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記者会見その後

そういって会見室を出て行った。

会見室は解散され片づけられていく。朝を迎えるために。


一方、家に帰されたひかり。家に帰りついたすぐに母に抱きついた。


「ひかりどうしたんだい?ひかりっ!」

「弓弦が」

「弓弦がどうかしたのかい?」

「誘拐された!」

「何がどうしたんだい、ひかり。ちゃんとお話し!」

「今日銀座でチャリティーコンサートがあった・・・・・で・・・・・しょ?

 UFJ銀座で強盗があって・・・その強盗犯グループがチャリコンの

 開催されていた公園を襲撃して西村さんを撃ってmartinの

 翔太さんも撃たれちゃって。・・・・・そこにいた弓弦が。弓弦が・・・。」


「弓弦がどうしたんだいっ!」

「西村さんの返り血を浴びて泣き叫んでいるところを

 犯人たちが連れ去っちゃった。」

「弓弦が・・・・連れ去られた???」

「お母さん、弓弦が・・・・(泣)」

「大丈夫、やすやすと死んでしまう弓弦じゃないさ。ちゃんと帰ってくるよ。

 警察が動いているんだろう?大丈夫。そう思ってないとね。」

「うん、だけど・・・・・。」

「身内が信じないと誰が信じるんだい!」



ひかりはあまりにも興奮して泣きじゃくり話すものだから

そっちの方が気になって自分がしっかりしないとと。

すぐに父さん父さんと呼びつけ、弓弦の爺さんに連絡をと。


「お前さん、電話しなきゃ。お父様には連絡入れないと。」

「もう小林が入れてるだろう、俺らはただ、弓弦が帰ってくるのを

 待つしかないんだ。」

「でも、これだけ騒がれているんだ心配してるさ。

 連絡だけは入れようよ。帰ってきたときにも弓弦が電話できるようにさ。」

「そうだなぁ。」


 `ドン・・・ドン!ドンドン!´


「おじさんおばさん!」

「あぁ、誠さん。」

「すまない、目の前でやられた。俺が悪いんだ。」

「誠さん、誠。お前じゃない悪いのはお前じゃないじゃないか。」

「すまない、俺の目の前で。」

「これ、落ち着かんかい。」

「まず西村さんは?」

「意識がまだ戻ってないが、手術は終わった。大丈夫だということだ。」

「弓弦がかわいがってた橋本って男ん子は?」

「あいつは弾が貫通しただけだから。」

「ならいい。弓弦が帰ってきたときに心配させられない。」

「俺どうしたらいいんだ?」

「ここにいな。ここで弓弦を待ってておくれ。」

「いいのか?俺が。」

「あたしたちしかいないんだよ、弓弦の家族は。一緒に待とう。」




車に押し込まれた弓弦。口をふさがれ頭を押さえつけられ何もわからない。

後部座席に押し付けられて何が何だかわからないまま車が急発進した。

蛇行に蛇行を重ね、その公園から遠ざかる車。

追跡をかける警察の車もバイクも何もかもがついて来れない。

その上に覆面の追手がかかるが、仲間のバイクが遮り邪魔をする。

その周りにいる人々は何かのロケがあっているのかとただただ茫然とそれを見ていた。

警察も何もかもが役者やスタントマンだと。

右に左にハンドルを切り逃走車の中でもバランスがとりにくく

弓弦は全く立ち上がれない。殴られ蹴られ体中が痛いために

後ろの席に座れずそのまま倒れ込んでいる。

それを抑えるように仲間が毛布を掛け抑え込んでいた。

かなり激しく車の中で叩きつけらてている。

車酔いを通り越してめまいが弓弦を襲い、まともに顔をあげようと抵抗できないほどだった。


犯人らは一度銀座を離れ町中をうろうろと走り回る。

気づかれないように少し周りを走り回ったその強盗に使った車は

3ヶ月ほど前に群馬県内で盗んだ盗難車で、色を変えナンバーを変えて使用。

追跡を振り切った後しばらく走り回り街中の大きな立体駐車場に入りその車を乗り捨てる。

その場所にはもう一台逃走用の車が用意してあり着替えをし、荷物を乗せ換える。

捨てていく車の中を、必死にふきあげるやつもいれば

乗せ換えたバッグを外から見えないように上に荷物を載せたりしている。

弓弦も一緒に降ろされ、目隠しをされているうえにサングラスをかけさせられた。

きちんと計画されていたかのように、決められたようにすべて進んでいる。手際よく。

車を変えると、その場を離れ首都高に乗ったのか高速道路に入ったのか

車の振動が遠出をする時の振動に似ていると感じた。

しばらくしてパーキングに寄ったかのかと感じたが、すぐに出発。

目的地までを急いでいる様子だった。

少し遠くまで来ているのだろうか、検問という検問にも引っかからずに

都を出ていける様子だった。

しばらくすると、山道に入ったのだろうかそれとも田舎道のような

振動が激しく伝わってくる様な道を走っていると感じていた弓弦。

どこに連れて行かれているのが不安になってきていた。

しかし午後にはどこかについたようだった。

そこは長野との境にある、仲間の一人の自宅倉庫に向かったようだった。

日が暮れるのが早く感じた。本当に真っ暗になっていくのが肌で感じられる。

一晩そこで静かに身をひそめるため、車の中に一人弓弦をのこし一度その倉庫を離れた。

夜が明けた早朝、犯人たちの中の2人が倉庫に戻って

車の外で何かごそごそと物音を立てている。

車は真っ黒い商用バンに見せていた。

窓も黒フィルムが貼ってあり、後ろの席が荷物を置いている雰囲気を出してあり、

運転席や助手席には商いをしている車のようにいろんな書類とかを

置いてあり怪しまれないように車の中が見えるようで見えないようにしてあった。

それを二人で違う車に見せかけた。

まず、車体の黒い塗装。天井の方からバリバリと何かをはがしている。

バスなどの大型車両によく使われるラッピング塗装の塗装膜だ。

それをはがすと、ブルーのツートン塗装が出てきた。

次に窓の黒いフィルムをはがし、ミラーフィルムを張り付けた。

車の中には弓弦がいたが縛られ口をふさがれていたために動けないでいたが、

作業に邪魔だといい倉庫の端におかれた椅子に座らせられた。

車の中の後ろの座席を外し、大きな釣り用のクールボックスを積み

上の方には釣竿を置くためのバーが取り付けられる。

数ほんの釣竿が置かれ、雑誌やいろんなものを釣りを楽しむ車にかえられた。

そうしているうちに残りの犯人たちがこの倉庫に戻ってきた。


 「おい、済んだか?」

 「あぁ、済んだ。行くか?」

 「着替えたか?お前ら。」

 「俺はこれでいいが。」

 「行くか。そのボックスに女を入れろ。死んだら困る。少し隙間を作っておけ。」

 「じゃ、マンションまで行くがいいか?」


犯人たちは、弓弦をクールボックスに入れその場を離れた。

きちんとその倉庫の中には車を変えた際に出たごみなどを

すべて焼いて証拠を残さないようにして。

そして、別の仲間が借りたマンションへ移動した。

一度、途中でコンビニらしきところに寄ったらしいのが、

気が付いていた弓弦にはそこがどこなのかは全然見えないのでわからない。

不安ななか、隠れ家らしきところの駐車場に着く。

弓弦はクールボックスに入れられたまま、部屋に連れて行かれる。

建物の内部にある感じの所に車が入っていったのはわかった。

そして車が停まるとみんなで釣りの話をしながら車の周りでざわざわしている。

知り合いなのか誰かが話しかけている。連れたのかどこで釣ってたのか

ボックスには何の魚が釣れて、とかそんな話をしながら笑い声が響く。

クールボックスが車の中から出され、

空を舞うようになんだか足場が悪い階段を上がっていったような不安定な状態になり

抱えられて移動しているとわかる弓弦。しかし動けないので

ボックスの中から音を立てたりバランス崩させてボックスを落とさせたりはできなかった。

玄関が開く音がする。部屋に移動すると厳重に玄関のかぎがかけられる音がする。

弓弦はボックスから出された。小さい明りがつけられているだけの暗い部屋。

その暗い部屋はカーテンがきっちりと閉められひかりも入ってこない。

何も置いてないフローリングの部屋。ただ数枚の毛布とクッションがあり

そこに弓弦が転がされた。ボックスの中から、音が出ないようにそっと

転がされたが犯人の一人が機嫌が悪かったのか弓弦を蹴りつけた。


 「おい、やめとけ。おやじが手を出すなって電話してきただろう。」

 「なんかこいつの顔が気に入らねぇ。」

 「やめとけって。無事に逃げても、おやじに睨まれたらそこでおしまいだ。」

 「そうだ。命だけは手を付けるな。どう遊んでもいいが命だけは手を出すな。」

 「兄貴、いいのか?上玉だぜ?こいつ。」

 「やめとけ、手ぇ出すなって言われてんじゃん。」

 「そうだな。とりあえず、騒がないようにしておけ。」


弓弦は蹴られたときの痛みに耐えれずに、意識が遠のく中

一人だけ聞いたような声だと考えていた。

都内だが都心部から少し離れたマンションに6人は隠れていた。

弓弦を動けないようにし、弁当を食べながら6人で逃走する計画を立てている。

6人の犯人の誰かの部屋には間違いがないが、都内のマンションには違いがなさそうだ。

またしばらくして隣りの部屋で6人が話す声で弓弦は気が付いた。


 (ここはどこだ?)

 (痛い。手が痛い。)

 

少し体を動かしただけですごい痛みが体中を走る。

部屋が薄暗かったため、縛られたまま動こうとして

壁にぶつかり音を立ててしまった。


 (おい気が付いたのか?)


ドンとドアを蹴り開けて入ってきた一人。



 「久しぶり、弓弦。」

 「・・・・・・・・んっ。」

 「喋るな。お前綺麗になったなぁ。」


そう話しかけると弓弦の足に手を持っていく。

触られるのが気持ち悪く感じる弓弦はその足をひっこめる。

ひっこめた瞬間弓弦の頬に痛みが走った。




青白い弓弦の頬口の端から血が流れている。


 「お前さ、相変わらず愛想悪いな。痛いか?苦しいか。

  ははは。みじめだな、その恰好。

  世間ではお前を無傷で返せと騒いでいる奴いるらしいが。

  お前次第さ。おとなしくしてろ。」

 「おい。和哉、何している女はおとなしくしてるか?」

 「あぁ、大丈夫だ。それより、横浜からどっちに抜けるんだ?」


そういって弓弦のいる部屋から出て行ったが、ドアを開けたままこっちを見ている。

弓弦は何がどうなったのかはわからないまま縛られ部屋にいる。

しばらくして和哉が近づいてきた。


 「なぁ弓弦、この部屋を汚されても困るからトイレには連れてってやる。

  騒ぐなよ、俺はお前を手にかけたくないからさ。」


そういって弓弦の口のガムテープを外す。


 「なんで?なんでなの?」

 「黙れ。黙っていればお前は俺らが逃げた後解放されるんだ。

  黙れよ。」

 「何があったのさ。強盗してさ。」

 「金が要るのさ。金が。ただそれだけさ、首突っ込むんじゃねぇ。」

 「すんだら、でて来い。なにもしゃべるな。」


部屋にまた戻される弓弦。前よりもきつく縛られた。

口にガムテープをされる前に一つ聞きたいと弓弦が言った。


 「誰かが撃った西村さんはどうなった?martinの橋本はどうなった?」

 「命には別状はないとニュースで言ってたよ。それでいいか?」

 「いや、それでいいかじゃなくて、怪我は?」

 「西村の方は意識は不明の重体だが命には別状何ともないそうだ。

  若造は、弾が貫通しているから大した怪我じゃねぇ。」

 「そっか。ならいい。」

 「弓弦、人の事ばっかり心配するんだな。

  ちぃっとは自分の命でも心配しろよ。あんまり騒ぐと無事には帰れない」

 「あたしはいいんだ。あの人たちが無事ならば。」


弓弦はそういうと大人しく口にガムテープを張られ、転がされた。

誘拐されてどれぐらいの時間がたっているのかがわからない。

今はどこに閉じ込められているのかがわからない。

ふと気が付くと、真っ暗だし2,3時間おきに和哉がトイレに連れて行くだけ。

食べ物もくれるが弓弦は食べれない。緊張に包まれて体が受けつけようとしない。


 「お願いだから食べれ。お前に何かあると困るんだ。」

 「食べれないんだ。ごめん。」

 「大学の時とちっとも変らない。お前は俺を嫌っているんだ。」

 




誘拐をしたのは下っ端連中に交じっているのは弓弦の大学時代の元彼。

高橋和哉だった。

弓弦は彼がそういう立場の人間になっていたのが悲しくなってきた。

あれから彼に何があったのだろうと。あのころの優しい高橋ではない。

今は金目当てに強盗をし、仲間が発砲してけが人をだし警察に追われている犯罪者。

彼が大学を出てからは、弓弦もなにも知らないのだけれど

弓弦自身はこんな風は生活をしている彼だとは思いもしていなかった。

隣りの部屋で彼らは逃走する経路を決めたようだった。


どれぐらいの時間が過ぎただろう。弓弦の意識も時々途切れる。

明るいのか暗いのか昼間なのか夜なのかわからなくなってきた弓弦。

強盗事件があって、本当は2日しかたっていないのに

幾日もたったような感触がある。部屋から声が聞こえなくなった。

弓弦は気になって開いているドアから隣りの部屋を見るとだれもいない。

荷物もない。どうしたのだろうとみていると、和哉が戻ってきた。

誰もいないわけじゃなかった。

それぞれがそれぞれの生活を守りつつも起こした強盗事件。

バイトしている人間や仕事をしている人間は怪しまれないように

毎日の行動を何もなかったかのようにしているだけなのだ。

和哉もその自分の仕事から帰ってきたのだった。



 「次の日曜の朝、逃走する事にした。逃走経路も決まった。

  お前もつれて途中まで行く。連れて行かれる。

  途中で追いかけられた時の人質だからな。

  でも、いいか。俺はお前を助けたい。だから言うことを聞け。いいな。」


 (うん、わかった)そう弓弦はうなづく。


 「夜明け前にバンに乗り込む。金と仲間と。

  二子玉川沿いを横浜に向かって堤防沿いを走る。検問がないところをだ。

  ある橋のたもとに来るとき俺はお前を車から突き落とすからうまく転がれ。

  俺は奴らには何にも言ってない。ただ、お前を川沿いで突き落すとだけしか。

  だからそこでけがをするか死んでしまうかはお前次第だ。

  もうすぐ仲間が帰ってくる。いいな。

  お前は俺が言ったことを守れ、生きて帰れ。いいな!」

 

弓弦は涙ぐむ。

また一人部屋の戻された。一人一人帰宅するとそれぞれの分担で準備をしている。

逃亡するにはかなりな神経を使うが、この隠れているマンションにも

警察の手が伸びてきたらしい。時間がないようなのだ。

彼らは相当な焦りの色が見えている。

ここも引き払うがために荷物は置いてはなかったが、部屋に有るTVだけが

煌々と夜の明かりとなっていた。窓から見える景色も何の変哲もない

普通の景色だが、電車の音と子供の騒ぐ声とが夕方に聞こえていた。

和哉が話した二子玉川の川沿いのどこかなんだろうけれど

誰にも連絡を取るすべがない。ただ、まだ計画は実行されない様子だった。


ある昼間、チャイムが鳴り犯人の一人がチェーンをしたドアを開ける。


 「こんにちわ。警察の者ですが。」


そう笑って話す警官二人組、部屋の中を覗くように話を始めた。


 「こちらはどなたが?」

 「あぁ、俺の部屋だけど。もう引っ越すので引っ越しの準備で。」

 「そうなんですか。いやね、最近ここら辺でも不審者騒ぎで

  私たちも住民の皆様にいろいろと話を聞かなければいけなくてですね。」

 「そうなんですか?」

 「痴漢も多いし、ほら。この間の銀座の強盗誘拐事件もそうだし。」

 「世の中は大変ですねぇ。」

 「まぁ、何かありましたら私たちはその角の交番におりますので

  些細な情報でも教えていただけたら助かります。

  お引っ越しの準備で忙しいのにすみませんなぁ。ご協力お願いします。」

 「はぁ。」


そう言って犯人の一人はドアを閉める。それが犯行から4日目の日中だった。


弓弦は空腹もあるのだが、あまりの緊張に気を失っていた。

5日目の夜、犯人達6人は車にいろんな物を運び準備をしてた。

ここ数日一時間おきに警戒に回るパトカーが増えた。

何かを感じているのか昼間も警官が増えたような気がしたと仲間どうして話をしている。

7日目の夜、6人が部屋に集まった。電気を消し、懐中電灯だけで部屋にいる。

外から見るとかすかな明かりだけがつく部屋だが、上の階のために中が見えない。

そのため普通に誰かが住んでいる部屋としか見えないようにしてあった。


 「早朝4時。ここを出る。金は分けたか?」

 「1億づつ分けた。ちゃんとバッグに入れてあるだろう。確認したか?」

 「あぁ、俺のもある。」

 「俺もだ。」

 「それぞれそれを抱え車に乗れ。」

 「今何時だ?」

 「3時だ。」

 「おい、女を起こせ。連れて行く。」

 「わかった。」

 「これから10分おきに部屋を一人づつ出る。」

 「女を連れて出るのは最後だ。誰かに見られたら

  泊まっていた彼女が熱で動けないので救急に連れて行くと言え。

  わかったな。」

 「わかった。」

 「じゃ、移動する。」

 「おい、お前。女の隣に座って、打ち合わせ通りの所で

  車から突き落とせ。そのまま、停まらずに行くぞ。」

 「わかった。」


一人づつ、部屋を出ている。弓弦は意識がもうろうとしている中

犯人に口をふさがれ身動きできずにいた。しかし弓弦を抱えて出るのは和哉だ。

そして隣に座り計画通りに車から突き落とすのも和哉だ。

他の人ではない和哉だ、弓弦はうつろう意識の中で和哉の言葉を信じ

犯人たちの車に乗せられる。

ここはどこなんだろうと、外からは見えないフィルムが貼られたバン乗りこんだとき

目を凝らして外を見ようとするがわからない。見えないのだ。

何も食べずに、縛られて閉じ込められていた弓弦。

動けずに頭をうなだれるしかなかったが、乗り込んだときに窓にもたれかかり

外を見ようとしていた、うっすらと夜が明ける街並みがぼやけてしか見えない。

一週間も緊迫した暗い部屋の中で緊張していたためか、あまり周りが見えてこない。

声も出ない。自分で自分を動かすことも不自由に感じている。

自分でも息をしているのがやっとな状態だとそう感じてはいた。

しかし、和哉があたしを突き落す時それだけはしっかりとしないとと。

最後の少ししかない体力を温存しようとしなければならい。

弓弦は黙って和哉の横に座っていた。

土手を走る逃走の車が勢いよく走り過ぎる。飛ばし過ぎだ。

乗り込んで10分過ぎたぐらいか少しすると、

明るくなる前に弓弦を突き落そうと車のドアが開かれた。

耳元で和哉がささやく。


 (弓弦、今でもお前を愛している。生きて帰れっ!)


そう言って、思いっきり弓弦を車から突き落とした。







弓弦は勢いよく突き落とされ土手の草むらに転がり落ちていった。

全身を強く打ちつけてしまい、気を失ってしまいそうになった弓弦。

そのまま草むらを転がり落ち、橋の欄干に激突してそこで停まった。

その場所でぶつかって止まらなければ、

動けないまま川に落ちてしまうところだったのだが、和哉は川に落ちないよう、

ドアを開け突き落す瞬間橋の欄干が見えた時に弓弦を突き飛ばしたのだ。

車のスピードがあまりにも早かったため力いっぱい突き飛ばさないと

川に落ちてしまうと思い、和哉の弓弦に対する優しく思いやる気持ちは

力いっぱい弓弦を突き飛ばした。

そのあとだ。しばらくすると遠くで何か滑るようなキーと言った音が遠くでしたかと思うと

すごい大きな音がした。車の爆発音だ。

気を失って意志が遠のいていく弓弦の耳に微かにその音だけが残ったまま

意識を失っていった。



















UFJ銀座での銀行強盗が起こり、そのそばの公園でチャリティーをしていた

弓弦たち銀座の仲間で集まって楽しかった日曜。

その楽しかったはずの場所で強盗犯が目をつけ発砲し逃走のために人質を取った。

UFJ銀行銀座支店での強盗誘拐事件。

その犯人の潜伏先は驚いたことに、狛江の弓弦の自宅から

車で一時間ほど離れたところにあったマンションだった。

一週間たったその朝、犯人組6人はそのマンションから移動するために

朝早く多摩川の土手を走り、人質である弓弦を車から突き落とした。

しかし、あまりのスピードで走っていたため弓弦を突き落した後の車両を

パトロール中のパトカーが遠くからそれを見つけ近づいて行った。

あまりに不審な運転をしていた車両のためにその車を追っていこうと

赤く煌々とパトランプを付けたとたん 犯人たちは動揺しスピードを上げた。

その追いかけはじめたパトカーとは別に巡回中らしきパトカーが

前の交差点の右側からまた一台パトカーが出てきたのを見た瞬間、

逃げようと急にハンドルを切ったため、パトカーが何かおかしと気づき追跡を始めた。

しかし、逃げるためにかなりスピードを出していたため線路の近くまで行ったときに

ガードレールにぶつかり、沿道の街路樹に当たりながら

ブレーキが利かないまま線路の下をくぐろうとし

瞬間ハンドルを切りそこね橋脚に激突炎上した。

弓弦が突き落とされた場所から5kも離れていたのに、

弓弦の耳にも激突した音が残るぐらいに、すごい炎上事故だった。


6人全員死亡する事故となった。

はじめに犯人は5人と思われていたため、激突して車が炎上し

6人の遺体が見つかった時は、一人は弓弦だと思われてしまった。

遺体安置所には、ひかりの両親と弓弦の爺さんが

朝早くに連絡を受け呼ばれたがどの遺体も身長や体格が違い過ぎ、

弓弦と確認できる遺体がなかった。

炎上事故があった場所の管轄の警察署に呼ばれて遺体の確認と言われ

朝早くに呼ばれたひかりとひかりの両親3人は遺体を前にして弓弦を確認できないでいた。

まだ6時前。この一週間、`mask´では通夜のような静けさのなか営業をしていた。

弓弦一人がいないだけで、なんでこんなに静かなんだと言わんばかりに。

もちろん事件を知っている弓弦の客は毎日のように顔をだし

弓弦の安否を確認しては帰っていくという一週間。

ひかりもショックのあまり数日会社を休んだが、

どうにもならないことを気にしててもしょうがないと、仕事に出ていた。

弓弦とひかりがいとこ同士と知る周りは、

一生懸命に笑顔を作り出すのに元気がないひかり。

誠もそのひかりとひかりの両親のことが心配で仕事が終わると弓弦の家に帰っていた。

一方、翔太は一週間で動けるようになり、撃たれた肩のリハビリ次第では

退院ができると言われ安心していた。

西村も麻酔が切れ、手術から丸一日で気が付いたが弓弦のことをしっかりと覚えていた。

弓弦のそばにいた自分が撃たれ、西村自身の返り血を大量に浴び血まみれになったまま

目の前から連れ去られていく弓弦を覚えていた。

気が付くと目の前には川上社長とマネージャーの山田がいて

気が付いてよかったと話しかける。


「良かったな。お前怪我だけで済んで。」

「社長、弓弦は?今は?」

「お前覚えているのか。まだ行方知れずだ。安否の確認もできていない。

 でも、帰ってくるよ。警察も馬鹿じゃない。

 見つかるさ、無事で見つかる。そのためにも、お前が怪我を治さないとな。」

「良かったです、本当に気が付いてよかったです。山田、これで寝れます。」

「弓弦が・・・・・・。」

「心配するな。小林さんが何か知ってる様子だ。無事に帰ってくる。

 お前は怪我を治せ。」

「社長、すみません。こんな怪我を負って。ツアーも一部変更しなければいけない。」  

「お前のせいじゃない。損失は犯人にかぶせるさ。やつらは6億盗んでいるからな。」

「6億と弓弦と。」

「お前が気が付いたことを知らせねばならない。

 事務所に戻るが、山田、お前が付きそうよな。」

「もちろんです、何のためのマネージャーですか。」

「んじゃ頼む。お前が気が付いて大丈夫なことを世間に知らせないとな。

 世間様も心配している。山本社長にも小林社長にもみんなに知らせなければ。」

「すみません、お願いします。」


治療室から個室に移る西村。TVとPCと持ち込み、チェックを入れる。

もしかしたらと。メールが入っていないかと。

しかし弓弦からの何かが何もなかった。

気を付いてからの一日一日が弓弦への心配で胸がいっぱいになっていく。

お見舞いで秋山たちが来た。槙村も。同じく入院している翔太も。

一緒にmartinの4人もみんな。誠さんや貴志や、`mask´の面々も。

弓弦のために無事に気が付いてよかったと。

西村さんが無事なのだから、弓弦も無事に見つかると。

こんなに弓弦の仲間は繋がりが強いのかとうらやましくなるぐらいに

みんな弓弦に対して優しく接するように西村にも優しかった。

すると、秋山と槙村と一緒に見舞いに来ているとき西村は伝えた。

槙村君には最初に話さなければと。


「隠していることがある、秋山さん。そして槙村さん。」

「なんですか?隠し事なんてみずくさい。」

「なんっすか?西村さん」

「特に槙村君には早くに言わなければいけなかったのだけれど。」

「弓弦の事ですか?」

「あぁ。」

「んじゃ、秋山さん。男の話をしたいので出てくださいよ。

 終わったら呼びますから。」

「俺だけのけものなんか?」

「いや、いてもいいですよ。隠すことじゃない。

 でも、ここだけの話しにしてほしい。」




「弓弦と俺はこのあいだ、気持ちを確かめ口約束だけだが婚約をした。

 そのために川上社長は弓弦個人とマネージメント契約を結んだんだ。」

「西村さんと弓弦が・・・・・・・・・。」

「まだ公表はするつもりはない。もしかしたら弓弦は優しいから

 本当の気持ちを隠しているかもしれない。

 結婚しようと伝えたことにうんと返事をしてくれただけかもしれない。」

「だからステージ上であんな歌い方。あの衣装だったのか、西村さん。」

「あぁ、俺は本気でプロポーズしたんだとそういう意思表示だったつもりだ。」

「槙村、もやもやとした疑問は飛んだか?」

「とんだ、なんとなくしっくりいかなかったことがすっきりした。」

「ごめん、隠してて。」

「いや、俺といても弓弦はちっとも幸せな顔をしなかった。

 それどころか違うことを考えているように見えていた。

 気持ちは西村さんで決まってたんだな。」

「すまん。」

「あとは弓弦さんが見つからないと西村さんも一生一人になるのか?」

「それは困る。弓弦が死んだら俺も後を追う覚悟だからな。

 生きて見つからなければ困る。」

「そうですね。まだ3日目です、これからですよ。」

「TVのニュースでもまだ何とも進展はないようですね。」

「つけっぱなしにしてチェックかけているが何もな。」


3人でいろんな話をしていたが、話しが終わり少しして彼らは帰って行った。


 (すまない。槙村君。すまない、弓弦。喋っちまった。)


そう思いTVを見ている西村。早く何か進展があればそれだけでも違うのにと。

退院まではまだしばらくかかるらしいが、おちおち寝ている訳にもいかず、

先生にいつ動いていいか尋ねはじめた。


「手術してまだ縫合箇所がくっついていない。

 それがくっついて出血しなくなれば一度検査をし

 内臓の方の出血も落ち着いていればいいのだが

 傷の具合が良ければ少し体慣らしをリハビリ施設で行って

 まぁそれから一週間でかな。

 君の体はよく鍛えてある、年の割には回復が早そうだ。」

「年の割にはって(笑)まだ俺40ですよ?」

「そうだな、まだ40だ。

 これからだものな、嫁ももらうこととなってるみたいだし。でもなぁ。

 連れ去られて幾日しかたってない。無事さ。

 無事でなければ今頃ニュースが流れている。

 何事もないということは無事だということだ。」

「そうですね、そう思わなければいけないのですが。」

「事件も早々に解決するといいなぁ。」

「そうですね。」


西村は、事件から4日目には自分で痛いと言いながらも

ベッドから起き上がれるようにはなっていた。

翔太の方も、退院が近いのかリハビリ室でも動きがスムーズに。

部屋でも、毎日友人たちが出入りしていてにぎやかだった。

周りにも心配させないように、復帰も退院後すぐらしい。

西村も良かったなぁお互い無事でと声をかけていた。

しかし二人の前で怪我こそしていなかったが西村の血を浴び

血まみれのまま泣き叫ぶ弓弦が連れ去られたのがショックで

たびたびに話しながら涙を浮かべてしまう始末。



翔太の退院が決まった7日目の朝。

多摩川から少し離れた街中で車が事故で燃えたという速報がTVで流れた。

そして6人の遺体がこげ残り、それの確認が急がれていると。

朝6時過ぎのニュースで流れた。そういう怖い事故があったんだと

早くに起きた西村は見ていた。それがその強盗の車だということも、

その車に乗っていたのが犯人らしき人物たちだということも、

ニュースでは一言も発言しなかった。

午前中の地域的なニュースでは普通に事故の話として流れていたその記事。

午後になると内容が急変した。


「今日の11時の警察からの発表によりますと、

 先日銀座のUFJ三菱銀座支店の強盗犯人グループが

 けさ早くにXX線の線路わきの橋脚に激突炎上したとのこと。

 この車からは遺体6体と共にバッグが6つ黒焦げの状態で見つかっており

 一つのバッグから出てきた紙幣の燃えた分からナンバーが読み取れ

 犯人が奪って逃げた現金6億のナンバーと照合。

 一致することが判明しこの6億だと判明しました。

 そして出てきた遺体6体が犯人グループのものだと。

 はじめは強盗グループは5人とされており、この遺体の一人は

 原田弓弦さんと思われていましたが身元確認のために呼ばれた親族のかたがたが

 この中に原田さん自身と思われるのがないといい、警察は、確認を急いでおります。

  

 現在、あちこちで捜索が続けられておりますが

 まだ原田さんは不明のままです。

 不審な家や、おかしいと思われるところがございましたら

 03-****-****またはフリーダイヤル0120-***-***まで

 ご一報ください。」


どの局でもそういうことが速報で流れた。西村の部屋に翔太が駆け込む。


「弓弦さんが!弓弦さんが!」

「落ち着け、翔太。まだその遺体の中に弓弦と決まった遺体はない。

 あの6体の遺体の中に弓弦はいなかったんだ。どこかに生きている、どこかに!」

「あぁ、僕もそう思います。僕も。今退院の手続きが終わり

 母さんと会計を済ませていたところなんです。

 僕、捜索に加わります。行ってきます。」

「翔太。みんないない、仕事で誰も動けない。

 お前しかいない。弓弦を頼む。翔太、俺が動ければ一緒に行くのだけれど。」

「待ってて、僕必ず見つける!弓弦さんを、必ず。」


そう言って西村の病室を飛び出した翔太。そのあとから西村の携帯に、電話がかかる。


「おぅ、川上だ。ニュースを見たか?」

「可能性が。今、翔太が、探しに行きました。」

「そうか、でもお前は動くな。傷が治っていないから動けば危ない。

 お前は翔太を待つんだ。わかったか?」

「翔太にも言われました。俺が行っても足手まといになってしまう。

 わかってますよ。きっときっと見つかるって信じています。」


川上は西村は勝手に動き回ってはいないか心配で電話をかけたのだ。

電話を切ると、槙村からすぐに電話が入った。


「西村さん、今大丈夫っすか?」

「あぁ。」

「ニュース見ました。もしかして動いていませんか?」

「いま、社長にも動くなと言われたばかりだ。」

「俺も今ロケで北海道なんです。動けないのが悔しい。」

「大丈夫だ、俺らの気持ちを持って翔太が探しに行った。

 きっと見つかる、今日見つからなくともすぐに見つかる。」

「ですよね、明日ロケが終わったらすぐその足で帰ってきます。

 俺も探しに行きます。」

「無理はするなよ。弓弦は大丈夫だから。」


そう言って、槙村は電話を切った。そうしないうちに誠が西村の病室に現れた。


「西村さん、いますか?」

「はい、どうぞ。あぁ、誠さんお久しぶりです。というか事件ぶりですか。」

「そうですね。見たんでしょう?ニュース。俺が脱走しないように???」

「いえ、西村さんの足になろうと貴志たちと来ました。

 これから、車の事故現場からみんなで探しに行くんですよ。

 で、西村さんの携帯をお借りしたいと。」

「俺の携帯?なんで?」

「弓弦の携帯ですが、連れ去られたときは電源が切られていた可能性が

 高かったんですが今朝の事故があってから、携帯がつながるんです。

 電源が入っているみたいで。でないんですが電話には出ないんですが、

 呼び出しは鳴るんです。」

「それ他の人には話したのか?誠さん」

「いや、まだ。毎日2時間おきにかけていたんです。

 それを誰にも言っていないんですが今日ベルが鳴ったことで

 西村さんにだけはと。そう思ってここに立ち寄りました。」

「そうなのか?ベルが。遠慮なく持って行ってくれ。

 かかってくる電話には出なくていい。ただその電話から弓弦の携帯にかけてくれ。

 お願いだ。俺の携帯なら弓弦が返事をするかもしれない。」

「そう思って。そう思って携帯を借りに来ました。

 お借りします大切にお借りします。そして絶対に見つけ出しますから。」

「頼みます。弓弦をお願いします。」


誠は西村の携帯を借りて病室を後にした。

駐車場で貴志や俊哉たちが数台の車で寄っていた。

西村は窓を開け、「頼む!」弓弦を頼むと大きな声で声をかけた。

みんないい顔をして返事をする。きっと見つけると。


駐車場から散り散りに散っていった車を見送ると病院の電話を借り、事務所に電話を入れた。


「俺は本当にいい友人たちを持った。だから体が動かない分友人を頼った。

 弓弦を探しに行ってくれている。

 もしどんな形ででも弓弦が見つかったら、外出許可をもらって

 事務所に行く。記者会見でもなんでも受けてやると伝えてくれ」


社長がいなかったため、山田に伝言した。

その午後は連絡待ちで、誰もピリピリとした西村の部屋には入れずにいた。

いつもなら、ファンの看護師さんや子供たちが遊びに来るのだけれど

西村は静かに連絡を待ちたかったため、申し訳ないが頼まれてくれと

看護師に声をかけドアに面会謝絶の札をかけてもらってたのだ。


じりじりと時間が過ぎていく中、夕方となった。

まだ弓弦は見つからない。夜になってもまだ誠さんたちは帰ってこない。

病院での夕飯を食べ、消灯の21時となる。電気を消され、こっそりとPCだけをつける西村。

23時をまわるころ、誠がこっそりと看護師たちに見つからないように

西村の部屋へやってきた。


「遅くなってすまない。一区切りして帰ってきた。」

「ということはまだ見つからないんだな。」

「多摩川の河川敷とか土手の道とかは、結構人の往来があるのだが

 浮浪者も多い。草薮なども深くて。それに広い。」

「あそこは広いなぁ。広すぎるな。しらみつぶしに探すなら

 少しづつしないと難しいなぁ。」

「でも、あそこは早くから走っている人も多いし

 散歩の人も多い、少しでも目撃情報が出るといいんだが。」

「そうだなぁ。」

「貴志たちとも話をしたんだが、休みの人間が朝早くからお昼までを探し

 勤務の人間が昼から勤務前までを探すことに決めた。

 で、探す人間を多摩川の土手沿いと町中と二つに分けて

 怪しいところを片っ端からつぶしていく。そう話して決めた。

 で、携帯は返しておく。またかかってきたら俺にかけてくれ。」

「明日明後日が勝負だな。」

「おうよ、必ず見つける。待ってな。」

「わかった。頼む。」

「お前に頼まれなくとも俺は弓弦を探さねばならない。

 お前と弓弦が一緒になれば俺も身内になる。

 その話しも弓弦が見つかったら話すさ。」

「なんだ?なにかあるのか?」

「あぁ、ちょっとな。それが聞きたければ

 弓弦が無事に見つかることを誠心誠意祈っていてくれ。

 また明日、顔を出す。」

「あぁ、おやすみ。誠さん」

「あぁ、いい夢見ろよ。」




誠は今日のことを話し、病院を後にした。

突き落された後、意識を失っていた弓弦。

どれぐらい時間がたったのだろう、体全身のどうにも言いようのない痛みと

土手で突き落されて誰かが助けてくれたのか薄い壁のとうなものに囲まれている

弓弦の寝床は、少しうっすらと乾草のにおいがする。

乾草をボロボロと言ったら失礼なんだろうが、ボロボロの布で寝床を作ってあり、

背の高い弓弦のために足元に継ぎ足したような跡があった。

弓弦はただただ見えるところを目を凝らしてみているのだけれど

あまり暗くて見えない。

壁のように見えているその薄いすだれのようなその向こうに薄暗く灯りが見える。

その薄暗い明りがともるそこには人の気配がする。

目を凝らす。よく見えないが数人いるようだ。

弓弦は起き上がろうとするがやはり体全体に痛みがはしり動けない。

すると話しかけてくる誰かがいる。


「のぉ、大丈夫かね。お嬢さん。」

「え、あの・・・・。」

「お前さん、何も覚えてないのかね?」

「あの・・・・・。」

「お前さん、車から突き落とされただろう?

 その時にな、この人の家を壊しちまったんだがお前さんの方が傷だらけで、

 痛そうで声をかけても、気絶しちまってたから、うちに連れてきた。」

「ありがとうございます。でも、ここはどこでしょうか?」

「多摩川河川敷の草むらのそばにあるコンクリの穴の中だよ。誰にも見えない場所じゃよ。」

「おじさんは?」

「私たちは、ここに住んでいるのさ。いわゆる住所不定無職ってやつだ。」

「助けてくれてありがとう、でもどうやってお礼をしたらよいか。」

「お礼など気にせんでいい。それよりもお前さん体は大丈夫なのかい?」

「えぇ。痛いけど、立てるし。多分。」

「無理じゃろう。折れてるんじゃないのかね?右足は。」

「あっ。んっ・・・・・・。立てない・・・・なんで?なんで?」

「やっぱりのぉ。うっ血していた血を出して、添え木をしておいた。

 痛むだろうが、消毒もしたから大丈夫じゃ。」

「それになしばらく動かさん方がいいと思って、そっちに寝かしていたんだが。」

「えぇ、でもちょっと。動けない。本当に動けない。」

「そうだろう、体中青あざがすごいし、擦り傷切り傷ばっかりじゃ。」

「見ず知らずのあたしを助けてくださって。」

「さぁ今はお前さんが倒れていた朝からすると3日目の夜だ。

 明日にはもう少し動けるようになるだろう。

 さぁ、休みなさい。俺らが食べているものはゴミだ。

 だから食べもんはわけれねぇが、明日起こしてやるから

 その時にここを出ていきな。」

「出ていくなんて・・・・。」

「お嬢さんのいるようなところじゃない。ここは。

 明日の朝起きたら、ここを出るんだ。」

「助けていただいて、本当にありがとう。」

「お嬢さん。そして俺らがここにいることを話してはいけない。

 住所不定無職というのはそういう人生だったのだからさ。」

「そうだ、助けた我々のことはしゃべらないように。

 お前さんには明日ここを出るとき目隠しをする。

 で、ある程度人目につくところまで行ったら外してやるから。

 怖いだろうが、お前さんを無事に現世に返してやるから。」

 





「ありがとう。ありがとうございます。」

「ここも最近警察とかいろんな人が増えて俺らもいづらくなってきた。

 決して、俺らの存在は言わないでほしい。

 それが俺らへの恩返しなのだよ、お嬢さん。」

「わかりました。でも、少しまだ眠るまで話をしてほしい。

 いろんなことを、いろんな今までの楽しかったこととかの話を。」

「じゃぁ、お嬢さんが眠るまでみんなでしゃべろうか。」


「おじさんたちは?わからなくてもそれはおじさんたちにはいいんだろうけれど

 あたしの足を楽にしてくれたということは

 おじさんたちの誰かがそういうことを知って治療ができたってことだよね。」

「おいおいそんなに突っ込まないでくれよ・・・のぉ。(笑)」

「立てないし、無理すると痛いんだけど動かさずにそっとしていると

 疼いて熱っぽうぐらい以外は何ともないしさ。」

「まぁ、差支えのないところだけなぁ。きっとお嬢さんが納得しないと

 ガンガン聞きまくって寝られんかもしれんぞ。(笑)」


弓弦の横になっている場所に、その場所にいた爺さん3,4人が集まってきて

にぎやかに話を始めた。弓弦も、その面白くおかしく話すことが

すごく楽しくてすごく久しぶりに笑えた気がしていた。

そしてその話の流れだったのか気が向いたのかそれぞれがそれぞれの話を始めた。


「わしは医者やった。金の亡者ばっかりしか周りにはおらんどってな。

 何もかもを捨ててここに流れてきたんじゃよ。」

「私もここ関東の人間じゃないんだが、昔就職で出てきてそのままいるんだが

 やっぱり人間不信かな・・・原因は。

 よっぽどここにいたほうが人間らしい心で生きられる。」

「わしもそうじゃ。みんな理由はいろいろあるんじゃがな

 ここがすごく過ごしやすいんだよ。

 何日も飯も食わずとも、誰かにごみ扱いされてけがをしても

 どんな目にあおうともこの仲間でいるそれだけで

 今までの自分じゃなく今を楽しく生きる自分だと

 そう思える生き方をしてるんだよ。」

「家族は?奥さまは?お子さんは?」

「捨てられたわしらにそういうものはおらん。」

「そうじゃな、私たちが捨てたんではなく、私たちが捨てられたんだ。

 そうでなければ捜索願がまだまだ延々と出されているさ。」

「私も捜索願はもう取り下げられたらしい。いつもの交番にはもう貼ってなかった。」

「確認したの?」

「わしのうちは案外近くでな、一度だけ夜中に家を見に行ったことがあるが

 一度目は家の中には家族がいたが表札は嫁の名字になってた。

 2度3度行くと家には誰もおらんくなっててさ

 いつだったか、売り家になってたな。それ以来行ったことない。」

「みんな今のままでいいの?」

「あぁ、いいからここにいるんじゃって。」

「私もそうだな。私がいなくなってあいつらはきっと幸せさ。

 俺もそのほうが幸せだしあいつらだってきっとそうだと。」

「そうかなぁ。」

「なぁなぁ。そんな暗い話しないで、もっと楽しい話ししようよ。

 人間笑ってないと幸せが寄り付かないぞ(笑)」

「そうだなぁ。御嬢さんは?御嬢さん自己紹介は?わしらが知ってもいいところだけ話なよ。」

「あたし・・・・・弓弦って言います。銀座の`mask´でバーテンダーをやってて」

「どうしたんじゃ?」

「ごめん・・・・」

「つらいこと思い出させたかの・・・・。」

「いや、先週ね強盗があってそれで誘拐された。」

「あぁ、新聞にのっちょった。それ、誘拐されたのかお嬢さんかい。」

「物騒な世の中ってみんな騒いでたなぁ。」

「でも、お前さんはきちんと帰る場所がある。せっかく気が付いたんだ。

 明日の朝早くにでも、お前さんを公園に連れて行こうかね。」

「そうだな、怪我のきちんとした治療もしなければいけんだろうし

 私らもここにいるということを知られずに生きておるから

 ばれるのも怖いしの。お嬢さんには明日の朝早くにな。」


いろいろと話している中、事件のことなどをいろいろ話させられたが

何も知らない誰ともかかわりのない人たちに話すことで弓弦も気持ちが整理でき、

気分的にも楽になっていった。

余計に寝れないかもと思っていたが一時間過ぎたころ、弓弦は寝着いてしまった。












まだ暗い夜も明けない周りが見えづらい朝。

弓弦は助けられた人たちに起こされ、目隠しをされた。

一歩一歩弓弦が躓いて怪我をしないように、骨折をしている右足側に杖を持たせ

弓弦の両側に立ち支えてくれる。

弓弦は目隠しをされているのにその人たちの優しい声で安心している。

足がおぼつかない弓弦をみんなで支え、連れて行ってくれる。

どれぐらい歩いたのだろう。その間も、いろいろと笑える話をしてくれる。

歩くのがつらく痛く、でもそれを感じさせることのないように

いろんな藩士をしながら弓弦のペースで歩いてくれる人たち。

しばらくするとどこかはわからないが座れる平らなところに座らされた。




「お嬢さん。100数える間だけ待ってくれ。

 100数えたら、その目隠しを取っていいから。

 そして、お前さんの握りしめていたそのものを横に置いてある。

 わしらはそれをどうやっていいかわからないが

 何度も音がなっちょった。まだ夜は明けていない。

 目隠しをとると、わしらが見える。

 わしらはこんなんで恥ずかしいで、遠くに離れる。

 遠くに離れたわしらなら見ても構わんからな。

 さぁ。ゆっくりと100数えるんじゃ。」




そう、弓弦の手を握りゆっくりと話しかける浮浪者たち。

目隠しの下からは涙があふれてこぼれている。

優しい浮浪者たちは、涙を拭いてあげたり、肩に手をかけ声をかけたり

そして、弓弦が数を数えはじめると逃げるように離れていった。



突き飛ばされて幾日が過ぎたのだろう。

弓弦は100数え終わると、目隠しをとりあたりを見回す。

河川敷のはし、鉄橋が見える公園のベンチに座らされている。

陽が差してきた。夜が明け、少しづつ明るくなってきた。

鉄橋の上を始発が通り過ぎる。その鉄橋の下の土手に4人の小さい影が見える。

弓弦はあの人たちだと思い、ありがとうと上がらない腕をめいいっぱい上げ手を振った。

小さなその影も手を振り遠くに歩いて行ってしまい影が見えなくなる。


ベンチに座ったまま、横に置かれたものを見た。

和哉が部屋を出る前に、お前の携帯だと言い渡された弓弦の携帯だ。

電源が入っている。いつから入っているのかがわからないが

着信やメール受信のランプがちかちかしているのがわかる。

みんなが心配しているんだと、携帯を見てみるといろんな人からのメールが

受信されてきている。

電源が入ってからの不在着信だろう。

誠からの着信と西村からの着信とで何件も何件も入っている。

電池を見ると無くなりかけてて、どうしようもなくなってきていたのだが

西村にだけはと、携帯から西村に電話を入れる。








 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´







何度か鳴らしてみるが、でない。そうれもそうだ。

携帯の時計を見ると、5時前。








 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´







 

もう一度かけようとすると、ちかちかとし始めた。電池が無くなり始めたのだ。








 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´

 







でない。まだ起きているはずもない時間。

すると逆に、電話が鳴った。見ると西村の名前。








 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´






涙があふれる。






 `turururururur tururururururur´





取らなければいけないのに、涙で声が出ない弓弦。取れない。









 `turururururur tururururururur´







着信があったはずなのに、かけると出ない。焦る西村。







 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´


 `turururururur tururururururur´





落ち着いた弓弦。思い切ってとる着信。







「・・・・・・・。あたし。」




「弓弦!今どこだ!弓弦!」



「わからない。どこかわからない。河川・・敷だとは・・・・思うんだけど。」



「そこで待ってろ!そこにいろ!」





「・・・あ・・・・・・・・・は・・・・ツーツーツー・・・・。」





電池がなくなったのだろうか、犯人に見つかって切られたのか

途中で切れてしまった。西村はすぐに、看護師を呼ぶ。


「車いすを貸してほしい。今すぐに。お願いだ。」

「どうされたんですか?」

「タクシーを!タクシーを呼んで!車いすと!」

「どうしたんですか?いったいこんなに朝早くから。」

「弓弦本人から電話があったんだ。行かないと!俺が行かないと!」

「誰か空いてる人いない?西村さんに付き添って!」


そう言って看護師たちが騒いだ。すぐに車いすが用意されタクシーを呼ぶ。

正面玄関に行くと、タクシーがいて西村はそれに乗り込み

付き添い入らないと言い張り一人で行ってしまった。

すぐに看護師たちは担当医師に連絡を入れ、状況を話すと川上社長に連絡を入れた。


(西村さんが、車いすで一人で病院を出て行った。原田さんから電話があったらしい。)


川上に電話を入れたのだ。川上は時計を見て警察署に電話を入れる。


 (西村の所に原田が電話を入れたらしい。西村が一人タクシーで移動している。

  彼もけが人で心配だし原田も心配だと。タクシーはKタクシーでナンバーは**-**。

  看護師たちが見ている。追跡かけるとわかると思うんだが)


まだ6時前である。


 `見つかった。原田が見つかった。´


西村はいてもたってもいられずに、飛び出したのだと思われる。

西村はたどり着く前にと誠に電話を入れる。


「すまない、朝早くから。」

「おはようございます、西村さん。」

「さっき弓弦からの着信があった。河川敷のどこからしい。今、向かっている。」

「本当ですか?弓弦が?」

「弓弦の携帯の電池が少なかったのだろう、すぐ切れてしまって

 今はかからない。河川敷を端から探してみる。」

「西村さん、俺もそっちに行きます。」

「助かる。」


電話はそれで切れたが、誠はすぐにひかりとひかりの両親を起こし

すぐに貴志に電話。オーナーにも電話を入れてくれと話す。

河川敷は広い。河川敷ではグランドもある大きなところもあれば

土手から降りると草薮ですぐに川に落ち込んでいるところもある。

広い河川敷をどこから探したらいいのかがわからないがとにかくそこへ急ぐ。

まず、事故のあったところの近くの河川敷からと。


誠は貴志に電話を入れた後、そこへ向かう。

貴志もすぐにオーナーに電話を入れ、真志にも健にもみんなに電話をしまくった。

仕事で寝ているだろうが弓弦が見つかるかもしれないと。


ひかりはすぐに元原にメールを入れる。状況を話し社長にも連絡を入れてほしいと。










河川敷についた西村。タクシーを降り、ゆっくりと車いすで

河川敷の隅々を見渡しながらゆっくりとゆっくりと進む。

それらしき人は見えない。


少し明るくなって、走る人たちが増える。犬の散歩の人が増え始める。

明るくなると、河川敷の藪の向こうで釣りをしている人の後姿が見える。

対岸でもゴルフの練習をしている人や、新聞配達する人やいろんな人の生活の朝がうかがえる。

鉄橋を過ぎ、広いグランドが見えた。そこにも姿はない。見えない。いらだつ西村。






もう一つの鉄橋をくぐる時間には、かなり明るくなってきた。

でも河川敷に土手にもそれらしき影が見当たらない。

川岸の向こう側の広い場所にも何も影すら見当たらない。


気のせいで終わらせたくない西村はどんどん進む。車いすでゆっくりと。



先の方に公園が見えた。それから先は草薮になってしまう。

草薮の中だと見つけにくいので、誠たちを待たなければならなくなると

そう思った瞬間だ、その公園の端のベンチに倒れている人影が見えた。






公園のそばまで行くと、車いすを降りたどたどしく歩き階段を下りる。






「弓弦?」


「弓弦なのか?」


「弓弦?おい、弓弦か?」



その倒れている人のそばに行く西村。確かに弓弦のようだ。

いや、弓弦なのだと確信した西村はそばにより抱き起す。

ボロボロになったシャツと泥まみれのジーンズ。

あのチャリティーで衣装を着替えてた時に着ていた恰好のままだ。

シャツが西村の血で汚れて汚くなっており、どういう状況だったのか

擦り傷や打ち身であざがあちこちにできている。









「おい、弓弦。起きろよ。弓弦!弓弦!起きろよ・・・・。」








呼吸はしているのだが、浅い。苦しいのか呼吸するのがきついのか

弱々しい弓弦の呼吸。弓弦に呼びかけるが動かない。ピクリともしない。

呼吸が浅くても呼びかけに答えなくても弓弦の心臓はとりあえず動いているらしい。

胸に耳を当てると、`トクン・・・・・・トクン・・・・・・・・・´と聞こえる。

今にも止まりそうな弱い鼓動だけど、動いているのがわかる。

冷たくなりかけている弓弦。あの桃色の頬の色も

今はまっ白で血の気が無くなって唇もカサカサに乾ききっており

瞼も動きはしない。あのしっとりとした白く滑らかな肌は

ここ何日も何も与えられていないかのような感触。

西村はこのまま弓弦を死なせないと、必死で呼びかける。

耳元でささやいていた西村は次第に弓弦の意識が

無くなっていくような気がして心配になってきた。

頬に刺激を与えても弓弦は動かない。乾ききった唇に、がむしゃらにkissをする。

起きてくれと、抱きしめ涙を落としながら弓弦を呼んでいる。

きつく抱きしめもう一度耳元で弓弦の名を呼ぶ。

どんどん冷たくなっていく弓弦の体。

抱きしめ暖めようと西村は必死に抱え込み、弓弦の腕を足を

自分の手が届く範囲をさすって暖めようとするが埒があかない。

どうしようもなくただただ弓弦を抱きしめ死ぬながんばれと声をかけ抱きしめていた。





しばらくしたとき、弓弦が動いたような気がした西村。

顔を見ると眉間に皺が寄っている。










「弓弦?聞こえるか?弓弦?????」














「・・・・・・ん。」












「おい、弓弦わかるか?俺だ。」



「あぁ・・・・あぁぁぁぁ・・・・会えた。」


「弓弦・・・・生きててくれてありがとうなぁ。」


「会いたかった、会えた・・・・やっと。」


そう呟くと弓弦は意識を失った。

西村はどうすることもできなくて、ただ弓弦を抱きしめ誠たちを待った。



そう時が過ぎることもなくとパトカーなどと一緒に誠たちの車もちらほら見えてきた。

西村はここだと手を振る。そして携帯で誠に電話を入れ

弓弦と一緒に居る場所を伝えると、すぐに駆け付けた。


それとほぼ一緒に警官たちも駆けつけ、救急車が呼ばれる。

西村と一緒に弓弦を運ぶためだ。

警官たちが西村を囲む。大丈夫ですか?と弓弦を抱きしめる西村を

支えるようにして警官たちが囲んだ。

すぐにその場所に誠たちが駆けつける。

誠や貴志、俊哉や健。寝ていたところをみんな電話で起こされた。

それぞれがそれぞれ駆けつけ、河川敷のあちこちに姿を見せ、

誠は西村がタクシーを降りたところから車で移動。

少し離れたところにあった駐車場に車を停め西村の姿を追っていた。

すると、西村の公園から土手の階段を下りていくのが見える。

その先に人影も。弓弦と思われる人影が西村の姿のその向こうに見えた。

警察の早くから出て回ってたのか誠たちよりも早くに西村を見つけ

警察の車が集まるのを遠くから見ていた彼らもそれが見えたのか駆け出し集まってきていた。

西村も誠が駆け寄ってくる姿がわかりここだと声を張り上げる。

ちょうど朝陽を後ろに、駆けつける誠たちを西村は見上げて返事をしようとするが

先に何人もの警官が駆けつけていて警官の陰になって見えなくなってしまった。

弓弦を抱きしめている西村に警官は


 `西村さん。その人は原田弓弦さんですか?´


と、質問をされる。


 `そう、弓弦です。原田です。原田弓弦です。´


そう答えると西村も倒れかかる。弓弦を抱えているせいもあって

西村の体力にも限界があり左脇腹には血がにじんでいる。

倒れる西村が見えた誠は警官たちを押しのけその場から散らし西村と弓弦を離す。


「西村さん、もう大丈夫です。救急車が到着しました。

 乗りましょう。付き添います。俺が付き添います。

 貴志が弓弦に付き添うので大丈夫です。」

「そうか・・・・・・わかった。」


そういうと西村も無理をしていたのか気を失ってしまった。

誠に支えられているところを救急隊員が救急車に運んだ。



「貴志、いいか?同じ病院に運んでもらう手はずだが

 いいな。あっちで会おう。弓弦を頼んだぞ。」

「任せとけよ、兄貴。」


そして西村が気を失った時に、抱きかかえていた弓弦を受け止めた貴志が

もう一台の救急車に弓弦を乗せそれに同乗する。

それぞれに走り出した救急車の行先は西村が入院している病院に向かった。

病院では救急車からの連絡で西村の処置をする治療室と

弓弦の治療の処置室と二つ緊急で用意された。

事件が起こり一週間。車の爆発事故が起きてそれから4日間。

どういう状態でいたのかわからない中、どんな風な処置をするのかを

救急の医師らが話をしていた。

弓弦の乗りこんでいる車の中では、隊員が弓弦の外傷の度合いを

一つ一つ細かく報告をしている。

貴志はその傍らで弓弦の手を握り、必死に声をかけ続けていった。


「まず、先生。頭部外傷から伝えます。見える範囲だけです。」

「あぁ、頼む。」

「右頭頂部、擦過傷。地肌が少しめくれているように見えます。

 左耳の後ろの方に擦過傷。ここは打ち付けているみたいですが

 骨には異常がないみたいです。

 左肩少し腫れあがっていますね。骨折の疑いがあります。

 右鎖骨腫れあがっています。血腫のようなものを確認できます。

 本人の腕で押さえられててわかりませんが呼吸をしているとき

 左側の方が呼吸によるふくらみが足りないみたいです。

 何か骨折か打ち付けての痛みがあるのかわかりませんが

 左胸の部分は要チェックです。

 ジーンズが破けている右大腿骨外側は大量に出血が見えますが

 足自体はまっすぐになっているので骨折はしていないかも。

 左ひざのあたりも出血の確認。

 靴が脱げています。裸足ではありませんが、

 誰かが何か手当をしてくれたのか添え木がしてあります。

 右足です。右足首に添え木をしてあり固定してあります。

 左足の方は大丈夫みたいですよ。

 ただ、今現在原田さんの意識がありません。

 呼吸はしておられるのですが、同乗しておられる友人の呼びかけにも

 意識がなく答えていません。

 脈拍は・・・・えっと・・・・・・上が79下が50。もうすぐ着きますが。」

「とにかく呼吸だけは持たせてくれ。

 こちらの準備も整っている。そのほかにその人の気になるところはないか?」

「意識がないだけで何も。混濁も見られません。」

「よし、そのままだ。」




そうしているうちに救急入口に到着、横付けして弓弦を運びだし

貴志は弓弦の手術の手続きで受付に連れて行かれた。

弓弦は、そのままストレッチャーで手術室につながる処置室に入れられる。



 《では、始める。衣類を取り外傷部分を消毒し綺麗にして。

  そしてその外傷部分で陥没したり柔らかかったり血腫が見られる部分は

  チェック入れておけ。》


 《頭部の方が外傷は多いですが陥没は見当たりません。》

 

 《左眼球の下に青くなっているあざがありますが打ち付けたみたいな感じです》


 《左肩、肩甲骨が割れています。》


 《右側鎖骨のほうですが血腫みたいですね。鎖骨は単純骨折です。》 

 《このままレントゲン撮影に入るぞ。》


 《レントゲンを撮り終えたらすぐ麻酔をかける。麻酔科大丈夫か?》


 《大丈夫だ。いつでも!》


確認できた怪我を一つ一つ確かめ、担当医がそれぞれチェックし始めた。


 《おいこのほとんどの外傷は何かどこからか落とされたのか?》


 《そうみたいだなぁ。骨折箇所をつなぎ合わせて考えると、

  突き落され転がっていき、どこかにぶつかったってところか?》


 《でもこの肋骨はおかしいぞ?転がって折れたしては。

  蹴り上げられたのか?出ないとこっち側には折れないぞ?》


 《そうだなぁ。左眼球下のも殴られないとこうはならない》


 《他は?》


 《左肺は骨が刺さってるんじゃないのか?。》


 《左大腿骨は筋肉が裂傷しているだけだな。つなげる手術になるのか。》


 《ほとんどの外傷は擦過傷だな。まず緊急を要する内臓あたりの骨折や傷から行く。》


 《その手術の間、頭部の擦過傷の手当てをお願いする。》


 《それが終わったら整形の方に移るがいいか?》


 《大丈夫だ。準備は整っている。》


 《どれぐらいの時間で次に行けるか?》


 《一次開腹手術で3時間で終わらせないとまずいだろう。》


 《そのあとでの肩や鎖骨の方はすぐ終わる。ずれて刺さっている訳じゃないから。》


 《そうだな。呼吸はしっかりとしているし、数日この状態で

  生きていたんだろうから脳に異常はないと思われる。

  とりあえず骨折や出血に対しての手術を行う。

  終わってから脳のCTスキャンをかけてみよう。》


そう医師たちの話が終わるとそれぞれの部署につきすぐに手術が始まった。

これから何時間かかるのだろう。弓弦の体力は持つのだろうか。

そして西村は気を失っていたが脇腹の止血を済ませ部屋に連れて行かれると

しばらくして意識が戻った。そばには川上社長が付き添っていた。


「お前、びっくりさせるな。」

「すみません。弓弦からの着信があってびっくりして。」

「お前な、自分の状態を忘れてただろう?無茶して。」

「自分の事よりも弓弦の声が耳に入った時、何もかも忘れてしまいましたからね。」

「これでお前も安心しただろう。少し眠らんか。弓弦さんにはみんながいる。」

「大丈夫ですかね、手術。」

「お前もここの医師に助けられただろう?

 それだけの腕のある医師がそろっている病院だ。信じることだな。」

「そうですね。ただ、俺が見つけた時に気を失ってそのまま・・・。」

「先ほどの話だと、意識はまだないし呼吸が弱い。

 血圧も低いが安定はしていると。心臓がちゃんと動いているから

 あとは外因性ショックと出血がかなりあって血が足りていないだけだろうと

 そういうことを言ってた。

 内臓の方への傷も、肺に肋骨が刺さっているだけで

 あとは殴られたか蹴られての怪我だろうからそれは

 これから様子を見る部分だと。」

「弓弦はいったいあれからどんな目にあったんだ。」

「とりあえず、脳には異常がないらしい。手術が終わって、

 体の方が落ち着いたら改めて頭の先から足の先まで検査するということだそうだ。」

「そうですか・・・・・。」

「早く気が付くといいな。」

「社長。手術が終わったら、俺をその先生たちの所へ連れてってください。

 詳しく聞きたい。弓弦の家族として。弓弦の夫として。」

「大丈夫か?ちと急ぎ過ぎではないか?」

「そうですか?」

「さぁ終わるまでは時間がある。少し寝ろ。」

「すみません、少しだけ。弓弦の手術が終わったら教えてください。」

「あぁちゃんと起こすよ。」






弓弦の手術が始まったころ、ひかりも伯父も伯母もみんな手術室の前に集まってきた。

貴志が付き添ってきていて、手術室の前にいたのですぐにその場所がわかった。

病院の入り口にはマスコミが押し寄せ始めた。

身内だけを病院施設内に入れる確認をするのが大変で

そこ病院に通院する患者も、受付をするための出入りも制限されてしまって

不便な状況になっていた、

警察も、手術室の前にいて家族の話や仕事仲間の話で原田を確認し

そして西村の部屋にも行き、原田弓弦が見つかった経緯をと

寝ていた西村を起こし、騒ぎ立てる。


別に起きていたしと、社長や看護師たちが静かにしてと警察を追い出そうとするのをとめ

周りがあるから静かにしてくれさえすれば、見つかった経緯を話すと

言う西村だった。


誠を呼び、こういうことがあったのだと説明。

知っている範囲での協力しかできないがと、自分の携帯と

貴志があずかっている弓弦の携帯とを警察に渡した。





弓弦の携帯にはいくつもの指紋が残されていた。

それの検証をするそうで西村の携帯はすぐに返してくれたが

弓弦の携帯はそのまま持って行かれた。





しばらくして、TVでは川上社長が映っている。

いろんなことでのインタビュー。大変なことになったがと。

でも無事に帰ってきたと喜んでいる様子がありありと出ている。

手術のことも隠さずにしゃべる社長。そんなことまで喋るのかと

西村は見ててハラハラしていた。


そして誠や貴志や健たちは、まだ弓弦の終わらない手術に立ち会っている。

ひかりは仕事があると、一度その場を離れて仕事へ行ったが

ひかりの両親は、そのまま残っていた。

一度目の手術が終わったのはお昼過ぎ。手術室の前にいた

伯父と伯母、誠、貴志。終わったとの連絡を受け病室を出てきた西村。

終わった後の話をと呼ばれたのだ。






「一応報告を。」

「弓弦は?命には?後遺症とかは?」

「そうあわてないで。大丈夫です。

 まず、怪我の方ですが裂傷や擦過傷・打撲・骨折。

 血腫があって神経を圧迫したりしてましたがそれぞれにきちんと

 手術で取り除いたりしてできることはしました。

 大きかったのは蹴られたか殴られたかで肋骨が折れていて

 それが左肺に突き刺さっていたために呼吸が苦しかったんだと

 思われますが突き刺さった骨をどけて肺の破れていたところをきちんとしました。

 あと左の肩甲骨が割れていまして、これはどこかに打ち付けたのでしょう。

 きちんとした場所に戻しプレートでつなぎました。

 右鎖骨に骨折箇所があり、それが血腫を形成して負ったために

 腕の神経を圧迫しておりましたのでそれも排除。

 右足首の一部がに粉々に砕けて折れてました。

 残念ですが、これには時間がかかります。細かく砕けた骨は取り除きました。

 そして人工骨を入れるために今回の手術で固定するだけの物を入れました。

 ここは歩けなくなる可能性があるので、体調を見計らって早めに

 人工骨を取り付ける手術をします。

 しかしどなたが助けたのでしょう、添え木がしてありました。

 で、その骨折箇所にたまっていた血が普通は圧迫していたいはずなのですが

 出血してたまった血を抜いてあり、傷もきちんと消毒してありました。

 そして骨折具合から見ての固定をきちんとしてあったために

 これだけの事で終わったんだと思われます。

 まだ麻酔をしているせいでもありますがご本人の意識が戻ってきておりません。

 これから少し時間をおいて、CTスキャンかかります。

 呼吸と心臓の動きからすると、脳への損傷は考えられません。

 ただ、体調や怪我の具合からすると

 この2,3日での出血はかなりあったものと思われます。

 そして血液検査をし、破けていた肺や内臓の様子からすると

 長い間食べていない様子ですね。

 明日以降でも、胃の中を検査しますが体力の消耗が激しかったのでしょう。

 肝臓などの機能が冬眠状態なのかというぐらいに動きがよくありません。

 まるでいわゆるすべての機能が低下しているんです。

 悪い意味での機能低下ではないと信じていますが。

 今日はスキャンまで終わったら集中治療室に移ります。

 詳しいことがわかれば その都度ご報告いたしますから

 ご家族の方はあまり心配して詰めておかれなくても大丈夫です。」

「本当ですか?弓弦は・・・・弓弦は・・・・・」

「えぇ、大丈夫です。きっと助かりますよ。」

「良かったなぁ、母さん。」

「えぇ、えぇ。この子は運がいいわ。」

「あとは戻っていいですよ。で、この原田さん自身のご家族は?」

「私たち夫婦と誠と西村さんと。」

「俺の妻になる女性です。

 伯母さんたちは疲れているでしょうから帰られても大丈夫です。

 俺が大丈夫なんですから先生、何かわかれば俺に行ってください。」

「あぁ、そうだな。そうしたらいいかも。

 皆さんも原田さんが見つかるまでの間いろいろとあったでしょう。

 原田さんが気が付いた時に笑顔でお帰りと言ってあげれるように

 一度帰宅して元気になって会いに来てください。」

「ありがとうございます。本当に。」




一度目の手術が終わり、次の検査までの間で話をされたのだけれど

検査はその話の後すぐに始まった。

CTスキャンでの検査結果では、運が良かったのか脳の損傷は見られなかった。

内臓内部の方でも出血した部分が映し出されているが

大きく破裂しての出血たまりとかは見当たらず、手術するまでもない

小さい出血の跡だけが写っていた。

その時に一人の医師が気づいたのだが、原田の子宮疾患を指摘した。


「この人は前に何か手術をしていますね。

 ほら、ここ。左の卵巣がないことと、正面から見て左側。

 子宮の形が少しへこぼってませんか?」

「そうだなぁ。明らかに手術後だな。気が付いたら聞いてみるか。」

「でもこの手術はきれいですね。この人のことを思って手術したと

 ありありとわかる。癌あるいは腫瘍だったんでしょうね。」

「だなぁ。でも子宮の壁をとり内壁ぎりぎりまでをとり、

 妊娠した時に無事にそこにきちんととまり妊娠できるような

 そんな未来を考えて手術してある。きれいな手さばきだ。

 いったい誰がそんな手術をしたんだろうな。」

「そういえばこの原田さんのおなかには15cmほどの傷がありましたね。」

「その傷から考えると、かなり若いときに何かあったのでしょう。

 だから丁寧に未来を考えてのこの手術跡なんでしょうね。

 すごいその一言ですよ。医者としてその人は素晴らしい人だ。」

「まぁ、本人が話してくれるようだったら少し話をしてみたいねぇ。」

弓弦が見つかったという連絡がオーナーの所にもかかってきた。

貴志からだった。貴志が涙声でオーナーに弓弦さんが生きて見つかったと話した。

あまりの嬉しさにオーナーもただただ声にもならない返事で受話器を持ったまま

泣きながら貴志の声を聴いていたのだ。

オーナーは見つかったとの連絡と受けた後この間の場所まで、片桐の事務所まで足を運んだ。

朝はいつものように事務所にいるはずだと思って。

案の定、片桐は事務所の奥にいてTVを見ていた。


「親父さん、よろしいですか?」

「なんだ。」

「客です。小林と名乗る。」

「あぁ、とおせ。」


そういうと、がっちりとした体格の男は小林を部屋に入れた。


「どうだ。」

「何がだ。」

「俺は無傷で返せと言ったよなぁ。」

「そうだったか?」

「お前はよぉ、どこまで仁義をとおさねぇんだ?」

「そういうな。俺はきちんとお前の前で無傷で返せと指示をした。

 守らなかったのは事故で死んだあいつらだ。」

「あいつから強盗した金は燃えた。あの金からちょっといただこうかと思っていたが。」

「金か。」

「お前たちの下っ端が傷をつけたあの子の手術費用だけ

 きっちりとはらっていただこうと思ってな。」

「俺は関係ねぇぜ?」

「いや、関係ねぇとはいわせねぇ。なんせお前の組のもんだからな。」

「・・・・・・・・なんで嗅ぎ付けた。」

「お前らが黙って6億握らせる下っ端か?」

「燃えたのは紙切れがほとんどだ。知ってんだぜ?」

「ナンバーが確認された札と、ほかのバッグに入ってた札の一部だけが本物さ。

 あれだけこげたらわかんねぇし。」

「で、いくらだ。」

「手術費用だけでいい。保険もきかねぇだろうし手術代金も馬鹿高いはずだ。

 それ以上はいらねぇ。出所は言わずに支払いだけすればいい、

 それ以上はつっこまねぇ。」

「小林の親父。お前欲がねぇなぁ。」

「欲がねぇんじゃねぇ。汚い金は多くつかむと自分が汚れる。

 余分にはいらないんだ。それに一番弓弦が嫌う。」

「じじぃには迷惑かけたと伝えてくれ。後は一切迷惑はかけないと。」

「わかった。だがもう俺らを巻き込むな。」

「お前も相変わらずだなぁ。」

「支払金額が決まったら電話する。」

「あぁ、わかったわかった。」






そう言って部屋を出た。

組の事務所を出たところで、誠から電話があり弓弦の手術はひとまず終わり

命には別状何ともないという報告を受けた。

店に戻り、ほかの仲間にそのことを伝えると、泣いて喜んでいた。

仲間がいて助かってそれを素直に喜ぶこの子たちのつながりは

他では考えられない絆なのだろうと小林は感じた。


「今日も助かった弓弦のために頑張るからな。」


そう言って開店準備をし始める。




弓弦が見つかったというニュースが流れた。

お昼前から流れてはいたのだが、手術が終わり手術結果が良好だということを

夕方のニュースで流した。


《さて、今日の朝から見つかった先日の強盗事件で拉致誘拐されていた

 タレントの原田弓弦さんですが、同じ事務所のタレントの西村正弘さんのいる病院で

 治療・手術が行われ命に別状はないとの発表がありました。

 この事件の一部を知っている原田さんの意識が戻り次第

 話を聞くことになっていると思われます。

 強盗はどうして原田さんを誘拐したのか、どこに潜伏し、

 逃走する朝に原田さんを多摩川の堤防沿い

 あるいはその近辺で原田さんを捨て逃げした犯人。

 どういう風に解放したのか、どういった期間どういう風な扱いをされていたのか

 心配するところではありますが、原田さんの意識が戻り次第

 事件が少しづつ明るみに出ると思われます。」


そう言ってTVの中では事件を騒ぎ立てるが詳しいことは何もわからない。

片桐も自分の一部が出はしないかとハラハラしてみているが

今の所何も出てこない。小林は何も話していないんだなと。


そんなニュースが流れ、`mask´では一番の話題で開店から賑わいを見せた。






`mask´が開店する。弓弦が見つかったニュースを聞いて喜んだ客たちが

集まってきている。そこにはいない`原田弓弦´を指名しての来店。

黒服はその客らの喜びの気持ちがうれしく、そのまま指名が入りましたと

店内に伝え、原田の代わりに頑張っている真志や健、俊哉たちに客を振り分ける。


「ようこそ我が城`mask´へ」


そう迎え入れるとそのままあけてある弓弦のブースにスポットライトが当ててあり

煌々とその場所を目立たせてある。そこに立っているのは、誠だった。


「ようこそ我が城我が仲間弓弦の席にようこそ」

「あぁ、聞いたよ。原田さん、見つかったって。」

「ありがとうございます。」

「良かったなぁ、ここに菊の花が立たずに。

 みんなうれしいんだなぁ。こんなに寄せ書きが」

「えぇ。山村様もここに一筆。

 一日一日夜が明けるごとにこれを弓弦のベッドにもっていこうとおもってます。

 まだ、見つかった時に意識を失ってしまったままですが

 怪我や骨折は手術で大丈夫になりましたしあとは回復を待つだけです。

 皆様がご心配されているので、私はその様子を伝えに。

 弓弦はまだベッドの上で黙って寝ているような状態ですが

 手術の後もしばらくできるだけの間は、

 付き添ってそばにいたんですがたまに左手が動くんです。

 返事をするように動くんです。多分、そんなにしないで気が付くでしょう。」

「そうか、そうなのか。良かったよかったなぁ。

 仲間もみんなうれしいんだな。笑顔でカウンターに立って

 楽しそうにしている。」

「えぇ。みんなみんな、あいつたちも俺も、そしてここへ足を運んでくれる

 皆様で弓弦が見つかり命に別条がないことを喜んでくれて本当にうれしい事です。」

「そういえば相原君。そこにそうやって立っているのを久しぶりに見るなぁ。」

「そうですか?そうかもですね。

 弓弦がここに来てから、あいつは短期間で成長しました。

 あいつの腕はぐんぐん伸びていつの間にか自分のブースを確保して

 各ブースの顔と共に弓弦の顔をなったここです。

 俺のブースは移動しましたが、ここは弓弦がいてもいなくても

 弓弦のブースなんだと思います。

 だから弓弦がいなかった間は、彼女を慕っていた後輩たちが

 弓弦を守るために、毎日掃除してピカピカに保ちそして誰も使わなかった。」

「いつ戻ってきてもいいように磨いてあるんだねぇ。」

「グラス一つも傷や汚れがないように。」

「そしてそれを君が守っているのだね。」

「はい。弓弦はかけがえのない仲間です。そしてかけがえのない`妹´ですから。」

「ん?それはどういうことだ?」

「弓弦が喋りました。弓弦の人生が動く前に話があると言われ聞きました。

 そのあとのこの事件でまだ俺の中ではどうしたらいいかわからないのですが、

 でも、大切な大切な存在です。」

「まぁ、彼女が帰ってきてからおいおい話が聞けるだろう。

 君もまだ詳しく事細かには聞いていないのだろう?」

「えぇ。弓弦がいないと本当のことを聞きに行けない。

 早く意識が戻ってほしいものです。」

「そうだなぁ。でないと、私もお姫様たちとデートができない。」

「お姫様たち?」

「えぇ、お姫様たちだ。弓弦が帰ってくればまた楽しい時間を過ごせる。

 待ち遠しいねぇ、弓弦さんの復帰が。」

「皆さんそのことは言われます。さぁ、ここに山村様ご自身で

 弓弦に励ましのお言葉をお願いします。」

「喜んで、喜んで書かせていただきますよ。」


そう言って来店された山村も、来店されている弓弦の他の顧客も

みんなみんな書いてくれたので書かれたそれは一日でもかなりの厚さになっていた。


弓弦が誘拐された日の夜の営業からメッセージノートが綴られることとなり

一日目には山村を筆頭に、親交のあった著名人などや

大学の同級生、西村や秋山たちを通じて知り合った人たちが

店へ訪問し、入れ代わり立ち代り来店してはお見舞いと言って

何かしらオーナーたちの預け書き残していく。25時の閉店まで続いた。

閉店するとそのメッセージノートを誠が持ち帰ることとなったが

店の仲間たちも後輩たちもそのメッセージノートにそれぞれ書き記したいと

誠が帰るのを引きとめ書き込んでいる。

健は、早く帰ってこないと客を奪うぞとか

俊哉はやっぱり弓弦が大好きで、早く帰ってきてとそれだけ書く。

みんなみんな、弓弦を待っているのだ。

弓弦が見つかり病院へ運ばれた夜もみんなで喜びたくさんのメッセージを書いた。

退院祝いも決めないとと、気が早いことまで話しをしている彼ら。

帰り際にはオーナーも弓弦信仰はかなり浸透していると笑っていた。

翌朝面会が10時からだということで誠は準備して病院に向かう。

ひかりから誠の携帯にメールが入った。


 `誠さん、おはようございます。お引越しのお気持ちは決まりましたか?

 一応あたしが使っていた部屋の階の弓弦が使っていた2室を片付けました。

 引っ越してこられるのは、いつでも大丈夫と母がつたえてと言っていましたので。

 そして今日は弓弦の所に行くのですか?

 まだ意識は戻ってないのかな。いるうちに戻るといいなって思ってはいますが。

 今日はあたしも定時で上がります。

 あたしに話があったのが、秋山さんたちが意識が戻ったら面会に行くと。

 槙村さんが今日の午後時間が取れるので病院に向かいますと。

 martinの5人は明日午前中にお見舞いに行くと言われてました。

 弓弦が使われているアルバムが今日の夜に出来上がってくるので

 それを明日お持ちしたいと。気が付くかなぁ。意識戻るといいな。

 誠さん、弓弦のことよろしくお願いします。´


ひかりは本当に弓弦が心配で心配でならないんだろうなぁと

誠はその長いメールを読みながら笑っている。なかなかメールを返信しない

誠は、どう返信していいかわからずに笑いながらも何度も何度も読んでいた。


信号で止まるたびに読んでいると返信することもなく病院の駐車場に着く誠。

誠の車の助手席には昨日の夜に書かれた分厚いメッセージノートと

社長に預けられた弓弦を心配する客のお見舞いと

貴志がこれをと渡した手紙とおいてあった。

持っていくのが大変だけどと、一つづつ抱えているがどうしようもない。

とりあえず預かったお見舞いだけを持って病院内に入っていった。


「おはよう、西村さん」

「あぁ。おはよう、誠さん。それは?」

「昨日さ、弓弦が見つかったってニュースで流れただろ?

 弓弦の客たちがさ、入れ代わり立ち代わり。」

「大変だったなぁ。お店も。」

「で?弓弦は?」

「さっき見に行ったけど、まだな。行ってみるか?」

「あぁ。」


西村の車いすを誠が押して、弓弦の病室へ向かう。

意識がないだけで緊急性を要しないということでICUの隣の部屋に

弓弦は寝ていた。まだ、意識は戻ってない様子。

昨日の手術の麻酔はもう切れているはず、なのだが意識がない。

担当の先生も他の患者さんの間にこまめに来られるのだけれど

弓弦は眠ったまま。いろんな機械がつけられ腕には食べていない分の

栄養を補給するための点滴の管がつけられそのつけられた少し上に

輸血をさっきまでしてたのか針が刺さった後が大きく腫れ上がっている。

ICUとは違い、弓弦の寝ているそばに行けるのでその左手を握る西村。

まだ握っても握り返しはしない弓弦。このまま意識が戻らないとと思うと

不安に駆られる西村。誠も弓弦をじっと見つめる。

弓弦のベッドの横で二人座って、この間のことをと誠が口を開いた。


「西村さんは弓弦の事知っていますか?」

「体の事か?それとも家族の事か?」

「えぇ、どっちともだが体の事はなぁ、槙村さんだって知ってるんだろ?」

「家族の事はさ。お母さんは亡くなってしまっただろ?お父さんは

 小さいころだし。あとはひかりちゃんといういとこと

 その伯父さん伯母さん。まだこれから顔合わせだったしな。」

「そうだっけ?」

「口約束だけの婚約だしその朝にはチャリコンだろ?」

「で、事件で誘拐で・・・・・か。」

「だから詳しい事なんて何にも。」

「俺と弓弦、兄と妹だそうだよ。」

「それはどういう事?」

「西村さんが弓弦にプロポーズしただろ?

 その日のリハーサルして、そのまま店を開けたんだ。

 店自体は25時までだが俺らはステージのために21時には帰ったのさ。」

「前の日の夜か。」

「あぁ、遅くに来たらしいな。

 俺も伯父さんと伯母さんが用意してくれた部屋に泊まってたからさ。」

「そっか。その時に弓弦が話したんだ。誠さんと自分の事。」 

「まず、弓弦の事。この話は沖縄でさ、弓弦の恩師の一人が

 口を滑らせた。というかばらした(笑)」

「あの事か?」

「弓弦はさ、吹楽連盟の会長原田一郎のたった一人の孫だそうだ。

 で、父親はその人の一人息子。バイオリニスト原田孝太郎。

 原田孝太郎の叔父はあれだ。指揮者・原田栄二だ。」

「弓弦は音楽一家の孫なんだよね。音感いいはずだ(笑)」

「父親孝太郎とじいさんの一郎とは縁を切った形だったらしいが

 孫の弓弦はかわいかったんだろうなぁ。こっちの大学に決まり

 出てきたときには大喜びだったそうだ。」

「いくら縁を切った親子でも孫はかわいい。爺さんは嫌われたくない一心で

 弓弦と会ってたらしいよ。そして弓弦にだけは心を許していたらしい。

 あるとき、爺さんがずっと悔やんでいることを弓弦に話したんだって。」

「それが誠さんの話か。」

「あぁ。俺は弓弦の父さんと結婚を反対された彼女との間に間に生まれた子なんだと。」

「誠さんと弓弦の年の差って????」

「10だな。」

「弓弦の父の爺さんは俺の母に過酷な運命を背負わせた。

 そして俺も父親が誰かわからないだけですごく不安でみじめな人生を歩んだ。

 だが、弓弦の爺さん。つまり父親の父だなその人が悪い訳ではなさそうでさ。

 だけどさ正直、俺はあまり会いたくないし話もしたくない。

 しかしな、それだけでは何も前に進まない。

 弓弦が気が付けば、爺さんは会いに来るだろうし鉢合わせもするだろう。

 あったことがない爺さんだろうけど、一度はな。」

「そうだなぁ。誠さんがそういう境遇とはな。でもそれをいつ気づいたんだ?弓弦は。」

「`mask´に勤め始めてしばらくしてからだそうだ。

 弓弦を店に送ってきた爺さんが俺を見て話をしたそうだ。」

「どこか面影が強く残ってたんだろうな。」

「でも、そういうことだ。弓弦と西村さんとが結婚するとなると

 俺の立場はそうなるということだけ。」

「俺より年が下の兄さんかぁ。」

「それ言うなさ。複雑な気分さ(笑)」

「早く気が付くとうれしいんだが、今日も全然反応なしだな。」

「まだ午前中だ。お昼はどうするんだ?」

「あぁ、何にも考えてない。西村さんは部屋食だろ?」

「んだなぁ。誠さんの食事も食堂のを運んでもらうか。」

「いや、俺は開店準備があるから帰るわ。」

「そっか、また来れるしな。」

「まだ車に弓弦への荷物が積んである。とりあえずそれを運んだら帰るよ。」

「お見舞いの荷物だけじゃないんだ。」

「あぁ、お見舞いで包まれたお金だけじゃなくってさメッセージノートとかがあるし。」

「お金は車にはおいておけないもんなぁ。」

「このお見舞いのは西村さんに預けとくよ。嫁さんのお見舞いだからな。」

「俺が持っててもなぁ。」

「いや、西村さんが持ってないといけんだろう?弓弦のだから。」

「わかった、んじゃこれは俺があずかる。あとは?」

「メッセージノートとあと貴志の手紙を預かってるんだが

 それは枕元に置いててもいいだろう。そっちに置きに行くよ。」

「わかった。んじゃ、俺は自分の部屋に戻るよ。」

「あぁ、おとなしくしておけ(笑)」

「じゃぁな。」


二人は弓弦の病室を出ると、部屋と駐車場にと別れていった。

お昼をはさみ、午後の回診が始まる。


「西村君、体調はどうですか?」

「まずまずですが」

「午前中も車いすででしょうが奥さまの部屋には行けたのでしょう?」

「えぇ、客が来たので案内していきましたが。」

「ここへ帰ってくるまで車いすに座っててきつくはなかったですか?」

「少し痛みはありましたが気になるほどでは。」

「では、見せてください。」


熱を計られ、シャツをはぐって脇腹の傷の確認をする。

血がにじんでいることはなく、また傷が開いている様子もなかった。


「明日は、傷がどこまでどうなっているかを検査しましょう。

 表の傷に血がにじんでなくても内部で出血してたら大変ですから。」

「大丈夫でしょう。先生の腕です。信じていますよ。」

「信じてもらってても、あなたは昨日動き回って傷が開いて

 出血させちゃいましたからねぇ。(笑)」

「あぁそうでした、そうでした。それで少しの間気絶しちゃったんですよね(笑)」

「そうですよ。だから明日はそれを検査します。いいですか?」

「わかりました。で、弓弦の様子は?」

「あぁ、今、別の先生が診察をしておられます。

 終わったらこちらでその様子をはなししてもらいましょうか。」

「そうしてください。お願いします。」


西村は15分ほどの回診を受け、あとはPCとにらめっこしながら

ゆっくりとしていた。するとドアをノックする音が聞こえる。

 

「どうぞ、だれ?」

「槙村です、おとなしくしてますか?(笑)」

「あぁ、槙村君。どうしたんだ?」

「少し時間が取れたんで様子を見に。」

「そっか、ありがとう。」

「で、西村さん具合は?」

「俺は大丈夫さ。」

「まだ弓弦は気が付かないんですか?」

「麻酔はもうとっくに切れてるらしいがな。

 急いでも仕方がない。かなりな出血で輸血も足りなくてさ

 今朝もまだ点滴と同時に何かしてたみたいだ。」

「そっか、まぁ、事件からの2週間余りの事だからなぁ。」

「急いで気が付いても困るよ、警察がじっと待ってるしさ。」

「なぁ、西村さん。」

「どうしたんだ?槙村君。」

「弓弦は・・・・・。」

「おいおい、意識が戻るまで俺には何も聞くなよ。

 戻って落ち着いたら直接聞けさ。」

「でも弓弦は西村さんの言葉を受け入れた。」

「弓弦は優しい。気を使ってたのかもな。何度もいうなかでさ、

 仕方ないと思った部分もあるんじゃない?」

「それは違うと思う。俺にははっきり言った。

 自分の人生の最後の時はきっと西村さんと一緒に居ると。

 きっと同じことを聞いても、同じことをお互いに言うと思う。

 そんな感じがするって。」

「俺はてっきり槙村君がかっさらっていくと思ってた。

 だめもとで弓弦のうちに行ったときに酔った勢いもあったけど

 真剣に考えてって言ってプロポーズした。

 何度も何度もあたしでいいのかって聞き返す弓弦に

 そのままのお前しか考えていないというと返事をくれた。

 ただそれだけなんだ。」

「沖縄に行ったときにさ、宿舎で夜に二人っきりになったんだ。

 弓弦が貧血がひどくて意識失って倒れた時一人にすると

 気が付いた時にまた練習して無理をするだろうからって

 一晩、見張るために一緒に居たんだ。」

「その時弓弦は何も話はしなかった?」

「弓弦の女じゃなくなったことを聞かされました。

 高校の時の話を。でも、そういうことで決める俺じゃないって。

 それもすべて受け止めると言ったのに、弓弦の横顔は

 何か違う場所を見つめているみたいだった。

 抱きしめてもkissをしても、俺の方は見てくれなかったんです。

 多分ずっと前から気持では西村さんだけを受け入れてたんでしょうね。」

「なんだか複雑だな。でも、君みたいな魅力のあるいい男に

 プロポーズされても弓弦は靡かなかったんだな。」

「ある意味芯がしっかり一本通った人ですよ。手ごわい。」

「俺は弓弦という手綱をしっかりと持っていけるか、少し不安だな。」

「弓弦は愛しているとは言葉は使わないんですが

 毎日西村さんの名前が出てこない時間はありませんでしたから

 すっごく焼けましたもん。西村さんが弓弦を一人にしたら

 次は遠慮なく俺がかっさらいます。油断しないでくださいよ?」

「槙村君がかっさらうと、弓弦は返してはもらえなくなるんだろうな。」

「俺だけじゃない、翔太が本気なのを知っています。

 ほら、`mask´の貴志君もまじめに本気ですよ?」

「決まってもまだライバルが暗躍しているのか、

 俺はいつまでたっても落ち着けないなぁ。」

「ははは。みんな狙っていますよ。西村さんが少しでも手を放した瞬間

 かっさらえる時を、しっかりと見計らっていますって。」

「油断大敵だなぁ(笑)」

「んじゃ、西村さん。顔を見に来ただけだからさ。」

「弓弦の所にはいかないのか?」

「西村さんがそばにいるのに、俺がいるとおかしいでしょう。

 意識が戻ったら、会いに行きますよ。」

「そっか。」

「仕事に戻ります。西村さんも無理はしないように。

 ライバルはライバルらしくですよ。」

「おいおい、ライバルはライバルらしくって(笑)

 まだ槙村君と取り合わなきゃいけないのか?」

「今なら大丈夫っすか?西村さんから弓弦を取り上げても(笑)」

「駄目だろ?けが人の俺にとどめを刺すようなことしたらさ(笑)」

「西村さんの怪我は?もう大丈夫そうに見えるけど。」

「もう出血も見えないそうだからしばらくしたら退院だと思うけど。」

「でも西村さんの退院はすぐでも弓弦はしばらく入院だもんなぁ。」

「槙村君?」

「へへ(笑)」

「俺がいないときに部屋に泊まりこもうと思ってる?」

「西村さんはエスパーか(笑)」

「槙村君だって仕事だろ?」

「必ずしも西村さんと同じ日が仕事ってわけじゃないし(笑)」

「社長に言って槙村君の仕事だけ俺と一緒にって話して詰めようかな(笑)」

「えぇ?ライバルと一緒に仕事っすか?そりゃ勘弁だ(笑)」

「なぁ、それはそれとしてさ。」

「なんっすか?」

「一緒に弓弦の所へ行こうよ。」

「今からっすか?」

「少しだけだ、少しだけ。弓弦に槙村君の元気を少し分けてあげてよ。」

「俺のでいいんっすか?元気を分けるとともに洗脳するかもしれませよ?(笑)」

「できるならな(笑)んっと。車いす車いすっと。」

「西村さんだってまだ動けないんじゃないですか。無理しないようにしないと。」

「車いすに乗れば後は大丈夫さ。さぁ行こうか。」


そういって自室を二人で後にする。エレベーターで階を移動し弓弦のいる部屋に行く。

部屋の前まで来ると少し戸が開いていた。ちょうど看護師の見回りの時間だったようだ。


「あら、西村さん。お客様?」

「弓弦のお見舞いに来られたんだが弓弦はまだ意識ないからさ、俺が一緒に。」

「でも意識なくってもだいぶ会悪露は良くなってこられた気がしますよ?」

「そうだなぁ・・・・。」

「槙村君、弓弦。」

「なんだか・・・・・・涙が出るな、あの弓弦の姿。」

「包帯がぐるぐる巻かれて、白い肌が消えるように白い。

 それに返事もないし、ただただ周りの弓弦を監視する機材が

 数値だけを見せていてさ、生きているのか生かされているのかが

 意識がない以上何もわからない。」

「まだ弓弦に会わなかった方が良かったのか?」

「いや、きちんと弓弦を見てほしい。あれも弓弦さ。意識がないだけで

 生きようとしている姿さ。そう信じてる。」

「強いな。そこまでの関係に俺割り込めるのか?」

「割り込めないぐらいにしておくさ。さらえない様に。」

「でも、ほんと?かなり顔色は良くなってきた方なのか?」

「あぁ。かなりな。ここ数日は手を握ると握り返す。返事をするように

 握り返したりすることもあるんだ。無意識なんだろうけれどさ。」

「本当に?」

「あぁ、こっちの手は計測しているから無理だけど、

 点滴をしているこっちの手は大丈夫、握手してみ?」

「いいのか?力入れさせたり動かせたりするのいけないんじゃないのか?」

「大丈夫さ、ここ何日かは俺と誠さんで握手して握り返すのを確認してるし。」

「こっちの手を?」

「あぁ、握ってみてよ。」

「・・・・・・・・・・・!!」

「な?」

「本当だ、すがりつくみたいに握り返す。握り返してるじゃないですか!」

「だろ?だから大丈夫。意識が戻るのも時間の問題さ。弓弦は生き延びたんだ。」

「・・・・・・弓弦。早く気が付くといいな。西村さん、俺弓弦と握手できた。

 これからもずっとずっと仲のいい西村さんの次に頼れる俺でいれるように

 よろしくって願って握った。

 そしたら力は弱いけど返事するように握り返した。嬉しいな。

 こんなにうれしい返事はないさ。なんだか俺泣けてきた。」

「おいおい、ここで泣くなよ?」

「本当は弓弦、意識が戻ってるんじゃないのか?」

「それはないと思うぞ?」

「そんな気がしたんだけどなぁ。」

「まぁ、しばらくだ。」

「今日は来てよかった。西村さんありがとう。

 本当にありがとう。また仕事の休みの時にでも来るよ。

「あぁ、待ってるよ。いつでも来いよ。」

「今日はこれで帰る、次はお見舞いに甘いもの沢山持ってくるから。」

「どこかロケで飛んだらお土産もな(笑)」

「任せておけ(笑)んじゃ、また。」

「あぁ、またなぁ」


そうやって二人は弓弦の部屋から槙村は自宅に西村は病室に分かれて帰った。

槙村は弓弦のその温かい手に握り返された感触を忘れないように。

西村はゆずrの意識が戻るのが近いとそう感じながら。


槙村が帰っていったその日の夜。夕食が終わりゆっくりしている西村は

ふと時計を見上げまだ時間があるとおもい、車いすに移り弓弦の部屋に行った。

なんとなく槙村と一緒に来た昼間の弓弦の様子で少し気になっていたのだ。

昼間と変わりない寝姿に真白い顔をした弓弦。なかなか血色は戻ってこない様子。

そばに行くとありありとわかる血色のなさ。

担当医が西村がいることに気づき部屋に入ってきた。

 

「こんばんわ、西村さん。」

「あぁ、こんばんわ。」

「西村さんがそばにいるのに、彼女は気が付きませんね。」

「ですね、でもゆっくりでいいんです。急いで気が付いて

 体調が悪くなるのはごめんですし。」

「でも、見てください。頭の上の機器の画面。

 脈拍が正常なところまで上がってきています。

 血圧もまだ低いですが低血圧の人ぐらいまでには戻っています。

 本当はもう意識が戻ってもいいんですがね。」

「俺は生きて帰ってきてくれただけでいい。

 見つけたときに、やっと会えたと言葉を発したんですから

 俺は、意識の戻るのを信じています。」

「そうですね。そうだったですね。」

「それに先生気づいてましたか?」

「何を?」

「こうやって手を握ると、返事をするように少し指が動くんです。」

「あぁ、それは僕も気づきました。動けないだけで何か言いたげに

 指が少しだけ動くんですよね。」


西村は弓弦の横に行って担当医の前で左手をだし、握りしめる。

すると西村がびっくりして手をひっこめた。

西村が何気に握った左手。西村がベッドから引っ張り出し、握るとすぐに手が動く。

西村が「え?」と思い手を離すと、みんなが見ている前で弓弦の左手が

何かを探すように一瞬動いたのだ。

担当医もその弓弦の手の動きを見て、意識が戻ると思い

他の先生たちや看護師たちを集めた。


「緊急!原田さんの手の動きが強く見える。ほかの先生方を呼んで!」

「西村さん、そこにいてください。手が動く、握り返す

 西村さんの声で原田さんにしっかりと呼びかけてください。

 呼び続けてください。」

「弓弦、おい。弓弦、聞こえているのか?」

「先生!早く!数値が!数値が動いているの!脈拍が上がっている。」

「弓弦、おい!弓弦!聞こえているのか?俺だ、正弘だ!」


すると握り返す力が強くなる。西村の手をつかむとがたがたと震えるが

一生懸命にその握った手を握りしめる。

 

「弓弦?」


するとすっと力が手から抜けてガクッと落ちる。

西村はびっくりしてつかみ直し、強く握る。


「弓弦、どうした。弓弦!」

「西村さんちょっと離れて。」


車いすごと後ろにひざられ、弓弦の周りを担当医や看護師や

関係者が弓弦を囲む。周りにある機材の画面をチェック。

脈拍の数値がいったん消える。

スーッと一本の線になったのが、コトン・・・・・コトン・・・・・と脈を打ち始めた。

心拍数が戻った。少し早く打っているようにも見えるが

きちんと戻ってきた。


もう一度西村に手を握らせ声をかけさせる。


声をかけられると、弓弦の顔がゆがむ。

きついのか痛みがつらいのか、つらそうな顔。






「弓弦?」






握り返す左手。弓弦の目が開く。そして西村の顔を見る。少し痛みに歪んだ顔だ。




「弓弦、起きた?」










「に・・・・・し・・・む・・・・・ら・・・・さん?」

「あぁ、俺だよ。気が付いたか?」

「西村さん・・・・・・会えた。・・・・・・・・あたし死ぬかと思った。」

「泣くなよ。お前が泣くと俺も泣いちまうじゃねぇか。」

「良かったですね、気が付かれた。

 原田さん、かなりな出血でしたね。でもよく耐えられました。」

「生きて帰れと言われたんです。」

「まだゆっくりといいよ。明日朝から検査をしよう。」

「あたし・・・・・。」

「弓弦、俺が抱き起したのを覚えているか?」

「えぇ。鉄橋の下の公園で、やっと会えてうれしかった。」

「そのあとに気を失って、病院に運ばれたが今の今まで

 意識がなかった。こんなに不安にさせて。」

「ごめんね。」

「弓弦、今日は一緒に居よう。ねぇ、先生。一緒に居たいんだけど。」

「そうですね、西村さん。ここに来ますか?」

「えぇ、ここに。俺のベッドをここに?」

「そうですね、原田さんは動けませんしまだ明日にならなければ

 ここの部屋から移動できるかどうかわかりませんし。

 とりあえず、西村さんのベッドをこちらに移動させましょうか。」

「ありがとうございます。荷物はそのままでもいいですか?」

「もちろん、貴重品はこちらに自分でお持ちくださいね。」

「ちょっと行ってくる。」






西村はうれしくてうれしくて叫んで周りたいぐらいに喜んでいた。

自分の体もまだ痛々しいし、多分に痛いはず。なのにそれよりも

弓弦の意識が戻り話ができたことがうれしくて急いで荷物を取りに行った。






ベッドを運んでもらい、その後ろを西村が車いすで着いていく。

弓弦の横に置かれ手の届くようにおかれた。




「お休みなさい」

「ありがとう、お休みなさい。」



そう言って二人以外はその部屋を出て行った。






「弓弦。」

「なに?」

「痛いか?」

「ちょっとね。でも、痛むことよりも横にいてくれることがうれしくて

 痛いことを忘れてしまう。」

「なぁ、弓弦。本当に俺と一緒になってくれるのか?

 弓弦、優しいからその優しさだけで返事をしたんじゃないのか?」

「違うわ。絶対違う。そうでないと、助けての電話はあなたにかけない。」

「そっか。」

「ねぇ、手をつないで。」

「ん?」

「手をつなぎたい。」

「眠たいか?」

「まだ、眠くはないけど。」

「消灯は21時だ。今はまだ20時だから明るいが時間が来ると容赦なく消される。

 だけど、俺もうれしさのあまり眠くないんだよなぁ。」

「あたしが意識取り戻したのまだ誰にも知らせてないの?」

「あぁ。まだ誰にも。」

「今晩だけは静かに一緒に居たい気分なんだけど。」

「んじゃ、明日の朝にしよう。看護師さんたちにも担当医の人にも

 黙っててもらおう。今日は俺も静かに二人で居たいから。」


少しすると看護師と担当医が部屋に来た。

やはり原田の意識が戻ったことをすぐに知らせるように

警察からも言われていますが、どうしますかと。

あまりそうせっつかれても気が進まないんだけどと。


「西村さん、原田さん。一応川上社長からも小林様からも

 相原さんや槙村さんという方からも、原田さんの意識が戻ったら

 すぐに連絡をと言われていますがどうしますか?」

「どうしますかって、今の時間はえっと・・・・。」

「もうすぐ21時です消灯の時間なので面会時間は過ぎますが

 原田さんのお身内だけはとは思うんですけど。」

「いや、明日にしてください。そうしないと大変なことになる。

 今言われた名前の人たちはつながっているので

 一人に連絡するとみんなに連絡が回る。」

「そうだなぁ。ここに二人部屋を同じにしてもらってると余計に来るかもな。

 先生、こいつの争奪戦はまだ籍を入れてないので続いているんですよ。

 困ったことに(笑)」

「争奪戦ですか。それはそれは(笑)

 とりあえず、明日の朝に連絡を入れますか。

 自分で連絡を取りますか?それとも・・・・・・。」

「俺が一人ひとり電話かけます。ここでかけても構わないでしょ?」

「電磁波の影響を受ける機材はさっきすべて排除しましたから

 携帯掛けられてもかまいません。しかし周りの部屋もあるので・・・・・・・・・・。

 あぁ、そうだ。明日は朝から原田さんの検査が入ります。

 なのでその検査中はご自分の部屋に戻るでしょうから

 そちらでかけていただけると助かりますが。」

「そうですね。んじゃ、それまでは静かにさせていただきます。」

「検査が終わり状況次第では二人部屋に移ることとなります。」

「わかりました。では、でもそれまで待てるかなぁ。」

「なんだか誰もいなくなった時点で電話しまくりそうな感じだね。」


そう冗談を交えて笑いあう原田と並んだ西村の幸せな顔を

看護師たちはうらやましそうに見ながらその部屋を後にした。

ただ、今はいいかもしれないが意識が戻ったばかりの弓弦なのだから

何か少しでもおかしいと気付くところがあればすぐに呼んで下さいとのこと。

西村は、笑顔でわかりましたと返事をし弓弦を眺めていた。

まだきついのか、目を閉じている弓弦。つなぐ手はしっかりと握りしめられ

西村も弓弦がそばで息をしていることに嬉しさをかみしめ横顔を見つめていた。


「なぁ、弓弦。」

「なに?どうかしたの?」

「体は?痛くないか?」

「痛い。痛いんだけど、でも生きて戻ってきた証。うれしい痛みよ。」

「でも、お前自分の体知ってるか?」

「何を?」

「お前の左胸。ろっ骨が折れてて肺に刺さってたって。」

「蹴り上げられたからだ。」

「右足首の骨折。人工骨を入れないとダメだって。」

「突き飛ばされたとき、多分ぶつけたんだ。」

「左側の肩甲骨、真っ二つに割れててプレートを入れてつなげてある。」

「まるでロボット(笑)」

「右の鎖骨もぽっきりと」

「折れているんだ。だから動けなかったんだ。」

「弓弦?覚えているのか?連れ去られてからの事。」

「えぇ、気を失っている時間以外は。すべてとはいかないけど覚えている。」

「犯人たちもか?」

「みんな顔を見せてはいなかった。車の中でも隠れ家でも。

 で、外も見れなくて自分がどこにいるかはわからなかったけど」

「覚えていることを警察にすべて話せるだけ話せるか?」

「えぇ、検査が終わって体調を見てなんでしょう?」

「そう。なんだか弓弦が心配で。」

「心配し過ぎよ。」

「槙村君から聞いた。槙村君の知り合いの心療内科に連れて行きたいと。」

「余計なことを・・・・。」

「なぁ、弓弦。この際、なんでも全部はけ。

 俺は何も驚かない。俺の妻になるんだ、何にも驚かない。」

「すべてってすべては話せないかもしれない。だけど、

 このままではだめだって自分でもわかっているのよ。

 わかっているからそのことにだけは少し時間を頂戴。」

「わかった。弓弦、眠たいか?」

「えぇ、痛み止めを使われているのね。少し眠くなってきた。」

「んじゃ、寝よう。このまま手を握っていてもいい?」









「・・・・・・・zzz。」






明日の朝一番での弓弦の検査。大丈夫だろうか。

意識が戻ったのは、何かしら異変があって最後の意識だったのかと

西村は心配でして寝れなかった。

黙って弓弦の方に体を向けて、青白い弓弦の横顔を見ていた。

弓弦の寝息だけが部屋に響く。

夜中に見回りの看護師が来る。寝つけないと起きている西村に

いびきをかいていないかとか、妙に動いていないか

おかしい動きがあれば、呼んで下さいねと言い離れた。

25時をまわった。`mask´の閉店時間だ。

西村は、弓弦が寝着いて大丈夫なことを確認し、携帯を持ち部屋の外に出る。

廊下には誰もいないのを確認し、部屋のドアを開け放ったままで。

弓弦の姿を見れる位置に車いすで移動。










 `tururururururu.turururururururu.´


 `tururururururu.turururururururu.´


「はい、誠です。」

「誠さん?夜分にすまない、西村です。」

「あぁ、どうしたんですか?こんな夜中に。」

「明日弓弦に会えますか?」

「会えますかって……????」

「誠さんや皆さんに早くって思って。朝一で検査が入りますからその前がいい。」

「もしかして弓弦が、意識が・・・・・・」

「えぇ、20時前でした。今はまた薬で眠りについていますが

 しっかりと会話ができます。大丈夫みたいです。」

「ほんとに?本当にですか?」

「誠さん、そこには誰がいますか?オーナーや皆さんいるんですか?」

「あぁ、みんないるさ。ちょっと待って。


  《おい!おい!今連絡だ!連絡が入った!

   弓弦が気が付いた!意識が戻ったそうだ!》

  《本当っすか?誰から電話?》

  《西村さんからだ。》

  《変わって!誠さん代わって!》

 

 貴志です!西村さん本当に?弓弦さん意識戻ったって。」

「あぁ、本当。今は寝ている。まだ体中の痛みがすごいらしいが

 鎮痛薬の投与で寝ている。」

「西村さん、連絡ありがとう。やったーーーー!」

「すまない、うちの連中は弓弦信仰が厚いから。」

「いや誰だって嬉しいさ。誠さん、これからゆっくり休んで。

 で、明日朝一検査の前に。」

「あぁ、これからひかりのうちに帰るからひかりたちにも伝えないと。」

「あぁ、お願いする。お願いしたい。んじゃ。」


そう誠に連絡を入れたら西村も安心したのか眠気が襲い始めた。

このまま寝てしまうとまずいなと思い自分のベッドに入り

また弓弦の手を握りしめて眠りについた。

「みんなちょっと。こっちに。」

「なんっすか?」

「今、西村さんから弓弦の意識が戻ったと連絡が入った。

 明日早朝に面会に行くが、とりあえず俺とオーナーが行く。

 午前中は検査が入っているからしいがその検査しだいでは

 午後から面会可能となるだろうって。」

「その連絡が入ったら俺らも行っていいんですか?」

「あぁ、ただし大人数ではだめだ、騒がしいからな。」

「オーナーが一番に会いたいでしょう?」

「オーナーが帰ってきたら俺らも2,3人づつ行こう。

 な。そうしないか?」

「そうだなぁ、でも警察との面談もあるらしいから

 西村さんに連絡を入れてからがいいだろう。」

「そうだなぁ。今は意識戻ってゆっくりとしているんだろう?

 で、明日の朝は検査でバタバタだし

 午後から病室の移動をするとなると、やっぱり落ち着かない?」

「それに警察がいるんだろう。早期解決って毎日毎日

 TVでも言ってるもんな。きっと、体調が良ければ話をって感じだろうしな。」

「無理しては動かないだろう。朝から誠さんとオーナーが行くのか?」

「だなぁ。俺とオーナーと。」

「俺は、あとでいいや。」

「俺も。それよりもここをしっかりと守ってなきゃ弓弦さんに怒られる。」

「復帰は早いだろうな、根性あるし。」

「復帰かぁ。言っていいのかなぁ・・・・・・。オーナー。 

 隠してちゃまずいでしょう、もう。」

「そうだなぁ。」

「何俺らに隠し事してるんですか?」

「いや、弓弦がいいと言ったらいうさ。

 多分、自分の口から言いたいだろうから俺やオーナーの口からはやめとこう。」

「そうだな、誠。お前もはっきりせんといかんしな。」

「なになに?誠さんと弓弦さん??結婚するとか?しないとか?の話???」

「おいおい、なんでそういう話になるかなぁ。それが本当だとうれしがはずれだ(笑)」

「違うんですか。」

「それだと俺は貴志や健に殺される(笑)」

「誠さん、ここで言いますか?」

「貴志っ。真面目にお前弓弦さん狙ってたのか?」

「いつも一緒に居るだろう、一緒に居るとそれが当たり前になるし

 弓弦さんのあの笑顔で隣に立たれてみろ、誰だって落ちるさ。」

「そうだよなぁ。ねぇ誠さん。」

「弓弦信者が多いんだなここは(笑)とりあえず明日の朝に行ってくる。

 検査次第では午後から会えるから楽しみにしておきな。」

「んじゃ帰るか。誠、どっちに帰るんだ?」

「ひかりのうちに。伝えないといけないし。

 というと明日はひかりさんとご両親とくるのか?」

「俺は、連絡を入れるのでそれからって伝えます。」

「じゃ明日の朝は誠と二人だな。」

「朝7時は迎えに来ますから。」

「あぁ、頼む。お休み。」

「お疲れ様でした。お先に失礼します。」







家に着く。ガレージには弓弦のBMWとバイク。寄せて止め直して誠の車を停める。

ひかりの家の方はもう明かりが消えてしまっていたが誠は勝手口の鍵を開け、

2階に用意されている弓弦の使っていた部屋に上がっていった。

するとひかりが自分の部屋から顔を出す。


「おかえり、誠さん。」

「ただいま。どうしたんだ?こんなに遅いのに。」

「寝れなくって。なんだか寝れなくって起きてたの。」

「ひかりちゃんは何でもそうやって感じるんだな(笑)」

「なに?何かあった?」

「おじさんもおばさんも起きているのか?」

「多分・・・・でも、どうかしたの?」

「んじゃ、下に降りてこないか?おじさんとおばさん起こして。」

「わかった・・・・けどなぁに?」




「おかえり、誠ちゃん。」

「おかえりぃ、今日も一日お疲れさん。」

「いえ、こんな夜中に起こしてすみません。」

「あたしなんとなく起きてたらさ、誠さん帰ってきた車の音がして

 部屋には居る前に声かけちゃった。」

「ひかりちゃんは本当に勘が鋭い(笑)」

「明日朝早いがオーナーを連れて病院へ行ってくる。」

「それって・・・・誠さん。」

「そうだ(笑)弓弦が今日20時過ぎに気が付いたそうだ。」

「本当に?弓弦、大丈夫なの?」

「あぁ、西村から電話があった。閉店するぐらいに。」

「お父さんお母さん。やった!弓弦が!弓弦が!」

「ひかりは泣き虫だなぁ、喜んでも悲しくても大泣きしてしまう(笑)」

「明日朝から検査が入るそうだが、西村が言うことには意識がしっかりしているから

 検査の後は面会できるかもしれないってさ。」

「誠はどうする?」

「俺は明日、オーナーを連れて朝一番でと思っているが。

 西村が検査が8時から入ったからその前がいいって言ってたから

 お店を代表して俺とオーナーが7時過ぎに行く予定。」

「そっか、ならその後に行こうか。お昼の仕事を早めに切り上げて

 ねぇ、父さん、どうだい?」

「そうだな、誠ちゃん。お前が朝一で行って面会だろ?

 で、そのあと検査があってそして検査から解放されるのは

 きっと昼すぎるんだろうなぁ。」

「そうだな。多分そうなるかと。」

「んじゃ、検査の結果が出る頃にでも行くか。母さん。」

「その頃に照準を合わせようか(笑)きちんと弓弦の怪我を知っておかないとね。

 あの子心配させないように隠すから(笑)」

「そうだな。んじゃ、会いに行ってその様子でこっちに連絡を入れるとするか。」

「ひかりはどうするんだい?」

「あたし明日は忙しいかなぁ。だって弓弦が気が付いたんでしょ?

 するとうちの会社自体も騒ぐだろうから動きが取れなくなるかも。

 あたしは明日を外して会いに行くわ。弓弦が気が付いたそれだけで

 あたし仕事する元気でてきたもん。」

「お前はげんきんだねぇ(笑)」

「んじゃ、一応報告はしたんで休むよ。オーナーを7時前には迎えに行かなきゃいけない。」

「もう26時だ。さぁ休んで明日に備えよう。店も忙しくなるかもなぁ。」



部屋に入ると、月明かりが差し込んでいる。

ソファに座る誠の顔は何気に笑っている。うれしい。

弓弦の意識が戻ったのがすごくうれしくて。

ソファに座り込み、ブランケットにくるまりお気に入りの水割りを一つ

前において助かってくれてありがとうとつぶやき吞んでいた。


嬉しい気持ちが気持ちを落ち着かせていないのか

誠は浅い眠りの中を漂っていた。そしてその朝を迎える。







「おはようございます、オーナー」

「あぁ、おはよう。」

「前まで来ていますが、もう行きますか?」

「あぁ、待ってな。」





そういって小林が店の2階から降りてきた。


「おはよう。誠、眠れなかった顔だな。」

「寝れますか?弓弦の意識が戻ったんですよ?これで一つ先に進める。」

「なんだ?一つ先に進めるって。」

「そろそろオーナーには話をしないとですね。」

「なにをだ?」

「弓弦と俺は腹違いの兄弟だということを。きちんと話をしなければいけないし

 弓弦がきちんと説明をしないと俺は宙ぶらりんのままなんで。」

「おい、それはいつわかった話なんだ?」

「俺がそう聞いたのはチャリコンの前々日の帰りです。

 弓弦の体の事とと一緒に弓弦の結婚の事とそして俺とのつながりと。

 弓弦の伯父伯母従妹のひかりちゃんと交えて話をしてくれました。

 だからあとは弓弦が意識を取り戻し、弓弦の家族であるあと一人の

 爺さん・つまり原田氏に会って話を聞かないとだめなんですが。」

「大切なことお前今まで黙ってたんだな?(笑)」

「弓弦があんなことになって宙ぶらりんのままでどうして言えますか(笑)」

「とりあえず、良かったなぁ。お前は一人じゃなかったんだ。

 それだけでも嬉しかっただろう。」

「えぇ、もちろん。それに大事な妹が助かったんです。嬉しくて寝れませんって。」

「誠。とりあえず、話ができるところまで話してくれよ。

 病院に着くまででいいからさ。」

「俺の事は、弓弦自身かなり前から知ってた様子でした。

 知ったのは弓弦を送ってきた弓弦の爺さんが俺を見て気が付いたそうで

 その時に俺の出生を調べたんでしょう。

 弓弦に俺のことを話ししたそうです。だから弓弦に生きていて

 もらわないと爺さんにも会えない。会いに行くきっかけを

 なくすことになってしまう所でした。

 俺は弓弦の父さんと結婚を反対された彼女との間ににできた子供らしい。

 だから弓弦と俺は腹違いの兄弟ということだそうです。」

「複雑で簡潔に話しされると難しいな。あとでゆっくり聞くよ。

 お前が弓弦の兄なのかぁ。それが現実なら受け入れるしかあるまい。」

「えぇ。俺としては血のつながりがなかった方がより嬉しかったのですが。」

「お前も弓弦を大切に思てたもんな、俺はわかっているつもりだったし

 お前がその気になったら俺は協力するつもりだったが

 血がつながっていると知るとちょっとな(笑)」

「詳しいことはきちんと弓弦を介して爺さんと話ができれば

 きちんと俺も口にすることができるだろうし、

 弓弦があれだからもう少し落ち着いてからになるんでしょうけれど。」

「そうだな、ゆっくりいいじゃないか。さぁ着くぞ。」

「ですね。」

「誠。」

「なんですか?」

「泣くなよ?」

「あはは、オーナーも。」





病院は朝早くからたくさんの人で駐車場もいっぱいだった。

隙間に停めると、急いでおり病院に入っていく。

受付を多り過ぎ、エレベーターに乗り込む二人。

弓弦と西村がいる階につき降りると真正面に看護師たちの集まる

ナースステーションがありエレベーターを出てくると一人の看護師に呼び止められた。


「朝早い時間のご面会はお断りしているのですがどなたに会いに来られたのでしょうか?」

「あの、昨日連絡があって。西村さんから。」

「えっと西村さんからですか?」

「身内なので確かめていただけたら。私は相原誠と言います。」

「そちらにかけて、お待ちください。」


看護師は西村の所まで行き確かめる。

この時間はまだ弓弦と同じ部屋にいたのだが、相原誠さんと言う人が

面会に来たということを西村に伝えた。

まだ眠っている弓弦を起こすかどうかは迷ったが、部屋に来てもらってくださいと

看護師にお願いした。


「おはよう。西村さん。」

「あぁおはよう。まだ弓弦は寝ています。昨日20時過ぎに意識が戻り

 それから体中の痛みが激しいために鎮痛剤を投与され

 まだ眠っているんですが、検査があるしもうそろそろと思ってたところです。」

「まだ、弓弦は。」

「えぇ、もう起きるでしょうが。」

「8時になったら検査が始まるので、起こしますか。」

「何時だ?」

「7時半前ですね。」





「弓弦。弓弦?」



手を握り、耳元で名前を呼ぶ。

まだ痛みが取れないままなのか、渋い顔をする弓弦。


「弓弦、ごめん。弓弦、起きたか?」

「あぁ。えぇ、おはよう。眩しい・・・・朝なの?」

「あぁ、朝だよ。もうす検査の時間だ。その前にほら。」





「誠さん。オーナー!」

「弓弦、本当に。弓弦・・・・・・。」

「誠さん、ただいま。」

「あぁ。」

「オーナー。帰ってきました。」

「おかえり、弓弦。」

「おかえりな。待ってたぞ、みんなでお前の帰りを。」

「ありがとう、オーナー。ありがとう、誠さん。」

「お前が帰ってこないと、俺は爺さんに会えないしな。」

「そうだな。」

「これから検査だそうだな。」

「えぇ。なんだか怖いけど、自分の状態を知っておかないと。」

「おい、よく見るとお前すごい状態じゃないのか?」

「あぁ。西村さん、なんだっけ?」

「肋骨折れて肺に刺さってたし、左肩甲骨真っ二つでプレート入れられ、

 右鎖骨は真っ二つ。右大腿骨の筋肉裂傷。

 右足首、関節をなさない状態らしく人工骨を入れること決定。」

「それだけで済んだのか?本当にそれだけか?」

「わかんない。でこれから検査なんだけど。」

「そうか、行ってこい。検査はすぐ終わるんだろう?」

「わからないけど多分何もなければ。」

「弓弦、真面目に受けて来いよ。正直に何でも話すんだ。」

「わかってるって、て言うか何もしなくても運ばれているし

 何も言わなくても白状させられる。」

「んじゃ、弓弦。行ってこい。」

「あぁ。」


検査室に連れて行かれる弓弦を見ながら、西村は誠と小林を話しをしていた。

これから検査がありそのあと弓弦が大丈夫であれば警察からの要請で

話をするため

病院内に部屋が用意された。弓弦のベッドをそこにそのまま運び込み

そこで話ができるようにと。


「原田さん、そのまま動かずに。」

「とりまーす。いいですかぁ?いいというまで呼吸止めて。」


そうやってレントゲンを撮る。

まだ動けない弓弦を、専用のに乗せ換えレントゲン室に入れて撮り終えたら次。

CTスキャンで隅々。そして一時間後に結果が出た。

それに付き添うという西村だが弓弦が引き止めた。一人で聞きたいと。

しかし西村も引き下がらない。隠しごとみたいでいやだと、一緒に聞きたいと。

何気に仲が良い分我が強いのか衝突も人前でも構わずに。

見ている誠と小林はおかしくてしょうがない。

すぐ帰るつもりが西村と話していると検査が終わり結果が出て

それでみんな呼ばれたのだがそれを見てておかしくて。


「お二人さん。まぁ仲良く聞きなよ。先においとまする。

 誠。誠はいいぞ、二人に付き添え。身内のことだからな。(笑)」

「いいんですか?送っていきますよ。」

「あぁ、そうか。誠に連れてきてもらったんだっけ、忘れてた(笑)」

「そうですよ、だから送っていきますって。

 これだけ威勢が良ければ心配はありませんから。あとで西村さんに聞きますよ。」

「そっか、ならお前に甘えて。」

「どっちにしてもそんなしないで開店準備しなければいけませんし。」

「そっか、なら俺らはこれで。」

「また連絡するよ。」


診察室に呼ばれている西村をその場に残し二人は病院を後にした。

もう店に着て準備をしている奴らにも、そのおかしく元気なやり取りを

話ししたくて店に向かったのだ。

一方、先に診察室に連れて行かれてて、西村が来るのを待っている

担当医と看護師は不機嫌な顔をしている弓弦を見ながら話をしていた。


「そんなに青白い顔をして不機嫌な顔をしていると青鬼と言われるぞ?」

「いいんですっ。先生、西村さんまで呼ぶの?」

「呼ばなきゃいけないでしょう?だって、旦那さんになる人でしょ?」

「だけどぉ。まだ結婚してないしっ。」

「でも予定でしょ?」

「予定は未定っ!」

「おいおい、あんなにしおらしかった弓弦はどこに行ったんだ?」

「まじに西村さん呼んでるし。」

「さてと。発表しますか。」

「でも、そんなにきついことはないでしょ。」

「えぇ、手術した時に話したことと同じです。

 それ以上に、何かあるというのはありませんでした。

 隠れた内臓出血も、脳内出血も大きいものはないし

 ただ、原田さん。誘拐されてからあなたは何も食べてないでしょう?」

「えぇ。何も食べれなかった。怖くて緊張して何も。」

「それによる不調が出ていますが、今は自分で食べれると思いますか?」

「多分はいちゃうかも。お水をいただくのにも少し胃がつらい。」

「だと、やはり点滴で充実させてからとは思うのですが

 今日の夜はおかゆからチャレンジしていただきましょうか。」

「大丈夫です。吐きたかったら吐いていいんですから。

 食事のときはわたくしが付きます。」

「そうだね。そうしよう。君がついてくれ。」

「で。原田さん、あなたには細かく聞いて行かなければならないが

 言いたくなければ言わなくていい。」

「なんですか?」

「まず、誘拐されたその日はなにもされなかった?」

「その日は、顔の左側を殴られただけ。」

「それは左眼球下陥没骨折だな。」

「あはは、そうだったんだ。」

「陥没した所の骨折は、小さい骨折だったから、自分でも

 そう気にしなかったんだろうな。すでに薄くくっついていた。

 ひびが入っているような感じだけど、

 しばらくしたらきちんとつながるでしょう。」

「あたしの顔は?変形しているの?」

「大丈夫。顔の骨折でへこんでもいないし、でてもいないし。

 そのままくっつけば大丈夫。さわらないようにね。」

「あとは右鎖骨の骨折。いわゆるぽっきりとだから右は固定して

 つながるのを待つだけ。でも本当に怪我は全身すごいんだと思ったよ。

 左肩甲骨。これも二つに割れていたので固定している。

 プレートを入れてつなげているので痛みが取れたら

 つながるのを待つだけ。そのつなげているプレートは無理にとる必要なないと思う。

 寒いと冷える鉄のプレートではなく、体温を維持する

 硬質プレートだから気にはならないと思うが痛みが取れたらそれで治療は終わり。」

「なんだかすごく傷跡がたくさんになったみたいだ。」

「お前傷だらけだったんだぞ?ほら見てみろお前の両ひざ。

 擦り傷だらけ。頭も、血だらけですごかったんだって。」

「だって、あたし。走っている車から突き落とされたんだもの。」

「まじか(汗)」

「そうだったんですか。だから傷に大きいところの入り具合が

 体の芯を中心に回るように擦過傷が付いたんですね。

 あとはろっ骨が折れてました。それは?」

「いつだったか、犯人の隠れ家に行ったとき連れ込まれた部屋で

 誰かがあたしが気に入らない顔をしていると蹴ったんです。

 その時に痛いし、ずっと呼吸がしにくくて。」

「蹴られたのか?弓弦。お前。」

「その蹴られてろっ骨が折れて左の肺の下の方に刺さってました。

 折れて刺さっている骨の向きがどうもおかしいと思ったらそうだったんですか。

 3㎝ほど刺さってて、その破れた肺胞は出しました。骨も折れたのをつなぎ固定。

 あとはつながるのを待てば呼吸も少し楽になります。

 そのささった肺胞の周りに血だまりができてて

 それが呼吸の妨げになってたみたいでですね。

 あと。」

「あとは。」

「そうそう右大腿骨の所、一番筋肉が太いところがありますよね。

 そこの外側広筋という筋肉に断裂が一部見られ出血もしてましたが

 完全に切れてという状態ではなく裂傷という感じでした。

 ですのでこれは普通に治るのを待つだけ。

 別に血腫も見当たりませんし、経過は良好でしょう。

 しかし、右足首。これはどうしたんですか?」

「右足首。突き落されたときにかなりあちこちにぶつけたみたいで

 覚えているのは何かにぶつかったとだけ。」

「ぶつかった時に打ちつけているんでしょう。

 関節を作り上げている骨の一部が剥離骨折していました。

 血腫ができてて骨は粉々になって。

 で、関節という役割を果たす骨がもうどうしようもならないぐらいでした。

 でもこれは誰かが応急手当をしてくれてますね?

 血腫が圧迫するほどに大きくなるのを血を出して小さいまま。

 変な方向に固定をすると、神経も圧迫されますし

 こういう風なことをしてくれるとなるとかなりな医療知識がないとできません。

 どなたがしてくれたのかは私も原田さんもわからないでしょうが、

 すごく助かりました。この骨折をして多分4,5日たっているんですかね?」

「今日で6日目ですか、多分。」

「見つかった時点で4日たってたということですね。

 でしたら、運が良かった。人工骨を入れる手術をしますが

 神経の圧迫もないし、筋肉が壊死しているところもないですし

 うまくいくと思います。関節だけを人工物に変える手術ですから

 手術が終わり傷が痛まなくなったらリハビリに入ります。」

「歩けるんですか?あたし。」

「歩けるも何も、今は今まで通りの動きができるまでには完全に治ります。

 人工骨を入れてしばらくすると筋肉も神経もその関節を受け入れ

 元のように動けるシステムを自分自身が作り上げます。

 なので、少しづつリハビリで動かすようにして行きますよ。

 早い人で半年、長い人でも一年経たずに元の動きに戻ります。」

「今はすごいんだ。」

「あの、先生。」

「なんですか?西村さん。」

「弓弦は俺の所でもドラムたたくんです。それは・・・・・。」

「大丈夫です。それぐらいは。最近の技術ですから。」

「人工骨と言えども、基本は自分の骨が基本です。

 これから原田さんに取り付ける人工骨は砕けて

 粉々になった関節の一部を取り出しましたと言いましたよね?」

「えぇ。」

「その砕けた骨を使い人工骨として作り上げられています。

 それを今ある骨と動くようにつなげるというかつけれるように

 前の取り出す手術の時に準備をして傷をふさぎました。

 だから、もう一度そこを開き人工骨をそこに取り付けるというか

 合体させるというか。やっぱりわかりやすくって難しいなぁ。(笑)

 取り出した骨の代わりの人工骨を入れ、筋肉とかで覆わせて

 関節の動きを元に戻るような治療をしなければなりませんし

 少しきついところもあるかもしれませんが、早く治るは治ると思いますよ?」

「まぁ、どう治療するにしてもあたしが何でもがんばって努力しないといけないわけだ。」

「そうですね。頑張れますか?」

「頑張らないと、シェイカーを振ることができない。立ってお客様を迎えれない。

 ドラムが叩けない。ピアノが弾けない。全部あたし次第か。」

「バージンロードを歩けないも含まれているだろ。」

「それも含むの?やだなぁ・・・・・。」

「嫌がるなよ。絶対式は挙げるんだからな?(笑)」

「それはそれは(笑)では早い回復をさせないと困るんですね?」

「そうです、そうなんですよ。」

「西村さん急ぎ過ぎ。まだ口約束だけなのに。」

「急がないと、誰かにまたつかまえられてしまう(笑)」

「でも本当にこれぐらいでよかったですよ。

 さぁ、隣りで警察の方々が待っているがどうしますか?」

「弓弦、どうする?がんばれるか?長くなりそうだ。」

「大丈夫なところまででいいんだろう?」

「そうだね。話せるところまで、体力勝負だな。」

診察室の隣の部屋で担当医と西村が付き添いの上ということで

弓弦への警察からの尋問が始まる。


「えっと、わたくしは中央署捜査1課の三上と申します。

 初めまして。今日は大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫です。痛みがまだ残っているのでこのままで。」

「動かないでいいすよ。お話だけ。ちょうど西村正弘さんもおられるので

 事件当日の事から覚えているところを話ししていただけたら助かります。」

「というと、西村さんが撃たれて橋本君もけがをして

 あたしが殴られ連れていかれたところから?」

「そうですね。あの日、殴られたのは?」

「鳩尾の所で、苦しくて声が出ずに。そのまま車に連れ込まれ

 頭を何か服みたいなものでかぶせられました。」

「どこに連れて行かれていたかはわかりませんか?」

「かなり右に左に曲がって走っているなとは思いましたが

 走行しながら誰かが電話をしていました。

 すぐにどこか駐車場みたいなゲートが付いた場所に逃げ込んだのか

 ゲートの何かが下りる音がしました。鉄の塊みたいなのが降り、

 カシャーンってなにかが落ちるというか降りるというかすごい速さで閉まった。

 そういう感じです。」

「その音がしたときまで車に乗せらててどれぐらいの時間でしたか?」

「わからない。わからないけど、すぐのような気がします。

 つかまえられてて口をふさがれてて、何にも見えなくて。

 でもすぐについた場所で車を下され、足首と腕と縛られて

 目隠しをされガムテープを口に貼られ、大きななんだっけ…

 釣った魚とかを入れるクールボックスの大きいのに入れられて。

 でもちゃんと息ができるようにふたを少し開けてくれていたので

 息ができたことはうれしく思いました。」

「犯人たちの話声で何か気づいたことはありませんでしたか?」

「男性ばかりでした、隠れ家みたいな場所では6人の男がいました。」

「そこは車を乗り変えて、移動した先ですか?」

「一度目の車の乗り換えでは、どこか遠くに行ったんではないですか?

 一般道を走っているような振動が、何度か信号とかで停まった後

 高速道路を走るような振動に変わりました。

 しばらく走って、パーキングに一度停まったような感じがしましたが

 すぐにまた走り出し、また一般道のような振動に戻りました。

 どれぐらいたったでしょうか、山道のようなごとごととした振動で

 起きました。するとまたどこかの建物みたいなところに入り

 車を停めて彼らは私をクールボックスからは出してくれましたが

 車の中に毛布であたしを隠しその場を離れていったようでした。

 多分その時は午後から夜の時間帯かもしれません。」

「とすると、都内からはその日のうちに出たということだな。

 というかその速さだと昼には抜けてる感じがするな。」

「朝になったと思う頃、シャッターの音がし車の外がわからごとごとと音がし始めました。

 目隠しをとってくれなかったのでそれが何かわからなかったのですが

 フィルムをはがすようなバリバリとした音がしていました。

 音がしなくなったころ、全員がそろったのかそこを出て移動。

 あまりの気持ちの悪さに気を失ってしまったのか気が付いたら家の中でした。

 車に乗せられる時もクールボックスに入れられましたし

 ゆられて気持ち悪くて。」

「ずっと移動する間そのクールボックスの中に?」

「えぇ。多分。部屋で気が付いた時はすでにお昼過ぎだったみたいです。

 遠くでサイレンが鳴ってたのを覚えています。」

「サイレンというと…事件事故とかの?」

「いえ、ほら田舎の方では11時と15時にサイレンで

 時間を教えるでしょう。多分あれかもと思っていましたけど。」

「都内で時刻を知らせるサイレンが鳴るところだと、どこだ?」

「あきる野市の山側か檜原村か?」

「わからない。でも、時報と思われるサイレンだとしか思えなかった。

 次の日も同じ時刻ぐらいにサイレンが鳴ったもの。」

「そうか、それも一つだな。」

「で、一週間ぐらいはいたんじゃないかと思われます。

 その家にいた時に彼らは6人いたということ。

 それぞれに仕事はしてたんではないかと。」

「なぜそう思われる?」

「日中はいないんです。一人もしくは二人しか。

 出入りは、普通の家みたいにありました。」

「どこなんだろうなぁ・・・・・・。」

「わからない。だけど、町の喧騒がそれほど家になかまで聞こえないところ。」

「どうした弓弦?」

「ちょっと頭が痛いかな。」

「んじゃ、ここまでにしますか。まだ無理はできない。」

「大丈夫ですか?無理はせずに。」

「いえ、大丈夫です。あたしが喋ってしまいたい分はきちんと話がしたい。」

「無理な時は少し休んでからでもいいですよ。」

「えぇ。」

「弓弦、無理すんな。」

「あの、一つ思い出したことあるんです。」

「なんだね?」

「犯人に連れられ、その部屋を出ていく早朝。

 あたしが河川敷で西村さんに見つけてもらったあの日の前日。

 午前中気が付いた時には誰もいなくて。

 でも、お昼前だったのかな、一人帰ってきた人がいたんだ。

 で、その人が部屋の荷物を整理していると、警察の者ですがって人が来たわよ。」

「本当ですか?それは見えましたか?」

「見えなかった、だけど音を立てたら無事には帰れないかもと思ってから

 じっとしてたけど。」

「助けを呼べば、そこで助かったものを。」

「ドアはチェーンがかけられたままだったと思う。

 チェーンをかけてからドアを開ける音がしたから。

 部屋にいた犯人たちの一人が応対に出て話をしてた。

 引っ越しの準備をしているとか、近辺ではいろんな犯罪が増えているので

 注意してくださいとか何かあったら・・・・何かあったら・・・・

 すみません、ちょっと・・・・・。」

「おい、弓弦大丈夫か?先生!弓弦が。」

「大丈夫、大丈夫だから。」

「無理はしないでください、あなたはいろいろと覚えてらっしゃることが多い。

 ゆっくり話されて大丈夫です。」

「あたし、知っていることをすべて吐き出して精神的にも楽になりたい。

 だから、OKしたの。」

「ゆっくりと話をしたらいい。そばにいるから。」

「多分、そのドア越しに話していた人はおじさん。年配と思われる年の人。

 もう一人おられたかもしれない。

 最後に聞こえたのはそこの角を曲がった際の交番に私たちはいますからって言葉。

 それであたしが最後にいた監禁された場所がわかりますか?」

「それだけはっきりと覚えていればわかりますとも。

 おい、その言葉にあてはまる場所をピックアップして探せ。本庁に連絡だ。」

「多分、隠してもあとではっきりと事件が解決し始めると

 きっとわかってしまうことがある。」

「なんだね?」

「誘拐された理由。そのことが自分でも引っかかってる。」

「あるのか?逃げるための誘拐じゃないのか?」

「西村さん、ごめんね。

 あなたが撃たれて橋本君もけがをしたのは、多分あたしが一緒に居たから。」

「それはなぜそう言えるのか?理由がわかるのか?」

「犯人はあたしが確認というか分かった範囲は6人です。

 結構年齢に幅があったように思えます。

 下っ端と思われる人間はそのように扱われていた気がしたんです。

 何人もの男が入れ代わり立ち代わり出入りしていて

 本当に何人と聞かれても、あたしには6人ぐらいしかわからなかった。

 そして、そして…その中の一人に・・・・・・。」

「どうしたんだ、弓弦。どこか痛むのか?」

「違う・・・・違う・・・・・。」

「泣いててはわからない、どうしたんだ、弓弦。」

「あの。もう彼らは亡くなってしまったんですよね?」

「えぇ。朝の激突しての炎上事故で皆さん。被疑者死亡のまま書類送検。

 その被疑者さえもいまだに身元確認が済んでいません。」

「身元、判明します。一人がわかれば、一人と場所がわかれば。」

「弓弦、それとも、場所か?」

「いや。ごめん、ごめん・・・・。」

「もしかしてお前彼らの中でわかるやつがいたとか?」

「一人は、あたしと大学が同じで同じサークルで。

 大学時代にすこしだけ仲が良かった。

 高・・・・・高は・・・・・・。高橋和哉です。」

「高橋和哉。それは原田さんの?」

「少しの間だけ付き合ってた彼です。すぐに別れたんですが。」

「すると犯人グループは、逃走するための人質を探していたところ

 原田さんたち3人で話ししているところを目撃。

 犯人の一人が原田さんに気づき、原田さんを誘拐した。」

「わからない。6人のうちの一人が和哉だって知ったのは

 部屋で殴られ気絶した後、少しして気が付き起きようとして音を立てたために

 見に来させられたのは和哉だった。

 和哉は下っ端だったんだろうと思う。あの閉じ込められていた部屋で

 あたしの世話をしてくれてたのは和哉だった。

 食べ物を食べさせようとしてくれたり、トイレに連れて行ってくれたり

 仲間の彼らと違い、見えないところで気を使ってくれていた。

 蹴り上げたやつがいたが、それを止めたのも多分和哉だったんだと思う。

 最後の日、早い時間に部屋を出た。

 そしてかなりスピードを出して走っていた車から川に落ちないように気を付けて

 あたしを車から突き飛ばし落とした。

 彼は最後にあたしに《生きて帰れ》と言ったの。

 《今でも愛している、生きて帰れ》って耳元でささやいた後

 それまで隣に座っていて、動けないようにしているふりをして

 あたしを抱きかかえていた。大切に大切に。

 そして、ドアを開けた一瞬で判断し車からあたしを突き飛ばした。」

「ただ一人の味方だったんだな。」

「えぇ。前の日に和哉はあたしに決まったことを教えてくれた。

 河川敷の土手を走る、その時にお前を突き落す。

 うまく転がっていかないと死んでしまうからって。

 タイミングを計りながら、思いっきり転がしだすようにあたしを突き飛ばし落とした。

 だけど、死んでしまったら会えないじゃないか。

 捕まった時に、唯一あたしがかばえる人間だったのに

 死んでしまったらどうしようもないじゃないか。

 残されたご両親はどうなる。死んでしまったら・・・・・・」

「弓弦。泣くな弓弦。落ち着け、落ち着けよ弓弦。」

「興奮させてしまいまして、すみません。」

「いや、弓弦が話すと言った以上仕方ないです。

 続きは明日に。すみません。本人が話せるときはちゃんと。」

「えぇ。今日はすみません、でもこれで一歩が踏み出せる。

 あなたのために原田さんのためにきちんと解決しますよ。

 全力を注いで解決します、お約束します。」

「えぇ。よろしくお願いします。」

「では、原田さんの今日の言葉は大きな進展につながります。

 いえ、きっとつなげます。ありがとうございました。」


担当医は弓弦が興奮して泣き叫び始めると同時に鎮静剤をうった。

軽いものだからすぐ眠るからと。少し落ち着かないとこの体力であの興奮は危ない。

なにか発作でも起きたら助からない。少し眠らせて落ち着かせないとと。

西村も眠らされた弓弦のそばで涙と痕を見ながら、弓弦の悲しい気持ちを

察するように手を握っていた。

しばらくたち西村も体の方の診察が入り、弓弦のそばを離れていた。

看護師が一人、弓弦のそばで西村の代わりに手を握ってあげている。

西村が診察から帰った時はまだ眠っていた。

かわいそうに、まだ涙の痕がくっきりと残っている。

自分が過去に愛していた人に今でも愛しているとささやかれてたら

また弓弦の心は固く扉を閉ざしてしまう。それが一番心配なのだけれど、

まだ弓弦は起きない。帰ってくると看護師にありがとうとお礼を言い

代わってまた弓弦の手を握り、付き添う西村。

すぐに看護師が、ウェットティッシュと肌があれないようにと

自分の化粧水と乳液と持ってきてくれた。


「これ、使ってください。このままだと涙の痕が腫れて赤く残ります。」

「ありがとう。でもこの化粧水と乳液は看護師さんの私物ではないんですか?」

「えぇ、あたしこの中では唯一のアレルギー持ちで肌に柔らかく

 刺激を与えないで手入れができるのはこれしかないんです。

 ここも使えるようにって、予備においてあるんですよ。

 原田さんの体力だとお肌の力も弱いですから。これ使って拭いてあげてください。」

「ありがとう。使わせていただくよ。」

西村は借りたそれできれいにやさしく肌をふく。愛しい人の顔をふく。

まだ眠りから覚めないが、涙の痕が赤くなっていて

目が覚めるとまた泣き出さないかと心配で。そっと起こさないように頬をふく。

弓弦にとっては二人目の愛しき人の死。耐えてほしい。

自分がいるのだから、悲しんでも泣かないでほしいと願う。


担当医が顔を出す。


「西村さん、無理をしなければ部屋をうつりましょう。

 原田さんは今日から普通に部屋に移動しても構いません。

 個室で別々よりも、二人部屋で一緒がいいでしょう。」

「えぇ、本当ですか?でも、こんな具合じゃ・・・。」

「だから、原田さんの様子を見ていただかないとと思いまして。」

「そうですか、でも一緒の方が俺も安心かも。」

「では、そういうことでお互いの安心のために病室を引っ越しますか。」

「えぇ。何をしたらいいですか?」

「こっちでしますから、しばらくこのままでいてください。」

「わかりました。」


そう言って担当医が部屋を出ると西村は再び弓弦の手を握りしめ

黙って寝顔を見つめていた。

しばらくすると看護師が呼びに来た。これから移動しますと。

弓弦のベッドを押す男の看護師数人。

一人部屋の所に弓弦のベッドを入れる形での二人部屋。

西村も弓弦もPCを使うので、その部屋を二人部屋にしてくれたのだ。

西村の横になるベッドに弓弦のベッドを隣合せておき、車いすが通る程度の間を空けられている。

PCが窓側に置くようにするために窓側は西村が、反対側に弓弦のベッドが来たが

後で言われそうな雰囲気な漂うなぁと、苦虫をつぶしたように笑う西村。


「西村さん、荷物はこれだけですか?」

「えぇ、前の部屋には何も残してないはずですが。」

「何か残ってたらお持ちしますね。」

「お願いします。」


また二人だけの部屋になった。

夕暮れの陽射しが部屋に入り込んで弓弦の顔を照らし始めた。

すると陽射しが当たったのがわかったのか目を覚ました弓弦。


「気が付いたか?」

「えぇ。ここは?」

「今日からここが俺たちの病室さ、先生が気を使ってくださった。」

「そうなんだ。なんだかなぁ。」

「嫌なのか?」

「そんなんじゃなくって。」

「お前本当は気を失っていない時の分は全部思い出しただろう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「気を失って記憶がないところ以外は、きっと覚えているんだろうな。

 それだけ怖い思うをしたんだもんな。」

「ねぇ、西村さん。」

「なんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・。ごめん、やっぱり結婚できない。

 こんな気持ちのまま一緒には・・・・・。」

「愛している人一人なくし、また出会えたのになくし。

 だけど俺はここにいるだろう、俺はここにいる。」

「だけど、大切な人はみんないなくなってしまう。

 怖い。すごく怖い。みんなみんな・・・・・・。」

「俺はずっと弓弦のそばにいるじゃないか。弓弦、迷うな。

 そういう迷う弓弦を一人にできない。もう一人にしない。」

「でも・・・・・。お願い時間がほしい。」

「考える時間はたくさんある。

 俺は弓弦と一緒になるために、いくらでも時間を作る。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「なぁ、弓弦。こんな目にあってしまったお前を一人にしたくないんだ。」

「あたしと一緒に居て、何かあってからじゃ遅いじゃない。

 現に撃たれた。怪我をした。あたしが一緒だったために。」

「たまたまじゃないか。たまたまそうなっただけ。

 なのになんで自分のせいにするんだ?」

「和哉がいて、それを承知でだったら・・・・やっぱりあたしが原因。」

「それはないだろう。それはない。そう思わなければ。

 俺の怪我も橋本の怪我も命に別状ないけがだし。

 お前は怪我はしたんだろうが、その元彼に命を助けてもらった。

 その助けてもらった命を大切にしなければいけないし

 弓弦が生きていたそれだけで周りは安心したんだ。」

「和哉が・・・・・・和哉が・・・・・。死んでしまっては何にもならない。」

「泣くな泣いてはその和哉君が悲しむ。せっかくお前を助けたのに

 泣き暮していたらそれこそ助けた意義がない。

 お前を愛していたからこそ、生きて帰れと言われたんだろう?

 だったら、生きているんだから幸せになろうよ。

 その幸せになるチャンスをくれたんだ。」

「もういい。あたしがいて周りが怪我したり大変な目にあったりするのはもういい。

 だから一人が一番なんだ。ごめん、ごめんなさい。西村さんに怪我までさせて。」

「違う、弓弦。それは違う。

 俺はお前のためならこんなけがぐらい何ともない。

 それよりも弓弦がいないことが一番嫌なことだ。」  

「西村さん、あたしは怖いの。すごく怖い。」

「俺は弓弦と離れることが一番怖い。」

「でも……。」

「ここではずるいのかもしれないが、きちんと言う。

 俺と共に生きることを約束してくれ。俺は弓弦と一緒に人生を歩みたい。」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「うんと言ってくれ、弓弦。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「弓弦。」

「歩生も自分であたしのそばから離れていったわ。

 和哉も、あたしのそばからいなくなった。

 西村さんはあたしの前から消えないでいてくれるの?」

「あぁ、俺の一生をかけて弓弦と一緒に居たいんだ。」

「あたしでいいの?こんなあたしで。」

「こんなあたしじゃない。弓弦は俺にとっては人生最大の宝物なのだから

 そんな言葉では表せないって。」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「泣くなよ、弓弦と居る俺が幸せと感じれる。それって幸せってことだよな?弓弦。

 弓弦といて幸せに感じれるということは、弓弦も幸せなんだよな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。西村さん。」

「あたしはあなたよりも人生経験が少ない、人として未完成なあたし。

 それを受け入れてくれるの?」

「もちろん。でないと俺がプロポーズしている意味がない。

 今のままの弓弦すべてを俺がほしいと言っているんだ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「泣くなって。弓弦、なぁ。泣くなよ。」

「だって。」

「弓弦、結婚しよう。もう少しして動けるようになったら席を入れよう。」

「いや、それはまって。お願い、待ってほしいの。」

「なんでだ?どうしてだ?」

「こんなあたしじゃ、あなたに釣り合わない。

 もっときちんとしっかりしたあたしに。

 心に迷いないあたしで、西村さんの所に行きたい。」

「俺は待てない。弓弦に何かあったら、俺が落ち着かない。」

「気持ちが落ち着かないままでは・・・・・・。」

「もしかして槙村君か?」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「それとも翔太か?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「亡くなった人のとこは言うな。ここにはいないんだ。」

「嘘はつけない。嘘は。」

「なんだ?」

「あたし、槙村さんと一線を越えた。西村さんがいるのに、一線を越えた。

 それが・・・・・。」

「そんなこと。黙っていればわからないのに。」

「隠せない、きっといつか分かってしまう。」

「この間から槙村の態度と弓弦の態度がなんかおかしかったのはそれか。

 でも、俺はそういうことは気にしない。気にするものか。

 弓弦がそばにいるんだ。それは忘れろ。」

「・・・・・・・・・・。」

「弓弦は女性だから経験があってもしょうがないんだ。

 25だろう?当たり前の事じゃないか。たまたまそれが槙村君だっただけだ。」

「あの人も西村さんと一緒ね。一緒のことを言ってた。」

「弓弦と一緒になりたいと?」

「共に人生を歩みたいと。」

「西村さんと同じように同じことを。」

「彼は、俺には何も言わないが俺は弓弦と口約束だが婚約したと喋っちまったぞ?」

「槙村さんは何も言わなかったの?」

「彼は、kissしても抱きしめても弓弦は全然俺の方を見ていない。

 弓弦の気持ちはあんた埋め尽くされていると。」

「槙村さん・・・・・・。」

「弓弦は優しいんだな、彼にも気を使って。」

「違うの・・・・違う・・・・・。」

「でも俺は槙村君だとしても弓弦を奪われたくない。

 弓弦が誘拐されていない間、不安で不安で。」

「ごめんね。ごめん、西村さん。」

「でもお前は自分で俺に見つけてと電話をくれた。」

「あの時は・・・・」

「いや、弓弦の気持ちの中で俺が一番だったんだと信じている。

 その電話で弓弦を見つけた時、俺は一生離さないと誓った。

 俺は弓弦を幸せにしたい、だから結婚してほしいんだ。」

「・・・・・・・・・・ありがとう。本当に、ありがとう。」

「弓弦、結婚しよう。すぐにでも。今すぐ、弓弦がほしい。」

「本当に今のあたしでいいの?」

「あぁ。そのままでいい、弓弦がいいんだ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう。」

「泣くなよ。嬉し涙だろうけど、弓弦は今体調が思わしくないから

 無理して具合が悪くなる。興奮するなよ(笑)」

「ねぇ。」

「なんだ?」

「傷は?」

「ふさがったらしい。出血ももう見当たらないということだ。」

「良かった。だと退院は早くなるのね。」

「弓弦?どうかしたのか?」

「良かったなって、退院できると自分の世界の戻れる。」

「弓弦。お前だって。傷が治れば元の場所に戻れる。

 まだ動けないだろうけど、治ればすぐだ。」

「元に・・・・・元の場所に。」

「弓弦だって傷がふさがって出血さえしないようになれば退院じゃないか。

 足首のは別にするだろうし。」

「当分は病室なんだね。」

「ここは嫌なのか?」

「えぇ、かごの鳥みたい。」

「ここから出してあげたいが、自宅療養ができるまでに回復しないとな。」

「なるかな・・・・。」

「そんなことを言うな。なるにきまっているだろう。」

「あたしまたshaker振れるかしら。」

「振れるまでお前は頑張るんだろう?弓弦は`mask´の顔だ。

 振れないと困るんじゃないのか?」

「困る、あたしの唯一の自慢の仕事だもの。」

「だったら、頑張るんだ。そばにいるから。俺がそばにいる。」

「西村さんがいてくれるの?」

「俺がそばにいないと槙村君や翔太たちが割り込んでくるからな。」

「あり得る(笑)」

「やっと笑った。弓弦、笑っている弓弦が一番だ。」

「西村さん。」

「あぁ、この間から言おう言おうと思ってたんだが弓弦。」

「なに?」

「いい加減西村さんはやめないか?おかしいだろ。」

「なんて呼んだら・・・・・。」

「正弘だから・・・・・。」

「あなたとか呼べない、あたしの性格上。(笑)」

「それはおいおいついてくるだろうから。名前で呼んでくれるとうれしいが。」

「考えておく。」

「なぁ、弓弦。退院したら、俺の部屋に帰るか?

 それとも使い慣れたあの部屋に帰るのか?」

「あ、そうかぁ。伯母ぁにはあの部屋を出ると言ったんだ。」

「なぜ?」

「西村さんは今の部屋が気に入ってるらしいと、こっちには越しては来ないだろうから、

 結婚したら多分引っ越すと。そう言っちゃったんだ。」

「弓弦、もうお前の中では俺と一緒になると決めてたんじゃん。」

「その時は・・・・。」

「誠さんは兄さんだろ?腹違いの兄さんだろ。誠さんが自分で

 俺に話をした。その誠さんとひかりちゃんの家族の前で

 弓弦は俺と一緒になると報告した。」

「・・・・・・・・・・あぁ。でもこの事件の前の話。」

「でも一緒になると報告し、あの部屋を出ると言った。違うか?」

「言った。言った、でも。」

「でもなんだ。」

「あたしが原因でけがをした。

 原因となったあたしがそばにいたら迷惑じゃないかって。」

「またなんで・・・弓弦は本当にそう思っているのか?」

「・・・・・・・・・・・・えぇ。」

「んじゃ、弓弦はますます俺のそばにいなきゃいけないんだ。(笑)」

「そばにはいれない。そばにいちゃいけない。」

「違う。俺のそばで俺がいつでも幸せを感じ取れるように

 その責任があるんだ。そう思えばいいさ。」

「・・・・・・・・・・・・そんなに優しい言葉をかけないで。」

「なぁ、弓弦?」

「なに?」

「俺らは高校の同窓会で知り合ったよな。

 同じ吹奏楽部だということで同じ顧問の先生と知って

 意気投合し盛り上がり、仲良くなったんだっけ。

 弓弦はさ、俺がこんな仕事をしているって知らなかったし。」

「えぇ、全く知らなかった。

 だけどあの場所でみんなそれぞれに話しているのに

 帰ろうとするあたしに向かって話しかけてくれる人がいるなんて思いもしなかった。」

「俺さ、その時から弓弦のことが気になって弓弦のこときいてまわったんだ。

 誰かが教えてくれたんだよね、`mask´にいてバーテンダーやってて

 大学にも通い大変な勤勉学生だって。」

「そんなでもないよ。」

「ご両親も亡くなっているのに、親せきの家から通いきちんと卒業した。

 バイトもまじめに行ったし上達も早くて顧客が付いた。

 卒業するときいろんな仕事があっただろうし我儘も言えたんじゃないか?

 いろいろと選べたはずなのにお母さんのやってたバーと同じ

 バーにそのまま残り本職のバーテンダーになった。」

「母の元彼が今は湘南にいるんだけどその元彼に教えてもらったんだ。

 `mask´でバイトを探していること聞いて店の前まで行ったら募集の張り紙でしょ?

 それで面接を受け入り込んだ。

 働いているときにオーナーからもそのままレギュラーで

 働ける人を探しているんだと聞いた。

 それに母の顔が一番輝いて嬉しそうだったのは

 あたしがカウンターでシェイカーを振っている姿を見てるとき。

 その顔が見たくてがんばったし、亡くなった後も、

 どこかで母が見ているような気がしてシェイカーを振った。」

「`mask´にいると聞き、俺は客でもいいから弓弦のそばに居たくて通った。

 弓弦が楽器をできることも知ってたから、仕事の合間に

 手伝ってもらうという理由で俺のそばにいてもらった。

 どれだけ、弓弦のことを長く思っていたかわかるか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「弓弦。弓弦が俺の目の前に現れてから俺はすごく不安だった。

 いつ弓弦が誰かにさらわれやしないかと。

 誰かほかのやつとと思うと、すごく不安になった。」

「うそうそ。そんなに思ってもらえるあたしはその時はいなかったはず。

 かなり生意気で衝突も多かったし。」

「いや、弓弦には本音で言い合えるから言えただけで

 本当に弓弦が大切で手を離したくなかった。」

「・・・・・・・・・・・。」

「なぁ、だから。だから弓弦、これ以上俺を不安にさせないでくれよ。

 俺はお前と一緒に居たい。ずっと」

「ねぇ。もう寝よう。夜も遅いわ。」

「明日は朝から診察だな。」

「えぇ。休まないと。」

「あぁ。結果が悪くなると退院できない。」

「大丈夫よ、西村さんは、すぐだ。」

「弓弦。明日先生に掛け合うが俺の退院と弓弦の自宅療養へに切り替えを同時にと。

 一緒に退院して、俺の部屋で自宅療養しよう。

 でないと弓弦が一人になると俺が不安でさ(笑)」

「西村さんはかなりの心配性だ。でも、外に出れるのはうれしいかな。」

「んじゃ明日は、それ交渉するから。」

「西村さんの自宅に行くの?」 

「もちろん。弓弦のあの部屋は引っ越すんだろ?」

「どこに?どこに引っ越しできるの?(笑)」

「もちろん俺の部屋。で、籍も。すべて俺の所に。」

「全部?」

「全部。弓弦、来週記者会見があるらしい。」

「なぜ?なんで?」

「事件のことについてだ。無事に戻ってきたとのことで。」

「戻ってきたんだからそれでいいじゃないの?駄目なの?」

「一応マネージメント契約している以上タレント扱いなんだろうし

 お前チャリコンのあの公園で連れ去られる所ばっちり映ってたし。」

「なんだかこれ以上顔が出るのは嫌だな、お爺ちゃんが自由にさせてくれなくなる。」

「でも、はっきりさせないとな。きっと今日のお前の言葉である程度

 警察も突き止めると思うぞ。」

「解決は早く解決させてほしいけど。」

「でも、俺と弓弦の関係も聞かれるぞ?」

「高校の先輩後輩?」

「弓弦が誘拐されるところTVにばっちり映っててそれだけでは済まないだろう。

 あんなに俺に向かって俺の名前呼んで泣き叫んで。

 あれじゃ、先輩後輩ってだけの関係かなんて疑われるにきまってる。

 だからとは言わないけど俺は発表してもいいと覚悟はできているが。」

「あたしは?あたしは何にも覚悟できていない。」

「んじゃ、これから覚悟して。俺は、退院と結婚とを口に出す。

 もう決めたんだ。でないと誰彼弓弦をさらっていこうとするからな。」

「でも。」

「そうでないと怪しまれたときの突込みはかなりこたえるからな。」

「記者会見で言わなきゃダメ?」

「先に言わないとばれてからのはつらいものがある?」

「それは嫌だなぁ・・・・・・。」

「だから覚悟決めて。俺の嫁になるということ。そして記者会見での発表と。」

「それまでにあたし動けるのかしら。」

「今は?」

「起き上がると座ることは大丈夫だけど。まだ痛いし。」

「記者会見の時は車いすになるが大丈夫か?」

「大丈夫かなぁ、たぶん。」

「そう思えるのであれば大丈夫さ。あとはいいか?俺は隠さず聞かれたことは話すぞ。」

「記者会見までに返事していい?」

「いや、今返事して(笑)」

「無茶な・・・・悪い夢見そう(笑)」

「おいおい。幸せな俺との夢見て眠れさ。」

「お休み」

「お休み、弓弦。」


「おはようございます。起きていますか?」

「あぁ、おはようございます。弓弦起きているか?」

「えぇ、おはようございます。」

「今日は朝から検査がお二人とも入っています。

 原田さんの方は、検査後の朝食になりますが西村さんはどうされますか?」

「んじゃ俺も弓弦と一緒で。」

「わかりました、そう準備をします。」

「その時にでも、先生に聞いてみるか。」

「気が早いなぁ・・・・・。」






そういって二人TVを見ながら診察を待っていた。

しばらくすると看護師たちが来て診察ですと二人を連れて先生の所に行った。

別々に検査や診察を受け、しばらくして診察室に呼ばれる二人。


「西村さん。あなたの方は退院のお話をしてもいいのですが原田さんの方はもう少し。

 怪我が多い分、体も無理がある。まだ当分はここにいてもらわないと治療が。」

「一緒には無理ですか?弓弦と一緒に退院。」

「原田さんの方は怪我は治るのを待つだけですが

 なんせ、食べてない期間が長かったでしょう。出血も多かったし、

 体内の血液が少なかったことと食べてなかったことで、体力がまだ戻っていない。

 免疫力も何もかもが低くて、このまま退院すると

 感染症が怖い。傷が完全にふさがったわけでもないし。」

「でしょう。だから西村さん言ったじゃない。当分無理だって。

 こうやって動くだけでもちょっとつらいかな。」

「先生。俺の家での自宅療養にしたいんです。当分は仕事も減らしてもらってるし、

 家に俺もいることになるし。十分に目の届くところで療養させれる。」

「原田さんは個室で一人でもいいんじゃないですか?

 原田さんの体的には入院している方がいい。安全だ。」

「俺だけ退院ですか?俺は弓弦の看病をするつもりなんです。

 俺も泊まっていいんですか?」

「西村さんがそれでよければいいんですが。

 仕事も少しづつ入ってくるだろうし、いない間はみんなで見ることできますし。

 そのほうがいいんではないですか?」

「付き添いで看病で泊まるっていいんですか?この病院では見たことないんですが。」

「不安なんでしょ?西村さん。それに原田さんは個室になる。

 そうしておかないと、原田さんも困るだろうし。」

「西村さんは心配性なんだって。25にもなる大人だよ?

 あたし大丈夫だって。いない間に、どこか行くってことしないから。」

「弓弦はそういいながらも、黙って消えそうだし。」

「先生こういうこと言うんですよ?」

「仲がいい証拠です。とりあえず、来週記者会見があるでしょう。

 その日が西村さんの退院にしましょう。

 で、原田さん。まだあと最低でも3ヶ月はいなければいけません。

 足首の手術もある。その手術とリハビリ次第で退院を決めます。

 今の段階では、もう少し抵抗力と免疫力が付かないと手術ができない。

 血液検査の数値もまだまだ低いし。これではちょっとねぇ。

 記者会見のある週に次の週に検査をし結果を見て決めましょう。

 足首の手術をしてから先は、原田さん次第で。」

「長い期間の入院になるんだろうなぁ。」

「そうですねぇ。無理ないリハビリが早い退院につながりますから

 無理せずのんびり気構えて。」

「でも、手術の後の傷の治り具合では自宅療養も考えておきましょう。」

「本当ですか?」

「えぇ。この病院からどちらの自宅が近いんですか?」

「あたしの自宅が近いかな。」

「どちらになりますか?」

「狛江第3病院の近くです。」

「近いですね。西村さんは?」

「俺は横浜ですから遠いかな。」

「では自宅療養の検討は原田さんの自宅ということで。」

「んじゃ、俺退院したら弓弦んちに引っ越しておこう。」

「あの離れは・・・・・。」

「俺からひかりのお父さんたちに相談しておくさ。」

「誠さんが、多分引っ越してくると思うんだけど。」

「誠さん使っている部屋はひかりちゃんの部屋の隣って聞いたぞ?」

「さぁ、部屋に戻って朝食を食べてください。

 原田さんは夕べのおかゆは大丈夫でした?」

「えぇ。少しだけしか食べれなかったんですが吐きはしませんでした。」

「じゃぁ、朝食も大丈夫そうですね。」

「多分。」

「しっかりと食べれるようになったら、点滴でのお薬も飲み薬に変えますね。

 そして、おかゆからまた一つ進めたら点滴も卒業です。」

「本当ですか?本当に?それだけでもうれしいかも。」

「体力の戻りも免疫力も食べる消化力が出てくれば

 戻るのも早いでしょう。だから、それだけは外れます。」

「良かったな。かなり動けるようになるぞ。」

「さ、部屋に戻って朝ごはんだ。」

「なんだ、弓弦。げんきんだなぁ・・・・(笑)」


診察室を出る二人。車いすの弓弦とそれを押す西村。その後ろ姿はやっぱり仲が良く見える。

横を通り過ぎる他の患者らは幸せそうに笑う彼らをほほえましく思いながら見る。

部屋の戻ると、準備がしてあり共に朝食をいただく。

まだ弓弦は両腕をうまく上げきれないため、西村が食べている間は

看護師が食べるのを手伝ってくれているのだが、西村はそそくさと食べ終わると

看護師に変わって弓弦にかいがいしく食べさせていた。


「訓練でもあるんだし、自分で食べるって。」

「食べると言ってもほら。こぼれるだろう、まだ早いって。」

「んもぅ。」

「弓弦、まだ無理だって。それに汚すと取り合えるの大変なんだぞ?

 もう少しだから、おとなしく食べて。」

「看護師さん。」

「なんでしょう?」

「リハビリは何時からなの?」

「午後ですよ。それまでゆっくりとしててください。

 面会時間が10時からだから、どなたか来られるかもしれませんし。」

「そうだ、弓弦。急いでも良くない、ゆっくりゆっくり。」

「西村さんのPC貸してっ。指先だけだから大丈夫だろ?」

「んじゃ、きつくないように袖机を準備してクッションの上に腕をおいて楽な姿勢で。」

「なんだかなぁ。なんかすごく複雑。」

「だって俺よりもお前が重傷なんだぞ?」

「そうなんだろうけどさ。」

「俺は動ける、弓弦は動ける範囲がまだ狭い。どっちが看病する方だ?」

「意地悪だなぁ。」

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