記憶の片隅と、時の流れと。
レッスン前の、声の質を見ている時間が長くかかった。
一人一人の声質を見るこの時間は大切だと思い、長くとったのだ。
歌う`love is・・・´と`the monster´は、それぞれに練習もしているはずだと思うからと。
そしてその2曲を流す。よく聞きそれぞれのパートを練習することとなった。
11時を回るころ、達哉と賢一と雄一郎が宿舎に到着し、そのレッスン室まで来た。
「お疲れ様です。」
「おぉ、着いたか。」
「え?マジでみんな揃っちゃったよ。俺ら聞いてない。」
「初めましてだろ。真志も俊哉も。ちゃんとあいさつしな。」
「弓弦さんお久しぶりです。で、初めましてですよね。」
「こっちが真志で俊哉。」
「よろしくお願いします、真志です。」
「よろしくお願いします、俊哉です。」
「で、誰がどこをするって決まってるんですよね?弓弦さん。」
「あぁ、ここにはいないがもう一人貴志が誰やるんだっけ?(笑)、
で、誠さんが元原さんを。
真志が中村さんの所。悠太さんの所を俊哉が。」
「でもちろん、僕の所は弓弦さんなんだよね。(笑)」
「本当は歌いたくないけどさ。踊るだけで精いっぱい。」
「大丈夫って。とりあえず30分ぐらい一人ひとりついて自分のパートを教えて。」
「OK。んじゃ散ってしようか。」
「弓弦さーん。こっちこっち。」
スタジオの部屋の端々に散っていたメンバー。
あきらと中村は真志と。元原と誠。真志が大宮と中村と。
悠太と一哉と俊哉。弓弦の所には槙村と圭一郎・翔太と秋山と。
「なんであたしの所に集まるんですか?こんなに集まっちゃぁ
あたし声出ませんって。」
「そんなに緊張するなって、俺らは見てるだけだし。」
「見られているから緊張するんでしょ。翔太君以外は向こうに!」
「えぇ。ケチ。」
「翔太?お前さ後で俺ん所に来い。」
「そんなぁ。」
「翔太だけ役得は許せないんだよな。」
「槙村さんも意地悪だなぁ。」
それぞれに部屋のあちこちに散って練習が始まった。
それぞれがそれぞれの所を。前々からすると決まった時に
自分たちで練習していたから、OKはすぐに出た。
午後から音合わせして、実際に踊りながら歌うこととなった。
お昼を食べ、午後になるとすぐにスタジオに集まり始めた。
弓弦も長崎行きのチケットの手配しなければいけないからと
意気込みだけで`love is・・・´は一発でOK。
`the monster´も歌だけだと一発でOKだった。
夕飯を食べてから次はダンスしながらとなったので、
弓弦は着替えて、空港まで行くと言いだした。
「んじゃ、ちょっと行ってきます。」
「弓弦さん。道わかる?」
「あ。(汗)」
「俺付いて行く。」
「槙村さんが行くなら俺も!」
「翔太、邪魔。」
「槙村さんが邪魔ですって」
「だれか翔太を捕まえててくれよ。まじ邪魔なんだけど(笑)」
「(笑)」
そういって宿舎を後にした。
「なぁ、弓弦さん。」
「何?槙村さん。」
「あのさ、長崎一緒に行っちゃだめ?」
「いきなり何を言ってるんですかっ!」
「俺さ、明日から一週間休みなんだ。つまり自由ってこと。」
「まじっすか(笑)」
「まじっすよ(笑)」
「まだあと5日残ってるんですよ?その間どうするんですか?」
「ん?このままここで遊んでる。」
「あたし、一番機で福岡に飛んで取れればその夜に最終で東京に。
取れなければその次の日の始発便で長崎から東京に向かうんですよ?」
「んあ?」
「日帰りと同じですけど?」
「んじゃ、こっちを出てくるやつらと空港で会うってこと?」
「そうともいう?」
「だったら一緒でもいいじゃん。」
「真面目に言ってますか?」
「あぁ、俺はいつでも大真面目さ。」
「槙村さんといると目立ってしょうがない。」
「翔太といても目立つだろ?」
「あー言えばこう言うし、おちょくってませんか?」
「ないない。素直に一緒に居たいだけ。」
「でも、あたしは女にはなりませんよ?」
「それでも。弓弦さんと居たいだけ。」
「槙村さん、頑固だな。」
「折れた?もう弓弦さん折れましたね?」
「んもう、好きにしてください。」
「やりぃ。んじゃ俺もチケット手配しようっと。」
そういって、空港までの道のりを二人は騒ぎながらいった。
「まずこっちから福岡まで。なん時の便があるんだ?」
「那覇を7:35出発福岡に9:10だ。」
「おぉ、チェック入れてたんだ。」
「福岡空港から車借りて長崎入り。ちょうどお昼につくだろ?
お昼休みに先生の所にいって、あとはぶらぶら。」」
「で?」
「そこで一泊となると、あたしが危ないから
その足で最終便に乗るように変更しようかなぁ。」
「えーなんでさ。一泊しようよ。」
「嫌だ。槙村さんは要注意人物だし(笑)」
「そんなぁ。」
「ホテルの部屋は別にとってくれる?」
「それは嫌だ。」
「んじゃ、日帰りコースで」
「でも二人っきりだもんな。」
「とりあえず、チケット予約しようよ。」
そういってカウンターに、行くと那覇から福岡行のチケット2枚。
長崎から羽田までの最終便を2枚取れるかどうか見てもらった。
すると、長崎羽田間のチケットが取れない。いっぱいだそうなのだ。
「弓弦さん、どうする?」
「あの、朝一番だと取れますか?」
「少々お待ちくださいませ。」
「とれるかなぁ。」
「始発8:20長崎発9:50羽田着が席が空いておりますが。」
「しかたないなぁ。んじゃそれお願いします。」
「弓弦さん、俺の言ったとおりだろ?」
「なんだか悔しいんですけど?」
「とりあえず、また夜を一緒に過ごせる。」
「別々ですよ?」
「多分一緒に呑むだろうから、一部屋でいいさ。」
「それは絶対却下だ!」
「そういうなさぁ。俺自宅でも手ぇ出してないぜ?」
「信用がない」
「信用してよ。」
「それだけの心意気を見せてよ。」
「難しいが、宿舎に帰ってからでいい?」
「それまでにその信用を考えなきゃな、、槙村さん。」
「とほほだ。」
そうにぎやかな会話と共に、車を駐車場からだし宿舎へ向かった。
「ただいまぁ。」
「お帰り弓弦さん、槙村さん。」
「チケット取れました?」
「当日のは取れませんでした。朝一番機で福岡に行ってそれから長崎。
長崎で一泊して次の日の朝一番機で羽田に。」
「そっか、んじゃ朝羽田に迎えに行こうかな?」
「翔太が?いいよ、来なくて。」
「どうしてですか、槙村さん。」
「聞くなさ。(笑)」
「あたし長崎行くのやめようかと思いましたもん。」
「まさか?」
「なにぃ?」
「秋山さん、こんな自分勝手な槙村さん許せますか?」
「いや、許しちゃいかんだろ?」
「秋山さん。俺は弓弦さんのボディーガードだから(笑)」
「弓弦さん認めたの?」
「認めてません。
これからみんなの前で信用とやらを見せてくれるってさ。」
「んぁ?弓弦さんの前だけじゃないのか?」
「ちげーよ。みんなの信用まで勝ち取らなければ話はなかった方向で。」
「そんなぁ。」
「さぁさぁ部屋に戻ろう。あとは夕飯の後、練習でしょう?」
「そうだなぁ。せっかく5人そろっているし、
貴志君には悪いがここできちんと合わせないとな。」
「さぁてと、頑張ろうかなぁ。ね。翔太君。」
「でも夕飯までには1時間もありますよ?」
「宿舎の前の浜で泳ぐか?」
「槙村と勝負したら?弓弦さん。」
「秋山さん?なんで槙村さんと勝負?」
「何かしらんが何かあったんだろ?」
「おぉ、秋山さんいいこと言った!弓弦さん3本勝負!どぉ?」
「また水着に着替えるの?」
「そのままの格好だと濡れるとすごくセクシーだよな。」
「んじゃ、着替える。着替えたくないけど着替えるさ。」
「まんまと罠にはまったな。」
そういって部屋にそれぞれが戻り、着替えてきた。
それぞれのスタイルでの登場。浜は一気ににぎやかになった。
「で?」
そういって弓弦が着替えてくると槙村の前に仁王立ちした。
腕を組んで、やる気満々で、上から槙村を見ら見つけている。
「怖い怖い。
でも、それがビキニだとやる気ががぜん出るんだけどな。」
「スタッフの人に日焼け止め塗ってもらっての参戦なんだから
負けられないんだかんね、あたし。」
「んじゃ、どうする?」
「とりあえず、泳ぐ?潜る?」
「そうだなぁ。」
「槙村っ!抱っこして、あの岩の上から落としなっ!」
「秋山さんそれいいの?」
「大丈夫だ!弓弦さんは大丈夫。捉まえて突き落せっ!」
「秋山さんそんなこと言ったらだめじゃなですかっ!」
「ようし!翔太悠太つかまえれ!」
「俊哉!助けて!真志!どうにかしてくれ!」
「弓弦さん!がんばって(笑)」
「こいつらーーーー!」
と言って、浜でにぎやかに鬼ごっこしている。
そんな姿は本当に女の人なのにと、秋山は見ていた。
翔太も少しするとその場を離れて、カメラを持ち出している。
少しでも弓弦さんのいる風景をたくさん撮りためたいと思っているのだ。
「弓弦さんの笑顔は眩しいな。」
「そう思うか?真志。」
「あの笑顔を手にするのは誰なんだろうな。」
「まぁ、西村さんでしょう。最後はあの人だと弓弦さんも、感じ取っている。」
「西村さんも、女としての弓弦ではなくって
仲間としての弓弦でもなくって、弓弦と一緒に居たいらしい。」
「難しいなぁ。」
「なぁ、誠さん。」
「なんだ?俊哉。」
「貴志さんもすごく弓弦さんに気を使っていますよね?」
「あぁ、貴志も貴志なりに弓弦を大切に思ってるみたいだな。
姉として、妹として、先輩として、仲間として。
弓弦の存在は唯一無二の存在だそうだ。
一度、俺と弓弦の関係を聞かれたときそういってたよ。」
「もしですよ?もし万が一、僕と弓弦さんとくっついた場合
貴志さんどうしますかね?」
「もちろん、半殺しだろうな。でもやつは大人だ。
弓弦さんの意志が固ければ認めざろうえんだろ。」
「もし僕じゃなくても、ほかの人でも?」
「一緒さ、やつは弓弦信仰が厚い人間だからな。」
「誠さんは?」
「何?真志。」
「誠さんは?弓弦さんと付き合ってないんですか?
俺は、いつも一緒に居るし弓弦さん誠さんに対しては
屈託のない笑顔で接しているし、気を許しているし。
俺は、てっきり誠さんとできてるって思ってましたよ?」
「お前それはお前の勘違いだ。
弓弦の気持ちの中にただ一つ恋愛感情はないんだ。
ほかのいろんな複雑な思いはあるんだろうが
人を愛するということに対しては気持ちがない。
だから、多分俺にも貴志にも西村さんにも恋愛感情はこれっぽっちもない。
それが弓弦だ。」
「ますます難しい。」
「それにさ、俺も欠陥品(笑)」
「誠さんが?」
「俺も、これまでの人生を生きてきた環境の中で
女を愛するということを知らないままここまで来た。
だから、弓弦であろうとほかの女であろうと
女を愛するということがわからない。どういう事なのかがわからん。」
「それはこれからでも感じていくものなのではないですか?誠さん」
「真志も俊哉も幸せな環境で育ってきたから
きっとこういうことはわからないさ。隠れた俺の精神疾患なんだろう。」
「誠さん、誠さんだってしっかりとした大人の男です。
何でも完璧なわけじゃない。人間なのだから、わからないものは
きっとあとで理解できるんじゃないっすか?」
「そうだといいんだろうがな。
そのお前たちが崇拝している弓弦殿は、やつらにつかまって
落とされたぞ?助けに行かなくっていいのか?」
「助けたら、何か進展しますかねぇ?」
「それはないだろうけど、待遇は違ってくるんじゃない?」
「僕行ってきます!」
「んじゃ俺も(笑)」
青い海の中を駆け出し、弓弦と槙村たちの騒がしい渦に飛び込んでいった。
弓弦のいつもと違う顔に太陽に陽射しが加勢をし波しぶきと共に
きらきらとしているように見えた。
誠は一人考え込んでた。
誠のそのなやんでしまって困った横顔をパラソルの中から見ていた
悠太が声をかけた。
「誠さん、顔が怖い顔になってますよ?どうかしましたか?」
「あぁ。あぁ、なんでもないさ。」
「でも怖い顔をしていたということは、何か気に障る事でも?」
「いやいや。ちょっとな。」
「僕でよければ聞きますけど?だって、唯一接点がない人間だし
僕の兄さんに似ているから、誠さんって僕自身が大好きな部類の人だし。
だから、そんな怖い顔をしている誠さんが気になっちゃって。」
「悠太君だっけ?」
「はい。」
「君はみんなと同じ普通の家庭で普通に生活をし
人の愛をたくさんに受け幸せに育ってきた側の人間。
かたや、俺は産まれた時から疎まれ邪魔にされ
人から愛されるということがなかった。
孤児院では大切にされたが、それは一緒に居る仲間と平等の愛だ。
学校に行こうが働こうが、
まともに人と接して来たことがない子供時代だったのさ。
だから、問題児でさ少年院にお世話になった。
出てからは今のオーナーの父・保護司の叔父貴に
何度も何度も人としてのなんだろうないろいろと諭されたよ。」
「でも、誠さんはその叔父貴が後ろにいたことで、
これまで安心した生活ができたのでしょう?」
「ちょっと違うけどさ、でもあの店があって今のオーナーがいて
仲間がいて、それなりに楽しいと思ったさ。」
「でしょう?あの店は誰がどんな時に来ても居心地の良い空間になってる。
きっと僕がどんな状況に置かれていても
あの場所に行けば、絶対に安心できる空間だもん。」
「そういってくれるとうれしい。俺も、あの場所があるから
今があるんだと感じているさ。」
「でもなぜ怖い顔が出る?」
「いや、育ってきた環境でいろんな人間的なことを覚えてくるんだろうけど
俺自身、人を愛するということがいまいちわからない。
多分、俺自身弓弦のことを大切に思っていることだけは自分でも理解できる。
だけど、弓弦も自分を女として扱ってないし、あいつも人を愛するということが
わかってないんだと思うが、そんなもの同士で抱き合ったって
愛情がなんなのかがわからない。」
「誠さん。」
「なんだ?」
「たとえばですね、目の前で事故があったとしますね。
それも、すさまじく車も大破して燃え上がって乗っていた人が
助かるのかどうかわからないぐらいにひどい事故が起きたとします。
その燃え盛る車の中に弓弦さんを見つけたとします。
助けてと叫んでいるのに、
誰も助けられずに炎に包まれてしまって見えなくなったとします。
誠さんは自分自身それでもの炎の中に飛び込んで
弓弦さんを助けると思いますか?」
「あぁ、きっと弓弦を助けると思う。自分が怪我しようとも
弓弦が助かってくれるのであれば飛び込んでいく。
ほかの女だとそこまではしないだろうな。」
「ほら。それ自体弓弦さんを心の底から大切に思っているってことだし
自分の犠牲よりも弓弦さんを助けるという気持ち、
それが大切にしている愛する気持ちじゃないんですか?」
「そうなのかなぁ。」
「誠さんは何がわからないんですか?」
「そう思う反面、弓弦が一番美人に笑っているところを誰かと
一緒に居ても、何とも思わない。
やきもちを焼くということを弓弦にもしたことがない。」
「なんで?誠さんそれはおかしいよ。
僕が弓弦さんを愛していて、弓弦さんも僕のことを好きだとわかってても
弓弦さんが一番幸せな顔でたとえば翔太とかとkissしたら、
思いっきり殴りに行くもん。僕の弓弦さんにって。」
「それがなぁ。いまいち。きれいなもんはきれい。
好きなもんはしょうがない。したければしたらいいって感じ。」
「誠さん(笑)誠さんとこうやって話をしていると
人生とは何かという問答をしているみたいだ。」
「楽しいか?」
「楽しいとか感じないけど、
でも人生と張っていろいろ考えるきっかけになっていいかもしれない。」
「それはよかった。」
「僕は、3年前に兄を病気で亡くしました。
両親がいても兄がいないだけで一人になった気分でした。
両親よりも友達よりも兄が一番でしたから。兄が僕のすべて。
表面的なことや何かは、ほかの人と話ができるけど
Martinというこのグループに参加して、
また違う環境になって、僕も元気が出ました。いい仲間です。
かけがえのない仲間をこの会社で見つけました。
そして、弓弦さんという頼もしい妹さんと
誠さんという兄さんと知り合えました。
こういう職業も、人とたくさん触れ合うことができるから
捨てたもんじゃないなぁって最近思うんです。」
「良かったな、そう思えるところに自分の居場所を見つけてさ。」
「誠さんはあの店と店の仲間と弓弦さんがいるじゃないですか。」
「だな。なんだか悠太君と話をしていると、仲間から諭されている気分だ(笑)」
「そう思ってくれるんですか?」
「そうにしか思えんだろう?」
「何事も口に出すことが一番ですよ。
僕は今まで誰にも言えなかった心の奥底を話せる人が見つかって
今日は幸せな気分です。」
「それって俺のこと?」
「他に誰がいるんですか?」
「んじゃ、俺ってことにしておこう。」
「しておいてくださいよ。次一人で行くときは
誠さんの家に泊まるつもりで行きますから(笑)
で、朝までしゃべくり倒すっ!」
「次の日が休みの時にしてくれよ?」
「はいはい、わかりました誠兄さん(笑)」
突然誠が海に向かって走り出した。
悠太も一緒に、大きな声で叫びながら走ってきた。
波しぶきが上がり、周りの連中にもしぶきがかかり大騒ぎとなった。
弓弦は誠が楽しそうに笑ってはしゃいでいる姿を初めて見た気がした。
真志も俊哉も、いつも大人しめに笑う誠さんが、大はしゃぎで。
弓弦も不思議に思ったが、誠の横にはそんなに離れないように悠太君がいた。
「誠さんどうしたのさ、なんだか今日はご機嫌?」
「弓弦も、ご機嫌じゃん。理由は一緒さ多分な。」
「槙村さんが強いのさ。どうにかしてよ。」
「お前が負けるとどうなるんだ?」
「一晩一緒さ。」
「それはそれは(笑)」
「なんで笑うのさっ」
「なんでって(笑)」
「お前さ、冒険して来い。」
「嫌だ。」
「槙村君は、お前に嘘ついたことあるのか?」
「ないと思うけど?」
「んじゃ、彼と一晩いたことは?」
「二度だ。」
「二度も、あるんだ。いつの話?」
「そんなこと説明はあと。」
「で、どうすりゃいいんだ?」
「とりあえず、勝ちたいっ!」
「今は何をしているんだ?」
「おにごっごもどきらしい。」
「で?」
「おに?」
「わかんないけど、槙村さんにつかまって海に落とされたらアウト!」
「これはこれは、弓弦大変だな。」
「だけど、やってもしょうがないんじゃ?」
そういって立ち止まった誠。
「誠さんどうしたのさ。」
「槙村さん、弓弦は一晩飲み明かしたいそうだ。」
「本当に?弓弦さん。」
「何言いだすんですか、誠さん。おかしいですよ。」
「んぁ、ちょっと。もうそろそろ時間ですって。」
「おひらきだ。おひらき。夕飯食べて、仕上げにかかろう。」
「まだ決着ついてないっ!なのに終わるの?」
「良かったなぁ。槙村(笑)」
「弓弦さん、残念でした。秋山さんラッキーです。」
「んだなぁ。弓弦さんも、着替えて夕飯、夕飯。」
納得がいかない顔をしている弓弦をおいて
誠は真志たちと一緒に部屋に行こうとしていた。
槙村も秋山もみんなんじゃ行こうかというそぶりで浜に上がろうとしていた。
弓弦はもちろんなんでそんなことを誠がいいだしたのかがわからないが
夕飯食べた後の練習もあるしと、横に居た翔太の方を見て戻ろうと合図をした。
一番後ろを歩いてくる翔太と弓弦。
その喋りながら歩いてくる姿を悠太が翔太のカメラで数枚撮った。
翔太が笑って弓弦さんの方を向き、弓弦さんは下を向いて
笑っているようなそのシルエット。
眩しい陽射しの中真っ黒い翔太の髪が海の波の色から浮き上がって
うっすらと焼けている翔太の姿がまた違う翔太に映ってた。
弓弦は丁寧に日焼け止めを塗られているのか、
真白いままの素肌に水しぶきがかかってきらきらしている。
髪型も姿も、よく翔太に似ているけど
髪の色を明るくアッシュにしているため下を向いてても顔の輪郭がわかる。
白い肌に薄い桃色の唇が目立って、笑ってる様子がありありとわかる。
二人が喋りながら戻ってくる姿を、撮りためた。
悠太は翔太がカメラをテーブルに置いたままだったから、
これはチャンスだなぁと、それ以外にもたくさん一瞬一瞬を撮って
いつの間にかメモリーの空きの容量が少なくなってしまってた。
「なぁ、悠太。お前カメラ触った?」
「あぁ、いろいろとおさめてた。いいシーンが多かったからさ。」
「どんな?」
「見てみる?てかチェックしてみてよ。絶対使えるのも混じってるって思うからさ。」
「もちろんみんなの写真もだけど、弓弦さんのも?」
「うんうん。見逃すもんか(笑)」
「お前ら、何ひそひそ話してるんだ?」
「びっくりするじゃないですか圭一郎さん。」
「おぉ、悠太。そういえばいっぱいシャッター切ってたなぁ」
「えへへ。」
「もちろん俺にも見せてくれるんだろうなぁ。」
「大川さんはすぐ顔に出るので、弓弦さんが長崎に行ってからみせますよ。」
「なんでだよっ!めしの時にでもみせれや。」
「でも弓弦さんたちと席が近すぎるんじゃないですか?」
「まだ弓弦さんには何も言ってないので、これをほかの人に見せてとなると
僕、殺されちゃいますし(笑)」
「んじゃ、弓弦さんにも見せればいいじゃん。駄目なの?」
「翔太はいいの?」
「悠太だけが殺される運命を背負ってくれたらいいんじゃない?」
「んじゃ、メモリーは僕が預かろうっと(笑)」
「だめだ!んじゃ、翔太お前も犠牲に(笑)」
「なぁ、秋山さんも見たいでしょう?」
「何を?」
「今までの浜で遊んでたところを写してました。それ。」
「おぉ、見たいみたい。」
「んじゃ、協力してくれますよね?」
「俺も殺されるってことかぁ?」
「いや、秋山さんが間に入ってくれたら弓弦さんしぶしぶでもOKだすと思うから。」
「そうかな?まぁ、めしの時にでも話しながら弓弦さんたちにも見せようよ」
「着替えとシャワーだ。」
食堂にはそれぞれそのままレッスン室に行けるような格好で入ってきた。
汗をかいても、踊りながら衣服が乱れたりしてもかまわないような格好で。
汗も流してすっきりとした顔で集まってきた。
「あ、食べながら弓弦さんと話をしたいので席はまじりあいっこしませんか?」
「あたしに話?何?悠太君。」
「まず、席を。」
「えっと。弓弦さんが暴れないように、誠さんそばにいてほしいんですが」
「俺がか?弓弦のそばにか。悠太もしや弓弦が暴れる何かをしたのか?」
「へへ。いや、いろいろとさ。」
「まぁ、それはお楽しみでってことで。」
「んじゃ、圭一郎さん。スクリーンをお願いします。」
「OK。」
「で、今からお見せするもの。翔太と俺の作品なんですが
一つ弓弦さんと皆さんとにお願いがあります。」
「このあいだね、弓弦さんと槙村さんが部屋にたときに
いい感じのシルエットショットが取れたんだ。それがこれ。この数枚のシーン。」
「いいねぇ。これいいじゃん。翔太の作品?悠太の作品?」
「これは俺の。翔太の作品になるんだ。
この写真はさ、槙村さんにも弓弦さんにもアルバムに使わせてって
許可は取ったんだ。」
「すると、この写真はお前らのアルバムのジャケになるのか?」
「一番いいシルエットをね。
でさ、もちろん中に入るフォトブックにもね使いたいって思って
さっきもうつしてたのが悠太さ。」
「まじで?あたしの写真?あの水着の写真を?」
「悠太は上手に撮ってたよ。弓弦さんの顔がわからないように。
でも、部分的にアップにして使えるものは使いたいって思って
アップの写真もたくさん撮ったんだ。それを見てほしいんだ。」
「弓弦。西村さんがびっくりだな。」
「あの。すっごくはずいんですが。止めてくれない?」
「弓弦さん、ちゃんと見てチェックしてね。」
「恥ずかしくて見てらんない。」
「でもいい撮り具合でしょ?翔太の笑顔も俺の顔も。
槙村さんの横顔も、元原のかっこいい姿も。」
「みんな映ってるんだなぁ。」
「はい。秋山さんがダイブした瞬間も。もちろん弓弦さんのダイブも。」
「弓弦さんと誠さんが夜の夜中にダンスしてたシルエットシーンも
いいなぁって思ってたシーンで撮れるものはすべて。」
「で、きっとお願いなんだろう?」
「はい。翔太、一緒にお願いしよう。」
「僕たちが撮ったこの一枚一枚の写真、編集をかけますが
これを次のアルバムに一番いいのから使わせていただきたいんだ。
2枚組になるこのアルバムのジャケに代表を2枚。
中の歌詞が入るフォトブックにいいのから40枚ほど。
でよければ、年末に配っているカレンダーにも使いたい。」
「でさ、写真の著作の名前はそれぞれ僕と悠太の名前が入ります。
映っている人たちの名前も、もちろん入ってくるのですが
弓弦さんはだめなんでしょう?」
「駄目。西村さんのthanks nameの所に名前を入れないように
同じように駄目。」
「なら、名前入れません。ただし、写真の権限を俺たち二人にください。」
「今後、翔太や僕が弓弦さんを写した写真、顔をわかるようには写さないし
誰と特定されることは絶対避けます。だから、この写真を使わせてください。」
「でも、そこまでお願いされるだけの映りいいあたしじゃないし。」
「いや。そん所そこらのモデルよりもすごく自然できれいな映り方だぜ?
なぁ、圭一郎、そう思わないか?」
「おう、俺もそう思うわ。そこら辺の女おんなしたモデルよりも
活き活きと映りこんでいる。これはいい出来上がりによるんじゃない?」
「弓弦さん。そして誠さん。真志さんと俊哉さん。
みんな映りこんでいるんですが、弓弦さん以外は顔が出ているし
皆さんのOKがないと・・・・。」
「俺らは男だし、構わないよ。ただ弓弦はな。」
「ねぇ、弓弦さん。お願い、弓弦さんってわかるものは使わない。」
「悠太の言う通りさ、お願い。」
「なぁ、ここまで言われて弓弦さんいやだってはいわないよなぁ?」
「秋山さん、これって嫌って言わせないためのやり方でしょ?」
「翔太、悠太。いいそうだ。元原、次のはグループで一番とらないと
まずいんだぞ?出来栄えは大丈夫か?」
「もちろんです。いい感じに仕上がってるんですよね。
誠さんや弓弦さんたちに恥ずかしくないできばえです。」
「だそうだ。誠さん、そして弓弦さん。真志さんと俊哉さん。
どうだろう、フォトブックへの参加。
特に弓弦さんはすごい枚数の参加になるけどOKしてくれるよな。」
「おい、弓弦。」
「弓弦さん?」
「西村さんの所と条件は同じということで。
①名前は出さない
②顔も特定されてしまうものはNG。
③その他プライバシーに関するものは法律に準ずる
あとは西村さんに聞いて。」
「んじゃ、OKなんですね?」
「弓弦さん、俺からも頼む。こいつら絶対約束は守るし
こいつらのアルバムぜった恥ずかしくないアルバムになると思うし。」
「秋山さん。俺たちは全然OKですよ。
むしろ顔が出ても、売り上げにつながるところがあるのでOKですけど(笑)」
「弓弦だけは、お願いしますね。本人の意向をくんでください。」
「なんだかあたし、複雑だなぁ。」
「顔は出さないんだし、西村さんの所と同じように気を使ってもらえるんだ。
でも本当は名前ぐらいOKしてもいいんだとおもうんだがなぁ。」
「やだよ。特徴のある名前だし。それが嫌だというわけじゃないんだけどさ
西村さんの手前もあるしな。それにあたし`弓弦´は本業がバーテンダーだから。」
「俺たちは本業があるからなぁ。」
「誠さんや貴志や真志俊哉は顔が売れるとお店に名前も挙げられる。
だけど、あたしはあの中では異色な存在なんだよな。
良い方に転ぶか悪い方に転ぶかわからないものだしさ。」
「弓弦?俺は良い方に行くと思うよ?」
「誠さんと同じ。俺も悪い方に行くとは思えない。」
「でもどうであれ、仕事に支障をきたすのは見え見えだからなぁ。」
「悪い方に行くのであればそれを逆にいい方向に向ければいいことだ。」
「誠さん、それ難しすぎだって(笑)」
「でも翔太君も悠太君もいいシーンを撮ってましたね。」
「自分があんなに映るもんだとは今まで知らなかった。」
「俊哉の顔が、すごくかわいいなぁ。まるで、弟分の笑顔だ。」
「誠さんだって、あの渋い顔は年より上に見えますよ?
だけど男から見てもかっこいいなぁ。」
「槙村さん。」
「弓弦さんと一緒に映れて、うれしいでしょう?」
「もちろん。誰か勘違いしてくれないかなぁ。」
「それ期待されたら、あれは使わないでって言いたいわ。」
「なんで?なんでだめなの?」
「だって、槙村さんとは単なる友人だし。」
「そうなの?俺そうは思いたいくないけど?」
「あたしの中では誠さんや貴志やみんなと一緒。
Martinのみんなは俊哉や健と一緒で弟みたいな感じ?」
「んじゃ、西村さんは?」
「そんな当たり前のこと聞いてどうするのさ?槙村さん。」
「真志、そんな当たり前の事ってお前たちはどう思ってるのさ」
「なぁ。俊哉。俺らみんな男と女って信じてるよ?」
「おいおい。お前たちそれ外で言ってないだろうな?」
「なんでですか?」
「ファンに殺される(笑)誠さん、こいつらお仕置きだな。」
「あははははは。信じ込むのは個人の自由だけどな。
でも、本当かどうかは本人のみぞ知るだ。」
「誠さんは知ってるの?」
「槙村さん?それこそあなたはご存じなのではないんですか?」
「誠さん?本人がここにいるのに、周りからの言葉で決まるの?」
「だめですか?(笑)」
「だめでしょう?」
「でもさ俺らと一緒に呑んだときさ、西村さん言ってたぞ?」
「なんて言ってらしたんですか?秋山さん。」
「あの時もさ`弓弦をこんなに思っても全然靡かない´って。」
「西村さん本気なんだ。俊哉、今度は邪魔したらだめだぞ?」
「誠さん、そんなこと言っちゃだめです。本当に助かってるんです、俊哉の手伝いは。」
「でもさ。」
「でももないです。
西村さんはあたしにとってはかけがえのない家族です。
家族だから気持ちも何もかも許せるんです。」
「家族かぁ。それってなんだか悲しくね?西村さん。」
「槙村もそう思うか?」
「秋山さんは?」
「俺もそう思う。」
「んじゃ、それから外れている俺は何か希望もあるかな?」
「圭一郎?西村さんよりも誠さんたちよりも
一番遠くにいるのに、なんでお前にチャンスがあるのさ(笑)」
「あはははは。あたしのことは置いといて。食べ終わったし、
一服したら移動しようかな。」
「本番みたいにできれば一発OKなんでしょう?」
「そうだなぁ。OK出たら明日からの残りの時間は自由だな。
慣らししておけば本番もOKだろ。」
「ならがんばらないとな。」
「弓弦、大丈夫か?」
「おぅ。」
にぎやかな夕飯が終わり、それぞれ一度部屋に戻り着替えて集まることになった。
あと3日。そのうち2日しかない時間を有効的に使うには
この夜ので一発OKを出さないとと、誠も弓弦も思っていた。
気合は十分、そう真志も思っていた。
気楽に構えているお気楽者は俊哉だけ。それを見ていた弓弦は
本当にこの仲間はいい関係にあると思うと。
部屋を移動し、体を慣らして曲を入れる。
秋山と大川、槙村が正面に立ち、それぞれの場所にmartinの5人も
自分たちをやってくれる人の前にスタンバイした。
曲がかかる、息の合った4人。
誠と弓弦の視線が、行きの合った二人を見せる。
`love is・・・´は見事だった。
顔さえ入れ替えたら、そのままのコピーと言ってもいいぐらいに
一つ一つの動きがそのままmartinに見えた。
「`love is・・・´は、OK。完璧じゃん。すげぇ。
そのままmartinの代わりできんじゃん。」
「うんうん。誠さんかっこいい。歌もうまいし。」
「弓弦さん、かわいい。翔太と入れ替わってほしいぐらい。」
「おい。(笑)」
「次。`the monster´」
そういって曲が始まる。弓弦が緊張しているのが伝わってくる。
翔太にもその緊張が伝わるのか、顔から笑みが消え真剣に見ている。
その真剣なまなざしを、槙村は翔太のカメラで取り続けていた。
「もうちょいだな。もう一度。Martin全員横につけ。」
「はい。」
そういって横に着くと、曲が流れた。
秋山の厳しい目がみんなの動きをチェックする。
大川はダンスしながらの息遣いを気にして聞いている。
誠さんは大丈夫完璧。真志さんも大丈夫。俊哉君笑顔が出る余裕。
弓弦が少しきつい顔をする。しかし自分を見せるという点では
弓弦が一番出来上がっているようにも見える。
翔太が横にくっついて弓弦と視線を合わせ、いい感じに誘導しているのがわかる。
弓弦の動きが中盤からよくなってきた。
踊り終わるとかなり息遣いがきつそうだがあと2回通してやるという秋山。
「あの。」
「何弓弦さん。」
「気分転換(笑)」
「んじゃ5分ね。」
そういうと、弓弦は煙草を吸いに出た。中では煙草やめればいいのにと
そう話をする面々。誠は好きにさせれば?と言っている。
「なぁ、2本目吸ってるぜ?」
「大丈夫なのか?」
「弓弦さんは、真剣になるとあんなもんじゃないぞ?」
「そんなに吸うの?」
「今でも1日2箱は吸うだろ?」
「誠さんそれほんと?」
「あぁ。一時期少なくなってたんだけどなぁ。最近多い。」
「終われば落ち着いて少なくなるかなぁ、弓弦さんのたばこ。」
「俊哉、一度お願いしてみてはどうだ?お前には弓弦はすごく甘いしな。」
「僕で効き目ありますかねぇ。」
「やって結果は出るさ。」
「とりあえず、時間だぞー。戻って!」
秋山が声をかけると弓弦が部屋に入ってきた。
またもとに落ちに戻り、曲が始まる。martinが横についている。
出だしは息がぴったり。それぞれがそれぞれの目を見て
お互いの動きを見ながら動いている。歌も切れずに完璧に。
誠は余裕があるのか、真志や俊哉の方も見ているが
元原との動きは完ぺきに仕上がっていた。
俊哉もまだまだ余裕だ。悠太と笑顔で歌っている。
真志も真剣な顔だが、ほんとにコピーだ。
そして何よりも、弓弦の一服が利いたのか動きにきれが出てきた。
翔太がびっくりした顔をしている。
そんな翔太を歌いながら笑顔で見る余裕が出ている。
秋山たちから見ると、双子が踊っているように見えた。
翔太と弓弦、誠さんと元原、真志と中村、俊哉と悠太。
二人で踊って秋山からOKが出た。
次はmartinも壁に立つ。槙村は翔太にカメラを渡した。
秋山の合図でまた曲が流れ始めた。
「あのさ翔太。」
「なんですか?槙村さん。」
「お前のカメラのメモリー。残ってなかったから、
俺のを、差しておいた。バンバン取れるぜ?」
「まじですか。んじゃ遠慮なく。」
「そのメモリーは消さずに俺に返してな(笑)」
そういって二人こそこそと話をしている間に、どんどん曲が進む。
息はぴったり。動きにもきれがあり、文句なしだと。
秋山もこんなに早くに覚えて動けるなんてと内心驚いていた。
大川は秋山の隣にいて、秋山が驚いているのがわかった。
いつもは自分の気持ちなど顔にも出さない秋山が、
口元だけ笑っているのだ。満足げに笑う表情を大川は見逃さずに見ていた。
これはこれでOKが出ると槙村も思って秋山を見た。
そんな中、曲が終わる。
「お疲れ様でした。」
「秋山さん?」
少し黙って考えてた。もう一度見てみたいと。
しかし疲れているのに、もう一度躍らせたら絶対無理かもとも
思っていたのだ。
「なぁ、俺らの目線ではOKだったと思うんだけど秋山さん。駄目ですか?」
「だめじゃないさ。ぜんぜんOKだっ!」
「本当に?本当にこれでOKで?」
「やった!誠さん、やった!」
「俊哉お前余裕だったなぁ。」
「お前だって。」
「誠さんが完璧なんだもん、俺らも仕上げなきゃ。ね、弓弦さん」
「て言うか、弓弦さん?」
あたりを見回すと、いない。
「弓弦さん?」
「弓弦?どこだ?」
するとドアの向こう側から声がする。
「ごめん。ちょっと。」
「1人なんで外にいるのさ。」
「開けるな。開けるなっ!」
苦しそうに言う弓弦が気になり、別の出口から出ようとするが
鍵がかかってて開かない。
秋山が声をかけていると、どさっと音がした。
誠たちが押し開けると、廊下に青い顔をして弓弦が倒れていた。
「あちゃ。」
「こいつさぁ、無理は無理って言えよなぁって。」
「とりあえず、OKだったんだからこのまま部屋に連れてって寝かせておこう。」
「弓弦。弓弦。」
「あぁ、誠さん。あぶないって思って外に出たらふらってしてさ。」
「だろうな、だからちゃんと言えって言ったんだ。」
「すまない。肩を貸して、部屋に戻って今日はおとなしくするから。」
誠たちに囲まれている弓弦。それを押しのけるかのように槙村たちが寄って来た。
「また無理して。煙草やめな。」
「そうだな、これきっかけにして煙草やめるんだな。」
「多分あれだ、貧血を煙草が引っ張っているんじゃないのか?」
「・・・・・・・煙草やめるのは、いやかも。」
「立てる?弓弦さん、立てますか?」
「大丈夫です、秋山さん。ご心配かけましたね。誠さん。ごめん、ごめんね。」
「俺代わります。」
「あぁ、頼む。俺も疲れてて多分部屋まで持たない(笑)」
「あれだけ動いた後だ。槙村頼む。」
「これで2回目。」
「あたし1人で部屋まで戻れますから、槙村さん肩だけ貸して。」
「俺1人そのまま貸しますって。」
そういって弓弦に肩を貸し立ちあがらせた。
部屋まで歩くと言い張る弓弦の横に居たが、エレベーターに乗り
ドアが閉まると同時に、抱きしめた。
「ねぇ・・・・槙村さん。・・・・苦・・・し・・・・・・い。」
「俺も苦しいさ。なのに、何にもしてあげれない。」
「あたしはいつも槙村さんに助けられているのに。」
「でも、弓弦さんの心になかには友達としての俺しかいない。」
「ごめん……槙村さん。ごめん・・・・・・。」
「弓弦・・・・さん・・・・」
「泣かないで、大げさよ。死ぬわけじゃない。死んだわけじゃない。」
「何の役にも立てない。弓弦さんの役に立てない。それが悔しい。
悔しいだけんなんだ。」
「ねぇ、もうすぐ扉があくし、泣かないでよ。誰かいたら怪しまれるでしょう?」
「悪い・・・・大丈夫だ。」
「あのさ、この間も言った。ごめんね。槙村さん。あたしは、誰も愛しきれない。
その余裕あたしにはないもの。だけど槙村さんは大切な友人の一人なんだから。」
「今夜もそばにいていい?」
「何もしないって約束よ?」
「弓弦さんの看病って理由さ。」
そのフロアの一番端にある弓弦の部屋。
部屋に着くと、翔太も悠太も階段を駆け上がってきてたのか
弓弦の部屋の前にいた。
「槙村さんずるい。」
「俺らも一緒に居たい。」
「お前ら邪魔だなぁ。(笑)」
「あたしはいいけど?いいんだけど、いい加減降ろしてくれない?」
「無理。弓弦さんエレベーターの中で立ってられなかったんだぞ?」
「そうなの?弓弦さん。やっぱり無理してたんじゃん。」
「ねぇ。弓弦さん。」
「何?」
「部屋に入ろう。ここじゃなんだ、あれだ。」
「そうだな。」
「部屋に入ってゆっくりとしてようよ。」
「そうだよなぁ。部屋に入れて。」
「悠太と翔太は邪魔だな。」
「悠太は関係ないなぁ、
単純に持ってきたゲームを一緒にしたいだけだもんな(笑)」
すると、秋山がエレベーターで上がってきた。
「お前ら邪魔だなぁ。弓弦さん迷惑じゃん。」
「この間は槙村さんが看病したから、次は俺が看病します。」
「翔太がか?お前できるのか?」
「頑張ります。」
「だと。どうする?弓弦さん。」
「大丈夫なのに。どうしたらいいんですか?」
「おい、槙村。」
「なんですかぁ、秋山さんまで邪魔する?」
「お前は長崎に同行するんだろ?」
「あぁ。」
「んじゃ、翔太が看病の番だな。
槙村は部屋のソファに弓弦さんをおろして出て来い(笑)」
「納得できない。」
「それは納得できないとかじゃなくって、弓弦さんだからみんなで看病さ。
今夜は翔太が順番。」
「ちぇ。」
「翔太。」
「なんですか秋山さん。」
「手は出すなよ?手を出したら半殺しだ。」
「わかってますって。殺されたくないもん。」
そういうと悠太と槙村を連れて秋山はその場を離れていった。
「弓弦さん。そこにいて。」
「動けるよ、大丈夫。」
「でもちゃんと言わないと僕がどうしていいかわかんない。」
「んじゃ、どうしよう。部屋に帰ってもらってもいいけど。」
「それは嫌だ。(笑)」
「じゃ、どうする?」
「どうしよう。」
「もう少ししたら動けるだろうから、一人で復習したいけど。」
「それに付き合えっていうこと?」
「当たり(笑)」
「そういう笑顔を見せられるとだめって言えないじゃないですか。」
「言えないように、女を醸し出してみた。」
「ずるい。かなりずるい。」
「するいかなぁ。んじゃ、無愛想な方がいい?」
「西村さんや、槙村さんと一緒に居るときの顔がいい。」
「んじゃ、無愛想な顔だ。」
「そうなの?ねぇ、弓弦さん。」
「何?」
「熱はない?ただの貧血?僕のかあさんがさ昔からひどく頑張ると
貧血で倒れること良くあったんだ。それを超えると熱が出る。
今はどぉ?熱っぽくない?寒くない?熱計ってみた?」
「計ってみなきゃダメ?」
「えぇ。秋山さんも気にしているし。」
「面倒だなぁ。」
体温計を、借りてきた。そして、弓弦に声をかけた。
「弓弦さん、熱を計りましょ。」
「ちょうだい、それ。」
「はい、この体温計は脇下で測るんですからね?」
「わかってます(笑)」
`pipipi pipipi pipipi´と音が鳴ると、翔太が飛んできた。
「弓弦さん、それそのまま渡して。」
「なんで。」
「弓弦さんにひと時でも手にされていると改ざんされそうで。」
「しないよ。はい。」
「39℃?まじで?」
「本当に?もう一度計り直そう。」
そしてまた計ってみる。
`pipipi pipipi pipipi´と音が鳴る。
つかさず弓弦にさわらせずに弓弦を押さえつけ体温計を取り上げた。
「弓弦さん、まじで39℃だよ(汗)」
「なんだか、具合悪くなってきたような気がする(笑)」
「あの、秋山さん呼びます?」
「呼ぶと誠さんたちにも、回るでしょう?」
「そうですねぇ。」
「では、やっぱりあたしの看病係?」
「そういうことになりますか(笑)」
「・・・・・・・・・・・・。嫌と言ったら?」
「苦手そうな圭一郎さんでも呼びますか?」
「あら、苦手じゃないけどでも一緒は危ない人だよね。」
「そうそう。完全に弓弦さんを獲物を追う目で見てますもんね。」
「ねぇ、翔太君。」
「なんでしょう?」
「少し落ち着いて座らない?」
「でも、氷枕用意しないと。」
「んじゃ、任せようかな。」
「待ってて。」
そういうと、翔太はそそくさと氷枕を用意してそばに来た。
「弓弦さん?」
「何?」
「横に座ってもいい?」
「いいよ。」
弓弦の座るソファに、弓弦にくっつくように横に座った翔太。
熱があるのがありありとわかる。その上に弓弦が震えていることも。
「弓弦さん、熱は上がり始めたばかりじゃないですか?」
「そうなのかな?」
「ブランケットとってきますね。」
「えぇ。」
「弓弦さん?」
「・・・・・・・・・・。」
「弓弦さん?」
「あぁ。」
「大丈夫ですか。呼びましょうよ、秋山さん。」
「やめて。大げさになるから、朝になると熱は下がる。」
「んじゃ、無理して動かないで。」
「俺のでよかったら頭痛薬の見ますか?熱さましも兼ねてるから。」
「もらえる?朝には熱を下げたいし。」
「んじゃ取ってきますね。鍵かけちゃだめですから。」
そういうと弓弦を一人置いて部屋を出た。一つ下の階の自分の部屋に
薬を取りに行き、過ぎに戻ってきた。
部屋のドアが少しだけ開いている。
明ける前にそっと覗くと窓を開いてそのそばに弓弦が座っている。
翔太がかけてくれたブランケットをかけたまま壁にもたれるようにして
弓弦が外を見ている。入ってくる風が心地よくそれに髪がふわりとして
シルエットがすごく印象的に見えた。
`コンコン´
ただいまと言いながら入っていく翔太に気づかないのか
そのままの姿勢で外を見ている。
「弓弦さん?」
「あぁ、おかえり。」
「はい、お水と1回2錠だから。」
そういって手のひらに薬を乗せてもらおうとする。
弓弦が熱が出てきて動きが鈍いのを感じ取ったのか
薬を渡して口に入れた瞬間、手に持っていたコップの水をすっと口に含み
弓弦にkissをした。
びっくりした弓弦だけれど、嫌な感じがしなかった。
翔太だったからなのか口移しに水を含まされ薬を飲みこんだ。
ぼーっとしている弓弦。熱が出てきて顔が赤いのかkissされて赤いのかが
自分でもわからなくなってきている。
声をかけ話をしようとするが、聞いていないような気がしている翔太。
このまま窓際の壁に寄り掛かった弓弦をそのままにはしておけずに
抱きかかえベッドに連れて行こうとすると弓弦が嫌がった。
だけどここでは体が冷えてしまって、薬を飲んでも聞かないよと声をかけ
抱きかかえる。ベッドには行きたくないとうわごとのように言い続ける弓弦に
翔太はソファに降ろすよと声をかけそこへおろした。
しばらくすると弓弦は、意識が遠のき眠りについた。
弓弦にかけたブランケットの端を上げそっと自分も入り込む。
寝言を言っている。弓弦さんも言うんだ、そう思って寝言を黙って聞いている翔太。
違うとか違わないとか、そうじゃないとか。
そういって、うなされている横顔を見ていると翔太はなんだか幸せな気分になる。
ソファの寝心地が悪いのか弓弦は何度も寝返りを打ち
翔太に絡んでくる。やっぱりくっつきすぎると邪魔なのかと離れようとすると
弓弦の細い右腕が翔太の腕をつかんで離さない。
つかんで離さないからしょうがないかと諦め、そのままの姿勢で我慢する。
するとまた絡めた腕を離し反対側に向いてみたりとにかく寝相が悪い。
熱があることで自分自身が気持ち悪いのかブランケットをはだけたり
寝言を言い続けている。
翔太にも眠気が襲う。だけど、心配なのとそのきれいな弓弦の顔が気になって寝つけない。
黙って横にいる翔太にまた再び弓弦がからみつく。起きているかのように。
自分の方に向いて寝ている弓弦のきれいな横顔をひと時見つめていた。
カメラを持ってきているのにそれを写真に収めると、
消えてしまいそうな気がしてただ自分の心の中にだけ
残しておきたいと、熱で熱くなった弓弦を抱きしめて、眠りについた。
朝になる前、弓弦が先に目を覚ます。
熱で汗まみれになっているのに翔太はその弓弦に抱きついて寝ている。
その寝顔がかわいくって弓弦は、黙って翔太の寝顔を見ていた。
こんな弟がいたらまた自分の違ってたのかもと思いながら。
翔太は3つも上なのに、かわいくて柔らかな髪を撫でながらなんだかなぁと。
朝日が部屋に伸びてきた。伸びてきたひかりは二人のソファに差した。
弓弦は寝たふりをして、翔太が起きるのを待ってみた。
「んん。んぁ。」
「あ、おはよう翔太君。」
「おはようございます、弓弦さん。ご機嫌は??」
「だいぶ楽。熱も下がったみたい。」
「良かった。」
「て言うか、翔太さん。」
「なんでしょ?」
「いい加減に離れません?」
「あぁ。だめ?このままもうひと時。」
「あたし翔太君の抱き枕じゃないんだから(笑)」
「でも、弓弦さんの体が熱もって熱く感じてたのをどうしようって思ってて、
本当に途中で秋山さん呼ぼうって思いましたもん。」
「で、呼ばなかったの?」
「呼んだらこんな至福の幸せはなかったと思うしぃ。
始め弓弦さんねついてのしばらくは弓弦さんが俺を抱き枕にしてたんですからね?わかってます?」
「そうだったの?あたし寝相悪いしなぁ(笑)」
「でも、幸せだったなぁ。抱きつかれるってなんでこんなに幸せなんだろう。」
「こんなことで幸せを感じるの?」
「だって、僕は正直弓弦さんが人間として大好き。
槙村さんやほかの人よりも一歩先に行けるものなら一歩先を行きたい。
誰よりも弓弦さんの特別な存在になりたい。」
「あはは、翔太君まで槙村さんと同じこと言ってる。でも、だめよ。無理。」
「素直にさ、なぜ無理なのかが僕にはわからないんだけど?」
「翔太君はほんとに思ったことを素直に口に出す人間なのね。」
「弓弦さんの言い方が女の人になってる(笑)」
「あたしはあたし。本体はやっぱり女だし、気持ちは男だし。
だけど、翔太君を前に話をしているとそのままのあたしで居られるのかも。」
「それって男として意識されていないんだ?」
「そうかも。だってあまりにも似すぎてて、
自分が鏡に向かってしゃべっているみたい。」
「でもそれって、僕が弓弦さんで、弓弦さんが僕でって感じだよね。」
「そうね。なんだか不思議な感じ。」
「今の弓弦さんは、僕と居るからそんな優しい言い方をしているの?」
「何だろうなぁ。翔太君には今のあたしがどういう風に映っているか
全然想像できない。」
「みんなと居る時よりも、ぐっと女だし優しい顔だし。」
「そうなの?」
「すごく僕にとってはうれしい表情なんですよ?わかります?」
「わかんない(笑)」
「でも、弓弦さん。熱が下がってよかったです。」
「翔太君のおかげ。看病をありがとう。」
「いえいえ。」
「そして、一晩気を使ってくれてありがとう。」
「いえいえ(笑)」
「翔太君のおかげで、熱が出るほど無理したってことそれが一晩で下がったこと。」
「いえいえ(汗)そればれると、きっと僕が危ない。」
「あはは。でも、そばにいてくれてうれしかった。ありがとう。」
「そこまで言われちゃうと、まじに惚れますって。」
「あはははは。男でもなく女でもないあたしだよ?」
「そう言われると、難しいけど。」
「みんな起きてるかなぁ。」
「どうだろう。槙村さんたちは起きてるかも。」
「んじゃ、あたしシャワー行くけど、翔太君は?」
「僕もシャワー・・・・・・・・。」
「自分の部屋で行かないの?」
「そうですよねぇ。当たり前ですよねぇ。」
「あたしは一人で入りたいけど。」
「一緒に入ってお背中流しましょうか?と言ったら怒られますよねぇ。」
「あたしが怒るというよりも、ドアの外に気配がする槙村さんに殺されるよね?」
「まじでいるの?」
「多分、そんな予感がする(笑)」
そっとドアに近づき、気配を。寝息が聞こえる。やっぱり誰かがドアの外にいる。
二人、それがおかしくって笑いをこらえてドアから離れる。
「翔太君。」
「何?弓弦さん。」
「ちょっとさ、お芝居。」
「小芝居?」
「あぁ。」
「やってるみる?小芝居?」
「うんうん。声だけ。」
「できる?」
「弓弦さんは?」
「OKOK。」
そういうと、まず翔太が声を出す。
「弓弦さん。俺さ・・・・俺。弓弦さんが欲しい。」
「嫌よ。ねぇ。駄目。駄目だって。」
「ねぇ、弓弦。」
「いや。翔太君、いやだって言ってるでしょ。」
ドアの外で、ごそっと音がする。こんな単純なことで。
二人でにやにやしながら続きを始めた。
息遣いの荒い感じをドア越しに聞こえさせ、動揺をあおる。
「やめてって。翔太君。やめてって・・・やめ・・・」
「やめない。弓弦さん、弓弦・・・・・。」
そこの所でドアが叩かれた。
「おはよう。弓弦さん?弓弦さんいるの?」
「・・・・・・・・・・・(笑)」
「おい、翔太っ!どうしたんだ?おい、翔太っ!」
「・・・・・・・・・・(ニヤニヤ)」
ドアを激しくたたく。こんなちょっとのことで外にいるやつが大慌て。
他の人まで集まってきたらまずいと思い二人はドアを開けた。
「おはようございます、槙村さん(笑)」
「あ、あ。おはよう、弓弦さん。」
「おはようございます、槙村さん。朝早くからどうしたんですか?」
「どうしたって。お前たち・・・・・。」
「あはははははははは。」
「なんで笑ってるんだよ。もしかして????」
「小芝居?」
「大芝居?」
「なんだろうなぁ、ね。弓弦さん。」
「さぁ、なんだろう。翔太君(笑)」
「お前ら・・・・・・。」
「なんでしょう?」
「俺が外にいるっていつ気づいた?」
「いつだっけ?翔太君。」
「さっきでしたよね、ドアをたたく音で。」
「本当にそうなのか?」
「槙村さん?」
「でも翔太。弓弦さんに手は出していないだろうな?」
「めっそうもない。殺されたくないし(笑)」
「うっそ。抱きついて寝てたじゃん(笑)」
「弓弦さん?それって裏切ったの???」
「翔太??正直に言わないと・・・・・。」
「言わないと????(怖)」
「弓弦さん!」
「うそうそ、槙村さん。」
「そうなのか?」
「そばにはいたけどね。」
「それだけ?」
「翔太君はぐっすり寝てたもん。」
「ほんとか?翔太。」
「ほんとですって。槙村さんは冗談がわからないんですか?」
「あははははは、槙村さんの負けね。」
「びっくりさせんなさ。弓弦さんも人が悪い。」
「でも、翔太君があまりにも可愛くってさ抱き合って寝てましたけど笑)」
「まじで?」
「僕全然気づかなかった。すごい幸せな夜だったんですね?」
「そうなのかなぁ。」
「長崎では一部屋しか予約入れないからな。」
「あぁぁぁぁ、槙村様それだけは勘弁してください。」
「勘弁しませんよ?」
「弓弦さんの負け?」
「翔太君と同じように。それが条件。」
「あ、でも翔太君は襲いませんでしたけど?」
「ぎゃ。」
「翔太さ、ただ弓弦さんを抱き枕にしてただけなのか?」
「多分、そうだと・・・・・。そうなんですか?弓弦さん。」
「あぁ。逆に翔太君は抱き枕にされてただけ。抱きついて寝てた(笑)」
「おいおい・・・・長崎でだったら何とかの生殺しって言わねぇか?それ。」
「そうかもねぇ。それでいいんでしょう?槙村殿。」
「っぐはっ。」
「そこで何やってんだ?朝飯だぜ?」
「あ。おはようございます、圭一郎さん。」
「何そんなところで漫才やってんだ?早く食べに行こうぜ。」
「大川さん、僕シャワー浴びてきます。」
「あたしもシャワーに。」
「何?一仕事したのかお前ら(笑)」
「あはは、大芝居して。」
「早く来いよ。」
朝からの騒ぎを知ったか知らずかのほほんとした大川の後姿が
なんとなく頼もしく見える翔太。
そそくさとシャワーを浴び、食堂に移動した。
一方弓弦の方も、シャワーを浴び着替えて食堂へ移動。
ただ、槙村を顔を合わせるのが気まずいのか入ると
槙村の視線を避けるように誠たちを探して席に座った。
「なぁ。弓弦。」
「おはよう、誠さん。」
「おまえさ、槙村さんがすごく危ない視線送ってるけど何かしたのか?」
「いや、ちょっとね。」
「何をしたんだ?」
「ちょと小芝居を(笑)」
「翔太君と芝居か?」
「あぁ。楽しかったさ。なんだか仕返しできたようでちょっとうれしい。」
「お前やり返されるぞ?」
「大丈夫大丈夫。冗談わからない槙村さんじゃないし。」
「ほんとかなぁ。」
「とりあえず、あと2日。頑張ってレッスンしたら長崎だ。」
「んだけどな。」
秋山たち朝飯を終え、スタッフから今日のスケジュールを渡される。
チェックを入れ、秋山が今日の予定を告げる。
「えっと、今日は完ぺきOFFですっ!」
「まじで?本当に?」
「とりあえず、レッスン室で誠さんたちの2曲の通し稽古が終わると
それで今日は終わり。あとは自由行動OKだということです。」
「んじゃ、秋山さん!」
「なんだ?圭一郎。」
「そのまま部屋借りて弓弦さん達の腕をためしてもいいですか?」
「あぁ。気が済むまで試したら?」
「秋山さんはどうするの?」
「とりあえずそれに付き合うかなぁ。」
「やった。」
「題名は`カラオケ大会´ということで。」
「んじゃ、ラフな格好でいいからこの後あっちの部屋で集合。」
今日は一日が楽しくないそうな感じだった。
通し稽古で2曲をmartinの前で通す。
もちろん、本番と同じ歌いながらだったがそつなく間違えずにOK。
秋山さんもそろって仕上がったことに喜んでくれていた。
「この10日間でここまでできたということはすごい素質を持ってるってことだよなぁ。」
「んだなぁ。」
「これだけできれば、こうやって練習したってこと結果が良くて安心だ。」
「誠さんたちはどうする?」
「俊哉が泳ぐって言ってきかない(笑)」
「誠さんも泳ぐ?」
「真志は?」
「一緒に。その前の浜で遊ぶんでしょう?」
「秋山さんは?」
「もっち泳ぎたい。なかなかここを楽しめないからさ。」
「弓弦さんは?」
「泳ぎませんって。荷物片づけなきゃいけないし
昨日一昨日と迷惑かけてるし、おとなしく部屋にいます。」
「そうはさせませんよ?」
「え?」
そういうと、圭一郎がサックスを持ち出した。
元原たちもベースやギターを持ち出してきたのだ。
もちろん槙村も自分のドラムをだしてセットし始めたのだ。
「何する?」
「何しようか。ねぇ、弓弦さん弓弦さん用のサックス。」
「え?これやるの?」
「あぁ。これをやって見せてよ。曲は何でも。」
「でもちゃんと音出ししてはじめないと管楽器は無理よ?」
「そうなの?」
「んじゃ、この間のもう一度聞きたい。
あれ弾き語りできるでしょ?ありゃ、ギターでか。」
「あれまたやるの?」
「俺も聞きたいなぁ。」
「誠さんまで。」
「でも俺は西村さんの前に歌った`スコールの中で´がいいなぁ。」
「あれキー高いし。」
「何でもいいや。」
「俊哉は適当だなぁ(笑)」
「とりあえず、ウォーミングアップさせるかな。」
「んじゃ、あたしはサックスを暖めようかな。歌わなくて済むし。」
弓弦はサックスを持ち、外に出た。
俊哉と誠は真志を連れて部屋を後にして、それぞれの部屋に一度戻り
浜を楽しむための準備をしに行った。
弓弦は久しぶりに手にするサックスを楽しみたく音出しに入った。
槙村はドラムを調整している。悠太や翔太はベースやギターをいじりながら
秋山と話をしている。
大川は、楽譜をいろいろと資料室から集めはじめ何がいいのかを選んでいる様子。
何をするのだろうと、一哉や大宮はくつろぎながら各々の様子をうかがっているのだ。
一時間たつころだろうか、ウォーミングアップが終わりロングトーンを始めた弓弦。
一つ一つの音を大切に一息でのばしたり音を大切に出していた。
しばらくすると弓弦が部屋に戻ってきた。
待ってましたと槙村が声をかける。
「準備OK?」
「あのさ、このサックスはしまわれてたみたいですね。音がなかなか伸びなかった。」
「でも今は大丈夫?」
「大丈夫。何をしますか?」
「そうだなぁ。それでなのを弾ける?」
「サックスの音を楽しむのならば`喜一郎’のオリジナルかな?」
「何か知ってる?弾ける?」
「そうだなぁ。」
「`いのち´というのは?聞いてみる?」
「あぁ。どんな曲か知らないけど。」
「この曲はサックスの音色を一番に引き出す曲さ。
サックス本来の音と、演奏家の色を引き出す命の音色と言われている。」
「聞かせて。」
そういうと、圭一郎たちは弓弦さんが
立ったまま弾き始めるのの真ん前に座り込んだ。
弓弦がすっと息を吸うと、サックスから歌が聞こえ始めた。
一つの音色が広がり、弓弦とサックスが一体化したようなそんな空気感。
槙村も目をつぶり、音を感じるように聞いている。
一哉もそのメロディーに引き込まれて黙ってしまった。
弓弦はそのサックスが息を吹き返し音を自分に返してくれるその感触を体で感じとり、
それが心地よくて、楽しんで息を吹き込む。
「この曲はさ、別にサックスでなくてもいろんな楽器で構わないんだって。
そうこの曲を作った人は言ってた。
アルバムとその中の小冊子に書いてあったことがさ、
思い出しだときに、その時の気分で相棒を選んでその相棒と奏でてくださいって。
すると本当の音というものを聞けると思いますって。
あたしが好きな音楽家の一人さ。」
「俺らはあんまり聞かない人の曲だけど、こうやって聞くのには心地よく聞けるな。」
「おい、あきら。お前泣いてたのか?」
「え?」
「だって涙流れた跡があるぞ?」
「ほんとだ。気づかなかった。」
「でも、そういうことありますよね。自分でも気づかなうちに、流れてるってこと。
それだけ、何かしら心の中の何かに共鳴したものがあるってこと。」
「弓弦さんの演奏のスタイルはさすが西村さんが手放さない訳だ、
すごく心地いい。演奏をしているんじゃなくって
声を出さずに使わずに歌っているんだもんな。」
「みなさんだって同じじゃないですか。みんな一緒。」
「俺らのはまだまだ。」
「ねぇ、弓弦さん。元原達が次のアルバムの練習するから見ててよ。」
「マスター譜はそっちにあるから、それ見ながら聞いてたら?」
「そう。んじゃ遠慮なく。」
壁に寄りかかり、曲がかかるとmartin5人は踊り始めた。
やはり踊りを完ぺきにすると同時進行で歌の方もやるスタイル。
ここ沖縄のスタジオでの練習は汗がつきもので一時間もすると汗が滴り降りている。
弓弦の視線が一人一人の動きについていく。圭一郎は弓弦のその横顔をじっと見ている。
「なぁ、弓弦さん。」
「どうしたんですか?圭一郎さん。」
「あれ踊れる?」
「無理ですって。覚えた分だけでも必死だったのに。」
「でも歌うのならば?」
「無理ですって。」
「んじゃ演奏かぁ。」
「なぜですか?」
「もしさ、西村さんの所の邪魔にならないところで
俺らのを手伝ってもらえるとしたら、
二次元的ビジュアルなものと、何がって思ったらさ、やっぱり演奏かぁって。」
「こんなあたしでも、あなたたちの仕事に役に立てるの?」
「もちろん、役に立てるどころか引っ張ってもらえる。」
「そうなの?信じらんない。」
「あのさ、弓弦さん。」
「Martinはあーゆーダンスユニットじゃん。
C&Cは自分たちで演奏と歌を歌うんだけど、ダンスはしない。
K'brotherは、martinみたいに激しくないけど
一応ダンスユニットなんだよね。」
「そうだよね。C&Cだけがちょっと毛並みが違うというか。」
「演奏しながらというのは俺たちだけなんだよね。」
「そうみたいだねぇ。」
「弓弦さんが手伝ってくれるとしたらさ、
二次元的ビジュアルな手伝いはどのユニットでもできる。
だけど技術を提供してもらうとなると俺たちの所しかないんだよね。」
「そうみたいだ(笑)」
「でさ、今みんなやってるけどお昼はさんだらさ
俺らのやってる曲をそれぞれやってみてもらいたいんだ。」
「あたしが?」
「ちょっと通すだけでいいからさ。
西村さんの所では、譜面もらって自分で通して
それでやってるんでしょ?そういう感じでさらっとでいいから。」
「圭一郎さん?それって誰から言われたの?」
「社長から(笑)」
「いわゆる、確認事項ってやつ?」
「そうともいうのかな?でもさ、いつどういう風に手伝ってもらうかは
わからないけど、弓弦さんの実力はきちんと知っておけという命令さ。」
「西村さんのアルバム聞いたらわかるのにさ(笑)」
「そうだなぁ。でもさ、何が知りたいかっていうのはさぁ
まず、譜面を見てどんな演奏をするのか。
で、ユニットの演奏を聴いてどういう風に合わせてもらえるのか。
そして、どんな技術を見せてくれるのか。」
「そんなのほかの演奏家と一緒じゃん。」
「だから、演奏家としてみんな見てるんだって。」
「そうなのか?」
「そう。だから、お昼からは俺と一緒。」
「圭一郎さん。」
「俺と一緒って二人だけ?」
「二人にはしてくれないだろうがな(笑)」
「二人にはなりたくないけど、大勢もなぁ。」
「俺としてはギターとベースは絶対見たい。」
「普通だよ?ふ・つ・う。」
スタッフがスタジオの方と浜の方とに分かれてお昼をと呼びに来た。
誠たちも、ここの所遊びまくって真っ黒に日焼けして
このまま帰るとお前たちは何してきたんだとも言われそうな感じだ。
お昼は全員では最後みたいで、明日はもう少し人数が減るとか
スタッフが話をしている。
「明日は東京に帰る組がいるんだよなぁ。」
「明日は翔太とかが帰るんだろ?」
「ん。僕仕事ですもん。」
「大宮達は休みに入るんだろ?」
「俺たちもそれぞれ帰ります。でも、渉だけは弓弦さん付きなんだよな?」
「あぁ。」
「お前帰ってきたらすぐ仕事じゃないのか?大丈夫か?」
「大丈夫だって。朝一番機で東京に戻るらしいし、多分俺はそのあと2日間休みだぞ、たしか。」
「俊哉。俺たちも帰る日は朝一番機で帰るか。そうしたら、空港で弓弦と合流できる。」
「そうですね。誠さんそうしましょうか。一緒に帰れるし。」
「んじゃ、あっちで会えるんだ。安心していけるなぁ。」
「俺と一緒が一番安心じゃねぇの?」
「一番不安?(笑)」
「午後から帰るのは誰だ?」
「おぉ、おれおれ。」
「秋山さん一足先に帰るの?」
「あっちでロケが入ってるからな。」
「んじゃ残るのは?元原と中村と上村か?」
「そうだね。翔太と悠太は帰るんだよな。」
「残念だけどね。俺も長崎行ってみたいのに。」
「修学旅行じゃないんだから、大きく休みとれたら行けばいいじゃん。」
「弓弦さん、案内してくれる?」
「休みが取れたらね。無理っぽいけど。」
そういう話をしながらのお昼。食べ終わるとみんな散りぢりに。
誠たちは泳ぎ疲れたのか部屋に戻ると、寝着いてしまった。
こんなに暑いのに、疲れがたまってたのかお昼寝の時間となる。
弓弦は圭一郎に連れて行かれスタジオで合わせている。
明日の朝には大宮も田中もみんな帰るらしい。
だからなのか、自分たちの譜面を持ち出して弓弦に見せている。
誰もが弓弦を巻き込んで午後の時間を楽しみたいのだ。
「なぁなぁ。弓弦さん。俺の所をやってよ。」
「圭一郎さんの所?ベースを?」
「まず、体慣らしにドラムだろ?」
「どうしようかなぁ(笑)でもベースやるんなら、爪もってこなきゃ。」
「爪?」
「このままやると、爪が汚くなる。ボロボロに。持ってきてたかな。」
「そうだなぁ、本業の仕事で爪がぼろぼろは恥ずかしいもんな。」
「んじゃ、肩慣らしして俺の代わりにドラムお願い。」
「それ槙村さんのセットじゃん。」
「ちゃんと弓弦さんに合わせたつもりだけど?」
「どうかなぁ。」
槙村のそばに行きスティックを借りて肩の運動を始めた。
槙村はその特徴的な弓弦の方の動きを見て、びっくりしてしまった。
スティックを2本端と端を持ちぐりぐりとひねり回す。
端と端にあった手が、少しづつ中ほどにまで移動する。
槙村もそれを真似するがゆっくりとしかできない。
「ねぇ、弓弦さん。手首壊れてない?」
「え?ちゃんと準備運動しないと腱鞘炎が怖いでしょ?」
「ていうかさ、弓弦さんの肩から指先まで軟体動物じゃん。」
「小さいころからこうやってやってるんだけど。へん?」
「ねぇ。ドラム叩くまでにどれだけの準備をするのさ。」
「手首の運動から、全体まで30分から一時間程度は
柔軟や腕や肩腰の慣らしをするけど、槙村さんはしないの?」
「しないなぁ。少し体を曲げ伸ばしして気合いだな。」
「それ、あと5年も持たないと(笑)ドラムは叩けなくなるよ?」
「そうなの?やべぇな(笑)」
「今までどんなに適当だったのさ。」
話す間も弓弦はくねくねと運動している。
その柔軟な体。見ててもそれが同じ人間なのか不思議なくらいに。
「んじゃ、何をするの?」
「何しようか。」
「んじゃこれを。」
そうやって渡されたのを見て、弓弦はひとり言みたいに
ぶつぶつと手足を動かしながら譜読みしている。
「大丈夫?」
「OK。ちょっと組み合わせを変えるけどいい?」
「あぁ、弓弦さんのいつも使ってる通りに組み替えてみてよ。」
すこしどころかかなり位置が違う。結構こういう組み合わせは
個人個人特徴的な組み合わせの様だ。
弓弦のセットの組み合わせは少し普通と違っているのがありありとわかる。
槙村のように、基本的な組み合わせに少しアレンジっていうわけではなさそうだ。
セットの組み合わせが弓弦の使う形に変えられると少し叩く。
それが終わったと言い、それぞれ向き合わせに立ってみた。そしてセッション。
お互いにお互いが見えるように向いているからお互いの様子がわかるのだが
槙村は弓弦の横に居て、こいつ本当に男だなと思ってしまうぐらいに
体全体で踊るようにドラムをたたく。まるで自分のセットのように。
これじゃほんとに弓弦と組んでやる人間たちは
こいつを離さないだろうなと。そう思うんだろうなと。
「すげぇなぁ。」
「そんなことないですよ。小さいころからやってると
自分のスタイルになってしまって、変わったことしようとするとできないことも多くなるし。」
「そんなことないさ。なんで同じもの使ってて
そこまで音が違うのさ。槙村なんてffしか出せないんだぜ?」
「あははははは。基本はPPからなのに。シンバルのPPは出せないの?」
「シンバルって思いっきり叩くんじゃねぇの?(笑)」
「違う違う。んじゃドラムロールもPPできないんじゃない?」
「そこまで言うかぁ?(笑)」
「いいものみせてあげようか?スタイルを変化させずに音の強弱を変える。」
「何?どうやるのさ。」
弓弦がスネアドラムでマーチをたたく。
始めはff。次にf。で、p。もう一つpp。
弓弦の見せる動きは一つも変わらないのに、音だけが違う。
強弱だけが違う。なんなんだ?と疑問に思う槙村。
「ドラムロールだけでもいろんな種類があって大まかにクラッシックから
マーチもある。曲などでいろんな腕を使うのさ。」
「奥が深すぎて頭が真っ白(笑)」
「とりあえず槙村さんたちとは違う世界をみせたいかな。」
「違う世界か?同じ音楽という中で?」
「ちょっとした違う音楽の刺激さ。同じだけど同じじゃない。音の基礎かな?」
「難しそうだなぁ。なぁ、圭一郎。」
「そうだな、でも面白そうと言えば面白そうだ。」
「今14時半だろ?ここからだと沖縄商業が近くにない?」
「あぁあるある。」
「ちょっと待って。」
弓弦は携帯をだし電話をしている。
「あの、長崎工業の原田と申しますが、はいあの時はお世話になりました。
いえいえ。あのお願いなのですが笹原先生は今日は部活されていますか?
職員室に?では取り次いでいただけたら嬉しいのですが。」
学校に電話か?そうみたいだなぁと弓弦の後姿を見ている。
「あぁ、笹原先生お久しぶりです。何年ぶりですかね。えぇ、元気にしてました。
先生もお元気そうで何より。実はですね、今沖縄にいるんですけど
今部活中ですか?これからグランドなんですね。
わかりました。ちょっと数人連れてそっちに行きたいんですが
えぇ。でも、余計な生徒は練習には。
あはは。あたしもちゃんと日焼け止めしないといけませんし。
体育館でですか?体育館使えますか?
んじゃ、余計な生徒は閉め出せますね。15時半ごろお伺いします。」
電話の先は沖縄商業。顧問の笹原先生あて。
「弓弦さん知り合いなの?」
「えぇ、大学の時のの恩師。今はこっちで教えているのさ。」
「何を見せてくれるの?」
「楽器とは何か、楽しむとは何か。音を奏でるとは何か。チームとは何か。
基本の音だし。生徒は素直だから面白いよ。」
「高校生に交じるのか?」
「楽しいから。一度経験すると、気持ちが変わる。すると音が変わる。自分が変わるのさ。」
「面白そうじゃん。」
「んじゃ、ここ一度片づけるか。」
そそくさと片づけ誠たちの所に行く弓弦。
「ねぇ誠さん。」
「おぉ、どうした?弓弦。」
「これから沖縄商業の恩師の所に行くけど行く?」
「なんで行くのさ。」
「槙村さんたちに見せたいものがあってさ。一緒に行く?」
「いってみたら面白い?」
「どうだろう。」
「んじゃ、ついてくかな。真志や俊哉には?」
「寝てるのかな?」
「寝てるんじゃない?」
「んじゃやめとこう。疲れてるんだろうし。」
「おいおい俺はいいのか?」
「誠さん、あたし一人は心配じゃないの?(笑)」
「ったく。」
「んじゃ、外で待ってる。」
「あぁ。」
玄関に行くとワゴンに乗って待っている。
誠は車の中を見回すと、弓弦がいない。それと、槙村と圭一郎と。
なんでいないんだと、誘ったくせにと思っていると後ろから声がした。
「定員オーバーで、1台には乗れれないのさ。2台で行くよ。誠さんはあたしの横に。」
そういって2台で向かう高校。その車ごと、体育館につけさせてもらい
練習を覗かさせてもらう。
生徒が練習をしている、はじめは舞台の上で音を出して合わせている。
その場所にC&Cと弓弦たちが入ってきたので生徒は大騒ぎ。
騒ぎになったが、端にいた笹原先生がうるさいと怒鳴ると
一気に静かに。
「あー。みんなちゃんと失礼のないように座って。
みんなが知っているタレントさんだが、失礼のないように。ここ重要。
そして恥ずかしいことはしないように堂々と。すみませんね。
原田久しぶりだなぁ。相変わらずだな、その態度は。でも髪はどうした?」
「先生も怒鳴り声は健在で。髪ですか?面倒で切っちゃいました。
去年のパーカッションのを、この人たちに見せたくて。特に槙村さんには。」
「そうか。とりあえず、お前もまじってやるか?」
「えぇ。亜紀ちゃんも3年生になったんですね。」
「姉さん、久しぶり。やるんでしょ?」
「あぁ。やれる?」
「その前にさ、原田。」
「なんっすか?先生。」
「ちゃんとUPしてきたか?」
「えぇ、さっきまで少し。」
「んじゃ、外で走ってこい。いつものやつしながら。」
「はい。んじゃ。」
「原田が帰ってくる前に篠田!用意しておけ。」
「はい!マスター!」
体育館の中央に人数分の椅子が用意された。
そして、前のステージには60人の生徒が上がり準備した。
すると弓弦が戻ってきてそれに混じる。
「君らに聞かせるのは原田なんだっけ(笑)」
「陽の当たる教室という映画のエンドかな?それとID4の皇帝のメロディー。」
「みんないいか?原田の言った去年のやつだ。聞かせれるな?」
「はい。」
「では。」
演奏が始まる。一人一人の音が本当に奏でられている。
弓弦は後ろの中央。さっき話をしたいた女の子と5人
スネアドラム3人の横にシンバルを持って立っている。
じっと目を閉じてきている6人。この曲ってパーカッションが目立つ曲でだが
久しぶりなのに原田とほかの人との息がぴったりだ。
最後に差し掛かると、弓弦がシンバルと高く持ち上げた。
あのシンバルのロールは普通はマレットでするのだが
弓弦は2枚の大きなシンバルを高々と上げその2枚でロールを見せた。
あの細い腕が大きなシンバルをもちあげロール。
腕の筋肉の筋がわかるぐらいに盛り上がっている。
それもはじめはPなのに次第に大きくFFに。
そして笹原先生のタクトがすっと落ちると、音も終わった。
しずかに余韻しか残らずに、落ちた。
6人の耳には何が残っただろう。弓弦はそんなことを考えながら
場所を移動。ID4はスネアドラムとトランペットがメイン。
一番前に出てきた。弓弦を中心に総勢15人。そしてトランペット8人と。
曲が始まる。これは笹原先生の合図ではなく、弓弦の合図で。
PPから始まるマーチ部分。次第に堂々としたドラムマーチ。
スーッとその美しいパーカッションのリズムに堂々としたトランペットが重なる。
一つ一つの音が重なっていく。
映画音楽を、こんなにも聞かせる高校生はすごいんだねと、ひそひそと話をしていた。
「原田。久しぶりの割にはしっかりとした演技だったなぁ。」
「そうですか?できるか不安でしたけど。」
「ね、亜紀ちゃん。あなた綺麗になったね。」
「原田先輩もすごくきれい。なんだか心配だわ。
そうそう。亜紀ね原田先輩と同じ大学受けるのよ。」
「そうなの?頑張って、頑張ったらうちに一緒に住んでいいから。」
「本当に?本当にいいの?」
「従妹の家に居候している身だけど、離れに移るから今の部屋が空くのよ。
明大まで歩いて30分もかからない。話しておくから、絶対受からないと。」
「頑張る。何が何でもがんばる。先輩と同じ明大受かるよ。」
「そっか。何でも聞いて。近ければ家庭教師かってでるんだけど。」
「原田、慕われているなぁ。」
「あ。そうそう、亜紀ちゃん。」
「なんだ?」
「この人たち知ってる?」
「知ってるC&Cの人たちだ。」
「あたしたちドラム隊の音を聞かせたいんだけど?」
「やる?あれ。」
「笹原先生、パーカッション借りていいですか?」
「あぁ。思い存分鍛えてくれ。任せる。」
パーカッションのメンバーだけ総勢18人。
弓弦を先頭に、それぞれ出てきて並んだ。
C&Cの前に並ぶと、弓弦の合図とともにドラムマーチを見せる。
基本中のマーチそして、みんなの得意とするPOPな曲のマーチ。
映画音楽で使われているマーチ。コンクールでの課題曲のマーチ。
つなげて聞き比べさせた。
槙村たちの顔つきが変わる。一律の音しかない打楽器なのに
音色がある。息をしているのが聞こえる。
目を丸くして、弓弦たちを見つめていた。
終わるころには感動が心の奥底からふつふつと何かが沸き上がる5人だった。
「笹原先生。みんな。今日はありがとうね。
弓弦さんの言いたいことが少しづつしみてきたよ。
良い先生に巡り合えた弓弦さんを見たな。」
「いえいえ。あなた方が原田君を知り合えたことが
すごくいいことだといい人と巡り合えたと思いますよ。
彼女は高校の全国大会でも名前だけは知られている人間です。」
「先生大げさですよ?」
「いやいや。君は日本の吹奏楽連盟の後継者だからなぁ。」
「あの、先生?」
「知らないのかね、君たちは。」
「何をですか?」
「原田君は、日本吹奏楽連盟の審査員だぞ?」
「まじですか???」
「あたしは、この間辞表を出したんですがまだ処理されていないということですね?」
「原田君の音楽は君らや君らの周りや、西村君だっけ?
認めるとか認めないとかではないんだよ(笑)」
「おおげさな。先生そんなに大げさに話したらいけませんって。」
「バカ言うんじゃない。お前は最年少での審査員だぞ。
簡単に辞表だなんだかんだって自由が利くものか。
お前は連盟の後継者なのだからな?」
「そんなにこの世界では有名人だったんだ。」
「ったく、先生が言うからこいつらが・・・・・困った(笑)」
「なぁ、弓弦さんはいったいどういった人間なんだ?」
「私が知ってること教えてあげようか?」
「先生余計なことは言わないでよ?」
「原田君は長崎生まれ、母は由起子。父は孝太郎。
原田孝太郎は全日本吹奏楽連盟会長・原田一郎の一人息子。
そして世界的に有名な指揮者原田栄二の甥っ子だ。
その娘となるのが弓弦さんだ。
弓弦が8歳の時に父が亡くなった。有名な出来事だな。
母由起子と弓弦は周りがあんまり騒ぐから長崎に隠れたんじゃよな。」
「先生、あんまりべらべらしゃべると
この人たちに本当のこと喋れって攻められちゃうんだから。」
「ははははは。原田?お前に隠すことがあるのか?
別に隠さんでもいいじゃないか。仲間なんじゃろ?」
「先生。そのうちね。あたしがちゃんと自分を見つけたら
きっとそれが一番の仲間と一緒だってこと。」
「そっか。まぁ、原田がこれからを決めることだな。
わしが決めることじゃない。」
「先生。いつかまた来ますね。」
「あぁ。いつでも。」
6人と弓弦はまた車に乗り宿舎へ戻った。
誠は弓弦の生い立ちがどうであれ、弓弦は弓弦だとそう言った。
お前がだれであろうと、今は俺たち仲間の弓弦だと。
誠の言葉がうれしかったのか、誠の方にもたれてご機嫌な弓弦。
もう一台に乗り込んでいる彼らは弓弦自身からちゃんと聞こうと
夕飯の時にでも、きちんと説明をと話をしていた。
「さてと。」
「誠さん。いい音を聞けたっておもわないか?」
「あぁ。自分が変わりたくなる音だった。」
「俊哉たちもつれてくるべきだったな。」
「でもあれだ。弓弦さん。」
「何?」
「今日は飲みながらいろんな話を聞きたいかな。」
「?」
「今日は飲みながらでいい。弓弦さんの話せる事だけ話してほしいかな。」
「んだな。でも他の人に話してはいけないだろうから
他の人には話さないさ。」
食堂へ集まるそれぞれは、何も口には出さないが
神経は弓弦の方に向いていた。
C&Cの5人、誠たちと数人が残っている。
さっき出かけた時に翔太と悠太と秋山さんは帰ったのだ。
副社長も出かけているし、いるのは宿舎のスタッフと彼らだけ。
なんとなく弓弦はいろいろと聞かれるんだろうなぁと考え事をしている様子。
ごまかしたりしたらあとで収集つかなくなると困ると思い
聞かれることだけを話せばいいかぁと開き直った顔をする。
明日は朝一で長崎に飛ぶし、話せるところだけと。
「んぁ。美味しかった。これが沖縄で最後の食事だ。」
「明日朝一番機で俺と高跳びするんだもんな(笑)」
「ということは素直に8人と4人で呑もうか。」
「多分8人が先に酔いつぶれると思われ(笑)」
「だって4人は本職だもんな。つぶれはしないだろ?」
「つぶれたらおかしいだろ?(笑)」
「なぁ、今日は月夜できれいだから外で呑もうよ。」
「いいねぇ。自分たちで買い出ししに行く?」
「いや、呑んでしまわなきゃいけないビール部屋に持ってるだろ?
それ呑み上げようや。」
「いいねぇ。んじゃ、あまりものでおつまみ作ろう。」
スタッフが出て行った後の厨房に勝手に入り冷蔵庫を開け物色。
弓弦と誠と槙村でごそごそと作り始めた。
他の人はテーブルをセッティング。にぎやかになってきた。
ベランダの床に座れるようにクッションを集め
それぞれの部屋の冷蔵庫から、ビールを持ち出してきて何本あっただろう、
結構な数がテーブルに並ぶ。圭一郎が大きなバケツに氷を入れて持ってきた。
それにみんなで持ち出したビールを入れる。
「できたよ。」
「さぁさぁ、座って。」
「でさ。」
「でさ?」
「あのさ、弓弦さん。」
「なに?」
「んとさ、弓弦さんのことで俺らが知らなかったこと。
あの先生が話してた事。隠さないでさ、知りたいんだけど。」
「そのままさ。父が連盟会長の一人息子。会長の弟が指揮者。
あたしはその血筋ってことなだけ。
連盟の審査員っていうのは、本当だけどコンクールの時の審査しか
したことないんだ。大学の時からそうね5年間。
もちろん本職の仕事に差し障りがない活動だけね。」
「でも、それも経験とかいろんなものが関係して審査員になっていくんだろ?」
「そうみたいだ。だけど、こっちに来た時から呼び出されてさせられているのよね。」
「弓弦さんの音に対する考え方が、審査員としてふさわしいと思われているから
抜擢されているんだと思うし?」
「違うと思う。爺さんが手元に置きたいだけの話だと思うけど。
あまり父と爺さんとは仲が良くなかったらしいんだ。
父は、爺さんから離れたかったと聞いているし好きではなかったらしい。
だけど、あたしが生まれると爺さんはあたしにだけは優しかった。
息子も嫁もあまり好きではないが
お前は自分の血を濃く受け継いでくれている。
私はお前が一番だとそう言っていた。
もちろん、かわいがってくれた手前爺さんは嫌いではないし
むしろ自分のためにいろんなことをしてくれた人だと思いっている。」
「んじゃ、なんで爺さんのそばにいてあげないんだ?
弓弦さんは今は父も母もいない。
爺さんにしたら、一人息子のかわいい孫だ。手元に置きたいだろう。」
「でもあたしにしたら爺さんよりも父の方を尊敬しているし
爺さんよりも母の方を愛している。
そして爺さんの嫌いなあたしの母の兄弟の家族をあたしは心底愛している。
だから、あたしは爺さんの所にはいかない、いけないんだ。」
「同じ血のつながった家族なのに?」
「血がつながっていても、爺さんはこういうんだ。
`お前は女なんだからいつまでもそんなガサツな女ではいかん´と。」
「古いおっさんなんだなぁ。」
「でもさ、あたし自身こうやって西村さんと一緒に
音楽に触れているそれだけで幸せだし誠さんや貴志や真志も俊哉も同じだけど
今の仕事仲間を一緒に人と触れ合う仕事をできるというのが
あたしにとっての今の一番幸せなことなんだ。」
「お前さ、お前も自分の意志は曲げないやつだからかもな。」
「あたしは頑固者(笑)それも爺さんの血筋だって。」
「弓弦さんはさ、今の自分は好き?」
「あぁ、大好きだし大嫌いでも(笑)」
「なんでさ。」
「女にもなれないし男にもなれないから。」
「でも弓弦としての人間は大好きなんだろ?」
「そうだなぁ。その辺は自分が愛しいぐらい大好き。」
「ナルシストだよな弓弦は。」
「いつでも自分と自分の大切に思う家族が一番さ。」
「明日は俺と丸一日一緒だけど、長崎に行ったらどうするの?」
「最初に行ったとおり恩師に挨拶。それが一番の目的だし。」
「で?」
「ぶらぶら。」
「夜は?」
「飲み屋街の知り合いの所をぶらぶら。」
「夜中は?」
「飲み歩きぶらぶら。」
「朝まで?」
「朝まで(笑)」
「いつ寝るのさ。」
「槙村さんが寝着いてから、起きる寸前まで。と、飛行機の中。」
「俺の前では寝ないつもりなのか?」
「寝たら襲われる(笑)」
「翔太は襲わなかったもんなぁ。偉いよあいつ(笑)」
「翔太君の時はあたしが看病される対象で起きたら翔太君寝てたし。
でもさ、翔太君寝顔可愛い。かわいすぎて思わず抱きしめちゃったわ。
あんな可愛い弟がほしいなぁ。しかも3つも上だとは信じられない。」
「翔太は完全に弟範疇だな(笑)」
「槙村は用心されているということは
弓弦さんのどこか女な部分が男と意識してるのか?」
「わかんないけど、どこかで危ないぞってささやかれてるっていうか。」
「圭一郎だってそうだろ?お前、俺の事ばっかり言うんじゃねぇぜ。」
「あたしの今までの中で二人で安心した夜を過ごしたのは誰もいないんじゃない?」
「俺とあるじゃん。二晩も。俺何にも手出しもせずに横に居ただけじゃん。」
「そうだったっけ?」
「それも弓弦さん、寝息立てて寝てたし。」
「そりゃ、安心して寝れたってことだよなぁ。それは一歩リードしてるんじゃね?」
「ん・・・・・でもそれが誠さんでも寝てるかも。いびきかきながらさ(笑)」
「貴志は絶対襲うな。kissだけじゃ終わらんぜ?あいつは。」
「俊哉はかわいすぎて翔太君と同じ扱いかも(笑)」
「つまんないなぁ。でも逆に襲われたりして(笑)」
「俊哉。あたしから襲われたいんだ?」
「俺もそれ立候補する(笑)」
「圭一郎さんはだめよ。槙村さんも。」
「つまり、西村さんと対等に渡り合える人は誠さんだけか。」
「あははははは。どうだろうなぁ。」
「槙村、明日は大きな賭けだなぁ。」
「頑張っちゃおうっと、誠さん応援お願いね(笑)」
「弓弦。お前も人生の分かれ道だぜ?」
「一人で行こうかな。まだそんなこと考えたくないし。」
「でもさぁ。弓弦さん。」
「何さ。」
「煙草をやめること真剣に考えなよ。貧血には大敵だ。
自分のことを愛しく思うなら煙草はやめな。」
「そうだなぁ。俺もそう思うなぁ。」
「やだ、誠さんまで。誠さんも煙草こよなく愛する人でしょ?
あたしも一緒なのに。」
「俺もそう言われると、かなり無理な話だと思うが、とりあえず他人事だ(笑)」
「弓弦さんが煙草やめるのはどれぐらいかかるかなぁ。」
「なんでさ。やめるつもりはそうそうないけど?」
「やめないの?やめようよ。」
「ねぇ。おつまみ減ったけど作ろうか?」
「弓弦さんしか女性がいないからお願いできるかな?」
「こんな時ばっかり(笑)」
「もうちょっと作るかな。」
「頑張れ、俺は厚焼き卵がほしい。」
「誠さんは卵焼き好きよね。」
「弓弦の厚焼きはうまいもんな。」
「俺食べたことない。」
「僕もないですけど?なんで誠さんだけ?」
「たまたまさ、たまたまひかりちゃんに渡す弁当を
渡せずにそのまま持ってきたことがあってさ」
「それ食べたんだ、誠さん。」
「おいしかったぞ。鰆の西京焼とか、鶏の焼き物とか
あれ。あの梅干は弓弦自分でつけてたんだよな?」
「はちみつ梅か?あれは毎年恒例の庭でできた梅を漬けるんだ。」
「僕知ってます。弓弦さんのうちの庭、きれいな梅が咲きますよね。」
「俊哉は一度来たことあるもんな。」
「俺もお邪魔してみたいけど(笑)」
「弓弦さんの料理ってうまいんですか?誠さん。」
「弁当とはいえ、ご飯うまいぞ。あれはいい嫁になるはずなんだが。」
「嫁に変化してくれるといいんだろうけどね本当に。」
「それが誰の所で嫁に変化するかどうかだな。」
「それ競い合うと、大変そうだなぁ。」
「あれは一筋縄じゃすまないだろうしな(笑)」
「お待たせ。卵あるだけ使ったけどよかったかなぁ?」
「まさか全部?」
「あと10個1パックあったっけな?」
「それとソーセージあったからボイルしたけど?」
「ナイスだナイス!俊哉、冷蔵庫からマスタードとって!」
「人使い荒いなぁ(笑)」
「あとさ、もやしがあったからナムルつくったけどどぉ?」
「なんだかいろいろ出てくるなぁ。冷蔵庫がドラえもんのぽっけみたいだな。」
「弓弦、お前明日の朝飯のを使い切ってしまってるんじゃないだろうな?」
「大丈夫じゃない?どうせ明日の朝はそんなに人数いないし。」
「て言うか、美味しいんですけど弓弦さん。」
「だろ?」
「おいしい?本当に?褒められたことないんですけど?」
「俺がいつも褒めてあげてるじゃん。」
「たまにでしょう、たまに。」
「たまにさ、余ったからって弓弦が弁当作ってくれるのさ。
それが楽しみなところもあるうだけど、ひかりちゃんのついでなんだもんな。」
「俺のために作ってくれよなぁ、弓弦さん。」
「日の丸じゃだめか?」
「だめでしょう。俺のためにだもん。」
「んじゃ当分無理かもね。時間あわないし。」
「これ帰ってから、チャリティー終わらせるだろ?
で、休みなく頑張った代わりのやつらに休みだろ?
9月に入ったら少しは自分の時間出来るなぁ。誠さん釣りでも行く?」
「5月の終わりに行ったばっかりだなぁ。おっさんも誘ってみるか。」
「それ俺も行きたい。」
「槙村さん釣りできるの?」
「さぁ。(笑)」
「眠いな。」
「眠い人手を挙げてぇ。」
「多いなぁ。寝るか?」
「んじゃこのまま部屋の中で雑魚寝する?」
「いいねぇ。んじゃ俺弓弦さんの隣で。」
「んじゃ、あたし誠さんの横で(笑)」
「俺でいいのか?弓弦。」
「この場は誠さんで。」
「なんだ都合いいなぁ。」
なんだかんだと騒ぎながらも、みんな集まりブランケットを取り合いながら
それぞれを枕にして寝はじめた。
弓弦と誠は眠れずに、こそこそと話をしている。
横で槙村がいびきをかいているのに。
「なぁ。」
「なんだ。」
「寝てた?」
「寝れるはずないだろ?こんなに大勢で。」
「だよね、隣りでうるさいし。」
「そうだな。」
「誠さん暖かいな。」
「俺は暑いぞ(笑)」
「なんか慕われてるね。」
「悠太か?」
「うん。まるでお兄ちゃんにくっついてる甘えん坊の弟みたい。」
「そっか?でも翔太もそうじゃないのか?」
「なんで?」
「なんだかこの間から弓弦の後を追いかけてるみたいだ。」
「そうだね、年上なのになんだかかわいい弟みたい。」
「俺らには今回ので弟ができたんだな。一人じゃない。」
「だね。でもはじめっから誠さんは一人じゃないじゃん。」
「弓弦っていう手のかかるのが横にいるしな(笑)」
「またっ(笑)」
「そういえばさ、お前槙村さん。」
「槙村さんがどうしたのさ。」
「お前は槙村のことをどう思ってるんだ?」
「え?こんな横にいるのに今聞く?」
「寝てんだろ、スーピースーピー寝息立ててるし、起きちゃぁいないぞ。」
「でも起きたらはずいし。」
「どう思ってるんだ?」
「難しいなぁ。でもさ、西村さんとは別。別なんだよね。
友人としてはぴか一なんだろうけど、人生をとなると難しいかな。
あたしとは合わない気がする。」
「そうか?あいつはお前にとってかけがえのない存在になると思うぞ?
あんなに真剣にお前と面と向かって話をする人間は西村さん以外ではあいつだけだぞ?」
「そうかもしれない。だけど、違うってそう聞こえる。
あたしの中で誰かがあいつは違うってそういうんだ。」
「あてにはならないだろう?それがどういう意味なのか自分でもわからないままなんだろ?」
「そうなんだけどね。でもさ誠さん。」
「なんだ?」
「あたし男と女を意識したくない。」
「なんでだ?弓弦は25だったよな。そのぐらいの年だと普通なんじゃないのか?考えること。」
「どうだろう。高校の時のことがきっかけでさ自分が女なことを考えたくなくなったんだよね。」
「何があったんだ?」
「ん・・・・・・。誠さんには話さないといけないことが二つあるんだけど
落ち着いて聞ける?」
「今か?」
「今は無理。向こうに帰ってから話そうかな。」
「今聞きたい気もするが(笑)」
「誰が起きて耳を澄ましているかわかんないからね。」
「んだな。」
「さぁ、寝よう。眠くなってきた。
誠さん、暖かい・・・・暖かくて安心して腕に絡まって寝れる。」
「そっか、そうだな。俺も眠い。眠らないと明日がきついか。」
「お休み、誠兄さん(笑)」
「お休み、弓弦。」
そういって雑魚寝しているその部屋。
窓から見える沖縄の星空は、満天の星。
その満天の星空のもと、静かな夜が過ぎていく。
早く起きたのが数人いた。弓弦と、誠。
そして一緒に長崎に向かう槙村と圭一郎。
圭一郎にけり起こされた元原と、誠に起こされた俊哉と真志。
スタッフの人も出勤すると食堂がぐちゃぐちゃで、そこに集まって寝ている
その様子を見て笑っていた。
「みんな、なんでくまんかい居るばー? ひーさんかったはじやさ。
(なんで皆さんここにおられるんですか?寒かったでしょうに。)」
「酔っぱらってて何が何だか(笑)」
「大宮さんやー、うきてくみそーり。くま片づきらんねー、ぬーん始まらんさー。
(大宮さん?起きてください、ここを片づけないと何もできません。)」
「あ。そうそう、夜におつまみを作ったので冷蔵庫のを使いましたが
大丈夫ですか?朝ごはんは数人分と思ったのですこし。」
「あら。たーが使みそーちゃんでぃ?
(あら。誰が使われたのですか?)」
「あたしです。すみません、中を見て早く足が来そうなものから使いました。」
「あー、原田さんね。でも上手に使ってるさー。全然大丈夫よ。
こんなにきれいに使ってくれて、にふぇーでーびる。
残っとーる材料で作れば、午後の分の買い出しにもちゃんと行けるし、
もっといい食材も仕入れられるさー。
(あぁ、えっと原田様。でも上手に使っちゃいましたね。全然大丈夫です。
こんなにきれいに使ってくださってありがとうございます。
後の残りを使って作ると午後の分、きちんと買い出しに行けるし、
いい食材を仕入れれるわ。)」
「あたしシャワー浴びてくる。時間あるよね?」
「まだ5時過ぎたところだ。大丈夫。
でも6時前には出るけど?弓弦さんゆっくりはできないが大丈夫?」
「槙村さんは?」
「大丈夫さ、リーダー送ってくれるだろ?空港まで。」
「あぁ、いいよ。早く準備して来いさ。」
「車はどれに荷物のせたらいい?」
「ノアに乗せてよ。」
弓弦の荷物は、自宅宛にコンビニから送ってあったから
あとは長崎に行って帰る分の着替えのみの荷物。
槙村も同じように送ってあるからほぼ手ぶら状態。
誠はあぁ言う所、気があってるんだろうけどなと思って後姿を見ている。
そして、少し弓弦が変わったところを発見した。
この槙村たちがそばにいても、自分たちと話しをしているときのように
あまり警戒していないような気がしたのだ。
自然に圭一郎にも笑顔が出ている。誠は、来てよかったと言えると思った。
明日の午後には顔を合わせる弓弦だけど、長崎に行き槙村とどんな時間を過ごすのか
良い時間になるといいと、そう素直に思いながら眺めていた。
「誠さん?どうかした?」
「お前ここに来てから自然な態度でみんなに接しているなぁって。」
「なんでだろうな。自分でもわからないけど、言葉が汚くなくなってるかな?」
「あぁ。弓弦の言葉になってると思うよ?」
「帰ったら元に戻るかも。」
「このままでいいんじゃない?無理せず自然体で。
俺は自然なままの弓弦が大好きだけどな。」
「それ言われると、困っちゃうな。」
「とりあえず、時間がない。明日な」
「あぁ。また明日。行ってくる。」
二人を乗せた車が宿舎を出て空港に向かう。
朝の一番好いている時間で移動したので一時間もかからずに行けた。
6時前に出れたのが幸いだったのか到着したのは7時前。
「大宮さん、ありがとうございました。明日午後には槙村さんをお返ししますから。」
「返さなくてもいいんだけど、返してくれるんだ。」
「のしつけてでも返しますって(笑)」
「俺って立場どこ行った?」
「あははははは。弓弦さん、頑張ってね。」
「リーダー、とりあえずもう少し近づけるように頑張るさ。」
「では、行ってきます。今度は東京で。」
「あぁ。行ってらっしゃい。」
見送られ二人は飛行機に乗る。槙村はご機嫌。
そんな槙村を見ている弓弦は、前みたいに不機嫌ではないらしい。
席に着くと窓際に弓弦が座り、その隣に槙村が座る。
来る時に見せていた顔とは違い、手にしている本を読んでいる顔は
無愛想ではなく、普通の顔。たぶん見たことのある顔だけど、
二人でいるときには見せてくれない顔というか
槙村自身は少しうれしい感触だった。
弓弦は、前みたいに槙村さんを警戒することもないと普段通りにしていれば
この人は自分にプラスになる人かもしれないとそう感じていた。
9日間一緒に居て、あんなに貧血ぐらいで心配してくれたり
自分たちのことであんなに真剣に教えてくれたりして
なんにでも真剣に答えてくれる人なんだと。
だから、自分のことを話したり恩師に合わせたりしたんだと自分でも思ったのだ。
でもまさか笹原先生が自分のことを話ししてしまうとは
そう思ってはいなかった分、ちょっと照れくさい部分もあった。
「なぁ、弓弦さん。」
「なんですか?槙村さん。」
「あのさ、槙村さんって呼びにくくない?」
「普通じゃないですか?名前呼ばないと失礼でしょう?(笑)」
「友達ならさ名前`渉´って呼んでくれるとなんとなく・・・・。」
「そうですか?でも弓弦さんって呼ばれるのもちょっと。」
「んじゃ、なんて呼べばいい?」
「弓弦って呼び捨てに。」
「いいの?呼び捨てていいの?」
「だって、みんな弓弦って呼ぶし。」
「俺のことは?」
「槙村さんでしょう。だって存在する場所が違いすぎるし。」
「プライベートでは呼んだっていいじゃん。」
「店や他の誰かが一緒の時や普段は呼び捨てにはできないでしょ。」
「んじゃ?」
「今回のこういう集まるときには遠慮なく渉さんって呼ばさせて
いただきますよ。しっかりとしたプライベートな時間の時は。」
「なんとなく弓弦さんの気持ちの中での俺の立ち位置が変わった?」
「変わったかなぁ。わかんないけど(笑)」
「んじゃ、長崎が楽しみになってきた。」
「でも槙村さんは有名な人なんだから、一応気を付けてよ?」
「弓弦さん強いから安心しているけど。」
「レンタカー借りて乗りこむまでは囲まれて危ないんですから
自分でも気を付けてくださいね?あたし知りませんよ?」
「楽しみだなぁ。弓弦の長崎の恩師の所もつれてってもらえるんだもんな。」
「何を期待しているの?」
「だって恩師だろ?親と同じものじゃ?俺紹介してくれるんでしょう?」
「なんで紹介するのさ。」
「なんでって付いて行けばこの人はって聞かれるっしょ。」
「聞かれたら答えるけど、聞かれなかったらそこまでじゃん。」
「ちゃんと友達ですでもいいから紹介はしろよ(笑)」
「友人の槙村さんですってね。」
「友人かぁ、なんとなくまだ不満だ。」
「だって友人でしょう?違うの?」
「ったく。今日はそういうことにしておこう。」
「いやいや、そういうことなんですって。」
「着陸だ。福岡着いたよ。」
「あぁ、弓弦が運転するの?」
「そうだなぁ、そのほうがいいんじゃないか?」
「九州道は走ったことないからな。」
「んじゃ、あたしが。」
福岡空港についた後、長崎の営業所で返せるレンタカーをと探し借りる。
久しぶりの長崎、九州道を西へ向かった。
運転する弓弦の横顔を見るのは久しぶりな槙村。
「なぁ、弓弦・・・・さん。」
「さん付けいらないですって(笑)」
「弓弦。長崎で泊まるところは?」
「銅座のワシントンホテルで取ったけど?」
「いや、部屋さ。」
「約束通り一部屋だけとった。」
「まじで????」
「ダブルじゃなくってツインだけど。それでいいでしょ?」
「なんだ。ツインか。ちょっと期待しちゃったよ。」
「槙村さんを信じてツインなんだからね?」
「そっかそっか。信じてもらえるって少しは進歩したんだ。」
「そうかも。でもこれ以後はこういうことなしね。」
弓弦の横顔は笑っている。
なしだと言いながらも、笑って前を向いている弓弦の顔が
槙村に対しては柔らかい表情なのがうれしかったのだ。
でもその弓弦の運転は男の運転だ。こいつはと車のシートベルトを
つかんで助手席に乗っていた。
「弓弦。なぁ、弓弦。」
「なんっすか?」
「お前の運転怖いって。」
「なんで?」
「お前さ、なんで合流地点でスピード上げるのさ。こえぇじゃん」
「そぉ?結構福岡の人ってさ80k制限なのに
120〜140ぐらいで走ってるんだよね。
そこにのろのろと80kにも満たないスピードで合流しようとすると
事故になるからさ、合わせないとね。」
「そんなもんなの?横に居ると怖いよ?それって。」
「あはは、考えたことなかった。いつも120k平均で走ってるしさ
この分だと11時には長崎につくよ。」
「とりあえず荷物もあるし先にチェックインしないか?」
「そうだね。荷物置いてそれからでも十分だし。」
「どこに連れてってくれる?」
「12:30からお昼休みだからまず学校。」
「でも、長くはそこにはいないだろう?午後の授業が始まる。」
「どこに行きたい?」
「西村さんや弓弦はこっちにいた時、どんなところに行ってたんだ?」
「あちこち。弁天白浜という浜や軍艦島が見える野母崎。
それとか・・・・・。」
「なぁ、次のパーキングで停まらない?ちとトイレ行きたいんだけど。」
「あぁ、ごめん。気づかなくて。いつも長崎福岡間は
ノンストップで運転してたからさ。」
「次の次だと金立だからスタバもあるけどどぉ?」
「んじゃそこで。」
「行ってる間にコーヒー買っておくから。」
「おっけ。」
金立のパーキングエリアにつくと、槙村はそそくさと車を降りて行った。
弓弦は荷物から財布を取出し、スタバに。
いつもの柚&緑茶の一番大きいやつとチョコチャンククッキー。
槙村の分はと、考えたが浮かばない。
夏だし暑いからアイスコーヒーでいいかなぁと思ったのか
それの大きいのを一つと同じチョコチャンククッキーと。
まだ車に戻ってきていない槙村だが、戻ってくるだろうと。
そのうちと思い弓弦はそれを持ち、表のテーブル席にいた。
暑いのに、なんで外?って店員は思ったのだろう、
いったん外の席に座った弓弦に声をかけたが、すぐ連れが戻るのでと
そう店員に言った。店員は見かけと声が気になったのか
店内に戻ると冷たいタオルを持ち、これをどうぞと差し出した。
するとそこに槙村が来たために店員にびっくりされその場は大騒ぎ。
やばいと思い弓弦と槙村はコーヒーを持つと止めてあった車に乗り込み、パーキングを後にした。
「びっくりした。」
「渉さんがサングラス外して近寄るからじゃん。
あれだけ気を付けてって言ってたのに。」
「弓弦だってなんで帽子かぶってなかったのさ。
店員がmartinの翔太だって叫んじゃったじゃん」
「お互い様か(笑)」
「これから、長崎までどれぐらい?」
「一時間ぐらいかな?つかまらなければ(笑)」
「おいおい、つかまるって弓弦お願いだからやめてくれ。」
「あははははは、もしかして槙村さん怖がりなんだ。」
「ジェットコースターもだめだめ。怖いもん。」
「うっそ。あたし大好き。あのスリルたまんないもんなぁ。」
「お前とデートできねぇじゃん。」
「デートするつもりだったんだ。」
「ディズニーランドとかデートらしい所に誘い出そうと思ってたけど
それって一番嫌いなパターンだったりして?」
「そうだなぁ。それは一番苦手かも。一番今までで楽しと思ったのは、
西村さんと東京から北海道までバイクで走り回ったことかな。」
「やっぱり西村さんかぁ。」
「なんで?」
「なぁ、正直に西村さんと弓弦は付き合ってないのか?」
「ないない。隠してどうするのさ。」
「なら、俺がもし弓弦にプロポーズしても誰も怒らないということか?」
「それは難しいかもね。ちゃんと順を踏んでもらわないと。
でも、今は誰とも付き合うとかそういうのに縛られたくない。」
「そういうところは全く持って男なんだよな。」
「あはは、渉さん。いつの日か何かしらの答えが出るさ。」
「俺、待てねぇ(笑)」
そういっていると、嬉野の3トンネルを過ぎ東彼杵のICをこえ
大村を過ぎ諫早まで来た。
「あと30分かからないで長崎市街地に入るから。」
「んじゃ、すぐだな。」
「長崎港メディカルセンターの横に出てくるんだけど、ワシントンまでは5分もかからないから。」
「おっけ。荷物置いて学校だ。」
「ちゃんと帽子とサングラスね。」
「わかってるって。」
市内に入りワシントンホテルに到着。チェックイン後、部屋に案内された。
部屋には二人きり。窓際に行くと懐かしい長崎の街並み。
久しぶりだなと、眺めていると槙村が近づく。
「長崎の町ってすごく建物がひしめきあっているんだな。
そばに海があり山があり建物があって電車がその間を縫うように走る。」
「そんなごみごみとした街で育った。」
一緒にその窓から長崎の町を見渡す。
そして時間を気にしている弓弦は槙村に声をかけ高校に行くことを告げた。
「これから行くけど、一緒に来る?」
「おぅ。ここからどれぐらい?」
「車でも20分あればつくかな。」
「まだ12時前だぞ?」
「ゆっくりと行きたいしと思って。」
「ゆっくりというだけの余裕はあるんだ。」
そういって窓から離れようとする弓弦の腕をつかみ、引き寄せた。
槙村は逃げられないように腕をつかみしっかりと抱きこんだ。
弓弦の顔が槙村の胸に沈む。弓弦はその腕から逃れようともがくが
やはり男の力に勝てるはずもなくただ胸に顔をうずめるしかなかった。
「苦しいって。痛いって、槙村さん。」
「なぁ、弓弦。」
「ねぇ、痛い。」
「弓弦。」
そういって弓弦が槙村を見あげた瞬間弓弦が何も言えないように口をふさいだ。
びっくりして目を見開く弓弦だが、槙村は口をふさいだまま目を閉じている。
きつく抱きしめていた槙村の腕は解かれても弓弦は動けない。
槙村は、その右手を弓弦の腰に落としていく。
左手は頭の後ろにもっていき、逃げれないように。
長い長いkissは目を閉じたまま続く。
ふと槙村が離れると、弓弦の頬に涙が流れていた。
「弓弦。俺・・・・。」
「なんで?なんでなの?」
「弓弦。俺お前が大切なんだだから離したくない。誰にも渡したくない。
お前が誰であろうと、どんな人生を歩んできているとしても
俺は知り合った時のままの弓弦が大切なんだ。」
「・・・・・・・・・・。」
「答えなくていい。俺は弓弦と離れたくない。
これは何があっても変わらない俺の気持ちだ。」
「あたし、その気持ちにこたえなければならなくなる?」
「今は答えなくても俺は構わない。」
「でもいつかは。」
「そんなことを考えてたら明日が見えない。俺には今の時間が大切なんだ。」
そういうとまた弓弦を抱きしめkissをする槙村。
そんな槙村に抵抗もしなくなって弓弦は自分でもどうしたんだろうと。
受け入れたというわけではない。だけど槙村のそのまっすぐな気持ちから
逃げることができなかった弓弦。
抱き合いベッドにもつれ込む二人、kissしながらもつれ込むが
12時を回るチャイムが鳴ると我に返りすっと離れた。
「時間。もう行かないと。」
「弓弦。」
「一緒に行く?」
「おぅ、いいの?一緒に。」
「ここに一人でいてもつまんないでしょ?」
「そうだけど。」
「でも、もうkissはだめ。お願いだからやめて。」
「なんでさ、好きな人になら誰だってすることじゃないか。」
「まだ女に戻りたくない。恐怖がよみがえる。だから嫌。」
「せめて、俺の前では自然体の弓弦でいて欲しいんだけど。」
「いつだって自然な態度よ。」
「さぁ、行こう。時間が無くなる。」
そういうと部屋を後にして学校へ向かった。
先生たちのお昼休みは少ししかないため急がないとと。
そして学校につく。
正面玄関のある校門をくぐると校舎の向こう側からにぎやかな声が聞こえる。
夏休み中とはいえ、多くの生徒は補習を受けたり部活で学校に居たりしているのだ。
「あの、すみません。」
そう声をかける。すると、おばさんが出てきた。
「あの、電話を入れていた・・・・・。」
「あら。原田さんじゃない?髪を短くしてるからわかんなかったわ。」
「あ、そうです。覚えていたんですか?あたしの事。」
「えぇえぇ、山口先生ね。ちょっと待ってて。」
《お呼び出しを申し上げます。
吹奏楽部の山口先生、吹奏楽部の山口先生お客様がお待ちです。
急いで応接室までお越しください。》
するとバタバタバタバタと一人ではない足音が廊下に響かせながら近づいてきた。
「しずかにしてくださいな、山口先生。」
「しずかにしてって無理ですって(笑)」
「あら、岩崎先生と大塚先生まで。」
「だって原田先輩ですよ?誰だって知ってれば走ってきますって。」
「で、お連れの方は?」
「初めまして友人の・・・。」
「原田、お前いつの間に男の友人ができた?」
「初めまして、槙村と言います。」
「C&Cの槙村さんですよね。」
「あぁ、よく御存じで。」
「原田、お前はやっぱり顔が広いな。」
「そんなことないですって。
でもこの髪型にしたら一気に知り合いが増えた気がしますけど。」
「だってねぇ、大塚先生。Martinの翔太にそっくりなんだもん。
誰も放置しませんってね。」
「そうそう、そんなんじゃ誰もほったらかしになんてできません。」
「でももう飽きた。伸ばす。また腰のあたりまで伸ばす。」
「それは女に変化するということ?それだとうれしいけど。」
「原田はどっちでもいいんだよな、どっちに見られても
自分を認めてくれさえすりゃ、それでいいんだもんな。」
「先生(笑)」
「でもお前が一番手がかかったなぁ。」
「あの人が悪いんですよあの人が。」
「お前自身、かなり元気になったみたいだが」
「大丈夫だって、先生。そのこと話した人いますもん。」
「人に話せるまでになったか。」
「でもまだねぇ。ちょっと。」
「でも痛みを共有することができるようになるとお前自身が変わる。」
「あははははは、先生。もう25ですよ?」
「岩崎さんも大塚さんもいるんだし、いつまでも生徒扱いされると
恥ずかしいんですけど?」
「なぁ、槙村さんとやら。」
「はい、なんでしょうか?」
「原田を頼みますよ。こいつは手ごわいんです。そして、我儘で頑固で融通が利かない。
でも甘えん坊で泣き虫でさみしがり屋でかわいいんです。
私にはかわいすぎる大切な娘みたいなもので。」
「皆さんそう言ってかわいがられてますよね、弓弦を」
「そして一番かわいそうな高校時代を送らせてしまった。槙村さんはご存じかね。」
「えぇ。」
「この岩崎も大塚も知っている。みんなで代わりばんこに看病して
テストも病院のベッドで受けさせた。
私が体調を崩さなければ、あの先生も原田とは出会わなかったはずなんだ。
あの事件は私が悪い。」
「先生のせいじゃない。あれは危険と知ってて遊んだあたしがいけない。
悪いのはあたしなんだ。先生は悪くない。」
「誰が悪くもないさ、たまたまそういう運命だっただけのこと。
長崎人はみんな自分が悪いと言う所から話しが始まる、
よくない人間性だな。」
「よく人のことを見通している人だな。
こういう人は大切にしないといけないぞ原田。」
「そうなの?槙村さん。」
「んだな、大切にしてほしいけどな。しないんだろうなぁ。」
「わかんない、わかんないけど槙村さんのこれからの心遣いによるとんじゃない?」
「それって俺にも希望ありということか。頑張ろうかな。」
「お前西村とはどうなってるんだ?」
「どうなってるってどうもなってないですよ。
あんなすごい人彼氏とか旦那だったらファンに殺される。」
「お前だとファンも納得すると思うがな」
「年齢は関係ないぞ?」
「そんなに西村さんを押したら俺どうしたらいいんっすか?(笑)」
「その時はこの岩崎がいる。かわいいだろ?どうだ?(笑)」
「あたしが?槙村さんに失礼ですよ(笑)」
「俺どう答えたらいいんっすか(笑)」
「それはそうと、時間は?先生。」
「そうだな、長々と話していると時間忘れてしまう。」
「また、時間が取れたらゆっくり帰ってきます、先生。」
「来月は西村が帰ってくると連絡してきたぞ。本当かどうかわからんが(笑)」
「そうなんですか?帰ったら聞いてみます。」
「弓弦は幸せな長崎時代だったんじゃないですか。
事件はあっただろうけど、たくさんのいい仲間に囲まれて
良い時間を過ごしたんですねぇ。安心しました。」
「そう思えるかね。よかったなぁ、こういう人と巡り合えたお前は。」
「そうなんですかねぇ。とりあえず、
この人とはいい友人関係ではいたいとは思っていますけどね。」
「さぁ、時間が無くなる。原田、また帰ってこい。ゆっくりと。
さしで呑みにいこじゃないか。」
「えぇ。こんな急でなかったら行けたんですけど。」
「いつでも会える。いつでも帰ってこれる。」
「先生も無理しないでください。では、また。」
笑顔で後にした弓弦。車に乗り込むと、槙村は気が付いた。
弓弦が泣いている。黙って、涙を流していた。
「運転変わろう。ホテルに戻るか?」
「いや、戻っても時間があり過ぎて。」
「んじゃどこか行くか?」
「ナビにバイオパークって入れると場所が出るからそこ行こう。」
「何?バイオパーク?」
「そう。あそこが一番癒される。」
「そか。」
車のナビに弓弦が言った場所を入力するとすぐ出た。
その通りに進む。途中コーヒーを買いに寄り道をしたが
サングラスと帽子だけではすぐ槙村とばれてしまう。
長崎市内からは一時間半ほどで着くバイオパーク。
午後からは雲一つなく晴れ渡り、むしろこんな時にって暑さだった。
暑い夏だから人が少なくて、ゆっくりと動物たちに触れられると言って
弓弦は車を降りると、まっすぐにチケットを買いに行き
槙村と一緒に園に入っていった。
目の前にはクモザルの池。少し小さめの池の真ん中には
クモザルの座る大ぶりの枝の木が植えてありそこにいる。
人が来ると餌を欲しがるのか細く黒く長い手を、大きく動かす。
弓弦はかってしったる何とかで、その餌の入ったカプセルを
槙村の分と数個買ってきて、一緒に投げて遊んだ。
ちゃんとキャッチするんだっていって、早く投げたり大きく弧を描くように投げたり
さっきまで泣いてた弓弦がまぶしい笑顔を見せながら
それを投げ、うれしそうにしている。
槙村はそのころころ変わる表情がすごくおかしくて
でも、弓弦が幸せそうに笑うからと一緒にはしゃぐ。
「この階段を上がるとさ、熱帯ドームでさ植物もみんなきれいなんだ。」
「へぇ。何度も?。」
「えぇ。何度も何度も。あきれるぐらいに。」
「そういう話しもしてくれるんだ。」
「どうだろうね。ここにはたくさんの人と来た。
いろんな事を話しした槙村さんだもの、
ここのことを話したって何にも気にしないさ。」
「どんなことだろう・・・・あまり気が進まないけど」
「この熱帯館はさ、きれいなんだ。暑いけど、きれい。
亜熱帯の植物や果物。運がいいとスターフルーツっていう
南国の果物が取れるんだけど、管理している人が取ってくれるんだ。」
「おいしいの?それ。」
「すごくおいしい、瑞々しくって甘酸っぱくって。切ると星の形しているんだ。」
「へぇ。」
「その中で飼われているオニオオハシもきれい。天然色の羽が舞い落ちる。
鳥が飛んでいるラインに手を伸ばすと、たまに手に乗ってくれて
人間の顔を見つめる、すごく不思議そうな顔をして。
`あなたはだぁれ´って顔をしてさ。」
「へぇ。でも俺はあまりそういう生き物に好かれてないんだろうな。
こうやって歩いていてもちっとも飛んでこない。」
「そうだねぇ(笑)ほら、そっちの葉影を覗いてよ。」
「ここ?」
「蝙蝠が寝てるよ。小さくてふわふわして可愛いの。
ここのはここになる果物を主食としているんだって。」
「へぇ、て言うか顔をよく見るとかわいいなぁ。手のひらサイズだ(笑)」
「あっちに行こう。外に出れるから。」
「あぁ」
「疲れてない?」
「大丈夫、て言うかやっぱり暑いから人が少ないな。騒がれずに済むからいいけどさ。」
「これからは上り下りで忙しいけど?」
「んじゃ、手をつないでほしいな。」
「なんでさ、恥ずかしい。男と男が手をつないでるって思われる。」
「そうは見えないさ。大体男同士じゃこねぇだろ?」
「そっかぁ。」
「なぁ、弓弦。ちょっと待てさ。」
「ねぇ、猿だよ猿。あはははははは、この子肩乗りだ。」
「餌は?えさ。」
「あそこのがちゃがちゃのカプセルの中身が餌なんだけど1個100円ね。」
「おぅ。何個いる?」
「何個も握れないさ。2個でいいよ2個で。」
そういって槙村が2個買って近づいてくると猿までが寄って来た。
10頭以上いるのだろうか。頭や肩に乗って、それをくれと寄ってくる猿たちに
もみくちゃにされる二人。それが楽しいのか二人でカプセルを一つづつもち
開ける・・・・開ける・・・・槙村が大きな声を出した。
あまりにもそのカプセルの中に入っていた猿のえさが、予想外だったため
槙村はびっくりして落とした。中身を争うように猿が飛びついて大騒ぎ。
それを見ていた弓弦はおかしくておかしくて、
自分の分の餌をあげると激しくおなかを抱えて笑った。
そんな弓弦の笑顔を見ると怒るにも怒れず微妙な顔をする槙村。
その猿の集まる木々の場所を過ぎると、小さな池に大きな氷を置いてある。
「ペンギンのために氷が置いてあるんだ。」
「だって夏だもん。」
「そうあっさりと答える?」
「なんで?」
「俺らも汗がすごい(笑)」
「ちょっとここで休憩?ペンギンと一緒に(笑)」
「あの箱の中からこっち見てるぜ。」
「ペンギンにしたらこっちがおかしいんだよな。多分。」
「なぁ、こっちの日陰に座ろう。」
「そこ?休憩に?」
「こっち来いって。」
ベンチに座ってくつろいでいる槙村の横にいくと、腕を引っ張られ
ベンチに腰を下ろさせられてしまった弓弦。
涼しい風が吹いてくるこのベンチ。
ペンギンが顔を出しているところの写真を撮ろうと携帯を取り出す。
「弓弦。撮ってやろうか?」
「あぁ、いい?」
「んじゃ。」
そういうと弓弦の携帯を預かると、ペンギンを後ろに弓弦を撮る。
翔太たちが取っていた写真とは違うが、いい笑顔。
ちゃんとペンギンが映りこむように構えてまた撮る。
「撮れた?」
「あぁ。これでいい?」
「うんうん、ありがとう。」
次に進もうと立ち上がると、目の前には階段が。
まだ登り口だもんなぁと話しながら、次の動物は?と探しながら歩く。
「臭いなぁ。」
「臭いね、夏だから余計に臭いのかも。」
そう話をしながら登りきる途中、フラミンゴの池についた。
小さいグループだけど、並んでいるフラミンゴはすごくきれいだと、
弓弦が喜んで携帯で撮っている。
「弓弦。携帯のメモリー大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。このスマホ16メガのが入ってるから。」
「万が一は俺の携帯で撮るといいさ。」
「ありがとう。万が一の時はね(笑)」
ひと時フラミンゴを楽しむと、また少し移動した。
すると、正面から白い集団が襲い掛かる。
槙村たちが登って来た道の途中で、ヒヨコが歩いていたので
二人可愛いねぇとしゃがんでそのヒヨコを触っていると
正面から白いあひるの集団がガヤガヤ騒ぎながら向かってきた。
それも猛スピードで。びっくりして立ち上がると、
あひるから逃げるように、走って逃げた。
汗がやっと引いてたのにと笑いながら二人あひるから逃げる。
広場に木製のデッキがあり、そこで少し休憩ができるように
テーブルと椅子が並んでいた。それがあると追いかけるのが面倒なのか
そのデッキに二人が入り込むとどこか別の場所に移動していった。
「弓弦さ、お前こういうこと好きなんだ。」
「あぁ、大好き。昔からここに来ると何もかもを忘れて遊べるから
大好きなところなのさ。」
「俺もこういう所好き。」
「そうなん?」
「弓弦の笑った顔を見てられるから。」
「そんなこと言っても何も出ない。それに恥ずかしい。」
「恥ずかしがることないさ。そういう顔は早々見れないし
俺と二人の時だとますますうれしい。」
「ここはさ、あの人とも良く来ていた。ここは楽しい思い出ばかりの場所。
悲しくなると幸せな時間を過ごしたこの場所に来て気持ちを幸せにして帰るんだ。」
「ここには他の人とは?」
「あの人と、西村さんとだけ?」
「んじゃ俺が三人目。」
「男の人とはね。女友達とは数えきれないほど来てるし。」
「そうなんだ。でも西村さんと同じ位置関係か。」
「どうかな。」
「なんだよ、その意味深な発言。」
「この先に可愛いカピパラがたくさんいるんだよな。」
「んじゃ行こう。」
カピパラって?と話をしながらまた坂を上り移動する。
カピパラでひとしきり写真撮ったり、遊んだり。
その先には、スカンクもアライグマも愛嬌を振りまく。
お互いに携帯で写真を取り合いながら先に進む。
サボテンが並ぶ道に差し掛かった時に周りには誰もいなくなっていた。
それに早く気づいたのは槙村。弓弦と呼び止めると近寄って行った。
手をつないで歩こうとそういうと、弓弦の右手を引っ張る。
恥ずかしいのか引っ込めようとするが、誰もいないからといい
手を離さない。話したくないと告げ、しっかりと手をつないだまま
誰も見ていないその道をゆっくりと歩いて行った。
先に行くと栗の木がある小道を横目にサイがいる場所の横を通り
次の動物の所に移動する二人。移動する道には端々にきれいな木々が植えてあり
こんなに夏の暑い日なのに陽射しが痛くないぐらいに木陰が作ってある。
少しするとミーアキャットがかわいい姿を見せてくれるところを通り、
モルモットを触れる飼育部屋があった。
そこでも二人だけ。追いかけて触って抱っこして
可愛いモルモットとの写真もたくさん撮りためた。その隣には大きなカメも。
外に出ると、いつか話題になったレッサーパンダ。
草むらから出てくるその顔のかわいらしい事。
でも、その顔を撮りたいのになかなか、タイミングをつかめずにいちまいも取れない。
すると、飼育員のかたが出てこられて撮ってくれるというので
携帯を預け二人の携帯それぞれに取ってくれた。
ちゃんと二人の顔と顔の間にレッサーパンダのかわいい顔を挟んだ形で。
その時に飼育員さんから言われた。
「C&Cの槙村さんですか?」
二人顔を見合わせ、内緒にしてくださいとお願いした。
「ばれちゃってたんだよね、きっと。」
「それも弓弦と一緒だから目立つしな。」
「それどういう意味さ。」
「どういう意味って?」
そういうと、不意に弓弦を抱きしめこういう事さと耳元でささやいた。
すぐに突き放された槙村だが拒絶されたわけじゃないと思えた。
弓弦の顔は嫌な顔になってない。大丈夫だと。
「ねぇ。槙村さん。」
「なんでしょう?弓弦さん。」
「抱きついちゃダメ。kissしてもだめ。」
「手をつなぐのは?」
「それもだめ(笑)」
「なんでさ。普通じゃない?男と女だもん。」
「あのさ、槙村さんがやってることは友達以上の関係の人がやることでしょ?」
「そうなれないの?」
「そういう関係ではないでしょう?」
「なんで?」
「なんででも。」
「どうしても?」
「どうしても。」
「いつになったら心許してくれるかなぁ。」
「いつになるだろうなぁ(笑)」
そういって、キリンの檻を通り過ぎ次のカンガルーがいる場所に入った。
「ねぇ。あそこに座ろう。」
そう弓弦が言いながら指をさしたベンチ。木陰で涼しい風を感じれる場所。
「槙村さん。」
「なんだ?」
「あのね。まださ言ってないことある。」
「無理して話すことなんてないさ。話したほうが楽なのか?」
「槙村さんの気持ちを考えるのならば、きちんと話すことはね
話さないとって思うんだけどさ。西村さんにも隠さず話していること」
「何?それって西村さんと対等に立てるかもってこと?」
「それはわからない。あたしの中で一番占めているのは
あの人だけ。まだ刺されたからってあの人を恨んでいる訳じゃない。
まだあの人を信じて愛している。」
「亡くなってからも愛されているその人は幸せだな。」
「でも、亡くなっている以上あたしはその人と幸せになることはまずありえない。
だけど、幸せになることは願ってくれているはずなんだと
そう思ってはいる。その人のご両親もそういうことを言ってらした。」
「だな。弓弦が幸せになんねぇとその人もうかばれないぜ?」
「でも、あたしの中では亡くなったということで何かが変わった。
あの人を忘れることができなくなったし、このおなかの傷が
忘れさせてくれなくなった。愛された証のように残るこの傷。
そして、まださ忘れられないのさ。」
「前を向いてるわけじゃないんだ。まだ。」
「前を向きたくても、槙村さんや西村さんや気掛けてくれる人の
心に触れるたび、あたし自身が怖くなる。男の人が怖い。
また愛し愛されることが怖い。
つなげて考えなくても体が怖いと反応するのよ。女になることが怖い。」
「人を好きになることは自然なことだ。
お互いに愛していれば、当たり前にお互いを気遣い考え
幸せな時間を過ごそうと意識する。なのに何が怖いの?」
「怖い。手をつないで温かさを感じる幸せも、
抱きしめられ愛しているとささやかれる幸せも、
愛しくkissをされても、自分自身のどこかで怖いと思っているのがわかる。
意識するしないんじゃなくって、怖い。素直に怖い。」
「それはどうしたらいいんだろうな。」
「何度も、伯母ぁには心療内科にかかれと言われたけど
精神を病んでるわけじゃない。どうしていいかわからない。」
「お前心療内科をなにか勘違いしてないか?」
「なにをさ。」
「心療内科と言う所はさ、精神を病んでおかしい人が行くところじゃなくて
そういう心の傷を治すにはどうしたらいいかとかを診療するところだぞ?」
「そうなの?でも、あたしのはそういう相談したりすることで治るものじゃない。」
「わからないさ。でも、心療内科にかからなくても弓弦には仲間がいるじゃないか。
誠さんにも西村さんにも話しできるだろう?俺に話ししたんだ。できないはずがない。」
「わからない。槙村さんに話をしていることは
西村さんにも誠さんにも話はできるだろうけど、
そのあとあたしはどういう風になるかが怖い。
話した後、誰かとそれ以上の関係になるのが怖い。
今のまま、今のあたしは今のままが一番幸せなんだ。」
「今のままではいつか弓弦が弓弦じゃなくなる。
今だと思えるようなときに自分で変わろうと思わないと。
今の幸せが次の幸せに続かない。それは嫌だろう?」
「槙村さんは、もしこのままあたしと一緒に居ることで
いろんな昔の話を聞くことがあるかもしれない。
だけど、それをきちんと受け止めてくれる人なの?」
「なんでそういうことを聞く?もちろん弓弦は弓弦だ。
何があっても弓弦と俺の関係は切れないと思うけど?」
「一度だけ大学の時に軽く付き合った人がいて
その人が引っかかってるってこともあるんだけど。
一度さらし者にされるとさ、人を男の人を信じられないでさ。
でもかなり自分の中では信じるということに努力はしたんだ。
だから今のあの店にいることができるし。
でもさ、それと男と女の関係に進むことは別。
一度裏切られるとそうそう恋愛感情は起きない。」
「ひどい目にあったからか、弓弦がかたくななのは。
でも、俺には話しをしてくれている。
少しづつだけどきちんと話をしてくれる。
それは少しだけ信用してくれているということか?」
「西村さんや誠さんと同じぐらいかな。」
「俺さ、弓弦とずっと一緒に居たい。今は友人としての中で
西村さんと誠さんと同じように信用してもらっているけど
俺は誰よりも一番で居たい。弓弦の一番になりたい。
だめか?俺よりも先に二人の中でどちらかが一番なのか?」
「一番だ二番だってそうい人はいないさ。
でも、槙村さんと知り合う前から西村さんにはプロポーズされている。」
「弓弦。もしかして西村さんの真面目なプロポーズずっと断ってるのか?」
「断っているというか、考えられないって。今は考えられないって。」
「弓弦。お前さ・・・・・すごく我儘。」
「我儘なの?」
「西村さんの真剣な気持ちすんげぇ待たせてるんじゃん。」
「この間も俺の所に来いと言われた。
男と女じゃなくていい、過去にとらわれてさ、ひかりちゃんとかに逃げてさ、
ちゃんと向き合い前に進もうと言われた。
ちゃんと前を見て自分を見つめることができるようになったら
きちんと自分のことを考えてほしいとそう言われた。
あたしの中では正直どうなんだろう。」
「弓弦の気持ちの中でも大きく揺れているのか。」
「この世が終わるとしたら、きっと西村さんと一緒に居たいと
その瞬間一緒に居たいとは思う。」
「そんな関係にあってなんで西村さんを拒む?」
「拒んでいるのかどうか、わからない。わからないんだって。」
「弓弦、落ち着こうか。今のまま話をしているとお前壊れそう(笑)」
「もう17時半を回った。閉園の時間が来るんだろ?」
「なぁ、槙村さん。東京に帰ったらしばらく一人になりたい。」
「抱きしめたことを怒っているのか?」
「それは過ぎたこと。違う。違う。」
「なら明日の朝までまだ時間がある。話はそれからでも。」
「帰る?」
「帰ろうか。ホテルまでまっすぐ?」
「夕飯どこかで食べよう。どこがいいか。」
「夕飯。弓弦(笑)」
「食べ物じゃないし。とりあえず、部屋に戻って
銅座で食べよう。ホテルのディナーもおいしいけど。」
そういって二人は車に乗り込み、長崎市内へ向かう。
近海をぬけると途中から時津に行く方向と新漁港へ向かう方向と
二つに分かれるのだけれど、どっちに行こうかなと。
ホテルの近くの`つるちゃん´という老舗のトルコライスを食べたいのか
銀鍋という長崎でとれた旬ものを食べさせてくれるお店か
その新漁港のそばにある`向日葵亭´のトルコライスが食べたいかとか
そういう話をしていた二人。結局、何も決まらずにホテルについてしまった。
「弓弦、どうする?」
「どうしようかなぁ。そんなにおなかすいてないけど。」
「俺は腹ペコだ。弓弦まで食べちゃうぐらいに腹ペコだ。」
「んじゃ、食べられてしまわないように何か・・・・。」
「やっぱり駄目か?」
「駄目じゃなくて嫌なんだ。」
「それって思いっきり拒絶されたってこと?」
「そうともいうかな(笑)」
「とりあえず、外に出ると騒がれるからルームサービスで何か食べよう。」
ルームサービスで頼んだものを食べると、二人っきりの部屋がすごく気まずい。
どうしていいかわからない二人が、お互いにソファに座りTVを見ている。
「眠くない?」
「あぁ、眠くはない。」
「あたし先にシャワー使っていい?」
「どうぞ。お姫様。(笑)」
「なんだかなぁ。」
「いえいえ。」
「ちゃんと鍵を閉めよう。」
「閉めるのか?疲れてるだろう、背中を流してあげるのに。」
「翔太君と同じことを言ってもだめですよ(笑)」
「あいつ同じこと考えてたのか。」
「あはは。残念。出たら槙村さんも汗流しなよ。
その間あたし、ロビーで呑んでるからさ。」
「おいおい。俺の背中は流してくれないのか?」
「そこまでしなきゃいけない?」
「いけなくはないがしてほしいかも。」
「ちゃんとブラシが置いてある、一人でもちゃんと手が届くように。」
「ちぇ。」
「とりあえず、汗を流すね。」
シャワーに消えた弓弦の後を視線で追ってみる。
弓弦の歩くラインはきれいな直線。一足一足きれいな足跡が
毛足の長いじゅうたんに跡を付けている。
女性の足にしては大きいのだろうが、細くてきれいな流線型の足の形。
今日はいていた靴も大きいサイズなんだろうけれど、細い。
しばらくして出てきた音がした。
それに気づく槙村。ドアのシルエットはきれいな女性の姿影。
「弓弦。」
「何?今着替えてるからもう少し待ってよ。」
「なぁ。そのままの弓弦が見たい。」
「見てどうするのさ、あたしは見せたくない。」
きちんと着替えて出てきた弓弦を、楽しみを奪われた子供のように
槙村は見てしまった。素晴らしいぐらいにお子様の顔だ。
「なんだかなぁ。なんだか、弓弦をきちんと見れてない気がする。」
「見なくても世の中は変わりませんよ。」
「弓弦は弓弦。すべてを知りたいし。」
「そういうすべてはまだ見せたくない。」
「なぁ、背中流してよ。」
「自分でできるでしょう?」
「冷たいなぁ。俺のすべてを見てほしいのに。」
「男のすべては女の敵です。(笑)」
「そんなこと言わずにさ。」
「背中流すだけよ?それ以上はないし。」
「それでいいからさ、それで。」
槙村は着替えを持って行った。
そして、シャワーを浴び背中を流してもらおうと弓弦に声をかけた。
「弓弦さん。お願い、ねぇ弓弦さん。」
「はぁい。ちょっと待って。」
そういいながらも、背中を流すためのボディタオルを探す。
「お待たせ。」
「背中はさ、人の手できちんと流してもらうが一番なのさ。」
「そのままこっち向かないでね?」
「俺は向きを変えてそのまま抱きしめたいけど我慢する。」
「お願いします、我慢。」
「槙村さんは裸でも後ろ姿はしっかりと男前ですね。」
「ありがとう、褒めてくれて。」
「毎日鍛えないと、ここまでの後姿は作れないでしょう?」
「そうだな。ここの所サボってるけどさ。」
「帰ったらきちんと鍛えないと、後姿がおじさんなると嫌われますよ(笑)」
「なぁ、弓弦。」
「なんですか?」
「そっち向いていい?」
「駄目に決まってるじゃないですか、いまさら何を言ってるの。」
そういいながらも、槙村はそのまま弓弦の方へ向き抱きしめた。
シャワーで濡れてしまう弓弦を気にせず、そのまま抱きしめた。
そうされてしまうのがわかっていたかのように弓弦は身構えたつもりが
抱きしめられ耳元で好きだとささやかれ痛いほど力を入れられた。
「槙村さん、痛い。痛いって。離して」
「いや、離さない。離したらもう抱けない。それは嫌なんだ。」
「槙村さん、お願い離して。」
そういう弓弦を壁に押し付け、またkissをした。
抵抗する力がなくなるまでの長いkissを。
弓弦を確かめるように唇を這わせ首筋から落ちていく槙村。
弓弦は動けなかった。
何度も何度も好きだと言われkissをされ、
そこまで自分を思ってくれる槙村が本当に自分を大切にしてくれるのかもしれない
そう槙村が口に出す言葉が胸に突き刺さる。
抱きしめられ、耳元でささやかれ弓弦を愛おしく抱き込む槙村に
あの人の影を思い出し、そして槙村の瞳を見つめてそれを忘れて。
いつの間にかそのまま槙村に落ちていくような気がした。
弓弦の気持ちも体も抵抗したくても動くことができずに。
だけどその直後、無理だとどこか奥底で無理だと叫ぶ自分がいるのに気づく。
「弓弦。弓弦が知りたい。過去などどうでもいい。
前を向いて愛しあえることができる弓弦になればいい。
素直に今目の前にいる弓弦が知りたいんだ。」
「槙村さん。お願い。あたしは女になりたくない。
すべてをさらけ出しても、女にはなりたくない。
愛されてても。それだけはやめて。お願い。」
「無理だ。今の弓弦を知りたい。」
槙村はそのまま弓弦の濡れたシャツをそのままに、
シャワーに打たれているまま弓弦を愛し始めた。
抵抗しても逃げ出すことができない弓弦にも
女の部分は敏感でそのまま槙村に流されていく。
どうしたらいいのかがわからない。
わからないまま、弓弦は声が出るのを我慢している。
弓弦の様子がおかしいと気付いたのは少ししてからだ。
弓弦の体が硬直している、がたがたと震えだす弓弦に声をかける。
「おい、弓弦。どうしたんだ?」
「ごめん。ごめんね。ごめん。ごめんね。」
そういって泣いている。
がちがちと歯がなるぐらい凍えているように、がたがた震えている。
顔を見ると弓弦の顔色がおかしい。青くなって目を閉じたまま
ただごめん、ごめんねと言い続ける。
言い続ける弓弦が発作が起きたように体が激しく震えはじめた。
きつく唇を結び、青く冷めた顔色が真っ白に。
目をギュッとつぶると、呼吸が荒くなってきた。
呼吸困難なのか口を開けたままで過呼吸みたいな呼吸をしている。
弓弦の手を握り、大丈夫、大丈夫だと耳元でささやくが聞こえていないらしい。
しばらくすると、過呼吸が止まり深く呼吸を始めた。
白く血の気が引いた弓弦の顔には汗が拭きだし再びがたがたと震えはじめる。
弓弦の両手は両腕を強い力で握り爪が皮膚に食い込んでいる。
血が滲み始めたのに気づき槙村がその両手をはがしにかかるが
筋肉のけいれんによる力みなのか強く握られててはがせない。
それでも槙村は弓弦の両手を両腕から引きはがした。
じんわりと弓弦の腕には自分で握りしめたための爪の後が痛々しくついている。
まだ弓弦の意識は戻ってはいない。弓弦はあまりに激しいけいれんで意識を失っている。
腕の血が出ている場所を、清潔なウェットティッシュで拭き血がとまるのを待つ。
真白い腕に傷が目立つが弓弦は気が付くと驚くのだろうか。
何が起きているのか少し不安な槙村はとにかく弓弦からは離れないように。
弓弦は、何かに対して我慢してたのではなくこういう風になるのが怖かったんだと、
これが弓弦の隠してた事なんだと槙村は思った。
すぐに濡れた服を脱がせ、濡れたからだと髪をタオルで拭きベッドに連れて行った。
自分も、濡れている体をふき着替えて受付に電話を入れ人を呼んだ。
`連れが具合悪くなってしまって、
震えているので熱が出て寒いのだろうと思うので
余分な毛布とか暖まれるものがあれば用意してほしい´
と伝えた。
ベッドの中で、まだがたがた震える弓弦。そんなにもその過去を引きずっているのか。
槙村はそっちの方が心配になった。スタッフの女性が厚手のブランケットを持ってきた。
それを受け取ると、ありがとうと言い槙村は弓弦のベッドに戻っていく。
スタッフが声をかける。
「もし熱があるようでしたら、解熱剤をお持ちしますが
どういたしましょう」
と。槙村は、いるときはきちんと連絡しますとだけスタッフに答えた。
まだ夜も22時をも回ったころ。この時間から寝着くときっと早く起きるんだろうなと
そう考えながら狭いシングルベッドに弓弦を抱え込むようにして槙村も寝着つこうとした。
25時を回ったころだろうか、弓弦の事が気になって寝つけない槙村はふと目を開けた。
すると弓弦がこっちを見ている。槙村が弓弦の頭を抱え込むようにしていたのを、
その抱え込んだ中からまっすぐ槙村の顔を見上げていた。
「弓弦、起きたのか?」
「あぁ、ごめん。あたしおかしかったね。ごめん。」
「弓弦、無理強いした俺が悪い。俺が弓弦を欲しがったばかりに
お前が無理しても隠したかった姿を出させてしまった。俺が悪いんだ。」
「早くちゃんと伝えればよかった。こういうあたしなんだって。
あの人が亡くなってから、どうしても何もかもが怖い。
怖くて怖くてすべてを受け入れなくなってしまった自分がいて、
誰もすべてを拒んでしまうようになった。」
「弓弦、あっちに帰って病院へ行こう。本当の弓弦に戻ろう。
わかるか?本当の自分にだ。
男でもなく女でもなく弓弦になるために病院に行こう。
おかしいと自分でもわかっているんだろ?
だからすべてを拒むし、みせてくれない。」
「槙村さん。」
「なんだ?」
「誰にも言わないで。誰にも知られたくない。誠さんにも貴志にも。
悠太君や翔太君にも。ひかりにも、伯母ぁにも。みんなみんな。」
「誰にも相談しないで今の状況を打破できるものか。
あのさ、弓弦の悪いところはそれだよ。一人ではどうしようもないのに、
一人でどうにかしようと頑張る。だけどどうしようもないんだ。」
「こんなにおかしいことをだれに相談してどうしろというのさ。
誰に話しても、理解してはもらえない。」
「弓弦、いつからそうやって体が言うこと利かなくなった?」
「わからない。いつからかわからない。」
「でも、きっと愛しい人からの傷が一番の原因なんだろうな。
体の傷は治っても、心の傷は治らない。
弓弦にその傷が残っているからじゃないのか?」
「まだあの人を愛している自分がいて、それを信じている自分がいる。
おかしいでしょ。亡くなっているのに。」
「弓弦。本当にその人を愛していたんだね。
そして今でも心底愛している。誰にも負けないぐらいに。
西村さんや誠さん。俺やみんなが割り込んでいけないぐらいに
まだ忘れずに、心底愛しているんだな。」
「ごめんね、槙村さん。あたし無理。このままでいい。
何も考えたくない。このままがいい。」
「いや、変わろうよ。誰にも知られたくなければ
知ってしまった俺が何とかする。
なぁ、弓弦。頑張ろうよ。頑張って傷を治そうよ。」
「無理。あたしは無理。あの人を愛しているあたしが心の中にいる。」
「弓弦。もうすぐ夜が明ける。すると新しい一日が始まるだろう。
その新しい始まりの中に、その人はいるのか?
その人が弓弦に何かあったときに、助けてくれるのか?
弓弦の幸せは亡くなったその人が持っているんじゃないだろう?」
「それはそうだけど。」
「いや、わかってない。そこからだ。弓弦のこれからの幸せは俺が持っている。」
「だけど、あの人が亡くなったその時からあたしの幸せな時間は止まってしまった。」
「なぁ。弓弦、それから一歩だけ前に出ようよ。できるさ。」
「できる?できない。」
「できるさ。自分のこのおなかの傷を、誠さんに話すと決めたんだろう?
だったらそれは一歩前に進もうとしている弓弦がいるということじゃないか。
できるさ。できるはずさ。」
「槙村さん。」
「なんだ?」
「槙村さんは、あたしが女になることを望んでいるの?」
「女になるんじゃなくって、弓弦はきちんとした女性だ。
俺になかでは初めて会った時からずっと、憧れの女性だ。
ずっとできれば俺の腕の中にいてほしい。
たくさんの人がお前を愛していると思うから
弓弦がその気でないと無理な話なんだけどな。」
「誰かに幸せにしてもらおうとか思ってない。
自分が今一番これでいいとそう思えればそれでいい。
そんなに誰からどうしてもらおうだなんて思わないし、思ってもいない。
これからの自分の時間にあの人以上に愛した人が現れるとか信じられない。
あんなにあの人を苦しめてしまって自分だけのうのうと生きてて
それなのにまだその人を愛していて、こんな悪魔なあたしは
一生幸せでなくていい。」
「自分を責めても何もならないだろう。
それよりも、一歩進むんだったら前を向こうよ。
俺はとびっきりの笑顔の弓弦と会いたい。」
「なんであたしにこだわるの。あたしにこだわっても、何もないよ?」
「俺、俺はお袋と俺は親父に捨てられた。
小さいころは親父が俺らを捨てたおかげで苦労した。
いじめられたしお袋は心労で倒れて俺が小学校の時亡くなった。
爺ちゃんとばあちゃんが俺を育ててくれたけど
親がいないさみしさは何物にも変えられない悲しさだったさ。
迷惑かけっっぱなしのまま大きくなって
自分を必要としてくれる人なんていないと思ってたんだ。
だけど、仲間と知り合いここで過ごす時間は俺にとっては
かけがえのない時間になったし救われた。
いろいろあったことは弓弦にはくらべものにはならないだろうけど
人それぞれいろいろある。
その出来事が大きいこと小さい事にかかわらず人ぞれぞれ一生懸命に生きているんだぜ?
弓弦にもちゃんと前を向いて歩くことができるさ。」
「朝だ。飛行機の時間が。」
「そうだな、何時だったっけ?」
「8:20だ。」
「今は、5:30前か。」
「空港へ行こう、弓弦。東京に帰ろう。」
「行かなきゃ。」
「弓弦。」
「もう一度弓弦を抱きしめたい。一歩を踏み出す弓弦を。」
「え?」
「一歩踏み出そう。そう約束して。」
「できるかな。」
「その一歩を手伝うさ。俺が手を添えたい。」
「槙村さん。」
そういうと槙村はベッドの中でそのまま弓弦を抱きしめた。
倒れた時のままお互いに素肌のままblanket一枚だけで寝ていた。
槙村が抱え込むように弓弦の頭を抱きしめてたところ
そこから槙村の顔を見上げてた弓弦が、すごく愛おしく見えている槙村。
そのまま弓弦を抱きしめ、目をつぶった弓弦にもう一度kissをした。
そのkissを弓弦が嫌がらない。嫌がってはいない弓弦。
長い長いkissは、槙村を求めているかのように長かった。
槙村はその右手を背中に回し左手で弓弦の腰を引き上げ、
槙村の唇は弓弦の右耳に這わせられそのまま首筋から下に落ちて行った。
それでも弓弦は嫌がらない。弓弦の両手が槙村の背中にまわる。
しっかりと槙村の背中を抱きしめると自分の胸に落ちてきた槙村の頭を
ギュッと自分の胸にうずめた。
声がする。槙村がずっと、弓弦に愛していると俺が幸せにすると
そう呟きながら弓弦の体のあちこちにkissをする。
弓弦は答えたいのかどうしたいのか、ただ槙村のなすがままになっていた。
「弓弦。弓弦、なぁ、弓弦。」
「なに?まきむ・・・・・ら・・・・さ・・・・」
「なぁ、渉って呼んでよ。渉って。」
「渉さ・・・ん・・・・。ねぇ、渉さん」
「なんだ?」
「これ以上は・・・・ねぇ。これ以上は・・・・あ・・・・・」
「やめるの?やめるのは・・・・・・」
「やめて、ごめんね。これ以上は・・・・」
「やめたくない。このまま弓弦と一つになりたい。」
そういうと、弓弦をベッドに押し付けしつこくkissをした。
そのまま弓弦の腰を持ち上げ、一つになろうと弓弦を愛し始めた。
弓弦は諦めたのか槙村の背中に手を回し、そのまま槙村を受け入れ始めていた。
拒絶するどころか、受け入れそのまま自分に抱かれる弓弦の目をつぶった顔を
槙村は愛しく見つめていた。
一つになって、弓弦はやっぱり大切な女性と
槙村の中では弓弦の存在が大きくなり始めた朝になった。
ひと時の時間が過ぎ、6:20の目覚ましが鳴る。
あわてて二人はベッドから出ると、シャワーに行った。それも、なぜか二人で。
「弓弦、後悔はしてないか?」
「なにが?」
「俺お前を抱いちまった。」
「西村さんにも抱かれたことないのに(笑)」
「でも、俺の弓弦とは言ってはいけないんだろうな。」
「言っちゃ駄目。」
「なんで?」
「そこまで受け入れきれてない。」
「何がさ。」
「槙村さん自身、槙村さんのすべてを。」
「それはこれからだって考えていけるんじゃないか?」
「きちんと汗を流したら着替えてチェックアウトしよう。」
「弓弦、真剣にお前のことを愛しているんだ。真面目に考えて。」
「あぁ、一歩前に向くために。」
「でさ、俺の前だけでは素直な弓弦でいてほしいんだ。」
「素直に弓弦で?素直にいつも弓弦でいるじゃない。」
「まず、言葉遣いをきれいに(笑)」
「それは。」
「約束だ。言葉をきれいに、そして煙草はやめる。」
「煙草はやめれる自信ないけど?」
「いや、やめて。そうでないと子供産めないでしょう?違う?」
「あたし、もともと子供産めない体だけど?」
「産めなかったっけ?そんなこと気にしてもいなかった。
産める産めないで弓弦を抱いたんじゃないし。」
「槙村さんがどういう人か全然わかんない。(笑)」
「これが俺さ。」
「着替えて、チェックアウトしてまっすぐ空港に行こう。」
そういってシャワーを出て、着替える二人。
着替えとかいろんなものを詰め込んで、そこをチェックアウトしたのが7:30。
そこから空港まで30分ぐらいで着いた。
飛行機に乗るまでは、二人何もなかったように並んでいた。
「席はどこだったっけ?」
「前の方の席で右側の窓側があたし、その隣が槙村さん。」
「なんかこの間からさ、弓弦が隣にいることがふつうだったから
これから東京に帰って、弓弦のいない生活が始まると思うと
なんだかさみしいなぁ。」
「お店で会えるじゃない。」
「お店で会えるたって、バーテンダーとしての弓弦じゃん。」
「お客としての槙村さんね。」
「そうじゃなくって。」
「しばらく忙しいだろ?」
「弓弦が?俺が?」
「お互いにさ。あたしは、休んだ10日分とチャリコンの分と
変わって休まず頑張ったやつの代わりに
しっかりと働かないといけないし、そうこうしていると
西村さんのツアーが始まる。」
「俺は・・・・。俺もツアーとか収録とか始まるんだよなぁ。」
「しばらくは会えない。
槙村さんも落ち着いて考える時間ができるということね。」
「残念だなぁ。弓弦、ツアーについてこない?今の仕事長期休暇で休んで。」
「無理ね。そんなに休めない。週休二日制だし。
大体ただのしがないバーテンダーなんだから、仕事しなきゃ。」
「ずっとバーテンダーでいるつもりなのか?」
「それ言われると、ちょっと悩むけど今一番好きな仕事だから。」
「もし爺さんの後に入るとなると、遠い人になるんだろうが
弓弦は言うこと聞かないんだろうなぁ。」
「当たり前、人の言いなりはまっぴらだ。」
「弓弦、無理しないで。」
「取り合えず。ついたらそこでお別れ。」
「今日は家に帰るんだよな。」
「あぁ。自分の部屋に。」
「俺はついてってはいけないんだよな?」
「当たり前でしょう?なんでついてくるの?」
「いや。」
「ねぇ。あなたに抱かれたのは間違いって思いたくない。」
「弓弦。ちゃんと弓弦を知りたいって言ったじゃないか。」
「言ったけど、あたし自身は女にはなれない。渉さんのそばに居れる女じゃない。
亡くなった人を忘れられない、まだ愛していて
それでもって前を向ききれない中途半端なあたし。
きらきらしている未来を持っている渉さんにはふさわしくない。」
「なぁ、一歩前に進むって言ったじゃないか。」
「進む努力は一人ででもできる。ゆっくりと無理せず前に進もうとはできる。」
「俺は?」
「えぇ、かけがえのない存在かもしれない。だけど、それはわからない。」
「友達だってそれ以上だって以下だって前に進むときは一緒に進んでいける。」
「そうだね。だから弓弦という人間を愛してくれているんだろうけど(笑)」
「俺はお前が大好きだ。それに嘘はない。」
「あたしもあなたを受け入れた。中途半端な関係に終わってしまうとは
多分思わないしそうは思わない。けどね、けど。」
「けど?」
「わからない。このまま渉さんと共に歩むのか
それでも、安心をくれる西村さんの所に行ってしまうのか
自分でも先の事なんてわからない。」
「弓弦を愛している人間みんなにいろんなチャンスがあるんだろう。」
「でもさ、誰に愛されてても、縛られてしまうのはあたし無理だし。」
「基本的な相性かな、それって。」
「さぁ、空港に着くね。」
「ついてしまう。残念、まだまだしゃべっていたかったのに。」
「次はお店で。ご来店をお待ちしております(笑)」
「また弓弦という男に戻るのか?」
「あぁ。それが一番あたしの気持ちが幸せなのよね。」
「せめて。せめてさ俺の前ではそのままの弓弦でいてよ。」
「渉さんの前で偽りのあたしじゃ意味ないじゃん。(笑)
自然体で居られる人なのかもね、渉さんの前だと。
でも、一線を一度超えたからと言ってそれ以上は望まないで。
望まないでほしい。お願い。」
「弓弦の気持ち次第なんだ。でも弓弦の気持ちは俺次第なところもあるんだろ?」
「どうだろうね。さぁ、ついた。降りよう。」
「弓弦。家に帰ってからは何か用事あるの?」
「いや、何もない。」
「んじゃ、家まで送るよ。駐車場まで行けば俺の車あるから。」
「10日間も停めっぱなしだったの?」
「だって、そのほうが車をいつも管理してもらえてて安心だもんな。」
「そうなんだ。んじゃ送ってもらおうかな。」
「素直に言ってくれるんだ。」
「素直じゃなめなのか?」
「いや、弓弦姫のお気のままに(笑)」
「もう。だから男って面倒なんだ。」
「そういうなさ。」
「まっすぐ家までお願いね。道案内するから。」
「ひかりちゃんは仕事中だよな。」
「あぁ。」
「おじさんもおばさんも?」
「あぁ、仕事中さ。」
「あのさ、弓弦の部屋を見たい。」
「なんで?何の変哲もない普通の部屋なのに?」
「弓弦を知るために。そして、ちょっと話がしたい。」
「変なことはだめよ?でないと次は無し。」
「わかってるって。」
空港を10時前に出たので道は案外すいていた。
駐車場まで槙村は弓弦の荷物を持ち歩いていく。
入口の自販機で缶コーヒーを買い二人車のある階まで階段を上がる。
車まで行くと弓弦を助手席に座らせ荷物をその後ろに置き乗り込んだ。
駐車場を出ての道のり、二人何も話さず静かな朝の時間、
何か口に出して話をという気分でもなかったんだろうがこのまま気まずいというのもと思い
槙村が話し始めた何気ない事を。
小さいころの話やお爺ちゃんの話。おばあちゃんが倒れて手が不自由になった時
自分はまだ小さかったけれど、ご飯の炊き方や煮物の作り方
魚のさばき方やいろんなことを教えてもらってできるようになったと。
そんな自分の話で時間が過ぎていく。
槙村が自分に対して気を遣いながら話をしているのが弓弦は何気に嬉しかった。
しかし、そんな槙村の気遣いがうれしい反面西村のことを気にしている弓弦がいる。
沖縄でも、話した電話の向こう側。静かな自分一人だけの部屋だったのか
西村の声だけしか耳に入ってこなかった。
いつものように話す西村だったがどこかさみしげに笑う声が気になってしょうがなかったのだ。
すぐ帰ってくるってわかっているのに毎日見ていた弓弦の顔を
たった数日みなかった、毎日のように聞いていた声を聞けなかった。
それだけであんなの西村の様子がそういう風に弓弦が思えるほど
西村の電話が何か違うように聞こえる。
どうしてだろうと気にする弓弦も、10日間顔を見なかっただけで
自分の中の西村が、なんとなく他の人とは違う位置にいるということを
しっかりと感じていた。
そして、槙村と居る時間と西村と一緒の時間とは別個の問題だということ。
長崎に行ってますます西村の存在が他の人と違う存在になりつつあった。
槙村と笑いながら話をしていても、西村さんなら・・・・とすぐそういう風に思うのだ。
また槙村も弓弦の横顔を見ながら自分の話を聞いているというよりも
何か違うことを考え始めた弓弦を薄々と感じ、それでも自分を向いてくれるよう話し続けている。
その道すがら槙村の車を見かけた圭一郎が電話を入れてきた。
「おい。」
「なんだ。」
「お前今帰ってきたのか?」
「あぁ。」
「お前の車今見えたからさ。」
「おぉ、よくわかったなぁ。」
「で、隣りは?」
「隣?お前誰か乗ってるのが見えたのか?」
「だって俺後ろにいるもん(笑)」
「なんだと!!!!!」
その会話に弓弦が後ろを向くと圭一郎が手を振っている。
それを見た弓弦は爆笑してしまった。
少し先に行ったところでコンビニを見つけたのでそこによる。
「よぉ。おかえりお二人さん。」
「ただいま、圭一郎さん。」
「弓弦さん、何笑ってたんですか?」
「いいタイミングだなぁって。ね、槙村さん。」
「お前さ、いい感じだったのにいっつも邪魔するんだな。」
「なんで?俺そう言うのわかんないし感じねぇし。」
「コーヒー飲む?ちょっとかってくるけど?」
「頼もうかな。俺エメラルドのブラック。」
「んじゃ俺はボスのブラックで。」
「二人ともブラックね?」
そういって車を離れコーヒーをかってくる弓弦。
「ありがとう、弓弦さん。」
「あぁ、ありがとう弓弦。」
「なんで呼び捨てなんだ?」
「周りからは弓弦って呼び捨てされてるから
そう呼んでもらった方がさん付けよりも気が楽なんだってさ。」
「そうなの?」
「そうね。呼び捨てにされた方が呼ばれるあたしも気が楽。」
「俺もいい?弓弦って。」
「何いまさら言ってるんですか(笑)」
「圭一郎それより、お前どっかに行こうとしてたんじゃねぇのか?」
「そうだったそうだった。翔太の所に行こうとしてたんだ。」
「行ってこいさ。」
「お前は?弓弦さん隣りに乗せてるけど。」
「家まで送っていくだけさ。」
「そっか。ならあとで連絡するから弓弦さんちに俺たちも行っていい?」
「あたし圭一郎さんの携帯知らないけど。」
「槙村にしたらいいだろう?」
「俺お前からの電話取らないことにしようっと。(笑)」
「弓弦さんの携帯教えて(笑)」
「だめだめ。俺のにかけてよ。」
「なんで?なんで弓弦さん直通がだめなん?」
「お前が弓弦を獲物を見るように見てるから(笑)」
「誰がそう言ったのさっ!」
「お前が迎えに行こうとしている翔太だ!(笑)」
「なんだとぉ?ちょい行ってくるから、待っててよ?」
「あははははははは、急げ急げ。」
圭一郎はすぐに車に乗り込み電話をかける。もちろん翔太にだ。
その様子がおかしくて面白くて二人で笑いながらも車に乗り込み
自宅を目指す。
「そこ。その病院の左側の細い路地を入っていくと
ガレージがあるからそこに入れて。あたしのBMWがあるでしょ。」
「わかった。」
槙村はこんなに狭いところを始めてきたはずなのにするりと入れた。
そのガレージは弓弦のバイクと車としか置いてなかった。
「ここは弓弦専用なの?」
「伯父ぃも伯母ぁも運転はしないし、ひかりも。免許は持ってるんだけどね。」
「そうなんだ。で、弓弦。お邪魔していいの?」
「いいけど。」
弓弦は荷物をおろし、鍵を開け家に入る。
槙村もその後ろをついていくと、古い家なんだろう。
いつ建てられたものだろうか時代を感じさせられるような古い建物。
「弓弦、この家はすごく古いんだな。」
「古いと思わされてるだけさ。」
「あはは。」
「あたしの部屋は、この建物の中から離れにうつったんだ。」
「離れがあるのか?」
「あぁ、使ってないからあそこにうつりたいって
伯母ぁに話したらいいよって。で、引っ越したんだ。」
「広いな、ひかりちゃんって真面目にお嬢様だったんだ。」
「そうだな。伯父ぃたちの料亭もそこいらの料亭と違うしな。」
「へぇ。」
「ひかりと一緒になれば、玉の輿さ(笑)」
「たとえ冗談でも弓弦がいるのにひかりちゃんとなんて考えないぜ?俺は」
「あはははは。でもそのほうが幸せかもよ?」
「あり得ない。」
そう話しながら廊下を進むと小さい気の開き戸があって、開けると離れが見えた。
離れと言っても一軒家と等しいぐらいの大きさ。
「弓弦、お前のあの城に俺が入ってもいいのか?」
「いいんじゃない?」
「俺が初めて家に上がれるのか(照)」
「訪ねてこられたらみんなあそこでもてなされるさ。
それも、もうちょっとして時間ができればガレージから直接玄関までを、
きちんとするからわざわざ家の中を通らずに済むようになる。
するとみんな集まるんだろうなぁ(笑)」
ドアを開ける。広い古い洋館っぽい建物。
つやつやと光る廊下に部屋から伸びている陽射しがまぶしい。
弓弦が出したスリッパをはきながら、部屋に案内される。
キッチンを通りその横のリビングのソファに座っててと言われ
そこに座ったまま、窓から外を見ている槙村。
窓の外には古風な庭が広がる。きれいに手入れがされているのだけれど。
「はい、ま。あ、えっと渉さん。冷たいもの。」
「ありがとう。ねぇ、この庭。」
「あぁ、伯父ぃがそういうのが好きでいつもいじってる。
あたしはそういうのは苦手なんだ。」
「でもよく手入れしてある。専属の庭師がいるみたいだ。」
「荷物置いてくる。TVのリモコンそこにあるから。」
「あぁ。」




