父さんと誠さんが似てたからでしょ?」

「あぁ、似ている。似ているが君は母に似たのだな。面影は美恵子さんそっくりだ。」

「そうなんですか?物心ついた時には産みの母の存在すら知らない場所で育ち

 親戚の間をうろうろとまわされてましたし。」

「悲しい人生を歩ませてしまったな。すまなかった。

 わしの両親が結婚に反対してしまったためにお前をてて無し児にしてしもうた。」

「いえ、悲しまないでください。そしてもう終わったことです。

 俺はこの数年弓弦という存在で生きるという一生懸命な心を

 教えてもらいました。人としての優しさや、信じる意味を。

 弓弦は純真無垢で、周りの人を成長させてきた。

 俺も弓弦に人間としての成長を教えられましたし。

 ただ、母違いの兄弟とはびっくりしましたけどね。」

「誠さん言いすぎだって、そんな人として上等なあたしじゃないよ」

「いや、弓弦はそのまま弓弦だから周りはびっくりするんだろうな。

 弓弦の母は真っ直ぐで何も疑うことを知らない素晴らしい人だった。」

「西村君だって、そんな弓弦だから頑張ったんだもんな。」

「そうですね。でも、頑固なのはもうちょっと(笑)」

「誠君。いや、誠。お前の父と母は学生の時に知り合い

 結婚を考えておったのじゃが、うちのような旧家では夢のような話でな。

 わしの両親らのかたくなな反対で別れさせられてしまったのじゃ。

 わしの両親、つまりお前と弓弦の父の祖父たちは戦後の厳しい時代を

 音楽を守り続けてきた厳しい厳格な一族だったゆえ、

 大学に行き、そこで知り合った美恵子さんがすごく新鮮で

 自分にはない世界を持っててそれに触れた息子は

 離れられなくなってしまったんじゃろう。

 美恵子さんは体が弱くての、美恵子さんのご両親からも

 うちの家には無理だと、言われてな。可哀想じゃが

 美恵子さん家族は、大学卒業で遠くに引っ越してしまわれた。

 卒業して体があまり丈夫でなかった美恵子さんに妊娠がわかり

 親御さんも美恵子さんを守るために堕胎することを進めたのじゃが

 家出をするまで意志は固く、家を出て一人誠を生んだんじゃそうだ。

 産んだ後、誠を守るために一生懸命働いていたそうじゃが

 無理がたたったのじゃろう。ご両親にも会えず孝太郎にも連絡はせず

 一人で頑張ったがゆえに、自分の命を削らせてしまった。

 孝太郎は美恵子さんが消えた後、音楽にのめり込むしかなかった。

 のめり込んで忘れようとしていた。それがかわいそうに思えて

 一度美恵子さんの居場所を調べ教えたことがある。

 孝太郎は会いにはいかなかったらしい。行けなかったんだろうな。

 音楽仲間と吞みに出歩くようになって、銀座のバーで知り合った

 由起子さんと気が合ったんだろう、よく通いいろんなことを話すうちに

 由起子さんとの間に弓弦ができた。由起子さんは美恵子さんのことも聞いていた。

 確か孝太郎も由起子さんも誠の存在は知っていたはずだぞ?

 弓弦は何も聞いていなかったのか?わしが話するまで。」

「あぁ、何も、お爺ちゃんがあたしを`mask´まで送ってくれた時に

 誠さんを見かけたでしょ?そのあとお爺ちゃんとの夕飯の時に

 誠さんのことを聞かれ始めてお爺ちゃんが話をするまで何にも知らなかった。」

「そうですか。俺の母は弓弦のお父さんから姿を消したんですね。

 自分から。でも俺が母と思っていた人はその産みの母の遠い親戚の人でした。

 だから母親はいないとそう思い生きてきました。

 でも、産みの母は愛する人のことを思い選んだ道を進んだんですね。

 選んだ道を進み、自らの運命をきちんとまっとうしたんですね。」

「自分の命の期限がわかると、お前を孤児院に預け遺書を書いた。

 自分の両親と、わしら夫婦と孝太郎に。その手紙でわしと孝太郎は

 誠の存在を知った。でもその時には遅かったんじゃよ。

 美恵子さんのご両親とも連絡は取れないしどこにいるかもわからなかった。

 孝太郎は由起子さんに話をし引き取ると決め探したが行方知れずとなってしまったのじゃ。

 孝太郎は気にしておった。自分の子を我が子を産んでくれた美恵子さんに申し訳ないと

 そういつも悔やんでおった。弓弦の写真に一緒に写る孝太郎は

 いつもさみしそうに笑っててな。

 本当なら自分と由起子さんと引き取った誠と生まれた弓弦と   

 一緒に写りたかったんだろうにと。」

「決して原田さんが悪いわけじゃない。そこまで悔やまなくとも

 母は愛した人の子を産んで幸せだったんだろうし

 遺書にもいろいろと書いてあったんだろうがそれは自分が選んだ運命だ。

 俺が生まれたことを後悔したり

 父をその家族をなじる母であればそこまでの人間だったんです。

 だけど、弓弦を見たらわかるじゃないですか。

 生まれたことは幸せなことだったって。」

「お爺ちゃん。お爺ちゃんはあたしの父と母の結婚には反対はしなかったの?

 だってお爺ちゃんやお爺ちゃんの両親だっけ?反対したでしょ?

 お母さんはbarに勤める水商売の人間だったのに。」

「そりゃ、すごく反対された。特に祖父たちには孝太郎はかわいい孫じゃからな。

 しかしな、わしは美恵子さんのような純粋な人であれば

 孝太郎の選んだ人ならもう反対はしないと決めておったから

 孝太郎のすきにしたらいいと言って反対はしなかった。

 孝太郎は美恵子さんのような不幸には由起子さんを合わせたくなかったんじゃろう。

 初めて由起子さんに会ったときはびっくりした。

 美恵子さんによく似た美人でな、物腰のたおやかな女性でな

 水商売の人とは思えなかった。

 そして由起子さんは美恵子さんの話を知っておった。孝太郎が話したんじゃろうて。

 それを承知の上孝太郎と一緒になりたいと、どこにいるかわかれば

 引き取って自分の子供として育てたいとそう願い出た。

 孝太郎も美恵子さんもわしらも誠を探したがなかなか見つからなくての。

 こんなにそばにいるとは思いもしなかった。

 そして美恵子さんと孝太郎の忘れ形見に生きている間に会えるとは思わなかった。

 弓弦がバイトしてた先にいたとは運命だと思ったよ。

 ただ、男と女に関係になっては困ると思い弓弦には先に話をしたんじゃ。

 いくら仲が良くても遺伝子上兄弟ではまずいだろう。

 バイトの話になると誠の話が出ておったからな。」

「西村さんがいる手前、話すのは恥ずかしいんですが

 今までの環境では人を愛するということを知らないまま育ちました。

 中学高校と荒れてあれまくってて揉め事をよく起こし、問題児扱いされていました。

 友人を大切にするとか女を大切に扱うとか

 何も知らずに生きてきて問題はかなり起こしていました。

 高校一年の時に俺のことを理解しようとしてくれた先生がいたんですが

 俺はその先生を刺しました。その先生を確かに殺そうとして刺したんです。

 愛情も知らないまま育つって怖い事ですよね。

 俺は負の世界の事しか知らないで育った。

 だから眉ひとつ動かさずに先生を殺そうと刺せたんだと思います。

 精神鑑定にも掛けられましたが、その殺傷事件から4年、少年院に入り19の時に出所。

 保護司の小林の所にお世話になることとなりその時から`mask´にいました。

 あのバーはもともとそういう人間を立ち直らせる環境として場所として、

 提供された仕事をする場所だったんです。

 その筋の人との関係がある人もいましたが、小林さんには本当に

 人間とは何かからしっかりと育ち直させられて。

 俺もその中でいろんなことを知り育て直されて今の俺がいます。

 そんなところに弓弦は面接を受け、入ってきたんですよ。」

「お爺ちゃん。ほら大学に入学してお爺ちゃんが学費を出してくれるって言ったのに

 あたし断ったでしょ?あの時よ。あのときに今の店でのバイトが決まったのは。」

「そうだったなぁ。学費を出すというのに、お爺ちゃんに甘えたら

 お父さんとお母さんに申し訳ないと言ってこっぴどく断られた。」

「そうだったっけ?」

「その時はさぁ、お母さんの元彼がさ

 あたしをバーテンダーのコンクールに引き出して、出させられたんだっけな。

 大学入学したての頃で、たまたま遊びに行ったらおじさんの所から出るはずだった人が

 事故で出れなくなって、その人の代わりにあたしが出たら

 オリジナルフレッシュっていう部門で優勝しちゃって。

 でも、ポッと出た人間が優勝できるってどんな大会だって

 人を馬鹿にしてるんじゃないかってなんだかむしゃくしゃして

 銀座をぶらぶらしてたら`mask´の看板見つけてみてたんだ。

 飲み屋のねーちゃんしか出入りはしてないはずなのに

 まぁ、出入りが閉店までひっきりなしに続くんだ。

 どうしてなのかがいまいち理解できず、次の日も行ったんだ。

 そしたら、店の看板の横に従業員募集の紙が貼られてて

 それに飛びついた。入口で誰かの指名をと言われたが初めてで

 誰を指名していいかわからないと言ったら

 背の高い人の所に連れて行かれ、そこに座らされた。

 こんばんわで話しはじめ、いろいろと話をしていたら

 あたしのイメージで作りましたって出されて。感動したなぁ。

 その一つで気持ちは決まってその人に相談したんだ。

 

 《ここの入り口に従業員募集が貼られていたけど誰でもいいの?》

 

 って聞くと、その人がオーナーを連れてきてさ。」

「お爺ちゃん。その入ったばかりのあたしの面倒を見てくれたのが誠さんだった。

 それは言ったよね。」

「あぁ、お前は難しい顔をして話をしたなぁ。

 女のくせにって周りはなかなか認めてくれないのに

 誠さんって人だけは自分に優しいんだって。」

「弓弦はそのころから気性が激しかったよな。

 あれいつだったっけ?先輩になじられたのが気に食わなくって

 俺が止めるのを振り切って、殴りかかって行って

 お互いに血だらけになってみんなで止めたが止めたやつらもけがをして。

 あれ結局お前が、やつをアッパーくらわせて気絶させたんだよな。」

「あはは。そんなことまではっきり覚えてるんだ。

 あれは無我夢中で。両親や今までのことを言われて頭に来て

 その上に誠さんに甘やかされてって言われて切れちゃったんだ。

 でもさ、オーナーから怒られた。お前は女なんだから

 あんなことをしてはいけない。あれが店の外ならお前は豚箱行きだぞって。」

「無茶ばかりしてきてたんだなぁ。弓弦。」

「でも、そんなことがあって弓弦は一目置かれるようになったある日

 弓弦がコンクールで優勝した時にスタンダードの部で優勝した

 貴志が入ってきたんだよな。で、弓弦は覚えてなかったんだろうが

 貴志はすぐ気が付いたんだと。で、弓弦が先輩なわけだろ?

 で、あのけんかの後だから弓弦信仰が始まったころでさ

 弓弦の下につきたいとオーナーに直談判して弓弦の下についたんだ。」

「そうだったんだ、しらなかった。」

「そういう環境にいてさ、俺つらかったなぁ。

 弓弦が兄弟とも何とも知らない時期だろ?

 貴志が聞くんだ《原田さんと相原さんとはどんな関係?》って

 それ答えるのが苦痛でさ。一度《男と女だ》ってつい言っちゃったんだ。

 するとさ、殴られた。ライバルだって、殴られた。」

「あははははは。誠さんも兄弟って知るまではその争奪戦の中の一人に紛れてたんだ。」 

「そうともいうな。でもさ、弓弦を女として見てても

 愛しているとかの感情が全然わかなくてさ、俺は欠陥人間かって

 思ったさ。でもさ、兄弟なんだって話されたときは

 自分のどこかでそう感じてたのかもしれないって。

 かわいくて離したくないと思っても愛しい感情がおこらないのはなぜだって

 それからしばらくしても一度殴られたんだぜ?

 いつだったか、弓弦と俺と出入りの業者と話をしているときか。

 冗談交じりでいろんなことを笑いながら話してて

 業者が弓弦とkissしたんだ。軽くな。

 その時に俺もふざけて弓弦の頬にkissしたんだ。

「あぁ、覚えてる。女同士でkissしてそれに俺も俺もって冗談ではしゃぎながら

 誠さんふざけたんだよね。」

「そのときさ、弓弦と離れて自分のブースで準備していたら貴志が来てさ

 《真面目に聞いていいですか?

  弓弦さんと誠さん、本当に男と女の関係じゃないんですか?

  そうでないと弓弦さんあんな眼差しであんなに近くで

  あんなに微笑みませんよね?》

 って、聞くんだ。俺さ、ふざけれなくってさ貴志に言ったんだ。

 そうだったらどうするんだって。

 したら、こうするんだって3発食らっちまったさ(笑)」

「貴志も男には手を出すんだなぁ。あたしには何にも言わないくせに。」

「俺も怖くなってきた。貴志君に会いたくないなぁ・・・・。」

「でも、決まったことだもん貴志だって決まったことには

 何も言わないさ。お見舞いに一発はくらわされるだろうが(笑)」

「でもさ、貴志からライバル視されても俺と弓弦の間は変わらなかった。

 俺は弓弦と居ると安らげたし安心できた。

 弓弦も俺の前では自然な態度で過ごせてたよな。」

「あぁ、誠さんと居ると自分が自分で居られる気がして

 仕事でも仕事でなくてもなんとなく一緒に居たなぁ。」

「あははははは。そういう自然な関係だったんだって。

 またしばらくしてさ貴志が恨めしそうに言うんだ。


 《なんで誠さんと一緒に居るとき弓弦さんはあんな顔をして笑ってるんですか》


 って。貴志にうらやましいだろう?そういう関係さって

 そう言ったらまたまた殴られた(笑)

 あいつ弓弦を挟んでライバル視してその上3回も殴った。」

「でも、その頃にはあたし誠さんと兄弟だってそうお爺ちゃんから聞いてから

 誠さんの隣にいることがすごく安心できてたんだよ。

 この人が兄さんなんだって思ったら、本当にすごく居心地がよかった。」

「誠とと弓弦は本当に仲がいいな。わしは弓弦に話をしてよかったとそう思った。

 誠、弓弦とこれからも仲のいい兄弟でいてくれな。」

「大手を振ってお兄ちゃんって言える。それが一番うれしい。」

「きっと貴志はびっくりするんだろうなぁ。俺と弓弦が兄弟だって知ったら。」

「貴志だけじゃないさ、俊哉だって健だってみんなみんな

 びっくりするどころじゃないさ。」

「お前たちはきっと兄弟とわからないでも、男と女の関係とは別に

 他のものがうらやむぐらいに仲が良かったんだろうなぁ。

 孝太郎も恵美子さんも由起子さんもみんなそう導いてきたんじゃろうなぁ。」

「そうだね、お爺ちゃん。誠さんがさみしくかなしまないように

 美恵子さんがお父さんと一緒にあたしの所に導いてくれたんだろうし

 あたしがさみしく悲しい思いで過ごさないようにお父さんとお母さんが

 誠さんの所にまであたしを導いた。そうなんだよね。」

「俺は誠さんと弓弦の間に割り込んだわけか。」

「兄弟だもの、割り込んでも無理よ?」

「俺は一緒になっても放置されそうだな(笑)」

「誠。これからもずっと弓弦を頼むぞ。兄として。」

「お爺ちゃん。誠さんが事実上お爺ちゃんの孫なんだし

 あたしと同じお爺ちゃんの孫としてきちんとしようよ。」

「誠、お前の戸籍は今どうなっておるんじゃ?」

「産みの母との戸籍は切られていますが

 一度目の養子縁組で両親となった相原家の子供となっています。

 相原家の両親はもうすでに亡くなって、戸籍だけ自分だけが残っている状態で。」

「籍を抜くとかの問題もないのじゃな。うちの弁護士に聞いてみよう。

 弓弦が嫁に出る前に、きちんと原田孝太郎の長男として

 弓弦の兄となってほしいんでな。

 お前の父孝太郎の意志でもある。誠、いいかの?」

「現実どんなことがあっても弓弦の兄には変わりないし、

 原田さんの孫だということは変わらないのに。」

「いや、弓弦と同じわしの孫だからこそわしが生きているうちに

 孝太郎と美恵子さん、由起子さんの意志を守ってあげたいのじゃよ。」

「誠さん。お爺ちゃんの言う通りさ。誠さんが言いたいことはわかる。

 わかるけど、やっぱりお父さんたちの意思は尊重してあげたいよ。

 あたしときちんと兄弟の手続きをとろうよ。

 お爺ちゃんの所の顧問弁護士さんが全部やってくれる。」

「弓弦。お前は本当にそれでいいのか?いきなりお兄ちゃんができるんだぞ?」


「そのお兄ちゃんが誠さんだ。何を嫌がる嫌悪する理由があるものか。

 血のつながりがなくとも、もし兄弟になれるのなら喜んでだよ。」

「俺は・・・・。いいのか?いろいろと面倒を起こしたり

 豚箱にはいったり。前科者だぞ。家に傷がつくんじゃないのか?」

「そんなことは過去じゃ、わしはお前が帰ってきてくれることを

 心底願うばかりじゃ。お前もこのままでは一人もんじゃ。

 弓弦もわしが死ねば山本の家族しか家族はいなくなる。

 血のつながった兄弟が何も知らないまま離れておるのは不自然じゃろう。

 きちんと、家族に戻ろうじゃないか。のぉそう思わんかね西村君。」

「私もそう思いますよ。家族は家族でいないとおかしい。」

「まだ俺の中で整理が付きません。だから少し待ってください。

 すごくうれしい話なんですが、うれしいんですが。」

「誠さん、迷うことないさ。ただあたしのお兄ちゃんになるだけの話。

 お願いだ、誠さん。あたしを一人にしないでほしい。

 亡くなったお父さんたちができない事を、誠さんの手でやってほしい。

 西村さんの所に嫁に行くときお爺ちゃんと誠さんの手から嫁ぎたい。」

「弓弦。別に拒否するわけじゃない。自分を整理してくるだけだ。」

「わしはすぐにでもうごける。誠、いつでもうちに来るがいい。

 いつでもわしは待っておる、お前に形見もわけねばいけない。

 弓弦と同じくわしの孫じゃ。なんなりと言いたいことは言わないとな。」

「ありがとうございます。」

「叔父貴。恨まれてなくてよかったな(笑)

 でも私が話した通りの好青年だったろ?孝太郎さんそっくりだ。」

「あぁ、孝太郎に似ている。」

「お爺ちゃん。待ってて良かったね、話せてよかったね。」

「あぁ、弓弦。お前はわしの天使じゃな。

 それが嫁に行くのはさみしいが家族が増えることはうれしい事じゃ。」

「お爺ちゃん。嫁に行っても離れないから大丈夫さ。」

「俺は仕事、店の開店準備があるのでそろそろ。」

「誠さん、あたし早く治るように努力する。早く店に戻れるように

 頑張るからってみんなによろしく伝えて。」

「あぁ、わかっているさ。弓弦はお見舞いで泣きべそしてたっ(笑)」

「駄目じゃん!そんなこと言ってると何も知らない貴志から殴られるって。」

「あはははははは。お前たちの店は、みんなが家族なんだな。」

「伯父ぃ。みんな仲良しさ。誠さんが一番上で長男。

 あたしが次で長女。で、弟たちがたくさん。それがあの店さ。」

「誠さん。まだ弓弦との婚約は言わないでくださいね。

 今度の記者会見での発表なんですから。」

「わかってるって。んじゃ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」


何事か揉め事でも起きてしまうような感触があった対面も、物腰の柔らかな誠の前では

単純に仲直りのような雰囲気だけしかなかったが山本はどこかでもめるのではないかと

誠がふつふつと心の奥底に持つ何かをぶつけるのではないかと

そう心配していたのだが、この場では何事もなかったこと少し不安に思ってしまった。

こんなに早くに話をさせてよかったものか、弓弦が間にいたからこそ

話ができたんではないかとも思った。

誠が仕事のために病室を後にしたあと、弓弦と原田と山本と西村で

また他愛もない話で盛り上がっている。

また15時の回診が始まると、原田は弓弦に誠のことは任せておきなさいと言い、

また、記者会見は恥ずかしいことにならないように西村君も頑張るのだから

弓弦も一緒に頑張らないとなと声をかけ、記者会見での西村と弓弦の婚約発表も

認めて話をしていた。


「弓弦。また来る、また遊びに来るよ。

 西村君、頑張ってな。緊張するだろうが私も同席する。

 私と君の所の社長と、誰だっけな。怪我をした彼は。」

「あぁ、翔太ですか。M’company社さんの所のアイドルグループで

 union martinという5人組がいるのですがその中の一人です。

 だから、彼も一緒だし多分社長も。弓弦の担当医と俺と。

 で、警察の方々と結構大人数ですが。」

「わしがいなくとも大人数だな。」

「でも弓弦は原田さんの孫です。連盟の会長の孫なんですから

 原田さんがいないと、弓弦が困る(笑)」

「そうじゃな。日時が決まったら連絡をお願いする。」

「えぇ、また電話します。」

「じゃぁな、弓弦。また来るよ。」

「お爺ちゃん。今日はありがとうね。」

「あぁ、たまにはうちにも来ればいい。ばぁさんが待ってるぞ。」

「次は二人で行きます。絶対に、退院したら二人で。

 お爺ちゃん、おばあちゃんと待っててよ。」

「あぁ、わかっておる。行くか、山本君。」

「また、来てください。その前に記者会見がんばります。

 横で見ててください、恥ずかしくないように頑張りますから。」

「あぁ、期待しておるよ、西村君。」


そういうと病室を出て行った。どれぐらいの時間ここにいたのだろうか。

かなり長い時間、いろんな話をしていたのだけれど、そんなことも忘れて

西村と弓弦は仲良く喧嘩しながら話をしていた。

夕飯の時になると、弓弦の食事内容が変更されている。


「ねぇ、おばさん。あたしの夕飯って・・・・・。」

「夕飯からはおかゆではなくって普通に戻してくれって

 隣の人が(笑)隣の人が言われてましたので。」

「まじで?西村さん、さっき外に出たのはそれ?」

「大丈夫って。お前のその元気なら大丈夫って。

 大丈夫ならきっと点滴が外れるぞ?」

「頑張るかなぁ・・・・。」

「食べれないときはご飯はお茶づけしたらいいさ。

 鮭もあるし、みそ汁も薄めにしてもらっている。

 いわゆる猫まんまだな。」

「あたし猫じゃないんだけどぉ?」

「気まぐれなところは猫じゃん。大丈夫、箸はもてるだろ?」

「どうかなぁ。」

「箸を使えるようになることもリハビリなんだから、頑張ってみなよ。」

「まぁ、おなかはすごくすいている。かなりおなかが騒いでいる。」

「弓弦の大食いは誠さんからも聞いているし、

 それだけじゃ足りないはずなんだけどさ、とりあえず食べること。」

「いただきます。」

「さぁ俺も、弓弦よりも早く食べ終わらないとな。いただきます。」


その夜はまた二人だけの夜となった。

でも、二人だけの夜を迎えたがこれまででも幸せな夜が訪れた。

誠の事、記者会見の事、そして婚約発表の事、結婚の事。

弓弦のおじいさんに会えきちんと挨拶に行くことを拒否されなかったこと。

不安な夜が一転して幸せな夜になったのだ。





誠は病院を後にした。

気持ちよく歩いていく姿はなんとなく嬉しそうでで機嫌が良さげで。

山本に電話をしたタイミングに弓弦と弓弦の爺さんと西村とがたまたま一緒に病室にいて、

弓弦がそのタイミングを逃すなと言わんばかりに自分を呼びつけ対面する事となったのだが

誠にとっても弓弦にとってもその人物はそれが待ち遠しくかつ何をなじられるのかが怖いが

誠に本心から会いたがっていたのは血のつながった原田自身だったのだ。

誠の複雑な気持ちには、弓弦が口に出してからは心になかにふつふつと

沸き立ついろんな感情があって顔を合わせるまでは整理しなければと

自分でも考えて眠れなかった。

それなのに弓弦は単純なタイミングで自分を呼びつける。

それも整理する時間もないまま原田に会えというのだ。

誠としたら無茶な話だっただろう。でもそんなチャンスを逃すようなことになれば

せっかく声をかけた弓弦に申し訳ないかと思い言っただけなのだけれどと。

初めて顔を合わせる爺さんは複雑だろう。

でも、自分の知らない部分を聞けるのだからと行っただけなのに

まさか自分を家族として受け入れたいと願われるとは思いもしなかった。

開店前の店に着くまでの間、

誠はこの数時間の出来事を夢だったのだろうかと考えていたのだ。

優しく迎えてくれようとしている原田に

自分は本当に孫となることがいい事なのだろうかと

出会えた弓弦と堂々と兄弟と言えるようにしてもらうということは

自分にとっては人への甘えになるのではないかと少し悩んでいるところもあった。

しかし、弓弦のことを思えば。

弓弦の両親や自分の産みの母のことを思えば

やはりなるべくしてこうなったのかとも思っていた。


店につく。すると早々と店内を掃除している奴がいた。

貴志だ。弓弦のお見舞いにいちばん早くに行きたいだろうに、

店を開ける準備をしている。


「おはよう、貴志。」

「おはようございます、誠さん。」

「早いな。」

「機嫌よく早起きできたからですよ。」

「弓弦か。」

「あぁ。だって気が付いたんでしょう?調子よさげだし

 気が付けばあとは退院までまっしぐらだ。」

「そうだな、あの根性だ早いだろうなぁ。なぁ、貴志。」

「なんだ?誠さん。」

「最近俺に殴りかかろうとしないなぁ、お前。」

「そうだっけ?て言うか誠さんがライバルじゃねぇってわかったし。」

「そのことは?」

「だって弓弦さん西村さんと結婚するんだろ?

 西村さん、弓弦さんが出勤の時は用事がない限り店に来てたし

 ツーリングだって二人っきりで行くこと多くなってたろ?

 それに誠さんと居ないときの弓弦を対外一人占めしてたの

 西村さんだぜ?それに西村さん自身公言してたじゃん。

 弓弦は俺の物だって(笑)それ弓弦さん完全否定しなかったし。

 誠さんだって健だってみんな振られたんじゃん。」

「そっか、そうわかったんだ。でも本当だよなぁ。

 大川君とか槙村君とかが口説き始めても全然靡かなかったし完全に否定されてたしな。

 そう考えると西村さんは否定されてなかったなぁ。いつも笑ってごまかして。」

「他に理由があんのかよ。」

「今はお前一人か?」

「奥に一人二人いたけど。」

「一応、言っておく。貴志、近々記者会見がある。

 事件の事で弓弦が無事に見つかり怪我の具合も良好だということ。

 西村と翔太もけがは大丈夫で早々に復帰するということを

 それぞれの社長が付き添いのもと会見が行われる。

 それに弓弦の証言で分かった分の経過報告を警察が一緒にこたえる。

 それと、西村と弓弦の婚約発表が一緒に行われる。

 したがって、弓弦の爺さんが一緒に同席することとなる。

 つまり。大々的に弓弦は人の物になるということだ。

 復帰はいつになるかは不明だが人の物になっても

 ここに戻って来たいという意思は変わらないようだぞ。」

「誠さん。誠さんも負けちゃったくちか。俺と一緒で。」

「俺ははじめから弓弦争奪戦には入ってないぜ?」

「なんでさ。誠さんが一番近かったじゃないか。西村さんとかmartinの若造とかと一緒で。」

「貴志。弓弦と俺が男と女に見えてたの少しおかしいとは思わなかったのか?」

「なんでさ。普通に疑われるぐらいに怪しかったじゃないか。」

「貴志さ。少しよく考えてみないか?お前には先に言っておく。

 弓弦が復帰した時にきちんと言うと思うが俺と弓弦は母親違いの兄弟だ。」

「誠さんと弓弦さんが?兄弟?うそうそそんなこと信じない。」

「なら、明日にでもお見舞いに一緒に行くか?」

「あぁ。行こう、弓弦さんの口から聞かないと俺、誠さん何度も殴ってるからさ(笑)」

「さぁ。開店の時間だ。今日も弓弦のために頑張ろうな。」

「あぁ、もちろん。」


そうやって店を開店させる。誠の顔が何かしら機嫌よく見える他のやつらは

弓弦さんの意識が戻って、話ができたことで喜んでいるんだとしか

思ってはいなかったのだがそれにもまして自分が他の誰かたちと違い

なによりも一番近い存在だということがうれしいのだろう。

そのご機嫌な横顔を見ている貴志は、本当の事を話してくれたのかもしれないと

自分でも考え始めた。明日、誠さんと一緒に行けばわかることだろうけどなと

そう思いながら。


「開店しますっ!ようこそ我が城`mask´へ」


開店と同時に、いつもの時間の常連客が流れ込んでくる。

いつものように自分のお気に入りを指名し中に案内され席に着く前に

弓弦のでブースで一言二言書き記し、そして楽しい時間を過ごして帰る。

誠のブースには弓弦の客が座っている。

いつものように弓弦を指名しての来店だが、弓弦のブースに花を置き

一言メッセージを書き残し、誠の席に移動する。小説家の山村とも仲がいい久原護だ。

ここで待ち合わせをしているらしいのだが待ち合わせの相手である山村は

まだ来る様子もない。久原は誠と弓弦の話をしている。


「良かったなぁ。TVを見てて君らが事件に巻き込まれ西村君と

 あの若いアイドルが撃たれたときはびっくりしたが弓弦君が拉致されていった

 あの場面ではTVを壊しそうになったもんな。

 でもあれは使えると思う自分もいたのが一番おかしい(笑)」

「そうだったんですか?でも、久原さんの小説に使うとなると

 それは推理物になるんですかね?(笑)」

「そうだなぁ。そういえば、遅いなぁ山村氏は。」

「そうですねぇ。誰かにつかまっているのかもしれませんね。」

「そういえば誠君は弓弦君のお見舞いにはいったのかね?」

「えぇ。意識を取り戻した翌日の朝にオーナーと一緒に。そして今日のお昼と。」

「弓弦君に復帰が待ち遠しいがどうだったのかね?」

「あの根性の持ち主です。復帰は早いでしょう。」


そう話をしている久原と誠の所に黒服が来て山村氏が来たことを告げる。


「待たせたねぇ、久原君。」

「あぁ、待ってたよ。でも待ってるあいだ誠君が楽しい話をしてくれてたよ。」

「出版社のことでなちょっと話をしたくて呼んだんだが

 あっちのブースを使ってもいいか?誠君。」

「いいですよ。ちょっと待っててください準備させます。」

「あぁ、頼む」

「誠君、そういえば弓弦君はどうしているんだね?」

「ベッドの上で喧嘩ばっかりしていますよ。横で見ているだけで漫才みたいで(笑)」

「それは誰と?」

「あの時けがをした西村さんと一緒の病室にいますよ。」

「お見舞いにはもう行っても大丈夫なのかね?」

「えぇ。二人で漫才を見れますよ。午後からでも行かれるといいかもですね。」

「午後からかぁ。来週覗いてみるかなぁ。」

「行きますか?弓弦は面会可能な部屋にいますし行けば会えます。」

「んじゃ、時間を作ろう。久しぶりにあの笑顔が見たい。」

「でも来週までには記者会見があるらしいですよ?」

「記者会見???」

「西村正弘さんとUnion Martinの橋本翔太の怪我が治っての復帰。

 そのそれぞれの川上社長と山本社長が出席。

 強盗があって誘拐された本人の原田弓弦の出席。

 これはタレントとしての原田弓弦になるのかな。

 あとこの事件の担当の警察の人間二人が、事件でわかったことに関しての

 発表があるらしい。かなり弓弦が覚えていることを伝えたために

 逮捕者が出たらしい。

 で、原田弓弦としての保護者である原田一郎氏の出席。」

「なんか聞いことあるなぁ。その原田一郎。」

「山村君、ほら。指揮者の原田栄二の兄だよ。吹楽連盟の会長の。」

「は?もしかして誠君。弓弦君は????」

「孫だそうですよ。孫。原田弓弦は原田一郎の孫。」

「なんてこったい。誠君はそんな弓弦君を射止めなかったのかね?」

「射止めるも何も(笑)」

「なんだね?」

「あちらでお話ししましょうか。まだ弓弦の口からは発表されていないので

 おおっぴらには言えませんが、口にチャックですよ?口チャック。」

「なんだい?誠君、意味ありげな。」

「誠さん、あちらの準備が済みました。」

「あぁありがとう。ではあちらで。」


そうして、山村と久原と誠は個室のブースへ移動していった。


「誠君のことを聞いてから、俺たちは俺たちの話をしよう。」

「なんだか、先に聞いてもいいんだろうかねぇ。」

「弓弦が信頼している山村さんですから、

 俺はしゃべっても弓弦はいいと言うと思ってお話しします。

 記者会見が終わらないと、口外はできませんよ?」

「で、なんだね。誠君」

「まだ社長と貴志しか言っていません。弓弦は吹楽連盟の会長の孫。

 まだだれも知りません。 それが一つ。

 そして弓弦と俺は腹違いの兄弟だということ。それが二つ目。」

「おい。お前たち兄弟なのか?誠君それはいつ知ったんだ?」

「俺もついこの間。弓弦は早くから知ってたらしいですけど。」

「で、日本吹奏楽連盟だよな。原田会長。その原田会長の孫だったのか?お前たちは。」

「えぇ、それも弓弦は誰にも話してはいなかったらしいですね。

 中学校とか高校・大学の吹奏楽コンクールの審査員をやってるらしいですよ。

 本人はやめたがってたみたいですが。」

「弓弦君はそんな人物だったのか?でも、それだけいろんなしがらみがあったら

 本人は口にしたくはなかったのだろうな。

 でも、それは別にこうだったんだって漏れても構わないことではないのか?

 それだけの地位を公言してしまうが。」

「で、もう一つがそういうことまではっきりしないといけない理由。」

「なんだね。」

「弓弦は人の物になるということです(笑)」

「それは?もしかして?」

「記者会見で最後に発表されますが、弓弦は婚約します。

 で、来年の誕生日ぐらいかな。結婚の運びとなります。」

「誠君。それを私たちに話してもいいのか?重要なことだぞ!」

「えぇ、山村様は弓弦もひかりもお世話になっているんです。

 俺は山村様や久原様なら弓弦は何も言わないだろうと思い

 お話ししました。」

「びっくりなおめでとうではないのか。誠君、明日にでも弓弦君に会いに行くよ。」

「おしゃべりめと俺が怒られると困るので

 きちんと、こと訳を並べてからにしてくださいね(笑)」

「誠君と兄弟ということはいつ知ったんだね?」

「俺は弓弦がプロポーズされ結婚を決めた日、

 中止になったチャリコンの前日、弓弦が話があると言って

 仕事帰りに家に呼ばれたんです。その時に弓弦の過去と

 ひかりのお父さんは知ってたんだと、弓弦に話をされました。

 そして、今日お爺さんにあたる原田一郎氏に会いました。

 弓弦が来るなら早く来てというのでどうしたんだと聞いたらお爺さんにあわせると

 で、弓弦の所へ行き会いました。」

「誠君は自分のおじいさんがこういう形で表れて気持ちは・・・。」

「複雑でした。俺は産みの母の顔も知りません。

 だが、俺を大切に育てようとして一生懸命だったのはわかりました。

 そして、そのことに対して原田一郎はかなりな後悔の念に押されて、気になっていたと。

 俺のことを弓弦の父と母はお爺さんと一緒に探されたそうです。

 俺的には誰も何も思ってませんでしたし、いまさら何を言われようと

 憎んだり恨み言など言うつもりはありませんでした。

 でも原田一郎は言われるのを覚悟していたみたいです。」

「そりゃそうだろう。普通はなぁ。」

「でも俺は天涯孤独だと思っていたのが弓弦が妹と知り、うれしいんです。

 弓弦が妹ってことだけがうれしくって。

 何より、弓弦と原田一郎というお爺さんと孫だけしかいなかった家族に

 俺は弓弦と血がつながった兄弟で、だけど二人っきりの兄弟ではなく

 原田という祖父がまだいてくれたということ。

 それがうれしくて幸せなんだってさっきまでそれを考えていました。」

「君は天涯孤独ではないと知って、それも弓弦君が妹か。

 幸せに第一歩を踏み出したって形だな。」

「それにしても誠君は人を恨むことをしないんだな。

 それが一番人間として素晴らしいことだよ。」

「昔のおれだったらわかりません。

 だけど、ここに勤めるようになって弓弦という人間に出会えて、

 人を信じることを知り仲間を大切にすることも知りました。

 全部弓弦と知り合えたからなんですよね。

 弓弦の過去を聞いた時には

 正直、俺の過去ともそんな不幸度は変わらないはずなのに

 こいつは人を恨むことや憎むことをしないやつと知った時

 不思議でたまらなかったんです。

 でも弓弦という人間を知ると、俺のちっぽけさが情けなくなりましたよ。

 いつの間にか弓弦に自分を立て直されたって感じですかね。

 弓弦と居ると、笑うことを覚えた。人となじむことを覚えたし

 周りを信用することを覚えましたもん。弓弦は大したやつですよ。」

「あの子は本当に気が強くて頑固で意地っ張りで負けん気が強い

 だけど、あの子と居ると不思議と安らぐんだよね。

 私がここに弓弦君指名で通うのはそれなんだよ。」

「で、誰と結婚するんだ?」

「同じ病室のやつですよ。(笑)」

「西村君か?西村君だったんだ。」

「彼は知り合ってからずっと弓弦にプロポーズしてましたよ?

 山村様もお聞きしたことあるでしょう?」

「あぁ、なかなか弓弦は靡かないんだって。」

「そういいながらも、何かあると西村さんを立ててた弓弦がいましたしね。」

「そうなると西村君は誠君に対して年上の弟になるってことか。」

「それ言わないでくださいよ、考えるとちょっと複雑な気分なんで。」

「だからお前が腹違いの兄さんだと、プロポーズを受けた時に

 話したんだな。」

「原田一郎と弓弦。爺さんと孫しかいない。だけど、孫が嫁に行く。

 孝太郎という父と美恵子という母の間に生まれた俺と

 孝太郎という父と由起子という母の間に生まれた弓弦と

 両親のために両親ができなかった弓弦の嫁入りを俺に託したいんだそうです。」

「じゃぁ、お前も記者会見の時は一緒に居なければならないじゃないか。」

「えぇたぶん、呼ばれますね。」

「でも、いいじゃないか。嫁に行っても弓弦はここに復帰するんだろう?」

「そのつもりみたいですね。」

「弓弦君はこの仕事を自慢に思っているからね。

 取り上げては可哀想だろう。西村君もそれはしないだろうしな。」

「もしここに弓弦君が帰ってこない場合は、西村君の家へ

 押しかけることになるぞとおどかしておかないとな(笑)」

「では、今俺が口にしたことは記者会見が済むまでご内密に。

 では、お二人でのお話を。用があるときはそちらのベルでお呼びください。」

「お心遣いありがとう。誠君。」


誠はその個室に二人の作家を残して自分のブースに戻る。

一方のひかり。弓弦が見つかって意識が戻って

そんな時間の流れの中で一人考え事をしていた。


チャリティーコンサートの前の日、誠を連れて家に帰ってきた弓弦に

なぜかひかりは不思議な顔をしてしまった。

母さんと父さんとあたしと誠さんを一緒に、何を話すのだろうと思ったら

西村さんとの結婚の事。そして誠さんと弓弦の関係の事。

ひかりは、びっくりして翔太の事や槙村のことを話し、本気で弓弦を気にしているのにと。

今更のごとく弓弦は言ってたが、でも決めたことは決めたこと。

西村のプロポーズに弓弦自身結婚することを決めたと

話をしていたあの夜のことが、ひかりはすごく気になっていた。

何かを感じて西村のプロポーズに返事をし結婚する約束をし

誠さんにも自分との兄弟というつながりを改めてあたしたちに紹介したのかもと。

まさか強盗のついでみたいに西村さんが撃たれ翔太君が怪我をし

自分が誘拐されるとも思ってみなかったのだろうが

事件に巻き込まれた弓弦が無事に戻ってこれると信じたい。

だけどその前の日にあらたまって伝えたいことを伝えたりしてたから

もしかしたら帰ってこない気がしてたのかと、

心に秘めているものをきちんと話しておかないとと。


もしかしたら何か起こって命を落とすこととなったりするとか

どこかで感じ取ってそう決めて話したのか、

でなければ、結婚を決めたり改めて紹介したりそんなことをと。


弓弦が誘拐された時は、会社の方にも翔太が撃たれけがをしたと一報が入り

社内の受付にいたひかりは何が起きたのかを理解できないでいた。

それも耳に入ったのは翔太君と西村が撃たれてけがをしたそれだけ。

しかし、事務室にいた人がTVを付けてみていると速報が流れ

怪我をした二人の事だけではなく、弓弦が血まみれのまま誘拐されたとながれ

それをひかりの目に耳に入り何がどうしたのか思わず泣き崩れてしまった。

時間にタイムラグがあるのだろうが、ゆかりがひかりの代わりに受付に立ち

社長が受付の事務室にいるひかりを別室に連れて行こうとしていた。

弓弦のことを知っている秘書らも社長の指示に従ってひかりを抱きかかえ

マスコミの目に触れないように、隠してた。

社内でひかりを移動させていると、そのチャリティーにいっていた秋山や

槙村たちが帰ってきて詳しい話を社長としていたのを

遠のく意識の中でひかりは見ていたのだった。


別室のソファで横になり、意識遠くなる中でひかりは、その様子を詳しく知ってしまう。

話をしていた秋山と槙村・martinの4人に、隠せはしないとことの顛末をひかりに話をし、

とにかく、家に帰り自宅待機し弓弦さんとの連絡をきちんと待ってほしいと言われ

社長の車の運転手をしている城田に社長は自宅へ送らせた。

家に着くと弓弦が誘拐されたことを伝えると、ひかりはショックのあまりに

倒れ込んでしまい、次の日の朝まで起きて出て来れなかった。

朝起きると、TVをつければその話題で持ちきりでM'scompany前からですと

中継で会社が映る。TV局に行っているmartinらにも取材の嵐に巻き込まれ

仕事をする状態ではなくなっていた。

martinの一人の翔太が怪我をしたそれだけで、マスコミの餌食になっていた。

その時に弓弦のことを根掘り葉掘り聞く人たち。

それでも余計なことは言わずに、4人で頑張るんだと怪我をした

橋本翔太や西村正弘さんのために自分たちは与えられた仕事をきちんとこなすのみと

そう話しながら気丈な態度をとっていた。

それが西村は怪我したが手術は成功だし次の日の午後には意識を取り戻した。

そしてそのあと一週間ほどで翔太が退院することとなり、

後は弓弦だけを待つのみの現実だけが残っていた。




その翔太の退院の朝のあの事故。

まさか犯人たちの車の炎上事故が起こるとは思ってもみなかった。

警察から電話が来て、犯人グループと思われる車の事故で

全員の死没が確認され6人の遺体がある。

遺体を確認してほしいのだけれどと連絡があった時には

弓弦はこの世にはいないと、そう肩を落としてしまったのに

いざ警察に行くと、その6遺体の中に弓弦らしきものがない。

ひかりもひかりの両親も遺体確認をしに来たのだが、

その悲惨な遺体は見られる状態の物ではなく、

ひかりの父が警察に人間と一緒に見るしかなかったのだが

ひかりの父は一つ一つ確認するが当てはまる体がどうしても見つからないと話していた。

父と警察が遺体安置室から出てくるとひかりは駆け寄りあたしにも確認をさせてと願い出る。

女性にとってその遺体確認はつらく悲しく具合が悪くなるものばかりなのに

ひかりは大丈夫と、弓弦でないことを確認したいと申し出て

女性警察官と担当の刑事と共に一人で入るのだが

やっぱり、弓弦に該当する体はないとはっきりと言えた。

その時点で、遺体を見て具合が悪くなるどころか弓弦はどこかで生きていると

無事にどこかに置き去りにされているか解放されているとそう言いきれた。


すぐに誠にメールを入れ、遺体がないことを伝え元原にもメールを入れる。

弓弦の遺体がないと。どこかに弓弦がいるはずと。

元原もすぐにみんなにメールで連絡、生存している可能性があるとまわした。

翔太もその昼には退院したのだが、元原のメールよりも先に退院手続きの時に流れた

TVのニュースで弓弦が生きている可能性があると知り

西村の所に駆け込んで弓弦さんを探しに行くと出て行った。

その病院を出たところで元原たちと合流、事故があったところから

少しづつ範囲を広げくまなく探し始めた5人だった。

そう、誠や貴志たちとは別に。

そのあとすぐには弓弦が見つかることはなかったが、きっかけはすぐに来た。

西村は寝ていた。寝ていたのだが、携帯は充電するために

自分の近くにはおいてはいなかったらしい。

ひかりはその前の日に元原たちと一緒に西村をお見舞いに来てたのだったが

あまりに遅く来たために、ほんの少しの面会で帰って行ってしまったのだけれど

帰るときに、誰からかメールが入ってたらしく返信をしないとなと笑ってた西村。

窓際に移動し、ひかりたちにまた明日というとメールを返信し始めた。

こまめな人だと思いつつも、あんなにメールしてたら電池無くなるのだけどなぁ

とみていたのだ。そんな西村、充電器の携帯を置き眠りにつく。

事故の後意識が戻り弓弦のことを気にかけていた西村は

夜、眠れないことが多くなり睡眠導入剤を処方され、それを飲んで眠っていたのだが

そのことだけはひかりたちも知らなかった。


弓弦が見つかるまでのその短くて長い時間の流れの中で

一人一人の時間が弓弦を中心に流れている。

見つかった弓弦とこれから先の関係がどこまでどういう風に広がるのかは誰もわからない。

ただ、たくさんの人の流れは弓弦を介して流れている時の流れなのだと。

弓弦が気が付き、ひかりの父や弓弦の祖父やいろんな人の出入りが

この数日であった。もちろん警察の人たちも。

弓弦が気が付いたすぐに話したことを警察も調べてその都度弓弦に連絡を取っていた。

こんなに面倒でしつこいことはなかったと思っていた。

その発表もあるので記者会見が少し遅れるとも連絡が弓弦に入っている。

誠とひかりの父と原田と来ていた日の次の日の午後、山村氏がお見舞いに来た。


「こんにちわ。弓弦君生きているかね?(笑)」

「男爵、お久しぶりです。こんな格好ですみません。」

「いやいや、楽にしてて。西村君ももうかなり元気そうじゃないか。」

「ありがとうございます。で、今日は?」

「誠君がな、面会できますよと教えてくれたんでな。

 週に一度は弓弦君の笑顔を見て元気をもらわないとね。」

「またまた男爵様は上手な褒め言葉で(笑)」

「でも、びっくりしたよ。西村君が血まみれでTVに映り

 若造は血まみれなのに泣いているし。」

「おまけに、弓弦が拉致られてでしょう?」

「そうなんだよそうなんだ。久原君も、それを見てて

 弓弦君が拉致られた場面でTVを壊しそうになったってさ。」

「久原様まで。(笑)」

「で、なんで西村君と同室なんだね?」

「同じ事件関係ということですよ。ね、西村さん。」

「お互い、怪我しているから動けないしな。」

「それだけか?」

「弓弦は動けないから、動ける俺が看病している部分もあるのですが

 俺は今度退院するので弓弦一人の部屋になりますよ?」

「ほほぉ。ならお見舞いに来るやつらが増えるな。

 西村君という邪魔者がいなくなるから。(笑)」

「男爵は今日はご機嫌におしゃべりだなぁ。」

「久しぶりに弓弦君の笑顔を見たからだな、きっと。

 でも弓弦君の怪我は?動けないということは????」

「右鎖骨の骨折と左肩甲骨の骨折。右足のなんだっけ?

 何か大きい筋肉の裂傷と右足首の骨折。」

「両腕にかかわるところをやられてるなぁ。シェイカーは振れるのか?」

「リハビリ次第でしょうが複雑骨折ではないので大丈夫かと。

 ただ問題は右足首。人工骨を入れる手術が待ってるんです。」

「歩けるようになるのか?また踊れるようになるのか?

 弓弦君はチャリティーでもがんばってただろう?」

「リハビリをうんと頑張れば問題ないということでしたけど。」

「どれぐらいかかるのかねぇ。それも弓弦君次第か?」

「男爵にはいつか話をしてたように西村さんの所の手伝いをしているから

 あまりひどいけがだと困るのですが西村さんの仕事は

 踊らなくていいのでいいかも。」

「でも弓弦君は山本社長が言ってたが、マネージメント契約をしたんだろ?

 ということはいっぱしのタレントだ。どんな仕事が入ったって

 動けないと活動はできないぞ?」

「男爵は何かしらどこかで情報を仕入れてきますね(笑)」

「昨日`mask´にも顔を出してきた。誠がな、誠や貴志君たちが

 いい顔をして仕事してたぞ。お前の意識が戻って仕事にも

 復帰をすると言い張ってたって。」

「もちろん、あたしの本業はバーテンダーです。

 リハビリのも目的は本業復帰が一番だから、頑張らないと。」

「でも、山村さんが`mask´に昨晩行った、山本社長ともお話をされていると

 何か確かめに来たのではないですか?」

「あはははは。何かわたしに隠していることでもあるのかね?」

「男爵。」

「男爵、あたし結婚するんです。」

「ほほぉ。」

「隠しててもしょうがないじゃないか、弓弦きちんと話さないとな。」

「男爵もきっと記者会見で驚かれると思うし、誠さんが何か話したんでしょう?」

「誠君が話したのは弓弦と誠が腹違いの兄弟だということ。」

「それだけ?」

「それだけではないでしょう?山村さん。」

「西村君が弓弦君を呼び捨てにしているということは

 やはり結婚するというのは本当みたいだな。」

「聞いたんですよね?誠さんから。」

「あぁ。でもやっぱり直接聞かないと私も疑い深い方でな。

 そうかぁ・・・・西村君の嫁になるのかぁ。」

「大丈夫ですよ、山村さん。俺の嫁になっても

 弓弦はバーテンダーをやめはしませんから。やめさせると怖いし(笑)」

「男爵。どうせ記者会見があることだし、

 男爵には記者会見まではだまってていただくというお約束を。」

「なんだね?それはもう決めていることかね?」

「えぇ。」

「山村さん、原田氏にはもう伝えました。

 そして、退院して二人揃ってあいさつに行きます。

 弓弦さんを嫁にくださいと、緊張しましたが自分ではきちんといえたつもりです。」

「そうかそうか、西村君よくやったな。弓弦君、おめでとう。」

「ありがとう男爵。」

「弓弦君へのプロポーズは?」

「事件の前に。誘拐される前にはプロポーズして返事をもらってて。

 でも誘拐事件でしょう? 不安で不安でたまりませんでしたよ。

 弓弦が誘拐されたあの時間、心臓がつぶされそうでした。

 だけど生きて無事に見つかったあの日の朝、自分で俺にかけてきたんです。」

「弓弦君はそっかぁ・・・・・。西村君に助けを求めたのか。

 君らのかかわったこの事件、私と久原君には元気になってから

 きちんと聞かせてほしいな。ネタに使えそうだし(笑)」

「小説のネタですか?」

「そうだろう、いいネタだ。あの銀座で強盗して、弓弦君を連れ去った。

 連れ去ったはいいが、この都内では逃げれないと思われたのが

 影も姿も見当たらなくなってしまい行方が見事にわからなくなった。

 こんな事件はめったにないぞ?」

「あたしが覚えていることは警察にも話はしましたが

 きっと真相がどこかにあるはずで、あたしの覚えていることと

 事件がつながったら、きっと山村さんは筆を走らせるのでしょうね。」

「その話を、もっともっとミステリアスにして小説にしたいものだ。」

「それ、面白くなりますか?」

「あぁ、絶対。弓弦君がトラウマのように思い出すのではなく

 あの事件がこんなに別物に変わり頭を使わないと読めないような

 推理の殿堂入りしたくなるぐらいの物を書いてやるさ。」

「確かに、あの事件であたし一つ失ったものがあります。」

「なんだね?」

「過去の恋愛を。」

「何かあったのかね?」

「まだあたしが落ち着いていないのであたしの口から話すことは難しいのですが

 でも警察には話をしましたから、落ち着けば山村様にも。

 あたしの覚えていることを山村様にもお話します。

 きっといいネタにしてください。

 過去にとらわれていると、せっかく誠さんがお兄さんだとわかり

 原田のお爺ちゃんと家族になるのに。そして、その手で西村さんの所に

 嫁に出される。そうやって西村さんの所へ幸せをつかみに

 嫁ぐのですから過去にはとらわれたくないんです。

 そうしないと過去に幸せになれと言っていった人に対して失礼になるしね。」

「弓弦君もそういう風に前向きな考えを話すことができるようになったか。」

「前を向かないと後ろ向きが嫌いな西村さんに嫌われますから(笑)」

「そうだな、愛している人に嫌われることが一番つらいことだ。」

「でも5年越しに手に入れた弓弦ですから、そうそう手放しませんし。」

「西村君はそんなに頑張ったのかね?」

「あたし頑固者だったらしいですから(笑)」

「なかなか落ちてくれなくて、仕事に誘い込み手放さないように

 頑張ったんですがなかなか。その上にひかりちゃんの会社の

 アイドルたちに目をつけられるし、ひやひやものでしたけど。」

「そうだろうなぁ。でも弓弦は誰の手にも落ちなかったんだろ」

「だってあまりねぇ、自分からこの人って気になる人はいなかったしさ。」

「その割には翔太君はまんざらでもなかったんじゃない?」

「西村さん焼きもち?翔太君はかわいいじゃないですか(笑)」

「でも弓弦君。あのmartinの子たちは弓弦君よりも年上じゃないのかね?」

「そうそう、弓弦は弟扱いしているけどあいつらはみんな弓弦よりも年上だぞ?」

「そうなの?悠太君もさ、かわいいし翔太君だって

 あたしの小さいころみたいなんだもん。」

「あははははは。弓弦君には形無しなやつらだな。」

「ところで、誠君はまだかね?」

「今日は忙しいんだと思うのですが来るのであれば

 いつもこの時間までには顔を出すんですけど。」

「ということは、忙しいのかもな。」

「お姫様はどうしているんだ?」

「ひかりですか?」

「そうそう。弓弦君の所のお姫様。」

「きちんと仕事に行っていますよ。受付をきちんと守っているらしいです。(笑)」

「いや、今度な。今度久原氏がシナリオいているらしいぞ。

 やっぱり弓弦君が主人公らしい(笑)」

「またですか?」

「あのTVに映るお前の誘拐されるときのあの表情。あれを見たら、みんな虜になるぞ。」

「弓弦は美人というだけでなく、人を引き込んでしまう何か力がありますものね。

 まぁ、それにまんまとはまった俺ですが(笑)」

「あはは。でもその推理物だが少し見せてみらったよ。

 すごく面白い、そしてストーリー的にも引き込まれるような感触がある。」

「でもそれはTVドラマになるにしろ映画になるにしろ演技の上でのシーンでしょう?

 俳優ならできて当然。ラブシーンでも完璧にするのがプロですから、きちんと。」

「西村君はそういうことにはやきもち焼かないのか?

 もし弓弦君に濃厚なラブシーンがあっても?」

「そういうのの練習は俺でやってもらいますし、

 同じ事務所のタレントとして失敗と思われるような

 そういう演技は見せてほしくないですから

 真面目に体当たりでやっていただきますよ(笑)

 て言うか弓弦?何黙ってるの?」

「ねぇ、あたしのさ。あたしスクリーンデビューするの?」

「そうかもしれないが・・・・・・。」

「本業は?そういうのに出てしまったら、バーテンダーやっていけるの?」

「やればいいじゃない。お前はバーテンダーが本業だ。

 事務所で担当マネージャーがそろそろ決まるし

 お前の売り出す方向性も何もかもがお前の退院とともに決まる。

 その時にきちんと自分の意見を言えばいい。」

「そうだな。無理してそのオファーを受けなくてもいい。

 受けるにしても、条件を出せばいい。

 きっとどんな条件でも久原氏はのむとおもうぞ。」

「でも、あまり気が進まない。あたしいくらマネージメント契約をしても

 西村さんのそばでの仕事以外はしたくない。」

「そこまで西村君のそばに居たいのか?暑いなぁ、ここでのろけられても。」

「やだ、そんな意味じゃないですって。」

「俺もあまり俺から離れての仕事はさせたくないですし

 まず、大体俺のチームメンバーなんだしな。」

「でも契約をしたら稼いでもらわないといけないだろう。

 もし、そういうオファーがあればどんどん出たほうがいいと思うが。」

「弓弦しだいですね。

 俺は俺のチームの仕事をバーテンダーという本業の次にメインで仕事してほしいし

 俺から離れての仕事はさせたくないし(笑)

 でも、今回martinの新しいアルバムに参加してしまったからなぁ。

 次もそれに関してオファーが来るぞ(笑)」

「あたし自身どんな仕上がりになっているか聞いていないけど

 きちんと、守ることを守ってあって西村さんやお爺ちゃんにも

 恥ずかしくないようなできばえだったら、次のオファーは

 前向きに考えてもいいと思うけど。」

「あぁ、元原君が言ってたらしいぞ。次お見舞いに来るときに

 そのアルバム発売前だけれど試作が出来上がったから

 持ってきますって。」

「ということはその試作で発売日が決まるんじゃないの?」

「試作というよりも、多分発売前のを持ってくるんじゃ?」

「そっか・・・・あたしが拉致されてこれまでの間に、

 どんどん話は進んでたんだもんね。」

「だなぁ。弓弦君が見つかるまでには、恥ずかしくないものにするために。

 そして、君が見つかってみせれる状態になった時に

 恥ずかしいものとはならないようにみんなで頑張ったんだろう。」

「そうですね。弓弦、見せられてもダメ出しはできないぞ?

 みんなで一生懸命お前に見せるために恥ずかしくないようにと

 頑張って作り上げたものなんだからな。」

「わかってるって、わかってるよ。

 かなり心配かけてしまったみんなにどうしたらダメ出しなんかできるのさ。」

「いやいや、お前だとなぁ(笑)」

「そう言えば、その久原君の小説が映画になるとしたら

 きっと弓弦君たちに話が行くと思うのだけれど、

 弓弦君は川上社長伝えで回せばいいのだろうが、ひかり君は?」

「ひかりはM'scompanyの社員ですし、その会社の受付嬢でしょう?

 となると、やっぱり山本社長伝えで回さないと会社内では

 どうしているのかがわかりません。

 というよりも、久原氏はなんであたしとひかりとをって?」

「それがな、久原氏がシナリオを作り上げている中で出てくる

 主役たちがなイメージ的にひかり君と弓弦君と橋本君と大川君らしいよ。」

「どんなストーリーなんだろうなぁ。少し話が進むと

 きっと仕事として話が聞けるんだろうけど、今の段階ではなぁ。」

「弓弦君。万が一だが、久原氏の依頼があった場合どうする?」 

「どうするって・・・・・どうしよう。」

「弓弦。俺はお前が思っている通りでいいと思うが。

 断れないだろうし、断る理由もないだろう。

 久原氏だし。断ると久原氏が悲しむからな。」

「まぁ、今の今っていう話ではないしゆっくりと考えたらいい。

 どっちにしても、結婚式が先だろう。」

「なんだがなやむこと多くて。」

「あはははは。弓弦君は誰もが話したくない存在になってしまうのだろうな。

 西村君。しっかりと弓弦君を捕まえておかないと。」

「もちろんです。絶対にもう手ははなしませんから大丈夫ですよ(笑)」

「弓弦君、君は幸せ者だ。こんなに思われて。この手を放すんじゃないぞ?」

「弓弦の手を放したらつかさずかっさらわれてしまいますから(笑)」

「そうだったなぁ。西村君にはたくさんのライバルがいたものなぁ。」

「男爵。大丈夫です、多分ですが(笑)」

「多分なのか?」

「だって。」

「まぁいいじゃないか、弓弦君の気持ちはきちんと西村君の方を向いている。

 心配しなくとも大丈夫だろう。」

「今日はいいことが聞けた。いい感じで今日の筆を進めようかの。」

「男爵、まっすぐ家に?」

「締切が近いからねぇ。西村君、きちんと日取りが決まったら

 私にも教えてくれよ。」

「もちろんです、山村さん。」

「弓弦君。」

「なんですか?男爵。」

「きちんと私にも招待状を忘れずにな(笑)」

「結婚式の?」

「あぁ、そうだ。」

「弓弦、きちんと名簿も作らないとな。」

「面倒な・・・・・だから結婚式とか嫌いなんだよなぁ。」

「弓弦君、人生の中で一番綺麗な時に嫁ぐんだ。

 みんなにきちんときれいな君を見ていただかないとな。」

「男爵、よくそんなこっぱずかしいことを言えますねぇ(汗)」

「男だと自分の娘が嫁ぐときを思えば誰だってそう思うさ。」

「とりあえず、男爵。記者会見まで楽しみにね。」

「あぁ、じっと我慢するよ。西村君、弓弦君。

 おめでとう。そして、記者会見楽しみにしているよ。じゃぁ。」

「お見舞い着てくださってありがとうございます。

 また、きちんとご挨拶に行きますね。」


部屋を出ようとしている山村氏の後を西村は弓弦を車いすに座らせ

一緒に下までと見送りについてくる。

下の階まで行くと、西村と原田の姿を見た人たちが騒ぎ始めた。

山村氏は、大きく騒がれる前にと二人を病室に帰るよう言うと、

後ろ手に手を振り病院を後にした。

「誠さんもすげぇおしゃべり(笑)」

「そうだなぁ、でも嬉しいんじゃね?」

「嬉しいのかなぁ。お爺ちゃんも誠さんと話せてからご機嫌だし

 やっぱり誠さんもなのかなぁ。」

「そうかもなぁ、でもあの誠さんの静かなところはやっぱりお爺ちゃんに似ているかも。」

「頑固なところは弓弦が引き受けたんだ(笑)」

「そんなこと言う。」

「でもさ、弓弦が妹と知る前から誠さんと弓弦って男と女って感じに

 仲が良かったよなぁ。俺すげぇ不安だった。」

「あそこに勤めて5年でしょ?」

「あぁ。」

「誠さんがお兄ちゃんって知ったのは3年目に入るか入らないぐらいだった。」

「弓弦はただの先輩としか思ってはなかっただろうが

 俺の目からしたら、全然信頼信用した男と女に見えてたんだぞ?」

「そうなの?でも、一理あるかも。誠さんと居ると誰よりも安心できた。

 釣りに行っても、二人で夕飯食べに行っても。

 買い物とかいつも一緒だったし、お店にいてさ何気なしに座るとしても

 誠さんの横を選んでたかな。」

「だろ?弓弦がそんな安心している奴なんてそうそういないだろうしな。」

「まださ、誠さんには血のつながったお兄ちゃんなんだよって

 白状してない状態での沖縄だったでしょ?」

「・・・。」

「貧血で倒れた時にさ、みんな駆け寄るんだけど駆け寄った後声をかけるんだけど

 誠さんは割り込んできたのかな?そばに来ると抱きかかえて部屋に連れてきてくれたんだ。

 抱きかかえられたところまでは覚えているんだけど

 部屋に連れていかれソファに降ろされてさ、声かけられるまで

 気を失ってたんだよね。」

「おまえさぁ、誠さんに一番迷惑かけてねぇか?(笑)」

「そうかも(笑)でさ、いろいろとお説教くらわされてさ。」

「当たり前だろ?」

「でもさ、あたしが躓いて誠さんの胸に抱きついちゃって(笑)」

「重かっただろうなぁ(笑)」

「あのね?」

「すまんすまん(笑)」

「その時にさぁ、すごい力で抱きしめられてさ

 お前がこの世の中で一番好きなことは本当さ。

 どんな女よりもお前が俺の一番近いところにいる。

 弓弦が一番な。だけど、俺は恋愛感情というものがわからん。

 西村さんの行動がいまいちわからん。って言いながら。

 あたしどうしていいかわからなくて。でも拒否できなくって。

 誠さんにあのまま押し倒されてたらきっと男と女になってたのかも。」

「弓弦、お前正直すぎて俺どう答えたらいいんだ?」

「そのままさ。隠すことなんてないもん。

 だけどさ、誠さんにはお兄さんなんだよって話してないから

 どうしようもないでしょ?」

「あぁ」

「だけど誠さんはそういう男女関係には持ち込まない人なんだぁって。

 ある意味紳士だよね。気持ちが一つでないとそういう関係は無意味って

 そう思っているらしいよ。」

「不思議な人だな。でもお前愛されてるんだなぁ。誠さん、お前を心底愛してるんだぞ。」

「わかってる、そうでないとあたしに対する態度があんなんじゃないもん。」

「でも、やっぱりきちんとその時に話をしないといけないなぁって思っちゃったんだ。

 わかってる分誠さんにはきちんと話をしないとともっちゃったんだ。

 で、プロポーズ受けたこともあるしきちんとって。

 それがチャリティーコンサートの前の晩だったの。」

「俺のプロポーズ・・・・・嬉しかったなぁ。

 すげぇ嬉しくって、朝一番で社長に行っちゃったんだもんなぁ(笑)」

「なんだか子供みたい(笑)」

「そういうなよ。弓弦がyesって返事をくれるまで何年かかってるって思うんだ?」

「3年?4年?」

「でもさ、あたしなんでyesって言っちゃったんだろう・・・・。」

「おいおい、そこなやむところか?」

「なんだか気が付いたこの何日かでさいろんなことがあってなんだか頭の中が(笑)」

「まぁ、仕方がないけどね。」

「でも本当に、生きているってことがこんなにうれしいってこと考えたことなかった。」

「これからが大変になるなぁ。」

「秋山君や男爵が動くとなると、デビュー早々忙しい弓弦になるんだな。」

「でもさ、そろそろ外の空気が吸いたい。」

「ここに缶詰めだもんな。」

「ねぇ、本当にあの離れ・・・・・。」

「なんだ?あの離れ?」

「とりあえずここから一番近いところだから、弓弦のためにはあの離れがいいんだもんな。」

「ありがとう。きちんと動けるようになったらきちんと引っ越しを考えよう。」

「なんで、ゆっくり考えたらいいじゃん。」

「あそこやたらと広いから、だれかれ集まってきて居すわられそうでさ。」

「あんまりそういうことは考えなくともいいんじゃないか?」

「そうかなぁ。」

「男爵のあの顔。聞くだけ聞いて納得したらそそくさと帰って行っちゃったね。」

「そりゃなぁ(笑)なんたって弓弦をすべての人から奪っちゃったしなぁ。」

「記者会見が怖いかも(笑)」



男爵が帰り二人の時間が流れる病室。

口数も少なくなったかと思って西村は弓弦の方を見るとうとうとと

PCの画面をそのままに寝はじめていた。


「弓弦?疲れたんだろ?」

「あ。ごめん、寝ちゃった。」

「少し横になったら?PCはそのまま横に置いて。」

「ん・・・・でも・・・・。」

「本調子じゃないんだからさ、無理すんなって。

 眠いときは寝る、OK?」

「わかった(笑)少し休むね。」

「俺も眠るから。回診の時間までは誰も来ないだろうし、

 少しの間、休もう。」


そう話をしているうちに、弓弦は眠りに落ちて行った。

西村は弓弦のベッドの横に行き、眠っている弓弦の手を握り横顔を見ている。

手を握った時に弓弦は少し気が付いたが、西村の方を見て笑うと

またそのまま眠りについた。安心しきった顔で。

その弓弦の顔を見ると、西村も安心したのかそのまま眠りに落ちて

ふと気が付くと一時間を少し回ったところだった。


まだ寝ている横顔を見ながら起こさないように握っていた手を離す。


弓弦はこのまま眠らせておこうと、静かにそこを離れた。

時計を見るとまだ回診の時間まで1時間と少しあるようだったから

まだ大丈夫と思い、病室を出る西村。


病室を出て看護師たちに冗談を言われながらも、エレベーターの横にある

少し広い場所の椅子に座り、自販機で買ったコーヒーを片手にぼーっとしていた。

すると、何度も開くエレベーターのドアから久しぶりの声がした。


「よぉ。」

「ん?」

「おいおい、俺の顔忘れた?」





「大川・・・・君と渉じゃん、どうしたんだ?」

「お見舞いっす、お見舞い。」

「かしこまって、俺も圭一郎でいいっすよ。」

「二人仲がいいなぁ。今日は?」

「様子伺いだけど・・・・・弓弦は?」

「あぁ、疲れたのかまだ本調子じゃないから寝てるよ。」

「そっかぁ。起きているときに来ないと意味ないか?」

「起こそうか?どうせ回診が始まるし起こさないといけないんだ。」

「いやいやいいよ。また来るし。」

「西村さん。」

「二人とも(笑)まさでいいよまさで。」

「まささん。あのさ・・・…やっぱやめとく。」

「なんだ?」

「圭一郎さ、弓弦とデートしたいってさっきまでごねてたんだよな。」

「へぇ。弓弦モテモテじゃん(笑)」

「でもさぁ、弓弦はやっぱり西村さんなんだよな。」

「なんで?」

「渉から聞いたもん。西村さんのプロポーズに返事したって。」

「それか・・・・すまないな。返事もらっちゃったから弓弦は・・・・。」

「デートの申し込みしてもさ、マスコミのいい餌食じゃんって思ったら

 あきらめついちゃった。」

「まだ公表してないし、いいんじゃね?」

「でも次の記者会見では喋っちゃうんだろ?」

「そうだなぁ。でも記者会見は警察の意向で伸びたんだけどさ。」

「それでも数日。外出もできないんだろうし、あきらめるわ。」

「圭一郎はあきらめが早いな(笑)」

「だって誘惑したらまささん困るんでしょう?」

「誘惑しても弓弦は惑わないと思うけどな。」

「渉・・・お前そこまで言うか?」

「二人本当に息があってるな、芸人ででも稼げるよきっと。」

「それよりも、まささんは大丈夫なんですか?」

「俺はな、様子見で来週でも退院だ。」

「まささん退院だと弓弦一人かぁ。」

「なんだ?(笑)」

「なんでもないっす(笑)」

「あぁ、これ。まささんとちゃんと二人分入ってるから

 先生とか看護師さんたちがいなくなってから食ってくださいよ。」

「なになに?おぉ、いい匂い。」

「ほら、うちの会社のさ秘書さんたちがさひかりちゃんと弓弦のこと気にしててさ

 その中の一人がさ、いつもお菓子作ってくれるんっすよ。

 それが美味い事。で、今日さ作ってきてて俺らもごちになったんですけど

 その時にさ4ピース余ったから、他のやつらが手を付ける前に

 取り置きしたんだ。で、会議が終わって時間が取れたんで持ってきたんだ。」

「ありがとう。美味しそうなアップルパイだな。4つあるから起きるの待って

 一緒に食べながら話しようよ。どうせ、もう起きなきゃいけない時間だし。」

「渉。時間あるし、会ってから帰るか?」

「いや、わざわざは。圭一郎も気ぃ利かせろよ(笑)」

「いいんだって(笑)そんなに気を使わなくったって。

 そんな仲じゃないだろ?俺ら。」

「でもさ、けが人だし病院だし寝てるってことはそう言う体調って

 ことなんじゃん。無理は少しでもさせないほうが

 弓弦にとってはいいんだと思うけど。」

「でもなぁ。弓弦起きた時に来てたって知ったら俺すごく怒られやしないか?」

「そんなこと言う弓弦じゃないと思うけど、きちんと説明をしてくれれば。」

「また来るよ。また起きているときになんか持ってくるから。」

「埋め合わせは弓弦の手料理でってそう伝えておいてよ。」

「了解(笑)」

「また今度ゆっくりした時に来るさ。」

「ありがとう、退院したら`mask´でも。あそこには弓弦の兄が待ってるからさ。」

「そうなの?」

「詳しい話はその時にでも。」

「わかった、んじゃね。まささんも無理しないように。」

「ありがとう」


そういってまたエレベーターに乗り込んで帰っていった二人。

本当は弓弦に会いに来たんだろうになと思いながら、西村も病室に戻った。

手には圭一郎と渉が差し入れで持ってきてくれたアップルパイを手に。

まだ弓弦は眠っている。さえない顔色のままだけれど具数理とまだ眠っている。

部屋の隅のテーブルにそのパイの入った箱を置き、TVをつけ弓弦のそばに座った。

そしてまた手を握り横顔を見ると目が覚めたのか眉間にしわを寄せて

表情を変える。


「おはよう、弓弦。」

「おはようだなんて、どうしたの?そんなご機嫌な顔をして。」

「嫌さ、お前疲れてたんだよな。2時間余りよく寝てた。」

「そんなに?」

「あぁ、それも幸せそうな顔をしてさ。」

「んじゃもう回診の時間?」

「もうそろそろかな。」

「終わったらまたゆっくりと屋上にでも連れてってよ。」

「そうだな。」

「でもこのいい匂いなに?」

「わかる?」

「わかる、とってもおなかがすくにおい。」

「弓弦が寝ている間にさ、渉と圭一郎が来たんだ。」

「起こしてくれたらよかったのに、会いたかったなぁ。」

「そう思ってさ、俺も起こすっていうのに次起きているときに来るって言って

 帰っていったんだ。その渉と圭一郎のお土産。」

「それ?」

「なんだかわかるか?」

「箱からしたらケーキでしょ?」

「あたり!M'scompanyの秘書さんの一人のお手製だって。ほら。」

「あ!おいしそう!アップルパイだ!うーん今食べたい(笑)」

「回診が終わったら食べよう、先生たち結構うるさそうだから。

 冷蔵庫に入れてて、回診が終わってから二人で食べよう。」

「でも4ピースも入ってるよ?」

「多分弓弦が起きてたら4人で食べるつもりだったんじゃないのか?多分な。」

「悪いことしたなぁ。ぐっすりと寝着いちゃったもんな。」

「次会うときに元気な顔をして迎えたら彼らは嬉しいんじゃないのか?

 それまでにはもうちょっと元気にならないとな。」

「そうだね。でもなぁ、会いたかったなぁ。」

「まぁ後でメールでも入れたらいいじゃん、アドレス知ってるんだろ?」

「そうだなぁ、後でメールしてみる。夜でも時間があれば会えるしね。」

「そうそう。さ、回診が始まる。」




しばらくすると回診が始まり、先生がやってきた。




「どうですか?具合は。」

「俺の方は全然大丈夫です。」

「あたしも今日はお昼の後ゆっくり休めたので今の時点大丈夫です。」

「西村さんは良好そうですが、原田さんはまだまだですねぇ。」

「そう思いますか?」

「無理はしないでくださいね。別に回診だからと言って起きて待ってることはないんですよ?」

「先生、弓弦はまだ本調子ではなさそうですね。」

「あれだけの怪我です。まだまだこれから自分のちからで治癒していくところなので

 もう少し体力が戻らなければ日常生活も少しきついかと思いますよ。」

「そうですよねぇ。」

「なぜですか?」

「いえ、まぁ顔色があまりすぐれない日が続くから。」

「そう焦っても何も始まりませんよ(笑)ゆっくりと構えて。」

「そうですね、そうですもんね。」

「弓弦、もう一眠りしよう。俺も眠いし。」

「あたし眠くないけど?」

「目をつぶれば否応なしに寝れるさ。」

「そうですよ、無理せず明日のことをその次の日のことを

 そしてその先のことを考えて体を休めてください。」

「では、後で。」





先生と看護師との会話の中、体温と血圧を測り触診での診察などを済ませ

弓弦たちの部屋を出て行った。

「ねぇ。」

「ん?」

「あのね。」

「ん?」

「退院・・・・早く退院したいって言ったらどうする?」

「無理だな。絶対無理。多分(笑)」

「そうだよねぇ・・・・・・。」

「弓弦さ、弓弦の怪我の完治どれぐらいかかるんだろう。」

「完治はやっぱり早くても6ヶ月ぐらいだって。

 自分で動けるようになるまで3,4ヶ月?かな。」

「だったら、少しづつリハビリして動けるようになれば

 外出許可取って、あちこち連れてってやるから頑張れ。」

「あのさ。」

「なんだ?」

「もしさ、久原氏が本当にオファーかけてきたらどうしよう。」

「弓弦はどうしたいんだ?」

「本当ならさ、断れないなぁって。久原氏のなら絶対あたし断れない。

 あの人はあたしをよくかわいがってくれているし、

 あたしもお世話になっているし。前にも言われたけど

 久原氏は何度も自分の小説にあたしを登場させていてさ

 もし自分が映画を作ることになったらぜひっては言われてた。

 冗談と思って聞き流していたのに。」

「弓弦。お前を俺一人の物にしたのは大変なことだったんだなぁ。」

「そんなことはないけど。いや、それは絶対ないけど。」

「弓弦さ、お前なんにでもぶつかってみなよ。それが一番自分の成長の糧になる。」

「でも、これまであんなに露出がなかったのがこういう風に一気にだと

 戸惑ってしまう。」

「俺にとっては自慢の奥さんだから、大いに嬉しいけど?」

「すごく不安な気持ちどうしたらいいの・・・・・。」

「そばにいるから、ずっと弓弦のそばにいるから大丈夫だって。」

「でも・・・・・。」

「弓弦は本当は、すごくさみしがり屋で心配性で甘えん坊なんだな。

 そういう一面は見たことがなかったんだけど、そうなの?」

「西村さんはあたしが強気で生意気で男みたいなあたしがいいの?」

「いやいや、そのままでいいんだけどさ(笑)」

「それにさっきの話だと、あたしの相手はきっと大川さんだよねぇ。」

「そうなるなぁ。大川君かぁ・・・・・あんな男として色気のある人と

 一緒だと、なんだか弓弦がさらわれそうで怖いなぁ。」

「圭一郎はすごく目力ある人だもんね。引き込まれてしまうというか

 デートの約束までさせられているのにどうしよう。」

「別にいいじゃないか、デートぐらい。一緒に遊びに行くつもりぐらいでいいじゃん。」

「一緒に遊びに行くつもりの気持ち?とんでもないっ!

 圭一郎ね、ほらあの時迎えに行ったじゃない?」

「いつだ?」

「長崎から帰って来たばかりの午後にリハするつもりだった日。

 あの時西村さんが家に来る前に圭一郎を迎えに行ったでしょ?」

「あぁ、俺と槙村君が言えで待ってた時だな。」

「そのときさアクアホールまで迎えに行ってて、圭一郎の車を

 他のやつに運転させようとしてもめてたのよ。

 で、その時に翔太君を隣に乗せてきてたんだけど

 乗れなかったことに対して、デートしようと約束させられたのよ。」

「別にデートだけじゃん。約束たって。」

「違うの。その前の沖縄の時にさあたしの好き嫌いでその夜のご飯が

 食べれないものだったんだけど、それにいち早く気が付いて

 圭一郎が槙村さんに言って槙村さんが夕飯を作ってくれてたの。

 そのお礼に一晩って言い放った人だから。」

「一晩付き合ってあげればいいじゃん。男と女の関係でなければ

 一晩飲み明かしたっていいんじゃない?」

「んもぅ。圭一郎ってすごく強引な人なんだよ?槙村さんもだけどさ。」

「もうすぐ記者会見なんだし、俺の弓弦なんだから手は出さないさ。」

「そうかなぁ・・・・・だといいんだけどさ。」



「西村さん、原田さん。面会ですけど大丈夫ですか?」

「はい、どうぞ。」


「ちわっ!」

「あぁ、元原さん。すると・・・・・。」

「三人でできましたがお邪魔でしたか?」

「ありがとう。本当に来てくれてありがとう。」

「弓弦さん泣かないでよ。泣くほどうれしい?」

「ごめんね、本当にごめんね。あんなに一生懸命に

 練習に付き合ってくれて、それにあんなに出来上がったダンスを

 チャリティーでは見せれなかった。前の晩に合わせた時ばっちりだったのに。」

「弓弦さんのせいじゃないじゃないですか。また来年があります。

 怪我を治して来年みんなに見せてあげましょうよ。」

「翔太君。本当にごめんね、翔太君には一番気を使わせちゃって。

 ねぇ、翔太君。そんな端っこにいないでこっちに来てよ。」

「弓弦さん・・・・・弓弦さんが生きていてくれてここで会えたこと自体が

 僕はうれしくて、涙が・・・泣いてしまう。」

「翔太は泣き虫だなぁ。」

「言うなさ、悠太だって同じだろ?」

「あの日の`mask´から事務所に戻るタクシーの中で泣いてたじゃん。」

「みんな泣き虫だってことだな。」

「西村さんも意地悪だなぁ。」

「そうそう、西村さん。聞きます?」

「おぉ。出来上がったんだってな。見せてよ。デッキはそっちにあるから

 音小さめでかけて。」

「おっけ。」

「お見舞いに来られているのでしょうが西村さん。

 リハビリの時間なんですけど?」

「もうそんな時間なの?」

「行ってくればいいじゃないですか。帰ってくるまで待っています。」

「そうかぁ?でも、そのアルバムみせてよ。

 ジャケットの弓弦。フォトブックの弓弦、みんな見たいからさ。

 少し遅れたっていいじゃん。」

「んじゃ、持っていきます?」

「いや、終わったらゆっくり見るからおいてってよ。」

「帰ってくるまで待ってますって。」

「そっかなぁ。弓弦が追い返しそうな雰囲気だしてるんだけど。」

「大丈夫、いますって。リハビリいってきてくださいよ。」

「ねぇ、弓弦さん。」

「なぁに?悠太君。」

「しばらくは安静ですよねぇ。」

「だね。もう少し動けるようになったら外出許可もらって

 西村さんにどこか連れてってもらうって約束はしたけど。」

「どうしたの?急に西村さんがいなくなった瞬間みんな神妙な顔つきで。」

「あのさ弓弦さん。」

「なぁに?」

「びっくりだけなんだけどさ。」

「で、なんなの?」

「悠太お前から言えよ。」

「翔太ずるいって。」

「だーかーらー。二人とも、何?」

「僕も翔太も弓弦さんにデートの申し込みしたいんだ。」

「また。おおいねぇ、弓弦が今どんな状況かさ。ねぇ、知ってる?」

「おぉ、びっくりした。西村さん後ろからずるいですって。」

「だってリハビリに気持ちはいらないんだ、気になって。帰って来ちゃった。」

「もうびっくりだなぁ。でも、何がですか?」

「あのさ弓弦だけど、早くしないと遠く行ってしまうからさ。」

「なんの話ですか?」

「西村さん、まだあたしは自由ですからね?(笑)」

「もしかして・・・・・・。」

「次の記者会見で、弓弦と俺の婚約発表も一緒に行うんだけど?」

「本当に???」

「なんか西村さん、お見舞いに来る人来る人みんなに

 内緒だって言ってばらしていません?」

「弓弦の事だからさぁ、みんなにいい顔するんだもんな。

 デートの誘いも断れないだろう?だからさぁ。」

「でも悠太君とのツーリングは前からの約束だったもんね。」

「悠太ずるい!俺も免許取ろう!」

「あははははは。俺も車買おうっと。」

「西村さんはこれからずっと一緒なんだから、一人占めしちゃだめですよ。」

「俺は・・・・・俺は、バイクも車もない。」

「翔太君。何しょげてるの?」

「だって、西村さんだって悠太だってバイクなり車なりあるけど

 俺は車の免許もバイクの免許すらないし。

 弓弦さんとデートだと言っても、弓弦さん今はけが人で

 動くのだけでも大変だから、おれは何にもしてあげれない。」

「翔太君。弓弦はそういうことは気にしないさ。」

「えぇ、気にしない。気にしないから、きちんと話して。」

「おれさ、弓弦さんと長崎に行きたい。」

「翔太。弓弦と一緒に行きたいんだ。」

「えぇ、西村さんには悪いんですが弓弦さんと一緒に。」

「悠太は、車の免許も持ってるから遠出できるし。」

「お前たちは本当に俺から弓弦を奪おうと(笑)」

「宣戦布告のつもりだったけど、弓弦さんの気持ちは決まっているみたいだから

 独身最後のデートを申し込もうかなって。」

「独身最後かぁ。でも西村さんが許してくれるかどうか。」

「俺は心の広い男だぞ?弓弦の気持ちが揺れない限りOKだ。」

「弓弦さんの怪我がある程度動けるぐらいまでになったら悠太とドライブだな。」

「悠太君にあたしを貸し出すってこと?」

「んだね。駄目ですか?弓弦さん。約束してたんでしょう?」

「んじゃ、約束守るだけね。でいい?悠太君。」

「もちろん、ツーリングだと無理させちゃうから車だします。僕が運転で。」

「で、翔太君は?」

「西村さん。長崎に行くってことは泊りがけですよ?長崎日帰りはきついですし。」

「そうだけど、長崎に行ってみたいんだろう?俺と弓弦の故郷を見たいんだろう?」

「すごく見てみたい。興味がある。」

「だと、弓弦の怪我がある程度治らないと厳しいかもなぁ。」

「だね。まだまだ先の話になってしまうなぁ。それでもいい?翔太君。」

「全然、デートできるんなら。(笑)」

「なんだか、あたし西村さんの所には真っ直ぐにはいけないみたいだね。」

「結婚するまで寄り道が多いな。」

「結婚するんだってまだまだ先でしょう?西村さん。」

「記者会見で婚約を発表するだろ?で、次は弓弦が怪我の完治までに

 半年ぐらいかかるだろ?」

「籍を入れるのはいつでもできるじゃないですか。」

「俺はきちんと順を踏まないと嫌なんだよね。ちゃんと結納して

 結婚式上げてハネムーンいってって。」

「西村さんって古風なんですか?」

「あはははは。世間一般的にそうするんだって。」

「できちゃった婚とか多いのに、西村さんはそういうところ古いんだ(笑)」

「弓弦。弓弦のお爺ちゃんのためでもあるんだからな?」

「はいはい。」

「だからお前らが言う弓弦の独身最後のデートはきちんと楽しめよ?」

「そういう風に話すと絶対に大川さんと槙村さんが乗り出してくるような気がする。」

「うんうん、二人には内緒。内緒にしておかないとね(笑)」

「あ、リーダー。時間大丈夫?」

「そろそろかなぁ。」

「西村さん、弓弦さん。また時間あるときにでも電話するからさ。」

「おぅ。またな。」

「んじゃ、俺もリハビリに戻るかな。弓弦、行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」

「弓弦さん、西村さんのリハビリはどれぐらい時間かかるの?」

「1時間ぐらいかな?今は3時半だから5時ぐらいまでは帰ってこないけど?」

「なら、もう少しいてもいい?」

「あ、俺ちょっと電話してくるけどいい?」

「いいよ、ここにいるから。」

「最近さ、リーダーさ、言っていいのかなぁ・・・・・。」

「なに?なにを?」

「翔太。いずれはさぁ・・・・・。」

「弓弦さん、びっくりしないでね。」

「いいのか?悠太喋っても。」

「だって・・・・・。」

「なになに?すごく気になるんだけど。」

「しょっちゅう仕事にかこつけて、こうやって時間ある時メールしたり電話したり。」

「へぇ。リーダーにも好きな人がいたんだ。」

「そうかどうかはわからないけどさ、でもたぶんいろんなことがあって

 その人とさ、気があったというかさ、何かつながれる物があったんだろうなぁ。」

「でもさ、基本俺たちは社外であろうが社内であろうが

 責任の持てない恋愛は厳禁だって言ってたじゃん。」

「どうするんだろうねぇ。」

「もしかしたらさ・・・・・・。てか、のその前にリーダーと誰の話をしているの?」

「誰って。言っちゃまずいかなぁ。」

「まだまずいだろう。本人なんの話しもしていないんだろ?」

「そうみたいだなぁ。」

「あたしの知ってる人?」

「知ってるも何も。」

「なにも?」

「ひかりちゃん。」

「へ?ひかり?」

「そう、ひかりちゃん。何にも聞いてないの?」

「ひかりと会ったのは、気が付いた日に会ったけど何にも言ってなかった。

 それに、メールも来るけどそんなこと一言も話さないんだけど?」

「ひかりちゃん、弓弦さんにも何も言ってないんだ。」

「でも今年26でしょ。いい加減あたしと一緒に居ることも卒業しなきゃ。」

「んだけどさ、なんだかなぁ。」

「あたしもここだけの話をすると、西村さんみたいでいやんなんだけどさ、

 《yes》と言えば会社を退社することにになるし

 《no》と言えばそのまま残るし。」

「それなに?ねぇ弓弦さん。」

「まだかなり先の話になるし、途中でなくなるかもしれないから内緒よ。

 だけど、それに対しての話は次の記者会見が終わった後どうするのか話し合うだろうから

 それからだよ。」

「それってなんなんですか?」

「あたしのお客でさ、推理小説家の山村諒一さんって人がいるのね。

 その小説家仲間で久原護って人がいるんだけど。

 二人とも仲良しでさ、よく来てくれるんだ。」

「有名な人だよねぇ。そんな人と知り合いなんだ。」

「でさ、かなり昔から口説かれていたんだけど、その久原氏からね。

 自分のつまり久原氏が書きあげ、映画にするって話なんだけどさ

 オファーがある人がある程度決まってきたんだって。

 そのことを今朝お見舞いに来た山村氏から聞いたんだ。」

「というと、口説かれてたということは・・・・・弓弦さん。」

「西村さんのシークレットメンバーの時からずっと口説かれてたのよ。

 自分の映画にぜひ出てほしいって。

 だから、西村さんと結婚するからと言って西村さんの所の会社と

 マネージメント契約した訳じゃないということよ。」

「弓弦さん、それって・・・・・。」

「えぇ、いつかは話が来るだろうからって覚悟はしてたんだけど

 まさか、あななたちが来るほんの少し前に山村さんがね。」

「おれ達が来る前の話なの?」

「結婚を機に正式にマネージメント契約の話をしたのはそれもあったから。」

「だから翔太君に何か事務所で言われなかったか聞いたの。」

「本当に俺、何にも聞いてないですよ。」

「そか。あたしには山村氏から伝えられたのはさ、

 昨日`mask´で山村さんと久原さんと、話があって

 久原さんの方から動きがあって映画化するらしい小説があるんだって。」

「それへのオファーなのか?」

「えぇ。山村さんの話だと、翔太君と大川さんは、ほぼ決定なんだって。」

「久原さんの小説というとミステリーになるのかな?」

「そうみたいよ。推理物で、誘拐や殺人や関係ない人まで巻き込む

 ミステリーらしいわよ。」

「そういうのって、難しそう。」

「でさ、翔太と大川さんとって・・・・あとは弓弦さん?」

「そう、あたしとひかりも。」

「んじゃ受付嬢ではいられないじゃん。ひかりちゃん。」

「まだひかりには、話してないんだけどさ。」

「うちの社長は知ってるのかなぁ。」

「多分ここ数日のうちに山村さんがあたしの名前で呼び出すんじゃない?

 翔太君たちの社長と川上社長と。」

「それからの正式なオファーかぁ。」

「ラブシーンとかないのかなぁ・・・・・。」

「そういうのが楽しみなの?」

「でも多分あるんだろうなぁ。」

「久原さんの各小説って読んだことないけど。」

「知らないの?半分以上が恋愛ミステリーだよ。」

「弓弦さんそれは知ってた?」

「知ってた。恥ずかしいもの引き受けることになるんだなぁって

 そう思ってるけど、久原さんのオファーは断れないからさ。」

「弓弦さんとのラブシーンをできるのは誰になるとか

 そういうのはわからないんですよね?まだ。」

「あたしはまだ何にも。ただオファーの話だけ。」

「そうかぁ。映画の中だけでも恋人同士だとうれしいんだけどなぁ。」

「でも、ひかりちゃんもそれに出るんだ。でるとなると、やっぱり・・・・・。」

「ひかりには数日中にここに呼び出される。

 山村さんが声をかけここに。で、あたしと一緒に久原さんと話を。」

「一つ一つ押さえていくということかぁ。」

「大川さんも弓弦さんとだったらってオファー断るどころか

 進んでやらせてくださいっていうんだろうなぁ。」

「だな(笑)」

「そう思うでしょ?せめてねぇ・・・・・別の人で組んでほしいんだけど。」

「弓弦さん。」

「なに?」

「まだひかりちゃんが話すまではリーダーとのことは

 ひかりちゃんには聞かないでくださいね。」

「もういい年した大人よ?

 きちんとひかりが話してくれるまであたしは知らないふりをしておくわ。」

「でも久原さんの映画に出るということは、弓弦さんと一緒で

 どこかに属さないと・・・・。」

「そうなると翔太君たちがいるM'scompanyは無理だろうなぁ。

 男性ばかりの会社だし。そこに働いているとはいえ女だしな。」

「やっぱり、川上社長がひかりちゃんと弓弦さんを持って行ってしまうんだ。」

「何かないかなぁ・・・・・。」

「何?何か解決策って言うかなにかある?」

「なんかないかなぁ。」

「でもさ、翔太。かえって事務所が別になれば、そのほうがいいんじゃない?」

「すっぱ抜かれたりいろいろと問題になることを考えると

 レーベルは一緒の方が守られやすいんだけどさ。」

「思いっきり、付き合ってるって発表したらいいのに(笑)」

「ていうか、その久原さんの映画のオファーの話をしてからの話だよな。」

「とりあえず、まだ確証もないんだろうけどさ。」

「でも、この間リーダー何か社長と話してたぞ?」

「そうなの?だったら何か進展があればひかりも何か言うでしょう?」

「どうであれ弓弦さんの耳にも入れたし。何かあったら即相談できるし。」

「俺らが話したことは内緒ですよ?」

「もちろん。あたしが話したこともよ?」

「OK。なんだか秘密を持つとうれしいのは何なんだろうなぁ。」

「んじゃ、弓弦さん。俺ら仕事に戻ります。」

「お仕事がんばって。」

「弓弦さんも早く治りといいですね。僕車をピカピカに磨いておきますから。」

「ありがとう。楽しみにしているわ。」

弓弦の部屋から二人は出ていくと、その先の窓側に元原がいた。

元原の電話が長かったのか悠太と翔太の長居が長かったのか、

窓から見える風景にはオレンジ色のひかりが広がっていた。

西村のリハビリも、念入りだったらしく気持ち少し遅い終わりだったが

西村が楽しみに帰ってくると弓弦は疲れているのか眠っている様子。

部屋に入ると弓弦が寝ていることに気づき西村は静かにそばに行く。

眠った顔をそばに見つめるだけの西村は、その弓弦の顔色がまだまだ

体調の良くない様子を伝えていることに気づく。

まだ気が付いて行く日にもならないのに、いろんな話を持ち込まれ

気をもまされ、その上に思い出した現実。

犯人の一人に、自分が一度は愛した人がいたとなるとショックは大きいだろうし、

幾日も辛い目にあわされた助も求められず、きつかっただろうと。

弓弦がラッキーだったのは愛した人がその中にいたからなのではないだろうか。

だから、《生きて帰れ》の言葉と共に弓弦が帰ってこれた。

彼がいたから弓弦は俺のそばに帰ってこれたんだと。

弓弦の顔を見つめていると、あの朝かかってきた電話を

少しでも早く出てあげれなかったことを悔やまれる。

しかし、電話をくれたことが自分にとってはうれしくてそれが槙村や

翔太じゃなくて自分だったことがなにより。

たくさんの顧客の番号があった中にもかかわらず、そんな中でも

弓弦と仲が良く弓弦を狙っている奴らの電話番号にも目をくれずに

真っ直ぐ俺にかけてきてくれたそれだけが西村にとっては大事なことだった。

もし弓弦があの場所で死んでいたのならば、俺はどうしただろうと。

弓弦のその顔を見つめながら、もしそのまま息を引き取っていたら。

抱きしめた時に弓弦が動きもせず一言もしゃべらず息をしていなかったら。

呼吸が止まってて人工呼吸しても自発しなくてそのまま息を引き取っていたら。

それを考えると、それでもここにこうやっていることを考えると

西村の心の中では弓弦を幸せにしなければいけないとそう思っていた。

弓弦のまだ青白い頬のままの寝顔を見ていると、ふと髪も伸びてきたなぁと

触ってしまった。触れた指の感触で弓弦が起きる。

起きた弓弦の目に飛び込んできた西村の頬には涙が流れていた。


「ねぇ、何泣いているのさ。」

「いや、なんでもない。」

「気になる。すごく気になる(笑)」

「神様っているんだなって、そう思ったらさ。」

「いまさら何を。」

「弓弦が生きていたそれだけでこれから先弓弦を幸せにしないと

 そう思っていたらさ、なんでかないちゃったんだ。」

「西村さんらしくない(笑)」

「俺らしいだろうが。」

「そっかなぁ。なんとなく二人だと違う気がする。」

「なぁ、悠太とデートしても翔太とデートしても

 俺の所に戻ってきてくれよ。今では弓弦がいないと俺は生きれない。」

「そんなことないよ、あたし以外でもたくさんいい女はどこにでもいる。

 ただ、出会えるチャンスを自分で見逃しているだけよ。」

「いや、つくづく思う。あの朝、弓弦が電話をくれなかったら。

 あの朝、弓弦が生きて帰ってこなければ俺壊れてたのかなって。」

「そんなことないない。西村さんは逞しいから。あたしがこの世からいなくなっても、

 きっとあたしのために歌い続けてくれるって信じているもの。」

「弓弦が思っているほど俺は強くないぞ?」

「そんなことないって。幽霊になっても追いかけるでしょ、きっと。」

「そうかもなぁ。弓弦?」

「なに。」

「お前の怪我、見せてみろ。」

「ここで?誰か入ってきたら嫌だ。」

「大丈夫。」

「鎖骨の所の手術跡は?」

「大丈夫。」

「背中は?肩甲骨の所の手術跡。」

「ちょっとかゆいけど、でもふさがり始めているからかゆいんでしょ?」

「あと体の周りの擦過傷は?」

「痛くないから大丈夫だって。心配性だなぁ。」

「ならいいけどさ。右足は大変だなぁ。」

「そうだね。」

「外出許可が取れるぐらいに治るまでどれぐらいかかるんだろうなぁ。」

「明日の朝の回診ででも聞いてみる?」

「あぁ、そうしようか。記者会見まであと4日か。」

「西村さんの退院まで4日だね。今度はあたしの看病のために泊まり込むの?」

「あぁ、そうしようかなぁって思うけど。」

「仕事しないと、ねぇ。入院してたぶん仕事たまってるんじゃない?」

「そうだなぁ。でも、多分出演とかばかりだったから

 その埋め合わせしないといけないしなぁ。

 記者会見の後は忙しいだろうけど、俺は弓弦のそばに帰ってくるからさ。」

「あのさ、今の住んでいる離れ。あそこに引っ越さない?」

「あの家に?」

「横浜よりあの弓弦の家がここに近いし・・・・・てか?」

「あそこならギターやピアノの音は気にならないし。」

「そうだなぁ。弓弦何気にあの家好きみたいだしなぁ。」

「そうしよう。そうしようよ。」


「西村さん、原田さん。夕飯ですよ。」



「はい、お願いします。」

「たんと食べてくださいな。で、ないと治るものも治らない。」

「おばさん初めての人だ。」

「おとといからここにお世話になってるんです。」

「でも懐かしいアクセント。」

「なんがですか?」

「おばさん九州の人だ。」

「あはははははは。わかる?」

「おばさん、福岡?博多の人でしょう?」

「正解だ。わかっとるねぇ。なんだかあんたたちの前では

 言葉を気にせんで話せそうだ。」

「おばちゃんって呼んでも怒られないんだ。」

「おばちゃんはおばちゃんやろ(笑)」

「これなら西村さんがいなくても、あたし一人でも大丈夫。

 おばちゃんがいるから、安心しておしゃべりできる。」

「ここの病室は楽しそうだねぇ。」

「仕事でないときも来てよね、おばちゃん。いろいろと喋ってよ。」

「あたしでいいんかねぇ。」

「西村さん。」

「なんだ?」

「泊まり込みしなくても大丈夫。あたしおばちゃんがいれば大丈夫。」

「おまえさぁ。なんとなく調子よくないか?」

「さぁさぁ、お二人さん。たんと食べてな。

 で、食べ終わったら片づけに来るけん残さずなぁ。」

「はい(笑)」


その日の夕飯。当たり前の病院食で弓弦のも来た。

西村と久しぶりに笑いながら話して、一人で食べあげた。

楽しいその食事の時間、笑い声が絶えず部屋の外まで聞こえていた。

その外を看護師たちが元気になってよかったと話しながら通り過ぎる。

担当医の耳にも入り、食事が終わった後に、部屋に来た。


「こんばんわ、お二人さん」

「どうしたんですか?先生。」

「あぁ、あまりにも楽しそうな笑い声がしていたと聞いたんでね。」

「すみません、うるさくて。でも、久しぶりにら笑いながらの食事で楽しめました。」

「それに先生。あたし一人で今日は食べれました。

 少し角度的に痛いこともあったけど、一人お箸で完食で来たんですよ。」

「それはそれは。きちんと手を抜かないで一つ一つを

 リハビリの一環として意識している証拠ですね、いいことです。

 明日の回診と診察で、弓弦さんのことを決めていきましょうかね。」

「退院はまだですよ?退院は。でも、まだまだ20代半ばは治りも早い。

 それに、西村さんも退院するとさみしいでしょう?」 

「そんなことはないですよ(笑)」

「おいおい、うそでもさみしいとかごねれよ。」

「あははは。原田さんはあのおばさんのことで楽しみが増えてうれしいんでしょう。」

「そうそう、あのおばさんなっていう名前なんですか?」

「峰さんと言われます。うちの病院の老人病棟のヘルパーをされているんですが

 こちらの方でも人手が足りなくて、半分半分で手伝ってもらってるんですよ。

 楽しい人でしょう。我々も気持ちが安らぐ楽しい人ですから。」

「あの人がたまに顔を見せてくれたらそれでいいかも。」

「原田さんも長崎の人だったですね。それならあの峰さんの話す言葉は

 楽しいし懐かしいし共通の話題もあるし話し相手にはすごくいいでしょうなぁ。」

「えぇ、博多の人でしょう?よく遊んでまわった博多だもの

 共通のことがあるってすごく楽しいです。」

「西村さん、泊りがけの看病はきっと・・・・。」

「追い返されちゃいますね。(笑)」

「だからあたしは大丈夫だって言ってるのに、西村さん全然聞かないんだもの。」

「では、明日しっかりと診察しましょう、原田さん。」

「はい。ではまた明日。」


「あたし、あの事件で誘拐されて今日で何日目だっけ?」

「えっと。俺が怪我して弓弦が誘拐されて12日目の朝に河川敷だろ?

 で、その12日目発見して病院に運ばれ手術して

 その手術した日から5日目の夜に気が付いたろ?

 ここでだ、17日目の夜に気が付いたことになるな。」

「そんなに過ぎてたんだ。」

「で、気が付いた次の日の朝。18日目からは誠さんや小林さんが来て面会したし

 嫁にくださいはその次の日。弓弦のおじいさんと面会した日だな。

 で、その次の日に山村氏だろ?今日で何日目だ?(笑)」

「ということは今日は20日目?ほんとわかんないや(笑)」

「午前中に山村氏で午後から悠太たちだろ・・・・・。」

「もうすぐ3週間もたつんだ。」

「弓弦が怪我をしたのは誘拐されてどれぐらいだ?」

「車から突き落とされたのが誘拐されて一週間目で突き落されたでしょ?

 見つかったのは5日目の朝だから、突き落された怪我は

 この時点で8日ほどたってたんだ。」

「すると怪我して手術するまでに5日。

 見つかって手術して治療が始まって、今日は20日目でさ。

 手術して8日目?」

「手術して8日目だと、きっとまだまだ。外出許可の話なんてでいないさ。」

「当分無理かなぁ。」

「でもさ、弓弦。手術してそのあとの顔色なんか今とは比べ物にならないぞ?」

「そんなに?」

「あぁ、青白くて本当に生きるための血が流れているのかわからないぐらいに

 真っ白でさ、唇なんて真っ白。ろう人形みたいだった。」

「そのまま死んでいてもおかしくなかったんだろうなぁ。きっと。」

「輸血な。弓弦への輸血、病院のだけじゃ足りなくて近くの病院とか

 そうそう、狛江の病院とかから持ち込んでもらったって。」

「そうだったんだ。あたしたくさんの人たちの力とたくさんの人たちの

 血で生き延びれたんだ。」

「あぁ、弓弦はたくさんの人のおかげで今があるんだから

 その助けられた命を大切にしないとな。」

「大切にね。最後の最後まで生きろと助けられた。

 和哉があたしを助けたいと願って突き落さなければ

 あたしは生きていなかったかもしれない。和哉の分まで

 そして歩生の分までこれから先を生きていかなければいけないのか。」

「今日の、今の弓弦の顔色はかなり血色よくなってきたから

 明日の検査とかが楽しみだな。」

「少しでも、でてくる数値が正常値に近くなれば外出できる。」

「そうだな。でも、その前に記者会見っ!」

「なんだか具合悪くなってきた(笑)」

それから数日が過ぎ、記者会見がその話の4日後だったのが延びた。

事件のことで進展があったらしく、そのことを含めての発表になるらしく

詰めているらしいのだ。

西村の退院も予定通りになり記者会見が終わるとともに午後からの退院の予定を

その日の午前中に繰り上げ退院していった。

お見舞いに来る人たちで毎日が楽しくバタバタしていたその日までが

とたん静まり返ってしまった病室で一人弓弦は、朝からきていたメールを読んでいた。


 ` 弓弦へ

   怪我は大丈夫?あれから一週間って言わないぐらいに

   時間が過ぎたけど、あたしもお見舞いに行けなくてごめんね。

   仕事もバタバタしてて、翔太君が怪我したでしょう?

   あれから、事務所ではバタバタと対応してたから

   受付までとばっちり受けちゃって(アハ

   でも。でもね、近々お見舞いに行くよ。

   少し話したいことあってさ。

   西村さんも退院したんでしょう?部屋には弓弦一人だよね。

   誰にも相談できなくてさ。

   んじゃ、行くときはまたメール入れるね。

   携帯の方に入れるから誰もその時には来させないでよ?(笑)´


 `弓弦君

   もう山村君から聞いたかね?

   昨日君がいる店`mask’に行き私の頭の中を整理してきたところだ。

   山村君に手伝ってもらい、少し現実的にどうなのかとか

   人物を実際に当てはめて行ったりとかしていろいろと考えたよ。

   まぁ、誰をどう想像して決めていくかはやはり山村君との方が

   詰めやすかったし少しもめたがある程度はやはり同じみたいでさ。

   弓弦君にとってはあまり表に出るのは好きじゃないから

   この話はうれしくはない話だろうが、私にとっては君と仕事がしたいの一心で

   話を書き上げた。わかってくれるだろうか。

   弓弦君と知り合って、君の精神と意識の中で人を引き込み

   君と会えない夜がどれだけさみしいものか

   そう思わせる君と、一緒に仕事ができたらどれだけ嬉しい事だろうか

   それだけを考えながら書き上げたこの作品。

   弓弦君が事件に巻き込まれ、どんなに私が落ち込んだことか。

   君が助かり意識が戻り、私も君に会いに行きたいが

   少しもう少し詰めた話をしたいので、もう少し待っていてくれよ。

   弓弦君。君しないないんだよ。そして、君のいとこのひかり君。

   私には君とひかり君としか頭の中にはないのだよ。

   だから断られるとこの話はつぶれることとなる。

   というか、あの映画化するものは弓弦君を愛するがゆえに

   書き上げたものだから、君がやらないと表には出ないこととなる。

   こんなことを言っては弓弦君を脅迫することとなってしまうが

   君のために書き下ろした作品で、君のために映画化することとなる作品だ。

   だが本格的に発表して始動するのは、まだ2年3年先だ。

   だから心の準備もゆっくりとでいいと思うよ。

   弓弦君、君が断ることは考えていない。いい返事を待っている。´


困った人たちだ。PC用アドレスを知っているがゆえに長い長いメールができるんだと。

一方、携帯のメールも来ているのだけれどそれを見るのが怖い。


 `弓弦。


   弓弦が気が付く前に行ったっきり、顔を合わせていないのが

   少し不思議な気分だ。それから元気にしているのか?

   事件のことをTVが騒いでいるがまだ正式な発表がないままだけど

   怪我はどう?弓弦が出れる状態でないと記者会見もできないだろうし

   骨折とかは治るのに時間かかるしな。´


 `弓弦。


   沖縄から長崎までそして弓弦の家につくまでのあの楽しい時間が

   俺の中での弓弦との一番の時間。それが今では懐かしい思い出。

   その怪我が治れば、ゆっくりでも治れば俺は弓弦と二人で出かけたかった。

   それも、多分無理かな。西村さんが言ったよ。´


  `弓弦、ごめん何度も。


   弓弦と西村さんが結婚する話を。記者会見で発表すると。

   弓弦。こんなことを言ってはみっともないんだろうが

   西村さんがそばにいなければ俺がそばにいるのにと。

   なぁ、弓弦。俺振られたんだよな。

   だから、こうやって気になるとかメール入れるのは

   本当は女々しくて俺的に嫌なんだけどさ。


   なぁ、弓弦。弓弦さえよければ退院したら俺と二人で出かけないか? 

   俺、西村さんの所に嫁がれる前に弓弦と出かけたい。

   て言うか、結婚しないんで欲しいんだけどね。

   返事はそのうち聞きに来るから。


   そうそう、来週なんだけどお見舞いに行くから。

   んじゃまた。   渉´


 `弓弦さん


   お久しぶりです。よくなってきていますか?

   この間誠さんが行ったんでしょう?僕も一緒に行きたかったけど

   誠さん2回も行くなんて聞いてなかったから。

   僕も明後日お休みなので、お見舞いに行きますね。

   貴志先輩も健先輩もみんなみんな弓弦さんを待っていますよ。

   早くけがが治りますように。´


 `弓弦さん。


   元気?気が付いたと連絡が来たときは

   店中で雄叫びあげちゃったよ。その後、具合はどぉ?

   弓弦さんがいつ帰ってきてもいいように

   弓弦さんのブースはきれいに磨かせているよ。

   西村さんから誠先輩に電話があった時の

   あの夜のみんなの喜んだ声を聞かせたかったさ。

   俊哉がお見舞いに行くとかメールしてこなかった?

   俺は明日が休みだから、明日行くね。

   久しぶりに弓弦さんの笑顔を一人占めしたいよ。´


 `先輩


   亜紀です。大丈夫ですか?ここが沖縄というのがもどかしい。

   先生もみんな心配していました。でも本当に良かった。

   TVで先輩が見つかったと流れてそして命に別状ないと知り

   本当に安心しました。これ以上心配させないでくださいね。

   また元気になったら、沖縄に来てくださいね。

   そしてあたし、推薦枠で決まりそうです。待っててね。先輩。´


 `弓弦


   ちぃっとは元気になった?

   渉からアドレス聞いて、メール入れています。

   圭一郎だよ、圭一郎。

   右足の負傷と右鎖骨?左肩甲骨?大丈夫?

   でも弓弦の事だから、絶対バーテンダー復活だよな。

   楽しみに待ってるからさ、早く良くなってくれな。

   でさ、真面目にさ渉や翔太たちとでなく

   俺とデートしよう。絶対退屈させないしさ。

   もちろん西村さんに内緒、見つかるときっとだめって言われる。

   来週、お見舞いに行くからその時返事ね。んじゃ。´


 `原田さん


   秋山です。大変でしたね、俺も気が気じゃありませんでしたけど

   西村さんも翔太もみんな命が助かってよかった。

   俺は素直に原田さんと仕事がしたい。

   退院する前にうちの社長と共に川上社長と原田さんと4人で

   仕事の話をしたい。俺さ、すげぇ原田さんと仕事がしたいって

   今一番そう思ってるんだ。西村さんと婚約するから

   きっと原田さんはバタバタなんだろうけれど、その気持ちは

   全然変わらないからさ。退院して動けるようになったら

   俺と一緒に仕事をしてください。

   いい返事を待っているので考えてくださいね。では。´


 

  `弓弦


   おれおれ、正弘です。

   事務所にいまいるんだが、秋山君から電話があって

   弓弦に正式に仕事の依頼が来たんだ。

   そのうち秋山君か山本社長がアポ取ってくると思うが

   うちの社長がそっちに一緒に行って詰めるらしいから

   仕事の話考えておいて。内容はその時はなすって秋山君が言ってた。

   で、久原氏から正式に弓弦の映画の話もいただいた。

   まぁ、かなり先の話だからということらしい。

   なんだか俺も不安だな。際どいものみたいだぞ?

   とりあえずその連絡と、俺来週から北海道なんだよな。

   今日の夜はそっちに行くから。その時話すよ。またあとで。´


 `原田さん


   せっかくお見舞いに来たのに、

   電話で弓弦さんと話が少ししかできなかったことが

   気にかかる達哉です。怪我もだいぶ良くなっていましたね。

   中村も上村もお見舞いに一緒に行けなかったから

   別口でそっちに行くって言ってたよ。僕も一緒に来るから。

   でね。で、二人っきりになれるときに別でそっちに行きたいんですが

   誰も来ないとわかっているときを教えてくれませんか?

   相談したいことがあるんです。お願いします。

   その事は他の人には知られたくないんで、誰にも言わないで。´


 `原田君


   業務連絡なんだがメールですまない。

   行くときはまた連絡を入れるが、君に正式に仕事の話を

   M'scompanyさんから頂いた。でだ。

   その話をしに山本社長と秋山君と私とでそちらに行く。

   その時は人払いを頼むよ。君が退院してからの初仕事だ。

   それと、君にはもう話をしてあると言って久原護氏から

   映画の話もいただいた。君のために書き下ろした作品だとも

   伝えてあるのでと。どうするかはじっくり考えるといい。

   どちらにしても、君が動けるようになってからの話だから。

   では、また後程スケジュールを確認してそちらに行く日時を連絡するよ。´


 `弓弦さん、翔太です。


   この間は、思わす泣いちゃってごめんなさい。

   て言うか、もっともっと僕は大人の男にならないとって思った。

   年上なのに、もっともっとしっかりしないから

   西村さんと同じ土俵に上がれなかったんだって。

   そっくりなだけじゃなくって、

   僕は弓弦さんのことを心も体もすべてを生れるときに

   半分こして生まれてきた命の片割れだとそう感じてるんだ。

   撃たれて顔を起こしたら弓弦さんが連れ去られて

   殴られたところを見た瞬間、僕も体が痛かった。

   撃たれらところじゃなくって、弓弦さんが殴られたところと同じ場所が。

   手術して麻酔が切れても体中が痛くて

   その反面、弓弦さんも同じところが痛いんだって。きついんだろうなって

   そんな風に自分の体の痛みを感じてたんだ。

   西村さんと結婚しても、きっと弓弦さんと僕は離れない。

   槙村先輩がどう邪魔をしても多分離れないかもって

   最近そう思うんだ。だから、西村さんの前で

   弓弦さんと長崎に行きたいって言ったのは僕のそういう思いから。

   早くけがが治るといいな。

   時間があるときはそっちに行きます。

   西村さんも忙しいだろうし、僕が看病しますね。

   槙村先輩よりも僕の方が西村さんに信用ありますし。

   きちんと西村さんにもそうお伝えしています。

   また仕事がひと段落ついたらメールを入れます。翔太。´


 `弓弦さんっ!


   退院まぁだぁ?あなたのかわいい健ちゃんですよぉ(w

   本当に、意識が戻ってよかったです。

   でも本当に大丈夫ですか?両肩を怪我していると聞いた時は

   すごく俺らも不安になっちゃいました。

   弓弦さん復活まではかなりかかるだろうけど

   お客さんも弓弦っさんはってうるさいんですよw

   だから一度顔をだしに来ませんか?

   誠さんが休みの日だと外出許可が下りればお店も来れるでしょう?

   お願いします、俺らの安心のためうるさいお客さんのためw

   みんなみんな待っていますのん。

   こんなこと言うとあれだけど、俊哉なんてカレンダーに

   印しつけてるんっすよ?

   真志なんて女々しい日記なんて書いちゃって。

   弓弦さんの愛しい健ちゃんは浮気もせずにお店で頑張っているというのにねw

   今日もあなたの健ちゃんは弓弦さんのブースをピカピカに磨いていますよw

   だから、早く元気な笑顔を見せてください。でゎでゎ。´


 `弓弦ちゃん


   明海だよ。大変な目に会っちゃったね。大丈夫?

   弓弦ちゃんに会いに行きたくてもガードが大変で行けなくて。

   主人もね気にしているのよ。あの時の弓弦ちゃんの笑顔を覚えているから

   いつもあたしの顔を見ると大丈夫かなぁって言うのよ。

   でも、命は助かったんだし怪我が治ればまた会えるね。

   弓弦ちゃんがあの店に復帰したら復帰一日目には会いに行きたいから

   絶対連絡をちょうだいね。

   主人と必ず行くから。弓弦ちゃん、無理はしないことだよ。

   それが一番の早く治る近道だからね。

   お見舞いに行ける時間が取れたらその時も連絡してね。

   早く弓弦ちゃんに会いたいよ。´


 `弓弦さん。


   きちんと弓弦さんのブースきれいに保ってますよ。

   いつ帰ってきても弓弦さんが気持ちよく使えるように。

   弓弦さん。僕は弓弦さんがいないとさみしくてたまりません。

   早く帰ってきてくださいよ、そしてまたいろいろ教えてください。

   もうみんなお見舞いに行ってるんだろうけど

   僕は弓弦さんの顔を見るとまだ泣きそうなので行けません。

   早く元気になりますように。峻。´


弓弦は携帯に入っているメールも見たくないなぁと思いつつも次々と読んでいく。

メールを読んでいくにつれて涙があふれてきた。

たくさんの人に心配をかけてしまったこと。

たくさんの人に気をもませてしまったこと。

そしてたくさんの人に自分は大切にされ愛されていたことに

今頃気づいた自分が恥ずかしいし、そんな自分にあきれてしまったこと。

そしてその愛されている現実がすごくうれしくて涙が流れてしまった。

でも弓弦にとっては大切なメール。

携帯に届いた一つ一つ大切な仲間からのメールに嬉しさのあまりに涙を落とす。

ここの所涙腺が弱くなったなぁと思う弓弦だが、

その反面西村と出会って6年、これがきっかけで女に戻るということがひしひしとわかる。

自分でも、女な自分が顔を出していることに気づく。

どんなに努力しても一つのきっかけでこんなに自分が元の姿に

戻ることなど思ってもみなかった。

なんとなく、自分がこのままんがされていくことに少し違うんだけどなぁと

そう考えながら涙を拭いた弓弦は携帯の画面を見つめている。

するとPCの方にもまだまだメールが。

忙しいなぁと思いつつも目を通そうとすると、先生の回診が始まりそうしないうちに来られますと

看護師が部屋に来て言った。

とりあえず携帯は充電器に置き、PCの電源は待機させた。

涙痕がわからないように、顔を拭いて。笑顔の練習をして。

「原田さん、回診です。」

「はぁい、どうぞ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ