うれしさの先に決まった幸せ。そして事件。
着替えに部屋に行く弓弦。
槙村はその部屋から見える庭をしばらくの間みていた。
眩しいぐらいの夏の陽射しに庭の緑がまぶしくて、そんな一つのシーンが印象的に見えた。
「お待たせ。で、話って?」
「長崎で話していた病院の話。」
「あぁ。でもいいよ。病院にはいかない。」
「なんでさ。」
「どうしても。」
「俺の同級生夫婦がやっている心療内科があるんだ。
そこに連れて行きたいと思っているんだけど。」
「あたし行きたくない。」
「なぁ。俺が付いて行くから、ついていってあげるから
一緒に行こう。俺のかかりつけでもあるのだからさ。」
「どうして?槙村さんがなんでかかりつけなの心療内科なのに。」
「ちょっといろいろあった時期もあるからな。」
「なぁ、弓弦。」
「何?」
「朝の続き・・・・・・。」
そういうと槙村は弓弦を引き寄せた。
引き寄せた力でそのまま床に押さえつけ弓弦の唇をふさいだ。
弓弦は部屋に入れた時からなんとなく。なんとなくだけど、そうなるのかもと。
「渉さん。シャワー浴びよう。」
「一人で?」
「そう一人で。」
「んじゃ弓弦さん先にいきなよ。」
「そうする。」
弓弦はなんとなくそうなるんだと、
一線を越えた後最後まで行くのは遅かれ早かれ来るものだとそう感じてた。
一方弓弦がシャワーを浴びに行く後姿を見ている槙村。
バスルームの場所を確認。
玄関のカギは弓弦がかけたのをきちんと見ていた。
二人しかいないのに、鍵まできちんとということは
成り行きを予感してとのことか?
シャワーも浴びているしと槙村は思っていた。
槙村は服を脱ぎ弓弦のいるバスルームへ。そして声をかける。
「弓弦。」
「何?」
「入っていい?」
「入って来たいの?」
「鍵を開けて、弓弦と一緒にいたい。ひと時も離れたくない。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
ドアに近寄る弓弦のシルエット、そしてカギを開ける音がした。
「入るよ。」
弓弦は、後ろ向きのままこっちを見ない。ボディシャンプーの泡が
弓弦の全身を隠していた。止めてあるシャワーの湯をだし、
槙村の手のひらで泡を流していく。弓弦は両手で胸を隠すように立っているが
槙村の右手が腰からおなかに回り、古傷を大切なサインのようになぞる。
左手は洗い流された泡の後の素肌を確かめるように弓弦の胸を撫でる。
弓弦はその手がくすぐったいというのと、大切に触ってくれている槙村に、
抵抗ないわけではないがその場に立ち尽くしていた。
少しがたがたと緊張して震え始めている。
すると手を止め槙村はボディーシャンプーを手に取り、弓弦の体を手で洗い始めた。
弓弦の手のひらにもその泡を乗せ、自分の体にその手を這わさせた。
弓弦の顔がすごく色っぽい。女の顔だ。
槙村は弓弦は俺をきちんと受け入れたと感じたのか、泡を流し優しく弓弦にkissをした。
唇をふさぎ、腰に手を回し素肌のままお互いを感じれるように。
槙村の口元が首筋をおちていく。胸元に落ちkissマークが一つ。
おなかの傷まで落ちて行き、その傷を慈しむかのように唇を付ける。
「弓弦?」
「あ、なに?」
「タオルは?」
「外にある。」
「俺にやらせて、水気を取るよ。」
「でも。」
「きちんと。」
そういうと弓弦を立たせたまま水気を取る。自分の体の水気もとる。
鏡に映る二人の体。槙村の男らしい筋肉のついたがっしりとした男の背中。
筋肉と女性の体という均整の取れた弓弦の体。
その姿はやっぱり弓弦を女性として認識せざろうえないからだ。
「弓弦。お前はきれいだな。どうやったらそんなに均整のとれた体になるんだ?」
弓弦の恥ずかしがる顔を気にも留めずに抱きしめる。
さっきの緊張が少しなくなったのかと思うぐらいに震えが止まっている。
「弓弦を抱きしめたい。どうすればいい?」
「どうしたいの?」
「一つになりたい。弓弦と一つに。」
「部屋に行く?」
「あぁ。」
バスルームを出て、部屋は2階になるらしい。
一枚シャツだけを羽織り、弓弦と槙村は2階へ上がる。
明るい2階の部屋は涼しく風が入ってきている。
広い部屋の窓際に弓弦のベッドがあった。そこにもつれ込む二人。
ベッドに倒れ込む。向き合って長いkissをする。
長くとても長く愛しい感情が手に取るように感じれるぐらいに長いkiss。
そしてそのまま縺れ込むと、弓弦の両腕が槙村に絡むように槙村の後ろに回り絡む。
弓弦の胸に槙村の顔が埋まりくすぐったく感じる弓弦。
槙村は弓弦に愛しているとささやく。俺の物になってと、一生大切にすると。
嬉しくくすぐったい言葉をうわごとのように言う。
戸惑うけれど、本当にこれでいいのかを気にする。
自分には西村さんという気にしている人がいるのに
この人に自分を預けてもいいのかと戸惑う。
槙村が中に入ってきた。弓弦は少し緊張した、忘れていた女の部分が
ゆっくりと呼吸をするように息を吹き返す。
嫌な感じはないのだけれど、忘れていた感触を思い出すかのように
ゆっくりと時間が動き始めた。
「弓弦。このまま俺の物になれさ。」
そんな言葉をうつろう意識の中遠くから聞こえている。
「弓弦。愛している。弓弦。愛している。」
ずっとささやかれ、夢の中へいざなわれていく。
本当に愛されているのだろう。おなかが痛くない。
いつもだとひきつって痛くて拒絶するしかないぐらいの痛みが襲うのに
それがない。それがないのに、どうしてなんだろうと、そう思う弓弦。
一つになった弓弦との間に夢を見た。
「弓弦。お前震えてなかったな。」
「震えなかったね。」
「でも、弓弦は俺の弓弦じゃない。」
「体だけのつながりは嫌だけど、でも相性があることを
槙村さんは教えてくれたのよね。」
「そうかな?」
「でもごめん。一つになっても体を許しても
槙村さんと友達以上になることを考えられない。」
「そんなこと考えるものなの?
それは自分の気持ちが感じることでしょう?」
「誰にも言わないで。誰にも。誠さんや西村さんやほかの人に
一線を越えたことを知られたくない。
あたしがあたしで居られなくなる。怖いのよ。」
「怖がることはないんじゃないか?
たまたま、弓弦は俺と知り合い相棒となってくれた。
他の人よりも、かけがえのない関係を持った、ただそれだけ。」
「ごめん、本当にごめん。それを知られたときの他の人の顔が
目の前に浮かぶ。怖い。すごく怖い。
ちゃんと自分自身がしっかりしないと相手にも失礼でしょう。」
「俺はきちんと振り向いてくれるまで何度でも会いに来る。
何度でも弓弦を一人占めしにくる。俺の弓弦になってくれるまで。」
「答えれるかはわからない。だって・・・・・。」
「お前の中にはいつも西村さんがいる。あの人が一番なんだろう?
いつもいつも何があっても一緒に居たんだもんな。
だけど、割り込めないわけじゃない。間に割り込めて
俺にもチャンスがあるのであれば、そのチャンスを俺にも欲しい。」
「槙村さん自身は好きよ。こんなあたしを理解して愛してくれようとしている。
だけど、西村さんとは比べられない。そういうんじゃない。
一緒に居ること自体が普通なのよ。
離れていると、すごく不安で怖くて泣いてしまいそうな時もある。」
「俺だって弓弦を一人にはしない。
たとえ海外での仕事になれば弓弦もつれていく。
ひと時も離れたくあるもんか。不安な夜を過ごさせはしない。」
「渉さん。気持ちはうれしい。だけど、まだ。違うの、全く違うのよ。
一線を越えてもまだ超えていない気持ちがある。
愛してくれていることにこたえられるようなあたしじゃない。」
「今は、いい。俺よりも西村さんが心を占めているんだろうし
あの人に勝てるかどうかそれは弓弦次第。
でも俺が弓弦を幸せに愛する気持ちは西村さんにも負けてない。
だから、誰にも負けない気持ちがあるから、
そう急いで弓弦の答えを聞こうとはしないさ。」
「こういうことになって、それでもまだごねているあたしを
愛してくれてありがとう。それだけはうれしく思うから。」
「そう思ってくれてればいい。いつかは答えとなるだろうし。」
下の階へ降りた。
二人一緒にシャワーを終えると、またリビングでソファにゆったりと座り
TVを見ている槙村。PCを開き、メールのチェックをしている弓弦。
そうしていると弓弦の携帯のほうにメールが来た。
`お久しぶり。弓弦もう帰ってきたのか?
帰ってきているのであれば明後日の打ち合わせしたいんだけど´
そう西村からのメールだ。
「そうだった。連絡しなきゃ、西村さんに。」
「なんだっけ?」
「チャリコンの練習というか打ち合わせ。」
「あぁ、そういえば弓弦西村さんのにも参加するんだったなぁ。」
「うん。何をするつもりでいるんだろう。」
「会場はそんなに広くないんだよな。」
「ビルの谷間にある公園なんだよね。」
「でも西村さんが一番だとすごい人ごみだろうな。」
「それは内緒にしてあるんじゃない?内緒にしてないと集まる人半端ないし。」
「俺は取材だけだから行こうかな。」
「来るの?」
「だって西村さんと弓弦のステージ見たいもん。」
「来なくていいよ。大騒ぎになる(笑)」
「いいじゃん、西村さんにもそう伝えてよ。」
槙村は本当に来るつもりでいるみたいだ。
TVを見ている槙村を横目に西村へ電話を入れる。
「もしもし。」
「あぁ、なんだか久しぶりだな。沖縄はどうだった?」
「大変でしたよ、暑いし罠にはめられるし(笑)」
「でも秋山君の話しだとすごく頑張ったんだってな。
完ぺきだってすごい褒めてたぜ?」
「秋山さんとそんなに仲良かったですか?西村さん。」
「ちょくちょくな。電話はするかも。気が合うってものすごく楽しいしな。」
「で?西村さんは何をするんですか?」
「それなんだが、メンバーのスケジュールが合わなくてさ
ステージに上がるのは俺とお前だけ(笑)」
「なんで!(笑)なんで?それってすごく緊張するじゃないですかっ!」
「大丈夫さ、弓弦とだもん。俺は平気だけど?」
「ということは西村さんが歌って、あたしがピアノってこと?」
「いや、俺が歌って弓弦も一緒に歌うかピアノってことだな(笑)」
「やれる曲ですよね?もちろん。」
「だから、ちょっとね。打ち合わせって思ってさ。」
「これからですか?」
「弓弦仕事は?」
「あたしはチャリコン本番までお休みで。明日の夜に一通り通し稽古する予定。」
「んじゃ、これからうちに来る?リハーサルかねてさ。」
「西村さんにお土産もあるし。でも今お邪魔なやつが横にいるんですよ。(笑)」
「誰?」
「沖縄からストーカーのごとくついてきた人が約一名(笑)」
「あぁ、秋山君が言ってた。槙村君だっけ?」
「そうそう。空港から送ってもらってきたんです。」
「んじゃ、一緒に来れば?」
「それがですねぇ。翔太君と圭一郎さんが来るってさっき言ってたんですよ。」
「おいおい(笑)弓弦んちは、隠れ家か?(笑)」
「助けてくださいよぉ、ひかりが帰ってきてくれたらひかりも加わるんですよ?」
「そりゃ大変だ。弓弦はそこにいたら?こっちに移動するときっとこっちが大変だ。」
「大変なものをそっちにもってっちゃだめですか?」
「いや、だめだろう(笑)どうせみんなで呑んで騒ぐんだろ?
俺も面倒な人になろう、これから準備してそっちに向かうから。」
「えぇ?西村さんも来るの?面倒が増えちゃうじゃないですか。」
「いいじゃんひとりぐらい。んじゃ、譜面持っていく。」
「んもぅ。西村さんまで。とりあえず待ってますよ(笑)」
部屋を離れに移動したとたんにこれか?と弓弦は頭を抱えた。
もしかしてあたしの家はタレントどもの隠れ家になってしまうのか?
そんな楽しく恐ろしい不安が頭をよぎる。
「なんだって?西村さん。」
「チャリコンのリハーサルと詰めを兼ねてこれからこっちに来るってさ。」
「おぉ、弓弦と西村さんのセッションを生で聞けるんだ。」
「そうとも限らないけど。」
「でも、飲み物足りないんじゃない?圭一郎も来るし翔太も。
ちょい圭一郎に電話する。何か食材買ってきてもらおう。」
「飲み物はあるんだけど、冷蔵庫がほぼからっぽだから。
適当にお願いしてくれたら助かるかも。」
「OK。」
`tururururururur・・・・・・・´
「おぉ、圭一郎?今大丈夫か?」
「おぅ。今5人とも一緒さ。」
「収録終わったん?」
「終わったらしい、みんなこれから帰るってさ。」
「翔太連れてくんの?」
「あぁ、本人横にくっついてるぜ。置いてかれないように。」
「今から弓弦と西村さんがさ、
弓弦んちでチャリコンの打ち合わせと音合わせとするんだって。」
「すげぇ。俺楽しみ。
`翔太。これからリハだって、弓弦さん。´
`まじで?俺と大川さん超ラッキーじゃん。急いで行くって伝えて´
だそうだ。まぁ増えるかもしれんが(笑)」
「増えるよなぁ。楽しみだもん。でさ、圭一郎。
お願いがあるんだが、食べるものがない。飲みもんはあるんだが、食べもんがない。
10日間も留守にしてたからさ。で、何か食べるもん見繕って買ってきてよ。」
「お任せでいい?俺焼肉したい、弓弦さんにいいか聞いてよ。」
「ちょっと待ってな。
`弓弦さん。ここで夜飯焼き肉していいかって聞いてるけど´
`片づけをきちんとするならいいよって伝えて´
良いそうだ。その代り、きちんと片づけなって。」
「OK。んじゃ、どこだっけ弓弦さんち。」
「ここは狛江だったよな?弓弦。」
「あぁ。狛江の慈恵会医大第3まで来たら電話をって。」
「わかった。近くまで来たら電話する。ちゃんと迎えに来てな?」
「はいはい(笑)」
電話はそれで切れたが、またすぐかかってきた。
「俺の車は5人乗りでさ。」
「それがどうした?」
「んでさ。俺以外では4人しか乗れないよな?その場合。」
「あぁそうだ。」
「でさ。今、martinと俺とで協議しているんだが」
「面倒だなぁ。」
「1人乗ることができなくてさ、もめてんのさ。」
「で、何がいいたんだ?」
「お前の車で来ても迷子になるから弓弦にお迎え頼みたい。」
「俺が弓弦んちで留守番なのか?」
「お前が来ても迷子になったら一緒だろ?」
「なぁ、弓弦さん。」
「何?」
「西村さんはここ知っているの?」
「あぁ、この家は知ってるよ。」
「そしたら弓弦さ、今圭一郎たちアクアホールにいるんだけど迎えを頼んでも大丈夫?」
「あ、道がわからないんだよねぇ。でもそれだけじゃなくって?」
「Martin全員来たいそうだ。」
「まじですか(笑)まったく、槙村さん余計なこと言うからそういうことになるんだって。」
「圭一郎。一人は捨てておけ(笑)」
「それ可哀想じゃない?いいよいいよ。あたしが迎えに行けばいいんでしょ?」
「圭一郎、弓弦迎えに行くって。アクアホールの正面玄関でいいんじゃね?」
「そうだな、裏口はいくつかあるし正面だとわかりやすいか。」
「目立つからその前の駐車場でどうだ?」
「んじゃ、圭一郎さんの車は何?」
「白のvents。numberは**-**。」
「わかった、一人だけあふれるんならバイクで行っても大丈夫だね。」
「弓弦バイクで行くって。圭一郎。」
「一人あふれたやつが超ラッキーじゃん。」
「やっぱ、危ないから車で行く。」
「弓弦さんの車は何だ?」
「BMW 120i カブリオレの黒。コンバーチだからすぐわかるさ。」
「んじゃ、買い物は?買い物はどうするんだ?」
「面倒だな。帰ってきてから西村さんと合流してから代表が行けばいいじゃん。」
「そうしようかな。」
「弓弦さん、準備は?着替えんの?」
「ちょい上に羽織ってから行く。30分もしないで着くからって伝えて。」
「圭一郎。30分ぐらいで着くそうだ。大人しくまってな。」
「おぅ、わかった。んじゃな。」
夏の陽射しを避けるための長袖を羽織り、ジーンズをはき鍵を持つ。
弓弦のその姿は女には見えないなと笑いながら槙村は見ていた。
「んじゃ、迎えに行ってくる。西村さんが来たらそう言って。
決して余計なことはしゃべらないように。」
「わかった、 余計なことはな(笑)」
「なんだかなぁ。槙村さん、あたしをがっかりさせないでよ?」
「はいはい(笑)」
そういって弓弦は迎えに行った。それから少ししてチャイムが鳴る。
`pinpon pinpon’
「おぉ、西村さんこんにちわ。」
「あぁ、槙村さん。こんちわ、弓弦は?」
「いま、圭一郎たちを迎えに行きました。20分ぐらい前かな?」
「そっか、どれぐらいで帰るって言ってた?」
「どうだろう。アクアホールなんですよね。
乗るやつらがもめなければ、あと30分かからないぐらいですかね?」
「もめるほど来るのか?困ったなぁ。
リハって言うよりミニコンじゃん。」
「だって、西村さんの歌声をプライベートでだなんてめったに聞けませんからね(笑)」
「それと君たちのお目当ての弓弦の歌声だからなぁ。
聞き惚れるぜ、きっと。そういう曲を選んできたしな。」
「そうなんっすか?やっぱり西村さんは、
昔から弓弦を大切にしているみたいですもんね。」
「あいつはプライベートでも仕事でも半身みたいなもんだからさ。
曲でつまれば、いろいろと話して解決するし
演奏で力が足りなければ弓弦がどうにかしてくれる。」
「西村さんと弓弦は切っても切れない仲なんですね。
それを俺がかっさらったら西村さんどうします?(笑)」
「もちろん取り返しにいくさ、でないと俺が困る(笑)」
「西村さんよ弓弦は相思相愛なんですねぇ。弓弦も言ってました。
この世の終わりを迎えるとき一番最後は西村さんのそばにいたいって。
一人でいると不安になるやっぱり西村さんと二人でないとって。
俺やきもち焼きますよまじで。」
「槙村さんも弓弦のこと好きなんだな。
弓弦争奪戦はかなりな人数いるからなぁ。弓弦の気持ち次第だな。
弓弦の気持ちが変わらないうちに俺がかっさらおう。」
「やめてくださいよ(笑)まだチャレンジャーが出そろっていないんですから。」
「誰がいる?俺と槙村さんだけだろ?」
「なんでそれを?」
「だって、沖縄からストーカーしてきたんだろ?
貧血ひどいときに看病したのも槙村さんだろ?」
「なんでしってるんっすか?」
「秋山君がな(笑)」
「けっ。先輩のくせにおしゃべりな。」
「でも本当に愛していないと看病なんて一晩も付き添えないからな。」
「宣戦布告しても、西村さんは大丈夫そうだな。
俺も西村さんに負けないぐらい弓弦を離したくありませんから。」
「あぁ。頼もしいね、相手にとって不足はない。
お互いフェアに行こうな。でも、まだ相手がいるのか?俺らに。」
「多分おちゃらけて話しているけど圭一郎もだし弟扱いされているけど翔太も。
誠さんなんて、一緒に働き始めてからずっとじゃないですか?」
「俺は貴志からも宣戦布告されたぞ?」
「なんだか多いなぁ。弓弦わかってんのかなぁ。」
「て言うか、呼び捨てでもいいって言われたんだ槙村さん。」
「仲間ですもん。西村さん俺のこと`渉´って呼んで下さいよ。」
「いいの?お互い呼びやすい名でいいんじゃない?」
「そうですね。これからもよろしく。」
西村と槙村はまだ帰ってこない弓弦たちを気にもしないで、
西村が持ってきている譜面を見ている。一つは西村と弓弦でアカペラ。
SDLの落合寛司に連絡を取り、曲を提供してもらったもの。
もう一つは弓弦がピアノを弾いて西村が歌うバラード。
それを二人で話していた。
一方弓弦は家を出て20分過ぎようとしているかどうかというとき
アクアホールについた。正面玄関の駐車場にいるという話だったので
圭一郎のベンツを探す。一通りあたりを見回すと駐車場の真ん中に
やたらをデカい態度の車が停まっている。
弓弦が近づいていくと車から6人降りてきた。
まだもめている様子。誰が自分のに乗ってもつくところは一緒なのにと
弓弦は笑ってその様子を見ていた。
「お待たせ。」
「弓弦さん。あ。弓弦(笑)」
「なんでしょう?圭一郎さん(笑)」
「俺がそっちに乗りたいなぁ。」
「そのごっついベンツはどうするのさ。(笑)」
「悠太!悠太!お前が運転せれさ。」
「俺嫌っすよ?このやくざベンツ(笑)」
「んじゃ元原。お前責任もってな。」
「俺も嫌です。ぶつけたらこえぇもん。」
「圭一郎さん?あきらめたら?」
「んじゃ、今度デートしてくれる?」
「圭一郎さんはおおっぴらに聞きますねぇ。」
「悪いことするんじゃねぇもん。自分にも相手にも正直な俺だぜ?」
「あははははは。んじゃ、そういうことで。
そうでないと、この子たちがかわいそうですよ。」
「おいお前ら。この子たちだってよ。お前らの方が年上じゃなかったっけ?」
「弓弦さん俺たちのこと弟扱いなんですよねぇ。3,4つは上なのに。」
「さぁさぁ、もめずにじゃんけんででもいいから
あたしのBMWにはあと一人しか乗れないからね?」
「やっぱり俺そっちに乗りたいかも。」
「圭一郎さんが乗り込む前に決めてよ?」
martin5人でもめることもめること。弓弦の一声が響いた。
「男ならさっさと決めな!」
そう言われ、5人でじゃんけん。勝ったのは翔太だった。
「一声は利くなぁ。」
「んじゃ、翔太君乗って。」
「はぁい。んじゃお言葉に甘えて。」
「おい、手ぇ出すなよ?」
「じゃ、家まで。」
そういって弓弦の車に翔太が、圭一郎の車に元原・中村・悠太・上村が乗り込んだ。
「弓弦さん?この車ってコンバーチブルなんだ。風が気持ちいいですね。」
「後ろからはどう見えてるんだろう。」
「丸見えなんですよね?僕ら。」
「だね。会話が聞こえないだけで、丸見えさ。悪いことできない。」
「でも、視線痛くないっすか?弓弦さん」
「あはは。すごく痛い気がする。」
「運転はもちろん圭一郎さんでしょ?」
「助手席は元原が乗ってる。」
「次の信号で停まったら、kissしてみない?」
「え?」
「kissよ、kiss。」
「まじでいいんですか?僕とで。」
「なぁに考えてるのよ。ほっぺによ?ほっぺに。」
「なぁんだ。マジkissだって思っちゃったよ。」
「ほら、停まるよ。準備は?」
「OKOK。」
信号で止まる。後ろに止まった圭一郎たちの車。
弓弦が左にに体をひねり後ろを見ようとする。
翔太も右に体をひねり後ろを見ようとする弓弦の横顔にkissをした。
それにわざとびっくりしたふりを見せた。圭一郎やみんなが車の中っどお騒ぎ。
降りていきたいが信号が青になると思い出ていけない5人。
それを見ている翔太と弓弦はおかしくて大笑いしていた。
それもほっぺと言っていたのに、翔太もチャンスと思い唇を狙ったのだ。
そして柔らかな弓弦の唇にふっと軽くkissをした。
弓弦も本当に驚いたが、軽く羽のような柔らかい翔太の唇を感じた瞬間
`やられた(笑)´と思っただけで笑ってしまった。
これが槙村みたいに、真面目で長いkissだと困るんだがと。
近くまでくると急に道が狭くなる弓弦の家までの道のり。
弓弦のうちのガレージが見え始めると、西村のbikeが止まっているのが見える。
もう来てるんだと、弓弦は急いで車を停め圭一郎の車はここに停めてと
指示をだし、停めさせた。
「おい!翔太!お前弓弦さんに手を出したなぁ?」
「偶然ですって、偶然!一緒に後ろを向いたら弓弦さんにあたったんですって。」
「お前わざとだろ?なんだかなぁ。」
「弓弦さんなにもされなかった?」
「大丈夫ですって。翔太くん、ずっとごめんなさいってばっかり謝ってたんだよ?
許してあげないと、わざとじゃないんだし。」
「ほら、ほんとでしょ?」
「でも唇だったもんね。半分有罪?」
「弓弦さんまでそういうこと言って!言われるぐらいなら
真面目にkissすりゃよかった!」
「それこそお前ここで半殺しだぜ?」
「その前に弓弦さんの車から降ろされるって(笑)」
「さぁさぁ。部屋に行って。で、買い出しに行く人決めなきゃいけないから。」
「ここの近くにスーパーマーケットあるの?」
「そっちの突き当りを右に曲がるとある。すぐそこよ。」
「んじゃ、部屋に行ってからじゃんけんしよう、みんなでさ。」
入っていった家はひかりの邸宅。その説明をしながらもひかりのうちの大廊下を進み
突き当りの小さな開き戸を抜けると外に出る。
その向こうに見えている家を差しあそこの離れがあたしの部屋になるという。
「あそこの離れがあたしの部屋となるんだけど。」
「離れっていうんじゃないじゃん。一軒家だよ。」
「ひかりちゃんってお嬢様だったんだ、すげぇ」
「ひかりは今フリーだからよろしくね(笑)」
「弓弦だって。俺は弓弦の方がいいな。」
「まず順を追ってあたしの隣にいていいか
許可を得ていかないといけないよ?圭一郎さん。」
「お邪魔しますっ!」
「ただいまぁ、槙村さん。西村さんは?」
「おかえりぃ。今譜面読んでる。」
「弓弦お帰り。て言うか大人数大変だったな、ご苦労さん。」
「ほんと大変でしたよ。で、買い出しは誰が行ってくれるの?」
「みんなでじゃんけんしようよ。平等にじゃんけんで。」
「俺も入るの?」
「西村さんは別でしょう?あたしと打ち合わせなんだもん。」
「西村さんもだよ。みんな平等にさ。」
「槙村さん、西村さんはあたしと打ち合わせだって!」
「いや、さっき譜面みせてもらったけど数曲あるけど
どれもぶっつけ本番で大丈夫そうなものばかりだよ。」
「そういう曲しか持ってきてないけどな。」
「んじゃ、西村さん以外みんなで行ってきてよ。みんなで。」
「みんなで?」
「だって焼肉したいって言ってたのは、みんなでしょ?」
「俺は行かなくていいんだ。」
「西村さんはあたしと打ち合わせでしょ?まさかみんなで遊び倒そうって思ってたの?」
「なんだか弓弦怖いなぁ。」
「怖くないですっ。ただ早く打ち合わせ終わらせて
気持ちを楽にしたいのにがやがやと。」
「だそうだ。みんなで行って来たら?」
「みんなで行くと目立つじゃん。」
「さっさと行ってくれば大丈夫って。」
「弓弦さん鍵閉めて追い出さないでよ?」
「わかってるって。追い出していいのね(笑)」
「もう。んじゃ行こうよ。弓弦、何か食べれないものある?」
「んとねぇ。西村さんは何か食べれないものあった?」
「俺はないけど、お前は?」
「あたしいろいろあり過ぎて(笑)いうと買ってこられそうだから言わない。」
「んじゃ、行ってくる。弓弦、これだけは絶対だめというのがあれば
俺にメール入れてよ。」
「槙村さんそれ中心に買ってきそうだな。」
「大丈夫、信用してよ。」
「とりあえず行ってらっしゃい。」
7人で買い物に出かけた家の中には西村と弓弦と二人っきり。
西村はキッチンで準備している弓弦に声をかける。
「なぁ、弓弦。何かあった?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「何かあったんだな。でも、お前が言わない限り聞かない。」
「・・・・・・・・・・・。」
「弓弦?」
「あのさ、やっぱりあたしは女なんだなぁってさ。」
「何があったんだ?」
「みんながあたしを女にしようとする。」
「俺も、女になってほしいからそれについてはないも言わないぞ?」
「あたしも言えない。だけど求められたら。
真剣に求められたらあたしはどうなるんだろうとさ。」
「弓弦、気持ちが揺れてるんだな。」
「いろんな話を聞いてさ、なんだかさ。」
「弓弦の周りさ、この間の救助で水着姿をさらしただろ?
あれで色めきだってるんじゃね?」
「そうなのかなぁ。」
「あんなの見たら誰だってさ。俺だってほかのやつらに渡したくねぇもん。」
「西村さんったら。あ、そうそう。あっちでさ、あの悪がきたちがさ
あたしの写真たくさん撮ったんだ。」
「弓弦の写真?」
「西村さんのアルバムにさえも名前載せたり表に出ることしないのに
その写真、あたしってわかるような使い方はしないって約束で
次のmartinのアルバムに使うって。アルバムのジャケとフォトブックに。
5人の写真に交じって一緒に映ってる写真や、
あたしのシルエットやあたしってわからない感じで写っている写真
良いのを50枚ぐらいって。」
「それ俺もほしいかも、使わないからさ(笑)」
「なんだか、罠にはまったみたいでさ。」
「俺も見たことのない弓弦を写してまわったんだろうなぁ。
俺しか見たことのない弓弦ってあったかな?」
「あったかも、なかったかも。」
「でもあの朝の弓弦は俺しか見たことのない弓弦だもんな(笑)」
「もう一度見れるかどうかは保証しないけど。」
「何度も見たい、俺は真剣だぞ。弓弦を俺だけの弓弦にしたいと思う気持ちは
誰にも負けんし誰にも渡さんし。」
「あいつらが帰ってから考えようかな。」
「それって俺は帰んなくてもいいだよな?」
「わかないけど(笑)」
「あるけど。」
「このままだと打ち合わせは今日はできないぞ?明日の朝からでもいいんじゃない?」
「泊まっていくつもりなの?」
「そうだなぁ、どうせ明日の夜の通し稽古までは時間あるだろ?
沖縄に行ってさみしい思いをした分、俺の話しも聞いて欲しいんだな。」
「西村さんだけが泊まっていくんだったらね。」
「あの勢いだと、みんな泊まっていきそう。」
「んだなぁ。でも今日は追い返そう。でないと俺の打ち合わせも困るとか言ってさ。」
「西村さんったら。」
「それよりさ、槙村君も大川君も弓弦のこと呼び捨てだけど。」
「それはさ、呼び捨てにされた方が女を意識しないですむから。
呼び捨てだと仲間意識は大きくなるけど女を意識できなくなるでしょ。」
「そういう目的か。」
「さてと。西村さん、譜面は?」
「あぁ、これ。
一つはアカペラで弓弦と歌うのと弓弦にピアノをお願いする分と2曲ね。」
「それはあたし歌えるの?」
「歌えるさ。SDRの寛司に選曲してもらったんだけど
多分弓弦と歌うって言ったからちゃんとkeyも合わせてあると思うけど。」
「そう。もう一つのピアノって?」
「`スコールの中で´をって思ってるけど、あのピアノは大丈夫でしょ?」
「そうだね。あれだと大丈夫かな。でもSDRの寛司さんに相談したんだ。」
「あの人歌に対しての声質とかうるさいじゃん。相談したらさ
誰と歌うのって聞かれて`mask’の弓弦って言ったらこれ歌ってって。」
「そうなんだ、あの人と一度カラオケに連れてかれたもんなぁ。」
「そっかそれでこれって即渡されたんだ。」
「見に来るって言ってたぞ。」
「え(汗)それってすごく緊張するんだけど。」
「音出す?」
「今?」
「あぁ、いま。」
「んじゃ。」
譜面を見て、部屋の端においてあるピアノの鍵盤をたたく。
弓弦の細く長い指が鍵盤の上を踊る。後ろで西村が目をつぶり聞いている。
まだやつらは帰ってこない。ふと西村が後ろから抱きしめる。
弓弦の指が止まり、うつむいた。
「弓弦?」
「何?」
「弓弦さ、この歌どう思う?」
「どう思うって・・・・・。」
「これさ、男が女にプロポーズしている歌だぞ?」
「西村さんには何度も何度も・・・・・・。」
「俺は弓弦は俺の所に来ると信じているから何も言わないさ。
弓弦を信じているもん。」
「余裕だ。」
「弓弦が誰とkissしようと、誰に抱かれようと最後は俺の所に
来ると信じてるからな。」
「そこまで信じるの?あたしの事を?」
「そうさ。これまでも、これからも。」
「ありがとう。」
「さぁ、声を出して。俺は一通りやったけど弓弦は今日と明日しかないからな。」
「そうだ。練習しなきゃ。合わせないといけないし。」
「合わせようとしなくても、合うさ。俺と弓弦だ。」
外がうるさくなってきた。帰ってきたのだ。
その声も気にせずに弓弦と西村はピアノの音と譜面で合わせている。
玄関の外まで帰ってきた7人はその二人の声が聞こえてくるのに気づき
庭の方に回った。窓越しに見えるピアノに向かう二人の後姿。
ちょっと悔しい気持ちを隠し槙村はその姿を見つめている。
こんな時にまで携帯を取出し後姿を写そうとしているのは翔太と悠太。
「なんだか、すごく悔しんだけど後姿がしっくりいくというか。」
「なんか悔しいっすよね。すごく似合ってる。」
「声もこんなに合わせれるんだ。練習しなくてもいいじゃん。」
「聞き惚れるなぁ。逆に、西村さんのようなkeyの人間だと
一緒に歌っても似合うってことだよな。」
「渉。お前じゃ無理だ。」
「圭一郎。お前もじゃん。」
「翔太。翔太だったら合わせてもしっくりいくんじゃね?」
「どうかなぁ。少し西村さんはトーン低くて響くような声だし。」
「でもあの後ろ姿は二人いいシーンだよなぁ。」
庭から話しをしながら入ってくる7人。
「西村さん、弓弦。ただいま。」
「おかえり、んじゃ冷蔵庫に入れてて。まだはやいっしょ。」
「そうだなぁ。んじゃ、練習を見学しとこう。」
「ほんと、よく声があってるよな。」
「みんなでやる?」
「弓弦さん。僕一度弓弦さんと合わせてみたいな。」
「翔太君と歌うの?」
「西村さん。今の曲の譜面を見せてください。」
「あぁ。翔太の声だとこの曲は3人で歌ってもいいかもな。
チャリコンの時は仕事なの?」
「お昼の取材だだしと思ってこっそり見に行こうと思ってましたけど。(笑)」
「参加はしないのか?」
「したら大変っしょ、あんな場所で。」
「とりあえず、譜面。みんな一人づつ弓弦と歌うか。」
「それ聞いて、でる人決めるか(笑)」
「真面目にいってんの?西村さんの役どころ、奪える人はいないでしょ。」
「わからないぜ?弓弦の声と一番相性がいい奴がやった方がいいからなぁ。」
「いやですよ?他の人と合わせるの。本番すぐなのに、遊ぶのはなぁ。」
「まぁまぁ、弓弦。弓弦の声と誰の声が一番いいか合わせてみたいじゃん。」
「西村さんも余裕ですねぇ。」
「いやいや、さっきのだと全然いつでもOKな感じじゃん。」
「弓弦さんキッチン借りる。準備するからさ。」
「圭一郎さんがやるの?大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。おい賢一。お前手伝え。」
「俺がっすか?」
「お前は弓弦さんの声とは合わないから参加しなくてもいい。」
「そこまで言うかなぁ。かわいい後輩に。」
「元原もだ。お前key高いからあわねぇし。」
「そうかなぁ。」
「お前たちが手伝わねぇと、食べれないぞ?」
「んじゃ、かかろう。賢一さんよぉ。」
「わかったぁ。」
3人でキッチンに行き準備を始めた。
圭一郎と賢一、元原はキッチンで買ってきた材料を手際よく切ったり
皿に盛ったりして準備をした。弓弦と翔太の歌声を聞きながら。
心地よい高さの歌声がそのメロディが気持ちを優しくさせる。
思ったよりも翔太と弓弦の声がしっくりと聞こえ、
悠太や槙村と一緒に歌うよりCDにしてもいいぐらいに似合っていた。
もちろん、その曲の持ち主の西村が歌っても聞き惚れるのだけれど、
それよりも弓弦の歌声が耳から離れない。
槙村は黙って弓弦が歌うその後ろ姿をじっと見ている。
西村のピアノで弓弦と翔太が歌い終わり、どっちがいいとかやっぱりとか
キッチンからも感想を大声で行ったりしてにぎやかな夕飯となる弓弦の家。
ホットプレートにも熱が入り焼けるものは焼き始めた。
テーブルには次々と皿が並び、食べる人は食べる吞む人は吞むと
次第に夕飯もにぎやかになっていく。
「この曲は西村さんの曲なのに、弓弦さんの持ち歌に聞こえる(笑)」
「うんうん。これもしかして西村さん弓弦さんのためにつくったんじゃない?」
「あはは、でもこの曲は男が女にプロポーズしている曲だぞ?
弓弦は女だ。誰にプロポーズするんだ?」
「おれおれ。もちろん俺にしてくれるよな。(笑)」
「知りません(笑)」
「西村さんを差し置いて渉にってことはないだろ?」
「わからんよ?俺よりも槙村君の方がバイタリティあるし、
弓弦のような迷える羊だとあっさりと引っ張られるかもな。」
「西村さんが言うと、がぜん誘惑する気力でてきた(笑)」
「けしかけないでくださいね?先輩。
あたし誰の物にもなりたくないんですから。
自由が一番。誰からも縛られたくないから。」
「弓弦は本当に気ままが好きなんだな。」
「一人が好き、一人が一番。」
「弓弦もったいないなぁ。一人じゃ何にも面白いことないぜ?」
「一人の方が、風を楽しめる。緑を楽しめる。
季節を感じることができるし、夜を感じることができる。」
「弓弦はいつも同じことを言うなぁ。」
「いつもですか?」
「弓弦とさ、差しで呑んだりするんだけどさいつも何かにつけて絡むと、
自分はこうなんだからとさっきのことを言いつつ一人がいいんだっていうんだ。」
「西村さん、そういってさしで呑むこと言うと
それぞれにお誘い受けるでしょ?言っちゃ駄目なのに。」
「言っちゃ駄目だったか?」
「えぇ。西村先輩だからこそなんだし。
それにあたし、西村さんとしかさしで呑んだことないんですよ?
他の人とは一切ありませんからね?」
「誰とも?」
「えぇ。誰とも。吞みに行ったことはありません。」
「そういえば沖縄でもさしではなかったなあ。
誰かしらいたし弓弦吞まなかったよなぁ。」
「あたしビールとか吞まないんですよねぇ。」
「自分の作るカクテルも味見以外は口にしないって誰か言ってましたね。」
「アルコールはさ。吞まれると怖いからね。
味覚がだめになるし、精神も追い込まれることもある。
吞むまではいいけど、呑まれる自分を見たくない。
ある意味アルコールに弱いところがあるからさ。」
「弓弦アルコールに弱かったっけ?」
「弱いって言うか、受けつけないというか。体調悪いときは具合悪くなるんだよね。」
「すぐ寝着く?」
「いや。クダ巻き絡んでグチ聞かせ?」
「それだめじゃん(笑)」
「酒飲むと悪い人間になるから、呑まないだけさ。」
「んじゃ、ここは自宅だし吞んでもいいんじゃない?」
「嫌です。みんないるのに。それに、打ち合わせ!
食べてもあまり飲まないでよ?先輩。
きちんと練習もしなきゃいけないんだし。」
「でもほれ、そこ。」
「ん?あぁ!吞んでるっ!圭一郎さんが呑んだら車誰が運転するのさ!」
「んぁ?俺?俺の事?」
「圭一郎さん!どうするのさ。」
「俺の車?槙村が運転だろ?」
「俺も車があるぞ?誰が運転してくれんだ?」
「元原、お前運転お願いな。」
「お?僕も吞んでるけど?」
「どうするのさっ!みんな帰るんだよ?」
「西村さんも吞んでるの?」
「いや俺は練習って思ってたから吞んでないけど。」
「んじゃ、圭一郎さんの車運転お願いできる?」
「あぁいいけど。車2台あれば全員送っていけるよね?」
「会社のタレント寮があったよね?」
「あったあった。」
「翔太君。どこ?」
「本社の裏手になりますね。もしかしてそこに帰るんですか?」
「えぇ。自宅に送るにはバラバラだし、あたしも練習する時間欲しいし。」
「俺の車は?」
「槙村さんの車なら、ひかりが運転できるだろうから
鍵をおいてって。明日の朝ひかりに出社の時に運転させるから。」
「あいつ、免許もってるのか?」
「一応ね。そこそこ運転はうまいと思うよ。」
「そっか、ならいいや。」
「無傷で会社につくとは思わないけどさ。」
「とほほ。」
「調子に乗って吞むのが悪いんだ(笑)」
「今何時?」
「今19時過ぎ。これから送って行っても21時前にはつくでしょう?」
「西村さん。ここはこのままで。行きましょう。」
「そうだな、みんなさぁさぁ。車に乗るぞ。」
夕飯を食べ終わった後のテーブルを見てもすぐ片づけられそうな感じだし
吞んだ缶も多いけどすぐだし、今のうちに追い払わないと家の中が大変と思い
弓弦は西村と一緒に彼らを寮まで送ることにした。
「さぁ乗って。西村さん、圭一郎さんのやくざベンツ大丈夫?(笑)」
「上等だなぁ。ぶつけないように頑張るさ。」
「て言うか、なんであたしの車の方に圭一郎さんと槙村さんが乗り込んでるのさ。」
「なんで?いいじゃん。」
「あっちは乗れたの?」
「西村さんが運転だろ?あと助手席と後ろに3人で???」
「一人どこ行ったんだ?」
「あ、翔太が残ってるぞ。」
「翔太くーん。こっちにおいでよ。助手席空いてるから。」
「んぁ?助手席は俺座ってるけど?」
「後ろに行って、そこは翔太君が座るから。」
「なんでさ、なんで翔太の席?」
「翔太君は正直でかわいい弟だから。」
「そか、弟か。なら許す(笑)」
「やっぱり弟かぁ。弟からせめて友達以上恋人未満だよなぁ。」
「俺もなぁ。友達なんだもんなぁ。扱いが。(笑)」
「さぁ、寮までの道案内頼むよ。案内は翔太君が正直で
きちんとわかりやすく教えてくれそうだしな。」
「そういう信用が僕にあるんですね、なんだかうれしいようで
嘘つけないのが悲しいというか(笑)」
「さぁ、行こうか。」
弓弦のBMWが前を行き、圭一郎の車を西村の運転でついてくる。
「西村さん。あれいいんですか?」
「何が?」
「圭一郎さんの獲物を狙うような視線と渉さんの自分の弓弦さん的な態度。」
「弓弦が平常心だから大丈夫じゃない?」
「隣は翔太だし。」
「翔太君は弓弦結構気に入ってるんだよね(笑)」
「弓弦さんは翔太が好みなんだ。」
「それは知らないがね。でもお気に入りなのはお気に入りみたいだな。
まず自分にそっくりだしなんとなく似てるんだろうな。」
「誰に似てるの?」
「元彼さ。」
「へぇ、弓弦さん彼氏いたんだ。」
「その彼氏への思いが深い分、今は誰も受け入れないんだと。」
「弓弦は25だけれど、君たちは?」
「俺が29で中村と橋本と青井が28.翔太が27だっけ?」
「んじゃ、一番翔太君が弓弦とちかいんだな。俺なんて15も離れてるから
相手にされてないようだ。」
「そんなことないですよ。沖縄でも西村さん西村さんってうるさかったんですから。」
「そうそう、何かあったら西村さんに申し訳ないから
西村さんの所以外では仕事しないだとか。」
「なんにしたって、西村さんってうるさかったんですよ?」
「そうなの?ちょっとうれしいかも」
「弓弦さんは西村さんだけにしか心許していないみたいな感じだったしな。」
「それを聞いて安心したよ。」
「あっちでは何話してるんですかねぇ。渉さんのけぞってますよ?」
「んだな、圭一郎さんだってどえらい態度で後ろに乗ってるし。」
「笑顔で話してるのは翔太と弓弦さんだけ?」
「横につけてみるか。」
信号で停まるとき隣の車がいなくてたまたま弓弦の車の横に停めた。
「おーい。」
「あんだ?元原。」
「何、不機嫌なんっすか?」
「翔太が弓弦さんになれなれしくってさ。」
「圭一郎さんまで。」
「翔太はついたら半殺しさ。」
「怖い怖い(笑)」
「そんなんでおこられんなら、次は俺がやられるのか?」
「悠太なんだ?」
「弓弦さんとツーリングに行くから。」
「お前っ!」
「悠太は正直だなぁ。でもお前も同じだ。」
「弓弦さんとデートの約束はしなかったんっすか?圭一郎さん。」
「そだそだ!弓弦さん。俺とデートは?」
「お休みがあえばね。」
「んじゃ、チェック入れなきゃ。」
「弓弦とのデートは怖いぞ(笑)」
「西村さん?それって意味深な発言だなぁ。」
「あ。青。」
弓弦の一言で進む。信号が青で、進んで・・・・・。
そうこうしているうちに彼らの会社の寮についた。
「送ってくれてありがとう。」
「いや。それじゃ。」
「またな、友人たち。」
「西村さんも、お休みなさい。」
「お休みぃ。ナイトたち。」
「おやすみなさいぁい。」
寮の前から離れると隣にいる西村が弓弦に話しかける。
「家に帰ると片づけ大変だな。」
「でもあれぐらいだったら30分もあれば片付く、大丈夫さ。」
「今から帰っても22時前か。歌うと迷惑だな。」
「そうですね。どうしますか?」
「俺はどうしたらいい?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「俺は、このまま弓弦と一緒がいいな。」
「一緒に朝までいますか?」
「いていいのならば。」
「とりあえず、部屋を片付けなきゃ。」
「そうだな(笑)あれじゃ、酒臭くてな(笑)」
「んですよ。まったく(笑)」
少しゆっくり走りながら帰宅。車を停め、隣り合って停めたバイクの横を通り
離れの玄関まで、ひかりのうちの家の庭先を横切り向かう。
玄関を入ると二人は玄関先から散らかっているものを片付け始めた。
スリッパや引いてあるマットやあちこちに散らかったものを
所定の位置と思われる場所に、西村は手際よく片付けていく。
弓弦もテーブルの上から缶や瓶を先に片づけごみ袋ごとごみ置き場にだし、
キッチンにすべてを持っていく。部屋のテーブルは早く片付いた。
部屋はそんなに散らかってなかったから、早かったのだ。
キッチンに立って皿とかを洗いそれを西村も拭いたりして水屋に片づける。
そうこうしていると23時になった。
部屋とキッチンと片付けて一息つこうとソファに二人座り込んだ。
「疲れた。」
「あぁ、疲れたな。」
「TVつける?」
「いや、いい。電気消さない?」
「消すの?」
「だってさ、庭に照ってる月明かりきれいじゃん。明かりはいらないだろ?」
「そうだね。ねぇ、西村さん。飲む?」
「いただくかなぁ。弓弦お薦めのだろ?」
「この間さ、山村さんご夫婦から頂いたスパークリングワインがあるんだ。」
「へぇ。」
「山村さんの奥さまが選ぶスパークリングはあたしのいいとこついてくるのさ。大好き。」
「そんなに口当たりがいいのか?」
「喉ごしもいいし、甘いしアルコール強くないからさ。」
「んじゃいただく。」
「チーズはマーブルでもいい?」
「あぁ、弓弦の好きな組み合わせでいいよ。」
冷蔵庫からリッツとチーズと生ハムを出してきた。
そしてよく冷えたスパークリングワインと。
「これさ、スパークリングワインなんだけど宮崎のワイナリーで作られた奴で
おいしいんだ。甘いんだけどきちんと酸味が利いてて
味がまろやかというか、そういうのなんだけど。
まさか山村さんご夫妻からもらうなんて思ってもみなかった。」
「弓弦がそんなに褒めるということはそれなりに国産でもいいものだということか。」
「そうだな。国内産でそうそうこういうものには巡り会わないんだよね。」
「普段はイタリア産とかが多いからな、弓弦。」
「はい、グラス。」
「おぅ。」
「では、月夜に。」
「月夜に。」
沖縄の事、長崎の事10日間を西村に話をした。
ついた早々に泳がされたこと。秋山さんと三本勝負して負けたこと。
悠太君がおぼれてそれを助けたこととか、練習の事。
きつくて倒れてしまって槙村さんに看病してもらい手を煩わせてしまったこと。
長崎に行って山口先生と会ったこととか。
西村は弓弦がそう話し続けるのを口を挟まず笑いながら聞いていた。
しかしふと弓弦の顔が曇る。
「山口先生や後輩が先生になっててうれしくて懐かしかった半面
あの人がこういう場所に笑っていないというのが
一番悲しかった。忘れる事ができない深い傷を作った彼が
このあたしの生きている世界にいないことが、長崎にいくと
ひしひしとわかる、つらかった。」
「弓弦は本当に忘れることができないんだな。
でも、その人を忘れなくてもいいから自分を見つめることも必要だぞ?
そんなに弓弦を傷つけても心を縛り付けているぐらいに
その人もお前を愛していたんだろう。
だけど、この世にいないんだ。そばにいる人間を見る努力をしようよ。」
「ある一種の精神のトラウマなんだと言われた。
槙村さんの同級生に心療内科をされているご夫婦がいるんだって。
そこに行ってみないかって言われた。槙村さんに。」
「そうだなぁ、俺もそれを薦める。俺もそれがいいと思う。
ていうか、槙村君にも話したのか?弓弦のその話。
ということは槙村君はライバルか。」
「西村さんとは比べれないですよ。彼は彼。西村さんは西村さん。
ただ、なんだかんだとしつこいんだけどあたしのことを
ちゃんと理解しようとしてくれる。
西村さんと同じ心持ってる人だね。だけど彼は彼。」
「でも弓弦のことをちゃんと心配してくれるから自分の友人で
信頼しているところを紹介してくれるというんだろ?」
「そうなんだけどさ。槙村さんには西村さんまで気持ちがないかも。」
「それは彼にはかわいそうだな。でも、俺と一緒にならないときは
彼が弓弦の隣にいるんだろうな、多分。」
「わからない。彼は強引すぎる。あたしとは合わない。」
「でもいずれにしろ心療内科にかかることは俺も薦める。
心療内科というのは心の奥底から見つめ直して
健康な心になろうよという所らしいからな。」
「あたしね、心療内科っていうところは精神科とあまり変わらないところで
精神的におかしい人が行くところって思ってた。
でも、違うって教えてもらった、槙村さんに。」
「いいことあるじゃないか、あの人も。きちんと弓弦のことを考えてくれてるじゃん。」
「でも、その一歩を踏み出せない自分がいる。」
「彼を忘れることじゃない。彼を思い出の正しい場所に移動していただくだけだ。」
「できるかな。」
「できるさ、お前には俺や槙村君やみんながいるじゃない。
ひかりちゃんも相原さんも。みんなみんな。」
「だからあたし自身が逆におかしくなってしまったらって思うと怖くて。」
「それはないと思うぞ。なんなら俺が一緒に付き添うか?」
「それ一番緊張する(笑)」
「俺はさ、心療内科に行くことも必要かもしれないが
弓弦が一番安心できる人のそばにいることが何よりいいことだと思うんだけど。
それが俺ではだめなのかなって。」
「西村さんが?」
「あぁ、前にも言ったが俺はお前と共に歩みたい。
毎日朝から晩まで一緒に居たい。今度さ、ツアー始まるだろ?
それも一緒に連れて行きたい。」
「ツアーか、当分会えないのか。」
「来年明けるまでこっちには帰ってこないなぁ。」
「さみしい?西村さん。」
「もちろんさ、弓弦がそばにいてくれないし。」
「正直に言うね。西村さんにこんなに愛されてすごくうれしいことだし
女性として幸せなんだと思う。だけどさ、欠陥だらけのあたしが
そばにいても、何も幸せをもらった分のお返しができない。
愛されているとしても、いつかは何の変哲もないあたしは
どこかにおいて行かれてしまうと思う。
年を取れば、見てくれもすごく変わってくるし。
きっと、あたしは誰からも見てもらえなくなる。
どうせ一人になるのならば、今のまま一人がいい。」
「おまえさ、何をそんなに悲しい自分に成り下がってるの?
俺ちゃんと弓弦に誓う。ちゃんと聞けよ。」
「俺は、前から言っている通りそのままの弓弦を愛している。
たとえ子供が産めなくても、煙草を吸ってても
言葉遣いが悪くてもそれはこれから治せばいい。
夜の仕事をしているけどそれは弓弦自身が自分を誇りに思っている
弓弦の天性の仕事だ、誰にも何も言わせない。
俺の妻はバーテンダーだって誇りを持って自慢できる。
弓弦の今のすべてを俺は受け入れるしどんなに移り変わろうと
弓弦を愛していることに違いない。そう思っている俺じゃだめなのか?」
「駄目じゃない。駄目じゃないんだけど・・・・・・・・・・。」
「泣くなよ、まるで俺が泣かしたみたいじゃん。」
「だって。西村さんまであたしを女にしようとするんだもん。」
「弓弦はどんなに頑張ってもきれいでかわいい女性だ。
泣くなよ。なぁ、俺は今まで嘘は言ってないだろ?
6年もの付き合いの中で嘘はついたつもりはないし
弓弦への気持ちにも嘘はついたことはない。
だから、弓弦が落ち着けばそれだけでいいんだ。」
「西村さん。」
「なんだ?」
弓弦は声をかけると西村が弓弦を向いた瞬間胸に飛び込んだ。
泣き顔のまま西村の胸に顔をうずめ泣いた。
これまでのことを思い出し泣いていた。
出会ったころからの思い出やあの人の事や走馬灯のように
何もかもが頭の中を駆け巡り、その中でも西村の笑って見つめる笑顔は
弓弦の中から消えはしなかった。
二人きりの月夜は25時を回っていた。西村とくっついて座っているソファ。
弓弦は涙が止まり静かに目をつぶっている。西村の胸に顔をうずめていた。
しずかに鼓動を聞いている。ふと西村が弓弦に声をかける。
弓弦は、ふと抱かれている状態から起き上がろうとして躓いた。
体勢を整えようと起き上がろうとした瞬間、西村の顔を見上げた形になった。
愛しい人の見上げた顔を西村は引き上げ抱きしめkissをした。
「西村さん。ねぇ。西村さん、苦しいよ。」
「弓弦。このまま弓弦を抱きしめていたい。」
「西村さんもあたしも汗臭い(笑)」
「なら、一緒にシャワー行こう。」
「一緒に?」
「ここは弓弦のうちだ。誰もほかにはいない。邪魔ものも。」
「一緒に・・・・・・。」
「この間は別々だったしな。一緒に流そう。」
バスタオルを持ってバスルームに向かう。突然西村が弓弦を抱き上げた。
「お前どれぐらいあるの?」
「何が?」
「身長と体重。」
「176㎝で56kだったかな?」
「それって細すぎじゃね?」
「そうなの?でも、これ以上太ったこともないし痩せたこともないし。」
「弓弦の体は無意識のうちにベストバランスを自分で取ってるんだな。」
シャワーを浴びる。濡れながらお互いの体を洗う。
西村の手が弓弦の首筋から胸に落ち腰に落ちる。
弓弦の手も石鹸の泡を多量に持ち西村の背中からと手を伸ばす。
お互いが抱きしめあいながらも、お互いの体を知るように
手で洗っていく。泡に包まれた二人は、そのままkissをしながら
きれいに流していく。西村の均整とれたがっしりとした体に
弓弦の細くしなやかな体。無駄な筋肉がついていない女らしい体は
西村も少し驚いていた。
バスルームを出た二人は、正面の鏡を見ながら体の水分をきちんとタオルで取っていく。
鏡越しに見えるお互いの体。西村は弓弦の体を離さないように
後ろにくっついている。弓弦に腕をからめて。
「弓弦、震えてないんだな。」
「不思議ね、怖くない。
怖いと少しでも感じた時はおかしくなっていってしまうのに。」
「震えていないということは俺を受け入れてくれる気持ちになっているのかな?」
「かも。」
「気持ちが変わらないうちに、ベッドに行こう。」
そういうと、弓弦にkissをしそのまま抱き上げた。
階段を上がり、部屋のドアを開け入る。月明かりがカーテンを明るく照らし
部屋は別世界のように白く輝いている。
窓際のベッドに弓弦を下すと、西村はそのまま弓弦にkissをした。
弓弦の両腕が西村に絡みつく、大きな背中に弓弦の手は絡んでいる。
西村は弓弦にkissしたまま、唇を首筋に這わせ胸元にキスマークを残す。
会話も声もないままため息だけが部屋を埋め尽くす。
西村は唇を弓弦のおなかの傷にまで落としていった。
まだ痛々しく残るその傷は弓弦の体が緊張しているのがわかるぐらいに
赤く赤く浮き上がっているように見える。
「この傷がお前を呪縛から解き放してくれないんだな。」
「大切な愛しい人が付けた傷。
だけど、それ以上に大切な人ができたらこの傷はどうなるんだろう。」
「大丈夫だ。俺がすべてを引き受ける。弓弦のすべてを引き受ける。
弓弦はそのまま俺の所にいればいい。」
何度も何度も月明かりの中で、波が押し寄せては引き
お互いの意識が遠のいたりはっきりしたり、眠ることを忘れて
お互いの体を大切に大切に抱きしめていた。
朝になる。一つの夜を越えたふたり。
西村は横で寝ている弓弦の顔を見ながら、二人で朝を迎えたことを内心喜んでいた。
弓弦は、心を開いてくれたのかそんな気がしているのは西村だけなのか。
まだ横で眠る弓弦の顔を見つめる西村。
朝陽が当たり髪がキラキラとしている。癖のあるくるくるとした髪。
白い肌に映える髪の色が透明で触ろうとするとそのまま消えてしまいそうな感じ。
切れ長の目はいつものくりっとした大きな目とは思えないような
すっと一本のすっきりとした瞼。
まつ毛が長い。やっぱり女なんだよなぁとそう思い見つめる。
口元まで指が落ちていく。そっと生え際から頬を伝い、
唇に指が落ちていく。愛しく・・・・愛しく指が弓弦の顔をなぞっていく。
唇まで落ちた時、ふと西村はkissをした。
すると気が付いて起きる弓弦。
寝ぼけている弓弦に西村はおはようと声をかける。
「起きた?」
「え、あぁ。起きた。」
「どうしたのさ。」
「えっと。」
戸惑う弓弦。お互い素肌でベッドにいることで夜を思い出す。
戸惑った顔がみるみる赤くなる弓弦、それを見て笑い出す西村。
「どうしたの。」
「どうしたのって・・・・・。」
「弓弦は何も覚えてないふり?」
「いや、思い出してしまって。ちょっと・・・・・」
「あの夜の弓弦はどこにいるんだ?今現在。」
「どこって……。」
「なぁ、弓弦。」
「何?」
「結婚しよう。」
「結婚。一緒に暮らそう。」
「あの。ちょっと待って。いきなり言ったって。」
「いきなりじゃないだろう?
これまでも何度となく弓弦にはプロポーズしてきた。
だけど、一晩一緒に居て俺はお前を一人にしたくない。
お前さえよければ、今の弓弦を俺は迎えたい。」
「あたしを?このままのあたしを?」
「あぁ、そのままの弓弦を俺に。」
「本当に?」
「本当に。」
「沢山のライバルが現れ、そしてこんな夜を迎えると
これから先、やっぱり弓弦を誰かに奪われたくないし・・・・・。
誰かに奪われたりしたら嫌じゃないか?
それよりも、お前の自由を俺は束縛しない。
結婚して俺の物って縛り付けることはしない。
ましてや、弓弦は浮気なんてできない人間だってわかってる。」
「でも返事は待って。お願い。
あたしの中でうまく整理できない。うれしいんだけど。」
「それは気持ちが整理出来たら俺の所に来るということ?」
「あたしの時間の一番最後は西村さんとって自分でもそう思ってる。
それだけ大切にしてもらっているし、あたしも西村さんがすごく大切。
でも、まだあたし西村さんの所へ行く前にやりたいことがたくさんで。」
「だったら、婚約発表だけはしよう。世間一般に俺らは婚約していると伝えたい。」
「そんなことしたら、西村さんの立場が。」
「だから言っただろう。俺は弓弦の仕事が夜の仕事であろうとも
俺の大事な奥さんは天性の感性を持ったバーテンダーなんだって
そう誰にでも自慢できるって。
俺の中では弓弦は誰にでも自慢できる女なんだって。」
「なんで・・・・・。」
「弓弦本当は泣き虫なんだよな。それを知っているのも俺だけだぞ?」
朝からまたそのままの姿で抱き合う二人。
あまりの突然に弓弦もまだ何も考える余裕もないのに、
西村は答えが出て、もう俺の物だと言わんばかりに自分のキスマークを
弓弦につけてまわる。白い肌にくっきりと浮かび上がるkキスマーク。
弓弦は何の抵抗もしないまま西村の腕の中にいる。
なんとなく西村の腕の中にいる自分が今までと何かが変わっている気がしている。
愛されている自分が何の抵抗もなく人の腕に抱かれているのが不思議なぐらいに
弓弦は西村の腕の中での時の流れを安心しているかのように見える。
日が昇り起きださないととベッドに座り起きようとしていた二人の時間。
そんな朝に誠は電話を弓弦の携帯に入れる。
‘turururururururrururu'
「おはよう、弓弦。」
「あぁ、おはようございます。誠さん。」
「今大丈夫か?」
「はい。どうかしたんですか?」
「どうかしたじゃないだろ(笑)本番前の練習!」
「そうでした(笑)忘れたわけじゃないんですよ。忘れたわけじゃ。」
「西村さんと組んでも出るそうだが?」
「それは昨日打ち合わせしてばっちりだし大丈夫です。」
「んじゃ、あとは俺たちのだけだな。もう店には集まってるんだが
弓弦には言ってなかったって思って今電話した。」
「なんっ!ちゃんと言わなきゃダメでしょう?
これからそっちに行っても45分はかかる。」
「ゆっくりでいいぞ。貴志もまだだからさ。」
「そっか。でもこれからそっちに向かう。」
「ゆっくり安全運転でな。」
「わかった!」
横で笑っている西村。電話を切ると西村の方を見る弓弦。
目が合うと、なんだかくすぐったく笑ってしまった。
用意をしないとと二人笑いながら1階に下りて行った。
ご飯どうする?と話しながらも西村は朝一で社長の所に顔を出さなければいけないといい
弓弦も遅くはいけないからと言って出かける準備をしたいと話している。
西村と一緒にシャワーを浴び着替える二人。そして西村と家を出る。
朝ごはんはそれぞれ食べようということになり
そのまま身支度を整えて出かけて行こうとしていた。
「ねぇ西村さん。」
「ん?」
「あんね、あたしの部屋の鍵。渡しておきたいんだけど。」
「良いの?んじゃ俺のも明日一つ渡すから、明日でいい?本番前には。」
「明日、バイクの鍵も車のかぎも一つづつ。西村さんには渡したい。」
「それって?それって返事?yesの返事?」
「あの人がいないあたしの時間。西村さんしか目の前にはいないんだよ?」
「それが答えって受け取っていいんだな?弓弦。」
「・・・・・・・・・・・・・(笑)」
「俺さ、喜んでいいんだよな?弓弦、そういう意味だよな?」
「何度も聞かないで、あたしどうしていいかわからないんだから。」
「弓弦、ありがとう。俺を選んでくれて。」
「西村さん。こんなあたしでいいの?」
「そのままでいいんだから。そのままの弓弦が。」
「ありがとう、今日の夜家族には話しをしていい?」
「俺ここに帰って来れないかもしれないけど…大丈夫か?」
「大丈夫。びっくりされるだろうけど、大丈夫。気が変わらないうちに
話をするわ。」
「弓弦の気持ちがか?」
「西村さんの気持ちが変わらないうちに(笑)」
「お互い様か(笑)」
「明日の本番は何も言わないでよ?あたしがパニックになってしまうから。」
「わかってるって。でも覚悟しておいてくれよ?」
「怖いなぁ(笑)」
「さて二人の一歩だな。さて、事務所にでも顔だすかな。」
「気を付けて、行ってらっしゃい。」
「弓弦もな。またあとで連絡を入れる。」
二人バイクに乗りその場を後にする。
西村の気持ちと弓弦の気持ちが重なった夜を思うと二人とも浮足立った気持ちは隠せるはずもなく。
「おはよう。すまない、遅れてしまった。」
「弓弦おはよう。」
「弓弦さんおはようございます。」
「ごめん、リハーサル朝からやるって知らなかった。」
「いや、俺も連絡してなかったからな、俺が悪い。」
「誠さん忘れてた?」
「いやいや。長崎に行ったからさ、疲れてると思うと
電話しづらくてさ。でも、気は済んだかい?」
「あぁ。て言うか、電話してくれた方がよかったかも。」
「なんでさ。」
「昨日はうちでmartinと槙村さんと大川さんでどんちゃん騒ぎ。
まいったよ。それに西村さんとの打ち合わせやってさ。」
「大忙しだったな。でも明日は?」
「全然、西村さんのはOKさ。」
「んじゃ、俺らも。」
そういって5人。誠・貴志・弓弦・真志・俊哉で合わせる。
曲だけを流し、本番のように歌い踊る。
店で練習できるのは開店準備前の時間あと4時間しかない。
朝2時間通し稽古、貴志と後の4人で少しずれがある。
DVDを見ながら一つづつ見直す。午前中はその見直しの練習。
息はぴったりなのだけれど、何かしらずれが出ている。
誠と弓弦の息はぴったり。俊哉がそれに続く。
真志は余裕でPVそのままだし。貴志は少し急いでいるような感じ。
一つ一つの見直しで貴志が誠と弓弦にあってきた。
「なぁ、腹すいた(笑)」
「あたしも。」
「弓弦があたしって言ってるぞ?何があった?」
「何にもないって。それより、腹の虫が騒いでる。」
「チルドに何か賄いようのが入っているか?
「ないなぁ・・・・・。」
「んじゃ、マック行こう。角に新しくできたじゃん。」
「マックかぁ。おなかいっぱいにはならないなぁ。」
「弓弦さんのおなかはどうなってるんっすか?」
「ブラックホールに決まってるじゃんっ!(笑)」
「ったく。行くぞ、食べに行かないのか?」
お店を出て5人、マックに向かう道すがらやはり目立つ。
タレント5人集まっているのと変わらないmaskの5人。
誠は一番落ち着いているのに、俳優の鈴木に似ているし
貴志は一番甘いmaskで、どちらかというと大川に似ているのだろうか
あの目で見つめられるとだれもが落ちていきそうないい男。
真志はきりっとした端正な顔立ち。武道やってます的な、
日本男児らしい顔つき。
俊哉はかわいい。マスコット的なかわいい顔。
きっとアイドルと言ったらこういう人をさすんだ的なかわいい笑顔。
それに翔太に似た弓弦と並んで5人。昼間の陽射しのなかではすごく目立つ。
特に髪を短く翔太とお揃いにした弓弦はその場にいるだけで目立つ。
`いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ。´
そう言う店員の前で5人は、もめにもめて注文をするのだが
周りや店員にはいい男5人でにぎやかに注文する姿は笑いを誘っていた。
「誠さん、それだけで足りるの?」
「いや。もう一つ。」
「貴志、お前食いすぎだって(笑)」
「弓弦さんには負けるって、見てみろ、真志。」
「・・・・・・弓弦さんお化けか?」
「俊哉きちんと食べろ!たりねぇぞ?だから大きく育たねぇんだって」
「弓弦さんが食べすぎだって!だから背ばっかり伸びるんだっ!」
「あーもぅ!お前ら、一人づつ言え!」
にぎやかな注文はすごく大量な注文だった。
その店の端っこのテーブルを5人が占拠する。すると隣の席の女の子が騒いだ。
`martinの翔太君?´
5人は顔を見合わせ、弓弦が口を開いた。
「そっくりでしょ?あたしこれでも女よ?」
「ほんとに?びっくり!でもどうしてですか?」
「明日そこの公園でチャリコンがあるだろ?それに出るんだ。
よかったら来てよ。俺ら、そこの角を曲がったところにある
bar`mask’のメンバーなんだ。」
「明日?明日の日曜に?」
「あぁ。明日。」
「こいつはトップバッターで、芸能人と一緒に出るぞ。
いいのを見られるかもな。そして最後に俺たち5人。
おいで。きっと楽しいよ。」
「そうなんですか?行きます。絶対見に来ます。」
「まってるよ。」
「おまたせしました、ご注文の品です。」
といって店員が誠たちの注文をおいて行った。
それもびっくり。ビッグマック12個にフィレオフィッシュ8個ポテトが4つもあるし、ドリンクはLLサイズ。
弓弦のに関してはエビフィレオが3つも。あきれたやつ。
「弓弦それ好きだなぁ。」
「これが一番好き。お肉はなぁ。
でもフィレオフィッシュ1個はあたしんだぞ?」
「だーかーらー。お前食いすぎだって。どこにどうやったら入るんだ?
お前のウエストれでも細いもんなぁ。行ってみろよ。お前ウエストいくつだ?」
「あたしの?言えないわよ。でも65はないわ。
そういう誠さんだって人のこと言えないでしょ。」
「俊哉なんか見てみてよ。おかしいってあいつも。」
「俊哉・・・・ビッグマック3個もか?」
「全然軽いっす。追加頼むかも、先輩たちゆっくり食べてよ?」
「俺たち化けもんか?(笑)」
とりあえず、食べるものは食べてとゆっくりしている中俊哉が食べる食べる。
真志も尋常じゃない。ポテトがそんなに好きかぁ?というぐらいに
4つあったポテトをひとりで食べている。
テーブルにあったすべてが無くなると、何もなかったように立つ5人の姿を見て
店員は何かしらおかしくてまた声をかける。
「先にお電話いただくと、時間につくっておくこともできます。
なんなりと申しつけください。またのご来店をお待ちしております。」
と。
「なぁ、誠さん。」
「ん?」
「いくらだった?割り勘にしよう。」
「弓弦、弓弦からそういうこと聞くとは思わなんだ(笑)」
「でもさ、あんなに食っといておごりはあんまりだろ?」
「貴志!お前何食った?」
「覚えてません(照)」
「俊哉!お前も払え。」
「俺も何食ったっけな?」
「誠さん正直いくら払った?」
「一万円から少しのおつりさ。」
「まじでか。あたし、自分の分はわかるから店に帰ったら払うよ。」
「弓弦さんが払ったら俺らも払わなきゃいけなくなるじゃないですか。」
「お前ら当たり前じゃ?大先輩の誠さんに払わせて。普通、後輩がおごるんだぞ?」
「そういうこと?」
「そういうこと!」
「弓弦いいさ。明日本番でミスしなければそれで良しとしよう。」
「なんか代償が高いなぁ・・・・・。」
「さぁ、練習。みんなが来始めるから何度かやったら見てもらうぞ。」
「そうだな。練習しよう。」
お店に入ると数人が準備をしていた。ぼちぼちと集まりはじめる仲間たち。
開店一時間半前になるとほぼ全員集まっている様子だった。
「ちょっと集まって。明日開催される恒例のチャリコンの件。
みんなの代表として出るにあたって、練習を重ねた。
幸い今回やるunionMartinの方々に協力をいただけて
すごく上出来に仕上がったと思う。
で、これから2曲練習したものを見せるのでダメ出しがほしい。」
「貴志も真志も頑張ったし俊哉だって。」
「一番は弓弦さんでしょ?姿までまねたんだもん。」
「んじゃ。」
曲がかかる初めに`love is・・・・´
それが終わると歓声と拍手。完ぺきだってと。その点で前は息が上がっていた5人。
この1曲踊り終えても息が上がらない。
次の`the monster’。このPVで見てもきついと感じ
やってみるとかなりハードだったこの曲も、今は5人息があった姿を見せる。
始めは聞くつてみんなに追い付いていけなかった弓弦も
このリハではみんなに笑顔で余裕を見せるぐらいに踊れている。
本物の翔太だったらここでこんなアドリブ入れるんだろうなとか想像し
弓弦は余裕のアドリブを入れる。
見ている方としては、本物を見ているようだとそう話をしていた。
そして踊り終えた5人に拍手が。
「誠さん!完璧じゃん、だめだしなんてできませんって。」
「俺も、弓弦さんがここまで翔太をやれるなんて思わなかった!」
「見てくれまねただけじゃなかっただろう?」
「あぁ、すげぇ。」
「現に翔太君とも仲良しになったし(照)」
「そうなの?て言うか、前にも弓弦さん指名で来たもんな。」
「明日が楽しみだー!見に来る人みんなびっくりするぞ!」
「あぁ。maskからびっくりな5人組が出るんだ。」
「そのあとが大変になると思っておかないとな。」
「この5人で看板しょって出る舞台だ。チャリコンとはいえ
その夜からは大忙しになるぞ。」
「それはわからないけど、でも頑張らないとね。」
「今日はお店開けるけど5人ともこのままOKか?」
「ちょっと着替えるけど大丈夫だよな。」
「あぁ。」
「んじゃ、30分後開店する。」
「yessir」
一方西村は朝弓弦の家から事務所までまっすぐに向かった。
嬉しい気持ちを抑えながらこれで事故ったりしたら笑いものだろうなぁと
そう思いながらもヘルメットの中の西村の顔はにやけている。
そう自分でもわかっているからなんだかうれしくっておかしくってつい笑ってしまうのだ。
事務所に着くと、いつもの場所にバイクを止めて社屋に入っていく。
「おはよう。」
「おはようございます。」
と何気ない毎日繰り返される会話が今日に限って西村の雰囲気が違った。
他の部署の人間も他のタレントのマネージャーもそれに気づく。
何かいいことあったんだろうなぁと。
西村のチームのメンバーもそれに気づき声をかけるが
西村は何も話してはくれない、まずは社長にというだけで。
`konkon´
社長室のドアをたたく。秘書がはじめに顔を出した。
「社長はもう来られてますか?」
「えぇ、どうしたんですか?西村さん。」
「ちょっと社長と二人っきりで話がしたいんだけど・・・・。」
「社長、あの西村さんが社長と話をと言われてますが。」
「なんだ?こんなに早くから。とりあえず、こっちに。」
「西村さん、こちらへ。」
「社長、おはようございます。」
「あぁ、おはよう。どうしたんだ?なんだか顔がうれしそうだが。」
「ちょっと。ちょっと社長のご報告が。」
「人を払ったほうがいいかね?」
「えぇ。」
「おい、尾崎君。」
「はい、なんでしょう?社長。」
「秘密の話しをしたいんだが秘書の方々席を外してくれるかね?」
「承知しました。」
そういって社長室とつながっている秘書室のドアが閉められた。
「社長。」
「なんだね?なんだかすごくうれしそうな顔で話してるがなんだね?」
「結婚してもいいでしょうか?」
「ん?」
「結婚、結婚してもいいでしょうか?」
「ん?」
「そう何度もわざと聞き返さないでくださいよ、恥ずかしいじゃないですか。」
「お前の口からやっとその言葉を聞けたなぁって思ってさ。」
「社長(笑)」
「で、やっと口説き落とせたのか?」
「えぇ。やっと、やっとの思いでyesと言わせました。」
「そっかぁ・・・・・長かったなぁ。お前よく頑張ったなぁ。」
「槙村君とか橋本君とかいろんな人が口説いている中、俺が口説き落としました。」
「当の本人は今日は来ていないのか?」
「今仕事場の方でリハをやってるんじゃないですか?明日本番だし。」
「お前と彼女のリハは終わったのか?」
「もちろん、昨日リハやってこれでいいだろうということで終わった後に
口説き落としました。」
「んじゃ、本番ではどうするんだ?」
「弓弦の家族との話があるし、唯一の家族のお爺さんにも会わなきゃいけない。
きちんと順を踏んできちんと結婚式まで持っていきたいんです。」
「弓弦君のご家族?」
「弓弦のお母さんの妹さん家族と弓弦のお父さんの方のお爺さん。」
「で、わかっているのか?」
「お母さんの妹さん家族は伯父伯母にあたる方は料亭:吉祥の社長と女将。
その人たちの娘、弓弦のいとこにあたる子がM'scompanyの受付嬢ですよ。」
「山本さんの所とは切っても切れないなぁ(笑)」
「お爺さんは。秋山さんから聞いたところによると、吹楽連盟の会長
原田氏の孫にあたるのが弓弦だそうですよ。」
「おいおい、なんだ?お前弓弦さんの事何にも教えてくれなかったじゃないか。
原田氏の孫だなんて聞いてないぞ?」
「弓弦も何も俺には言わなかったんです。隠すつもりもなかったらしいですけど
たまたま沖縄で合宿中に弓弦の恩師がばらしたらしくって(笑)」
「お前・・・・ただの発表だけじゃすまないぞ(笑)」
「だから順を踏んでって言ってるじゃないですか(笑)」
「とりあえず、弓弦さんをフリーではなくってうちと契約し
うちのタレントという立場になってもらおう。
どっちにしてもお前の手伝いをしている以上、きちんと契約をしないとな。」
「そうですね。弓弦にあとで連絡を入れます。」
「でだ。お前自身、原田氏に挨拶に行くのはいつにするんだ?」
「チャリコンが済んだ次の日でも都合がよければ弓弦と一緒にと考えてますが。」
「わかった。それには私も一緒に行くことにしよう。」
「ありがとうございます。」
「お前が上京してきてずっとお前をご両親の代わりに育てたんだ。
ご両親もさぞかし喜んでおられるだろう。
お前は墓前に報告せんとなぁ。」
「えぇ、近々行こうと思っています。弓弦を連れて。」
「おめでとう、正弘。わが子としてもうれしいよ。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「とりあえずすべてはチャリコンが終わってからだな。」
「そうですね。とりあえず報告をと思って。」
「正弘は弓弦さんを手に入れた。わが社としても弓弦さんを手に入れたとなると
これから先が楽しみだなぁ。」
「でも社長?弓弦はバーテンダー辞めるつもりは全くないみたいです(笑)」
「そうかぁ・・・・でも彼女のタレント活動はわが社との契約だ。
2足のわらじはきついだろうが、もとはお前のアシスタントだからな。」
「そうですよ。弓弦は契約があっても俺のチームのメンバーなんですかんね?(笑)」
「わかったわかった。とりあえずおめでとう。弓弦さんにもよろしく伝えておくれよ。
契約の件はこの後の会議で決まると思うがそれから
今夜でも契約で伺いたいと連絡を入れるからとな。」
「わかりました。伝えておきます。
でも社長。内緒ですよ?
俺だって明日本番の時に、喋っちゃおうかと迷うぐらいですが内緒です(笑)」
「わかったよ。」
「んじゃ、報告だけなので。」
「あぁ、うかれ気分で事故なんぞもらうなよ?」
「わかってますって。」
「今日の夜はお前は大丈夫なのか?」
「大丈夫です、リハも終わってるしゆっくり過ごしたいんで。」
「なら、山本君とも話があるから弓弦君の店に行くが
そのとき一緒に行くか。」
「そうします。弓弦にもそう連絡を入れておきます。」
「んじゃ今日の夜19時に。」
「了解しました(笑)では社長。」
「あぁ、後でな」
そういって社長室を出てTV局の収録に向かった西村。
マネージャーの山田が運転する車の後ろの席に座り弓弦に電話を入れる。
「あぁ、弓弦?」
「どうしたんですか?」
「そんな言葉づかいするなよ、俺と弓弦の間でさぁ(笑)」
「だって、昨日の今日でそんなに変わることできないって(笑)」
「今大丈夫か?」
「大丈夫、5人で合わせてたんだけどちょっと一服(笑)」
「仕上がりはいいのか?」
「ばっちりよ。でも何か用事?」
「一応さ、社長には言った。俺と弓弦とのこと。」
「もう?もう話したの?」
「あぁ、おめでとうってさ。」
「なんだか顔を合わせるのが恥ずかしいかも(汗)」
「チャリコンが終わったら一度こっちに来なきゃいけないと思うけどさ
その前にだ、その前に。」
「その前になに?」
「川上社長がさ、弓弦とのマネージメント契約をって言ってるぞ。」
「そういえばそんな話もあったかも(笑)」
「おいおい、覚えてないと失礼だぞ(笑)」
「わかってるって冗談で言っただけじゃん。」
「でさ、契約。今日弓弦は出勤なんだろ?」
「今日は多分ラストまではいないんだろうけど。」
「んじゃ、今日19時にそっちに行くけどいい?」
「大丈夫、今日はまだ大丈夫。でも今日なの?」
「チャリコンが終わったらすぐにM'scompanyさんの所の
ほら、翔太たちの所の話をしたいらしいんだ。」
「martinの?」
「弓弦、Martinのアルバムに載ってしまうだろ?
それの話だろうな。弓弦はどことも契約をしたタレントじゃないから
俺の顔を立てて川上社長の所に話を持ってきたらしい。
もともと俺ん所のメンバーだしな。
その話を進めるために川上社長とのマネージメント契約と
川上corporationとM'scompanyと弓弦とのしたいんだそうだ。」
「そっかぁ。そうだね、そうしないとみんな困るんだね。」
「そうさ。いろんな肖像権とか著作権にかかってくるから、
なんでも明確にしておかなければいけないしな。
だから今日そっちに山本社長と川上社長と俺とで行くから。
弓弦は一応オーナーの耳に入れとけよ。」
「わかった。んじゃ夜に。」
「夜に。それと今日は特別だから出すものも特別にな(笑)」
「考えておくよ(笑)とびっきりのを用意するよ。夕飯は食べてくる?」
「いや、俺はそのままそっちに向かうから食べては来ない。
社長たちはわからないけど、用意してもらったら助かるかも。
弓弦の奮って3人前な(笑)」
「恥ずかしくないように頑張る。んじゃ、仕事がんばって。」
「おぅ。弓弦もな。」
電話が切れると山田がにやにやしながらルームミラーで見ているのに気が付いた。
「なんだ、山田。」
「いえ、なんでもないっすよ(笑)」
「山田ぁ。」
「なんでしょう?」
「ばらすなよ、まだオフレコだ。記者会見するからそれまで誰にも言うなよ?」
「弓弦さんとの結婚話ですか?」
「わざわざ口に出すなよ、わかってるんじゃん。」
「俺、誰かに聞かれたらボロボロ喋ってしまいそうですよ。」
「山田っ!風邪ひいたとかごまかしてマスクしておけ(笑)」
「でもしゃべりそう(笑)」
「ガムテープ貼ってやろうか?山田っ!(笑)」
「勘弁してくださいっすよ(笑)絶対喋りませんから。」
TV局に向かう車の中では二人しかいないのににぎやかな移動となっていた。
一方弓弦はオーナーが起きてくる11時過ぎ、ちょっとごめんと言い
上の階にあるオーナーの部屋に行った。
`kon kon´
「はい、誰だ?」
「おはようございます、弓弦です。」
「おぅ、入れ。どうしたんだ?朝から。」
「実は話しておかなければいけないことがありまして。」
「ん?・・・・・・・・・嫁にでも行くのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
「おいおい、まじか(笑)」
「まだみんなにはなしてないんですが。ちょっと話が。」
「汚いが奥に入れ。」
「お邪魔します。」
「で?」
「あの・・・・」
「誠か?貴志か?・・・・・・martinの坊主か?」
「違いますよ(笑)」
「そっか、やっぱり収まるところに収まるのか。」
「ですね。何度も何度も真剣に言われてるのにもう返事をしないわけには
いかないですしね。」
「槙村君じゃないんだな、その様子だと。」
「槙村さんはいい人だけどいい人止まり。あたしとあの人は合わない。
多分、喧嘩ばっかりになってしまう。やきもち焼きさんだからあたしには無理。」
「そうだなぁ。その点西村君はお前をよく泳がしておいてたなぁ。
心が広すぎだぞ。」
「いい人です、なにごとにもあたしのことを一番に考えてくれていると
そう思える人だから、今回真剣にプロポーズしてくれたことで
返事をしました。」
「そっか。弓弦も他人の物になるんだなぁ。で、仕事はどうするんだ?」
「辞めません。西村さんも辞めなくていいって言ってくれているし。」
「でもあいつは芸能人だぞ?何か言われてからじゃ遅いと思うんだが」
「あたしにはどこに出しても恥ずかしくない奥さんの仕事だから
自信を持って仕事をしたらいいさって。俺の自慢なんだからって
そういってくれたんです。だから、仕事は続けます。」
「そっか、お前がいなくなるとさみしいからなぁ。
でももう男っぷりのいい弓弦ではだめだぞ。わかってるか?
あいつは仕事をがんばるお前が大好きなんだ。男でも女でもどっちでもいいんだ。
記者会見とかするんだろうから、その少し前から弓弦のスタイルで
カウンターに入るんだぞ。男前の弓弦だと西村君が困るんだからな。」
「まじですか・・・?」
「あぁ、大真面目にだ。スタイリッシュな弓弦だとどう見えても
西村の嫁として恥ずかしくないからな。お前の制服をきちんと女性の制服に変えるから。」
「今の方が仕事しやすいのに。(笑)」
「弓弦。」
「はい。」
「おめでとうな、娘を嫁にやるようでなんだかさみしいがお前の幸せだ。
そして辞めないでいてくれるのならばそれは助かる。」
「オーナー。辞めるはずがないじゃないですか。
オーナーは、あたしに西村さんから天性の感性を持ったバーテンダーって
褒めてもらえるような仕事、あたしにくれたんです。
こんなに丁寧に、いろんなことを教えてもらってここまで育ってきたんです。
結婚してもきちんとオーナーのそばで働きたいんです。」
「ありがとう、そういってもらえると私もうれしいよ。」
「それでですね。一応西村さんの所の川上社長とmartinの所の山本社長と
西村さんとで19時に来るからと連絡を受けたんです。」
「そりゃまたなんでだ?」
「山本社長が西村さんの顔を立ててMartinのアルバムの件で契約をしたいと言われたんですって。
でも、あたしフリーでしょ?
だから西村さんの所の川上corporationでマネージメント契約を結んで
山本社長の所との仕事の契約を結ぶんですって。
だから、今日それをこちらでということでした。」
「そっか、いきなりだな。でも、話が進んでいる以上きちんとしないとな。」
「多分仕事終わりで来られるでしょうから19時から個室の方を使います。
夕食をあたしの手で準備したいと思っているんですが。」
「いいだろう。弓弦の腕を見せつけてあげないさい。
お前の料理の腕は天下一品だ。ふるまって喜んでもらえると
私も鼻が高い。頑張って気を抜かずに準備するんだぞ。」
「わかりました(笑)」
「んじゃ。」
「オーナー。ありがとう。オーナーの分の夕飯も腕を振るうから。」
「俺のもか?そりゃ楽しみだ。」
「任せておいてよ(笑)」
「チャリコンのダンスもばっちりなのか?」
「えぇ、もう誰が見てもそのまんまコピーに見えるぐらいに。」
「そかそか。明日頑張らないとな。」
「えぇ、んじゃ、下に戻ります。」
「気を付けてな。」
店の方に戻る弓弦。誠が呼んだ。
「おい、始めるぞ。」
「わかった。」
そういってお昼までのあと少しの時間、ダンスの練習に励んだ。
お昼になり外に食べに行った5人だけれど戻ってから一幅の後練習を始めた。
何度か通し稽古をしていると出勤してくるやつらが増えたので
とりあえず開店準備をし始める。
弓弦は誠にも話す。今日、川上社長と山本社長と西村とそして自分と
オーナーで少し話があって19時から個室を使うと。
何があるんだと聞かれるがそれはあとで話すからと言い笑ってごまかした。
その開店する前にと社長たちのために買い出しに行くと言って弓弦が出かけた。
仕事からそのまま来られるから、ここで何か食べるものをと言われているのでと言い
弓弦の腕を振るうのだとみんなすぐわかって、自分のリクエストまでを頼む始末。
弓弦は、笑いながら買い出しに出かけて行った。
そうして、チャリティコンサートの前日の営業が始まった。
開店してしばらくすると弓弦の指名が入った。
もちろん弓弦は個室の奥で山本社長と川上社長、西村に出す分の
準備をしていたのだが、呼ばれて顔を出した。
「山本社長。お早いおつきでしたね。」
「原田君、少し早いと思ったが来てしまった。どうしようかとも悩んだが
どこかで時間をつぶすぐらいならって思って
まっすぐこちらに足を向けてしまったんだ(笑)」
「いえ、こちらこそなんだかここでは誰にも話をしていないので
どういった顔をしてお話してよいか分からないのですが、
とりあえず何も食べては来られなかったのでしょう?」
「あぁ、西村君からそう言われてね。今朝言われたんで
お言葉に甘えてすきっ腹で来ましたよ。(笑)」
「おおげさな…(笑)でも腕によりをかけて作ります。
とりあえず、事を知っているオーナーが山本社長の相手をしますので
少しお待ち願えますか?」
「待ってるよ。小林オーナーには話はしてるんだろう?」
「えぇ。だから恥ずかしくないものをお出迎えするようにと言われています。」
「んじゃ、小林君と話しながら原田君の出来上がりと川上さんらを待つとするか(笑)」
「オーナーよんできますね。こちらでお待ちください。」
そういうと弓弦は奥の方へ行きオーナーに山本社長が来られたのを伝え
弓弦は個室の方へ消えて行った。
そうして又穏やかな笑いの中時間が好きていく。
もうそろそろ19時を指すころだなぁと時計を見る山本。
もうそろそろですねと話をしているオーナーと。
すると声がかかった。
「原田さん、ご指名です。」
そういって川上社長と西村が通される。
「いらっしゃいませ、川上社長。お久しぶりです。」
「原田君、おめ・・・。」
「社長、まだ仲間たちには話をしておりません。オーナーだけです(笑)」
「そかそか、すまない。」
「弓弦、あっちにいいんだろう?腕は振るったかい?(笑)」
「もちろん、恥じないように手をかけましたよ。
オーナー、移動しましょう。さぁ、山本社長川上社長。
一緒にこちらの部屋へ。」
そういって通される個室、カウンターになっているのだけれど広く作られたそこは
店内とは別個のおもてなしの特別な部屋。
席に座ると、西村と弓弦が並んで喋りはじめた。
「すみません、川上社長にはちょくちょく話はしてたのですが
弓弦へのプロポーズ。これまでかなりな間返事をもらえなかったのですが
やっと返事をもらい、結婚する約束をしました。」
「これからもきっと私たちはご迷惑をおかけし続けると思いますが
よろしくお願いします。
オーナーに育ててもらった恩を忘れないように
そしてこれからもお世話になる川上社長の恥とならないように
山本社長とのお仕事で足を引っ張らないように二人で頑張りたいと思います。
これからもよろしくお願いします。」
そういうと弓弦の目からひとすじの涙が流れた。
「まだまだこれからだぞ。これからもっと踏ん張ってもらわないとな。」
「あぁ、そうだな。二人になればもっともっと活躍するようになるだろうからなぁ。」
「おめでとう、これからもがんばっていこうなぁ。」
「弓弦、絶対的な幸せをつかんだんだ。もう離すなよ?」
「もちろんです。オーナー。」
「さぁ、始めに契約の話をしよう。まずはうちとのマネージメント契約。
これで晴れて西村と同じステージに立てる。これからYUZURUとして
君を売り出していく。大いに活躍してほしい。」
「川上社長の望むようにはどうかとも思いますが
精いっぱい努力させていただきます。でも社長。
ここの仕事辞めるつもりはないんですが?」
「西村君から聞いているよ。君の天性の仕事だ、取り上げてしまうことはしない。
ここの仕事を中心に活動をしていくということで。
君の仕事の中心は西村のチームのメンバーとしての仕事だからな。
単独の仕事があれば率先して活躍してもらいたいが。」
「ありがとうございます。仕事の話はおって決めて行ければと思っています。
こんなあたしですがよろしくお願いします。」
そう話をしながら契約書に目を通し印鑑を押していく。
そして次は川上社長とYUZURUとしての仕事の契約。
M'scompany山本社長との会社としての仕事の契約。
この間のMartinのアルバムに使われた弓弦の事とかこれからいろいろと発生してくるだろう
YUZURUとM'scompanyとの間の仕事に関しての契約書類。
川上社長と二人で目を通し山本社長と話しながら契約書にサインをして印を押していく。
その二つが終わり記者会見とかどうするという話をしながら和んでいる。
すると弓弦は席を立ち、おなかもすいているだろうと思って用意しました
と言いながら奥へ消えて行った。
その後ろを小林オーナーが付いて行く。
「んじゃ、皆さんの分のご用意をしますね。」
そういうと、西村は席に座り社長たちに混じって話をしている。
オーナーが弓弦の作った先出を運んできた。
「まずは夏らしい先付を。胡瓜と蟹とグリーンアスパラの和え物を」
「見た目に繊細できれいだねぇ。さすがに原田君の腕前だ。」
「あいつも一応、調理師の免状持ってるんだそうです。
まぁ、料亭吉祥に住み込んでるんでづからできて当たり前ですよ。」
「吉祥にか。あそこの女将も山本と言ったなぁ。」
「山本社長の所の受付嬢はその吉祥の跡取り娘じゃないですか(笑)
もしかして知らなかったんですか?」
「そうだったのか?まぁプライベートは早々突っ込んで聞きもしないからなぁ。
でも受付嬢とは従妹同士だろう?弓弦君も料理の腕はかなりなものだろうなぁ。」
「美味しいですよ。あいつが毎年持ってくる梅酒は絶品です。
はちみつ梅と一緒にもってくるのでオリジナルで旬の時に出しているはずですよ。」
「そうなんですかぁ。そんな嫁を貰うときっと西村君は幸せ太りするんだろうなぁ(笑)」
「まぁまぁ、俺も仕事があるんでそんな太ったら仕事できなくなるし。」
「次をお持ちするよ。」
「長崎の方ではアラカブと言っています地物の魚です。
白身の淡白なお作りにしていますが紫は長崎特有の紫で。
あと左からキングサーモンのカマの所の塩焼き。
胡瓜と海月の甘酢和え。枝豆豆腐。穂先竹の子の若竹煮。
長崎角煮。タコの磯風味。そして、長崎茶碗蒸し。
ご飯の方はハマグリの炊き込みになっております。
横につけているお酒は鹿児島の霧島酒造様の焼酎霧島(金)です。
水菓子はうちのはちみつ梅を使ったゼリー寄せになっております。」
「ほほぉ、見事な腕前だなぁ、さすがにきちんとした指導と受けているな。」
「ありがとうございます。伯父が丁寧に教えてくれました。」
「それに金か。これは酒蔵まで行かないと手に入れられないものなんだろう?」
「えぇ、伯父から少し分けていただきました。今日のために。」
「弓弦君のルートにはすごいものが隠れていそうだな(笑)」
「さぁ、いただこう。」
5人で弓弦が腕を振るった料理に舌鼓を打ちながら時間が過ぎて行き
21時過ぎにはそれぞれ帰っていった。
そして22時過ぎ、チャリコンの出る5人を集めオーナーは明日をがんばるように
言葉をかけて5人を上がらせることにした。
「明日のこともあるからと言って、俺ら5人は22時過ぎだけどあがっていいんですか?」
「誠、明日はばっちりなんだろ?」
「もちろん、貴志のステップの切れも見事だし、弓弦のアドリブもきれいなもん。」
「誠、貴志、弓弦、真志、俊哉。お前らは明日の準備がある。
切りのいいところで上がりなさい。」
「ありがとうございます。でもいいのかなぁ。」
「良いにきまってるだろう。その代り明日のミスは許さんぞ?
お前らのステージでその夜の客入りが変わる。頑張って客を呼んで来い。」
「そう言われると、ちと怖いな。(笑)」
「それと弓弦。明日の朝、お前はまっすぐ山本社長の会社に行くように。
メイクの担当の誰だっけ?薫さんだ。用事があるらしい。」
「薫さんが?どうしたんだろう。」
「Martinの衣装と別に西村さんの所の衣装もメイクも
薫という人が担当だそうだ。」
「薫さんがかぁ・・・・・そのまま、また翔太にされそうだな。」
「この間もかなり遊ばれてたもんなお前。」
「西村さんと上がるときはそのまま弓弦でいいのにな。」
「無理だろう(笑)あれだけの遊び方だ、次はただじゃすまないと思うが?」
「やっぱりそう思う?」
「貴志、見てろ。面白いもの明日の朝から見れるぞ(笑)」
「今でさえ翔太さんみてるみたいで、面白いんですけど。」
「貴志・・・・お前っ」
「弓弦さん許してくださいよぉ。
だって、そこまで似ている弓弦さんが悪いんですって(笑)」
「薫さんに電話しよう。あっちの事務所じゃなくって、店でしてもらおうっと。」
「さぁさぁおふざけはこれまで。お前たちは明日のために今日は体を休めろ。」
「はい、では。ありがとうございます。」
「お疲れ様でした、お先に失礼させていただきます。」
5人の夜の勤務はそれで終わり、それぞれの家に帰って行った。
その時弓弦が誠を呼び止めた。
「誠さん。待ってよ、誠さん。」
「どうしたんだ?弓弦。」
「ちょっとさ、家寄ってかない?」
「お前が俺を誘うのは珍しいな。」
「真面目に聞いてほしい話しが3つほどあるんだ。」
「そっか。んじゃ、後ろに乗るのか?」
「あぁ、ひかりのヘルメットだけど大丈夫でしょ。」
弓弦はお店からまっすぐ家に帰宅する。背中に誠を乗せて。
「ただいま。」
「弓弦お帰り、お客さんかい?」
「仕事仲間の相原さん。」
「こんばんわ、お邪魔します。」
「誠さんこんばんわぁ。」
「ひかりさん帰ってらしたんですね。」
「今日は早くね、それよりどうしたんですか?」
「ちょっとね。んで、誠さん。一緒に夕飯どぉ?伯母ぁの料理はうまいんだ。」
「褒めても何も出ないよ?さぁさぁ、こっち気にてすわりな。
弓弦みたいなお転婆をいつもありがとうねぇ。」
「伯母ぁ?その言い方はないんじゃない?」
「弓弦みたいなじゃじゃ馬は仕事だと真面目なんですよ?」
「誠さんまで。もぉ。」
「弓弦?夕飯にお客さんを連れてくるって珍しいがどうかしたのか?」
「伯父ぃいたんだ。んじゃ食べてから話そうかな。」
「もったいぶるな。昨日の事だろ?」
「昨日のこと?何かあったのか?弓弦。」
「今朝、あたし槙村さんの車運転していったけどどこかぶつけてた?」
「いやいや、そうじゃない。」
「でも誠さんまで一緒って・・・・・。」
「誠さんには隠したくないし、一つ話をしなければならないこともあるし。」
「あのことかい?お前の。」
「あぁそれ。あんまり貧血で倒れるから、余分に心配かけちゃってるし
こういう原因があるってことやっぱり誠さんには隠せない。」
「歩生さんのこと話すのか。まぁ一番近くで仕事をしている人だ。
弓弦が倒れる原因を知っておいてもらったほうがいいかもな。」
「伯父ぃ。伯母ぁ。実はさ、沖縄でさあたし2回も倒れちゃったんだ。」
「お前、何も知らない人たちの中で倒れたんか?
周りびっくりしたろうで。お前も迷惑な人間だな。」
「大丈夫だった?弓弦。」
「一晩は槙村さんが朝まで付き添ってくれた。襲いもせずに(笑)
我慢してたんだろうなぁと朝は笑っちゃった。」
「槙村さんは弓弦に本気だよ?かなり。」
「あと一晩は翔太君が看病してくれた。熱出ちゃったんだ。」
「お前、あの晩熱出てたのか?やっぱり無理してたんだな。」
「ごめん、翔太君にも誰にも言うなって口止めしちゃってさ。
ばれたら後が怖いし翔太君が怒られると思って。」
「その原因は何なんだ?」
「この子はね、一度生死をさまよう怪我をしたんだよ。相原さん。」
「どうしたんだ?」
「あのさ、誰にも言わないでよ?伯父ぃと伯母ぁとひかり
そして誠さんにはこれが原因って話をするつもりで今日呼んだんだ。
西村さんと槙村さんにはもう話はしているんだけど、
倒れる原因の一つだとは話してない。でも、このことは知っている。」
「ひかり、上に行ってな。」
「あたしもここに居たい。」
「お前は知ってることだろう。お前また泣き出して収集つかなくなるから邪魔。
さぁ自分の部屋に行ってな。」
「母さんの意地悪。」
「あたしゃ、台所にいるよ。あんた、あんたもあっち行きな。」
「んじゃ、熱燗2本頼む。」
「あいよ。」
そういってみんなバラバラになったが食卓に隣同士に座り弓弦は話を始めた。
「高校一年で、先生と秘密の恋をしたんだ。
始めはスリル感が面白くて、秘密なことが素敵に思えてて
その先生の存在がすべてとまではいかなかった。
だけどね。2年に上がるころ、夏の吹奏楽コンクールがあるぐらいに
体調を崩したの。なぜかわかる?」
「お前、もしかして妊娠したのか。」
「あぁ。その先生との間に子供ができた。
検査に行って分かったんだが、その話を先生にもした。
するとさ、遊びだったんだとあたしは思ってたんだけど
先生は大真面目で、学校はやめようと言われた。
きちんと結婚して、僕の子供を育ててほしいと。
あまりにも若すぎるお前だけど、俺にはかけがえないお前なんだ。
結婚して一緒に暮らそうと言われた。」
「普通自分の子供ができたら、おろせというなぁ。
高校生の弓弦だし、教え子だし。」
「隠すのがふつうだろ?
だけど、その人は遊びであたしと付き合ってはいなかったんだよね。
その気持ちはうれしかった。すごくうれしかった。
そこまで愛されていることが、すごく幸せだったんだ。
だけど、妊娠がわかって一緒に産婦人科に行ったとき検査されたの。
その検査の結果がさ、「子供はおろさなければいけない」と。」
「なんでだ。」
「赤ちゃんのそばに、《癌》があったんだ。」
「もちろんあたし自身もショックだったし、歩生さんもショックで。」
「そらそうだよな。」
「それがね左側の卵巣が子宮本体の外側に癒着しててその癒着部分が
腫瘍になってしまってて、それが子宮の壁に食い込んでたんだって
その食い込みが授かった赤ちゃんのそばにあった。
そういうことさ。だから腫瘍を取り出す時に赤ちゃんを傷つけてしまうし
赤ちゃんを残すだけのそんな高度な技術は今の日本には存在しな。
で、あたしはその腫瘍と共に授かった命を体から出してしまったんだ。
母も次は産めないわけじゃない。今回だけはお前の命を優先してと
そう言ってた。」
「普通そうだよな。で、その彼は?」
「とっても優しい人だったのよ。
でもね、手術して学業に復帰する一週間ぐらい前だったかしら。辞めたの、学校。」
「弓弦には何にも相談なしにか?」
「えぇ。それにもともと部活の先生が復帰されたし
学校は移動することとなってたんだけど、家業を継ぐとかで
やめられたの。連絡さえ取れなくなってあたしは不安になった。」
「そうだろうなぁ。でも家は知ってたんだろ?」
「嬉野ってだけ。携帯もつながらなくなったし
あたし子供を殺して自分が助かったという事が嫌われる原因になったのかと
そう思い込んじゃった。つらかったな。おかしくなりそうだった。」
「それがある日突然、母の店に来たのさ。彼が。」
「何の連絡もなしにか?」
「テスト中だったんだけど母が忙しいからちょっと手伝ってって
言って電話してきたから、手伝いに行ったのさ。
そしたら、すごく痩せて本人ってわからないぐらいに変わり果ててて
家に電話しても行ってもいなかったからって母の店に来たの。
話があるからちょっと出てこないかと呼ばれて。
でも母と常連客が何かおかしいと気付いて、その人を締め出したんだけど
裏口から入ってこられて、あたし連れて行かれそうになった。
怖かった、まともな顔つきじゃなかったし、力が尋常じゃなくって
怖くて叫んで逃げようとしたらそばにあったナイフで一突き。
おなか。ここを刺された。一文字に15cmほど。見て。」
弓弦は、シャツを引き上げへその下の赤くみみずばれみたいに浮き上がっているその傷を見せた。
誠はびっくりしていた。まだ数年しかたっていない生々しいその傷を見せた弓弦。
誠を見て話しの続きをする。
「もちろん、ここから出た内臓を母は見てあたしの出血で血まみれになりながら
弓弦!弓弦!お願い、返事してと叫んで泣いた。
ほかにいた常連さんも、彼を取り押さえ警察に電話したりとかして
お店ではすごい騒動となったのね。
すぐ近くに市民病院があって緊急の手術であたしは助かったんだけど
殺人未遂の現行犯で留置所に入れられた彼があたしには・・・・。」
「つらかったな。弓弦。もういいぞ、泣くな。」
「すごくつらかった、それでも愛している人だもの。
なんで刺されちゃったのかは理解できなかったけど、
でも、意識が戻って母の泣き顔がそばにあって二人しかいない家族なのに
助かってよかったって。あたしも泣いたわ。
警察の人が来て、殺人未遂で彼が警察署へ連れてっているがと
話をしに来た時にあたし、彼を留置所から出したかった。
彼はあたしを殺そうと思った殺意と経緯を警察で話してたんだけど
あたしは彼を罪人にしたくないと警察で訴えたの。
だって、愛している人だもの。その人にそばにいてほしかったから。
話はどうであれ刺された人間が事故だっていえば事故なんだって。
母もあたしがあんまり彼をかばうものだから、何も言わなくなった。
車いすを貸してもらって、留置所に行った。
悲しい顔をして端っこに座っていた。そこにあたしも入れてもらった。
そして彼に、あなたは別に悪くないといい泣いてあたしは抱きしめた。
ごめん。ごめん弓弦って何度も言いながら彼は一緒に泣いたわ。
でもね、そのあと少ししてから彼は留置所から出され嬉野の自分の家に帰って行った。
そしてしばらくしてから聞いたんだけど、歩生は自宅の裏で首をつって亡くなったって。
あたし宛に遺書をのこして。真白い半紙に筆で。
`弓弦へ´
ごめん。お前を一人にして。俺はお前を傷つけた。
そばにはいてあげれない。
ごめん、本当に自分勝手な俺でごめん。
幸せにな。俺のようなやつにつかまるなよ。
そう書いてあった。あたし、その事がトラウマになっちゃったのかな。
人を好きになるのが怖い。抱かれるのが怖い。
男と女になるのが怖くて、体の自由が利かなくなるのよ。
無理すると体が何かに反応したように貧血で倒れるみたいに
倒れることもあれば、体に触れられるだけであたし怖くて
がたがた震えて意識が飛ぶの。一種の拒絶反応だよね。
退院してそのことで学校もいづらくなった。
でもあと一年がんばったら卒業だしと頑張った。
一生懸命に働いて、あたしを学校に行かせてくれていた母のため
高校卒業だけはつらくてもって。
その時の恩師が大学の推薦枠を取ってくれて、頑張って受かるように勉強し
こっちに合格で来たんだ。それからだよ。誠さんたちと一緒に働い始めたのは。」
「お前の人生も波瀾万丈だったんだなぁ。でもお前は一人じゃない。
みんな誰彼そばにいる。よかったな、お前は幸せじゃん。」
「こっちに来てすぐに母の元彼がさ湘南でバーをしているんだけど
バーテンダーの大会があって一人急遽欠員が出て、お前出ろって言われて
出たんだ。その時オリジナルフレッシュという部門で優勝したんだっけ。
まぐれにも。貴志がスタンダードで優勝したのもそのときさ。」
「んじゃお前は、貴志をmaskに来る前から知ってたのか。」
「そうだね。一緒に表彰された仲だったから。」
「でも、やっぱり一人じゃない。弓弦、お前は一人じゃないんだから
過去は過去、前を向いて進まないといけないんじゃないか?」
「あはは、西村さんや槙村さんと同じこと言う。わかっているよ。」
「そっか、ならいいが。」
「でさ、あと2つ。次は前向きな話。」
「なんだ?」
「あたし、西村さんの所の会社とマネージメント契約することとなった。」
「そうなのか?その話だったにおか、今日は。」
「で、ひかりの会社M'companyともいろんな面での契約をすることになったんだ。」
「というと一人のタレントとなるんだな。お前が遠くなるなぁ。」
「伯母ぁ。あたし、頑張るけんね。」
「そうだったのかい。あの話だけをするんじゃなかったんだね。
弓弦おめでとう。これからががんばりどきたいね。」
「弓弦、おめでとう。でもよく決めたな。あんなに嫌がってたのに。」
「そうしないと次の一つで引っかかっちゃうからさ。
伯父ぃ、伯母ぁ、ひかりっ!ちょっと!」
「なぁに?話すんだの?」
「最後の一つは誠さんの事。」
「俺の何を知ってるんだ?」
「誠さんは他人じゃないんだ。これはお爺ちゃんから聞いた。
お爺ちゃんは今も行方知れずとなっている子供を探偵使って探してた。」
「ちょい待ち。俺何も知らねぇぞ。」
「あたしはこっちに来て大学に入り、お爺ちゃんと何度かあっていた。
伯母ぁごめんね。お爺ちゃんは、あたしがかわいかったらしい。
何度も何度も大学まで迎えにきては食事を共にしていた。
話すお爺ちゃんは、悪い人ではなかったし。
話す中で、お爺ちゃんは悔やんでいることがあると
誰にも話ができなくて苦しいと言われて聞いたことがある。」
「弓弦の事か?それとも弓弦の両親の事か?」
「お父さんの事をさ。」
「伯父ぃ。知ってるよな。あたしに腹違いの兄がいること。
伯父ぃが隠していること知ってんだぜ?」
「お前。知ってたのか・・・・・。」
「昔な、お父さんと付き合ってた人に子供ができた。それが誠さん。」
「お前。俺の親父になる人が、お前の親父なのか?」
「あぁ。そう聞いた。その妊娠が発覚してお父さんのお爺ちゃん
つまりお爺ちゃんのお父さんたちね。家が釣り合わないとか何とか反対して
別れさせちゃったらしいんだけど、
その時にはもうその人のおなかの中には誠さんがいたんだって。
その後お父さんはあたしの母と知り合いいろいろあったらしいけど
お爺ちゃんは二度と悲しい思いはさせたくないと反対しなかったらしいんだ。」
「相原君。それがきっと君なんだよ。わしはその話は聞いたことがあるが
それが君とは聞いていない。ここで弓弦の口からきいたのが初めてだ。」
「でね、うちのお母さんと結婚する前ものね、お父さんかなり荒れてた時があったんだけど
あたしのお母さんと知り合ってまた優しいお父さんに戻っていったんだって。
でもお父さん、風のうわさでその人が妊娠して子供を産んで
一人で育ててるって知って探したんだって。
お爺ちゃんもこっそりと探しうてくれては、いたんだけど
居場所がわかった時には赤ちゃんの所在もわからなくなってて
ただ自分の両親への遺書とあたしのお父さんへの遺書とだけが
残されてたんだって。その後一生懸命に探したけれど結局見つからないままで。」
「俺は物心ついた時にはもう養父母の所に行ってたんだもんな。
わかるはずがないよなぁ。」
「お爺ちゃんもお父さんも長い時間をかけて探したらしいんだけど
その人のご両親も何もわからないままでただお墓だけが岐阜高山の
ご実家にあるって聞いた。
その後のことは誠さんだっていろいろとあって
知っている自分の歴史だよね。」
「お前それをいつから?」
「去年。お爺ちゃんが食事に誘った時にさ、誠さんお店の前にいたろ?
お爺ちゃんが車で迎えに来ててそれに乗り込むときに
誠さんがあたしを見送ってくれて。その時お爺ちゃんが口にした。」
「ちゃんと話したいって思わない?お爺ちゃんと。
でも恨んでるだろうなとお爺ちゃんは言ってた。」
「いや、恨むとかじゃなくってさ。俺は自分に肉親がいたこと自体が・・・・。」
「そっか。いつかお爺ちゃんと一緒に話をしないと・・・・・だな。」
「でもなんでその話を今なの?」
「いまさ、ここには家族しかいないよな。」
「だね。お父さんとお母さんと弓弦と誠さん。
誠さんは血のつながった弓弦のお兄ちゃんだもんね。」
「兄さんと言われるとちょっとなんだか戸惑うが。」
「でね。この一つが重要。」
「なんだい、弓弦。」
「伯父ぃ。伯母ぁ。そしてひかり。
あたしこの家を出る。せっかく離れを使わせてもらっているのに
ごめんね。でもね・・・・。」
「でもなんだい。」
「そうだ、でもなんなのよ。」
「あたし・・・・・・・。」
「西村さんのプロポーズ受けることにした。」
「おい、今なんて言った?」
「弓弦?お前。」
「はぁ?何言ってるの?弓弦。」
「あ?」
「何度も言わせないで。恥ずかしいから。」
「お前あの西村と結婚するのか?」
「弓弦。お前・・・・・・。」
「伯母ぁ、泣くなよ。そんなに衝撃的なのかよ。」
「あぁ、すごくすごく衝撃が強くて泣いちまったよ。」
「伯父ぃ。あごあご。開いた口がおかしいよ。」
「弓弦。どうするのよ、翔太君も槙村さんも弓弦に本気よ?」
「どうするたって、どうするんだよ。てか、いつの間に来てんだよひかり。」
「あぁあ、貴志たちが悲しむな。人のものだもんな。」
「会社でも大騒ぎになるわ。仕事に支障をきたすわ!
どうするのよ、いきなりそんなこと口にして!」
「しばらくは内密に。どこからか漏れる情報なんだろうけど
まだしゃべらないでほしい。だけど、家族にだけは。
そう思って今日、誠さんまで呼んで話したんだからな。」
「おばさん。」
「なんだい?相原さん、というか。なんだい誠さん。」
「家族ってものがいまいち理解できていない俺が、
弓弦の家族に混じってこんな重要なことを聞いてていいのか?」
「誠さんは弓弦の父方の少ない血縁だ。しっかりしないとね、誠さん。」
「いろいろここで詰め込まれておかしくなりそうだな(笑)」
「でも、誠さん。あなたにはここにも家族がいると
あたしという妹がいるとわかったんだ、一人じゃないってことさ。
でもお父さんは黙ってなくってもいいのに(笑)」
「そうなのかなぁ。」
「でも、家族とわかって安心した?」
「そうだなぁ。て言うか、お前の話からどうして俺の話なんだ?」
「なんでだろうなぁ。でも、今日は幸せな夜を迎えられる。
そしてすっきりした。話せる家族がいてあたしすっきりした。これで寝れる。」
「俺はどうしたらいいんだ?」
「泊まってけば?伯母ぁ、布団あるでしょう?」
「んだねぇ、遠慮しないで泊まってお行き。
離れが空くから、そこに住んでもいいよ。誰かいたほうが安心だしね。」
「今の部屋が一人の空間で居心地良いしな。でも、家族と一緒というのも悪くないか?」
「誠さんの気持ちに正直にいいさ。とりあえず、あの離れから引っ越すかも。」
「西村さんがお前を離さないんだろ?すぐにでも引っ越して来いって。」
「それは前から言われているんだけど、
あの離れ居心地良くて逆に引っ越してこないって聞きたい方かも。」
「西村さんにはそう話したの?」
「してない。できないもん。あの部屋気に入ってるみたいだし。」
「でも話してみれば?」
「ひかり?ひかりどうしたんだい?」
「こんな内緒話してて明日どうしよう。」
「ひかりはすぐ喋っちまうからなぁ。」
「ひかり、明日は休め。風邪ひいたか熱出たか、なんでもいいから
明日休め(笑)弓弦が困る。落ち着くまで休め。」
「えー仕事休むのは嫌だっ!」
「あははははは。ひかり頼むよ。喋るな。」
その夜は賑やかに過ぎて行った。遅くに弓弦は離れに戻り
誠はひかりの隣にあった弓弦の部屋に。
誠はまだ弓弦が話をした事が信じられなくて、眠れずにいた。
チャリコンが終わって時間ができたら、もう一度弓弦に話を聞き
そのお爺ちゃんとやらに会わせてもらおうと。
血のつながりを確かめるんじゃない、話がしたいと。
一方弓弦は、自分の部屋に戻ると西村に電話をした。
「あの。」
「なんだ?弓弦、いつもの弓弦じゃないじゃん。」
「だって、昨日の今日で今晩で。」
「どうしたんだ?明日の朝の事か?気になって寝れない?」
「あのさ、ひかりや伯父伯母には隠せないんで話した。」
「結婚の話?」
「あぁ。誠さんにも。」
「隠せないもんな、弓弦は正直だから。いいんじゃない?」
「今どこにいるの?」
「今?まだ事務所。そのまま明日銀座かな。」
「明日も一緒なんだよね。」
「なんで今更そういう風なこと聞くのさ。」
「ねぇ。」
「なに。」
「明日のステージで、言わないでよ?パニックになってしまうし。」
「俺は言いたいけど。言っちゃだめ?」
「駄目に決まってる。」
「なぁ、事務所でようかな、そっちに帰っていい?」
「良いけど・・・・・。でも・・・・・。」
「んじゃそっちに帰る。」
西村は一人の部屋じゃなく、弓弦と二人の部屋に帰りたかった。
事務所を出るとまっすぐに弓弦の家に向かった。夜も23時をまわった都内。
スムーズに弓弦のうちまで帰りつけた。
「ただいま。」
「おかえりなさい」
「なぁ、明日大丈夫か?緊張しているだろ?」
「別に、大丈夫。」
「無理するなよ、全然いつもの弓弦じゃないじゃん。」
「あのさ。」
「なに。」
「話したことを今考えると、なんだかさ。」
「今更何さ。」
「西村さん。」
「西村さんて呼ぶな。あなたとかいろいろと・・・・。」
「そういうんじゃなくって・・・・・。」
「んじゃなに。」
「結婚。本当に?あたし?」
「俺はお前に決めたんだ。弓弦は俺の弓弦だ。」
西村は、黙った弓弦を抱きしめる。そのまま抱きしめたままソファに沈み込んだ。
kissをしながら、抱きしめそのまま夜を過ごし、朝を迎える。
「おはよう。」
「おはよう、朝ごはんで来てるけどご飯でよかった?」
「おぅ、弓弦の飯か。こういうのは初めてかな?」
「初めて作ったかも。ひかりの弁当とか、休みのときは
あたしが夕飯の準備してみんなで食べるけど。」
「うちに来てても、俺が作ってたしな。客人には作らせないし。」
「そうそう、そのまま客人のほうが気楽でよかったかな。」
「俺は弓弦が受け入れて、結婚を承諾してくれたそれだけで
幸せなんだけど?そういうのはだめなのか?」
「どうなんだろうね。(笑)さぁ座って。ご飯ごはん。」
「あたしは昔から昆布だしの白みそだけどそれでよかった?」
「あぁ、こっちの合わせはしょっぱいからなぁ。弓弦もそう思わない?」
「そうね、こっちに来てかなり慣れたつもりだけどしょっぱいのには慣れないなぁ。」
「同じ場所で育ったから、弓弦の作るものが安心して食べれるよ。」
「そう言ってもらえるとうれしいかな。」
「めしの炊き方も、一つ一つ俺に合わせたように考えてあるようで
一番それがうれしいかも。めしが進むよ。」
「褒めてもだめです(笑)早く食べて出かけないと。」
「そうだそうだ。早くいかないと一番目は俺たちだ。」
あわててご飯を食べると着替えて二人家を後にした。
衣装は`mask´に預けてあるしと、二人は店に向かう。
行くと既に店の鍵が開いていた。ほかの4人も落ち着かないまま朝を迎え
早くからきていたのだ。
「おはっ。」
「あぁ、弓弦。すまん、お前寝てるって思って起こさずに先に来た。」
「あぁ、いいんだ。それよりも5人ではラストステージだから
誠さんや貴志はまだ来るの早いんじゃない?」
「俺は寝れなかったっすよ。寝れなくて早く来て合わせてた。
弓弦さんは西村さんと最後のリハだろ?」
「そうなんだけど、誠さんいるし貴志いるし・・・・・。」
「遠慮しないでやれよ。大丈夫(笑)」
「あと3時間しかないぞ、リハさせてもらえるならちょっと合わせよう。」
「俺ら、ちょっと役得?」
「ですね、誠さん。」
店の真ん中に陣取り、まずはで合わせる。
さすがに西村さんと弓弦はここ数年一緒に仕事しているのか
誠と貴志には出来上がっているように聞こえた。
しかし完璧が大好きな弓弦は、自分の音程に納得がいかないのか
西村に何度も弓弦が気になるところを歌わせそれに合わせる。
西村も嫌な顔もせずに、合わせようとする弓弦に付き合う。
誠は、つい昨日の夜弓弦が話したことを思い出した。
重要でかつ大切なことを。自分が弓弦と兄弟関係にあり
西村と弓弦が結婚すれば自分もその家族の中に入ることも。
今日が終わり、明日から忙しくなる店をみんなで頑張らないといけないのに
その中も、弓弦の結婚があり引っ越しがありTVが騒いで落ち着くまでは時間がかかりそうだ。
自分の親のこともある。
これも弓弦がからんでいるために弓弦と一緒に動かねばならないし、
本当にお爺ちゃんにあたる弓弦の爺さんに話をきちんと聞く時間も
間に入って作ってもらわなきゃいけない。
誠は自分のこれからをどうしたらいいんだと悩むこととなる。
西村と弓弦の声を聴きながらも、どっか違うことを考えている風な誠を
貴志は見逃さなかった。
「誠さん。」
「んぁ?」
「どうしたんですか?そんなに弓弦さんが好きなんですか?(笑)」
「だな。大好きさ、大好きで愛していてあれが焼けるな(笑)」
「ほんとっすか?でも、誠さんがライバルだと俺負けちゃいますよ。」
「おや?貴志も弓弦が気になってんのか?」
「俺っすか?俺、ここに来た時から弓弦さんが大好きですよ?
誰にでも聞かれたらそう答えてますもん。」
「愛しているということか?」
「ぞっこんですね(笑)弓弦さんが俺の前で女を見せたら
きっとかぶりつきますよ(笑)」
「多分これから先それはできないな。」
「なんでです?」
「弓弦はお前をライバル視しているからさ。」
「それは仕事上でしょ?」
「どうかな。でも、弓弦にここ一年で動きがあるぞ、見てな。」
「誠さんは何か知ってるんですか?」
「少し話を聞かされたが、どうなるかはわからん。」
「誠さん、振られたのか?」
「いや、ちと違うな。でもたぶんみんな振られる。」
「そういう嫌な予言はしないでくださいよ(笑)」
「まぁ、本人が言うだろう。それまで俺は何も言わねぇ。」
「なんだか意味深だな。」
「西村さん。弓弦。大丈夫なんじゃないんですか?それでOKでしょ。」
「そう?誠さんこれで大丈夫かな。」
「西村さんも着替えなきゃいけないでしょう?」
「あぁ。更衣室はあっちを借りていいのか?」
「おはようございます!」
「あっ!おはようございます。薫さん。」
「今日はきれいになってもらいますよ?手加減せずにきっちりとやりますね。」
「なんだか怖いなぁ、あの時も翔太だったし。」
「今日は短く切る前の弓弦さんの髪の長さを取り戻します。
あの髪にいちばん近いウィッグを持ってきたのよ。」
「えぇ、あの面倒な髪型に戻すの?」
「だってあれが弓弦さんじゃない。あの時は切るのがもったいなくって
本当に切った後は後悔したわ。」
「でも切りがいがあったでしょ。あれだけの量だもの。」
「だから、今日は西村さんの相棒で上がるんでしょ?
そしてラスト`mask´の代表としても。」
「うん。でも、何を着るのかまだ見せてもらってないけど
それに合わせた衣装だよねぇ?」
「見る?」
「あぁ。んじゃ部屋に。」
薫と弓弦はにやにやしている西村達を気にも留めずに部屋に移動した。
ドア越しに弓弦のすごい声が聞こえた。その瞬間西村達が大笑い。
「薫さん!これ!これなに!あたしに???」
「そんな喜ばなくたって!でも。アハハハハハハハ(笑)」
`バン´ 大きくドアを蹴り開ける弓弦。
「西村さん!これ!これ!どういう事さ!」
「弓弦、お前顔が・・・・真っ赤だぞ。」
「当たり前じゃん!こんな・・・・こんな・・・・・・・。」
「誠さんあのドレス・・・・。弓弦さんにぴったりじゃん。」
「あぁ、貴志。そう意味さ。お前振られたんだ。」
「まじで?」
「大真面目。だけど誰にもその意味を言うなよ。
お前以外でもショック受けて沈むやつでるから。
まぁお前はショックだろうけど沈まない人種だしな。」
「いや。沈む。沈没する。あんなの見せられて他人の物だなんて。」
「貴志、あとで呑みにこうな(笑)」
「ねぇ、西村さんまるでこれウェディングドレスじゃん。頭いたぁい(汗)」
「似合うじゃん。お前足がきれいだしひざ上20㎝でも
全然ドレスに見えるじゃん。」
「これ女丸出しじゃん。」
「いや、俺と一緒に上がるときは女の弓弦でないと
おかしいだろ?思いっきり化けてくれ(笑)」
「アカペラとピアノだぞ?あたしの担当。それにこの衣装は
ちょっとやり過ぎじゃん。」
「いや、それで上がってもらうからな。
発表はしないが、そういう雰囲気を醸し出させてもらった。
他のやつらに手を出すなと警告だ。」
「もしや誠さん!ラストの`mask´の衣装は?」
「あぁ、俺もちゃんと頼んでおいたさ5人のステージだ。
派手に行くぞと思ってかっこよく決められる衣装さ。」
「どんなのさ。まさか踊るのに邪魔なのじゃないだろうな?」
「いやいや。そこのロッカーに入れてあるだろ?」
「見たらショック受けちゃう?」
「見ない方がいいな、多分(笑)とりあえず薫さんとやら。」
「はい、相原さんどうしましょう?(笑)」
「あと1時間ないぐらいでステージだ。西村さんとのステージなんだから
気合い入れて弓弦を女にしてくれ。とびっきりの上玉に。
マスコミも集まってるらしい、西村がチャリコンで出るという話は
すぐに広まったらしいからな。TVも来てるらしいんだ。」
「そうそう、集まってるんだから男の弓弦じゃ困るんだな。
しっかりとステージ映えする弓弦でないとさ。
しっかりと化けて来い、弓弦。お前を自慢したステージにしたい。」
「まさかばらさないでしょうね?駄目よ?まだ今は。」
「しないさ。しないけど、俺の物と雰囲気で伝えたいな(笑)」
「まったく。」
衣装に着替えメイクする弓弦。薫さんも気合入れて弓弦に手を入れる。
久しぶりに化粧する弓弦。化粧乗りが悪いでしょうと薫さんと話しているのが聞こえる。
一方西村も、弓弦に合わせて真白いタキシードに着替えた。
バラードを歌うため、男と女の歌を歌うためそれに似合うタキシードとして選んだもの。
そして弓弦のドレスに合わせた真白いタキシード。
まるで並ぶとウェディングみたいに見える。しっとりとした衣装。
あと15分と言う所で部屋を出てきた弓弦。
「お前、さっきまでかぶってた翔太顔はどこに隠した?」
「まだ鏡見てないんだけど、誰か鏡みせてさ。」
「見たい?あっちに姿見あるじゃん。」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!なにこれっ!」
「あはははははははは」
「ぎゃははははは、お前。お前その声なんだっ(笑)」
「だって!だって!あたし女じゃん!」
「いや、似合ってるって。そう驚くなさ。大丈夫。」
「ちゃんと俺のステージなんだから、それで頑張れよ?」
「何か仕組んでない?」
「あぁ、きっちりと仕組まれてるさ。」
「弓弦、似合ってる。すごく似合ってるって。
これ選んだ西村さんはきちんとお前のことを見てるんだ。」
「時間よ!これを羽織ってステージに行って!」
騙されたように衣装を着せられた弓弦。見えないように上からは織物をかけられ
同じくは織物を着せられた西村と一緒にステージに向かう。
弓弦はウィッグをつけ、短く切る前の髪型。腰までの巻き毛にされ
薄い桃色の衣装を着させられている。
背中ががっつりあいて白くしなやかな腰まで見えている。
腰から下は裾まで、たっぷりのレースが使われている。
甘くてかっこ可愛い感じの若者が着る衣装だ。
弓弦が初めて着る衣装。それも桃色。薄い色とはいえ、白く見えるとはいえ桃色。
弓弦はそれだけで意気消沈していたのだ。
そして西村も。白いタキシードとはいえ、弓弦と同じ薄い桃色のネクタイ。
それに上着のポケットには桃色のチーフが。
チャリティーコンサートが始まった。
アナウンスが流れ、会場は次第に人が集まりにぎやかになってきた。
ステージの前の方にはTVカメラがあり、撮影する人数も異様に多いと気付く人もいたが
パンフレットを見ただけでは一番最初が誰なのかはシークレットとなっていた。
ステージ上での進行する人がいろいろと喋っている。
公園の外を歩く人たちも日曜で多いのか立ち止まる人も出てきた。
公園の椅子は満席状態で初めは誰だとざわざわし始めた。
ピアノが奥から真ん中に移動されて、マイクスタンドが二つ用意。
ステージ横から出てきた西村と弓弦。
もちろんシークレットとなってた始めが西村だとは会場でもびっくりで
公園の外を歩いていた人までが集まった。座ってた人たちも立ち上がり
西村が上がるステージに寄って来たために収拾がつかない。
「えっと。朝早くからありがとう。
チャリティーなのだけれど、それに賛同した会社の方針で
俺、西村正弘がトップバッターです。よろしくっ!
で、2曲だけど心をこめてうたわさせたいただく!
今日の2曲とも相棒は原田弓弦さんだ。」
そう言って弓弦を紹介し、一つ目を歌う。
そして歌い終えた後、ステージから来た人を見回すと、槙村や
martinのやつらがステージ端にいるのがわかった。
「今日はみんなで集まってくれてありがとう。
俺の事務所のテントでも販売しているものがあるが
売り上げは全部チャリティーのため赤十字に寄付となる。
またこの周りにあるテントでの販売の売り上げもそうです。
皆さん、このチャリティーへの賛同ありがとうございます。
そして、一つ目の曲は俺とこの原田さんのためにSDRの
寛司さんが曲を選んでくれました。
SDRリーダー落合寛司さんの提供曲
夜のしじまに吐息が漏れる
あなたと会えた喜びを
あなたに触れられる切なさと
これが夢でなければいいのに
これが終わりのない物語だといいのに
たまにしか会えなくて
でも
その時間がとても幸せで
だから
もっともっと、この部屋に居たくて
いろんな事考える
そして、たくさん話して
そしてたくさん触れ合う・・・・
あなたの髪は細くて綺麗
オレンジブラウンのひかり
あなたの瞳は
大きくて吸い込まれてしまいそう
あなたの唇はちょっと薄い形だけど
私に優しいkissをくれるの
細い指の間から
時間の砂が零れ落ちる・・・
ハナサナイデ・・・私はここにいるの
ハナサナイデ・・・ひとりになりたくないの
この世に限りが来ようとしても
私の手だけは、ハナサナイデ・・・・
あなたがそこにいる限り
私もそのこいたいと思うの
あなたが私を愛してる限り
私もそう・・答えるのよ
限りのないあなたの愛に・・・
答えたいの・・・・
ハナサナイデ・・・私はここにいるの
ハナサナイデ・・・陽が差し込んでも
また朝が来て夢から覚めても
私の手だけは、ハナサナイデ・・・・
ハナサナイデ・・・
ありがとう!一緒に歌った原田弓弦にも拍手を!
この原田さん、美人だろ?それもmartinの橋本に似てるしスタイルいいし
俺のチームの中の紅一点自慢のチームメイト。
この原田さんだが、今まで俺のアルバムを聞いたことがある人いる?
そのアルバムには5年前からすべて参加している
俺のシークレットメンバー。今日今回初めて皆さんの前に顔を出しました。
アルバムすべて参加はしてたが、名前は出してなかった。
だけど大切な仲間だ、これを機にと顔出し名前出しで
俺と一緒のステージに立つこととなった。
まぁ、彼女は本業があるのでツアーにも特別な時しか参加はできないが
俺の所でないと彼女は見れないし、歌もすごくうまいダンスも見れない。
俺ともども彼女をよろしくな!
で、次は俺の歌。`squallのなかで・・・・・´。」
西村の話が終わると、一呼吸おいて一音一音西村の後ろから響いてきた。
ピアノを引く弓弦。その横で西村が弓弦の方を見て歌い始めた。
それを誠も見ていた。
その歌の歌詞は聞いての通り男が女に対するプロポーズの歌。
それを弓弦に向かって歌っている西村。公開プロポーズのつもりか。
でも会場は、その歌声に喜んで聞いていた。
`squallのなかで・・・・・´
バス停で待つ君の傘をさす後ろ姿が
いつもよりもグラマラスに見えるのは僕だけだろうか
車を停めて後ろから声をかけようとしたけど
その後ろ姿に見とれてすっかり声をかけるのを忘れてしまった。
バスが来て乗るのか乗らないのかと中から見ているのに
君は僕を待っているからにっこり笑って会釈だけ返す
そしてまた僕をその場で待ってくれている君の後姿
時計を見ながらバッグの中から携帯をだし
なかなか来ない僕にかけるつもりなんだろうか
ごめんね、いつも君に気を遣わせて
いつしか、君に甘えてしまって困った僕だ
なかなか、来ない僕のことを気にして
ごめんね、後ろにいるのに
僕の携帯が君の後ろで鳴り響いた
ふと振り返る君の顔が少し不機嫌に見えて
僕はその顔を見るのがすごく楽しみなんだよね
不機嫌な顔そのまま近づいてくる君にふとkissをしてしまった
驚いた君の顔がそのまま泣き顔になってしまった
ごめんね驚かすつもりはなかったんだけど見とれてしまってた
さみしく不安で君が待っているとも思わすに
僕が泣かせてしまったんだね、本当にごめん
ごめんね、君に心配させてしまって
僕から、君に伝えたくて遅れてしまったんだ
ごめんね、寄り道してて遅れたんだ
右の手、出してほしいんだ
泣かないでよ 君のために僕は選んだんだ
その光る指輪は君のために僕が選んだんだ
泣かないでよ 僕のすべてをかけて守るから
僕が君を守るから、泣かないで笑顔を見せて
これからもずっと君と一緒に歩んで行きたいから
とびっきりの笑顔を僕に見せてほしいんだ
黙って聞いて これからの時間を君と歩みたい
優しい今日の雨もきっと祝福してくれている
うなずく君 そんな君を愛しているんだから
こんな僕でもいいのかな?ただうなづくだけの君
僕と一緒に歩んでくれると返事をしてくれているの?
これからの僕たちにきっと虹がかかるから
愛しているよこれまでもこれからも
きっと大切に君を守るから笑顔を見せて
きっと僕たちの未来に虹がかかるから
だから結婚しよう・・・・・幸せになろう
ステージの横に槙村や秋山、大川や翔太たちがいた。
あれ誰だ?おいおい、あれ弓弦さんじゃんと言いながら驚いた様子で。
ステージが大歓声の中終わると引き揚げてきた西村と弓弦にみんなで声をかける。
「すごい、やばい!惚れなおしたよ。」
「誠さん貴志。ありがとう、次はラストだ。」
「弓弦、お前西村さんとの2曲いい感じだったなぁ。まじに焼けるよ。」
「西村さんとあたしだからできた2曲と恥ずかしくない2曲だったでしょ?」
「おいおい秋山。やっぱり契約は直接はできないのか?」
「できないらしい(笑)
弓弦さんは今月西村さんの所でマネージメント契約するそうだからな。」
「でも俺たちの所も会社同士で契約するんでしょ?」
「そうみたいだな。おおっぴらに弓弦さんと仕事できるぞ(喜)」
「あぁ、疲れた。まじ疲れた。早く着替えたいっ!」
「着替えんの?もうちょっとそのままいようよ。
みんなで写真撮ろうよ。めずらしい恰好なんだしさ。」
「おい、貴志!」
「なんだよ、まさか殴りかかるのか?」
「いや、惚れるなよ?あたしに(笑)」
「ったく(笑)」
「ねぇ、恥ずかしいから店に戻ろうよ。超はずい。」
「見せびらかしながら移動しようぜ(笑)」
「西村さん助けてよ。」
「おーい、弓弦を頼むぞ(笑)」
西村は公園でテントを張っている自分の事務所の売店に立ち寄るといい
弓弦たちとはそこで一度離れた。
店に戻る間弓弦を取り巻く秋山や槙村たち。
貴志も俊哉もみんなでわいわい騒ぎながら店に戻っていく。
店に着くと圭一郎やあきらたち店のみんなが弓弦を待っていた。
弓弦が薫に声をかける着替えをしたいと。
すると圭一郎が声をかける。
「もったいない弓弦さん!そのままで記念撮影しようよ。」
「このままで?恥ずかしいから嫌だ!」
「だめだめこっちに来てよ。まず俺とツーショット!」
そういって弓弦の右腕を引っ張り、自分の携帯を渡してとってもらっている。
翔太のカメラが出てきた。するともう一枚と言って横に並ばせる。
ざわめきの中秋山が弓弦に声をかけた。
「弓弦さんもうあきらめな(笑)それこそ思い切ってkissしちゃえ!」
そういうと弓弦も吹っ切れたのか、圭一郎の両頬を両手で引き寄せ
綺麗なキスシーンを見せてくれた。
みんなのどよめきが大きく起こり注目されてしまったが
すごくいい写真となって翔太のカメラに残った。
恥ずかしそうな顔をして離れると、槙村が後ろで危ない視線。
カメラをテーブルに置く翔太の顔をすごく不機嫌。
仕方ないとこれはお祭りの延長戦だからと腹をくくったのか一言。
「槙村さん、やきもち焼かない。翔太君も。カメラ用意してもらって。
まず槙村さんここ。次翔太君ね。」
そういうと、構えられたカメラの前で槙村とのツーショット。
そして圭一郎と同じように違うキスシーンで一枚。
終わるとすぐに翔太を横に。翔太とのツーショット。
のってきたのか弓弦が翔太を押し倒してのキスシーン。
店の中ではかなりな大騒ぎ。
貴志も圭一郎と同じようなものを2枚撮ってもらい、俊哉も翔太と同じように。
そんな大騒ぎの中オーナーたちはTVのニュースで流れるそれを食い入るように見ていた。
「オーナー、どうかしたんですか?」
「あぁ、お帰り弓弦ひと先ずお疲れさん。」
「ありがとうございます。おかげで大盛況でした。」
「一番初めから飛ばすと、あとのみんながきついな(笑)」
「あのぉ。」
「TVか?あの公園とは少し離れているんだが
銀座のUFJ三菱で強盗があってな、警戒線がはられている。」
「まじですか?チャリコン大丈夫かな。」
「大丈夫だろうとは思うが人が多いしな。」
「西村さんもこっちに呼んだ方がいいかもですね。」
「秋山さん。」
「なんだ?翔太。」
「俺ちょっと西村さんの所に行ってきます。」
「あぁ。一人ではいくな。誰かと一緒に行け。」
「あたしも行く、ちょっと待ってて着替えるから。」
「弓弦さんはここにいたほうがいいんじゃね?」
「だって。」
「とりあえず待ってあげたら?俺も行く。」
「誠が行けば安心か。」
`turururururururu´ 電話が鳴る。
「チャリティー事務局の、宇治原です。」
「あぁ、お疲れさん。」
「小林さんですか?」
「あぁ、宇治原どうしたんだ?」
「銀座の強盗。行方が分からないらしくて警察からチャリティーを
中止してくれと言われたんですが。」
「もちろん人命優先だ。はっきりと物事が動くまで中止とした方がいいかもな。」
「そうですよね。皆さんそう言われているので中止を伝えます。」
「万が一、万が一だができるのであれば時間を見てまた始めたらいいさ。」
「そうですよね、では一時中断を。」
事務局の電話を切ると小林は、みんなを集めた。
ここから良いというまでここを離れてはいけないと。
もちろん従業員もだが、山本社長の所のタレントも一緒だ。
みんなここから出てはいけないと。
しかし電話をしている小林の後ろをこっそりと部屋を出て
西村の所へ行こうとしている二人がいた。
翔太が、行こうとしてドアに手をかけようとするところへ、
弓弦が一緒に居くと声をかけ、んじゃいっしょにと言いながら
こっそりと出ていくのを俊哉が見ていた。
俊哉が声をかけようとするのもつかの間、こっそりと二人出て行ってしまったのだ。
電話が終わり、みんなを集めると二人がいない。
「弓弦は?弓弦はどうした???」
「秋山君!翔太君はどうしたんだ?二人いないんじゃないか???」
「いませんね?誰か知らないのか?」
「ちょっと前に西村さん呼びに行きましたが?」
「なんだと?誠!呼び戻せ!お前が西村を迎えに行け!」
「はいっ!」
そう言って誠は呼びに店を出た。店の周りは警察官やパトカーが増え
緊急体制をとられている。もちろん、ステージのある公園はたくさんの人が
警察官により退去させられている。アナウンスが流れており、
緊急事態のために中止にするということだった。
テントも片付け始められ、ステージも。
沢山の人が集まっていたチャリコンの会場も、客足が散り散りになっていた。
やっぱりいた。公園の端で西村と弓弦と翔太が話している。
UFJ銀座で強盗が発生し、その犯人が逃げていると。
まだ捕まってないからお店に避難って言ってると伝えている。
その時弓弦たちがいた公園の端の所。
道路に停まっていたワゴンから数人とその周りにいたバイクの男たちが公園に入って来た。
弓弦と西村と翔太と三人でいるところに誠が近づいて行くときだった。
銃声がした。乾いた銃声がその一帯に響いた。
ちょっとした油断に不意を突かれ警察が弓弦たちを離れた瞬間西村が撃たれた。
翔太も流れ弾でけがをした。弓弦が泣き叫ぶ。西村の名前を呼びながら泣き叫ぶ。
男どもは弓弦を黙らせるために思いっきり弓弦の体を殴りつけた。
激しい痛みで声が出ないはずの弓弦がきつい顔をしてそれでも西村の名前を叫ぶ。
西村は大量の自分の血で動けない。
出血のため意識が遠のく中、弓弦と一生懸命叫ぶが届かない。
弓弦の泣き叫ぶ声がそのあたり一帯に響き渡り、その場を緊張状態にしてしまう。
「警官に告ぐ!この女の命を助けてほしければ
追いかけるな!ついてくるな!一人でもついてきたら
こいつの頭吹き飛ばして、走る車から落としていくぞ!
いいな!ついてくるな!追跡したらこいつの命はない!」
そう言って車に弓弦をおしこめ車を発進し逃げた。
連れ去ったやつらは、その場から去っていったがパトカーなどが追いかけると弓弦の命が。
追跡できないパトカーや警官たちがその場で右往左往している。
誠が走って行ったのだけれど、本当に一瞬の出来事で。
スローモーションな場面が繰り広げられたみたいだった。
弓弦は西村の返り血を浴びたままその数人に殴られ連れ去られたのだ。
弓弦は抵抗しながらも、西村の名前を呼び続け泣き叫んでいたが
抵抗するもそのまま車に連れ込まれ誘拐されてしまった。
TV局のカメラもいたため、その一部が映っていて
逃走した車両はすぐに手配されたのだが
人質となった弓弦がどうなっているのかそれがわからない。
救急車が来て、西村と翔太が運ばれる。
誠が呼び続けるが声も届かないまま西村は気を失う。
呼び起こそうとしても西村は起きようともしない。
翔太はパニックになっていて誠に掴み掛り弓弦さんが弓弦さんがとそう叫ぶ。
誠はすぐに携帯でお店に電話を入れた。
もちろん、TV局のカメラマンとか警察の方からすぐに川上社長と
山本社長のもとに連絡が入る。
「西村正弘が強盗に襲われ重傷で運ばれた。
翔太君も肩にけがをして病院に。同じ病院に行くようなので
付き添いますから。双方の事務所に連絡を入れてください。
そして。」
「そしてなんだ!」
「弓弦が。弓弦が連れて行かれた。」
「誠!泣くな!お前は付き添え!弓弦のことはどうにかする。」
TVでは速報で流れ始めた。公園と銀行は離れていたが車での逃走。
獲物を探していたのだ。少し離れた公園で物色。三人で話していたのを
良い獲物と思い弓弦を連れ去ったのだ。
「こちら中継は銀座です。銀座のX丁目にあるチャリティーコンサートがあってた
WW公園です。ただいまUFJ銀座の強盗事件で手配していた強盗が
この公園で片づけをしていた人たちに発砲。
歌手でタレントの西村正弘さんが重体。unionMartinの橋本翔太さんが
発砲された流れ弾で肩を貫通。同じく重傷です。
一緒に居たと思われる女性が逃亡のために誘拐された模様です。
警察は映りこんだ車種の特定をし、都内すべてに検問を置くそうです。
皆さんも、今は気を付けてください。
また車両を見つけた場合は、あわてず警察に連絡を入れてください。
犯人を刺激しないようにお願いします。」
そう言ってTV各局は、この強盗誘拐事件をTVやラジオで流した。
店では貴志が俺が俺がと泣いている。
オーナーも、なんで止めなかったのかと悔やんで。
「警察です。先ほどこちらの従業員で・・・・。
皆さんここに避難されてたんですか。ほかの方々は。
でしたら、早い。誘拐されたのは誰ですか。」
「うちの従業員で西村正弘の仕事仲間である原田弓弦です。」
「女性ですか?身内は?」
「すぐに連絡を取ります。逃亡の誘拐だと騒げない。」
「そうです、騒いで刺激すると犯人たちはどういうことをしでかすかわからない。
あくまでも静かに。」
「俊哉。泣くな。弓弦は大丈夫だ。」
「あぁ、大丈夫さ。」
「槙村。そう落ち込むな。大丈夫だ弓弦さんは。」
「俺が行っていたらこんな目にはあわずに済んだのに。」
「だからそういう風に思うな。弓弦さんは大丈夫と信じなければ。」
「今は刺激するな。」
「小林オーナー。」
「さぁ、お前たちは今日は仕事は休みだ。表に臨時休業の札だしておけ。」
「オーナー、どうするんですか?」
「お前たちは自宅待機だ。何かあったらすぐに連絡をするから
きちんと自宅にいておくれ。
そして秋山さん。その大切なタレントさんたちをきちんと事務所に返したい。
橋本君が怪我したことは私たちの責任だ。あとで社長の所に顔を出すと伝えてくれ。」
「わかりました。でも小林オーナーどこに行かれるんですか?」
「ちょっとな。すべてを守らんといかんからな。」
「貴志。お前たち全員分のタクシーと、この秋山さんたちのタクシーを。
私が準備したタクシーだけに乗り込め。秋山さん、本当に申し訳ない。
君たちの安全を確保するため私が呼ぶタクシーだけに乗車し、事務所に帰ってくれ。」
「わかりました。でも何か普通の強盗とは違うんでしょうか?。」
「これ以上は聞かないでくれ。警察にも内緒で動かねばならないかもしれない。
君らを巻き添えにするわけにはいかないんだ。」
「では。小林さん。行ってらっしゃい。」
「あぁ、ありがとう。」
「貴志。誠から連絡があったらよろしく頼む。
お前たちを巻き添えにしたくはない。お前たちは俺の子供たちだからな。」
「わかりました。行ってらっしゃい、父さん。」
小林はこれは強盗なんじゃないと感づいていた。何かを隠すための行動だと。
弓弦を誘拐した車に乗っていたサングラスをかけた男を覚えていたのだ。
「久しぶりだな。片桐さん。」
「おぉ。久しぶりやなぁ。小林の親父。」
「お前ん所のガキ。うちの子を誘拐したな?」
「ありゃ、お前ん所の子か。すまんなぁ。」
「ちょっといたずらが過ぎる子たちでな。」
「返せ。」
「ん?」
「返せさ、片桐。」
「無事に返すさ、あの子は。」
「いや、いまだ。警察が本当のことを嗅ぎ付ける前に返せ。」
「俺も連絡を取ってるところだが、お前の所のには手ぇ出してはいないぜ?」
「いや、怪我させたからなぁ。」
「だったら?」
「お前はどっちが好きだ?」
「なにをだ。」
「警察と大泉の爺さんとどっちが好きだ?」
「小林さんよぉ。お前は親父とちっとも似てねぇなぁ。白と黒を上手に使いやがる。」
「あの女は大泉の爺さんのお気に入りだ。
まぁいいさ。弓弦に手を出して傷ものにした日には
白も黒もどっちもがお前を襲うだろうからな。」
「小林さんよ。とりあえずちとまたねぇか。
あの子たちは女にはてはださねぇ。多分金もって逃げたいだけだ。」
「それだといいがうちの子も威勢がいいのでな。」
「ちょっと待て、入れてみる。」
「あぁ。」
「お前ら、一緒に居る女は?」
「親父、なんだ?」
「お前ら強盗だけじゃなく、誘拐したろ?」
「いや。その。」
「あまり大事にするんじゃねぇ、その女は大泉の女だ。すぐに返せ。
お前ら金なんだろ?とんずらするなら女は無傷で返せ。
出ないとお前ら・・・・・。」
「親父。無事に都内出たら返すさ。」
「今どこだ。」
「いわねぇ。親父にでも言わねぇ。」
「とにかくだ。お前ら金もって逃げたいだけなら女は無傷で返せ。」
「わかりやした。でもいつ返すかはわかんねぇ。どこで解放するかもわかんねぇ。」
「解放したら、解放したとだけ俺に電話しな。」
「わかった。わかったけどよぉ、親父。」
「けどでもなんでもねぇ。
お前らも命欲しいだろ。金でいい思いするには命欲しいもんなぁ。」
「わかったよ。親父。無事に逃げるぜ。だがサツには売るな。
売ったら女の命は親父の頼みでも聞けね。橋の上からでも落としてやる。」
「誰がサツに売ると言った。女を無事に返したらそれでいい。」
そう言った話をしている片桐の背後には小林が睨みつけるように
座っていた。いらいらした顔は普段見ない黒い感情の顔だった。
「小林さんよ。女は無事に返すそうだ。逃げ切る自信があるらしい。
でも俺は、世間一般に迷惑かける子供は嫌いだ。
女を解放したら、そいつらを連れてくるから。
それからサツに売ってもいいだろう。」
「そうか、無事に帰ってきたらそういうことにしよう。
ちなみに俺もここからきちんと帰れないと警察が動くこととなる。
お前の子供たちだけじゃなく、お前自身もお世話になるだろうよ。」
「あははははは。それはいけねぇ。俺は自分が一番かわいいからな。」
発砲され怪我をし意識が無くなっていく西村と、
大量の血を肩から流しながら弓弦を連れていくなと離せと叫ぶ翔太。
まだ公園に残っていたマスコミのカメラは二人と弓弦の姿犯人の姿を追い続ける。
中継がまだつながっていたTV局のカメラはとにかく追い続ける。
その様子が映し出されその公園も事務所もTV局でも大騒ぎになってしまっていた。
しぶとくカメラは移しまくる。そうしているうちに救急車が数台公園に横付けされ
怪我した人間を手当てしはじめ、重症の二人も乗せられてその場を離れようとしている。
救急車で運ばれた西村と翔太それに付き添う誠。
病院の前には大勢のマスコミやTV局の社員が詰めかけていた。
重体の西村は、運ばれてきた時点ではまだ意識がない。
翔太の方も重傷だが弾が貫通している部分を止血をしていた。
翔太はまだ看護師や先生の呼びかけに返事はしている様子だが、興奮状態のままだ。
誠は二人に付き添って一緒に居るのだが、いろんな取材陣からの質問が
かなりうるさかったのか、邪魔くさくてイライラしてた。
翔太は緊急処置室の方で検査やレントゲンや止血の処置をされている。
その間、誠は翔太のそばにいた。
西村の方がすぐにまっすぐ手術室に運ばれそこで検査して即手術が始まった。
「誠さん、弓弦さんが・・・・ごめんなさい。守れなかった。」
「大丈夫だ。親父がどうにかしてくれると信じている。弓弦は大丈夫だ。
それよりも、弓弦が帰ってきたとき君が笑顔でいないと心配する。」
「弓弦さんが・・・・。」
「大丈夫。大丈夫だって、君こそ弾は貫通しているんだ。
止血して、輸血が必要と言われているだろう。お前の血液型は何だ?」
「俺O型です。RH+。」
「俺と一緒じゃん。俺がお前に血をやるから、お前は生きれる。
お前は大丈夫だ。早く元気にならなきゃ。」
「西村さんは?西村さん!」
「今、手術室だ。弾が腹に残っているらしい。
それを出さないと次に進まないって今手術中だ。」
「西村さん・・・・・。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・。」
「泣くな翔太!お前が泣いたらみんな心配する。」
「橋本さん、麻酔かけます。いいですかぁ?」
「ほれ、お前も頑張ってこい。傷をふさげばあとは早い。」
「翔太!翔太!」
「お母さん。なんで?」
「すぐ連絡がきたんだよ、大丈夫か?翔太。」
「僕は大丈夫。大丈夫。大丈夫だから。母さん、行ってくる。」
「頑張るんだよ、翔太。」
「行ってくる、すぐ帰ってくる。大丈夫、大丈夫だかあさん。」
看護師たちと共に手術室に入る。
そのドアの向こうに消えていく姿を母は見ていた。
母の不安そうな様子の横に誠は黙って立っている。
母の口からひと言がんばるんだと母の目からはひとすじの涙が見えた。
すると誠が口を開く。
「自分のお母さんの前では俺とは違うな(笑)」
「あの。翔太に付き添ってここまで?」
「あの場では俺しかいなかったので。
それに今も西村と原田のことを心配して泣いてた。
お母さんの顔を見て心配かけまいと。」
「そうなんですか・・・・・。」
遠くで別の看護師が翔太の母に向かって声をかけた。
「あの、橋本さん。手術に関しての承諾書類にサインを。
とりあえず、目を通してお願いします。」
「はい。翔太の手術は?」
「弾は貫通しているので、それをふさぐだけです。
幸い骨や肺を傷つけているわけではなく、大きな血管も
神経なども傷ついてはいないみたいです。
ただ、肩の筋肉には断裂があり裂傷となっている部分を
きれいにする手術をします。」
「良かった、本当にそれだけなんですね。」
「えぇ、本当にこれだけで済んで良かったですね。では。」
「良かったですね。」
「えっと・・・・・・あなたは?」
「相原と言います。翔太君が一緒に居た西村と原田を介して
知り合いになった相原と言います。」
「その場におられたのですか?」
「公園に駆けつけ、話をしていた3人を見つけ駆け寄ろうとしたとき
発砲され西村さんと翔太君が怪我を。弓弦がさらわれて。」
「大変でしたね。でもここまでそばにいてくれてありがとうございます。
先ほど山本社長からも連絡があり
そんなしないうちにこちらに到着するということでした。」
「そうですか。でも貫通してて良かった。
西村さんは先に手術室に入ったけどどうなるんだろう。」
「無事に手術が終わるといいですねぇ。」
「えぇ、彼は幸せをつかんだばっかりでして。」
「大丈夫です。きっとつかんだ幸せが彼の根性をつかんで引っ張り上げるでしょうから。」
「おい!おい!maskの!」
「あ、川上社長。西村さんはこっちの手術室です。
看護婦さん!西村さんの所の社長だ。話をお願いする。」
「はい、こちらへ。今手術していますがその説明を。」
「橋本さん。私たちは翔太君のための血を採取されに行きましょう。
たくさんいるでしょうから、きっと二人分必要ですよ。」
「相原さん、ありがとう。息子のために本当にありがとう。」
川上社長は山本社長と一緒に手術室の横の部屋に案内された。
誠は翔太の母と一緒に、輸血する血液の採取をするための検査の部屋に連れて行かれた。
「まず、西村さんの状態ですが一応今、開腹手術をしておられます。
まだ腹部中央の横になっている大腸の左側をを突き抜け脾臓と膵臓の間に弾が残っており
出血がある大腸の穴をふさぎ止血をして、傷ついた脾臓の一部を
取り出したところです。膵臓で弾が止まっているのでそれを取り出します。
ただ、横隔膜を突き破っているのですが横隔膜の筋肉に傷がついている感じなんですね。
弾を取り出した後、傷のついているところを確認し、止血をしたらあとは終わります。
だた、出血があまりにも多かったため輸血がすごくて。
もしかしたらうちの病院では足りなくなるかもと今手配しています。」
「命には、命には???」
「大丈夫です。ただあまりの出血で気を失っておられた時間があり
意識が戻るのに時間がかかるかもと。」
「彼は歌い手だ。後遺症は?それに結婚を控えている。彼の確実な安全を。」
「彼を信じるしかないですが、大量の出血による欠血での意識混濁はなかったし、
意識を失っていたのですが一時間二時間と長い時間ではないので
大丈夫でしょう。ここが近かったのが幸いだ。全力を尽くして彼を助けます。
結婚を控えてというと、奥さまは?ご連絡は?」
「彼女は今、犯人に連れ去られてどこにいるかわからないんです。」
「では連れ去られたのは???」
「無事に帰ってくることを祈らなければ。西村が意識を取り戻したら、
なんと説明したらいいのかがわからない。」
「そうですか。そのままお伝えしたほうがいいのではないでしょうか?
とにかく早く戻られるとよいのですが。」
「誠君。とりあえず君は原田の家に行かせるか?」
「自宅で待機ったってどうしようもないだろうし、
ひかりさんやそのご両親と話しをしてもらわなければ。」
「そうだな。採血が終わったら私を連れてきた運転手に送らせよう。
おい、菊池。菊池君。」
「はい、なんでしょう川上社長。」
「採血が終わって出てきた相原君を家に責任もって送ってくれないか。
そしてそのあとは会社に帰ってもいい。
私は、西村につく。原田君の連絡も待たなければならない。」
「承知いたしました、では相原様わたくしが責任を持って。」
しばらくすると、動きが鈍いが誠が採血が終わり出てきた。
すこしふらふらと真っ直ぐ歩けていない様子。
看護師に脇から支えられて歩いてきた。
「大丈夫か?誠君。」
「えぇ、大丈夫です。いくら母親とはいえ女性からたくさん採血するのは
無理でしょう。元気な俺の血をとってもらった方が翔太君が元気になるのが早い。
俺だって健康な体です、少しぐらい無理して採血してもすぐ元通りになる。」
「あまり君も無理はするな。うちの菊池が吉祥の山本さんのうちに
送り届ける。弓弦の伯父さん伯母さんひかり君に話をしないといけない。
代わりに君が話をしてくれるか。ひかり君には、落ち着くまで休んでいいと伝えてくれ。」
「川上社長、すみません。きちんと俺が話をします。
そしてこれが私個人の携帯です。何か気になることがあったり、
少しでも役に立てることがあったらすぐに電話をください。」
「ありがとう、君は原田君の連絡も待たなければならない。
西村のためにもよろしく頼む。」
誠は川上社長の運転手の後を付いて行き、ひかりのうちに行くことにした。
弓弦のことを説明しなければならない。そう思い話さなければいけないことを考えていた。
一方M’companyでは、マスコミ関係が押し寄せていた。
強盗があったとまでは速報で知っていたが橋本が巻き添えになっていたとは
秋山たちが厳重に送られてきたことと、TV局の方からの連絡で詳細を知り
山本社長が出かけたことで、事の重大さを社員たちは知ったのだった。
会社の正面の受付にはたくさんの記者たちが駆けつけ
受付嬢たちも慌てふためいてしまったので、警備員たちが外にだし
関係者以外の立ち入りを禁止した。
ひかりは驚きのあまり泣き崩れてしまって。
大川や送られてきたmartinの4人は奥の部屋に行ったが
一緒に居た秋山と槙村はひかりの上司に声をかけ詳細を伝え
ひかりを事務室に呼び戻した。その事件を聞き弓弦がさらわれたことで
泣き崩れるひかりを社の運転手にお願いし家に帰した。
ゆかりたちも黙ったままひかりを見送った。
翔太の手術が終わり、治療室に移された。
麻酔が効いているのかまだ意識は戻ってはいないが、怪我自体は
大丈夫だということでM'companyの会見室での記者会見をすることとなり
社長が戻ってきた。そして開かれた記者会見で
今回のチャリティーコンサートの件の話と、公園で撃たれたときの状況と
西村正弘との交友や原田のことも聞かれたが、プライベートでの交友関係は
知らないと記者会見ではそう話をした。
ただ、連れ去られた原田さんは西村正弘さんが所属する事務所と
マネージメント契約をしているタレントで
今回のunionMartinの今回発売する新しいアルバムを手伝ってもらっているのだと。
我々にもこれは痛いことなのだが、無事に彼女を返してほしいと
マスコミを通して犯人に話しかけた。
マスコミはただの被害者ではないことに少し疑問を覚えたが
翔太の怪我が大丈夫だったこと重体でまだ意識が戻らない西村の事
連れ去られた原田という人物のことを調べなければと戻っていった。
また、西村の所の事務所にも記者たちは集まっていた。
もちろん、連絡があった直後に正面玄関を閉鎖したので騒がしいやからが
社内に侵入されることはなかった。
ただ、秘書らは社長からの連絡で西村がまだ手術中だということ
意識がまだ戻っていないこと、さらわれた原田はうちの会社の人間だということ、
それだけが聞かれたら話していいが西村の結婚の事、
その相手が原田だということそういう関連の話をしてはいけないと厳重に伝えた。
原田とのマネージメント契約はみんな知っていたし
それによってM'companyとの契約もあるのを知っていた。
でもこの緊急事態の中、詳しい話をする余裕もない。
マネージャーの山田も、座ってうつむきただただ祈っているだけだった。
夕方になって西村の手術が終わる。
意識はまだ戻らないが、もう大丈夫だということだった。
川上社長は安心したのかその場で倒れたが、自分でタクシーを呼び
事務所に戻った。まだ、正面玄関には記者たちがつめている。
「夜も遅いがこれから話せることだけ話す。会見場を設置してくれ。」
そういうと、残っていた社員たちで記者会見場を作り正面玄関にいた
記者たちを中に入れた。
「夜遅くまで皆様ご心配いただきそして私の帰りをまっていただき恐縮です。」
「西村正弘さんは大丈夫ですか?」
「命には別状は?」
「大丈夫です。体内に残っていた弾は摘出しましたし
出血も大量ですごかったのですが何とか持ちました。
まだ麻酔で眠ってはおりますが、大量出血による
意識不明での後遺症や怪我の後遺症は残ることはないそうです。」
「無事なんですね?助かったんですね?」
「えぇ、彼は強い。」
「一方連れ去られた原田さんとは?」
「西村の高校の後輩でここ5年ほどシークレットメンバーという形で
西村のアルバムとかを手伝っていた彼女なんですが
M'companyさんとの仕事のこともありまして今月彼女と
マネージメント契約をしたところだったんです。」
「ということは西村さんと同じタレントさんということですね?」
「えぇ、本業を持っておられるのですが西村を手伝ってくれている縁があり
今月からわが社のタレントとして契約をしたのですが
早々にこんなことになってしまって。
早く彼女を返してほしい。みんな心配している。
犯人がこれを聞いたり見たりしているのであれば
原田を早く返してほしい。M'companyさんも心配されているし
原田の婚約者も心配をしている。」
「あの!」
「なんだね?」
「原田さんって。原田弓弦さんですか?」
「そうだが、なんで知っておられる?」
「先日湘南で人命救助した彼女でしょう?違いますか?」
「そうだ、よく覚えてられましたね。」
「原田さんは学部は違いますが同じ大学だったんで。」
「ほほぉ。あなたは原田君を知っているのか?」
「彼女は高校のとき水泳の全国大会での優勝者だし。
あたしも水泳をしてたので知っています。えぇ、覚えてます。」
「覚えてくれているのか、原田が聞くと喜ぶな。
なんにしても、彼女が無事に戻ってきたら何もかもそれからだ。」
「明日の朝の記事でこの強盗誘拐事件が一面を賑やかせますが
西村正弘さんの無事は大々的に言わせていただきます。」
「あぁ頼む、ファンも気が気じゃないだろうからな。
もう遅い、私も明日に備えたい。これで終わりにしてくれないか」




