繋がり広がる縁
そういって二人は車に乗り込み荷物を後ろに積んで出発した。
26時には布団に入って、まだいつもなら起きているはずもない時間。
それでも弓弦は年に何度かしかないひかりとの休みを楽しむために
今年もひかりと一緒に出かけて行った。
湘南の海は弓弦の住んでいた長崎の海とはかけ離れた色.。
弓弦は小さいときから海が好きで、父がいた時は父と母が手の空いた時は母と、
夏になると泳ぎに行くのが好きだった。
思い出があると言えば、懐かしく楽しく幸せな過去。
だからひかりと一緒に海へ泳ぎに行くのはすごく楽しいと思っている。
そして、いつもは女とみられることが嫌いな弓弦はこの時だけは
水着を着て肌を焼きたくないと水着から見えているところに
日焼け止めを何度も塗り直しと、女の一面をのぞかせる。
「弓弦!行こう。」
「気を付けてよ?おぼれたりしないでね?」
「わかってるって、ていうか、ほら一緒に。」
「あぁ。待って!待ってったら!」
「弓弦!」
二人は、無邪気にはしゃぎながら海へと駆け込む。
周りの人の目も気にせずに。やはり弓弦の背の高さは目を引くし目立つ。
ひかりも、弓弦に似て美人なため男の人たちの視線をあつめる。
二人揃うと、座っていても花が咲いたように時間が華やかにある。
誰もが声をかけたくてもかけれないぐらいの注目度合。
少しすると一緒に遊ぶ仲間ができた。ビーチバレーをして午前中を楽しむ。
お昼はその遊んでた仲間と一緒に海の家で食べ、また海へ。
今回は水上バイクの貸し出しまで海の家がやっていたので
弓弦はコーチまで頼んで水上バイクに挑戦。
ひかりはそれを横目には友達としゃいでいた。
「弓弦さんはのみ込みが早いですね。バイク転がされているのだから、
きっと飲み込み早いんですよ。僕のコーチはもういりませんね(笑)」
「本当ですか?でもちょっと不安だなぁ。」
「大丈夫でっすって。自信持って。」
そうして水上バイクを楽しんでいると、ひかりが見当たらなくなった。
すると、少し離れたところでバタバタと波が暴れている。
砂浜からレンジャーが海に駆け込んでいた。
弓弦はその波の暴れるほうを目を凝らしてみると手だけが見える。
もしかして見えなくなったひかりだとは思いたくないが
ひかりじゃないことを祈りながらも水上バイクのエンジンを切り
波間を見つめる。やはり誰かがおぼれている様子だ。
レンジャーでは間に合わないと、思わず海に飛び込みその場所に向かう。
弓弦は周りを驚かせた。下手すりゃ巻き込まれて弓弦も危ない。
弓弦はその波間に着くと沈んでしまったのか見当たらなくなっていた。
きっと流され沈んだんだと思われたその人を探した。
時間が過ぎると危ないと、早く見つけないとおぼれてしまうと思って
潜る、潜ってその人を探した。水深は3mほどあるだろうか。
中学生ぐらいの女の子がふわふわと海の中を漂う。
弓弦は緊急を要すると思い急いで、その女の子を抱き寄せ浮上。
小舟で近づいてきていたレンジャーの浮き輪をつかみ 女の子を抱えた
その状態で浜の方に引っ張られていった。
女の子は意識のない状態で、浜にあげられると弓弦は人工呼吸をした。
多感な女の子の人工呼吸はレンジャーがやるとちょっとなぁと気を使ったのか
「あたしにやらせて」といい、前に講習会で習ったやり方で。
女の子は5分もかからないうちに息を吹き返し、気が付いた。
目の前に弓弦とかレンジャーの人たち、その後ろに友達の顔が見えたのか
怖かったと弓弦に抱きつき号泣する。
弓弦たちは、`怖かったね、もう大丈夫だ´と頭をなでて落ち着かせ、
泣きながら話すことを聞いてあげとりあえず病院にと運ばれていった。
今年の海開きで、水上バイクと人命救助と熱い情熱の夏の始まりを感じた。
女の子が運ばれていった後、海の家からひかりが出てきた。
一緒に居た人が具合が悪くなって海の家で看病していたらしいのだ。
それはそれで大変だったねとひかりに言いながら、帰るための準備をひかりとしていた。
そんな時、警察が弓弦を探し訪ねてそこへ来た。女の子のご両親が弓弦を探していると。
お礼を言いたいからと言っていると伝えられ弓弦はどうしようかと悩んだけれど
都内まで帰らないといけないし、人として当たり前のことだから
気にしないでと伝えてくださいと話しした。
浜から遠いと判断し、水上バイクを止めて飛び込む。
女の人にしたらすごい勇気と行動力だと褒めていた。
もちろん警察の方からは弓弦の名前、住所、連絡の取れる電話番号などを聞き
そこからは立ち去って行った。
海の家の人たちも弓弦の活躍がすごくうれしかったのか帰る間際まで話しかけていた。
海の家の店主も`うちの息子にゃできないよ´とかすごいはしゃぎよう。
ひかりもそういう風に活躍した弓弦から離れないようにしている。
帰り道少し疲れた二人は、のんびりと帰るように話をしていたのだが
やはり少し眠い弓弦は途中のパーキングで車を止めて車で寝ていた。すると電話が鳴る。
ひかりもうとうとしていたために弓弦もひかりもびっくりして起きた。
「ごめん、弓弦さん?」
「あ。はい、原田です。」
「俺。槙村です。今大丈夫ですか?」
「弓弦さん、今ニュースで映ってたぞ。」
「え?なんで?」
「海開きした湘南の浜で人命救助したんだって?」
「なんで知ってるの?」
「だって今、ニュースで流れたもん。」
「あそこにカメラなんてあった?ねぇ、ひかり。カメラなんてあったっけ?」
「気づかなかったけど?あったの?」
「槙村さんがそういうんだけど、なんだか・・・・。」
「それがさぁ、ばっちり映ってた。ひかりちゃんと弓弦さんの水着姿がさ(笑)」
「やだなぁ。なんで映したんだろう。」
「でもすごい、弓弦さん。すごいって!」
「なんで?命にかかわることよ?助けるために動くなんて当たり前じゃない。」
「映ってたのはさ、弓弦とその周りとレンジャーでさ。
レンジャーのインタビューがはいって、それがまたべた褒めでさ。
警察もさ、さっきそれに対して感謝状がどうとか言ってたぜ?」
「あ・・面倒な(笑)」
「面倒がるなさ。今度は俺たちと泳ぎに行こうよ。来週、沖縄に行くときにでもさ。」
「それは無理。仕事で行けません。」
「大丈夫、秋山さんとかも一緒だし社長が今日弓弦の所の
オーナーに掛け合いに行ってくるって言ってたからさ。」
「まじで?やだなぁ。」
「でも今日はほんとうに弓弦さんお手柄だったな。友人として、鼻が高いよ。」
「そういってもらえるとうれしいかな。」
「今どこにいるの?」
「今は、ひかりここどこだっけ?」
「えっと高速道路のパーキングだけどどこだっけ?」
「あ。どこかわかんなんいや。でもパーキングには違いない。」
「うちに寄ってよって言えないなぁ。ひかりちゃんも一緒なんだろ?」
「一緒じゃないと危ないからね。」
「またまた。気を付けて帰れよ。」
「ありがとう、また。」
「あぁ、またな。」
「ただいまぁ」
「おかりぃ!弓弦、お前お手柄だったねぇ!TVで流れれたよ。
でさ、さっき湘南の方のなんだっけ警察からも電話が入ったよ?」
「面倒だなぁ(笑)」
「面倒ってあるものか。いろんなところから電話が入って
忙しかったんだぞ?店の方にも、こっちでも。
お得意さんや、弓弦を知ってる人たちからの電話でてんてこ舞いさ。」
「明日から料亭は予約で忙しいかもな。なぁ、母さん」
「えぇ、弓弦が住み込んでいる料亭ってここは有名だものな。(笑)」
「商売繁盛はいい事じゃん。でも、あたし明日は仕事だから手伝えないよ?大丈夫?」
「なんとかするさぁ。なぁ、母さん。」
「何とかならないときは出勤前ぎりぎり手伝ってもらうさ。なぁ弓弦。」
「結局手伝わされるのか。(笑)」
「ひかりも明日は大変だわ(笑)」
「ていうかさ、弓弦?」
「なに?」
「携帯見た?」
「怖くて見れないさ、槙村さんの電話切った時もピカピカ光ってたし、
さっきも着信音なってたし怖くて怖くて。」
「でも、仕事仲間と指名のお客さんには返さないと大変よ?」
「そうなんだけどなぁ・・・・・」
「さぁさぁ。夕飯は食べたのかい?」
「まだだよ?」
「さっきさ、隣の森本さんがさお前たちにって魚を届けてくれたんだよ。
TVのニュースを見たくちだね。どうしても食べてっていってさ、おいてったんだよ。
今はまだ夜だからいいけど、明日が怖いね。食べないようだったら、
明日お店で出すけどさ。」
「えぇ?どうするのさ、こんな大きな魚。4人じゃ食べれないんじゃ?」
「そうだねぇ。で、とりあえず半身は刺盛りにしたけど?」
「食べるっ。ひかりおなかすいたよなぁ。」
「うん、ご飯。ひかりもおなかすいたぁ。
弓弦、洗濯物はランドリーにおいてていいよ、あたしがやるから。」
「ありがとう、とりあえず着替えてご飯だ」
「おーい、弓弦。」
「何?伯父ぃ」
「久しぶりに吞むか?」
「あ。のむのむ!何か珍しいの手に入れた?」
「今日は`赤´と`金´さ。お土産にもらったんだ。吞むか?一緒に。」
「呑むー!待ってて!」
そういってひかりの家では夕飯が始まった。
家の明かりが入ったころ、弓弦の友人たちや近所の知り合いや
`こんばんわぁ´のあいさつと共に玄関の戸が開く。
みるみる間に玄関の土間には来るが沢山あふれかえった。
今日のその話とかで盛り上がってわいわい騒いでいる。
すると隣もの森本さんまでその騒ぎに気が付き、押しかけた。
ひかりのうちではにぎやかな夜が更けていく。
久しぶりのこの賑わい、弓弦もひかりもみんな笑顔。
伯父も伯母もバタバタだけど始終笑顔のまま時が過ぎていく。
「弓弦?」
「あに?」
「弓弦、久しぶりに吞んでるから酔ってるでしょ?」
「そだなぁ。」
「弓弦は味覚が劣るからって吞まないんじゃなかったっけ?」
「今日は別。赤だぞ?こんな手に入らない貴重な焼酎。
呑まないんじゃなくって、美味しいのしか口にしないんだって。」
「お酒でもおいしいとかあるんだ。酔っぱらうとわかんないんじゃない?」
「わかるさ。」
「でも弓弦?」
「なにさ。」
「忘れてる。」
「何を?」
「ご贔屓さんにメールの返信。」
「あちゃ(汗)」
「へべれけになる前に、返そうよ。」
「そうだなぁ、意識がある今のうちか。」
「もしかして意識なくなるまで吞もうと思ってたの?」
「いいじゃん、たまには珍しい事だろ?」
「それよりも早く、遅くなったら気まずいでしょ?」
そういうと、弓弦は携帯をとりに部屋に戻りバッグの中を探した。
ない。携帯がない。弓弦は`やばっ´とおもい、
部屋からランドリーから片っ端から探して回る。その時点で酔いがさめた。
最後、車?と思いガレージまで足を向けた。
すると、運転席の下に携帯が落ちていた。それに気づき見つけると
弓弦は携帯を見つけ安心した様子で部屋に戻る。
その携帯へのメールのすさまじい事。早く返し始めればよかったと後悔する。
そしてみんなのいる場所に戻るとひかりがお帰りと言った。
「おかえり。あった?携帯」
「あぁ、あった。あったけど見たくない(笑)」
「そんなに?」
「あぁ。どうしよう。」
「とりあえず、同じ文章で返せるところは一斉送信したら?」
「そうだなぁ。どうにかしないと。まぁメールはPCからでもいいよね?
お店からも着信が入ってるよ(汗)」
「早くしないと。」
そうせかされて携帯とにらめっこし始めた弓弦。
「お疲れ様です、原田です。」
「あぁ、お疲れ様。休みなのに連絡を入れてすまんな。」
「いえ、オーナーどうしたんですか?」
「それがな先ほどまで連絡がきたらって待っておられたのだが。」
「もしかして山本社長ですか?」
「よくわかったなぁ。そう山本さんが来られててな。弓弦に話があると言われて。」
「もしかして来週まとめて休みをってですか?」
「誰から聞いた?」
「山本社長の所のタレントさんで槙村さんから電話でお聞きしました。」
「そうか、それなら話が早い。」
「オーナー。本当にあたし?」
「それがなこの話は誠から出てるんだぞ?」
「なんでですか?」
「もしかしてお前忘れてたのか?今日の話し合いは知ってて欠席したんだと思ってたが。
本当に忘れてたみたいだな。でも誠からは聞いてたんだろう?
チャリコンの件。弓弦・・・・・踊って歌うんだぞ?」
「真面目にmartinを5人でやると????」
「お前がいなかったから多数決で決まったらしいよ。」
「まじでですか?」
「誠と貴志・真志・俊哉・弓弦でmartin。決定だそうだ。」
「で?」
「その話を誠がさ山本社長にしたら喜んで、来週の沖縄に
お前たちを同行させて、練習を一緒にと言われた。」
「あちゃ・・・・・。」
「そんなに嫌がるな、本物と一緒に練習するなんてめったにないぞ?
しっかりと練習したらあとは本番だけだ。」
「そりゃそうですけど。」
「`mask´から出すにも、きちんと完成しないとみっともないから。」
「そりゃそうですけど。」
「んじゃ、決定事項だからその報告だけ。」
「ほかの人にその話ししました?オーナー」
「いや、知ってるのはお前ら5人と山本社長ぐらいか?」
「槙村さんも知ってたし。」
「そりゃ山本社長からの話で知った人もいるだろう。
今日のニュースで、お前はちょっとした有名人だからな。」
「オーナーも見てたんですか。」
「いやいや、弓弦の心意気、心底惚れたよ。」
「またまた。褒めても何も出ませんよ?」
「明日からはお前も忙しいな。」
「まいりましたよ。mailがすごくて。
単に人として当たり前なことしただけなのに。
それに内緒のお休みが(汗)正直明日が怖いですね。」
「でもそれもお前の人柄だ。堂々と出勤して来い。俺も鼻高々だよ。」
「なんだか、恥ずかしいなぁ。」
「まぁ、今日はゆっくり休んで。おやすみ、弓弦」
「お疲れ様です、オーナー。」
そういって電話を切るとひかりにに明日は朝から大変だと伝えた。
真面目に山本社長が弓弦たち5人を連れて沖縄に行くと。
そして、お前も映っていたからきっと会社でもすごく騒がれると。
でもひかりは弓弦がますます自慢できると大喜び。
とりあえず、ひかりも赤霧島で酔っぱらっているのか気持ちよくなっている様子。
「伯父ぃ。あたし部屋に戻るね。ひかりも寝ようよ。」
「え?もう寝るの?」
「酔っ払いは寝ないとな。明日もあるんだし。」
「えぇ。まぁだぁ。」
「あたし知らないよ?」
「意地悪だなぁ。」
「あたし部屋に戻るね、伯母ぁ。酔っ払いになる前に
メール返さないとさ、まずいし。誰も部屋まで運べないでしょ?」
「そうだねぇ。見かけによってお前は重いからね(笑)」
「そこまで言う?とりあえず、寝るわ。弓弦と一緒に寝るっ!お休み。」
そういって部屋に上がる弓弦とひかり。
弓弦は部屋の戻ると、また携帯のmailを確認するように見直していた。
`弓弦、お疲れ。見た見た。そういわれるとあまり好きじゃないんだよな。
だけどすごいな。お前の友達でよかった。´
`こんばんわぁ。今社長からの連絡でmailしました。来週ご一緒ですね。
楽しみです。また明日でもお店に行きます。´
`お疲れ様、今日は休みだったかね?
明日早いが開店と同時に、お邪魔しようかと思っているが
大丈夫かね?連絡を待っているよ。山村より。´
`弓弦。お前さ、いい加減女になれよ。
お前の姿見たら、誰にも渡したくなくなった。
でも、素直に人を助けれるお前はすごいな。お前がますます好きになったよ。´
`こんばんわ。弓弦さん、今日の弓弦さんを見て
きれいだったなぁって素直に思いました。
来週はご一緒できると信じていますよ。楽しみにしています。
それと明日花が届くと思いますが、受け取ってくださいね。
俺ら5人からの気持ちです´
`弓弦。明海だよ!やっぱり弓弦だね。全然変わらない。
弓弦は男だったらレスキュー隊に入ってたかなぁ。
でも、泳ぐ速さも劣ってない。すごいわ。
この人あたしの同級生って、お母さんたちに自慢しちゃった。
また、お邪魔するね。お仕事がんばって!´
`弓弦さん、あまり男っぷりあげないでくださいよ。
来週は一緒に沖縄なんですからね?貴志や俊哉もいるんだからさ。
先輩、女磨きしましょうよ。では、真志より。´
そういったメールがたくさん入っていた。
とりあえずのメールを返した後、ちゃんと同じ返信をできないものだけを
返し始めた。
`西村先輩。こんばんわ。
弓弦は弓弦です。ただ、自分が助けなければ
その子は息絶えたかもしれないし、当たり前のことです。
それがかっこいいとかいろんなことにつながることとは思っていませんよ?
そうそう、来週はお店にはいませんから。
オーナーの命令で沖縄行なんです。すみません、そのうち顔だします。´
`こんばんわ、山村様。明日は大丈夫です。
一番ですね、腕によりをかけてお相手させていただきます。
それと来週はお店にはいないので、そのご報告も。
明日のご来店を心よりお待ちしております。´
`真志、来週はよろしく。
明日の出勤時点で開店は大変になるだろうけどよろしく頼むな´
`こんばんわ、えっと元原さんですよね。
お褒めの言葉ありがとうございます。来週はお世話になります、
よろしくお願いしますね。そしてお花ですか?ありがとうございます。
またのご来店を心よりお待ちしておりますね。メールをありがとう。´
そう返していく間に弓弦は眠りに落ちて行った。
朝、ひかりたちのあわただしい出勤のバタバタで目が覚めた。うるさいやつだなぁ。
と思いながらベッドから出ずにただ窓の外の青空を見て眩しいと。
9時を回るころ、電話が入った。伯母さんが弓弦を呼ぶ。
「弓弦!弓弦!起きてる?藤沢北警察署から電話よ?」
「はいはい。今行く。」
そういって着替えると部屋から降りてきた。
「おはようございます、原田ですが何か?」
「おはようございます。藤沢北警察署の永沢と申します。
昨日は、少女を助けていただきありがとうございました。」
「いえ、人として当たり前のことです。
単純にレスキューより一足早く自分がその場に行けるというだけで
飛び込んでまいましたが、少女が助かって本当に良かったです。
本当に良かったですね。」
「実はそのご両親が、今、お見えになられているのですが
どうしても、原田さんにお会いしたいと申されまして。」
「そうなんですか?でも私も今日は仕事なので時間が。」
「手間は取らせることはないのですが、どうしてもお会いしたいと言われてまして。
昨日あなたのことを聞いた警官から書類を見せてもらったんですが
夜の仕事なんですか?どういった・・・・・・。」
「隠すことでもないのですがバーテンダーをしておりまして
銀座の`mask´に勤めているのですが開店までに
いろいろとすることがありまして、今日はバタバタなんですよ。
本当に人として当たり前のことをしただけですから、あまり・・・・。」
「でも、ご両親にしたら娘の命の恩人だ。気持ちはくんであげたらどうでしょう?
とりあえず電話を替わりますが、よろしいですか?」
「えぇ、それは。」
「あの、おはようございます。
昨日助けてもらった娘の父の小川と申します。本当にありがとうございます。
娘は、今日これから迎えに行くのですが怪我も何もなく元気なんです。
原田さんのおかげで娘は元気なんです。ありがとうございます。
娘も、あなたにちゃんとあってお礼を言いたいと言っているのですが。」
「そんなにまで、あんな状況助けて当たり前のことですよ?
たまたま、あたしなだけであって。
でも、本当に良かったですね。海は怖い場所です。
だけど、美しい場所です。怖い思い出だけを背負わずに
これからを元気に精一杯楽しんでくださいと申し上げてください。」
「でも、我々はあなたにちゃんとあってお礼を言わないと
親としても、助けられた娘も気がすみません。
銀座の`mask´と言われましたね。開店にはお邪魔させていただきます。」
「そこまでされなくても(笑)でも、喜んでお待ちしております。」
「一番原田さんに会えると喜んでいるのは娘なんです。」
「でも、娘さんは未成年でしょ。」
「えぇ、だからお店には入れませんが
会いたいと言っておりますので連れて行きます。」
「では、お待ちしておりますね。」
「では、永沢さんと変わります。」
「はい、また後程。」
「原田さん。そしてわが警察署からも感謝状が出る。
それの日程もあとでご連絡を差し上げたいが。」
「いえ、感謝状だなんて。そういうことはいいですよ。
言ったじゃないですか、人として当たり前だって。」
「一応その連絡もあったので、後日お伺いします。」
「しつこいですよ?(笑)でも、そこまで言われるのなら仕方ないです。
またあとで連絡をお願いします。」
「では。」
そういって電話が切れた。その横でおじさんと叔母さんは聞き耳を立てて
にやにやと笑っていた。
「弓弦ちゃん。感謝状だって。」
「弓弦。お前一気に人気者だな。」
「伯父ぃも伯母ぁもおちょくらないでよ。」
そういって珍しく伯母ぁのつくる朝ごはんを食べて出勤の用意をし、
買い出しに行く弓弦だった。
いつものようにシャツを着ていつものように皮パンはいてひかりの弁当を持ち
いつものように家を出た弓弦。
そして弁当を渡すためにひかりの会社の入り口にバイクを停めひかりにメールを入れる。
すると、ひかりが出てこない。ひかりの代わりに、山本社長が走って出てきた。
「弓弦君!弓弦君!ちょっといいかね。」
「どうしたんですか?社長」
「ひかり君の弁当は受付にあずけたらいいさ。」
「どうしたんですか?社長。あたし急がないといけないんですけど。」
「いや、すぐに終わるからさ。持っていてもらわなければいけないんでね。」
「何をですか?」
「そう用心しないでも大丈夫さ、とにかく中に入って。」
「社長・・・・。」
そういって弓弦を社屋に連れて行った。
「江藤!江藤君、契約書はどこだ?(笑)」
「ちょっと待ってください、それって????」
「弓弦君のマネージメントはうちがすることとなった(笑)」
「うっそ。あたし女ですよ?無理ですって。絶対無理っ!」
「取締役会で決めた。本人の意思も尊重するが
西村君の所に行かれると非常に悲しいものがあるからな(笑)」
「まじでですか?だってあたしタレントにはなりたくないです!
その意思は尊重されないんですか?」
「冗談だよ(笑)そんなことしたら西村君から苦情が入る。」
「いや、社長。真面目にどうかしたんですか?」
「とりあえず、私の部屋に。」
そういって、社長室に弓弦は連れて行かれた。
すると、ひかりもそこにいた。
「とりあえずな。びっくりするぞ?」
というと、別のドアから入ってきた人がいる。
「あー。藤沢北警察署の所長の水沢さんだ。」
「あ。今朝はどうも、電話では失礼しました。」
「いや、朝からすまなかったな。」
「感謝状の件は、おおっぴらにならないように、お願いしたいのですけど。」
「いや、それはそれだ。多分にTVとかが入るからそれが嫌なのかと。
で、山本君と私は幼馴染でな相談したってわけだ。
そしたら君のことを知っているよというんで、どうしたらいいか相談したんだよ。」
「弓弦君の昨日のは私も君の店で聞いたんだが、偉かったなぁ。
自分の危険も顧みずに飛び込むとは。」
「山本社長?それは違います。弓弦は長崎の高校にいるときに
高校の全国大会に出るぐらいの経験者ですよ?」
「そうなのか?」
「普通ですよ。体力を維持するためには鍛えるしかないですからね。
たまたま水泳部から呼ばれて出たら、全国大会に出てくれないかって。
人数足りないからって出ただけですよ。
まぁ、今もちゃんと体を維持するためにやっていますが。」
「そうだったのか。でも素晴らしい、人柄といい努力することはよいことだ。
ますます、感謝状は渡したいな。」
「恐れ多いです。そんな大した人間ではありません。」
「しかし私はここに感謝状を持ってきたよ。受け取ってほしくてな。」
「弓弦君。ここでならいいだろう。ここでなら知っている人間しかいない、
恥ずかしがることはないだろう?」
「でも」
「いいから、さぁ。」
そういわれると、警察署長からの感謝状と金一封を渡された。
挨拶が終わり少しだけ話をしてから弓弦とひかりは社長室を出た。
するとその階の廊下を曲がると秋山さんらがいた。
「やぁ!弓弦さん。今日は社長室で何があったのさ。」
「いや、ちょっとね。」
「知ってるよ。弓弦さん!昨日映ってたもんなぁ。」
「いえ。あれは・・・・・・恥ずかしい。」
「恥ずかしがることないじゃない。弓弦さんなんだし。」
「意味深だなぁその言い方、にやにやしているし(笑)」
「あれじゃぁ、西村さんも手元に置きたいわけだ。
あんなの見ると、不安になってしまうよ。」
「どういう意味ですか?(笑)」
「危なくて。危なくて。怪我したり事故に巻き込まれたり。」
「そっちの方での心配ですね?それは大丈夫。いつも鍛えてますから。」
「そっちもだけど、誰かにさらわれてしまう心配もさ。」
「あぁ。それはあり得ない、絶対にありえないですよ。」
「弓弦さんがその気がなくても、周りは大ありですよ?
いろいろと聞きましたもん。昨日。えっと、誠さんって人から。」
「けっ。おしゃべり(怒)」
「弓弦さんは本当に女らしくないから話しがしやすくて好きなんだよなぁ。」
「それ褒めてるんですよね?女らしくないんじゃなくって、
男らしいと言ってくださいよ。それが一番くすぐったいし嬉しい。」
「どこまで我が通ってるんだよ。」
「んじゃ、秋山さん。これで、また今度。」
「あぁ、急いているけど事故には気を付けてな」
「ありがとうございます。」
そういって、秋山と一緒に囲んでいた人たちをすり抜けその場を後にした。
お店に着くと、ほかの人たちも出社していた。
裏口から入って行ったのだが、表の方も忙しいらしく先に来ていた人たちがバタバタとしている。
「どうかした?」
「弓弦さんおはようございます。これ弓弦さんへの花とプレゼントですよ?」
「まじでっ?(汗)」
「で、どうします?これ。」
「いや、どうするって・・・・・・オーナーどうします?」
「どうするって、弓弦。どうにかしてくれよ。」
「とりあえず、物は事務所の控室に。
花は、壁際においてもらって・・・・。花束は、どうしよう。」
「次はどうする?」
「次は、花屋が来たらあたしの家の住所を教えてそっちに回してもらおう。」
「そうだな。とりあえず、誰からの花かチェック入れてからまわそう。」
そう話しながら運ばれる花。店内はその送られてきた花で埋まろうとしていた。
弓弦にみんなが話しかける、昨日の救助を。
別に人として当たり前のことだし、自分が一番その近くにいたから
そうしなければと思って、飛び込んで一生懸命に泳いたんだと。
それよりも驚いているのは、弓弦のその時の姿だ。
やっぱり男じゃないんだと。女なんだから、少しは・・・とみんなが笑いながら話す。
人命救助した男らしい弓弦とニュースに映っていた女の弓弦と
あまりにもギャップが激しすぎでついていけないよなと。
お店にいるみんなが一応弓弦は女んだとは認識はしているが
仕事しているときの弓弦はそういうことも感じさせない。
それがいいんだと。男と女としてではなく素直に働く仲間としての
意識がここでのチームワークを作るんだと。
ざわめく開店前の店内では、花に囲まれて話が盛り上がっていたが
それにもまして、ドアの外ではここを贔屓にしている人たちが
集まりはじめていた。今日の夜のゆっくりとした時間を楽しみに。
そして、自分の贔屓にしているバーテンダーと昨日のヒーローの弓弦に会いたくて
集まり始めた。今日の一日が始まる。
「開店しますっ!」
そういって、いつもは一人の黒服を今日は見習いまで足して三人で入口に立つ。
「ようこそ、我が城`mask´へ」
そういう言葉が続く。昨日よりもいつもよりも少し多いご贔屓さんたち。
そんな中に山村男爵が夫人と一緒に来店される。
「原田君を。」
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ。」
そういうと弓弦に取り次がれ、呼び出される。
「ようこそ、我が城`mask´へ。山村様」
「今日は記念日でな、家内と来たよ。で、弓弦君。君にこれを。」
「ようこそ奥様。男爵にはいつもお世話になりっぱなしで。」
「いえ、主人がよくあなたのことを話すのよ。次はあなたが主人公だって。」
「そうなんですか?」
「そうみたいよ?そしてこれはあたしたちから。」
「そんなことをされては困ります。」
「弓弦。お前は私たち夫婦の子供みたいなものだ。
お前の好みがいまいちわからんが、家内が選んだスパークリングワインだ。
受け取ってくれ。弓弦の活躍に私たちは、鼻が高い。」
「そんな。ありがとうございます。
でも次はこういうことしてはいけませんよ?」
「わたくしたちの気持ちですよ。持ち帰ってあとでゆっくりとね。」
「どうぞ、あちらの席へ。夫妻の記念日に私もご一緒したいので、さぁ。」
「ありがとう。」
「えぇ。ありがとう。」
そういって、席へ連れて行く。
山村夫妻をもてなしていると、次々とメールや電話が入り
他の席の人までが弓弦と話がしたいと呼ぶ始末。
弓弦のフォローに貴志と真志がついてくれてたために
ある程度の挨拶はできていたが、あちこちで人気である本当に。
「弓弦さん。花屋が来ています。」
「はい。」
「てかびっくりしますよ?」
「なんでさ。」
びっくりもびっくり、花屋が3人で抱えているバラの花。
「特注での配達です。お受け取りのサインを。」
「誰から?」
「こちらの白い大きなバラの花束はM`scompany 槙村様です。」
「それと、こちらの赤いバラの花束は、西村様とだけ。」
「もう一つのカラフルなバラの花束はUnionMartinの皆様からです。」
「目立つなぁ。とりあえずサインはする。でもこれどうしようか。」
「花屋さん。聞いていい?」
「なんでしょう。」
「花言葉は?」
「白いバラは《あなたと私はお似合いだ》で
赤いバラは《俺の愛と受け取ってほしい、
または俺の情熱を受け取ってほいしい》。
バラの花ことばは一般的には《無邪気なあなた。美しいあなた。》とかですね。」
「どんな顔して彼らに会えばいいんだ?」
「どうしますか?弓弦さん。」
「人の困っているのがそんなに楽しい?」
「そういうわけではないですが、
そういう状況を作ってしまっている弓弦さんが困ってると
本当に笑いが止まらないですよ。」
「んもぅ。」
「この花どうしよう。て言うか、事務所の花も。」
「弓弦さんはどうしたい?」
「貴志ぃ。」
「なんですか?弓弦さん。」
「貴志ならどうする?」
「俺なら・・・・・。流れる人並みにどうぞと言って配る!
俺ら`mask´の人間だし、それこそお店に立ち寄っていただけるなら
ナイトな雰囲気を醸し出して、配るな。」
「おぉ、それグッドアイディア。やる?」
「いいねぇ。やる!」
「真志、ほかの手の空いている人も呼んで手伝わせろ!」
「yessir!」
そう決めると、弓弦は手の空いているみんなを表に集め
自分がもらった花をすべて持ってこさせた。
「これから、この花たちを行きかう花に配れ!
配った先は、お前たちの贔屓となるかもしれない。
自分のこの人と思った人に一輪づつ手配りだ!」
「yessir!」
そういうと、みんな片腕に花束を抱えあちこちに散り配り始めた。
自分をアピールする練習にもなるし、顧客を作るきっかけにもなる。
そんなきっかけを自分事で作れるとはと
弓弦はドアのそばでうれしい顔をして見つめていた。
見る見る間に花は片付いて行った。
「弓弦君、いいのかね?君のための花だぞ?」
「あたしのために贈られたきれいな花たちだけど
自分のために生かせることができたのであれば花も本望。
そう思いませんか?オーナー。」
「まぁ、お前が決めたんだ。花を送った人たちも
粋な使い方をしたと反対はしないだろうが
きちんとお礼のメールや電話は入れておくように。」
「yessir。オーナー。」
店内に入ると、また静かな時間が戻る。
「弓弦さん、指名入りました。」
「はい、ただいま。」
そうその日は忙しい日となった。そんな`mask´も23時を過ぎると
人が減り少し余裕が出てきたところでその日は閉店した。
その閉店した中で、突然誠がみんなを集め話をすると言いだした。
「今日は早めの閉店となった。それで、この間の話し合いで決まったことを
改めて話すこととする。次の者、前へ。貴志」
「はい。」
「真志。」
「はい。」
「弓弦。」
「はい。」
「俊哉。」
「はい。」
「このメンバーで恒例の銀座のチャリコンに出ることとなった。
でだ。来週M`scompanyの社長の山本さんのご厚意で
この5人は沖縄に行くこととなった。10日間だ。
帰ってきた二日後本番となるが、きっちりと練習をしてくる。
単に沖縄旅行ではないので悲しいが
代表で上がるのでそれだけのことは恥ずかしくないように詰めてくる。
この10日間、弓弦をはじめ顧客が多いのを連れて行くので
お店の方が大変になると思うが、その辺のフォローを頼んでいく。
頑張って切り盛りしてくれ。
それでだ。
各自が考えている自分の顧客の氏名を任せたい人を指名してくれないか?」
「大変だ、任される人間は(笑)」
「弓弦。弓弦はお前の顧客は誰に任せる?」
「そうだなぁ。健と峻に願おうかな?お前たちなら大丈夫?」
「大丈夫です。弓弦さんの名を汚さないように頑張ります!」
「健と一緒なら、俺も大丈夫。頑張ります!」
「貴志。お前は?」
「なんだか弓弦さんにいいとこ持ってかれたなぁ。賢一と和希に頼もうかな。OK?」
「貴志さんのいない間努めます!」
「和希と一緒かぁ。頑張んなきゃなぁ。」
「真志は?」
「俺は、航と浩平で。」
「こいつとですか?」
「お前たち仲が悪いが仕事は二人綺麗だもんな。
俺の客にきれいな仕事を見せてくれよ?」
「俊哉は。」
「俺の客は少ないですが、出来れば・・・・・広夢と雅隆に。」
「全然少なくないじゃないですか。でも広夢とならOKです。」
「誠さん?誠さんの代わりは?」
「弓弦。俺の客は、ひとひねりある人ばかりだから
オーナーが直接相手をするそうだ。(笑)」
「そうなんだ。なら大丈夫だな。」
「ということで、俺ら5人来週からいないので後をよろしく頼むな。
連絡事項はこれだけだ。顧客に対しての引き継ぎはそれぞれ頼む。
では、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
そういってその日は閉店後の話で決定的に秋山さんらとの沖縄行きが
義務付けられたように報告された。
「ねぇ、誠さん。」
「なに?」
「あのさ、なんで?なんであたし?」
「話し合いサボったし(笑)単純にお前は翔太に似てるから(笑)」
「それだけ?」
「なんでだ?」
「でもさ、もしかして大勢の男の中に一人だけ?」
「ん?お前は男でもないが女でもない(笑)弓弦だ。そうだろ?」
「もう。でも一応女なんだから部屋は別なんでしょ?
話を決めた誠さんだ、きちんとしてくれるんでしょ?」
「仕方ないなぁ。とりあえず、あとでスケジュールのプリントを作って
明日でも渡すよ。明日朝から山本社長に呼ばれてるのさ。」
「それあたしも一緒じゃだめ?」
「起きれるか?」
「多分大丈夫、どっちにしてもひかりに弁当届けるから行くし。」
「そっか。なら明日13時に。」
「OK。んじゃ、また明日。誠兄さん、good night。」
「あぁ。good night弓弦。そういわれると手が出せないな(笑)」
「おはようございます。」
「おはよう弓弦。」
「時間通りだな。でもお前その恰好(笑)」
「だめっすか?来れ通勤のいつもの格好なんだけど。」
「だめとは思わないがそれはちょっとな(笑)」
「やっぱり駄目?でも、もう遅いです。」
「仕方ないなぁ。んじゃいくか。」
「はい。」
そういってM‘scompanyに乗り込んだ。
もちろん入口にはひかりがいる。
「弓弦?ここまで入ってくるの珍しいね。」
「ひかり。はい、お弁当。今日はひかりの大好きなエビを入れておいたよ。
今日は和風弁当。少し多めだからゆかりさんたちとも仲良くね。」
「ありがとう、楽しみに食べるわ。で?今日は?」
「おはようございます。今日は山本社長に呼ばれてきました。」
「誠さんも一緒だったんだ。」
「なかなかお店以外の場所では会わないもんな。
今日はこちらの社長と打ち合わせなんだけど。」
「はい、伺っております。どうぞこちらに。」
そういわれて奥の部屋に案内される二人。
わかっている人間には、それなりに見えるのだろうけど
知らない人には男2人。なんだろうという怪訝な顔で二人を見ている。
`コンコン´
「社長、相原さんと原田さんが来られました。」
「どうぞ、こちらに。」
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
「紹介するよ。まず、相原誠君。そして受付嬢のいとこにあたる原田弓弦君。」
「相原です、よろしくお願いします。弓弦、サングラスとって。」
「原田弓弦です。よろしくお願いします。」
「あぁ、翔太。じゃなくて弓弦君?」
「あはは。弓弦君じゃなくて弓弦さんだ。」
「メンバーたちの自主練に少しやる気と闘争力を持っていただくために
参加だけのため連れて行く。この2人のほかにあと3人いるが。」
「そうなんですか?」
「君らはそれに参加だけしてくれたらいい。それが条件だよ。
しかし、うちの目が光った場合引き抜きがかかるから(笑)」
「社長、それは聞いてません(笑)」
「弓弦君たちには話してないなぁ、というか話せないな。」
「あたしが知りたいのは、社長。」
「なんだ?」
「誰が行くのかということなのですが。」
「副社長と秋山君とC&Cの5人、悠太と翔太だったか?」
「本当ですか?C&Cの方は全員?」
「そして君らは5人、誠君が言うには銀座のチャリティーコンサートに出るんだそうだな。
それの練習を見てもらうという条件で一緒に同行というのを
のんでもらった。取り合えず公平な取引と思うが。」
「10日間のうち、2日でステップなどの基礎をたたき込む。
で、残りの5日間でふりを覚えてもらう。2日間あるがそれはお休みだ。
世の中は週休2日だろ?」
「完詰じゃないんですね、良かったね弓弦さん。」
「なんでよかったんですかっ。」
「ん?なんでって、泳ぎに行けるじゃないか。」
「やぁですよ、日焼けしたくないですもん。」
「この間のを見せられていると、多分泳がないとは言えないように
仕向けられると思うけどな。」
「やだなぁ・・・・・」
「とりあえず、社長。弓弦が気にしているのは泊まるところなのですが」
「わが社の寄宿舎だよ?駄目かね?」
「もしかして社長。男ばっかり?」
「あぁそうだよ?」
「・・・・・・・・・・・・社長、あたし別にホテルとりますから。」
「なぜだ?君にはナイトの誠君や貴志君がいるじゃないか。」
「あいつらも男です。ナイトじゃなくって野獣です(笑)」
「おいおい(汗)ナイトだろ?ナイト!」
「まぁまぁ、うちの子らも弓弦君狙ってるのはいるらしいが
一番は私だ。私が一番あの店からこの会社に君がほしんだがな。
君はタレントは嫌と言っている以上無理強いはしない。
それが、男だからな。」
「ありがとうございます。社長。」
「まぁ、寄宿舎の方に泊まれるように弓弦君の部屋は私がどうにかしよう。」
「お前も我儘だなぁ。そのわがままさはお姫様だぞ?」
「あはは。しょうがないじゃん。」
「とりあえず、顔合わせは済んだ。あと細かいことは二人と詰めてくれないか。」
「はい、わかりました社長。では。」
そういいながら、別室に移動し沖縄行の詰めを話した。
「あのさ、誠さん。」
「ん?」
「少し心配だ。」
「なんでさ。」
「無事に帰れるかがさ。」
「どういう意味?」
「そういう意味。」
「大丈夫さ、言ってたろ?ナイトだぜ、ナイト!」
「それが一番不安だ(笑)」
「お前、水着忘れんなよ?」
「詰め込みだろうから、休まず練習だよ、きっと」
「それは絶対却下!ダイビングもしたいし、沖縄だ!
海に行って楽しまないとやる気ないぞ。」
「あたしは、焼くのが大嫌いだから海だけは却下さ。」
「そういうなよぉ。お前以外はみんな楽しみなんだからさ。」
「沖縄が?海が?」
「お前の水着が(笑)」
そう冗談を言いながら、話が始まるまで冗談を言いながら話をしていた。
すると少し??と思ったのか、弓弦がこれはお願いなのですがと
口を開いた。
「あの、秋山さん。そして誠さん。
私事で少しお願いがあるんですけど、いいですか?」
「なんでしょう?」
「あの、せっかく日程をとって沖縄まで行くのだから
10日間のうちの一日だけ早く沖縄を後にしたいんです。
で、一日は有給を別にとるので一日遅くこっちに帰る予定となるのですが
長崎に立ち寄りたいんです。恩師にお礼を言わないとと思い
もう2年がたってしまいましたから。」
「すると、原田君だけ一日早く沖縄を出立し
みんながこっちにつく日の一日後に帰ってくるんだな?」
「大丈夫か?一日だけしか練習する時間ないぜ?」
「誠さん、その分がんばるから。」
「そうかぁ。」
「でも、一日早く引き上げて長崎によることは誰にも言わないでくださいね?」
「なんで?」
「ついてこられると嫌だから。」
「じゃ、俺は時間あるからついてこうかな?」
「秋山さんまで。仕事してくださいね。あたしの私用ですから。」
「つまんないなぁ。でも、、水着は忘れないように。」
「秋山さんまでそういうこと言っちゃだめですよ。目論見が(笑)」
「でもさ、あたしとか誠さんが秋山さんたちの所の宿舎に泊まったら
まずいんじゃないですか?」
「そうだなぁ。でも、デビュー前の研修生ってことででもいいんじゃね?」
「そしたら宿舎の前の浜で遊べるし。ね。加藤主任。」
「そうですね。とりあえず、相原さんたちのスケジュールと
原田さんのスケジュールは一部変えますね。
で、こっちから行くときは一緒に行きますか?」
「迷子になると困るのでご一緒できるならそのほうが。」
「では、行きは一緒でチケットが取れ次第連絡を入れますね。」
「向こうでのことはお任せします。
やはり弓弦は女なのでそれだけ気を付けていただけたらそれでいいです。」
「そうですよね。男と女の扱いの違いは仕方のないものですものね(笑)」
「あの、秋山さん。」
「ほかの人は男だからいいですけど、あたし女ってわかりますよね、きっと服装で。」
「わからないように努力する?」
「胸は隠せませんし、夏だし。」
「男ものっぽいジレを羽織れば?」
「弓弦、さらしまけっ(笑)」
「誠さんったら他人事だと思って。」
「だって他人事だろ?努力努力(笑)」
「もぅ。」
「その長い髪も多分なぁ。暑いぞ?」
「やっぱり切り時かなぁ。ここの所、切ろうか切るまいか迷ってたんだよなぁ。」
「それなら今下の階にメイクさんたちがいるから切ってもらう?」
「いいんですか?」
「多分おもちゃにされるがな(笑)」
「その分ただでしょ?」
「我慢できる?」
「我慢・・・・・・努力します。」
「んじゃ、加藤主任。下の部屋に連絡入れて弓弦さんを下に連れてって。」
「はい、わかりました。いいんですか?こんなに長いのに。」
「切りに行くのが面倒だったし、美容室に入れないし(笑)
この数年、毛先の手入れぐらいしかはさみいれなかったんで
この際いいです、切ります。」
「弓弦の男っぷりが上がるのを見れるなぁ。」
「待ってな。誠さん(笑)」
「その間、細かいことを決めましょう。そのうちmartinのPVを用意しますから。」
「じゃ、弓弦さん行きましょう。」
「えぇ。」
そういうと部屋を出て、弓弦は加藤と一緒に下の階へ。
メイクさんたちが集まってる部屋に入ると、うるさくて。
「えっと。薫さーん、薫さんいる?」
「はいっ!こっちこっち。準備OKよん。」
「んじゃ、こっち座って弓弦さん。」
「すごーい、すごく長いくるくる。もったいないわ。」
「原田さんいいの?薫さんの顔が獲物を狙ってる顔だわ。」
「こんなに長くてきれいでこれにハサミいれるのすごくウキウキ。」
「短くお願いします。」
「薫さん、原田さんの希望は男っぷりを上げてほしいとのこと。
よろしくお願いしますね。」
「いいの?本当に、思いっきり。」
「えぇ。思いっきり行ってください。」
「でもすごく翔太君に似てるのね。翔太君にする?
短いけど襟足とか前髪・TOPを長めにして。」
「翔太さんになっちゃうと、外歩けなくなりませんか?」
「思いっきり見せたほうが不信感はぬぐえますよ?」
「似合うかなぁ。」
「大丈夫。髪の色をアッシュにしちゃいましょう。それで区別がつくし。」
「んじゃ、お願いします。」
そうやって、弓弦の髪はメイクさんたちの中でも一番の人気の薫に
切ってもらうこととなり、ハサミを入れ始めた。バッサリと。
思いっきり。周りにいるメイク仲間も、あーだこーだと
口を挟み楽しい時間が過ぎていく。
加藤はそのまま弓弦をその部屋に置いて自分の仕事をしに違う場所に移動した。
しばらくして、迎えに行くとみんな衣装さんまで考えてるし
弓弦さんはと尋ねると、化粧までされて本当に翔太に。
「加藤さん、どうしたんですか?」
「いや、真面目に翔太君がいると思っちゃった。」
「鏡を見せてくれないんですよ。」
「鏡を見せたら弓弦さん卒倒しちゃうわよ?」
「まじで?」
「もうすぐ終わられるから、さっきの部屋に行きましょう。」
「なんだか不安だなぁ。サングラスは?あたしのサングラス。
サングラスしないとここから出れないんじゃない?」
「そうとも言いますかねぇ(笑)」
「そこまでやったんだ。」
そう話しながら部屋を移動する。ドアが開くと秋山も相原も固まってしまった。
「まじか?」
「おまえ。弓弦。真面目に弓弦か?」
「えぇ。」
「加藤、止めなかったのか?」
「弓弦さんがやっちゃってくださいって言ったら
薫さんたち思い存分やっちゃってましたけど(笑)」
「鏡は?鏡は見たか?」
「いえ、まだ見せてくれないんですよ。」
「ほれ。」
弓弦は愕然とした。真面目に翔太だ。
「まじで?」
「あぁ。やられたな、弓弦さん。」
「ここまで。」
「どうしよう。まさか・・・・・。」
「やっちゃったもんは仕方がない。弓弦さん、頑張ってな。」
「PVも翔太の所を気合い入れて練習な。」
「いいじゃん、沖縄。翔太いるし一対一で練習して。」
「そんなぁ。」
「開き直りだ、開き直り。いいじゃん翔太だもん。」
「切っちゃったんだもんなぁ。延びるまでの我慢かぁ。」
「エクステつけちぇば?」
「んな、女々しい。」
「おぉ、男らしいねぇ。」
「なんだか複雑だわ。お店に出ても帽子かぶろう。」
「そのまま帰るわけじゃないし。買い出しは誰か連れていけ。」
「しょうがないもんな。なれるまでの我慢か。」
「とりあえず、今日はそれになれる心意気で。」
「秋山さん。そこで何笑ってるんですか?」
「だってさ、翔太が見たらと思うとさ。そう思うとおかしくってさ。」
「誠さん、話は終わりました?あたし早く帰りたいんですけど。
ここに居たら次は誰がドアの外に立ちふさがるかが心配。」
「あははははは。お前自分がそうしたんだろ?もうあきらめれさ。」
「そうなんだけどさ。」
「ひかりさんだけはお呼びしますか?」
「そうだな、加藤。受付嬢・ひかり殿を(笑)」
「ひかりに?秋山さん、あたし裏から帰ります。呼ばなくてもいいです。」
「遅いな。」
「ゆ?弓弦?」
「あ。」
「弓弦なの?弓弦・・・・ばっか。お任せにしたらそうなるって決まってるじゃん。
弓弦本当におバカ(笑)」
「ひかりまで。」
「仕事に行こう弓弦。とりあえず、それになれなきゃな」
「んじゃ。帰ります。夜があるので買い出しに行かなきゃ。」
「では、よろしくお願いしますね。」
そういって部屋を出てすぐにヘルメットをかぶり表に向かう。その日の仕事のために。
後ろで秋山さんと加藤が笑っているのが聞こえる。
エレベーターを降りると、受付にいるゆかりさんらもこっちを見ている。
「弓弦さん。もうお帰り?」
「あぁ、ゆかりさん。買い出しがあるからさ。」
「今日はうかがってもいいかしら?」
「えぇ、どうぞ。お待ちしております。」
「じゃ、夕飯食べ終わる頃の時間を後でメール入れますね。」
「はい、承知しましたお姫様(笑)」
「んじゃ。」
「ねぇ弓弦さん待って。」
「なんでしょう。」
「それ取って。」
「え?」
「ヘルメット!」
「だめです。今日のお楽しみということで。」
「今は来客もいませんし、ねぇ。」
「一瞬だけですよ?」
そういってヘルメットをとって、即かぶった。
「弓弦さん。髪の毛、寝起きの翔太君みたい(笑)」
「切ったからには仕方がないです。なれるまで我慢しますよ。」
そういって社屋を出て帰って行った。
お店に行ったらみんなが目を向けた。
来たのは弓弦?それとも?と。そりゃびっくりだよなぁと
そう笑いながら誠さんは言ったが弓弦は笑ってがんばるさっと笑った。
その日は、PVももらってきてたので5人でそれを見ることに。
開店までは時間があるしとお店のでかいTVで見ることとなったのだ。
「これやんの?」
「ほんとに?」
「お前さ、これの難しさわかってる?」
そう誠が責められている。
「ねぇ。」
「なに?」
「あたしは翔太君だよね?」
「あぁ。」
「できない(笑)」
「翔太君のできないとは言わせない(笑)髪型まで一緒にしたんだからな?」
「でも。あんなにすごいダンスなのに、それでも歌ってる。」
「お前ならできるさ、一日早く帰る分一対一で詰めて出来上がらせな。」
「わかった、出来るところまで。」
「PV見終わったら開店。ださぁ、今日も一日頑張ろうな!」
一日の始まり。お店が開店する。
今日の始まりもにぎやかな始まりとなった。
そんな日が数日続いた後、出発の日が来た。
予定の方はその前々日にはできていたのだが、
出発の日飛行機の時間がこんなに早いとは思わなかった。
「おはよう、弓弦。今日は沖縄だね。」
「ハードな予定なんだよね。」
「そうだ。秋山さんがさ、沖縄についてからプレゼントがあるって言ってた。」
「なんだろう。」
「それは沖縄についてからのお楽しみだそうよ。あたしが話していいのはそこまで。」
「伯母ぁ!時間間に合わなくなっちゃう、早く!」
「わかっているよ。ちゃんと荷物は持ったのかい?」
「ちゃんとそこのスーツケース2つのせて!」
「弓弦の荷物だろ?自分でのせな!」
「ひかり、着いたら電話するね。」
「行ってらっしゃい、偽物君(笑)」
「もぅ。行ってきます。」
空港に7時集合を弓弦は10分遅刻した。
余裕をもって集合時間を決めておいてよかったと
誠は思っていたが誠自身も危なかった。ぎりぎりの到着だったのだ。
「おはようございます。点呼をとります。」
「秋山。」
「はい。」
「大宮。」
「はいな。」
「一哉。」
「ほい。」
「あきら。」
「はい。」
「圭一郎。」
「・・・・・」
「圭一郎!」
「ふぁい。」
「渉!」
「はい。」
「誠さん。」
「はい。おはようございます。」
「貴志さんと真志さんは?」
「ここにいます。真志はお手洗いですよ。」
「俊哉は?」
「はい。」
「弓弦!」
「いないじゃん。」
「まじで?」
「弓弦!」
「まじでいねぇじゃん。」
「誠さーん電話電話。」
「ごめーん。」
「来たよ、まじ遅刻は勘弁だよ。」
「弓弦さん、遅刻です。」
「すまん(汗)」
「罰ゲームありますから、よろしくね?」
「えぇ。それはご勘弁を」
「勘弁しませんよ?」
「んで、悠太と翔太は?」
「ここにいますよ。」
「じゃ、手続きしましょう。座る場所はどこでもいいでしょう?」
「あたしは窓側がいいな。」
「んじゃその隣はじゃんけんで。」
「なんか危ないなぁ・・・・・。」
「手荷物はこっちにもってきて。」
「弓弦さんの荷物多くない?」
「気持ちは男でも体は女だから仕方ないじゃん。」
「さぁさぁ、手続きやっていそいで!」
それぞれ順番に搭乗手続きを済ませ移動する。
移動するのにも、このタレント達とだから周りはすごい大騒ぎ。
空港の方からも気を使ってくれたのか、大きく騒がれないように
すべてファーストクラスの方へ案内。静かな移動となった。
「ねぇ、弓弦はどこ?」
「誠さんここ。こっち!」
「隣に行きたいけど、隣りは・・・・。」
「槙村さんが座っちゃった。助けてよ。」
「なんで助けてとか言うのさ。楽しもうよ、楽しくさ。」
「座ったが勝ちなことろもあったからなぁ。」
「とりあえず、沖縄までだから。」
「秋山さん、沖縄までよね?」
「沖縄に着くとバスが来てるはずだから、荷物を受け取ったらバスに乗り込んでね。」
「なんだかバスの中も危なそうだ。」
「危ないと思ったら、俺の横に座ればいいじゃん。」
「それもなぁ」
「俺は社長とひかりちゃんにくぎ刺されているから大丈夫だって。」
「そうですか?なら、今槙村さんと変わってくださいよ。」
「槙村、そこ俺指名されてるんだが?」
「え?ここ俺の席ですって。」
「お前じゃないって、弓弦さんが俺指名なの(笑)」
「いーやーだー!」
「だって指名されたもん。槙村、どけて。」
「俺が先に座ったんだもん、いくら先輩とはいえ無理です。」
「なんで?弓弦さんの意志が優先じゃね?」
「もうシートベルトもしちゃったし無理ですよ(ニヤッ)」
「まーきーむーらー!先輩の言うこと聞けないのか?」
「おぅおぅ、こんな時ばっかり先輩風吹かせちゃって。」
「おいおい、こんなところで喧嘩するなよ。渉、秋山さんが一番だぞ?」
「あぁもぅ。いいですよ、いいです。槙村さんがおとなしくしてくれさえすれば
このままでいいです、秋山さんわがまま言ってごめんなさい。」
「そっか、んじゃいいんだな?」
「眠いので、寝ますもん。ついたら起こしてください。」
「えぇ?つまんないじゃん。」
「仕事終わって寝たの26時なんです。まだ眠いに決まってるでしょ。」
「ほら、貴志も俊哉ももう寝てるし。」
「あ。そうだなぁ。」
「ということで、ブランケットもらってください。あたしも寝ます。」
「釣れないなぁ。んじゃ俺もゆっくりとしとこう。」
「ブランケット2枚ね。」
槙村が受け取り弓弦にかける。そのまま外を見ている弓弦の横顔は
すごく不機嫌に見える。本人は笑っていないだけだというが
槙村はその顔がどうしても不機嫌な顔にしか見えない。
外を見ている横顔をじっと見つめる。その視線は全然感じていないのだろうか
しばらくすると弓弦はすやすやと寝息を立てはじめた。
暑い陽射しが差し込む角度になると、弓弦たちは眩しそうに起きた。
「ついた?」
「あぁ、もうすぐ着陸。」
「早かったなぁ。」
「沖縄だ、自分たちだけだと面倒で旅行なんてと思うけど
来たら来たで楽しい気分になるなぁ。なぁ、俊哉。」
「そうですね、南国沖縄。僕始めてきました。」
「真志だって初めてだろ?」
「弓弦さんは?」
「うん、初めて。焼けるし暑いし苦手な地域なんだけど。」
「長崎育ちのくせに沖縄ぐらいで暑いだなんて。」
「育ったところと好き嫌いは別だっ!」
「着陸だ。おりるときは忘れ物がないように。」
「はぁい。」
真夏の沖縄についた。一歩外に出ると一瞬で汗が噴き出す。
みんな汗だくになってしまったがすぐにバスに乗り込み、
バスのクーラーに思いっきりあたった。
そして宿舎までの1時間の道のり、中では楽しく話が弾んだ。
ただ一人、弓弦はやっぱり不機嫌そうな顔で外を見ていた。
「なぁ、弓弦さん。」
「なに?」
「何かあった?すげぇ不機嫌な顔。」
「なんにも?ただ、眠い。」
「眠い?」
「それにさ、眠いし暑いし焼けて黒こげになってしまうのがさ。」
「それ気にしてるのか。」
「なんで?」
「何でもないけど。」
「弓弦さん!」
「なんですか?」
「あのさ、罰ゲーム(笑)」
「今ですか?」
「えぇこれから。」
そういうと秋山はこれからお昼なのだけれど、
ホテルのビーチを貸し切っているとそう言った。
「副社長から話しです。」
「あー。これから宿舎に着く前にお昼の自由行動があります。
まだ宿舎につくには時間がある。で、お昼を食べ
ホテルのビーチを貸し切った。一般人と混じると大変だからな。」
「でだ、これからつく場所でのお昼となる。各自離れてしまわないように。」
「お昼を食べた後は、みんなで泳ぐぞっ!」
「まじですか。」
「あぁ、みんな海パン持ってきた?」
「やったー!お楽しみがこんなに早くに!」
「こんなきれいなところで遊べるなんて。」
「俊哉は本当にお子ちゃまだなぁ(笑)」
「俺だけじゃないっすよ。ほら後ろの悠太さんと翔太さんも。」
「まぁ、みんなで泳げばいいじゃん。」
「弓弦さんは?」
「だから、焼けて黒くなるの嫌ですから引っ込んどきますって。」
「その辺りはぬかりなく、この秋山が準備しました!」
なに?なんだ?もしや・・・・・ひかりっ!
「秋山さん。」
「ひかりに何か頼みましたか?」
「へへへ。とりあえず食事の時にでも。
ビーチを貸し切りにしたのは弓弦さんのためでもあるということ。」
「もう。ひかりと結託して秋山さんはずるいですよ?」
「姿は女でも素晴らしい男っぷりみせてくださいよ、弓弦さん。」
「じゃ、着いたら秋山さん。お昼食べた後勝負しましょ。」
「いいですよ?いや、よくないか。」
「いい勝負しましょうね?秋山さん(笑)」
そう話しながら騒いでいると、ホテルについた。
そうして、みんな着替えだけを下してホテルに入っていった。
「ホテルでお昼、楽しみだ。なかなかないからなぁ。」
「誠さんも独身だから、外でしか食べないでしょ?」
「弓弦ん所は料亭だから気にしてないかもしれないけど
なかなかうまいところってないんだぜ?」
「で、どこら辺に行ってるんっすか?」
「近所しかないだろ。だから豪勢には食べれないさ。給料にも限度があるしな。」
「弓弦さんはその他があるから、あまり気にしてないでしょう?」
「貴志。弓弦の音楽性は西村さんが買ってくれてるんだよ。
それだけの努力は惜しんでないもんなぁ、弓弦さん。」
「西村先輩からは、そんなにもらってないぞ?多額な金額だと、個人申告大変じゃん。」
「でも参加して曲ができると、ボーナス出てるでしょ?」
「少しだけな。でも車やバイクの維持やガソリン代や
保険代で消えているけどさ。でも、ないよりましだもん。
せっかくのバイト代(笑)」
「ねぇねぇ。弓弦さん。」
「なんでしょう?副社長。」
「弓弦君は、なんでもOKだそうだな。」
「何がですか?」
「西村君が言ってたらしいが。
自分の曲でここをとお願いしたところは完ぺきだって。」
「そんな褒めても何も出ないんですけどね。」
「うちの子たちのにも参加してくれたら助かるんだけどさ。
どぉ?機会があったら手伝ってもらえる?」
「その時何もなければですが、西村さんの方が優先ですし。」
「それはそれだ。もちろんだよ。」
「さぁ、席に座って。どこでもいいから。
バイキング形式だから、バランスよく食べてくれよ?」
「いただきますっ!」
その日は雲一つない青空で、その食べているテーブルも
パラソルがささったテーブルでいただいくかたち。
一番の日陰に、弓弦は誠と陣取ると貴志や、真志も寄って来た。
俊哉がいろんなものを取り皿に持ってくる。
果物やパエリアやいろんなものを。それを見て弓弦が変な顔をした。
「どうした弓弦。何しかめっ面してるんだ?」
「え?だってさ。」
「どうしたんですか?ちゃんと食べて下さいね。
弓弦さんの分もたくさん持ってきてるんですから。」
「弓弦?もしかしてお前、ゴーヤ食べれないんだろ(笑)」
「それくいもんじゃねーし。」
「それと豚肉食べれないんだぜ(笑)」
「やめてくれっ。豚は脂がやーなんだよっ。キモイ。」
「お前とんかつとかくわねぇの?」
「誠さん?あんなもんどこがうまいんですかぁ?」
「おいおい、あれがないとかつ丼も食べれないぜ?」
「豚でなくても鶏がある。でもそれもあんまり食べないなぁ。」
「お前贅沢なんだよ。牛も和牛しか口にしないし。」
「肉全般だめだもんな、果物が一番だもん。」
「弓弦さんちゃんと食べないと負けますよ?」
「秋山さんも。しっかりと食べないとスタミナ切れになりますよ?(笑)」
「もうちょっとしたら、試合だ。」
みんな食べ終わるとそそくさと着替えて海に飛び込んで遊んでいる。
秋山も着替えてきた。もちろん誠も槙村も。
翔太も真っ白い肌を焼こうとサンオイルまで塗りたくり
悠太と二人寝転んでいる。
「そうそう。弓弦さんにはこれ。」
そういうとリボンのかかった袋を出してきた。
そして、この人はお手伝いですと笑いながら走って逃げた。
弓弦の顔色が変わる。もしや・・・・・・・。
`弓弦へ。多分荷物には入れて持っていかないだろうと思い
秋山さんに預けました。新しく買ったりプレゼントされるのも
嫌がるし、かといって沖縄よ?泳がないともったいないじゃない。
で、この間洗った後なおしてたのをこっそり
秋山さんに預けました。男ばっかりで気が進まないだろうけど
楽しんできてね。ひかりより。´
まったく、何考えてんだよとそう思っていると
後ろにいたそのホテルのスタッフが声をかけた。
「せっかくですから、お部屋に案内します。お着替えされませんか?
日焼け止めはわたくしがきれいに塗って差し上げますから。」
「ありがとう。気が進まないけど、これからあの人と対決なんだ。
頑張らないと何言われるか。」
「そうなんでございますか?では、勝てるようにおまじないも兼ねて。」
そういって二人は奥の部屋に消えていった。
30分もしたころだろうか、階段を下りて弓弦が砂浜に降りてきた。
というか、降りてくる弓弦を見てみんなが唖然とした。
「弓弦さんなの?」
「え?」
「TVに映ってたあたしでしょ?」
「まじかよ、そんらへんの女子やモデルと大違い。てか、それ以上じゃん。」
「秋山さん、早く対決です!早々に着替えたいんで。」
「弓弦さん?まじで弓弦さん?」
「もういいですから。早く。」
「んじゃ遠慮なく。始めは肝試し。あそこにある飛び込み台。
どの高さの所まで飛べるか。」
そういうと秋山は弓弦の手を引いて飛び込み台にのぼっていった。
飛び込み台は、3m・5m・7m・10m・15mと
選べるのだけれど、とりあえずと5mから飛んだ。
「弓弦さん僕から先に行きますね?」
「OK。」
「弓弦さん、つぎ!」
「OK。」
5mは難なくクリアした二人。次は7m。これもクリア。
さすがに女の人には10mはと秋山が声をかけようとすると
「秋山さん、次はあたしが先に行きますね?」
そういうと後ろを向いてすぐに飛び込んだ。
しぶきがあまり上がらず、きれいな飛び込みだ。
それを見た秋山は、負けてたまるかと自分も最高のを見せてやると
きれいな飛び込みを見せた。
この勝負は引き分け。引き分けだけど15m行く?と聞かれ弓弦は秋山の顔を見た。
秋山は無理はしないでもいいよとつぶやいた。しかし、それが火をつけたのか
「秋山さんは15mいけます?」
「え?俺?無理無理。怪我したくないですもん。」
「んじゃ、あたしいきますよ?」
「まじで?この高さ行けるの?」
「んじゃ(笑)」
そういうと、スーッと引き込まれるように海にダイブした。
浜からは驚きの声が上がる。弓弦はやっぱり男だと。
これで負けては男がすたると思ったのか秋山が次を提案。
ゴールは悠太と翔太がテープを握れといい浜の端っこに立たせた。
「弓弦さん。今度は負けない。次はは端から端まで走る!」
「わかった(笑)」
そういうと、誠がスタートを切った。
秋山も弓弦も違いなく並んでいる。走る速さもすごく早い。
秋山はもともと陸上をやっていたので、砂浜の上でも
他のメンバーと違い陸上系のものは秋山は得意中の得意なのだ。
しかし弓弦も負けてはいなかった。負けるものかと一生懸命ついて走った。
ゴールの手前本の一歩二歩の違いで秋山がゴール。
弓弦はその手前で躓いてしまった。躓いてそのままの勢いで
テープ持ちの翔太に抱きついてしまった。それを見ていた人たちがすごいブーイング。
「翔太!それは反則だ!お前その場にいることが反則だ!」
「なんでですか。たまたまじゃん、たまたまいい場所だったんじゃん。
弓弦さん、僕天国です(照)」
「んもぅ、気にするなっ!」
「翔太!お前半殺しっ!」
「槙村さんやめてー」
そういってその場の楽しい事、騒がしい事。でもこれで勝敗は一勝一敗。
次は?次はどうするってことで、話をする。
泳ぐか?とかいろんな話をしていると、誰かが叫んだ。
「悠太がおぼれてる」
「何?」
と指さす方を見ると、真面目におぼれている。
「あんのばかがっ!」
そういってみんなで海に飛び込む。
しかし、飛び込んで悠太にたどり着いたのが一番だったのは
やはり弓弦だった。ダントツで弓弦が一番早く悠太の場所まで着き
悠太を抱える。足がつかない場所まで来ている。
弓弦と一緒に飛び込んだ誠や槙村や俊哉はそう変わりなく
弓弦と弓弦に抱きついている悠太の所までたどり着いた。
そして悠太は弓弦から引きはがされ、槙村が浜まで運んだ。
「悠太。お前心配させんなや。」
「浮き輪使っててさ、すーーーって沖に流されて
びっくりした。びっくりしてあわてて泳ごうとしたら
浮き輪の空気が抜けちゃって。もうぱにくったよ。」
「あのな。お前人騒がせ。おまけに弓弦さんに抱きついた。」
「だって死んじゃうって思っちゃったもん。」
「あたし浮き袋代わりだった?」
「弓弦さんの胸、マシュマロみたいだった(照)」
「それにしても翔太も悠太もうらやましい。」
「弓弦さんの腰、細いったら細くて。でも足の長い事。」
「翔太!お前弓弦さんを抱きしめたな?」
「だって、飛び込んできたんだもん(笑)」
「でさ、弓弦さん胸デカい(照)で、もっちり(嬉)」
「男はどいつもこいつもスケベなんだから(怒)」
「それはまず先輩の俺が楽しむところだろ?お前らは半殺しだっ!」
「もうだめです。着替えてきます。」
「もうちょっと泳ごうよ。」
「悠太ほっといて、泳ごうよ。」
「誠さん助けて。焼けちゃう。」
「大丈夫、お前スタッフの人にちゃんと日焼け止め塗ってもらったんだろ?」
「あぁ。でも、なんだかひかりの思惑に乗っちゃうみたいで悔しいんだけど。」
「そう気にするな。俺と一緒に泳ごう。」
「泳ぐの?誠さん早いんだもん。」
「お前の方が早いさ。泳がなくてもビーチバレーやろうぜ。」
「でもそれも思いっきり焼ける。却下だ。」
「お前本当にわがままだなぁ。」
「ほんとうだ、我儘なお姫様だ。我儘なやつはこうしてやる!」
そういうと槙村は弓弦を抱きかかえ浜に連れて行き海に落とし込んだ。
暴れる弓弦は仕返しをしようと、槙村を追いかける。
それにまじろうと、ほかの人たちも暴れはじめた。
そうしている間に16時を回ろうとしているのでそろそろ帰るぞと
副社長が声をかけた。
「疲れたなぁ。でもいい疲れかだだな。」
「結局秋山さんの勝負ついてない。」
「えぇ?勝負つかせるの?んじゃ、宿舎に行ってから卓球でもどぉ?(笑)」
「それじゃ、ひなびた温泉じゃん。」
「夕飯後に考えよう。でも、夕飯後はステップの練習だぜ?」
「そっか、んじゃ仕方ない。あたしの勝ちで。」
「なんでさ。引き分けじゃん。」
「秋山さんの所の悠太君助けた。」
「悠太!お前のせいでっ!」
「仕方ないでしょ?あたしの勝ちで終了(笑)」
「ステップ、俺がじかに叩き込んでやる(笑)」
「秋山様、すみません(笑)」
「だーめ!」
その日の夜は、昼間のその話で盛り上がり楽しい夜を過ごした。
ステップの練習をするどころではなかった。
楽しい反面その心地よい疲れで、みんなそれぞれの部屋へ戻り
眠りにつこうとしていた。
「はい。誰?」
「誠。」
「誠さんどうしたのさ。」
「今度のDVD持ってきてるか?」
「あぁ。持ってきてるさ、見るの?」
「見たいんだけどさ、もしかして弓弦も見てる?」
「あぁ、今見てた。一緒に見る?」
「入ってもいいのか?」
「誠さんだもん。」
「安心してると、危ないぞ?(笑)」
「またまた。今ステップを練習してたんだ。」
「真面目だねぇ。この夜から練習か。ていうか、眠くないんだろ?俺もさ。」
「あたしもさ、この時間はまだ起きて仕事中だろ?
なんとなくさ、横になっても無理っぽくって。」
「外でやる?CDデッキはあるだろ?CDは持ってきているんだ。」
「そうだな、部屋でやるとうるさいだろうし。」
「んじゃ。」
そういうと弓弦は誠と二人で外に出た。
真っ暗な宿舎の外は、明かりも何もないはずなのに
足元がうっすらと見える。部屋の明かりもそんなに多くはないのに。
宿舎に聞こえないように少し離れて芝生の上で練習を始めた。
練習をしながら、上を見ると満天の星。
さすが沖縄と話をしながら、一つ一つ練習をしていた。
それを宿舎のスタッフはにこにこ笑いながら見ている、窓越しに。
仲がいいんだなぁと。まるで兄弟みたいだと。
夜勤のスタッフが見ている所を槙村が見つけた。
「どうしたの?」
「あぁ、槙村さん。ほらあれ。」
「ん?」
「なに?」
「あそこ。」
そうして外を見つめる。すると、そこには弓弦さんと誠さん。
二人ステップを踏む。芝生の上で。
その練習する姿は、すごくゆっくりなはずが次第に曲合わせているのか
早くなり、そのまま翔太と元原の姿に見えた。
形だけの影はすごく似てきたと思うぐらいに、動けていたのだ。
それを見た槙村は、明日の朝が楽しみだと思い声もかけずに
部屋へと戻っていった。スタッフの二人に、邪魔はしないようにと。
そして、次の日の朝が来た。
「おはようございます。」
「おはよう。」
そんな挨拶をしながらも食堂に集まり、話が始まった。
副社長も起きてきて、秋山が今日のスケジュールを話す。
「午前中は基礎連。午後は各々練習。」
「はい。」
「あとは、その合間にいろいろと話し合いが入っているが
まぁ、なんだな。次の準備もしないといけないしな。」
そういって今日のスケジュールを大まかに伝えられ、朝ごはんを食べた後
準備をしてそれぞれの練習場所に向かった。
「皆さん準備できました?」
「はいな。」
「OK。」
「んじゃ、始めますか。」
そういって練習が始まる。昨日の夜に練習したところも
きちんと弓弦たちはできていた。
「すごいですね。練習したでしょ`love is・・・′は
仕上げにかかりましょうよ?」
「この曲は前から練習してるので仕上げないとまずいでしょ?
踊るのはできても歌えないとね。歌えないと困るでしょ?
そして、もう一つの`the monster’も。途中までは何とかなのですけど
なかなかかみ合わなくって。
それは歌はある程度は大丈夫なのですけどね。」
「歌かぁ。誠さんはうまそうですね。」
「悠太さんほどではないですよ。
でも、それぞれのパートがあるんですよねぇ。」
「誠さんはリーダーの所でしょ?リーダーは結構歌がうまいから
難しいですよ?」
「翔太君のも、難しいですよね。」
「弓弦さんなら大丈夫でしょ、これからカラオケいきます?」
「誠さんだけとならいきますが、あなたたちとはちょっと。」
「えぇ、行きましょうよぉ。早くいかないと槙村さんたちが帰ってきますから。」
「そういうおどかし方する?」
「へへ。」
「でもお昼食べた後は、きちんと仕上げないと秋山さんたちに怒られる。」
「んじゃ、残りはお昼食べてからということで。」
そういって、一度部屋に戻り汗を流し7人は着替えて出てきた。
宿舎のスタッフには、少し出てくるとだけ伝え7人は車で出て行った。
この地域はそうそう騒ぐ人もいない。
それどころか自分たちの地域にこのM’scompanyの宿舎があるということが自慢で
それを不快な人たちから守るということに使命感を感じているらしい。
素のまま街に出ても、こんにちわと普通に話をしてくれる。
タレントたちを大切な同じ住民だと思ってくれているからだと。
そう翔太たちは話をしてくれた。
いい人たちに囲まれて育つと、こう素直な人に育つんだなぁと
誠もそう感じた。誠は過去にいろいろと面倒なことをしていたから。
弓弦も前に一度聞いたがあの店はもともと犯罪を起こした人が更生するための店で、
何かしらの仕事を与えることを考えたんだということ。
保護司をしていたオーナーのお父さんが始めた場所だということと一緒に。
すると、誠が口を開く。この沖縄という場所が、そしてこの子たちの
その素直な気持ちが誠に話をさせるきっかけになったのか。
「俺さ、もう35なんだよな。悠太君たちは今いくつだっけ?」
「悠太は29だよな。俺は28です。」
「するとここの研修生として入ったのは?」
「俺が12で、悠太がそのあとだったっけな?」
「多分そうだったよ。」
「するといい青春を送る時期にここで素直に育ったわけだ。」
「そういうことになるんですかね。
ていうか、ここでまっすぐに育たないわけはないですよ。
先輩たちもいい人だし、人としてもすごく尊敬する人ばかりだし。」
「いいなぁ。俺はさ、両親ともいないんだ。捨てられた。
物心ついた時には孤児院にいたんだ。引き取られていった先でさ
ひどく生活に困って、また捨てられてって繰り返され
結局高校一年の時、心配してくれていた担任を刺しちまった。
少年院に4年間いて19の時に出所。
それから今の店のオーナーに引き取られあの店にいる。
あそこは俺らみたいな人間が集まる店だった。」
「そうは見えない。そう感じない。なんでそんなこと話すんですか?」
「なんでだろうな。だけど、今はそうじゃない。
弓弦がいるように、頑張る人間が寄りつく店となった。
弓弦が来た時はな、すごく男気だけの世界で
飲み屋のねーちゃんとかしかの出入りしかなかった。
この5年だよ。
弓弦がバイトで入った時から数えてこの5年であの店は変わったんだ。
下っ端でこき使われて、それでも先輩たちの腕に負けないようにって
自分がコンクールで優勝したことも隠して俺たちの下についてがんばった。
そのうちにさ、こびた女が誰かのために来たのかと思ってたが違ってて
自分のためだけに頑張っていると、そういいながら下っ端をがんばるのさ。
そんな弓弦を周りも少しづつ認め始めて、追いつかれるのもかと
頑張ってみんなで勉強した。
その5年間はすごく充実してたな。」
「誠さんは、人と一緒にお風呂に入らないんですよね。」
「あぁ、やくざと喧嘩したことがあって足の付け根に刺された痕がくっきりと残っているからな。」
「でも、もう忘れたほうが幸せですよ?」
「そうかもな。悠太君の言うとおりかもな。」
「弓弦さんって、どうしてその店に行ったんですか?」
「はじめはさ、怖い人ばっかりかと思ったら
そうでもなくってさ。静かな店だったけど飲み屋のねーちゃんとはいえ
ひっきりなしに来るんだよ。で、表で見ててその切れないお客に紛れて入ったんだ。
そしたら、頼んだカクテルを飲んで涙出た。
おいしいとか度数が強いとかじゃなくって
あたしの顔を見て、あなたの今の気持ちをって出されたのが
すごく感動して涙流しちゃった。
それがコンクールの終わった夜でさ、取った賞なんて返してやりたいと思った。
ここにすごい人たちがいるじゃないかって。」
「そうなんだ。それは誰だったの?」
「誠さんじゃなかったな。誰だっけ?」
「お前もしかしたら邦明さんのをいただいたんじゃないのか?」
「わからないけど、目が印象的でさすっとした背の高い人。
怖いんだけどふっと笑った時に優しい笑い方をする人だった。」
「そっか、邦明さんのに味をしめたのか。邦明さんはあの夜が最後だったんだ。
帰り際に刺されて亡くなった。」
「そうだったんだ。面接に行って決まった時は一緒に仕事ができると思ったんだけど
いざ出社するといなくて、でも聞けなかった。」
「いろいろと歴史がつまったお店なんですね。」
「でもさ、邦明さんが亡くなってそのあとのおまえだろ?
みんな何かしら気にしててさ。それも女だし。
こんな男くさいところで下っ端からだと聞いて
根性あるやつだと思いつつも、早く辞めるんじゃないかって
いじめるやつもいたもんな。でも、弓弦負けなかったよなぁ。
喧嘩してなぐり合っても、相手が性根尽きるまでたちあがったもんな。
大したやつだと一目置かれるようになったのは4年前だな。」
「そうだっけ?なんだかいつの間にか喧嘩吹っかけてくるやつが
いなくなったなぁとそう思ったけどさ。」
「おまえさ、喧嘩強いんだもんな。的確に急所を狙ってくる。それも腕長いし。」
「そうですかねぇ。て言うか合法ならば性転換するけど(笑)」
「弓弦はさ、入ってすぐに荒れたよな。お母さんが亡くなった時だったっけ。
そん時の喧嘩は警察沙汰だったな。
警察も、女のくせにって上から目線で話しされて警察でも暴れたもんな。
でもさ、オーナーがもみ消した。オーナーが身元引受人で警察に行ったら、
警察官がみんな引いちゃって。一応身元引受人はオーナーしかいなかったしな。
でさ、お店に帰ってきてから怒られ怒鳴られ女なのに命捨ててかかるなって。」
「あぁ、怒られた。どんなに頑張ってもお前は女なのだから
無茶して自分を殺すなって。だから、今のあたしがいる。」
「そうなんだぁ。」
「自分を大切にって親とオーナーに教わったようなもんだもんな。」
「誠さんのこともいろいろ聞いたけど、入って来た当初から
あたしには優しかったよな。」
「そうだったっけ?」
「貴志がその弓弦の警察沙汰の前に入ってきててさ、
貴志、弓弦に近づけなかったもんな(笑)」
「怖いじゃないですか。入ったその時は弓弦さんをまじめに男だって
そう思ってたし、喧嘩でしょ?相手のあの顔を見たら弓弦さんこわっって思うって。」
「貴志は知らなかったんだよな、なんでそんなに荒れてるのかって。
入ったばっかりで。そうだったんだよなぁ。」
「俺はさ、賞をとったコンクールの後仕事三昧に疲れちゃって辞めちゃったんだよね。
次を探してて`mask´のことは知ってたからちょっと覗きに行ったんだ。
そしたら一緒に賞を取った弓弦さんが働いてるだろ?
それに外を見たら従業員募集張ってあるし、興味本位で受けたんだ。
受かったけれどさ。ただ一緒にコンクールで賞を取ったとだけしか知らなくてさ
いざ働き始めて聞くとさ、ごつく怖いんだもんな。
話を聞けば聞くほど怖かったけど、でもふっとさ優しく笑うんだ。
だからこいつと一緒に働きたいって思って弓弦の下につくって直談判したんだよね。」
「僕は、それよりも後だったのかなぁ?
弓弦さんに対してのほかの人の態度が妙な感じでさ。
入ったばっかりだし、先輩たちには気軽に話しかけれなかったし。
なのに弓弦さんは僕に優しかった。」
「そうだったっけ?あたし、あまり人のこと覚えてないほうだからわかんないけど。」
「僕は貴志の後だからなかなか話せなかったけど、
貴志と組んでいろいろと先輩たちから教えてもらってる時
弓弦さんも僕らに対してはすごく優しかったってことしか覚えてないですけど。」
「ますます覚えてないなぁ(笑)」
「それより貴志、真志。」
「なんですか?誠さん。」
「お前らは、大丈夫か?」
「なにが?`love is・・・´は。」
「全然OKです。ばっちり(笑)」
「あたしたちと違って、若いっていいなぁ。」
「だって、貴志はどっかのタレントだったんでしょ?
歌って踊ってかっこよかったんだってよ?
だから僕は貴志と一緒に練習してたし。」
「お前らはすごいなぁ。遅れているのは弓弦だけだ(笑)」
「待ってくださいよ。マジであたしだけ?」
「頑張ってくださいね?弓弦さん。」
「だけど、弓弦さんも誠さんも夜に練習してたでしょ?」
「月明かりに、すごく良かったよなぁ、貴志。」
「二人とも、すごくかっこ良かった。
あの息の合っているダンス。僕たち以上に良かったですよ。
弓弦さんと誠さんだからあんなにすぐ息が合わせられるんだって。
で、自分たちを見せるということをちゃんと知ってる。
あんなの見せられたら、まいっちゃうよ。
本当にさ本当に息の合ったものを見せられるとさ
男と女って性別関係ないんだって。
男と女を超えたつながりがあるんだなって思える。」
「だな。悠太もそう感じる?」
「あぁ、翔太だって。」
「翔太は初めて弓弦さんを見た時に、家に帰って親に聞いたんだって。
`父さん。外に子供つくらなかった?´ってさ(笑)」
「そうそう。そうしたら何バカなこと言うんだって言われて(笑)」
「でもさ、いろんな人のいろんな歴史を聞けるということは、
自分たちの人生に対しての肥やしになる。
だから、あそこに立っているときは人の話だけを聞いて
聞かれたら素直に答えればいいと、俺たちはオーナーに教わった。」
「弓弦さんもいろいろあった口かぁ。ケンカ売るのやめとこうっと。」
「ねぇ、誠さんは身長は?」
「185だっけな?」
「するとリーチは1m近く?」
「計算上はそうなるがそうないとおもうぞ?」
「弓弦さんは?」
「身長は176だけど、リーチは80ぐらいか?」
「足は?」
「90ぐらいか?いつも皮パン頼みに行くと特注になるもん。」
「すげぇ。足ながっ。誠さんもそれぐらいあるということだよね?」
「俺は、純日本人だっ(笑)弓弦よりも短い。」
「そうなの?そう見えないけど?」
「誠さんと弓弦さんと二人隣に立つと絵になるよなぁ。」
「翔太君は身長は?」
「俺っすか?俺175だっけ?それぐらい。」
「悠太君は?168だったかな。あの中で一番低いと思うけど。」
「翔太君は背丈も一緒ぐらいなのかぁ。戻ると大変だなぁ。」
「貴志さんは?」
「180だな。でも体重が(笑)」
「それでも弓弦と同じぐらいか?」
「真志さんは?」
「190あるかな?でも僕は重いですよ?」
「そうなの?」
「80kはあるもん。」
「そうは見えないですよね。」
「貴志も真志も誠さんも背が高いからあたしが小さく見える。
俊哉は逆にかわいいよな。」
「かわいいって言わないでくださいよ。」
「でも俊哉は170無いだろ?」
「171ですって。ぎりありますよ。」
「そかそか、でも俊哉はかわいいって人気あるもんなぁ。特に女性の顧客が多いし。」
「そうですかぁ?なんか微妙だなぁ。」
「あの・・・・・。夕方まで時間あるのでこのままぶらぶらしませんか?」
「そうだなぁ。この中では一番弓弦のこと知らない部分多いから白状させちまおう。」
「あら。誠さんだって同じよ?」
「お互い様か(笑)」
「あの、誠さん。率直に聞いていいですか?
「なんですか?翔太さん」
「弓弦さんと男と女じゃないんですか?本当に何にもないんですか?」
「おいおい。真面目に聞いてるの?あんたたち(笑)」
「だってさ、仕事仲間だけなはずなのに
なんでそこまで信頼して信用してすべてをお互い預けるように
できんの?俺らそれがわかんない。」
「翔太君も悠太君もお互いをすべて知らないの?」
「プライベートは別だとそうどこかで思ってる部分もあって全部という全部は知らない。
研修生として入るまでの過去は知らない。」
「そうなの?おかしいんじゃない?だって、ダンスするときでも組むでしょ?
お互いを信用して信頼しないとできないでしょう?怪我が多くなってしまう。」
「弓弦さんは、長崎で育った時の事たまには誠さんと話すことあるの?」
「ある。西村さんの事も今回早く帰って会いに行く恩師のことも。
小さい時の事とか母の事とか、店を手伝ってた事とか
未成年だとわかりきっているのにカウンターでお酒使った物作ったり。」
「弓弦の煙草始めが中学一年だったこともな(笑)」
「仕方ないじゃん。環境がそういう環境だったんだもん。」
「煙草かぁ。俺らはきっちりと20から。」
「あなたたちは人の手本となる人だからそりゃ駄目でしょう(笑)」
「煙草吸う?」
「て言うか、煙草買いによっていい?コンビニ。」
「えぇいいですよ。」
「あたしも切れちゃってて。」
「翔太君も悠太君も車にいるでしょ?」
「はい、ここで待ってますから。」
「誠さんなんだったっけ?」
「セブンスターのメンソール。1Bお願い、まだあと8日間あるからさ。」
「そんなに吸うんですか?それだけ吸ってて息切れしません?
ダンスしてて息切れしちゃうのがふつうでしょ。」
「そうなの?」
そういって誠さんたち5人で話しをしている間、
弓弦と貴志はコンビニに着くと飲み物7本と誠さんの煙草と
自分の煙草を買って戻ってきた。
「はい、誠さん。」
「ありがと、おごりだろ?」
「まさか(笑)あとでくださいね。」
「しっかりしてらぁ、そんなところは女だよな。」
「普通なら当たり前でしょ?
先輩でもちゃんとけじめはね。お願いしますよ、誠さん(笑)」
「弓弦さんは何吸ってるの?」
「赤ラークの100’s。」
「きついの吸ってますねぇ。」
「そうでもないけど、ここには100’sがなかった。
仕方ないから短いのを倍買った。」
「俺らは軽いのしかすえないもんなぁ。一本頂戴は言えないな(笑)」
「軽いの吸ったら俺らは本数増えるしな(笑)」
「貴志、僕の煙草は?」
「ほれ、俊哉のマルボロメンソール。真志のアクア。」
「ありがと。弓弦さん、お金後でいい?」
「いいよ。あとでね、利息は一割な(笑)」
「ひっど。(笑)」
「車の中だけど、吸っていい?」
「僕たちは大丈夫ですよ。」
「で、どこ行く?」
「とりあえず、自然公園とか行ってみます?」
「そうする?誠さん」
そういって7人はその場を後にして、自然公園というところまで足を延ばした。
その公園があるところは人が少ない割には、広々としていて
平日だからなのか、人が少ない。大きな木が多く、木陰が多くて
結構風が通り、今でも日中は結構暑い気温。
一応デッキがあるから、そこで練習と思い人が来ないような場所を探して
7人広がる。曲を流す。心地よい風の中で練習を始めた。
「そこ違いますよぉ。こうです、こう!」
「こう?」
「だーかーらー。こうですって。」
「あ、逆か(笑)」
「向かい合ってやってるからそうなるんだ。弓弦は翔太君の横でやれば?」
「そっかそっか、すまん(笑)」
そんなそどりながらも笑いが絶えず、楽しそうに踊っている4人。
人が遠巻きに見ている。`あれってもしかして?´と。
それに気づいた悠太が帰ろうと言いだすが弓弦と誠はその人たちに声をかける。
「ねぇ、お願いがあるんだけど。
練習しているんだけどさ、見ててチェックしてくんない?」
そういうと、遠巻きに見てた人たちが集まり周りを囲むように座り
翔太と悠太もそれに混じり弓弦と誠のダンスをみんなで見始めた。
かなり`love is・・・´の方は出来上がってて、みんなも拍手した。
もう一つのはいまいちなのか、反応が鈍い。誠はそれが気になり一人一人聞いてった。
弓弦も気になったがそれは仕方ないと、帰ってからまた練習をしないとと反省をしていた。
夕方になり、わんこのお散歩をする人たちに入れ代わるように
見ていた人たちも少なくなっていったので、帰ることとなった。
それから宿舎に帰ると19時を回ってた。
「ただいまぁ。」
「お前たちどこほっつき歩いてたんだ?」
「すみません、なんだっけあの場所。自然公園?」
「そうそう、自然公園で練習してたんすよ。秋山さん。」
「ほんとか?」
「嘘じゃないですって(笑)ちなみに`love is・・・´は
5人ともOKです。あとは歌の方のレッスンを。」
「んじゃ、夕飯後見せてもらうかな。」
「秋山さんが見てくれるの?」
「それって幸せなの?それとも運が悪いの?」
「弓弦さん?俺も一応踊れるんですけど?」
「秋山さん、厳しそうなんだもんな。」
「弓弦、我がままだろ?見てもらえるだけでも、ありがたい。
きちんと悪いところ見てもらって注意してもらわないとな。」
「だってさ(笑)昨日のことがあるし。」
「気にするな。それはそれ、これはこれ。」
そう雑談しながら、食堂に行く。
すると大宮たちは夕飯を先に食べていた。
「おかえり、先に頂いているぞ?」
「ただいま戻りました。今日は何?」
「お前たち、どこに行ってたんだ?」
「ちょっとそこまで。」
「翔太?弓弦さん襲わなかっただろうな?」
「恐れ多い。弓弦さん襲ったらまず半殺しにされますよ。」
「うんうん、翔太じゃかなわないだろうなぁ(笑)」
「なんだ?その意味深な会話は。」
「な。翔太(笑)」
「あたしを襲うともれなく青あざが付くということですよ(笑)」
「女は怖い怖い。俺も敵に回さないように注意しなきゃな。」
「誠さんまで!」
「今日は何?何のゴチ?」
「今日の夕飯は地元めし!それもゴーヤ中心(笑)」
「それってあたし食べれるものがないということ?」
「あはははは、弓弦さんのは特別にあるよ。」
「槙村特製の`南国風チャーハン´だそうだ。」
「それって?」
「昨日食べれないって言ってたでしょう?
で、今日のを見て槙村が気を使って作ったんだって、さっきな。」
「ありがとう槙村さん、助かった。何も食べれないところだったよ。」
「いや、気が付いたのは圭一郎だけどな。」
「いえいえ、みんなでありがとうございます。」
「お礼は、俺と一晩(笑)」
「圭一郎!俺が先だ!」
「それは却下の方向で。」
「槙村さんも大川さんも弓弦さんに半殺しにされちゃいますよ?」
「なんだ?翔太?やきもちか?」
「いや、先輩たち知らないから(笑)」
「言わないでいいわよ。そのうち知ることになるんだからさ(笑)」
そうふざけていると、21時前になる。
秋山が着替えて来いと声をかけ、みんなレッスン室に移動した。
「仕上がりを見せて。」
そういうと、イントロが始まり5人とも踊る。
そしてそれぞれの立ち位置の分を見せるように言われ
誠が元原の。真志が中村。貴志は上村。弓弦が翔太。俊哉が悠太。5人でそれぞれやらせてみた。
確かに`love is・・・´の方はOKだった。かなりな正確さだった。あとは歌だけ。
そして次の曲の`the monster´の方をやってみる。
前のと同じで5人で動かないとわからないだろうと始めは5人でやらせてみた。
するとどうしても弓弦が途中でこける、躓く。
何度やらせてもそこに来ると、同じようにこける。
「弓弦さんどうしたの?」
「前からなんですが、ここに来るとこけたり躓いたりするんです。」
「こうだよ、こう。」
「こうでしょ?」
「違うって。」
「こう?」
「もう、翔太!やれ。」
「こうでしょ?」
「だからこう。」
それのやり取りを見ていた槙村は何かが違うと思い秋山を止める。
「秋山さん、それ少しおかしくない?」
「なにがだ?」
「一つ聞いていい?」
「翔太。お前利き足はどっちだ?」
「俺っすか?俺は左です。」
「弓弦さんは?」
「右です。」
「ほら、秋山さんこけるはずだよ。
その振り付けは左が聞き足だと楽なんだけど右でやると無理なんだ。」
「そうなのか?」
「秋山さんも左足が利き足だろ?」
「そっか、それがあったか。んじゃどうにかしないとなぁ。」
「おい、大川。お前右足が利き足じゃなかったっけ?」
「そうだけど?もしかして俺に考えさせるとか?」
「右足が利き足同士、何か考えてよ。」
「翔太の振り付け、圭一郎がアレンジしてみてよ。あっちの部屋使っていいからさ。
誠さんたちの仕上げは、こっちで俺見てるから。」
「OK。弓弦さんこっちこっち。」
「はい。」
「手ぇ出すなよ?」
「あはは。どうかな?」
「俺も付いて行く。」
そういってその夜の練習が続く。圭一郎と向き合って、翔太が後ろからチェック。
ステップとか振り返りの視線の位置とかをチェックし
再度秋山を呼んでこのアレンジでおかしくないかとか細かくチェックを入れていった。
夜の23時を過ぎようとしてもまだ終わらなかった。
「喉乾いたなぁ、少し休もう。弓弦さんも疲れただろう?」
「いえ、あたしはこの時間いつもは仕事してるんで全然。」
「遅くまで立ちっぱなしだもんなぁ。」
「でも目の前の人を満足させるためのこと考えながらだし
神経使いっぱなしなんでしょ?」
「それが当たり前で来たから何とも。」
「弓弦さんはこんなに続けて踊ってても何ともない?」
「えぇ。高校の時大学の時のマーチングとしたら全然平気ですよ。」
「体力あるなぁ。あとは歌だな。西村さんと同じで
楽器できるなら、音痴ではないよな?」
「多分。歌ってみないとわからないけど。」
「音域がどれぐらいなものかを明日試してみたいなぁ。」
「ということは、明日はあっちのピアノのあるスタジオの方でですね?」
「弓弦さんの女っぷりをとくとみせていただきましょう(笑)」
「なんかなぁ。だから歌うの嫌なんだよなぁ。」
「なんで?なんでそんなに気にするのさ。」
「話す声が低い人は大抵すごい高音なんですよね?」
「悠太、そうなのか?」
「ケタケタ笑いの翔太がそうじゃないですか。」
「翔太そういえば話す声は高いなぁ。歌ってる声は低いのに。
そうなんだぁ。そういえば秋山さんも歌ってる声は低いな。」
「誠さんはハモれるんだよねぇ。すごくうまいんだ。
去年のEXILEは練習の時からすごかったんだ。」
「弓弦さんは去年は?」
「後ろで踊るだけで歌ってない。本当は今年も歌うつもりなかったんだけど。」
「翔太と出会ってしまったもんなぁ。歌わされるよなぁ。」
「翔太君、歌うまいしな。早々あのフレーズは歌えない。
舌をかみそうだ。それも、早口だしさ。」
「大丈夫、唄えるって。」
「明日がたのしみだー。」
「秋山さん。明日は?」
「明日は二次審査。歌は二の次だ。」
「というと、明日は?」
「明日の予定は大宮ら5人も翔太も悠太も
そして弓弦さんも誠さんも一緒に行くこととなる。
で、その時にな今日の出来上がりを見せてもらうこととなるが
お二人さん大丈夫?だよな。」
「本当に?」
「受ける人たちに、これぐらいの時間でここまでやれるというところを見せて
それにチャレンジさせるんだよ。」
「どれぐらいの時間でどこまでできるか。ということ?」
「そうだな。だから弓弦さん、お願いがあるんですけどいいですか?」
「なんですか、秋山さん。」
「お願いだから、さらしを巻いて(笑)」
「えぇ?」
「どうしてもその胸はわかるでしょう?俺らの会社は男しかいない。
なのになんで女がってなるじゃん。しぐさは男なのに
体が女ってところがもったいない(笑)」
「それはちゃんと考えてます。大丈夫ですよ、秋山さん。
いつものようにできますから。お店にいるときはいつもです。」
「そっか、それなら大丈夫だな。まぁあれだけ踊ると大変だな。」
「正直、恥ずかしながら踊りながらだと揺れて胸が痛い(笑)」
「そこまで正直に言うか?」
「誠さん、真面目に痛いんですって。切り取りたいぐらいだ。」
「本当に正直な人だ。こっちが赤面するよ。」
「弓弦さんってさ、シャツ一枚になると本当に女の人だよねぇ。」
「そう言われると困るんだが(笑)」
「思い切って性転換するか?(笑)」
「お金がね。かなりかかるって話。」
「もしかして弓弦さん真面目に考えてて調べたりしたの?」
「えぇ。真面目に。でも失敗も多くて命がけなんでしょ?
だからそこまではって思って気持ちだけでいいかなって。
命かけてまではねぇ。」
「そうだな、大切な命としてご両親から生まれたからだと命だ。
無理して命かけなくても、それを大切に生きるということも
大切なんじゃ?」
「そうですよね。だから体には怪我以外メスは入れてません。
それよりも、気持ちが心がけが大切なんですから。」
「でもいつかは弓弦さんは誰かと共に生きることになる。
それがだれになるかがすごく興味あるんだなぁ。」
「あたしは一生一人と決めています。誰のものにもなりませんって。」
「弓弦さんの中の男はいつも表面に現れていますが、弓弦さんの中の女は?」
「心の精神の奥底に眠ってしまったままですよ。」
「起きてこないんですか?女心。」
「えぇ。たまーに目をさますけどすぐ眠る。」
「便利だな、弓弦。」
「誠さんにだって、女は目覚めてないし(笑)」
「俺には?」
「圭一郎さんに?無理無理(笑)」
「ちぇっ。」
「秋山さんだっていい男だぞ?」
「悠太も翔太も全然?」
「そうですねぇ。」
「槙村さんにもですか?」
「あたしの女が目を覚ますってよっぽどのことがないとありえませんね?」
「もしかして西村さんにも?」
「あははは、それは秘密。西村さんが野獣になるから。」
「お前らと対等に話す弓弦さんはやっぱり心は男だな。」
「秋山さん、それ正解。」
「そうだ、早く寝ないと明日目の下にクマができるぞ。おわろう。」
「だな。解散だ、風呂入ってねよねよ。」
そういってわいわいとスタジオを出て自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると26時。少し夜風に当たりながら、ひかりにメールを返していた。
その返事を返すまでにそのまま寝てしまった。
次の日の朝、起きるとまぶしい光がさしていた。
手元を見るとメールを最後まで返事も書かずに、送信さえもせず寝てしまってたようだ。
あわててひかりにメールを返す。
そして、みんなが集まって朝飯を食べているところに弓弦も顔を出した。
「おはようございます。」
「おはよう、今日もご機嫌かい?」
「槙村さん、どうしたんですか?」
「なんで?」
「その挨拶は貴志の口癖で。」
「そう、その貴志さんは早くに東京に帰ったよ。」
「なんで?何も聞いてないけど?」
「なんかお店であったらしいぞ?お前の携帯にメールは来てなかったのか?」
「何にも?」
「弓弦さんだけにメール行ってないんだ。」
「誠さん、ほんと?俊哉!お前には来たの?」
「あぁ、俺にも来た。隆がメール来た直後に俺の部屋に来て言うから
どうするって話してたら真志も俊哉も来てさ。
で、貴志はもともとやってたからOKだったし一番で来てるだろ?
で、代表で貴志に帰ってもらった。
なんか誰だっけ?怪我したからお店が大変だとさ。
誰か一人帰れば、間に合うんだったら俺が帰るからって
みんなをお願いしますって言って帰ったよ。」
「秋山さん。本当ですか?」
「あぁ。俺の所にも電話が入った。で、話して決まったからって言って 貴志さんを返した。」
「あたしは?」
「弓弦さんは歌のレッスンがある。残りだ。」
「でも。」
「歌のレッスンがうまく終わらないと、長崎にもよれないぞ?」
「長崎に行くのか?」
「あぁあ・・・・秋山さん口軽いんだから。槙村さんたちにばれちゃったじゃん。」
「ごめんごめん(笑)ついさ。つい、正直もんだから(笑)」
「んもぅ。」
「さあさあ、早く食べていくぞ。」
そう言った秋山も大宮達もそそくさと食べ終わり部屋に戻って着替えて降りてきた。
弓弦も早くと思いさっさと食べ、着替えてきた。
その日の2次審査の会場に行き、昨日言われたとおりに協力して
審査の進行を手伝った。
「なんだかあたし達、ここのタレントさんと同じ扱いなの?」
「なんで?」
「なんだか、一緒に動いているとへんな気分。」
「何が?」
「なんだか社長の思惑にはまってしまってるというか。」
「ここだけの話な。絶対言うなよ?」
「何かあったんですか?」
「弓弦さんの話が取締役会の時に出て、何でうちの会社は男しか
タレントとして受け入れないんだっていう話になったらしい。」
「で?」
「今後の方針として、実力のある人ならば性別は問わないと
そうしようかって話が浮上してたって。」
「それって??」
「弓弦さんのことは社長が大乗り気だし、江藤さんも。」
「でもあたしは今の仕事が大好きですし、多分言われてもお断りすると思います。」
「俺たちの中だってたぶん反対する奴がたくさんいると思うぞ?」
「秋山さん、どうしてさ。」
「槙村とか圭一郎はまず反対派だな。翔太わかんないか?」
「えぇ、なんで反対なの?いつも一緒に居ることできるし仕事も一緒で楽しいじゃん。」
「はいっ!わかった!」
「悠太!(笑)」
「弓弦さんが仕事仲間になると、口説けない!」
「悠太正解(笑)社内恋愛は確か厳禁だったよな?」
「んじゃ、仲間になった方がいいのか。」
「俺も反対派だな。」
「翔太も?」
「俺も反対、弓弦さんせっかく女なんだし。」
「みんなで何考えてるんですかっ」
「俺は一緒に仕事したいよ?
弓弦さんはいろいろと深い人生を歩んでるみたいだし
いろんなことを勉強して、頭よさそうだし。
そつなく何でもこなすし。こんな人と仕事したいって思うなぁ。」
「そうほめられるあたしでもないですけど?」
「さぁ、あともう少し。めし食べたら、次はいるぞ」
そう声がかかり、おしゃべりも途中のまま次のことを始めた。
これが終わると審査で人数を絞り込まれる。
弓弦が座っている。終わると一息ついて歌のレッスンが始まることが気にかかるのか
不安そうな顔をして座っている。それを見ていた翔太は弓弦の手を引く。
「ねぇ、弓弦さん。」
「あ。なに?」
「僕も弓弦さんのことを知りたい。」
「なんで?」
「友達として知りたいことがたくさんある。」
「何を知りたいのさ。」
「それはあとで。もう少ししたら終わるだろうし。」
そう話しかけたところを槙村も見ていた。翔太、抜け駆けか?と。
弓弦も槙村の視線がわかった。槙村の怪訝そうな視線。
翔太君と話をしているのが気に入らないのか、
何をはなししてたのか気になってなのか、こっちをじっと見つめている。
弓弦たちは汗かいたからと言って、シャワーを浴びに部屋を出た。
「もう`love is ・・・´の方はいいから、`the monster´の方をやろうよ。」
「弓弦のふりは昨日圭一郎さんが一緒に決めたやつでやってみて。」
「OK。」
「んじゃ、みんないい?」
そういって曲を流す翔太。
一つ一つの動きを槙村と大川と秋山で見ている。
まだまだ動きとして弓弦と俊哉が付いて行かない。
何度も何度も繰り返す。そしてOKの出た人から、部屋に戻れることとなったが
弓弦が最後まで残った。
誠は一発でOK。さすが去年やったEXILEをやった中心メンバーだよなと。
そうみんなが話す。
真志。キレのあるスピードはなかなかのものだと褒められる。
俊哉も、小さい体の割にはアピールする力がすごい。
あんなに動いているのに笑顔のままだ。すぐにOKが出た。
しかし弓弦のOKが出ない。もたついているのだ、弓弦自身が。
レッスン室の端の壁にもたれ、三人から厳しい指導を受けている弓弦を見つめている誠。
汗がしたたり落ちながらも、弓弦は一生懸命言われるがまま動いているが
OKが出ない。翔太も横に張り付いている。
弓弦の体力は本当にすごいもんだなぁと感心しつつも、いつ倒れっかなぁと、
心配そうに誠は見ていた。なかなか根を上げない弓弦も弓弦だ。
そろそろ18時なのだがと、悠太がレッスン室を見に来た。
弓弦の翔太について行ってる動きは様になってきている。
秋山さんはじっと見ている。槙村と大川は正面から注意をしているが
褒めている部分もあった。動きがかなり良くなったと。
「秋山さん、夕飯の時間ですって呼ばれましたけど。」
「んじゃ、そうしようか。弓弦さん、かなり様になって来たよ。
食べた後一服してから、5人で仕上げにかかろうか。」
「はい。とりあえず汗を流してきます。」
「あぁ、俺も。」
「いってら。早く来いよ。」
そういってレッスン室をみんな後にした。ドアを開き、秋山が出てその後ろを誠が出た。
圭一郎と槙村が出て翔太と弓弦が並んで・・・・・。
`ドサッ´
その音にみんなが振り返る。
後ろを見ると、弓弦がいない???と翔太が下を見ると
弓弦が倒れてた。意識がない。声をかける。動かない。
駆け寄る誠が弓弦を抱き上げた。
「おい、弓弦。お前大丈夫か?」
「大丈夫っすか?」
「いや、多分いつものか。」
「いつものって?」
「弓弦はさ、貧血がひどくてさ(笑)」
「それなのに弓弦さんこんなハードな個人レッスンをこなしてた?」
「弓弦は負けん気が強くて、絶対自分から休むとか言わないんだよな。」
「とりあえず、部屋に寝かして。」
「そうだな。俺らだけで食べた後仕上げるか。」
「弓弦さんもあれだけできてたら、大丈夫でしょ。」
「あぁ。俺もそう思う。」
「誠さん、弓弦さんをお願いできる?」
「はい、キーは?」
「多分そいつのポケットの中。」
「んじゃ、部屋に連れてってきます。」
そういって弓弦を抱き上げたまま、誠は部屋に向かった。
「ありゃ、やっぱり男と女だよな。」
「そう思うか?俺割り込めねぇかなぁ。」
「どうだろう。弓弦さんはあれだし、お前自分で聞けや。」
「今が聞くチャンスかもよ?」
「みんなが聞きたいことだろうな。」
そういって着替えて食堂に向かう。
一方、弓弦を部屋へ連れて行くとソファに弓弦を座らせた。
「おい。おい、弓弦。大丈夫か?おい、弓弦。」
「ん・・・・ん?ここどこだ?」
「お前の部屋さ。大丈夫か?
お前レッスン終わって部屋出た瞬間倒れたんだぞ?」
「そうだったっけ?」
「びっくりさ、その練習の後だろ。」
「汗びっしょりで、臭い(笑)」
「歩けるか?」
「とりあえずシャワーは浴びたい。」
「めしは?」
「多分食べたら吐くかも。」
「めしの後の仕上げは?」
「それは出る。(笑)」
「無理だろ?」
「シャワー浴びて、ここで休んでいるからレッスン室に行くときに呼びに来てよ。」
「それで大丈夫か?」
「大丈夫さ、単純に貧血だから。」
「やっぱりそうか。お前は貧血ひどいからな。」
「そういうこと言わなきゃだめか?」
「あぁ。突然倒れられるとこまるし。」
「誠さんに?」
「病気じゃないんだし、仕方のないことだ。」
「そうだけどさ。でも迷惑かけちゃったなぁ。」
「お前さ、負けん気強くてそういうので差がつくのは嫌なんだろうけど
でも、大事なことだ。だから調子がいまいちって時はちゃんと言うこと。」
「わかった。」
「弓弦?みんなお前が大切なんだ。倒れたりすると余計に気持ちが揺らぐ。
わかるか?俺だってそうだ。お前に対する気持ちは西村さんにも
負けないと自分では思っている。だから、お前の気持ちが誰を思うにしても
みんなお前が大切でかけがえのない存在なんだ。
自分を大切にしないと、責められるぞ(笑)」
「誠さん。ありがとう。」
「そうか。」
「誠さん。」
「さぁ、外にも誰か迎えに来ている。招き入れていいか?」
「でもあたしシャワー浴びたい。」
「んじゃ、俺はそいつと外で話しているよ。さっぱりして来い。」
「わかった。んじゃ。」
そういって立とうとすると、立った瞬間、倒れ込んだ。
誠の胸に倒れ込む。誠はびっくりしたが倒れ込んだ弓弦を抱きしめた。
弓弦は離れようとするが自分自身に力がなく、誠を頼るしかなかった。
誠は、そのまま自分をまかせている弓弦を抱きしめる、強く。
「誠さん、苦しい。いたいよ。」
「あのさ、弓弦。あまり無理はするなよ。
俺がどうしていいかわからなくなっちまう。俺自身女の扱いがわからない。」
「ごめん、誠さんごめん。」
「でもさ、お前がこの世の中で一番好きなことは本当さ。
どんな女よりもお前が俺の一番近いところにいる。弓弦が一番な。
だけど、俺は恋愛感情というものがわからん。
西村さんの行動がいまいちわからん。」
「西村さんは素晴らしい人よ。だけど、彼じゃないからね?」
「そうなのか?それは安心した。」
「あはは。誠さん、まるでお兄ちゃんみたいだな。」
「弓弦。いい加減離れないか?」
「なんで?」
「俺の男が危ないんだが。」
「誠さんがあたしを襲うの?」
「いや、そうしたくはないからさ。お前が嫌だろうし。」
「お気遣いありがとう。シャワー行ってくる。」
「あぁ。外で待つよ。」
そういって弓弦の部屋を出てきた。もちろん外には槙村が待っていた。
「あの、誠さん。」
「なんでしょう?」
「弓弦さんは?」
「大丈夫だ。ただの貧血だ。」
「そうか、それならよかった。」
「心配かけさせちゃいましたね、すみません。弓弦はさっき気が付きました。
汗を流したいといってシャワー浴び始めました。
また夕食の後、レッスン室に行くときにでも声をかけてほしいと言ってましたが。」
「また、やるつもりでいるんですか?弓弦さん」
「多分ね。シャワー浴びてすっきりして一服してゆっくりするはずですから
仕上げを一緒にするつもりなんでしょう。」
「無理でしょう。あんなに…でも言っても言うこと聞かないんでしょ。」
「よくわかってられる、その通りですよ(笑)」
「あの、誠さん?」
「なんですか?」
「率直に聞いていいですか?」
「弓弦のこと?」
「俺は西村さんと始め付き合ってるのかと思っていました。」
「誰でもそう思うよな、二人のあの近い関係はさ。」
「でも、誠さんが一番近いんだとそう感じるのは俺だけですか?」
「槙村さんにはそう見えているんでしょうか?」
「結構(笑)」
「俺の中で弓弦は俺の一番近いところにいる女だ。
だけど、俺自身人を愛するということを知らずに今までを生きてきた。
だから、弓弦が一番近い場所にいてもそれがどういうものかがわからん。
普通ならば、男と女に持ち込んでしまうのだろうが
男と女という関係が結びつける唯一のつながりだとしたら
俺はそういうつながりはいらない。
多分弓弦と一緒だ。だから俺と弓弦は、男と女に関係なく
一緒に居ることができるんだと思う。」
「俺は、どうなんだろう。誠さんみたいな考え方がわからない。
弓弦さんを女と意識した時から俺は弓弦さんと一つになりたいと
そう思うようになった。それって誠さんにはどう見えるんだろう。」
「槙村さん、君は弓弦のことが心底好きなのか?」
「多分。今俺の気持ちの中には誰もいない。弓弦さん以外誰もいない。」
「君はどんな誘惑があっても自分が決めたことは曲げない人だと聞いた。」
「えぇ、自分が一番と思うところです。」
「弓弦一筋なんだろうなぁ。」
「えぇ。弓弦さんの気持ちに白黒ついたとき、
俺の気持ちにも踏ん切りがつくんだと思う。」
「男だなぁ。俺にはできない。弓弦を失いたくないからな。
弓弦は俺の半身だと、魂を分けたものだと思うからさ。」
「誠さん夕飯は?食べてくれば?俺ここにいますよ」
「そうだなぁ。こうやって話してても腹は減るしな。お言葉に甘えて、行ってくる。
弓弦のシャワーは長くはない。あと10分ぐらいたったら
ドア越しに声をかけてあげてください。」
「わかりました。」
誠がそこから夕飯を食べに場所を離れた。
弓弦の部屋の前で槙村は座り込んだが、座り込んでも落ち着かず
立ったり座ったりと忙しくおかしい行動をしている槙村。
そんな槙村が落ち着かないのは誠が話したこと。弓弦も同じなんだろうかと。
そうしたら弓弦と誠さんの間には誰も入りこめる隙間はないのだろうと
そう思うのだがそうなると西村さんはどうなると。
そして、俺はどうしたらいいんだと気持ちを伝えたいのにどうしたらいいんだと
そう悩みながら落ち着かない槙村だった。
しばらくしてから誠さんが言ったとおりにドア越しに声をかけた。
「弓弦さん、槙村です。」
「・・・・・・・・。」
「弓弦さん?大丈夫ですか?」
「はい。」
「開けて!弓弦さん、ここを開けてください。」
「ちょっと待って。」
そういってなかで弓弦がごそごそとしているのがわかる。
「お待たせ。あ。槙村さん。」
「中に入れて。」
「もう行きますよ?」
「ちょっとっ。」
そういって槙村は強引にドアを開け部屋に入ってきた。
弓弦はびっくりして押しはいる槙村から再び部屋に押し込まれる。
「弓弦さん。」
「なんでしょう?」
「弓弦さん・・・・・煙草くさっ(笑)」
「一服を3回ほど。」
「だめじゃないですか、貧血がひどくて倒れたでしょ?」
「そうだけど、今はシャワー浴びてすっきりしてるよ?」
「でも!」
「そうあわてないで。当の本人のあたしが今は大丈夫と言っている。」
「弓弦さん。無理してません?」
「えぇ。今のところは大丈夫です。
さっきはすみませんね。みっともないところを。」
「なぁ、弓弦さん。俺の顔を見て話してよ。
少し前、俺たちの目の前で気を失って倒れた。それは事実だ。
そして誠さんに抱かれてここへ戻り時間がたって動けるようになった。
だけど、シャワー浴びてすっきりしようが
一服して落ち着こうが体調は本人の意志とは関係なく影響する。
弓弦さん?ほら、ステップ踏んでみて。」
「こぉ?」
「違う、こういう風に。」
「こぉ?・・・・・・っ!」
「ほら無理だ。目を回してバランスが崩れた。」
「大丈夫だって。仕上げには、一緒に踊れる。」
「無理だって。また倒れる。明日の練習にひびく。」
「でも、今はかなり落ち着いた。大丈夫。」
「弓弦さんが大丈夫でも、弓弦さんのからだは大丈夫じゃない。
第一まだ顔色悪いじゃないか。今日は休めさ。」
「お願い、あたしは踊れる。みんなと一緒にやりたい。
そうしないとあたしは不安でつぶれそうだ。」
「あのさ、弓弦さん。なんでそう一生懸命なの?」
「なんでって。どうしてそうじゃだめなのさ?」
「たかがチャリコンで2曲踊るだけじゃん。唄いながら。」
「だけど、それを一生懸命やってみてくれる人の喜んでもらえることが
やることの意義だ。」
「だけど、これは本職じゃない。俺たちが見ても、5人完璧に見えるのに
まだ何を求めるというんだ?」
「いや。わからないけど、やりはじめたらこれじゃなだめだと思うんだ。
やれるところまでって。みんな同じさ。」
「しかし倒れるまでやるということは別だ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「今日はここから出るのを俺が許さない。」
「なんで?みんなは?」
「みんなはいいんだ。弓弦さんは明日まとめてやればいい。」
「いやだ。」
「お前な。あきれるよ、まったく。」
「・・・・・・・・・・・・。」
槙村は行こうとする弓弦をドアから遠ざけ入り口をふさいだ。
そして、ドアをふさいだまま携帯でレッスン室にいる秋山に電話を入れる。
「あ。秋山さん?俺です、槙村です。」
「どうした?弓弦さん以外はみんな来ているぞ?」
「そのことなんですが。」
「なんだ?」
「今弓弦さんの部屋にいるのですが、弓弦さんは今夜は無理です。
顔色悪すぎ、倒れたばっかりなのに一服していこうとしたところを
止めたんです。これじゃまた倒れる。」
「そんなにひどいか。まぁ明日があるから今日は休むように言って。
でも弓弦さんの性格上一人にすると一人で練習はじめるか。
槙村が見張っておいて。ちゃんと眠るように。
あとで翔太と悠太をそっちに向かわせる。」
「お願いします。んじゃ。」
顔色が悪い弓弦の顔が無愛想なまま窓から外を見ている。
槙村がいろいろと話しかけるが、返事が今一つ。
槙村はそんな弓弦のソファの横に座る。
「何から話しようか。」
「なんで?」
「弓弦さんの顔が怖いから。」
「誠さんは?」
「今レッスン中。」
「真志も俊哉も練習しているの?」
「あぁ。みんな弓弦さんの分まで頑張っている。」
「あたしも体が踊りたくてうずうずしている。」
「でも、だめだ。ここにいて。」
「体の中で、音が躍る。不思議だ。」
「弓弦さん、俺聞きたいことがあるんだ。」
「一つ目は誠さんの事。」
「誠さん?」
「誠さんのこと?」
「俺さ前に言ったよな。」
「覚えてない。」
「弓弦さん、俺さ今ね伝えたいことがある。」
「なに?」
「ほかの誰でもない。俺は弓弦さんと一から始めたい。」
「なにを?」
「俺さ、初めて弓弦さんに空港まで送ってもらったでしょ?」
「あの時ね。」
「ひかりちゃんの彼氏って思って声をかけたけど、
弓弦さんだった。送ってもらって、うれしくてさ。
別れ際の、優しく眼だけが笑った弓弦さんの顔を見て
この人、絶対俺のことをちゃんと見てくれるってそう直感したんだ。」
「・・・・・・・・・・。」
「黙って聞いてね。」
「槙村さん?」
「誠さんも西村さんも、きっと弓弦さんのことを愛していると思う。
人それぞれの愛し方があるから、誠さんなりの弓弦さんへの愛し方
西村さんなりの弓弦さんを愛する気持ち。
誰だって弓弦さんを愛していると思うんだ。
だけど俺はまだ弓弦さんのことを何も知らないままなんだよね。
だから、それこそみんなと同じように弓弦さんと同じように
友人からちゃんと始めたい。」
「もう友達じゃないの?」
「そうじゃない。誠さんたちと同じ付き合いがしたい。」
「何か勘違いしてない?」
「何を?」
「一つあたしも言いたい。」
「誠さんも、貴志も。そして真志も俊哉も仕事仲間であるし
あたしの大切な家族だよ。そういう仲間に恋愛感情はないさ。
ひかりも伯母ぁも伯父ぃも。大切な家族。
愛しているとか愛してないとか、そういうんじゃなくてね。」
「西村さんは?」
「西村さんは、他の誰よりもすべてを許している人なのかも。
そして誰よりもあたしの近いところにいるのかもしれない。
だけど、それは家族として仲間として一人の人間として
愛しているということであって、男と女の愛しているとは
意味が違うと思う。
でも、西村さんの中でのあたし、あたしの中の西村さんの位置は
似ている場所にあるんだと思う。
すべての知り合いの中で一番と言われたら、
あたしも西村さんの名前を口にするだろうし
たぶん西村さんもあたしの名前を口にすると思う。
それを互いに愛しているという言葉では表現はできない。」
「何事にも西村さんが一歩リードってわけだ。」
「この世に一人だけになった時、最後はたぶん西村さんについていくんだろうと
そんな感覚なんだろうな。」
「弓弦さんは、西村さんとだったら人生を一緒にって思えるの?」
「そうかも知れないし、そうじゃないかもしれない。
だけど、一番あたしの時間を独占しているのは西村さんだね。」
「俺や、ほかの人たちは割り込める隙もないんだ。」
「そうかな。それはわからないけどさ、自分でも好きとか嫌いとか
そういうことじゃないし、愛しているとか愛されているとか
そういうことでもないと思うんだけど。」
「弓弦さんは人を好きになったことあるの?(笑)」
「それはあたしを女として考えているから
そういった気持ちに感じてしまうんじゃない。好きとか嫌いとか。」
「普通そうなんじゃないのか?」
「まぁ、それはそれとして。
あたしさ、まだ西村さんとひかりの家族としか知らないことがあるんだ。」
「何?」
「槙村さん、誰にも言わない?」
「?」
「あぁ、誠さんには話さなきゃいけないことだから話ししなきゃとは思ってるんだけど。」
「で?」
「この話は、本当に誰にも言わないで。わかった?」
「あぁ、約束する。」
「男に二言はない?」
「ない。て言うか、男と男の話って感じだけど?」
「そうだね(笑)」
そういって弓弦は、窓際に移動し座る。槙村もそれについていくように
そばに座った。沖縄の夜は結構涼しい風が吹いている。
そんな風に吹かれながら、弓弦は槙村に話を始めた。
「あたしが高校に入っての夏休みにね
部活の顧問が急に体調が悪くなり、休職することとなって新しい先生が来たんだ。
若くてかっこよくってみんなにすぐに受け入れらてた。あたしもその先生が好きだった。
パーカッションをその先生が専門にしてて、1年のあたしたちにも
きちんとできるまで丁寧に教えてくれた先生だったよ。
でもさ、2年に上がるころには秘密の関係になってた。
わかる?男と女の関係。2年の夏のコンクールが過ぎたころ
あたしは体調を崩して、夏休み中部活を休んだ。
それでも戻らず、2学期が始まった9月を末日まで休んだ。
母さんが心配して、かかりつけの病院に行ったんだが
ちょっとそこで別の病院を紹介され2つのことが発覚したの。
`妊娠と癌。´
でさ、その先生にはちゃんと伝えたのよ?
先生は、授かった命を大切にし僕と人生を歩んでほしいと
そう言われたわ。愛されていたんだよね。本当に愛されてた。
秘密の恋ではなくって、本当に愛してくれてたのがうれしかった。
だけど、あたしの中にはもう一つ命とは別に悪魔がいたのさ。
赤ちゃんのそばに悪性腫瘍が。すくすくと育つうえで邪魔な腫瘍。
赤ちゃんの命が危ない、そしてあたしも。
まだstage1だろうから、子供はあきらめて
摘出手術をしようと担当の先生から話しをされた。
もちろん、その話もその人にしたわ。
だけど、難しいのね。わかってもらえ多様で複雑な表情をしてたわ。
そして10月の中ごろ、手術をしたの。子供と一緒に、腫瘍も取り出した。
その時に女の一部が体の中から無くなったわ。
でも、悲しかったわけじゃない。子供はちゃんと産めるように
ちゃんと最低限の病巣だけを除去し、損傷させた部分も少なく、
あたしの体を大切に守ったと先生から言われて
うれしかった、その時は本当に嬉しかった。」
「どんな手術だったの?」
「左側の卵巣が子宮本体の外側に癒着しててその癒着部分が
腫瘍になってしまってて、それが子宮の壁に食い込んでたんだって
その食い込みが授かったかちゃんのそばにあった。
そういうことさ。だから腫瘍を取り出す時に赤ちゃんを傷つけてしまうし
赤ちゃんを残すだけのそんな高度な技術は今の日本には存在しないのさ。
手術が終わり、学校にも退院した後は通ってたんだけど
その人はあたしが手術した日の週末に学校をやめた。
実家が嬉野にあって、その家業を継ぐとかでやめたんだと言ってた。
それに顧問の先生が復帰されたしね。
でも退院して11月に入ったころ、学校が終わって
部活もテスト休みだったんだけど、母が忙しくて手伝ってたんだ。
するとさ、お店を閉店する間際にその人がやってきて
あたしを見るなりカウンターから出ておいでと呼んだ。
話がしたいんだって。そういって、あたしに向かって話しするの。
母が危ないから出てはだめといい、ほかの常連客と一緒に
その人をお店から追い出し、入れないようにドアを閉め
警察に電話をしたんだ。そしたら裏の勝手口から入ってきて
あたし、刺されたんだ。おへその下。ここをさ。」
そうやって槙村に着ていたシャツを脱ぎおなかを見せた。
恥ずかしいとかじゃなくって、きちんと見てほしいと思ったからと。
「その傷・・・・・」
「あぁ、この傷さ。ためらうこともなくグイッと突き刺され
あたしのおなかを15cmほど切り裂いた。
すぐに近くの救急に運ばれて事なきを得たけど
あたしの中の女は眠ったままになった。月の者が来るだけの
機能がない内臓になってしまった。
その時のかあさんの顔、あたしが死んでしまったんじゃないかって
泣きじゃくってて、意識が遠のくなかであたしも死んでしまうのって
思ってたんだ。だけど目を覚ますと生きていた。
母さんが言ってた。女は弱い生き物だからこうなるんだって。
弓弦は強くなりなさいって、泣いて諭されたわ。」
「そりゃな。」
「母さんはあたしの切られたおなかから内臓が出てきたのを見てるんだよね。
それが大量の出血と共にだったから本当に。
必死にその人を突き飛ばしておなかの内臓を押し戻して
騒いで泣いて大変だったって。
その横であの人は弓弦ごめん弓弦ごめんなってつぶやいてたんだって。
でも、そばにいた常連さんたちの必死の救護であたしは生かされたんだ。
うれしかったさ、そこまでしてあたしは守ってもらえたことが。
警察からの事情聴取は、事件にしないでってお願いしたの。
あたしも事件になると学校に行けなくなるし、ここで生活できなくなる。
ましてや母のお店もあるからって。
でもさ、その人は釈放されて実家に帰ったんだけどしばらくして自分の家の裏山で
首をつってなくなった。本当にあたしを大切に愛しているのであれば
自殺なんてしてほしくなかった。
学校を卒業してからでも、一緒になれるのだからって。
でも、その人の愛し方はあたしが愛してほしかった形と全然違ってたのね。
でもさ、刺された現実があって周りはそれをいいように噂をして流してさ
あたし、居づらくなって大学受験でこっちに出てきたの。
学校のお世話になった先生があたしのことをがんばれって最後まで
励ましてくれた恩師がさ、特待で受けれるぞと明治学院大の推薦枠を
とってくれて、それでこっちに出てきたんだ。
で、伯母の所にお世話になりながら、ひかりと一緒に暮し
大学の時にbartenderのバイトをはじめて今ここまで来たのさ。
だから、長崎に寄り道し恩師にちゃんとお礼が言いたい。
槙村さん、これでもあたしが女として意識できる?」
弓弦がそう言った後、槙村の方を見ると槙村は泣いていた。
黙って涙を流していた。弓弦のその淡々と話をする横顔を見つめながら
話を聞いていて、その途中から知らず知らずのうちに涙が流れていた。
「槙村さん、何泣いているんですか?あたしにはもう吹っ切れたことよ?
その人のことを今でも忘れずに愛しているし、亡くなった母のことも。
母のお店に来ていただいてたお客さんたちも。
こんな時間をすごし、長崎をせると決心した時にそれを後押ししてくれた恩師も。
合格するだろうからと伯父さんも伯母さんも
ひかりもこんなあたしのすべてを受け入れてくれた。
そんなすべての人をかけがえのない人たちを愛しているよ。
大学ではサークルの仲間と`mask´の仕事仲間とオーナーと
あたしを受け入れてくれたすべての人も。
こんな田舎の女を、笑顔で受け入れてくれている周りのみんなが大好き。
だから、この怪我のこともその人のことも恨まずに生きていける。
いろいろと考えさせられてさ、いろんな勉強をした。
あたしという人生に厚みをくれたんだと思う。
だからさ、今では涙することもない。
ねぇ、槙村さん。泣かないでいいよ。ねぇ。槙村さん。泣くのはおかしいさ。」
「なんで弓弦は、自分を傷つけらてたのに恨まずに入れるのさ。
どうして?恨んで当然じゃないの?
俺が弓弦さんを大切にする人の一人ならば俺は多分その人を殺したと思うよ?
愛する人を傷つけられたら普通そう思うじゃん。なんで?なんでさ、弓弦さん。」
「なんでだろうね。女で生きることを忘れた時にそんなことも忘れたのかも。
あたしは今の男でも女でもない弓弦という生き方が好き。」
「でもさ・・・・・・」
「でも、あたし自身はこの生き方が一番好き。これは変えたくない。
女には戻りたくないし、人間臭い人間でいたいんだ。」
「なぁ、弓弦さん。」
「なに?」
「俺さ、同情で泣いたりはしていない。
それは弓弦さんに対して失礼だと思うからさ。
そう言った考えで弓弦さんの生き方を否定することはない。
だけどさ、あまりにも人生の考え方の違いがさ
俺の今までの生きてきた中での考え方?何かに対する思い方?
なんだかさ、俺の人生の考え方はちっぽけだったなぁって。」
「なんで?生きてきた今があるということは
それが槙村さんにとってはそれが正解だったんじゃない?」
「わからねぇな。ここさ10の時からいるんだ。
頼もしい先輩たちに囲まれてのほほんと生きてきてさ何の苦労も知らないで、
甘えん坊でさ、悪さして喧嘩して研修生の中でも問題視されてた。
だけど、俺って幸せな環境だったのかなぁ。
何にも深いことを考えたことなかった。
まぁ、いろいろとあってぐれた時期も鬱になった時期もあるけど
それを全部ひっくるめて俺なんだもんな。そんな俺も30越えてるし(笑)
でもそれはそれ。今は弓弦さんの人生をますます知りたいと思っているし、
一緒に居ればいろんな刺激を受けていい時間を作っていけそうな気がする。
弓弦さんと一緒にいるということで俺の人生にも何かが増しそうだな。」
「あたしといるといいことはないと思うわよ?」
「そう?」
「そう。」
「なぁ、麦酒飲んでいい?」
「あぁ。その冷蔵庫にある。」
冷蔵庫を開けると、沖縄の地麦酒が詰め込まれていた。
弓弦自身は飲むことがないだろうに、来る人のために入れていたのか。
また、窓際に来て弓弦のそばに座ると`コンコン´とドアをたたく音がする。
「お疲れ様です。翔太です。槙村さんいますか?」
「あぁ、いるよ。」
「弓弦さん、入りますね。」
「どうぞ。」
「あ。槙村さん、また飲んでる。(笑)」
「悪いか?」
「それも弓弦さんにくっついて座って!」
「悪いか?」
「僕も仲間に入れてくださいよ。」
「どうぞ(笑)どこ座る?」
「どうしようかな・・・・・。んじゃ僕は弓弦さんの足元で(笑)」
「おい、翔太。それって????」
「翔太君、足元って猫みたいだな(笑)」
「見張るのは疲れるから、動けないようにした方が俺が楽?」
「そうか、その手があったか(笑)」
「槙村さんは重たそうなので遠慮しときます(笑)」
「でも、煙草は吸わないで弓弦さん。」
「なんで?」
「もうそれでどれだけ吸ってるんですか。灰皿がすごくいっぱい。」
「あぁ、いっぱいになっちゃったな。」
「人生の深いところをはなししてたからな、弓弦さんと。」
「深いかなぁ。槙村さん。」
「あぁ、深く深く生きてきた話だ。」
「俺は?俺は聞けないの?」
「翔太君には早いか?(笑)」
「俺だってもう28ですよ?槙村さんと比べたら子供かもしれないけど
弓弦さんよりも3つも上です!」
「そうだった(笑)」
「あのさ、翔太君。」
「あっちにおいてあるPCとってくれる?携帯と一緒に。」
「はぁい。」
部屋のベッドのそばに置いてあったノートPCと、携帯をとってもらった。
携帯にはメールの着信を教える点滅が、そして着信も数件入っていた。
その一つ一つの目を通し、PCの方で返事を返していた。カタカタと音を立てながら。
細い指が鍵盤を踊るように、キーを押していく。
返信するその指の早く動くのを見ていて、翔太が感心してみていた。
槙村も携帯をいじっている。一方弓弦の携帯にもたくさんの不在着信が。
その着信のほとんどが西村さんからの着信だった。
「電話入れなきゃダメかなぁ。」
「そりゃ心配しているだろうから、した方がいいかもなぁ。」
「なんだかいろいろと面倒そうだ。」
「西村さん、俺らに誘拐されたって思ってるんじゃね?」
「それに等しいかもしれないけど、
でもこれはチャリコンのためのレッスンだし。」
「俺らの方からじゃなくって誠さんサイドからだしな(笑)」
「怖いなぁ。」
「メールで返せば?」
「槙村さん?メールで返したら即電話が入るとわかってるもん(笑)」
「面倒な人だなぁ。とりあえず、電話入れたら?」
「俺らいないほうがいい?」
「別にいい。何も秘密の話をするわけじゃないし。」
「いないほうがいいみたいな言い方だな。なぁ、翔太。」
「僕は弓弦さんがどんな話をするのか聞いてたいけど。」
そういってる間に、弓弦は電話をしている。
「はい、西村。」
「こんばんわ、弓弦です。」
「あぁ、すまんな。聞いてはいたんだが、こう連絡をしないと
やはり気持ちが落ち着かなくてさ。」
「あはは、もう何日かで帰ってくるのに、心配性の兄貴みたいだ。」
「あのさ、弓弦。」
「なに?」
「チャリコンのことだけどさ」
「何?何かあった?」
「トップバッター。俺(笑)」
「なんで?西村さん参加表明してた?」
「いや、面白そうだよなぁって話してたら
参加申し込みしてみる?って事務所が言いだして
で、まにあわねぇだろうと言ってたら間に合って(笑)」
「それで、西村さんが一番初めに?」
「あぁ。今日さその順番が決められてさ。お前たち`mask´は一番最後だったぞ。」
「一番最後かぁ、気後れするなぁ。」
「でさ、弓弦(笑)」
「もしかして?」
「弓弦さ、出番(笑)」
「冗談?」
「まじ(笑)」
「でも踊ったり、歌ったりするんじゃないしOK何だろうけど。」
「んじゃ、曲目は今までの曲で大丈夫だろうから弓弦をメンバー登録しておくぞ?」
「いいですよ。大丈夫です。」
「弓弦に何も話さずに決めちゃったからさ」
「それと西村さんにはいってないですけどそっちに帰ってくるのは
本番の前の日ですよ?」
「んじゃ、リハは?」
「西村さんのは大丈夫でしょ、ぶっつけ本番でも。」
「この間のアルバムからのにするか、しょうがない」
「やれないのはだめですからね?」
「OK。んじゃ、お休み。話せてうれしかった。」
「お休みなさい、先輩。」
チャリコンの始めと終わりに出場になるという連絡だった。
「弓弦さん?もしかして早く仕上げないと困るんでは?」
「西村さんの曲はあらかたどれでもOKだからあわてなくても大丈夫さ」
「でも、本当に仲がいいですよね。」
「俺焼けてくるなぁ。」
「槙村さん?そういっても何もないですよ(笑)」
「俺も、焼いていいですか?」
「翔太君もやきもち焼いてどうするんですかっ(笑)」
「でも何をするのかなぁ。西村さんの曲って。」
「この間のアルバムの中からでしょ。」
「弓弦さんあれ参加してたっけ。」
「thanks nameには弓弦さんの名前なかったでしょ?」
「あぁ。いつもないよ。恥ずかしいしいつも断って入れてもらってない。」
「でも、曲中のソロとかのは名前入ってるよな。」
「あれは入ってしまうなぁ。」
「ということは、この間のアルバムからっていうと。」
「ベースのソロと、サックスのソロと、すべての曲のドラムはあたしだけど。」
「そんなにいろいろとやるの?」
「西村さんの希望だから。喜んでもらえるならあたし喜んで完璧にやるよ。」
「それって西村さんがやっぱり特別なんだよな。」
「特別だというかさ、一緒に居てそれが当たり前というか。」
「たぶん西村さんもそう思っているんだろうな。」
「まじ焼けちゃうなぁ。」
「ベースのソロということは、アルバムの2曲目と6曲目?」
「そうだったかな、ちょっとロックぽい曲調のどっちかだな。」
「え?あれのソロって弓弦さんがやってたの?」
「そうだけど?」
「すげぇ。俺ベース教えてもらおうかなぁ。」
「料金高いですよ?(笑)」
「誰に教わったんですか?そんなにできるように。」
「一人で勉強さ。あとは西村さんがだめだししてくれる。」
「ドラムは?」
「あぁ。あのアルバム以外でもほとんどのアルバムの曲全部ドラムはあたしだよ。」
「まじで?」
「槙村さんより劣るさ。」
「うっそばっかり。俺よりもうまいじゃん。」
「そんなことないだろうと思うけど。」
「槙村さんもうまいし、弓弦さん西村さん手伝ってるってことは
そこいらの人よりうまいってことじゃん。」
「明日、開いた時間で西村さんのやる曲を教えてもらって
少しセッションしようよ。」
「いいのかなぁ。自分らの曲でもないのに。でも、楽器は?」
「ここには何でもあるさ。ドラムもベースもサックスもあったよな確か。」
「えぇ、多分ありましたよ?槙村さんのも弓弦さんのも明日見れるんだ。ラッキー!」
「さぁ。翔太は休め。朝から歌を教えなきゃいけない。
それにお前、目の下にクマが出てるぞ?昨日夜遅くまで遊んだな?」
「へへ。んじゃ、槙村さんは?」
「俺も寝る、これ吞んだら寝るさ。」
「お休みなさい槙村さん。そして弓弦さん。
また明日は僕と一緒にレッスンですね。頑張ですよ」
「おぉ。おやすみ、翔太君」
「槙村さんは一緒に行かないの?」
「俺?俺よっぱで多分に千鳥足で動けない(笑)」
「嘘だ(笑)」
「だから、今夜はここにいる。」
「自分の部屋に戻ってください、でないと怪しまれる。」
「俺は秋山さんから、直々に弓弦さんが無理をしないように言われているから。」
「大丈夫だって。」
「ちょっと動けるようになると、抜け出して練習するから駄目だって。」
「何もしない?」
「あぁ、そばにいるだけ。それならいいだろ?」
「ほんとに?」
「本当に。」
「なら、いい。」
「寝る?」
「まだ、メール返し切っていないし、チェック入れてないサイトあるし
眠くなってから眠る。」
「んじゃ、横に居ていい?」
「いいよ、別に。」
「俺もここにいたい。だめ?」
「翔太も悠太も遊んでばかりいないで寝ろよ。
俺は秋山さんから弓弦さんを見張っておくように言われているから
一緒に居なきゃいけないだけなんだ。
弓弦さんはちょっと体調が戻るとすぐ無理するからな。」
「俺らも一緒に居れば無理させないで済むじゃん。」
「だーめ。お前らは自分の部屋に行け。」
「つまんない・・・・・・。」
「仕方ないさ、翔太。行こうよ。お休みなさい先輩。
おやすみなさい弓弦さん、また明日。」
「あぁ、お休み。悠太は素直だな(笑)」
「お休み、悠太君。」
二人が部屋を後にした後は槙村と二人っきりになってしまった。
そして弓弦はPCでいつものように見ている。
槙村は携帯をいじりながら弓弦の顔を見ている。
まだ話をしたいんだけどと、タイミングを見ていた。
いつまでもカタカタとキーをたたいている弓弦。
眠くないのだろうかと横目で見ていた槙村は、すでに眠くなってきていたのだ。
「弓弦さん、眠くないの?」
「ん・・・・少しね。」
「んじゃ、横になろうよ。」
「横になってもベッドは1つしかないよ?槙村さん、部屋に戻らないと寝る場所ないよ(笑)」
「戻らないって(笑)それより、寒くはない?」
「寒くないけど。」
「んじゃ、ここにいようよ。ここでさ、眠くなったら目をつぶればいいさ。」
「なんだかなぁ・・・・横にいるんだもんなぁ。」
「なに?俺がいるのが不安なの?安心でしょ?(笑)」
「どっちとはいえないけど(笑)」
「体は冷やさないようにしないとね。寒くはないんだけど明け方は
ここ沖縄でも冷えるときあるからさ。」
「ありがとう。もうちょっとで終わるから終わったらあたしも寝る。」
「俺は横にいていいのか?」
「男と女に持ち込もうとしなければいいんじゃない?」
「隣もいるんだしそれは無理だろう?それとも期待してる?」
「期待は全くしないさ。槙村さんは大切な友人だもん。
友人と愛する人とは別さ。」
「俺も誰かさんに愛されたいな(笑)」
「無理(笑)そこまで槙村さんを知らないし。」
「弓弦さん?個人を知る努力も必要なんじゃない?」
「ん・・・・・・そうかもしれないけど、まだ槙村さんとはね。」
「口説こうとすると嫌われるから今はしないけど
せめて今は一緒に居たいんだけどなぁ。」
「一緒に居るだけよ?」
「うんうん。傍に居たいだけだから。」
「誰が?」
「ゆ・・・・・おれば(笑)」
「なんだか槙村さんの思惑に落ちていってそうな予感がするんだけど?」
「気のせいだって、気のせい。」
「さてと。ブランケットかぶろうっと。」
「一枚でいいんだろ?ここにもってきてるけど?」
「なんで二人いるのに一枚なの?二枚いるでしょ。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ、一枚でいいじゃん。」
「あたし寝相悪いから蹴りだされるよ?」
「それは勘弁だけど、でも一緒に眠りたい。俺も眠たいから素直に寝るけど。」
「そう、二枚はいるよ。」
「いらない、二人だと絶対一枚で温かいから。」
「何もしないって約束。」
「裏切ったらきっと友達ではなくなってしまうしな。」
「それじゃ約束できるってことね?」
「・・・・・・・約束する。悲しいけど今回は。」
「んじゃ今回だけね。次は無し。」
「次はわからない(笑)」
4日目の夜の夜中、またあの日のように槙村と二人で部屋にいる弓弦。
自然で、ゆっくりとした時間の流れのなかで、
月の光を浴びながらそれぞれの時間を過ごしている。
ドア越しに、何を心配しているのか翔太と悠太がのぞいていたが
その槙村と弓弦の一緒にソファに座っている姿は
月明かりに浮かんで、このワンシーンはきれいな一枚の絵のようになっていた。
あまりにもきれいすぎて、覗いていることも忘れて見つめていた。
「なぁ、翔太。」
「なんだ?」
「お前カメラ持ってきてたか?」
「あぁ、Nikonのだろ?取りに行ってと言ってるのか?」
「んだ。こんなチャンス、写真に収めなければいけないだろう?」
「そう思うか?」
「んじゃ、取ってくる。待ってな。」
そういって自分の部屋に戻りカメラを持ってくる翔太。
「お前の一眼レフなら、夜景モードできれいに取れるだろ?」
「うんうん。いいねぇ。」
翔太のカメラは、二人のいい感じをワンシーンづつ大切に撮られていく。
それに気づく弓弦。こっちを見た。
「やっべ。弓弦さん気が付いた。」
「うっそ、逃げろっ!」
弓弦は素早くドアまで行き声をかける。
「ちょいまち!あんたたち、何してた?」
「何って、あはは(笑)」
「ごめんなさい弓弦さん。だって、あまりにもきれいだったんだ。」
「槙村さんと一緒に座っているそのシーンがすごくきれいでさ
声かけたくてもかけれなくって、で、写真をと。」
「おいおい、お前ら盗撮してたのか?(笑)」
「盗撮じゃないさ、見る?見ていい奴だもん。
それにとった後、ちゃんと声かけたさ。」
「どら、見せてみろ。」
「はい。メモリーのここ。」
「へぇ。こんなシーンとれたんだ。弓弦さんほら。」
「ねぇ、弓弦さん怒ってないで見てさ。こんなきれいなシーンはないって。」
「でもこれどうするの?」
「俺らの次のアルバムのジャケットに使わせていただきたいな。」
「いつも翔太の取る写真でジャケットにしてるんだ。」
「弓弦さんも槙村さんも顔はシルエットになってるし
大丈夫でしょ?俺もこの写真使いたい。」
「なぁ、弓弦さん。どうだ?」
「槙村さん、どうだって言われても。」
「顔出てないし、きれいだよな。この写真。」
「弓弦さん、顔出てないって。このシルエット使いたい。使わせて!お願い!」
「だめといっても、使いたいってずっとお願いしに来るんでしょう?」
「槙村さんからも何とか言ってよ。」
「ん。俺も写り込んでるしなぁ。」
「悠太、おい頭下げろっ!一緒に下げろ!」
「お願いします。槙村さん、弓弦さん。」
「んじゃ、今回のレッスン料としてOKしようかな。」
「いいの?」
「ただし、西村さんのアルバムと同じように名前とかすべて伏せること。それが条件。」
「良かったな、お前ら。」
「kissシーンもあればよかったんだけどさ。」
「それは却下。いったい誰と誰がkissするんだぁ?」
「もちろん、それは俺と弓弦さん。」
「あん?槙村さんと?大きく却下。」
「俺でもいいですよ?」
「翔太君と?それもなぁ、自分と自分がkissしてるみたいできもい」
「そういうこと言う?」
「あたしね、kissは嫌いなの。
誰ととかじゃなくってその行為自体が自体が苦手でさ。」
「気持ち的なものなんだろうな、俺は大好き(笑)」
「なぁ。もう寝たいんだけど。」
「あ。もう24時か。6時間しか寝れないぞ?」
「でも明日は歌のレッスンでしょ?午前中で終わる。」
「5日目かぁ。あと5日間。弓弦さんは4日間。」
「明日は午後から長崎行きのチケットの手配しなきゃいけない。」
「んじゃ、解散だ。」
「お休みなさい。」
弓弦の部屋からみんな出て行った。槙村とのあの写真。
なんだか複雑な気持ちでいる弓弦。なんとなく、男と女が映っている
そう見えるその写真をジャケットに使うって、西村さんは見るとわかるんだろうなと。
明日朝一番で、西村さんに電話しよう。
で、メモリーもらってコピーしてメールで送ってみよう。
そう考え悩んでいた弓弦かなり眠たそうだった。
弓弦は槙村と話をしながらも目をつぶり眠そうに返事をしていたのが
返事が返ってこなくなった。眠ってしまった様子。
顔を覗き込むと、飛行機の中の顔をは違いすっと普通に寝ている顔。
怒ってる顔・不機嫌な顔ではなく普通の女性の顔をのぞかせている弓弦。
手を出せないもどかしさよりもやはりこの時間眠くてしょうがなかった。
槙村自身も少しハードな一日だったし、もう25時をまわった真夜中。
弓弦の顔を見て起きていたくても瞼がそれを許さないらしく、
槙村自身も眠りに落ちて行こうとしていた。
そんな揺らぐ意識の中、一緒に入るように弓弦にブランケットをかけ
弓弦の横にぴったりとくっつくように横に並んで座った。
弓弦の髪が風呂上がりのいい匂いをまだ漂わせている。
一つのソファに二人で座り深く深く体も意識もソファと眠りに落ちていく。
弓弦が深く落ちた後、吐息が一定のリズムを刻んでいる。
その横にぴったりとくっつき、腕をからませる。
弓弦の右肩に槙村は頭を持たれかけさせ右腕に絡む。
弓弦の眠りが深くなっているのか、`ン…ン・・・・´と、口から声にもならない声を出すが
気づいて起きようともしない。
そのまま槙村は自分の左腕を弓弦の頭を抱き込むように回し、
そのままくっついて寝てしまった。
陽が昇り、薄いカーテンの隙間から陽射しがさしてきた。
槙村はやっぱりいつもの時間に起きた。不規則な毎日の時間の流れの中で
朝起きる時間だけはいつも一緒なのだ。
槙村は起きると、弓弦を覗き込んだ。まだ寝ている。
自分が抱きかかえられるようにして寝ていることなど気づいてもいないように。
起きるときっとこの状況を、うあたがってかかるかもしれないと
そっと弓弦を抱え込む左腕を抜き、その白く細く長い右腕に絡めた自分の腕を
単純にくっついているだけの状態にした。
そして、一度起きたがまだ眠い槙村はそのまま自分の頬を弓弦の肩につけて
うとうとし始めた。
携帯が鳴る。二人の静かな眠りを妨げるように、弓弦の携帯が鳴ったのだ。
自分の携帯のアラームが鳴り弓弦は起きた。
おきてアラームを停めようとして伸ばした手は携帯には届かず
槙村が携帯を取ってくれた。
`ありがとう´といって携帯を受け取りアラームを止める。
その時自分にくっついて槙村がいることに気づき、びっくりした顔をひた。
そんなにそばで寝ていたのかと。何もしないで寝てたんだと。
びっくりした弓弦の顔。口元はおはようと笑っている。
槙村は、少しは弓弦に近づけたのかもと安心して笑顔でおはようと声を出した。
起き上がると、もう一度シャワーを浴びたいからと言われ部屋を追い出されてしまった槙村だが
一つ前に進んだ気がして、なんとなくうれしそうな顔をして自分の部屋に戻る。
そして自分のシャワーを浴び、着替えて食堂に向かおうと準備をした。
`コンコン´
「おはよう。弓弦さん起きてる?」
「ちょっと待って、誰?」
「秋山です。」
「あぁ。おはようございます、秋山さん。」
「昨日はだいぶ疲れてたみたいだけど、もう大丈夫?」
「槙村さんと翔太君と悠太君が見張ってたくれてたおかげで
何もできなかったのが功を奏した?」
「大分遅くまで部屋に粘られてたみたいだもんな。襲われはしなかった?」
「まさか(笑)貧血で動けないあたしを襲うだなんて(笑)
そんなこと想像したくないし(笑)朝ごはん、ですよね。
まだふらふらするので肩を貸して下さったらうれしいんですけど。」
「俺の肩でいいの?」
「ちょうどいいから(笑)」
「なんだか嫌味に聞こえる。」
「いえいえ、秋山さんだと安心ですから。」
「なんだかなぁ・・・・安全パイか?俺」
「そうじゃないですって(笑)」
「さぁ、歩けるんだよな。ほら。」
秋山の肩を借りて歩くその後ろを大川たちが起きてついてきた。
「おっはー!」
「あ、おは。」
「おはようございます。皆さん。」
「なんで秋山さんが横に居て肩を貸して弓弦さんの腰に手を回してない?」
「焼くな焼くな。弓弦さんはこれが安心なんだそうだ。」
「秋山さんはあたしを抱えれる腕の力がないから
槙村さんみたいに抱きあげられる心配がない(笑)」
「えー!そう思われてんの?」
「じゃないんですか?」
「くっそ。おら!」
そう言うと、秋山は弓弦をそのまま抱きかかえた。
弓弦は大きな声を出してびっくりして暴れたが秋山の力は強く、
そのまま胸に沈められた。顔を赤くしたまま食堂に着くと、
誠も真志も弓弦がおとなしく抱えられていることにびっくりして、声をかける。
「おはようございます。」
「おぉ、おはよう。弓弦さんの席を。」
「朝からびっくりです、まさか秋山さんが弓弦さんを。」
「いやいや。秋山さんは親切心で抱えてくれただけさ。」
「でも、嫌がらず暴れずおとなしかったじゃないですか。」
「成り行きそうなっただけだけどな。」
「あんまり言うな。後ろで槙村が危ない視線送ってるからさ。」
「怖い(汗)」
「ほれ、翔太も悠太も、睨むように見てるんですけど。」
「あ。副社長おはようございます。」
「あぁ、みんなおはよう。どうしたんだ?」
「何でもないです。めし食って練習に入ろう。」
秋山たちは席に座り朝ごはんを食べ始めた。
弓弦たちの席と隣り合わせに大川たちの席があったが
視線が痛いなぁと思いつつも弓弦はできるだけと食べ始めた。
「弓弦さん、食が進みませんか?」
「ちょっとゆっくりと食べたいんだけど、時間つまってるのかな?」
「誠さん、何か聞いてる?予定。」
「俊哉、お前さっき何か話ししてたろ?」
「真志さんが9時からスタジオって聞いたって。」
「なら電話する余裕もあるよな。」
「何を?」
「あぁ、昨日さ西村さんから電話来てさうちは一番最後だと。
おおとりだ。練習完璧にしておかないとな。」
「まじで、おおとり?」
「でもなんで西村さんが知ってるんですか?」
「西村さんは一番手だそうだ。」
「するともしかして、弓弦さんトップバッターでおおとりなの?」
「あぁ。悲しいけどそういう話で決まっているらしい。」
「いいじゃないですか、`mask´から出るアイドルだもん。
目立ってもらわなきゃ。お店のためにさ。」
「そう思えばいい事なんだろうけどさぁ・・・・。」
「なぁ。弓弦さん。」
「何?大川さん。」
「大川さんはやめようよ。圭一郎って呼んで。」
「んじゃ、圭一郎さん。なんでしょう?」
「弓弦さんたちの発声練習は8時半かららしいぞ?」
「大急ぎで食べ終わっていかないと間に合わねぇじゃん。」
「それ俺たちも一緒なんだよね。よろしく。」
「一人一人チェックするらしいぜ?」
「まじでか。」
「そう話しているところは男なんだよなぁ。(笑)」
朝ごはんを食べ終わり、西村に電話を入れている弓弦の後姿を
槙村がじっと見つめている。秋山に一瞬でも体を預けたことが
気に入らないのかじっと見つめていた。
その視線を知ってか知らずか弓弦が電話を終わると
槙村と一緒に居る圭一郎に話しかけてきた。
「あの。圭一郎さん。」
「なんでしょう?弓弦さん。」
「一人一人って?」
「あぁ。だって一人ひとり声質が違うでしょ。
貴志さんは、一度聞いたけど自分がやるパートは完ぺきだったし、
あの音に合わせれるんだろ?みんな。
だったら、貴志さんの声をとってあるから一人一人歌ってもらって
君らが会わせて完璧にすりゃいい事じゃん。簡単でしょ。」
「難しいなぁ。」
「カラオケとかいかねぇの?」
「誠さんと真志はいったことある?」
「何度か。」
「俊哉は?」
「貴志さんとだなんて恐れ多い(笑)」
「あたしも、貴志の歌は聞いたことあるけどそういう所は行ったことがないし。」
「ひかりちゃんが言ってたぞ?弓弦はうまいって。」
「槙村さん、いつの間にそんな話してるんですか?」
「つーつーの中ですよ?」
「渉とひかり嬢は付き合ってるのか?」
「そうだとうれしいんだけど(笑)」
「それはない。俺は弓弦さんが一番だから。
まずはひかりちゃんに許可をもらわないといけないしな。」
「槙村さんってそういう外堀から攻める人なの?」
「逃げ道ふさぐ戦法を好むんだろうな。きっと。」
「弓弦さんは俺らの仲間ですから駄目ですよ?」
「まず誠さん・貴志さん・俺・オーナー・西村さんって
ちゃんと順を踏まないと弓弦さんに告白できないんですから。」
「店でもそうなの?」
「そうですよ?だから新入りは遠巻きに見てるだけの存在なんです。
俊哉も弓弦さんが気に入ってくれたからこうやってそばに居れるんだよな。」
「厳しいんだ。年功序列(笑)」
「さぁ、スタジオに行こう。まずは歌ってもらってからだ。」
「わかった。」
移動して部屋に入ると、楽器やいろんなものがあった。
本当にそこでレコーディングができるだけの機材が並んでいた。
弓弦はいつもに西村さんの所で見ている見慣れた機材だが
正志や俊哉は珍しくていろいろと触りまくっている。機材を扱うスタッフが入ってきた。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
そういうと歌の方の担当は圭一郎らしい。圭一郎が話しを始めた。
「ではこれから一人づつ唄ってもらうが、曲は一人一人選曲して。
曲はこちらでリストアップしてあるから。そして発声練習をしよう。
喉を傷めたらいけないから。」
「ピアノの所に行って。ピアノ。一哉が慣らしするから。」
そういってピアノのそばに行く4人。一人一人のキーを確認しながら
一つ一つ音を拾っていく。拾っていきながら歌う声の出し方を
教えて行っていた。
誠さんの声、高い声も低い声も大丈夫みたいだ。
真志君は逆に硬い。一定の音域しかでないみたいだ。
俊哉君。まだ変声期終わったばかりの少年の声。懐かしいなぁ。
と、一哉は思いながら声を出させていた。
弓弦はまだそれを見ていた。一応女性だからと声の出し方が違うからと。
椅子に座って足を組んでlistを見ている。
何を歌えるのかがわからないのだ。いつも聞いているのは
国外の曲など聞いて楽しむ物ばかり。
何をどうしたらいいのかがわからないのだ。
「さて、弓弦さん。あなたの音域を知ることからだな。」
「なんだかなぁ。」
「だって話す言葉は低いし、この間のバスの中での鼻歌も低い。
でもそういう人って結構歌うとキーが高いんだよなぁ。
ピアノのそばに来て、出す音について出して。」
そういって一哉は弓弦のキーを探るために、中間地点からまず下げて行ってみた。
さすが西村さんを手伝ってるせいか、西村さんとハモるぐらいの低さは出た。
問題は上だ。どこまで出るのか。
「裏声に返ってもいいから出るところまでついてきて。」
「はぁい。」
キーを一つづつあげていく。誠さんたちの平均の音よりも
上は2オクターブ。軽々と出た。それも裏返らずに。
まだ上が出る、裏返るところをと思いまだまだ上を出させる。
「すげぇ、全部で5オクターブは出るぜ。それも裏返って6オクターブ」
「うんうん、聞いててもすごいって思った。」
「ついてっただけですよ。自分でもびっくりしてる。」
「この声は貴重だな。練習次第では歌姫だぜ?」
「普通に練習しない人でこれだと、きっちりとしたら怖いものがあるな。」
「真面目に弓弦さんレッスンちゃんと受けないか?」
「無理無理。あたしはbartenderって仕事が好きだもの。
この仕事以外に仕事はしない。」
「弓弦さんは頑固だなぁ。
これも一つの特技として自分を知っておいてもいいんじゃない?」
「でもさ。」
「でも?」
「歌い手にはなりたくない。裏方が一番自分に向いている。そう思っているし。」
「西村さんの前では唄ったことある?」
「ないさ、ないに決まってるだろ。」
「ばれると、きっと放さないだろうなぁ(笑)」
「ばらさないでくださいよ?」
「ばらさないでほしければ、全力を出し切ってやってくださいね。
実力をきちんと発揮していただかないと、レッスンができません(笑)。」
「弓弦さん、たまに口ずさんでいるじゃないですか。あれなんだっけ?」
「俊哉聞いたことあるのか?」
「あるある。掃除しながらさ、口ずさんでてそれが結構いい感じでさ。」
「なんの曲だっけ?」
「弓弦さん何の曲?」
「言わないとだめか?て言うか、いつ歌ってた曲?」
「思い出せ俊哉。」
「えっと。んと。6月の貴志さんの誕生日の前の日だっけ?」
「あぁ、貴志の誕生日のプレゼントを買いに行ったときに
弓弦さんが欲しかったって言ってたグラスを弓弦さんが手に入れたんだ。
それでご機嫌で、歌いながら掃除してたんだ。」
「それって?」
「弓弦さんの十八番だろ?」
「俺知ってる。デスペラードじゃないか?」
「そうだそうだ。多分。」
「思い出した!十八番でもなんでもないよ。
その曲オーナーが好きだって聞いてギター練習して弾き語りで歌った曲じゃないか?」
「そんなことまで思い出したら
そうやって歌わなきゃいけないだろ、誠さんのばか。」
「あー、聞いちゃった(笑)歌う?」
「歌ってもらおうよ、なぁ秋山。聞きたいだろ?」
「そうだなぁ。んじゃやってよ。」
「全く誠さんのばか。」
「すまん弓弦(笑)」
そうやって槙村がギターを弓弦に持たせ離れた。
「真面目に唄うの?はとぽっぽじゃだめ?」
「だめ、はとぽっぽ唄うと追試だな(笑)」
「あぁあ。誠さん、あとで半殺しだ。」
そうぶつぶつ言いながらも歌い始めた。
声が伸びる。発音も間違っていない。すぅーっと音が引き込む。
ギターと声が合わさって、心地よいメロディーが流れる。
歌い終わると圭一郎が弓弦に近づいて抱きしめた。
「すげぇよ、すげぇ。こんな声一般人たちからは聞いたことない。
こんな声を西村さんは一人占めしているのか?」
「すごくないですって。いつもこうやって
ギターを弾きながら母が歌ってくれていた。」
「弓弦さんはお母さんが原点なんだ。」
「そうだな。母がいたからあたしが存在する。当たり前だけど。」
「誠さん。俺弓弦を見なおした。」
「誰だってそうじゃん。真志だけじゃないぜ(笑)
隣の俊哉の顔を見て。呆けているだろ?」
「おい。おい、俊哉。」
「あ?あぁ、なんですか?」
「お前弓弦が神様に見え始めただろ?」
「もちろんです。あんな神様はいませんよ。」
「ほらな。帰ったら弓弦さん信仰が始まるぜ?あれは」
「もともと店でもうっすらとそういう信仰心が見えてたじゃん。」
「貴志にも聞かせたかったなぁ。」
「次。誠さん」
「何を歌いますか?」
「あ、えっと、なんだっけ。」




