何事も突然に。
昼休み。
いつもは昼休みに入る直前にお弁当を届けてくれるのに、まだ来ていない。
来ないと思いながらも午前中の仕事が推しているので、まだ大丈夫と思いPCと向かい合っているひかり。
もうちょっともうちょっとと様子ながら待つひかり。
もうひと段落をと、ちょっとだけお弁当を待つ。
昼休みを少し過ぎたときメールの着信を知らせる。来た!とメールを開く。
‘遅れてごめん。弁当持ってきた。今通用口の前にいる。’
「すみません、ちょっと席外します。」
「おぉおぉ、楽しみなお弁当の到着なのね。」
「そうですね。先輩も楽しみなんでしょ?」
「そうね、今日は何のおすそ分けかなって(笑)」
そのフロアを出て通用口へ向かう。
ひかりが勤めているのは有名人が出入りするところですべての管理を行う会社で、所属する人も多い。
正面玄関は、会社の顔ということで出入りする社員は数少ない。少ないが警備は万全。
通用口は社員証がないと出入りできない。どちらにしてもここしかなく出入りするしかないのだ。
弓弦。原田弓弦。
ひかりの母と弓弦の母が姉妹、ひかりの父と弓弦の父が幼馴染。
昔からの付き合いで長く続いている縁で長崎で育ち、大学からこちらに来ている。
ただ、今はひかりの家族と一緒に生活をしている。
実父が亡くなってからいろいろあったのだ。
幸せに過ごしてきたひかりと違い、いろいろあった弓弦は何も考えたくない部分があり
何も考えないでいい環境にいたいためにひかりの家族と一緒に過ごしている。
「弓弦、ありがとう。待ってたんだ。」
「ごめん連絡も遅れた。」
「いいよ、ひと段落したのさっきだし。でも、今日もお重なの?」
「作りすぎちゃったんだ。つい起きぬけぼーっとしててさ。」
「え?でもいつもじゃん、お重で持ってくるの。」
「そうだっけ?でもみんなでつつくんだろ?」
「うんうん、先輩たちもみんな楽しみにしているんだよね。」
「早くいかないと、お弁当のこっちゃう。弓弦ありがとう。みんなで食べるね。」
「午後も頑張って。帰りはいつもの時間に迎えに来るから。」
「お休みだもんね、自由だ!(笑)」
「ちょっとぶらついてくるだけだよ。」
「んじゃ、帰りはお願い。待ってるから。」
そう言って弦を見送った後、ひかりは戻っていった。
一方、弓弦はそのままその場を離れていった。
本当は待ち合わせ時間の少し前に到着し、
バイクを止めた場所のそばにある街路樹に寄りかかりながら手帳を見ていた。
仕事のすべての情報が書いてある大切な手帳。
休みの日は次の日の仕事のことをチェックするのだ。
「明日は・・・・・。」
弓弦の仕事、bartender。
長崎で過ごしていたころからずっと母の背中を見ながら育った。
弓弦の母は長崎で小さいbarを営んでいた。父が事故で亡くなってからずっと。
父は早くに事故で亡くなった、弓弦が小学校に入る少し前に。
母はそれから一人で弓弦を育てるため一人で頑張ってきた。
弓弦が大学入学でこちらに来てからずっとアルバイトとして入り、
今ではその場所が弓弦にとって大切な居場所となっている。
日中はいろいろと用事を済ませぶらぶらしていたのだが、再びひかりを迎えに退社の時間迎えに来た。
街路樹に寄りかかりながら煙草を吸っている弓弦に声かけながらひかりが近づく。
そのひかりの後ろには同僚の一人が付いてきていた。
「お待たせ、弓弦。」
「お疲れ様です、弓弦?。」
「えっと、お疲れ様。初めましてかな?」
「そうかも。」
「いつもひかりに仲良くしてもらってます。吉村です。」
「こちらこそ、ひかりがお世話になって。」
「ひかりもこんなかっこいい彼氏いるなんて。」
「ん?彼氏?」
「弓弦は彼じゃないよ?」
と、ひとしきり話をしていると広いロビーから正面の自動ドアを開け走り寄ってくる人が。
「山本さん!吉村さん!ごめん話に割って入って。」
「どうかしたんですか?槇村さん。」
「いや、あのさ。」
「なんでしょう?」
「集合に遅れちゃってさ、したらみんな俺おいて空港に行っちゃって。」
「あー、また槇村さん遅刻したんだ!」
「やらかしちまった。俺だけ置き去りにされちゃって、自力で空港向かうにも
足がないんだ。タクシーも捕まらなくて。」
「弓弦出番だ(笑)」
「本当にすまないんだが山本さんの彼氏さん。バイクなら俺を空港に送ってくれないか?
デート壊すのも気が引けるんだが。」
「そうだな‥‥デートぶち壊しだ(笑)」
「だ、本当に。必ず埋め合わせはすると約束するから。
きっと飛行機には間に合うと思うんだ。お願いだ、送ってくれないか?」
「ひかり、緊急じゃん。そのメット彼に渡して。フロアで待ってて。
そのメットつけて後ろにお願い。」
「行ってらっしゃい。事故らないでね。」
「大丈夫、行ってくるよ。」
そうごちゃごちゃとした夕方の混雑の中、槇村をのせた弓弦は空港に向かっていった。
ひかりはカウンターで槇村のことを話し、弓弦が帰ってくるのをオフィスで待つことにした。
「何時離陸ですか?」
「20時35分離陸だが、受付はその1時間前から始まってると・・・・。」
「この分だと首都高行っても一時間ってところかも。空港つくのは19時過ぎと思われますが。」
「それでもありがたい。」
「んじゃ、行きますよ?しっかりつかまって。」
そう声かけあうと信号が変わると同時に飛び出し、首都高入り口を目指し空港までを飛ばした。
「えっと、槇村さん。今バイクで空港に向かいました。
この時間だと間に合うと思います。そう伝えてください。」
そう先輩に声をかけるとひかりは自分のオフィスに戻っていった。
しばらくすると社長室から社長が出てきてひかりのオフィスに顔を出した。
きょろきょろしてひかりを探す。
ひかりは自分のデスクで待つ間のひと時を静かにスマホでSNSを見ていた。
小さく肘をついて頭を下げているのでPCに隠れてオフィスの入り口からは見えないのだ。
「ひかりくん、いるかね?」
「あ、社長。お疲れ様です。」
「すまんかったなあ、居残りさせてしまって。その上帰りの足が槇村にとられて。
あの後リーダーに電話を入れてさっきそっちに向かったって伝えたら、ありがとうございますって
お礼を伝えてって言われたよ。本当に君と彼には頭が上がらなくなってしまったな。」
「あ。みんな彼って思っているんですね。弓弦っていうんですがあたしと弓弦はいとこなんです。
母と叔母が姉妹で。一緒に住んでいるので弓弦が仕事休みはあたしの帰りを迎えに来てくれるんです。
弓弦も間に合うよう走るでしょうからもう安心ですね。」
「埋め合わせはきっちりやってもらえ。私からも言い聞かせるから。
でもあの彼は背が高いなぁ。モデル向きだ。」
「本当に女ですよ?あ。いとこなんですけど・・・・・。」
「え?あ?あんなに大きなバイク転がすしスレンダーだし。」
「弓弦。背ぇ高いですもんね。170は越えてるんじゃないですか?
仕事でもかなりモテてる様子ですよ?」
「そうだろうなぁ。」
「仕事はbartenderなんです。銀座にあるんですよね。」
「詳しく弓弦君の自慢話をしてくれるかな?」
そういうとひかりは弓弦の話を社長と話始め盛り上がっている。
そんななか、一報が入る。別のフロアから声がかかり社長に伝わる。
空港到着して飛行機に間に合ったそうだ、ということ。
無事に登場し飛んだということ。
そこから1時間かからずに弓弦は帰ってきた。
「帰ってきた」というメールが入る。
すると暗くなった玄関フロアが明るくなりそこからひかりが社長と一緒に出てきた。
「弓弦、お帰り。間に合ったんだね、ありがとう。」
「本当にありがとう、あいつはいつもこうなんだよ、困ったもんだ。」
「いえ、とんでもないです。」
「でも帰り遅くなったね。なんか食べて帰る?」
「食べて帰るんなら私の夕飯に付き合ってはくれまいか。バイクは通用口の横に留めておくといい。」
「えっと・・・・ありがとうございます。ひかり・・・。」
「あぁ、これは申し訳ない。ここのM’s company社長の山本だ。」
「知らないで申し訳ないです。社長の夕飯に私たちがお付き合いしてもいいんですか?」
「ラッキー、社長と夕飯だ。」
「山本さんと弓弦さんで両手に花だが、週刊誌にはいい餌だな。誰か呼ぶか。」
「そうですね、餌になっては困りますね。」
「まぁ行きながら誰かと合流しよう。」
ビルの角を曲がり少し歩いたところにある料亭に入る。
社長がいつも夕飯を食べるところだ。弓弦は場違いな格好をしていると思い声をかける。
「すみません、こんな格好なんでっちょっと敷居が高いかも。」
「いや、気にしないでいい。おかみさんはうるさくない人だから大丈夫。」
そう言って暖簾をくぐると、「いらっしゃいませ」と声が響く。
弓弦の格好を見てもそのつやのある笑顔で出迎えてくれた上に何も言わないのが不思議だけど、
これまでもいろんな人を社長が連れてきていたのだろう容姿はあまり関係のない接客。
部屋に通され、足をのばす。
社長は部屋の外で電話をしているようだ。
「もう少ししたら連れがまた到着するから、こちらに通してくれ。」
そう仲居に話しかけると部屋に入ってきた。
「あと5人ほど来るが、にぎやかになりすぎるかもしれんが勘弁してくれ。」
「あと5人もですか(笑)」
「うるさいだろうなぁ。」
「山本さん、ひかりさんと同じ苗字で私も山本という。よろしく。
弓弦さん、君のことも少し話をしてくれるとうれしいかもな。」
「私のことですか?何の変哲もない普通の‥‥」
「社長、弓弦は頭いいんですよ?」
「ほほぉ。で?」
「あぁ・・・・。ひかりのおしゃべり。
でも隠す事もないですからね。生まれはこっちですが育ちは長崎です。
工業高校から大学にすすんで工学部を卒業したんですが、結局は母の仕事を手伝ってたこともあって
bartenderになりました。叔母からは口酸っぱくお小言食らいましたが
母の背中を見て育ってきたし学生のころから手伝いしてて手についたものですから」
「君は本当に今の仕事が好きなんだね。好きなことを仕事にしているとはいいことだよ。」
「弓弦はたくさん行くとこあったのにね。結局弓弦モテモテの仕事なんだもんなぁ。」
「こらこら(笑)」
「でも、上着の下には・・・・・、やはり女性だ。髪も長いのか。」
「髪は忙しくてカットしに行くタイミング逃してしまって。そうこうしているうちに
こう、みつあみしてしまったほうがほうが楽なことに気づいて(笑)」
「面倒くさがりなんだから。で、上は脱がないの?」
「ん、暑くはないしこのままでも。中のTシャツは半そでだから寒くなる気がして。」
「鍋だから途中暑くなるかもしれんが、まぁそれはそれでその時に。」
「ん・・・・・。熱くなって脱ぐときはこっちにかけるからあたしに渡してね。」
「わかった。」
「お連れ様が到着されました。」と声がかかった。
社長の後ろのふすまが明けられる。男性数人の声がする。
「社長、ゴチになります。」
「今日も忙しかったな。お疲れ様。」
「あ、えっと山本さんじゃん。それと・・・・。」
「え?翔太・・・・???」
「なに?俺ここにいるけど?」
「だれだれ。」
「マジそっくりやん」
「さっさと入れよ、つっかえてんぞ!」
そうはいってきたのはUnion・Martinの5人。
話をしながら部屋に入ると、テーブルを囲んで座り始め
弓弦とひかりに質問をし始めた。
「受付嬢、久しぶりに会うなぁ。」
「そうですか?会社ではいつも合うような気がしますが(笑)」
「ていうかそっくりだな、誰?」
「原田弓弦って言います。」
「原田さんって翔太にそっくり瓜二つ。」
「スタイルは原田さんのほうが細いけど髪型が違わないと翔太かどっちかわからないぞ。」
「原田さんはどこ出身?」
「ん、長崎です。大学進学でこっちに来て今は銀座でbartenderやってます。」
「長崎なんだ。」
「工業卒業してM大の電子工学科を卒業しました。
だけどbartenderです、今は。」
「すげぇじゃん、うちの親父の会社が欲しがるぞ、こんなに美人だし。」
「私は、硬い仕事は苦手て今までも母に自由に育てられたので
多分に無理かと。(笑)」
「原田さんって横から見てるとすごく優しい笑い方をするのがわかる。」
「原田さんのお勤めは?どこのbarにいるの?」
「銀座の通りを一歩裏通りに入って突き当りの`mask´にいつもいますよ。」
「`mask´っていや、有名人や著名人の行きつけのbarじゃないですか?
先輩たちもよく行くそうなんですけど。」
「そういえば、お顔だけは拝見したことがあるひともいるような。
でも、あたしの担当ではなさそうです(笑)」
「落合先輩とかはお兄さんとその仲間と・・・・
そうそう!西村正弘さんも来られてますよね?お知り合いなんですか?」
「あぁ。西村さんね。西村正弘さんは高校のOGでOB会で知り合って
よくかわいがってもらってます。高校の時の部活吹奏楽部なんで。」
「そうだったんだ。学年は?」
「かなり違いますが、やっぱり西村さんもその・・・・・・
翔太さんにあたしがそっくりだとすぐに顔を覚えてくれて(笑)」
「いいことじゃないですか、僕に似てるということも。」
「翔太さんは、いい男だけどそれにもまして人柄もいい。あたしとは正反対だわ。」
「元原ぁ。翔太が怪我した時頼めるな(笑)」
「話し声で偽物ってばれますって。」
「あの。」
「なんだ、悠太。」
「熱くないですか?この人数でお鍋だし。」
「暑いかも。」
「ほら、原田さんも暑いって。」
「あぁ、大丈夫です、上着を脱げば。」
「弓弦、それこっちにかける?」
「ん、頼んでいい?」
「あ、それと弓弦でいいですよ。苗字では堅苦しいし。」
すると、上着の背中の内側には1本の三つ編み。
「あの。弓弦君。」
「どうかしましたか?社長。」
「やっぱり髪は腰のあたりまで長いが魅力的だなぁって。」
「頭よくてもきれいと褒められてもこんなに背が高いとうざがられます。」
「そんなに?立ってみてよ。」
「え?立つんですか?あたし176あるんですよ?」
「翔太も確かそれぐらいだよな。」
「変わんないじゃん。俺、負けちゃうのか。」
「いえ、翔太さんが男前でしょ。」
「弓弦はどこに行ってもモテるんだよねぇ。」
「原田さんって男前ともいえるか。モテるってすごいじゃん。」
「なぁ、鍋もふき始めたから食べよう。おなかがすいた。」
「そうですね。」
小皿にとりわけ、わいわい騒ぎながらもしっかりと食べていく。
騒がしいながらも、料理はおいしくいただけたようだ。全員、満足げな顔をしている。
弓弦のスマホがちかちかしているのを、ひかりが気づく。
携帯にメールが入る。
`弓弦、今どこ?店がお休みみたいだけど?´
西村からのメールだ。
「先輩からだ。何か用事かな。」
「弓弦?誰?」
「原田さんも隅に置けないなぁ。誰ですか?」
「気になるなぁ、なぁ翔太。」
「ただの先輩ですよ先輩。」
「まぁ、君はやはりもてるということだ。
さぁ、お開きにして弓弦さんと山本君を開放してあげないと。」
「そうですね、夜も遅いし。」
「ひかりちゃんに言うと弓弦さんとは連絡取れますね?」
「悠太?お前抜け駆け?」
「違うよ、誰かと呑みに行くときbarだったらオシャレじゃないですか。
一度行ってみたくてさ。」
「喜んでお迎えしますよ、`mask´は一見さんお断りなところもありますから
お越しいただけるときは、連絡をいただいた方がいいかも。」
「そうなんだ。」
「一応時間によっては同じように有名な方もおられますからね」
「その有名な人たちに囲まれて、なかなか(笑)」
「あはは。女として見られてないから、呼ばれて話が進むんじゃん。」
「それもなかなか微妙だな。でも槙村先輩は多分そういうところ好きかもな。」
「わかるわかる。渉さん、静かなのが好きみたいだし。」
「ねぇ、弓弦。メールは誰?」
「あぁ、先輩。」
「見せてよ、ねぇ。だぁれ?」
「ん?ほら。先輩だって。」
「え?先輩?西村って・・・・・。」
「うっそ、うわさをれすればじゃん。」
「弓弦さん、メール返してみてよ。どこかに呼ばれない?」
「どこかにって、どうだろう(笑)」
「何か用事で呼び出されるのかも?」
「でももう夜中だしなぁ。なんだろう。」
「もし呼び出されるんならさぁ・・・・・・。」
「もしかして一緒にってこと?」
「社長。もしかしなくてもプライベートでならOKでしょ?」
「男っぷりを学んでくればいい。向こうが良ければな。」
「弓弦さん、はやく。」
そういわれると、お店を出てからの通り道でメールに返事を返した。
`こんばんわ。今日はオーナーの都合で臨時休業になりました。
今、ひかりの会社の人たちと一緒に居ますが。どうかしたんですか?´
と返信すると、電話が入った。
「弓弦?今大丈夫?」
「先輩どうしたんですか?」
「まだ起きてたんだ。て言うか今大丈夫なのか?」
「ひかりと一緒なんですけど。何かありましたか?」
「ちょっとさ。ちょっとね。」
「んじゃひかりをタクシーに乗せて送り出してそれからでも大丈夫ですか?」
「あぁ、それでも大丈夫だけれど弓弦は大丈夫?」
「えぇ。あの、ほかについて来たいって横に人がいるんですが。」
「誰?」
「西村さんと同じ仕事をしているひかりの会社の人間です。」
「そうなの?別にいいんじゃない?。」
「OKだって。」
「大勢なの?弓弦。」
「たったの5人です。」
「5人もかぁ。俺も顔を知ってる?」
「多分。んじゃ着いてからのお楽しみに。」
「待ってるよ。」
そういうと電話を切り、タクシーにひかりを乗せ家に帰した。
西村の言ったところまで行くと、これから呑みに行くからとの声掛けだった。
「弓弦、ごめんな。てかさ、お前・・・・・髪。」
「あはは先輩、ちょっとね。三つ組みほどかされちゃってさ。」
「て言うか一緒の5人ってMartinの5人やん。」
「初めまして西村さん。」
「初めまして。まさか弓弦のおともにMartinとはなぁ(笑)」
「ごめんね、先輩。」
「何がだ?」
「すみません、俺たちもあつかましくついてきてしまって。」
「いや、大勢のほうが楽しいし。でも弓弦にみんな驚いたんだろ?」
「だって翔太が二人ですよ?(笑)」
「俺、戸惑ってしまいましたもん。」
「弓弦は女だから余計にな。」
「先輩。念を押さなくたって。それよりなんか用事あったんですか?」
「弓弦を呼び出したのはさ、呑みに行くのの相手にと。で、明日走りに行かないかなぁって思っさ。」
「西村さんもバイク好きですよね。」
「だな。君らは?」
「悠太が400もってるぐらいで、みんな車でだとあちこち行きますけど。」
「俺は免許もってないぞ?」
「翔太はなぁ。仕方ないさ、俺らはこういう風な仕事はじめる前に取ってたしさ。」
「そっか、お前たちはアイドルだからなかなか運転することも
きっと社長が許さないだろうなぁ。」
「怪我したら元も子もないですしね。」
西村と弓弦の間にはMartinが割り込む形で話し込んでいて
周りのことなど気にもせずに笑い声があたり一面響いていた。
しばらくすると、月明かりと夜の静けさがまとわりつくように7人を包み込んだ。
「今夜はどうしようか、こうにぎやかだと隠れるのも大変だな。」
「今日はこのまま帰りましょう。そうしません?」
「弓弦は?」
「もちろん帰ります。だってMartinの5人を先輩に会わせたし
それでこの子たちも今日はいい一日になっただろうし。」
「西村さん、これからもよろしくお願いします。
仲良くしてください。俺らみんなファンだったんですよ。」
「よくTV局では会うのになぁ(笑)」
「俺らが話しかけてもいいのかどうか、恐れ多くて。(笑)」
「見かけたら遠慮なく話しかけてよ。俺それがうれしいし。」
「さぁさぁ、もう25時よ?あたしも眠たい。」
「弓弦お休み。明日は午後から走ろうと思うけど、お前仕事だよな。」
「明日は仕事。夜は来てよ。」
「俺らも行きたい。」
「来るならメール入れて。ひかりに言えばいいから。」
「やったっ。」
「素直にいい奴らだな。知り合いになれてうれしいよ。」
「じゃ、俺らもこれで。」
「お休み。」
「先輩お休み。」
「弓弦、ちょっといい?」
「ちょっと待ってて先輩、彼らをタクシーに。」
「ねぇ、原田さん。」
「何?翔太君」
「西村さんと原田さん、付き合ってるの?」
「違うわよ?素直に先輩後輩の仲よ?彼女だったらファンが怖いわ。
きっと殺される(笑)さぁさぁ、人のこと気にせずに乗った乗った。」
「原田さん、また今度。お休みなさい。」
「だから、弓弦でいいですって(笑)もぅ。おやすみなさい。」
そうやってMartinの5人をタクシーに乗せ、西村の待つ公園に戻る。
ベンチに座り、ぼーっと座っている西村に声をかける弓弦。
「先輩。あの子たちあたしと先輩が付き合ってるって思っちゃったらしいわ。」
「俺はそれでもいいんだけどなぁ。」
「先輩?先輩の彼女のハードル高いからあたしじゃ無理ですよ。」
「なぁ、弓弦。」
「なんですか?」
「帰ろうっか。」
「ちゃんと先輩は先輩の部屋に帰ってくださいね(笑)」
「弓弦が来ないなら、俺が弓弦の部屋にお邪魔はだめか?」
「だめに決まってるじゃないですか(笑)」
「わかったわかった。」
「お休み、先輩。」
「おやすみ、弓弦。」
そういって弓弦はひかりの会社の前に止めたバイクをとりに行き
その足で家に帰って行った。
次の日、朝起きるともう9時を回っててひかりも誰も家にはいなかった。
弓弦は煙草をくゆらしながら、ひかりの弁当の献立を考えていた。
冷蔵庫を覗き、人参のグラッセ作って後はどうしようかと。
弓弦の携帯にメールが入る。それを知らないままキッチンに立って
何かを考えるということもなく材料を手前に並べ2本目の煙草に手が伸びる。
お弁当に入れるものをつくり終えたところメールに気づいてメールを見た。
`弓弦。おはよう。今日はやっぱり仕事だよな
仕事でなければいつもの仲間で遠出できるのにな。´
`おはようございます。ひかりちゃんから聞いてメール入れました。
槙村です。明後日、帰ってくるので良ければ訪ねていきたいのですが
お店は?ひかりちゃんが行くときは連絡をって言ってたから
このメールに、日時を入れたら大丈夫なのか?
気が付いたらメールをください。´
`おはw 弓弦、起きた?槙村さんから連絡もらって
今メールしたけど、ちょっと前に槙村さんにメールアドレス教えたよ。
んじゃね、楽しみにお弁当待ってる´
まぁ次々とメールが。弓弦はウザそうに携帯を見ていたが
迷惑メールではないのでと次々返信していった。
お昼前には家を出てまずひかりのお弁当を届け、
カフェに行き朝ごはんをとり、行きかう人波をぼーっと見ていた。
15時を過ぎる頃、ぶらぶらとしていた弓弦はお店に出勤。
身支度を整え、買い出しに行き開店の準備をする。
お店の仲間たちも携帯にも今日のお客さんからのメールが続々と入り始めた。
開店するのか、お気に入りの店員が行く時間にいるのか弓弦もそうだ。
そんなお客様からの確認のメールをチェックしている。
弓弦にもぼちぼちとメールが入りはじめた。
今日も忙しくなるのかもなぁとため息をついた。
そしてその一日の始まりが開店とともに始まる。
そういう日が続くのが弓弦の仕事なのだ。
`先輩、お疲れ様です。今日は仕事ですよ、お店にいます。
ツーリングのお誘いありがとうございます。
しかし勤務があるので当分は一緒には無理っぽいみたいです。
眠く疲れたままだと事故が怖いので。
またお誘いください。お店で待っています。´
`お仕事お疲れ様です、槙村さん。
まだこちらには帰ってこられてないのですね。
帰ってこられた際には、ご一報くだされば
お店の方でお待ちしております。
私の勤めるお店`mask´は一見さんは入れません。
なのでちゃんとまた来るときmailをください。
よろしくお願いします。
うちのひかりがいつもお世話になっているのに
すみません。
心からご来店をお待ちしております。´
`ひかり。また入口で。中には入っていかない。よろしく´
そう返信を返しては、またチェックを入れ失礼のないように
受信したメールに返信をする。
その日の夜、山本社長が秋山と一緒に`mask´に来店された。
それも弓弦を指名して。
サテンの白いシャツに黒のベスト、黒のタイトパンツ姿の弓弦。
周りの男の人たちに紛れて、本当に男にしか見えないように。
入口の黒服に呼ばれ、弓弦は出迎えた。
自分のカウンターまで案内をし、挨拶。
「ようこそ`mask´にご来店いただきありがとうございます。
山本社長。お隣は?」
「あぁ、秋山君だ。K'sbrotherのリーダーだよ。」
「初めまして、原田です。いつもひかりがお世話になっています。」
「初めまして秋山です。受付嬢のひかりちゃんの?。」
「いとこになります(笑)」
「この間はうちの槙村がお世話になったそうで。」
「いえ、困っているときはお互い様ですから。」
「でも本当に社長、髪が短ければそのまま翔太ですね。
しかしびっくりするぐらいにほんといい男だな。」
「それは褒めてますか?」
「褒めてるんですよ。社長についてきたのは、俺スカウトも兼ねてるから。」
「へぇ、仕事ってそういうのも兼ねてる時もあるんですか?社長。」
「えぇ。彼らの目線はやっぱり大切でね、
自分たちの仕事を共にこなしていくことができるかできないかと
ちゃんとした目線で見てくれるからな。」
「そうなんだ。でもあたしは、きっと不合格ですよ?」
「なぜ?俺の目は共に仕事がしたい雰囲気をつかんでるけど。」
「山本社長のM'scompanyはタレントは皆さん男性でしょ?」
「例外なく男性ばかりだなぁ。」
「それが問題?」
「そうですね。ここも仕事上、表にこうやっているのは男ばっかりですが
もしかして男に見えてるんですか?」
「え?ちがうの?」
「社長、もしかしてだまって連れてこられたんですか?」
「秋山の目をためしてみたかったんだともいえるが。」
「秋山さん。仕事の話は無理ですよ。」
「なんで?」
「あたし女ですから(笑)」
「うっそ。声低いし、
背ぇたかいし話すところ一緒に働いてる人とかわんねぇじゃん。」
「社長も人が悪い(笑)秋山さんかわいそうですよ?」
「そうかな?まぁ、それはそれで。
そういえば、ここは早い時間来店する人は少ないね。」
「そうですね。でもしばらくするといろんな方々が見えられますよ。
そしてここではいろんな話が飛び交います。男性であれ女性であれ
安心して話ができるように、カウンターも広いし
席が離れているでしょう。店内も薄暗くしてあるし。」
「そっかぁ。お忍びで来られる有名人も多いんだ。」
「では、あちらでも呼ばれているので
山本社長と秋山さんをイメージしてお出しして
あたしはちょっと離れますが、よろしいですか?」
「あぁ。ひかり君が言ってたとおり君は人気者だな。
私はリッキーを頼む。秋山君は?」
「俺の分は、おすすめで。」
「では、リッキーを2つ。」
「あぁ、頼む。」
その弓弦の仕事姿を横目で見ながら社長と秋山は仕事の話をし
弓弦は、隣の人を相手にしていた。
社長そうやって弓弦は、社長と秋山の分を作り少し離れた席にずれた。
と秋山がふと弓弦から視線を外し、その客を見るとよくは見えないが
見たことがあるような気がしていた。
「社長。弓弦さんと話しているのはあれって???」
「西村さんじゃないですか?」
「そうかぁ、彼と弓弦さんはやっぱり仲がいいんだな。」
「すごくいい顔して話しをしていますね、弓弦さん。」
「でもためはってる顔だぞ?男と女の話す顔じゃない。」
「でも、彼が一人ででもここに来るのはやっぱり少しは気持ちがあるのではないでしょうか?」
「ちょっと挨拶してくるかな。」
「行ってらっしゃい、社長。」
そういって席を立ち、弓弦と西村のそばに行った。
「こんばんわ。西村君。」
「あ、こんばんわ。えっと」
「M'scompanyの山本様です。」
「あぁ、昨日のMartin5人組の所の。」
「いや、昨日はうちのものがあなたと話ができたって喜んでましたよ。」
「そんなまたまた、同じタレントなのに。」
「いえいえ、あの子らにとっては大御所と呼ばれる大先輩ですし
君みたいな人をわが社にも欲しいね。」
「そんなほめられる僕じゃないですよ。」
「社長お連れの方、一人ですよ?」
「秋山君もこっちにいいかね。」
「秋山君じゃないですか、一緒にどうぞ。」
「秋山様、あちらに移動しましょう。」
「あ、弓弦さん。いいんですか?」
「三人での話の方が、きっと盛り上がると思いますよ?」
「んじゃ、呼ばれようかな。」
そうやってその夜は弓弦の紹介で西村と秋山と社長でつながりができ
またここで会おうと、話をたまにするのはいいなと言いながら
お互いの立場のいろんな話で盛り上がっていった。
その夜もにぎやかにいろんな人が集まっていた。
秋山と西村と社長との3人はひときわ目立つ存在で
それも弓弦と一緒にいるため絵になる雰囲気だったのだ。
「そうすぐ閉店の時間25時になりますが、最後の一つはどうします?」
「いや、最後のは遠慮しておくよ。楽しい会話でかなり呑んでしまった。」
「次々と行きましたものね。」
「弓弦。」
「あぁ、誠さん、どうしました?」
「いや、自分の所は帰って行かれたので手が空いたんで。」
「あの、誠さんです。ここでの一番人気の。」
「相原誠と言います。よろしくお願いします。」
そういって名刺を渡す誠。barの店員の名刺はそれぞれ特有のデザインで
自分を表現するデザインを使う。人と生りを表すように。
誠の名刺は特にスマートでシンプルだが印象に残る光る名刺。
「一番人気かぁ、いい男だな。」
「誠さんはおいくつですか?」
「俺ですか?弓弦と10違います。」
「すると?」
「ん?あたしは1986年3月生まれなのよね。」
「今25だよな、弓弦。」
「えぇ、誠さんの言うとおり。」
「誠さんって35になるんだ。いい感じだ。」
「弓弦さんと一緒に立つとお似合いですよ。」
「いえいえ弓弦は西村さんでしょう。」
「そう?(笑)弓弦、俺たちお似合いだって。」
「先輩ったら真面目に受け止めたらだめですよ?まったく、言葉巧みなんですから。」
「俺はさ、それでもって口説くんだけどなかなか弓弦は落ちないんだよなぁ。」
「西村先輩の彼女になっちゃったらあたしファンの子に殺される、勘弁です(笑)」
「西村君も振られるのか。同じ男として安心を覚えたよ。」
「またまた、社長。」
「ところで誠さん弓弦さん。」
「なんでしょう。」
「ここってbartenderって何人いるんですか?」
「ここのお店は人数多いですね、先輩。」
「あぁ、メインが8名でサブ・見習いが11名ですね。」
「メイン8名ってすごくない?」
「その分お店も広くあるし、メインに合わせてカウンターも
使い勝手のいいようにつくられてるし
その人その人で使うベースもブースごとにおいてあるんですよ。
だからお店の中でも自分のブースが設けてあるんです。」
「というと椅子の数でその人の人気度合いがわかるのか。」
「そうですね、なのでついているお客やその客質で
バーテンダーの位置が変わるんです。」
「誠さんがやっぱり一番ですよ。」
「弓弦君。君は?」
「メインに残るようにキープするのが精一杯ですよ。」
「弓弦は、女なのに急成長で注目株ですよ。」
「誠さんそう褒めないでくださいよ。」
「そういえばこれから閉店した後どうするの?」
「西村先輩は次に行かれるんでしょ?」
「良ければ秋山さん一緒にどうですか?」
「いいですねぇ。社長は?」
「あぁ、私は家に戻るよ。明日は飛ばないといけないからな。」
「福岡だったですね。気を付けて、お疲れ様です。」
お店が閉店すると、外で西村と秋山が弓弦が出てくるのを待った。
3人で次にと。
「お疲れ様でした、お先に失礼します。」
そういってドアを出て、振り返ると二人が待っていた。
秋山は全然気づかなかったが、西村はすぐに声をかけた。
「弓弦。本当に帰るのか?」
「この格好で呑みには行けないでしょ?」
弓弦は単に革ジャンと皮パンと頭から足の先まで真っ黒。
まるで走りに行くぞと言わんばかりの格好で。
それもフルフェイスのヘルメット。顔も見えないダブルブラックの。
呼び止める西村に、弓弦は振り向いて近寄ってくるが秋山は、ん?とした顔をする。
ヘルメットをとり、顔を見せると秋山は弓弦さん?とびっくりした。
「弓弦さん、その恰好じゃめっきり男にしか見えないじゃん。」
「秋山さん、弓弦の男っぷりはそこら辺の男よりも数段上でしょ?」
「あぁ、そんな恰好で、ひかりちゃんに弁当持ってきたら
そりゃ彼にしか見えないでしょう。」
「だって女って面倒。きゃぁきゃぁうるさいし。」
「もしかして弓弦さん、キャピキャピした女は苦手なんだ。」
「ですね。面倒だし、自分がそんな人たちに絡まれたらって思うと
すごく気持ちが悪い。」
「あはは。弓弦さんは本当に男っぽい性格なんだな。」
「面倒が嫌いなだけですよ。」
「どうする?弓弦さんも一緒に?」
「いえ、あたしは帰ります。西村先輩も秋山さんもゆっくりと。」
「んじゃ、行くか。」
「また今度お誘いください。失礼します。」
そういうと自分のバイクで帰って行った。
そのバイクで帰り弓弦の後姿を二人見送る。
秋山の目にはやっぱり男の後ろ姿にしか見えてはいないようだったが
西村はその後ろ姿を愛おしく見つめていた。
そして西村と秋山は次のお店に向かうため、タクシーを止めた。
「弓弦さ、あいつ女も嫌いだけど男も嫌いなのか?と
そう思うときあるんだよね。」
「でも、彼女は男らしいですよね(笑)」
「高校卒業して大学に入った時すぐにさ、
東京OG会っていうのがあって、一人で顔を出したんだ彼女。」
「一人で?同じ学年の友人がいただろう。」
「でさ、面白いのがさ彼女その時も黒の革の上下にTシャツでさ
一人壁に立ってたんだ。」
「へぇ、知り合いとかいないのにその会場ではどうしようもなかったんだろうに。」
「俺はさ、こういう仕事しているから顔われてるじゃ。
周りにはたくさん人がいてさ、一人にさせてくれないのに
彼女はさ、後から聞いた話なんだけどお世話になった先生を
探していたらしくてキョロキョロして様子伺いしてたんだよ。」
「へぇ。」
「するとさ、会場のOGの人に話しかけて何か聞いてたんだけど
話が終わると、そそくさと帰ろうとするから俺が声をかけたんだ。」
「もしかして弓弦さん、西村さんのこと知らなかったとか?」
「あぁ、知らなかったみたいだな。
すっごくそういうのが新鮮でさ、俺、知らないの?って」
「それありますよねぇ。そして有名人扱いしないで
率直に話ができる人。それある意味、貴重な人ですよね。」
「だろ?思いっきりさ、地元言葉で話しかけてさ呼び止めてさ
その時俺、誰かさがしてんの?ってしゃべりかけてさ」
「で?」
「そしたらさ、山口先生探してたけど今日は来られてないって言われたから
帰るんですって。何を話ししても上の空でさ肩すかし食らっちゃってさ。」
「まじで、顔を見てもなんとも?」
「それよりさ、俺の方がびっくりしてさ。」
「そりゃそうでしょうよ、翔太だもん(笑)」
「振り返った顔がさ、男顔の翔太だろ?で、声が低いし
仏頂面でさ女には見えなかったんだよね。」
「俺だって言われるまで女って思わなかったもんなぁ。」
「でさ、名前は?とかいつ卒業したの?とかいろいろ話したんだけど
その時に名前を聞いて珍しい名前だなって言って
皮ジャンの前を開けるからふと目をやるとボンッて膨らんでるだろ?」
「あはは、西村さんも男だ(笑)」
「ねぇ、もしかしてって聞いたら笑われて。
でも笑った顔は翔太じゃなくって美人の弓弦だった。
それからさ、部活はぁ?とか話してたら
俺も吹奏楽部だったんだけどさそれが同じで意気投合。
何やってた?とかの話で盛り上がっちゃって
それからの付き合いだよ。もう6年たつのかなぁ。」
「西村さんは何をしてたんですか?」
「俺はトランペット。」
「へぇ、弓弦さんは?パーカッション。」
「それって?」
「打楽器だよ、お前ん所の槙村がやってるドラムとかの打楽器の総称。」
「ということは、彼女ある程度の楽器はできるということですかね?」
「そうともいうなぁ、たまにさ俺の曲に参加してもらってる。」
「そうなんですか?手伝ってくれるのはうれしいですねぇ。」
「ベースとかギターはそこら辺のプロに負けないぜ?」
「ひかりのいとこは結構使えるんだ。」
「きちんと丁寧に手伝ってほしいと言えば、彼女は断らずに手伝うよきっと。
この前のアルバムにも弓弦手伝ってくれたよ?」
「そうなんだ。でもアルバムのthanks nameの所、名前入ってなかったような気が?」
「入れてないかな。多分、本人の希望でさ。」
「へぇ、そういうところがあるんだ。」
「弓弦はさ、名前が名前だから目立つのが嫌なんだって。
それにあっさりとした人間関係が好きなんだってさ。」
「人と絡むのは好きじゃないのかなぁ。」
「何かあったらしいが、彼氏もいたんだぞあいつ。」
「なのに今は弓弦さん自身が男らしい態度だ。」
「西村さんは弓弦さんのことは?」
「大好きだよ。どんな女優たちがそばにいても
弓弦が見えたらそっちに行くだろうな。俺の女だって言って。」
「そこまで好きなんだ。西村さんに好かれるって自慢じゃん。」
「でもさ、いつも冗談でしょ?って言ってさ。だから、呼び出しても疑わずに来るんじゃ?」
「それは西村さんの信用とか信頼でしょ。」
「いや、いつもさ隙あらばとさ口説くんだけど
なかなか靡かなくて、しつこいと嫌われそうで。」
「難しいですねぇ。でも、嫌われているのならば
来ないでしょうしあの性格だもん喋ってもくれないでしょ?」
「そうだよなぁ。まだまだ望みはあるのかなぁ。」
「でも思い切って口説かないと西村さんの手からは逃げていきますよ?」
「あはは、そうだな。秋山さんはいいところついてくる(笑)」
「夜が明けますね。」
「あぁ、君とはウマが合いそうだ。こんな時間まで話ができて。」
「こんなにとは自分も思いませんでした。」
「これからも仲良くしてもらおうかな。」
「俺からもです。よろしくお願いしたいですよ。」
「TV局でもよくあってるのに、今までも話ししなかったもんなぁ。」
「これからは違いますよ(笑)」
「そうだなぁ。また近々会うかもな。」
「んじゃ、またその時でも。」
「あぁ。いい夢を。」
「今日はありがとうございました。お休みなさい。」
「あぁ、また。お休み。」
朝の陽射しが差し込んできたところで、二人はお開きとして家に帰って行った。
翌日、弓弦が起きると珍しく早くからメールが入っていることに気づく。
というか弓弦が起きたのはすでに10時。早くひかりの弁当を作らなければと
シャワーを浴び、とりかかる。メールは気になったけれど弁当のほうが先だと。
起きてすぐの一服もせず、早くと思って。
今日は弁当を届けた後、仕事が休みのために少し遠くまでと考えていたのだ。
久しぶりに湘南まで。
そう思い時間に余裕がほしかったため、少し急いでいた。
出来上がると、おばさんに声をかける。
「伯母ぁ!伯母ぁ!」
「なんだい?弓弦。どうかしたのかい?」
「今日さ、珍しく晴れてるでしょ?
たまには車も運転しないとさ。今日は夜遅くなると思うから。」
「まったく、部屋は片づけたのかい?」
「あぁ、大丈夫。それとさ伯母ぁ。」
「なんだい?」
「母屋の少し離れたところにある離れさ。あそこは使ってないよね?」
「一軒家に改築したけど、誰も今はいないねぇ。
住み込みもいないし、使ってはいないけど。」
「伯母ぁ。あそこあたしが使ってもいい?」
「なんでまた。まぁ使ってないからいいけど。」
「使わないと痛むでしょ(笑)」
「んじゃ、家賃は?」
「出世払いで(照)
あのさ、今の部屋じゃ西村さんの手伝いする練習ができないでしょ?
次のアルバムもしかしたら手伝うことになるかもしれないし。」
「あぁ、そうだねぇ。あの部屋で鳴らされると困るしね。
いいよ、好きなように使って。」
「ありがとう、伯母ぁ。んじゃ、ひかりの弁当届けてくる。」
「ありがとうね、ひかりのこと頼むよ。それが家賃だ。」
「ん。伯母ぁ任せて。」
「あぁ、早くいっといで。今日離れの家は片づけておくよ。」
「やったー。」
そういって弓弦は珍しく母の乗っていた車に乗っていった。
格好はいつもと変わらないのだけれど。
いつものTシャツにジーンズ。髪が邪魔にならないように
三つ編みしてキャップの中に。そしてサングラス。
気持ちよく晴れ渡っているのを確認したらオープンにして出て行った。
そしてひかりの会社に着くとひかりにメールを入れた。
`今ついた。少し早かった?入り口前にいるよ´
メールに気づいたひかり。まだあと15分あるんだけどなぁと
時計を見てるとゆかりが気が付いた。
「何?お昼届いたの?」
「えぇ、前にいるって。弓弦からのメール。」
「行ってきなよ。今会議中でマネージャーさんたちも
タレントさんたちも、みんな会議室だし今のうちよ?」
「そうだね、ちょっと席外すね。」
そういって`すみません、届け物取りに行ってきます´と言って席を外した。
「弓弦、ごめんね。て言うか弓弦。珍しいねおばさんの車で。」
「そう?たまには動かさないとね。」
「どっかいくの?」
「ちょっとな。今日は迎えに来てあげれないけどいい?」
「大丈夫、大丈夫だけど弓弦は?」
「今日は遅くなる。ちょっとね、湘南のおじさんの店まで。」
「へぇ、弓弦。用事?」
「ちょっとね。そうそう、ちかいうちに離れに引っ越すから。」
「そうなの?」
「あぁ、て言うかひかり?」
「なぁに?」
「う・し・ろっ!」
「えぇ?なんで?部長びっくりするじゃないですか(笑)」
「こんにちわぁ、ひかりの彼氏さん。」
「あはははははは。」
「弓弦が今日もそんな恰好で来るから彼って言われるんじゃん。」
「まぁそう思ってくれてていいかもね、ひかりに虫がつかないように」
「んじゃ、また。」
「翔太は今会議室だよな???」
「あれは翔太さんではなくってあたしのいとこの弓弦です(笑)」
「ほんとわかりづらいなぁ。君たちは(笑)」
その場を離れた弓弦と入れ違いに槙村たちが帰ってきた。
車を降りると、リーダーが言った。
「ん?今会議中じゃないのか?」
「なんでだ?」
「おい、あきら。今会議中だってさっき事務所と連絡してたよな?」
「あぁ、Martinの5人もいるんだよな?」
「俺さぁ、翔太に借りてるものがあって返さないといけないんだけど
今、翔太が車運転していったように見えたからさ。」
「翔太が?翔太免許持ってたっけ???」
「そうだよなぁ。だと人違いか。でも翔太に似てたなぁ。」
「それって???」
「あぁ、ひかりちゃん!もしかして弁当か?」
「あ、お疲れさまです。皆さんお帰りなさい。」
「今届けてもらったの。弓弦に。」
「今日はバイクじゃなかったんだ、弓弦さん。」
「弓弦?誰それ。」
「ひかりさんのいとこだよな。」
「ああはははははははは。」
「なんだ二人して。」
「翔太君も弓弦の正体知っていますよ。聞いてくださいな。」
「なんだ????」
「びっくりするぜ?俺も知ってる。」
「お前ら・・・・」
事務所に入っていった。
受付を過ぎ、部屋に入りいつものように帰ってきてからの報告をし
会議室へ行った。帰ってきたら会議室に来るように連絡が入っていたのだ。
まぁ月に一度の会議だし、次の方向性やいろんな詰めをする会議なのだが
少し遅れた感じでの入室となった。
「申し送りも終わったところで、お疲れ様。」
「ただいま帰りました。」
「お疲れだったな、申し送りは終わったがお前たちに連絡は
あとで言う。」
「何事もなかったってことですね?」
「いつものようにだ。」
「新しくドラマが入った分とかがあるので
きちんと説明しますね、慎太郎さんとえっと一哉さんだわ」
「俺もですか?ドラマかぁ、相手役によるなぁ。」
「いいな、お前ら。」
そう話をしながらも槙村だけは違うことを考えていた。
「なぁ、圭一郎。今日暇?」
「なんでだ?」
「呑みに行かねぇか?」
「どこ?」
そういうと部屋を出て受付の部署へ行った。
「ひかりちゃん居る?」
「ひかりは今、表にいる時間ですよ?」
「渉、あの子が好みなのか?(笑)」
「違うんだ、ひかりちゃんにちょっと聞きたいことがあってさ。」
「15時に交代だから、その時にでも。」
「15時かぁ、間に合わねぇな。ちょっと受付に行ってくる。」
「そのほうが早いか。」
「圭一郎、ちょい。」
会社の受付の場所は外の人に向けての部署なので、社内の人間との
おしゃべりは禁止されているけれど、槙村はそばまで行き
仕事の話をするかのようにひかりに話しかけた。
「山本さん、ちょっと聞きたいことがあるのだけれど」
「今しかだめですか?」
「えぇ、ちょっと。」
「ゆかりさん、ちょっと席を外します。すぐ戻りますから。」
そういって、ひかりは席を外し入り口そばの客用待合の所に連れて行かれた。
本をだし、仕事の話をしているふりをしてひかりに聞く。
「今日は弓弦さんは仕事ですか?」
「今日は休みだそうですよ?帰りは迎えに来れないから
一人で帰ってねって。で、車で出かけた見たいです。」
「残念、圭一郎。今日はお流れだ。」
「なんだよぉ、お前女目当てか。」
「違う違う、この間飛行機に遅れずに乗れたのは
ひかりさんのいとこの弓弦さんにバイクで送ってもらったから
大丈夫だったんだ。お礼言わなきゃさ。」
「そうだったんだ。そりゃちゃんと面と向かってお礼言わなきゃなぁ。」
「明日はお店開いてるんではないですか?」
「今日もお店はあいてるみたいですけど、弓弦本人は休んだみたいですね。」
「今日はなんで遅くなるって?」
「湘南まで行くって。用事があるからって。」
「そっかぁ、とりあえずメールでも入れてみるか。」
「そうしたほうがいいかもですよ?んじゃ、あたしは戻ります。」
「ありがとうな。」
そういってひかりは受け付けに戻っていった。
渉と圭一郎は奥に戻っていった。渉は弓弦にメールを入れるために。
`弓弦さん、こんにちわ。今大丈夫ですか?
ひかりさんに聞いてメールを入れています。
今日はお休みみたいですね、夜にお会いしたかったのですが。
またメールを入れます。´
そうメールを入れると5分もしないうちにメールが返ってきた。
`お帰りなさい槙村さん。この間は間に合ってよかったですね。
今日はお店は休みしていますけど、明日は大丈夫です。
入口の黒服には伝えておきますので、〈原田〉と名前を出して呼んで下さい。
明日お待ちしております。
また詳しくお越しの時間をメールいただけると確実に表にいるようにしますので。´
今なら大丈夫かもともう一度メールを入れる槙村。
`ねぇ弓弦さん、お昼車で来てなかった?
ひかりさんがさ、弓弦は湘南のほうまで出かけたって言うから
もしかして、誰かと一緒かなって。だめかなって思ったけど、
違ってたらって。よかったら、今日会えませんか?´
ストレートに伝えた。メールを見たら引かれるかもしれないと思いつつも
素直に会いたいことを伝えたのだ。
少ししてからメールが来た。
`今湘南まであと10分のところまで来ています。
理由は誰にも言ってないのですが、母の昔の知り合いの所へ
お邪魔する予定なんです。多分、遅くなると思いますけど。´
用事で出かけたのか。無理にはなぁと思いつつも
押してみてから考えようと思いまた、メールを返す。
`かなり遅くなるということはないでしょう?
僕の家は横浜の山下公園から車で5分なんです。
よかったら会えませんか?
近くまで来たらメールをくれるとうれしいですけど。´
すると、またしばらくしてからメールが返ってきた。
`多分21時ぐらいには横浜を通る予定ですけど。´
結構素直に正直に話す人だなぁと思い、槙村も。
`弓弦さんにお礼を言いたいのと、お礼にお土産を買っちゃったことと、
正直、弓弦さんと話がしたいんだ。
弓弦さんと仲良くなりたいから少し話がしたいだけなんだけど´
びっくりする弓弦もこんなにストレートに言う人なんて珍しいなと
笑いながら、masterにこういう人がねメールしてきているんだけどと
話をしていた。
その母の友人はbartenderで、もともと弓弦の師匠でもある。
少し悩むことがあるとここへきて話をしながら新しいカクテルなどを
研究し勉強しそしてここで作り帰るのだ。
しかし今日は槙村がメールをしつこく素直にしてくるのが
弓弦には面白く感じていた。
「master、どうしよう。この人ちょっとしつこくない?(笑)」
「弓弦に興味があるんだろ?
悪い人でなければ友人としていいんじゃないか?」
「ひかりの会社のタレントなんだけどさ。」
「なおさらひかりちゃんの顔をつぶすようなまねはしないようにな。」
「それもあるんだよなぁ。」
「今日はもういいじゃないか。また新しいものを入れておくから
次にでも考えたら。余裕も必要なんだよ。」
「そうですね、おじさん。また次にでも。」
「じゃ、今日はここまで。お疲れ様。」
「おじさんありがとう。今何時?」
「今か?17時まわったところだよ。」
「これからだと横浜まで19時かな?」
「そうだな。そういう風に連絡を入れたらどうかね。」
「でもなぁ。」
そういうって困った顔をすると笑って早くメール返さんかと怒られた。
`これから帰るのですが、大丈夫ですか?多分横浜には
19時ごろにはつけるとおもいますが。´
するとすぐに返信が。
`あの、メールだと気付かないと困るので直接電話をいただけますか?
僕の番号は090-****-****です。
もう家に帰ってきているので、夕飯食べずに待ってますから。´
夕飯一緒にってあんに伝えているのか?
弓弦はちょっと引けたが、横浜までの道のりゆっくりと安全運転で帰って行った。
横浜に入った。もうすぐ近くまで来ていると思い槙村に電話を入れた。
ここからどれぐらいで着くのかがいまいちわからずに。
夜だから自動車道に乗らずともゆっくり向かっていけると思い
普通に走り山下公園を目指していた。
山下公園からすぐと言ってたからそこまで行けば会えると思って。
「こんばんわ、遅くにすみません原田です。」
「こんばんわ。今どこ?どこまで来てるのさ。」
「山下公園を目指していたんだけど手前になるのかな?
大きな駐車場があるコンビニまで来てるんだけど。」
「それどこ?そのコンビニってどこのコンビニ?」
「セブンのXX店って、買い物したレシートに書いてあるよ。」
「わかった、セブンね。近くだからそこにいて。」
「わかりました。でもあたし車ですよ?」
「そこまで歩いても30分かからないから。」
「わかりました。」
そういって電話を切ると、そのコンビニの駐車場に停め
中で買ってきた缶コーヒー2本とガムとそして車の中で
好きな曲を聞きながら待っている弓弦。
すると20分ぐらいだろうか槙村が到着した。
どうも走ってきたらしい、息が上がっている。
「こんばんわ、弓弦さん。」
「こんばんわ、一人なんですか?」
「あぁ、一人だけど。だめ?」
「いえ。あまり誰かと二人っきりってないから。」
「この間は本当に助かった。これはみんなからのお土産。」
「ありがとうございます。でも困ったときはお互い様なんですよ?」
「でもさ、これだけじゃさ。」
「いえ、これだけでも十分。」
「俺個人からは夕飯をご馳走したくて、家で準備してたんだ。」
「家ですか?ご自宅?」
「俺はちゃんとしたおもてなしは自分の腕でと思ってる方だから
弓弦さんにもちゃんとって思って。」
「なんだか、そこまでしてもらったら悪い気が。」
「でも準備済んでるし、弓弦さんが食べてくれないと俺一人じゃなぁ(笑)」
「あたし、大食いですよ?」
「ひかりちゃんから聞きました(笑)」
「車を停めるところはあります?」
「大丈夫だよ、案内するから隣に乗っていい?」
そういって弓弦の車に乗り込むと槙村は次の信号を右と
次々っと指示をだし家までの道のりを楽しそうに走った。
「なかなか、笑わなかったのに今だと笑ってくれるんですね。」
「あたしそんなに無愛想?」
「そうだなぁ、笑った顔は今日初めて見た気がする。
お昼も事務所の前まで来てただろ?そんときのさぁ運転している顔
怖い顔だった。」
「そっかなぁ?」
「あぁ、そうだったよ。(笑)」
「そう。」
「さ、着いた。そこのガレージに入れて。」
そういわれて槙村の家のガレージに入れた。
「弓弦さん、いらっしゃいませ。」
そういわれて、部屋に誘われたがブーツのため玄関で時間がかかる。
肩を貸してと言われ槙村が横に立つ。
弓弦は素直に肩を借りてブーツを脱ごうとするがバランスを崩し
槙村に抱きついてしまった。
「あ。ごめん。」
「いえいえ、僕は嬉しい限りですけど。」
「本当にすみません。」
「さぁさぁ、こっちに。」
「お邪魔します。というか、一人暮らしなんですか?」
「そうなんですよ、その一人暮らしの男の部屋へようこそ。」
「危ない言い方だなぁ。」
「いえいえ。ちゃんとしたおもてなしをするためだけに弓弦さんを呼んだんだ(笑)。」
「槙村さんも背が高いんですね。」
「181ある。弓弦さんは?」
「今176ですかね。この間の健康診断でそういわれて。
我ながら、まだ成長する?って思いましたよ(笑)。」
「女性にしたらすごく背が高いんだよね。ご両親も背が高かったの?」
「そうみたいですね、母も167あったし
早くに亡くなった父も180かな?あったって聞きました。」
「ご両親は?」
「父は早くに亡くなってましたが、母は5年前に亡くなりました。」
「今日はさ、弓弦さんを少しでもほかの人より知りたくて
呼んだんだ。誰よりも弓弦さんを知りたくて。」
「あたしを?」
「友人としてもこれから先に進展することとなっても
弓弦さんのことを知らないままだと嫌だからさ。」
「槙村さん、気持ちはうれしいけど
あたしは誰ともおつきあいする気持ちはないです。」
「それはこれから先、未来はわからないじゃない?」
「槙村さんとあたしの未来は単純に友人としての関係だけだと。」
「そう言い切れる?」
「あたし、男性恐怖症なんですよ。それを克服するために
男ばっかりのbarに勤めて、男っぽく見えるように努力して
そしたら女でいることにすごく違和感が出てきて。」
「でも弓弦さんは女性だ。きれいでさ。やさしくてさ。」
「そうかなぁ。」
「そして翔太に似てるけど、すごく人間らしい女性だ。
とりあえず食べてよ、僕が作ったんだ。」
「そういってもらえると少し安心するかも。でも友人からでお願いしますよ?」
「こちらこそ。」
「でも、なんであたし?」
「弓弦さんに興味がわいた。ただそれだけ。
男性恐怖症なら克服すればいいさ。弓弦さんの克服方法は少し違っていると思うし。」
「それでも、あたしは誰とも。」
「あのさ、人間ってさ一人じゃ生きていけないんだって。
弓弦さんだっていつか誰かとだよ。」
「でもそれまではあたしは自分一人を楽しみたいし
信じているのはひかりと叔母と叔父と西村先輩や仕事仲間だけ。」
「その信じられる仲間がどんどん増える努力をしなきゃ。」
「今は、誰も。」
「それほどのことが弓弦さんに起きたんだね。」
「もう思い出すと大変(笑)。」
「でもさ、それは思い出さなくてもいいし、忘れてしまったほうがいい。
ここはその出来事が起きたところじゃない。」
「ねぇ。初対面に近いあなたはあたしの何を知りたい?」
「すべてさ。でも、冷えちゃう前に食べない?
食べながら話せることだけ聞きたいな。」
「おいしいけどなんか緊張するなぁ。」
そう話しながら、食べていたのだがまっすぐに弓弦を見つめる槙村の視線が
弓弦には、まっすぐすぎて戸惑いが隠せない。
手作りの夕食を食べながら聞かれることに少しづつ口を開いていた。
なぜ槙村の聞くことに自分が答えているのかが不思議だと自分でも感じながら。
「あのさ、槙村さん。」
「何?どうした?」
「あたしね、槙村さんとは仲のいい友人でいたいとは思うよ?
だけど、それ以上は多分無理。」
「なんでさ。」
「わからない、けどそう思う。今のあたしは男の人を
友人以上に感じることができないし。」
「まぁ、それはそれだ。
さっきさ、弓弦さんと携帯で話してコンビニで会ったろ?」
「あぁ。」
「でさ、俺んちまで話しながら来た時にさ隣に座ってて
こんなにやさしい笑い方をするのにってそう思った。」
「でも、あたしは今誰かを好きとか嫌いとかそれを考えきれない。」
「ちょっとビール飲んでもいい?」
「いいですよ。」
「呑まない?って聞きたいけど車だしな。誘えないなぁ(笑)」
「無理ですね。あたし、お酒飲まないんです。」
「なんで?」
「お酒は味覚を鈍くするから。」
「職業がら?」
「えぇ。味見程度はしますが、提供するときとかは口にもつけません。」
「根性だなぁ。」
「それに、たまに西村先輩のレコーディング手伝っているんですよ。」
「西村って?西村正弘の?」
「高校の先輩でさ、頼ってくれるんだ。
だからお酒での体調のトラブルや、現実でのトラブルも嫌だから。」
「弓弦さんは何を?」
「あたしはその時に言われる分をやるだけ。先輩が恥かかないように。」
「すごいなぁ。そういうのって俺聞いたことある?」
「西村先輩のCDって聞いたことありますか?」
「あぁ、好きだもん。そこにそろってるだろ?」
「へぇ、男の人なのに珍しいですね。」
「いや、男でもファンは多いはずだよ?」
「そういえばMartinの悠太さんもそういってたな。」
「なぁ、弓弦さん。君の知り合いはどんだけなんだぁ?(笑)」
「Martinの5人だって、山本社長だって槙村さんだって
まだ同じぐらい一週間ってところ?」
「んじゃなくてさ、西村さんとか。」
「6年ぐらいの付き合いかな。」
「へぇ、付き合ってるの?」
「大先輩なのに、彼女になっちゃったら
あたしファンの人に殺されちゃうって。ありえない。」
「あはは、そんなの本人が公言したらそれまでじゃん。」
「西村先輩はっファンの方々のものであって、一個人のものになるには
大きすぎます。槙村さんだって同じですよ?」
「そっかなぁ。でも俺は好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いだし。」
「そこはあたしと似てるかも。でもなぁ。あ。もう23時だ。帰らないと。」
「もう帰るんだ、帰ること考えてるんだ。」
「ここに泊まると無事では済まないでしょう?」
「あはは、とりあえず男と女だもんな。」
「だから失礼しますよ。(笑)」
「本当に帰ってしまうのか?」
「帰らないと明日がありますしね。」
「なぁ、夜は長い。話しするだけならいいだろう?」
「一線を越えようとしなければいいですよ?」
「俺には信用ってものがないのかなぁ。(笑)」
そういって弓弦を引き留める槙村。
本当に弓弦に気があるのか、小さいときからの話を話し始め夜は更けていった。
なかなか返してくれない槙村に弓弦はほとほと呆れ果てていた。
あんなに呑んでいるのに、なかなか意識が落ちていかない。
少し不思議だったが、ソファで横に座られているのに
自分が嫌がるような絡みをしないし、話も面白くてずっと笑っていたような気がすると。
しかし、28時を回るころ二人はそのままソファで寝てしまった。
それでも槙村は6時半には起きた。
横ですやすやと寝ている弓弦を見て、ふと笑うとブランケットを取出しかけてあげた。
弓弦は、何も気づかずに寝ている。
`きっと帰ってこない弓弦さんをひかりちゃんは心配しているだろうなぁ´
そういう風に弓弦の寝顔を見ながら笑っていた。
そして槙村はいつものようにシャワーを浴び、朝飯を作る。
弓弦は、その朝ごはんのにおいで飛び起きた。
「あぁぁぁぁ!すみません。あたし寝ちゃった。」
「おはよう。ぐっすりだったんで、起こさなかったんだけど?」
「やべぇ、ひかりの弁当。」
「メール入れたら?これから帰っても作れる時間はないぞ?」
「どうしよう。」
「どんなでも言い訳はできるさ、いっぱしの大人なんだし。
別にここに泊まったとか言わなきゃいいことだし。」
そう話をしている所、携帯を取り出しひかりにメールを入れた。
`おはようひかり。ごめん、今日はmasterの所で夜が明けちゃったから
弁当作って持っていけない。お昼はどうにかして?
お願い。本当にごめん。´
するとメールを送ってすぐに電話がかかってきた。
「おはよー!弓弦どこにいるのよぉ。」
「ごめんごめん、masterの所手伝っててさ。」
「そうなの?てかさぁ、どうして弓弦は男の所って嘘でも言わないのかしら。」
「あはは。そんな嘘つけないさ。」
「今日はお昼はどこかで済ませるわ。」
「ごめんね、ひかり。今日の夜の仕事は出るから
この間のゆかりさんって人、連れてきたらいいよ。」
「ほんとに?喜ぶわ。んじゃ、またあとでね。」
そういって電話を切ったが、横で笑う槙村。
上手だなぁと感心したと言いながら、笑っている。
「こうなってしまった以上、見つからないようにしなきゃ。
槙村さんと何かあったって勘ぐられたらあたし困りますもん。」
「えぇ、俺とじゃだめなんだ。」
そういうと、弓弦を引き寄せた。
弓弦の腕の力もすごいものがあるがやっぱり女、槙村の力には到底及ばず
引き寄せられ、抱きしめらてた。
弓弦はびっくりして顔を伏せたが、おでこにkiss。
「俺はさ、弓弦さんが自分自身を男として扱っているし
周りも少し女性としては扱っていない気がする。
だから、そんな風になってしまう。俺は女性として友人からでいいから
心から女性として弓弦さんに接していきたいと思っているから。」
「槙村さん。女性として扱ってくれるのはうれしいですけど
これからこういうことはしないで。」
「なんで?」
「ごめん、あたしは誰にも恋愛感情を持てないから。」
「まだまだ時間はあるさ。急がない。」
「ごめん。本当にごめん。」
「唇にkissしたら何か変わるかなぁ?」
「そういうことしたら多分、次顔合わせても口もきかないかも(笑)」
「でも笑っているということは、友人としては合格なんだろ?」
「どうでしょうか。」
「めし食ったら、どっかいく?」
「家に帰ります。伯母ぁが心配するし。」
「そっか残念だ。」
弓弦は槙村の作った朝ごんんをいただき、少し話をしてから家路についた。
槙村さんは大胆だと、本当に大胆だった。次から用心しようと。
しかし襲うのならば襲えたんだろうけど
それをあえて襲いもせずに、ただ弓弦の寝顔を見ていたのかもしれない。
それでも、何にもなかったということが不思議な感じに思えた。
「ただいまぁ。」
「あら、弓弦。珍しいわね朝帰りなんて。」
「あぁ、ちょっとね。」
「たまには男の所からだって言ってみなよ。どれだけあたしが安心するか。」
「もしそれが本当だったら、伯母ぁどう反応するのかよ。」
「どうするかねぇ。姉さんに弓弦がやっと女になりましたって
仏壇の前に座って報告するかねぇ(笑)」
「やめてよそれ。なんだか恥ずい。」
「まじでかい?」
「いや、男は男でも湘南のmasterの所で修業しつつも、お店に出てた。
眠たかったから、そのまま店に泊まったんだ。」
「なぁんだ、それだけかい。」
「伯母ぁも余計な心配しないで、仕事仕事。」
「はいはい。離れはそれなりに急いで片づけるから待ってておくれよ。」
「わかったぁ。」
弓弦は少しまだ眠たかったので自分の部屋でぎりぎりまで寝ようと
もぐりこんだ、自分の寝床に。
なんだか、槙村さんのことろで寝てた時も安心して寝れたんだなぁと
少しうとうとしながら考えていた。
メールがぼちぼち入りはじめ、そう寝れないかもと思ったが
やっぱり寝る時間が少なかったのか気持ちよく寝着いてしまった。
起きると14時である。なんだかなぁと複雑な感情が残ったけど
シャワーの前の一服。上がった一服と。
落ち着いたら、着替えて仕事の準備をして出かけていった。
いつもと違う顔の弓弦に気が付いたのは誠だった。
なんだか複雑な顔をしている弓弦に、誠は後ろから声をかけた。
「おはよう、今日もご機嫌かい?」
「誠さん、お疲れ様です。」
「どうした、浮かない顔をして。」
「ん、ちょっとね。」
「ちょっと何かがあったんだ(笑)」
「わかるんだ。誠さん昔っから勘がいいから何でも見透かされる。」
「まぁ、今日は忙しくなりそうだから気合入れていこうな。」
「そうだな。」
「みんな、開店するぞ。いいかぁ。」
「はいっ!」
そうやって一日が始まった。もちろん弓弦の携帯にもメールが届いていた。
`弓弦、夕飯食べてからだから多分20時頃になると思うけど
そっちに行ってもいい?byひかり´
`今日は大丈夫?遅くなるけど、そっちに行きたいがだめか?´
`悠太が弓弦さんと話ししたいって言ってるけど
お邪魔してもいいのかな?´
続々とメールが来る中、ひかりのメールと西村のメールだけは返信をした。
`大丈夫だよ。ひかりとゆかりさんだっけ?20時だね。OKだよ。´
`先輩?今日は仕事だったんですか?疲れているのならば無理をしないでください。
でも、楽しみに来ていただけるのならば大歓迎です。´
あとMartinの誰だっけ。悠太って唯一バイク乗り回している人のツレか。
その悠太を連れてくるってメール、登録してないからと弓弦がわかっていない。
だから返信をしていないのだけれど、ガンガンメールの受信で携帯が光っている。
カウンター内では接客中にメールが入ってきているのが誰が見ても気づく。
ふと隣のブースから、貴志がそれを見ていた。
「弓弦さん、メール!メール!」
「わかってるよ。大丈夫。」
「そっか。気づいているのならそれでいいんだけどさ。」
そういわれて、目の前の人の注文を作り席を外す。
客人にそのメールのことをきちんと伝えた。
「モテモテだね、弓弦君も。」
「あ、これはもうちょっとしたら来る人たちの連絡ですよ。」
「で、誰だね?」
「これですか?一つはいとこのひかりです。友人と二人で。」
「二人で来るっていてるのかい?」
「ですね。もうすぐ着くって。」
「こんなおじさんと一緒だと、まずいか?」
「自分でおじさんって言ったらだめじゃないですか(笑)
まだ、男爵は50でしょ?」
「んじゃ、着いたらご一緒させていただくかな?」
「ひかりが一緒でも構わないんですか?」
「あぁ、弓弦君を一人占めしたらその子もかわいそうだろう。」
そういって笑って話す間にもまたメールが入ってきていた。
「さぁ、メールを確認して送り返さないと今日の客が逃げるぞ?」
「そうですね、男爵のお気持ちに甘えて返信します。ちょっと席を外しますね?」
「あぁ、ここでいいじゃないですか。カウンターの中だと
ほかの人にも見えないし。私も一緒ということも一緒に。」
「男爵、ありがとうございます。」
そういうと弓弦はひかりのメールの返信をした。
`ひかり、20時着だね。了解した。
それとね、ひかりのメールの返信をしててさ
目の前にいる、男爵様が興味を持たれている。
ひかりもゆかりさんも名刺もってきた方がいいよ。´
そう返信した。そして20時までのあと少しを
その目の前にいる男爵:山村と話をしながらひかりたちを待っていた。
ちょうど20時、黒服が弓弦を呼んだ。
「原田、指名です。」
「ようこそ、我が城〝mask”へ。」
「やだ、弓弦ったら(笑)」
「あはは。さぁ、男爵様がお待ちです。ちゃんと名刺は持ってきた?」
「はい。」
「ゆかりさん、ようこそ我が城へ(笑)」
「弓弦さん、すごくかっこよくない?」
「惚れてもだめですよ?(笑)」
そういいながら店内の奥の自分のブースへお姫様二人を連れて行って
席に座らせ男爵を紹介した。
「山村男爵、おまちどうさまです。」
「初めまして山本ひかりです。」
「初めまして吉村ゆかりです。」
「初めまして、弓弦君のファンの山村です。」
「最初のご挨拶の一つは弓弦からのプレゼントです。」
そういって弓弦がそれぞれの顔を見ながらカクテルを作った。
「ひかり。ひかりにはpeachBellini。
これはさ、そんなに度数強くないから大丈夫だよ。」
「ゆかりさん。ゆかりさんはお酒は大丈夫?ゆかりさんには、peachManhattan。
一日の始まりにしたらちょっと物足らないかもしれないけど。」
「山村男爵。今日はまだこれからでしょう?はい。peachbeer。」
「よくわかるな。」
「本当に呑みやすい。毎日でもここに通ってしまう。
弓弦さん、本当にこれ美味しい。ありがとう。明日も来ようかな(笑)」
「邪魔でなければわたくしめがエスコートしてあげるよ。」
「本当に?男爵(笑)」
「あぁ、あたしいつも男爵って呼ばせてもらえってるんだけど、
山村さんっていうんだ。ね、男爵」
「弓弦君と私の中だもんな(笑)」
「ねぇ、山村さんって???」
「ひかり、気づいた?」
「ゆかりは?」
「あははは、私のことが気になるかね。」
「弓弦??」
「弓弦君のファンだよ。」
「ひかり、この山村さんは推理小説家の山村諒一さんだよ。」
「うっそ。弓弦さんの知り合いっていったいどういう・・・・・・。?」
「えっとえっと。」
「ゆかりさんもひかりも自分たちの名刺を」
「しょうがないなぁ(笑)でも私は弓弦君のファンの一人だよ、ここでは。」
「あの、あたしがいとこのひかりです。ここM'companyで受付をしています。」
「あの、吉村ゆかりです。同じくM'scompanyで受付をしています。」
「ほぉほぉ、きれいどころだねぇ受付嬢。
M'scompanyってことは山本社長の所の子たちか。」
「ご存知なんですか?」
「山本社長はあちこちにつながりがある人だよ。
ここに出入りする人の半数は知り合いだと思うよ?」
「ご本人はこの間のご来店が初めてらしいのですけど。」
「そうだったのか、その時には誰が一緒だったのかい?江藤さんかい?それとも?」
「あぁ、この間は秋山さんと来られましたよ。」
「んじゃ弓弦君を、真面目に引き込もうとしておられるんだな。」
「だってねぇ、ひかり。Martinの翔太なんだもん。」
「でも似ているだけでは、誘い込まんぞ?」
「さぁねぇ。でも弓弦本人は嫌なんでしょ?そういうの。」
「受け入れているのであれば、
あたしはきっと西村さんの所でお世話にってるな。」
「そうだな、弓弦君はあいつがいたな。」
「西村さんって?」
「西村正弘。」
「弓弦と高校が一緒の有名人。」
「有名人通り越して・・・・・そんな人が?」
「弓弦さんって何者なの?ひかり。」
「さぁ、あたしにもわからないわ(笑)」
そうやって、愉快に話が弾み4人で過ごす時間がすごく楽しかった。
そういう弓弦の携帯にはメールが続々と入っていた。
そんな中ひかりの携帯にもメールが入る。
`ひかりさん。弓弦さんにメールを入れたのですが
返事が返ってこないんですけど。元原´
「ねぇ、弓弦。メール他にも来ている中、元原さんからメール来てない?」
「ほんとに?でもあたしメールアドレス教えたことないけど。」
「あ(汗)」
「何?」
「あたしが教えて、弓弦に教えたよっていうの忘れてた。」
「おいおい(汗)どのメールなの?ひかり見てよ。」
「わかった。確認したらあたしの携帯で直接かけていい?」
「いいよ。携帯かけるならあっちのブースでかけて。」
「OK」
そういうと、ひかりはメールを元原に打った。
`ごめんなさい、あたしが伝えるの忘れてて。
今、どこにいますか?携帯にかけてもいいですか?
よければ携帯の番号を教えてください´
するとすぐ返信が来た。
`俺の携帯は 090-****-****です´
そうすぐに帰ってきたので、すぐにひかりは電話を掛けた。
「元原さんすみません。ひかりです。」
「ごめんじゃすまないよ、今ひかりさんはどこにいるの?」
「あたしは今ゆかりと弓弦と一緒よ。元原さん、今大丈夫ですか?」
「あぁ、今さ悠太の家にいるんだ。」
「あたし、今日弓弦から紹介された推理小説家の山村さんとも
ご一緒しているんですよ。」
「へぇ、すごいじゃん。そしたら俺らが行くと邪魔だなぁ。」
「ごめんね。弓弦に元原さんにメールアドレス教えたの言うの忘れてて
弓弦にも元原さんのメールアドレス教えておくの忘れてて
弓弦の携帯の中で元原さんのが迷惑フォルダーに入ってた(笑)」
「え?それって俺可哀想なんじゃない?」
「あはは。可哀想ですね、弓弦に変わりますか?」
「いやいいよ。それよりも、弓弦さんは今日は忙しそう?」
「今はあたしたち3人ですよ?あとの予定はわかりませんけど。」
「んじゃ、これから行ってもいいかなぁ?」
「聞いてみようか?」
「うん。」
そういってひかりがカウンターに戻って弓弦に聞いた。
「元原さんが弓弦の所に遊びに来てもいいかって。」
「一人で?」
「いや、多分数人かな?」
「大丈夫って伝えて。入口の黒服に《原田弓弦》って指名すると入れるよって」
「わかった。」
そういってまた場所を移動し、元原に話す。
「元原さん。大丈夫ですって。」
「やった。」
「来たら入口の黒服に《原田弓弦》って指名を入れてって。
そしたら入れるように黒服に伝えておくからって。」
「わかったぁ。来るのはさ、俺と悠太と翔太だよ。そう伝えておいて。」
「これから来るの?」
「あぁこれから来ると21時ぐらいかな。」
「わかったそう伝えておく」
「じゃ。」
そういって電話を切ると、それを弓弦に伝えた。
そしてそれから少し時間が過ぎて、山村さんは呼び出しがかかり
しぶしぶと〝mask″を後にした。
ひかりとゆかりは隣の誠のブースでなにやら楽しい話をしているらしい。
なかなか弓弦のもとへは帰って来ないのだけれど
弓弦のブースも別の客人が来ておられ、それどころではなかった。
すると21時前になって黒服が弓弦を呼んだ。
「原田、使命です。」
「はい、今行きます。」
「ようこそ、我が城〝mask”へ」
「こんばんわ、弓弦さん。お言葉に甘えてきちゃいました。」
「て言うか、黒服が驚いているよ(笑)」
「あ。初めまして、弓弦さんの偽物の翔太です。」
「本当にそっくりですね。どうぞごゆるりと。」
「3人が入ってくると、店内がざわついた。」
`原田の後ろを原田が歩いている´
そういってざわついているのがわかる。
元原も悠太も翔太もMartinの誰じゃなくってここでは弓弦に似ている人が来たと。
中には〝あぁ、Martinの″と気づいている人もいるのだけれど、手の空いている人は
弓弦さんについてとマネージャーが指示を出した。
もちろん、その弓弦さんのブースを手伝いたい奴はたくさん手を挙げたが
その日は、貴志が入った。
「ありがとう貴志。」
「今日の弓弦さんのブースを手伝えれることうれしいですよ。」
「そしてようこそ、我が城〝mask”へ。
えっと元原さんと悠太さんと翔太さんでしたね。」
「はい、僕はMartinリーダーの元原達哉です。」
「で、僕が橋本翔太です。」
「そして僕が青井悠太です。」
「名前もかっこいいなぁ。」
「僕は弓弦さんとほぼ同期なんですが貴志って言います。
弓弦さんがいないときはよろしくお願いしますね。」
「あたしよりも、貴志の方がいろいろと話面白いわよ。」
「そんなことないですって、弓弦さんは顔が広いから
僕らよりも面白いことたくさん知ってるじゃないですか。」
「僕らもこの間びっくりしました。だって、西村さんでしょ?」
「それもさ、すごく仲が良くって。」
「あぁ、彼は弓弦さんとここでは公認ですよ(笑)」
「貴志?そんなこと言うとこの人たちが真に受けるじゃん。」
「本当に弓弦さんは西村さんとはおつきあいしてないんですか?」
「してないわよ(笑)」
「もったいないなぁ。」
「弓弦さんが誰かのものになってしまったら、ここの売り上げ落ちちゃいますよ。」
「さぁ、何がいいかしら?貴志が作るカクテルはすごいのよ?
コンクールのスタンダード部門での優勝経験者なんだから。」
「弓弦さんだって、オリジナルフレッシュでは弓弦さんダントツ一位だったじないですか!」
「んじゃ、お任せで。」
「あ。でも俺ははじめは軽くアルコール弱めのもので。」
「翔太君はあたしが作ってあげるわ。」
「悠太は?」
「僕は本当にスタンダードで口当たりのいいやつを。」
「元原さんは?」
「あぁ。元原さんじゃなくって達哉でいいですよ?
とりあえず、俺は貴志さんの優勝した時のやつで。」
「通ですねぇ。んじゃ。」
そういって二人は丁寧に材料を準備し作り始めた。
「翔太君のはあたしのおすすめ。
ホワイトミモザっていうの。グレープフルーツのホワイトで作ってるのよ。
普通はレモンでやるんだけど、少し爽やかなところを
翔太君のイメージに重ねて。」
「俺からはまず悠太君に。その悠太君の人柄のイメージで作りました。
Union・jackと言って、そんなにスタンダードとか
考えなくつくたんですが、Union・Martinの人だと思って。
色が混ざらないように気を付けるのがポイントなんですが
わかりやすく言えばイギリスの国旗です。
悠太君、Beatles好きでしたよね?」
「よく僕がBeatles好きだって知ってましたね?」
「勉強は世の常ですから。」
「で、達哉君は。俺の優勝したやつは今季節的にないものがあるので
達哉君のイメージでこれかなって。
sol・cubanoって言います。意味は「Cubaの太陽」って。
もともとベースがラムなんですが原産国がCubaだということ
で、弓弦さんのグレープフルーツを拝借して作りました。
1980年のSuntoryの大会で、木村さんという人がこれで優勝したんですよね。」
「それぞれいろんな意味があるんですね。簡単に話されてるけど
本当はすごく説明するとかなり長くなるんでしょ?」
「そうですねぇ。説明は弓弦さんの方がわかりやすいかもですね。」
「どうですか?」
三人は出されたそれぞれのに口を付けた。
三人とも顔を見合わせびっくりした様子で、笑顔がこぼれた。
「初めてこういうbarに来たんです。僕たち。いつもわいわい騒ぐだけで
お酒がこんなに味わえるものだとは思いもしなかった。すごい、病み付きになりそう。」
「奥が深いんですよ。貴志もあたしもその奥深さにひかれて
何度も厳しいところでやめようかと悩んだけれど頑張ったんだよね。
また次に行ってもどうせ厳しい道だし
ここで頑張れないとほかでもがんばれない。なぁ、貴志。」
「あぁ、弓弦さんの言うとおり。でも、僕はそれにここの人たちが大好きで、
お客様も優しいしお酒を呑むのことを楽しんでいらっしゃる方。多いし」
「そうだね、お酒を呑むことに感謝しながらいただかれている人多いね。」
そういって彼らが来てからお酒というものについての話が
そのブース内で盛り上がっていた。隣の誠のブースで楽しんでいた
ひかりとゆかりは23時になるということで帰ると弓弦に言いに来た。
ひかりは元原にごめんねと言って、あとは弓弦と楽しんでねと。
それでも次々といろんな話を聞きながらカクテルなどの話を長々と。
達哉と翔太は貴志とそんないろんな話を。横で弓弦と悠太がバイクの話を。
すると三人の後ろから声がかかる。
「やぁ、来てたのか。」
「あ、西村さん。」
「おかえりなさいませ」
「ただいま、弓弦。」
「いいなぁ。常連だとおかえりなさいませか。」
「んだな。そのうち君らもそういわれるさ。」
「弓弦、いつものをお願い。」
「かしこまりました。」
そういうと、足元のチルドから果物が出てきた。
「今日のお勧めはこんなところですかね。」
弓弦の手に持つ籠の中にはみずみずしい果物があった。
「グレープフルーツのホワイト・長崎産のブラッドオレンジとライム
沖縄産のマンゴー・福島産の白桃。
この時期には珍しい茂木ビワですかね。かなり早いですが。」
「んじゃグレープフルーツで。でもその懐かしい茂木ビワも口にしたいな」
「ソルティースタイルでアレンジしましょうか。」
「弓弦のお薦めなら何でも。」
「茂木ビワはきれいにむいてデザートでつけましょう。」
「ありがとう。本当に瑞々しいビワだなぁ、弓弦も懐かしいだろう?」
「えぇ、そう思ってあたしも手に入れてきました。」
そういって弓弦の手元を見ながら話をしていた。
「西村先輩には、ソルティドッグを。
クラッシックアレンジだとピンクのグレープフルーツを使うんですが
今日は酸味の利いたホワイトで。
で、ソルティドッグってジンでやるんだけど
強めでも大丈夫かなって思って、ウォッカで強めにしました。
西村先輩の強気な発言に合わせましたよ?」
「へぇ、どう口説いても落ちませんよ?ってか?」
「あはは。どうにでも思っちゃってください(笑)」
「弓弦さん理想高すぎなんじゃない?」
「西村さんででもすごくハードルは高いって思うのにそれでもダメだって
それって、理想は神様じゃん」
「弓弦さんは本当に何とも?」
「だって崇高な大先輩だもの恐れ多いわ。」
「同じ身の丈なのにさ、何とも。」
「んじゃ、逆に弓弦さんの理想は?」
「言うの?」
「えぇ。それは誰でも知りたいことですよ。」
「前に映画であったでしょ?〈Leon〉って。
あの中に出ている俳優さんで《jann・reno》」
「うっへ。理想高すぎじゃん。それこそこの日本にはいないぜ。」
「でもjann・renoが理想だと、どこかで妥協しないと結婚できないしな。」
「チャンスは生まれますかね?」
「お前らも弓弦争奪戦参加するか?」
「やめてくださいよ?いくら体があっても追いつかない。」
「貴志君だっけ?ここの人たちの中でも争奪戦はすごいんだろ?」
「誠さんもそうだし、あっちのブースの健さんも。
聡さんもそうだし多いですね、弓弦さんを狙っている人は。」
「こらっ。あたしは女だけど、誰のものでもないから?」
「あはははは。まず弓弦自身誰が理想なのかもっと理想を・・・・・な。」
「弓弦さんの理想にはまれるかなぁ。」
「最後の最後は俺が弓弦を引き取ることになるんだろうなぁ。」
「先輩?それは決めつけてはいけないでしょう?」
「そうなの?」
「そう決めつけて話すと本当にこの人たち勘違いしちゃいますから。」
「勘違いさせておけばいいじゃん。」
「まじで?まじで西村さん、弓弦さん好きなんだ。」
「こんなに愛しても弓弦は靡かない。諦めきれない女だ。」
「そうほめても何にも出ませんよ?
それにどうかしたんですか?おかしいですよ?西村先輩」
「どうかしてるのかな?」
「本当にずいぶん酔ってるみたいだな、弓弦さん。」
「そうだろ?貴志」
「Martinのみんなももう25時だ。閉店だから帰ろうか。」
「そうですね。でもどうしたんですかねぇ。西村さん」
「誰にも知られたくないことがあったんだろう?
そぉっとしておこうよ。僕らは帰ろう。」
「そうだな。弓弦さん、今度の休み走りに行きましょうよ。連絡待ってます。」
「あぁ、いいコース考えとく。お休み、knightたち。」
「お休みなさい、honey(笑)」
そういって先に三人を返した。カウンターで黙っている西村。
片づける弓弦を見ながら、黙っていた。
「先輩、閉店の25時です。帰れますか?」
「あぁ。大丈夫だ。」
そういって立ち上がろうとするがふらふらしている。かなり酔いが回っていたのか。
「先輩、今日はバイク?」
「いや、知り合いと呑んでたから歩きだよ。」
「taxi止めますから、少し待ってて。着替えてきますね。」
「あぁ。」
そういって弓弦は着替えるためにそこを離れた。
離れている間、貴志が西村のことを見ていてくれたから
すごく助かったよと貴志に声をかけありがとう・お休みと。
「taxiつかまえても部屋まで一人では上がれますか?」
「あぁ。」
「先輩、しっかりしてくださいよ。」
「あぁ。」
「仕方ない。」
そういって弓弦は自分のバイクをお店の隅に寄せて
つかまえたtaxiに一緒に乗り込み、西村と西村の自宅に向かった。
「5890円です。」
「はい。釣りはいらないから。」
そういってtaxiを降りると西村の家だ。
弓弦は入り口に入る前に本当に男に見えるようなしぐさで西村を抱え
家へ入っていく。いつもここの入り口にはえげつない記者がいることで有名で、
迷惑な写真とスッパ抜かれないように気を使わなければならないのだ。
こんな環境の悪いところ引越せばいいのにと弓弦は思っていたが
先輩の自由だと思い口には出していなかった。
西村の自宅の部屋の前まで行き、声をかけ鍵をもらう。
そして弓弦がドアを開け、西村を連れて入って行った。
「弓弦?ごめんな。玄関のドアはチェーンまでかけて。」
「あたし帰りますよ?」
「帰らないでくれ。一人じゃいられない。」
「先輩らしくないどうしたんですか?」
「弓弦、なんで俺じゃだめなんだ?」
「だめとかじゃなくて、先輩は大きすぎます。人としても先輩としても。
あたしにはすごくもったいないんです。」
「今日さ、しつこいやつとTVで一緒だったんだけどさ
王様ゲームとかやりやがって、kissさせられた。具合悪かったよ。
そのあともべたべたと引っ付きやがって。すっげぇ胸糞悪くてさ。」
「大変だったんですね。」
「それも、収録終わった後もさ控室までついてきやがってさ
その上よ?その上、隣りにいた仲のいいやつがさ、バカなんだよな。
俺がそいつが大っ嫌いなこと知ってるくせに俺のアドレス教えやがって、
maskに着くまでメールのあらしでさ。思いっきり酔っぱらって、
電話に出てくだまいたらイメージ悪っ!とか言って電話切りやがって。
あぁぁぁぁぁぁ。思い出しただけでも気持ちわるい。」
「大変だったんですね。でも、そこまで吞まなくったって。」
「なぁ、弓弦。お前がさ隣にいてほしい。ずっと前から思ってた。
弓弦しか俺の隣にはいてほしくない。なぁ、弓弦。俺たち15も違うけどだめか?」
「先輩?あたしいい女でもなんでもないですよ?
勘違いしている。煙草も吸うし喧嘩もするし、汚い女ですよ?」
「俺には弓弦しかいない。
一緒にこれから先を歩むのは弓弦しかいないんだ。」
「まず先輩が知らないことを教えてあげる。」
「なんだ?」
そういって、西村が座るソファの横に座る。
そして白いシャツをおなかを見せるように剥ぐ。
ブラの下、おへその下あたりをまっすぐに見せる。
「先輩、あたしのコレ。」
「なんだ?」
「これね、元彼に刺された傷。」
「かなり前に何か言ってたなぁ。」
「この15㎝にもわたる傷が、あの人を忘れられなくしてしまった。」
「何があったんだ?」
「それが理由で、あたしはその人以上に他の人を好きに離れなくなってしまったの。」
「そうなのか?」
「先輩。あたしね、2年の時にね先生と秘密の恋をしたの。」
「で?」
「誰かに知られたらきっとまずい状況になるとわかってて恋をしたの。
だけど相手はそのスリリングを楽しんでいただけで
好きだの感情とともに付き合っているんじゃなかった。
そんな時2年の夏だったかな?コンクールが終わってから
あたし体調崩したんです。その理由分かります?」
「もしかして妊娠したのか?」
「・・・・・・・・・。その人の子供を妊娠しました。」
「おいおい、学校には?」
「ばれていません。」
「相手には?」
「わかると態度が変わりました。あたしは大学に進学したくて
放課後補習を受けてたのに、大学を受ける必要はないと。
学校をやめてその子のために自分と結婚してくれと。
男の人としたら、愛している人の事を考えて言うのは当たり前。
それはわかっているの。だけどあたし決めたんです。
あたしは学校をやめるだなんて全然考えてもいなかったし、
だから母に相談して、おろすことを決めたの。
相談した次の日、クリニックに行って検査したんだけど。」
「どうだったんだ?」
「やっぱりその時点で妊娠10週目だって言われた。」
「なんで気づいたんだ?」
「なんとなくね、なんとなく危ない日があったなぁと思ってた事と
月の物がいつもきっちり来てたのに来なかった。
そしてなんとなく貧血もひどいし、たとえをあげるときりがなくって。」
「で、お母さんに。」
「だってお母さんしかいないじゃん、誰も・・・・・。」
「悲しいな、なんでそんな恋愛したんだ?」
「なんでだろう、一目で引かれたってこともあるけどなんでなんだろう。
クリニックに行って検査してその結果を聞いた時、先生が悲しい顔をして言うんだ。」
「・・・・・・・・・弓弦。」
「先生がね、悪い方を考えてはいないが一度きちんと検査をした方がいいと言ったんだ。
赤ちゃんもいた、しっかりとした妊娠の確認ができた。
それと同時に赤ちゃんのそばに腫瘍があると。どっちにしても
きちんと検査をしないと赤ちゃんをおろす判断だけではいけない気がするって
そう先生が言ったの。で、先生の紹介する病院で精密検査。」
「弓弦・・・・・話すこと無理しないでいいぞ。」
「いいえ、きちんと知ったうえであたしと接してほしいから。
でね、検査した結果はstage2の悪性腫瘍。つまり癌。
どっちにしても赤ちゃんも無理だろうとそう先生が言ったわ。」
「その手術は?」
「えぇ、その病院から帰った夜に母が言うんだ。
自分の家族は弓弦と二人だけなんだって、弓弦までいなくなったら
どうしていいかわからなくなる。弓弦に死なれたらお母さんもって泣くんだ。」
「だろうなぁ。母一人子一人じゃ。」
「で、伊藤先生っていう人に福岡で執刀してもらって手術をしたんだ。
もちろん、将来のことを考えて手術してくれる先生の中では腕はぴかいちだって
そう教えてもらってた先生にしてもらった。」
「ラッキーだったな、弓弦。」
「手術もうまくいって退院してしばらくしてからあの人が来たんだ。
母の店を手伝ってる時にお店に来てあたしその人に刺された。
弓弦にだけ話しをしたいって。だから少しの間こっちに来ないかって
お店の外から呼ぶんだ。少し様子がおかしいとだれもが気づいて
店に入れないようにしてあたしを隠すようにして警察を呼んだんだ。
だけど警察が来る前に、裏口から入ってきてあたしのここを思いっきり。」
「大変な目にあったんだな。でも俺はそいつとは違う。」
「そのに人にもね産婦人科に行って妊娠が分かった時、
癌が見つかって子供を産める状態ではなかったと伝えたんだ。
ちゃんと伝えてこういう風だから子供をおろすことを決めたんだって
ちゃんと伝えたんだ。なのにあの人はそれを理解してはくれなかった。
て言うか、その母の店に来た時は何かが違ってた。
あの人、少しおかしかったみたいなんだよね。何がどうしたっては
わからないんだけど、少し様子がおかしかったんだ。」
「その人は?」
「もちろん、警察に。でも表ざたになると困るから
訴えはしないと言い、その人のせいにもしなかった。
悪いのはあたしだから。
その人は学校をやめて実家の佐賀に帰られた後
亡くなられたわ。自宅の裏で首をつって。」
「弓弦は悪くないじゃないか。」
「で、長崎を離れるように、こっちで大学を受け
こっちに来たの。そうでないとあたしがあそこに居られなかった。」
「大変だったんだな。で、この傷なんだ。」
「これから先、これを素直に説明してみせれる人はいないと思います。
先輩だから話をしたんです。あたしは好きな人の子供も産めません。」
「お前さ、もう忘れな。弓弦は弓弦だ。忘れなきゃ。」
「わかってるんだけど、無理だもの。」
「弓弦?弓弦。そういって泣く。ほら、胸を貸してやるから
ちゃんと泣けよ。泣いたら忘れるんだ。」
「先輩、優しすぎ・・・・・・・」
すると西村は弓弦を引き寄せ、黙って抱いた。
弓弦はその引き寄せる手を振り払いもせずに、西村の胸で泣いた。
泣き顔を見られたくない弓弦はそのまま顔をうずめ声を押し殺すように泣いた。
西村はそれが哀れで、そして愛おしい弓弦の髪をなでしっかり編み込まれた三つ編みをほどく。
きれいに指で絡まってる髪をほどくと、黙って抱きしめた。
泣き疲れて眠る弓弦を、大きなブランケットに一緒にくるまり
弓弦の寝顔をじっと見つめる西村。そんなしないうちに、朝が来た。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、西村と弓弦をスポットライトのように照らす。
一緒に寝ていた西村もその光の眩しさに目が覚め、そして弓弦も。
眩しい光にどうすることもできず起きた。
目を開けるとまぶしい光と共に西村の顔が弓弦の目に映り込む。
西村の顔が弓弦に近づき、kissをした。すぐ離れると、お互いに顔を見つめる。
しかし西村はまたそのまま長いkissをした。弓弦は何の抵抗もせず、
西村のkissを受け入れ抱き寄せて脱がせる手を拒まず、そのまま重なっていった。
すると携帯が鳴った。驚いて離れた二人。西村の携帯が鳴ったのだ。
少し安心したのか脱がされたシャツをまた着て、座り直した弓弦。
西村はなった携帯に出て話をしている。
ぼーっとしている弓弦に朝飯どうすると聞いた西村は
その悲しそうな横顔をしている弓弦にまた言った。
「過去は忘れろ。これからのことを考えれ。お前には弓弦には俺がいる。」
「でも。」
「でもでもなんでもない。最後の最後は俺がいる。
弓弦はこれから好きなことをして人生を楽しめ。そんな悲しい顔をするな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
弓弦は西村先輩が自分の知り合いでこんなにも思ってくれていることが
すごく幸せなのかもと思い始めた。
その西村の後ろに槙村の影があった。二人似ているのかもと。
でも、こんな話を槙村にもできるだろうか。
朝を迎え、少し戸惑っている弓弦に西村は何気に話しかける。
「今日は仕事?これから家に帰るんだろうけど、どうするの?」
「とりあえず、ひかりに連絡れて。家に帰って・・・・。」
「帰らずにここからお店に行けば?」
「でも。」
「いいじゃない、たまには。」
「あたし、やっぱり先輩とは・・・・。」
「気にするな。俺はただ弓弦のそばに居たいだけだ。」
「気持ちはうれしいけど。」
「それだけで俺はいいんだからさ。時間までのんびりここにいてよ。」
「ひかりに電話する。先輩。」
「そうだな。連絡は入れないとな。」
そういうと弓弦はひかりに電話を入れる。少し元気がない声だが。
「おはようひかり。」
「おはよう、また続けてどこに行ってるのよ。お母さんも心配しているよ?」
「すまない。大丈夫、呑みに行った先で帰れなくなってネカフェに入り込んだんだ。」
「また、一応弓弦も女なんだから気を付けないとね。」
「あぁ。」
「ねぇ、弓弦聞いてる?」
「あぁ。」
「まだ眠い?一度帰ってくる?」
「いや、ここで少し寝てからまっすぐ行く。」
「着替えは?」
「店においてあるから大丈夫だよ。」
「んぁ、今日はちゃんと帰ってくるのよ?弓弦。」
「あぁ。」
「お昼は近くで食べるから心配しないで。」
「ごめん。」
そういって携帯を切った。
着替えをどうしようか悩んでいると、西村が自分の服を出してきて
着替えるように言った。来ているものを全部洗濯して乾かせば?と。
乾燥までやるから、全部入れてその間シャワー浴びて自分の服を
来ていれば一時間半もあれば乾くからと。
先輩の言葉に甘えて弓弦は服を借りた。
そしてシャワーを借り湯船につかった。
ちゃんと湯張りをしてくれていたのだ。
肩までつかりふと視線を上げると涙がこぼれた。
こんなに優しくされると自分が自分でなくなっていくような気がして。
上がるとバスタオルが用意してあり、それにくるまって
出ていこうとすると、ドアの外・目の前に西村が立っていた。
「弓弦。大丈夫か?お前顔色悪くないか?」
「そうですか?先輩、それよりもお借りしました。ありがとうございます。」
そういうと、西村の横を通り過ぎ着替えに借りたシャツを着るために
部屋に行こうとした。すると後ろから抱きしめられる。
でも、弓弦はその抱きしめられたまま西村に言った。
「先輩の気持ちはすごくうれしいです。
あたしなんかを女として見てくれて、本当にうれしいです。」
「だったら。」
「だけど・・・・・。」
「あのさ、このマンションはさ俺にとって一人じゃ広いんだよね。」
「?」
「俺の女としてではなく、弓弦が今の場所からここに来ないか?」
「えぇ?」
「今はさ親類の家にいるだろう?お前は自分を守るために。」
「・・・・・・・・・・。」
「んじゃなくって、これからの自分のためにここに来ないか?」
「え?」
「俺さ、思うんだ。これからのことを考えたら、
一度過去から離れてみたらってそう思うんだけど。」
「おばさんとかひかりとかと離れてみるということ?」
「今までそんなことしたことなかっただろう?
一度、過去に触れてしまうところではなく、全く真白な世界に出てみないか?」
「どう・・・・・・・。」
「俺のこの部屋に一緒に住む。シェアメイトっていうの?こういうのって。」
「シェアメイト?」
「同居人だ。」
「西村先輩と?」
「男と女での同棲じゃなくって、同居するだけの同居人。」
「お前はそういわないと、返事を考えないだろう?」
「・・・・・・。」
「過去から離れるために 、ここに住むんだ。」
「離れられる?そう思う?」
「あぁ。弓弦を俺の女にするというのとはまた別だ。
俺の女というには弓弦の意志がない。
それよりもすっきり忘れられたら少しでも考えられるように
なると思うんだが、どうだ?」
「少し考えさせてください。」
「弓弦がどう考えてようと、俺は受け止めることができると
自分では思っている。自信がある。」
「少し待ってください。まだ混乱してて。」
「あぁ、待つよ。いくらでも待つ。」
「西村さん。」
弓弦は混乱していたが、確かに伯母とひかりと一緒に居ては
自分に逃げ道を作って、つらい事や過去から逃げずに戸惑って
ごまかしているだけのようには感じていた。
一日一日をなぁなぁと過ごしているだけかもしれない。
それを先輩は気づいたのかもと。
その日は朝ごはんを一緒に食べ、楽譜に目を通したりしている
西村の横で自分もPCを使ってのカクテルのサイトにチェック入れたり
それぞれの思うことをやっていた。
お昼になり、もうそろそろ準備をしなければと
乾いた自分の服に着替えながら横に居る西村に話しかけた。
「あの先輩。」
「ん?」
「ここに一緒に同居するとして、家賃は?光熱費は?食費も。」
「家賃と光熱費は、弓弦がここにいてくれるそれだけで相殺だ。
俺がそれで安心していられる代価と同じだから。食費は考えてなかったなぁ。」
「それでいいんですか?あたしは女としての代価はありませんよ?」
「そんなこと気にしていたのか?」
「だって。」
「俺の安心は何物にも変えられないものさ。
弓弦がそばにいる安心は、何物にも代えがたい現実だ。男と女の代償は二の次だ。」
「西村先輩はどうしてそこまで?」
「弓弦は俺を先輩としか見ていないのだろうけど
俺にとっては、家族と同じ大切な俺の宝物だよ?」
「そう思われて、あたしはどうしていいか。」
「弓弦が泣きたいときに俺がそばに居たいだけ。それだけだから。」
「困ったな。うれしすぎて泣きそう。」
「おいおい、これぐらいで泣くなよ。」
そういって、また泣き出す弓弦が本当に放せなくなる西村だった。
14時になって出勤まであと3時間。
弓弦は買い出しに出かけるといい、きちんと着替えて西村の部屋を後にしようとしていた。
すると西村もそれに付き合うといい、一緒に出てきた。
「外は大丈夫だと思うが、一緒に出よう。」
「西村さん、大丈夫?」
「出入り口は駐車場とか4,5ヶ所あるし別に住人が出入りするから大丈夫さ。」
「今日は銀座に出ますよ?」
「あぁ、お前は自分の客たちに守られている。
万が一俺とに写真を撮られたら大泉に連絡を入れろ。
そうしたら消してくれるさ。」
「大泉のおじさんに?」
「あいつは大の弓弦ファンさ、大切な弓弦の後ろだて。弓弦の味方だ。」
「わかった。」
そういって二人は銀座に出た。
今日の仕事に使う果物や小技ものを仕入れに。
「今日は何を作る予定だ?」
「何を作るかはわからないけど、このチェリーは使えるかな。」
「こっちのキウイは?」
「あぁ、ゴールデンだといいかも。」
「それと、昨日はグレープフルーツを使い切ったから
ルビーとホワイトと両方。で、グリーンレモンと。」
「いろいろいるんだなぁ。」
「えぇ、それだけあたしのフルーツを使ったカクテルを
いただいておられるということ。嬉しい事。」
「で、次はどこに行くの?」
「業務用のお店。ギムレットも切れたし、ドライジンもベルモットも。
昨日ウォッカも西村先輩でつい切っちゃったし。」
「弓弦さ、俺がいるから重いものも買ってるだろ?違うか?」
「当たりかも、だっていつもは一人だしさ。」
「ていうか、周りから見ると野郎二人組なんだろうな。」
「そうかも。なんだか、昨日の今日で髪を短くしたいかも。」
「俺はそのままがいいんだけど?」
「短くしたら翔太君にそのままでしょ。いっそのこと双子の翔太君で、
そうなると西村さんも変な気は起きないでしょう。」
「そうだなぁ。なんだか、まるでホモ達だもんな。」
「翔太君に相談して、真面目に考えようっかな。」
「やめろよ。でも短くしても俺には弓弦は弓弦だけどな。」
「やっぱり駄目かぁ。同居するなら何か考えないとさ。」
「なんでだ?」
「どうしても男と女だから、週刊誌はほぉっておかない?」
「そうだなぁ。」
「翔太君だったらなんで?って感じでごまかせる。」
「弓弦さ、翔太を餌にしようとしてない?」
「でも、先輩と一緒に住むことは無理だと思いますよ?
それにあたし、今度ひかりんちの離れに移るんです。一人で自由がいいから。」
「やっぱりどうしてもあの部屋には来ないかぁ。」
「えぇ。絶対に無理と。
でも、自分の中で先輩の胸を借りたいときは遠慮なく甘えますから。」
「あぁ。待ってるよ。すぐにでも借りてくれるといいんだけどな(笑)」
「先輩と話してたら、本当にそう思いました。ちゃんと過去から離れないと、
どう転がって生きていこうとも前に進めない気がする。」
「だろ?まず、離れろ。忘れる努力をしろ。すると人生少し楽になる。」
「ですね。自分の足でしっかりと生きていけるように。」
「これで弓弦の心に一歩はいりこめたか?」
「さぁどうでしょうか。でも・・・・・・」
「でもなんだ?」
「何でもない、なんでもないですよ。気にしないで。」
「そう言われるときになるなぁ・・・・言えよ。」
「無理無理(笑)」
「そういえばさぁ、弓弦。」
「なんですか?」
「今朝の電話の後に携帯にメールが来ててびっくりしたんだけどさ。」
「誰からだったんですか?」
「この間のmartinの・・・・・そうだ、悠太だ。」
「悠太君?」
「あいつバイク転がすだろ?一緒にツーリングに行きましょうってさ。
行くとき誘ってくださいって、おはようメールが来てたんだ。」
「先輩、アドレス交換してたっけ?」
「あぁ、ちょっと前に局でさ。楽屋に名前が見えたからって
寄ってくれたんだ。その時に、みんなと交換した。」
「なんだかんだ言っても、好かれてしまう先輩がいる。(笑)」
「弓弦も俺のことは好きなんだろ?」
「先輩としてですね。それから先はわかりません。」
「でも夜の話、あんな大切でデリケートな話。
普通の関係じゃ話ししてくれないもんな。
その分俺は誰よりもリードしているのか?」
「どうでしょうねぇ(笑)」
「知ってるのは他にいる?」
「家族とお爺ちゃんとネットつながりの一番仲良しのはなさんだけ。」
「男友達の中ではなししたのは俺だけか。やっぱり弓弦は俺のこと好きなんじゃん。」
「ちょっと違うかな。」
「何が違うのさ、何も違わねぇじゃん。」
「あぁ、あと一人いたなぁ。」
「誰々?誰なのか?そいつが唯一のライバルになるのか?」
「西村さんの足元にも及びません。だって知り合って一週間ぐらいしかたってないし
強引な人は好きじゃないし。だけど真面目に話をするから
喋らざろうえなくて。」
「俺の知ってるやつなんだろうなぁ・・・・・。」
「知らない方が幸せですって。」
「あぁ、もう店の前まで来ちまったか。」
「ついちゃった。先輩荷物ありがとう。助かりました(笑)」
「いえいえ、どういたしまして。」
`turururururururururu turururururururururururu’
「ほら、先輩呼び出されてる。」
「あぁ、すまない。んじゃな、弓弦。またあとで。」
買い出しが終わると、西村は自分の事務所から呼び出しを受け
荷物を店まで運んだあと、向かっていった。
弓弦は、昨日からどこに行ったのかほかのやつらに聞かれたが
呑みに出たので、bikeはとりには来なかったんだと言った。
しかし、内心誠は一晩一緒に居たんだろうと弓弦の横顔を見ながら
そう思いながら一人になるのを見計らって話しかけた。
「弓弦。」
「なに?誠さん。」
「弓弦さ、呑みには出てないだろ?弓弦味見する以外は酒飲まないもんな。」
「よく御存じで(笑)」
「んじゃ、どこにいた?」
「どこでもいいじゃないですか。」
「どこに行ってたんだよ。
ひかりちゃんから遅く来てにメール来て心配してたぞ?まだ帰ってこないって。」
「ひかりのやつ(笑)」
「西村さんと一緒だったのか?」
「なんで?」
「一緒にそこまで来てたじゃん。」
「別に。」
「弓弦さ、何かあった?」
「何にも?」
「そっか、ならいいけどさ。」
「ご心配ありがとう。誠さん。」
「なぁ、弓弦。」
「本当に助けてほしいときは俺でも貴志でもちゃんと言えよ?」
「あぁ、ありがとう。」
「それはさておき、毎年恒例の全員参加の銀座のチャリコン。
弓弦覚えてた?」
「え?」
「チャリティーコンサート!」
「あ?まじに忘れてた。」
「いつだっけ?あとひと月しかねぇけど?」
「まじで?誰も何も言わないし。」
「その話し合いを明日の午前中するけどさ。」
「今年はどうなるのかなぁ。」
「去年はEXILEやったじゃん?」
「今年も?」
「それがさ、俺と貴志と真志と俊哉と弓弦でmartinやるのか
AKBだっけ?それやるかって。」
「えぇ?あたしもやるの?まさかぁ(笑)」
そういった話をしていると準備もままならないまま開店する合図が店内に鳴り響く。
「開店です。」
あわてて自分の場所に戻り、準備の続きをする。
メールも続々と入る。もちろん弓弦の携帯もさっきからメールが。
`こんばんわ、弓弦。明海だよ。今日はお邪魔しても大丈夫?
よければ21時ごろ行きたいけど?´
`お仕事お疲れ。山下です。昨日はありがとう、楽しかった。
またお姫様たちが来るときは連絡をいただけると
男爵めはうれしく思います。´
`弓弦さん。槙村です。ここの所うちのやつらが
お世話になってすみません。
今日は遅い時間でも大丈夫ですか?5人で伺いたいんです。´
まだ、弓弦の指名はまだ入ってないため自分のカウンターの中でメールの返信を始めた。
`明海ちゃん。今日は大丈夫だよ。
どうぞお越しください、久しぶりにおしゃべりしよう。
21時ね?席をとっておきます。´
`こんばんわ、男爵。こちらこそです、昨日はうちのひかりたちの
子守をありがとうございました。ひかりも吉村さんも喜んでいました。
また、お誘いしていただけるとうれしいですと
ご伝言を預かっておりました。
本当に、ありがとうございます。またのお越しをお待ち申しております。´
`こんばんわ、槙村さん。楽しい時間を過ごさせていただきました。
ご迷惑だなんて。社長さんも、秋山さんも皆さんいい方で。
それと、この間はご馳走様でした。
お料理の腕はすごいですね。奥さんになる人は大変だ(笑)
今日は5人でというと?お仲間で?25時で閉店ですので、お気を付けて。
入口の黒服に《原田弓弦》と指名を入れてください。
あたしも伝えておきますので、入店できると思います。´
そうメールを返していると誠が呼んだ。
「弓弦!ちょっといい?」
「はい、なんでしょう誠さん。」
「こちらが(笑)」
「あぁぁぁぁぁぁ。伯父ぃ。」
「なんで誠さんを指名で?」
「お前をさ、ちょいと離れて観察って思ったんだがお前の客は遅そうだから呼んだんだ。」
「伯父ぃも人が悪い。」
「ははは。お前、ここの所続けて朝帰りしてるだろ?
それも今日も帰ってこなかったらしいが。男か?」
「ちげぇよ。まったく、そんな探り入れに来たのかよ。」
「弓弦、口が悪いぞ(笑)」
「だって、誠さん。いっぱしの大人を疑いすぎてますって。」
「そうだなぁ、いい大人なんだから少しは放置してほしい気持ちもわかるが
心配させるのは、感心しないなぁ。」
「誠さんまで。もうあたし25ですよ?」
「そろそろ女に脱皮しないとな(笑)」
「そこまで言いますか?(笑)」
「あぁ、ここの人間はそう思っているよ多分。」
「女な姿でbartenderだとある意味へんな店になりませんかな?」
「大丈夫でしょう、弓弦の男っぷりは女になっても
ほかのやつらよりもいいですから。」
「なんか、複雑だなぁ。」
「さぁ弓弦、弓弦の客が来るころか?」
「まだまだ時間はありますが?」
「そうか、ならここで三人でかたろうや。」
そういって誠と弓弦と弓弦のおじさんと三人で料理の話で盛り上がっていた。
弓弦は誠が気を利かせて伯父ぃを呼んだのか、伯父ぃが気にしてここへ来たのか。
久しぶりに食べ物の話をしていたら、誠が言った。
「なぁ、久しぶりに夜釣り行きたいな。」
「あぁ、そういえば最近釣りしてないよねぇ。」
「今度湘南の先の釣り場に行ってみようか。」
「あそこ最近人が増えてるらしいけど、釣れんのかなぁ?」
「そうだなぁ。」
「伯父ぃ最近はどぉ?何かいい釣り場の話聞いた?」
「なかなかないなぁ。」
「今は、館山の方の磯じゃない?」
「やっぱりあっちかなぁ。」
そういって釣りの話で盛り上がっていると、弓弦の指名が入った。
「弓弦さん、吉川様がご来店です。」
「はい。」
入り口のドアに向かうと、大学の同窓生で吉川明海が彼と一緒に来ていた。
「ようこそ、我が城〝mask”へ」
「弓弦、元気そう。」
「初めまして」
「どうぞ、こちらへ。」
「弓弦、今度ね結婚するのよ。で、連れてきちゃった。」
「明海。おめでとう。一番綺麗なころだもんね、今お嫁に行かないと。」
「弓弦は?」
「ないない、そんな浮いた話は」
「弓弦君は彼女は?」
「やだ、あなた。弓弦はね女よ?」
「うそ(笑)」
「明海?旦那さん驚かせるために連れて来たの?」
「あはは、少しはそんな気もあったけど卒業して、
会ってなかったなぁって思ってさ。」
「あたしは大丈夫よ?とりあえずね。」
「弓弦の男嫌いはすごかったしさ、今はどうしてるんだろうって思って。」
「そんな心配で来たんだ。余計なお世話が好きな明海だ(笑)」
そういう話で来たのは何かしらくすぐったい感触もあり
弓弦はそれでも楽しそうに、話をしていたのを隣で誠は聞き耳を立てながら
気にしていた。
弓弦はその久しぶりの友人の訪問に笑顔を絶やさなかった。
本当に楽し良い時間を共にすごしている。
大学のころの話や、教授たちの話、弓弦のいるここにきている
仲間やサークル連中や出てくる話いろいろと面白く話をしていた。
あっという間に1時間過ぎ、次の所に行かなければと22時過ぎに帰って行った。
明海の後姿の幸せそうなこと。弓弦は一つの形の幸せもあるんだと、
目を細めて見送った。自分にはそういう幸せはあり得ないかと。
そうしているうちに、また入口の黒服が弓弦を呼んだ。
「原田、指名です。」
「ようこそ、我が城〝mask”へ」
「こんばんわ、弓弦さん。お言葉に甘えて5人で来ました。」
「ようこそ。さぁ、あたしのブースへ
手の空いている人、7番ブースにお願いします。」
「yes,sir」
そういうと今日は俊哉が横についてくれた。
「俊哉、ありがとう。」
「いえ、勉強させていただきます、弓弦さん」
「初めましてですよね?槙村さん以外は。」
「あぁ、初めまして。槙村がいるグループ・C&Cのリーダーやらせてもらってる
大宮です。よろしく。」
「えっと、弓弦さん。そしてね、こっちから田中・島崎・大川で、俺。」
「なんかちゃんと紹介しろよなぁ。」
「槙村がお世話になりました。田中あきらです。」
「ひかりちゃんのいとこでしたっけ?」
「えぇ、山本ひかりはいとこです。」
「かわいいよなぁ。ひかりちゃん。」
「ひかりはまだフリーですよ?
どなたか名乗りを上げていただけると、私が少し楽になるのですが。(笑)」
「まじで?ひかりちゃんはうんといえばの話?いいの?」
「いい年した女ですよ?いつまでも子供じゃないんですから。」
「弓弦さんは?」
「あたしの男っぷりを理解してくれる人でないと無理ですね。」
「はっきり言うなぁ。」
「んじゃ、5人の顔を見てお勧めをお願いします。」
「えぇ。それじゃ、俊哉。」
「はい、弓弦さん。」
「この子は俊哉って言います。去年入ってきた人の中での
一番の成長株です。以後よろしくお願いしますね。」
「弓弦さんという先輩を持って幸せな僕ですが
先輩を見習って勉強していきますので、よろしくお願いします。」
「あぁ、こちらこそ。」
「俊哉はあきらさんと一哉さんをお願いできるか?」
「はい、頑張ります。」
「あたしは、大宮さんと大川さんと槙村さんを。」
「俺たちのイメージとかで作るのか?」
「そうね、話している様子とかいろんなデータで想像してね(笑)
でも一応何がいいかお聞きしますね?」
「俺はお酒弱いんで。」
「僕はあっさりとしたものを。」
「リーダーもあきらもお酒弱いもんなぁ。僕は辛口で。」
「槙村さんは?」
「弓弦さんの、イメージで。」
「じゃ、大川さんは?」
「ドライなのがいいかな。」
そういって聞いた分で話をして決め作り始めた。
その作られているのを見ながら、仕事の話だろうか
少し込み入った話になってきた5人。
しかし出来上がると、話しに割り込んでしまうがと思ったが
思い切って弓弦は声をかけた。
「ではまず、大宮様。
"tokio・Joe″という本当はメロンのリキュールを使って作ります。
飲みやすさを出すのに、マスクメロンを裏ごしして使いました。」
「そして僕が作ったあきらさんのは
"long・island・ice・tea″と言って、すごく飲みやすいのを。
これはコーラを使っているのでアルコールを感じさせない口当たりで。
そして一哉さんの。
あ。弓弦さんのチルドのレモンとミントを使いましたよ?
"sea・blizze・cooler″と言ってきりっとすっきりと口当たりを調整しました。」
「そして大川さんの分。
大川さんてすごくいい男を醸し出していますよねぇ。
"Alpine・glow″と言って、ブランデーをつかって
いい香りを楽しんでいただきたくつくりました。
槙村さんの分、あたしが槙村さんをイメージしたものです。
"green・devil″ペパーミントが口の中に広がって
清涼感漂うきりっとした飲み口。気に入っていただけるかと。」
「いろんなとこ見てますねぇ。とりあえず、乾杯ですかね」
「ですね。」
「では、乾杯。」
すると5人顔を見合わせる。なんで?と。
好みがこんなにぴったりなことに、びっくりするばかり。
バーと言う所はこんなにも繊細で心地よくいられるような場所を
作ってくれるから何度も通うんだとそう思ってしまう。
こういう場所だからこそ離れられないんだと。
「弓弦さん。俺惚れたよ。弓弦さん、俺と付き合おうよ。友達からでもいいから。」
「おいおい、圭一郎!ここで口説くのか?」
「てか、お前そっちの趣味あったんけ?」
「弓弦さんまた男って思われてる(笑)」
「そうだよなぁ。口悪いし、男の人と変わらない格好だし。」
「だーかーらー。ここでもその恰好が楽なんだろ?
だけどさ、下はタイトスカートでもいいんじゃね?もちろん、ミニがいいけどさ。」
「まじで弓弦さんってお姫様なのか?」
「圭一郎。まじ、手ぇ出すなよ?俺の方が答え出てからだ。」
「俊哉、どうしよう(笑)」
「早く弓弦さんが誰かのものにならないから、
そういういざこざが起こるんですよっ(笑)」
「そうなのかなぁ。(笑)」
いろいろと次のものを注文し、知らず知らずのうちに
5人はほろ酔い加減で24時を回っていた。
「そろそろ、終わりじゃないの?弓弦さん」
「えぇ、25時閉店ですよ。どうしますか?」
「閉店か。どうしようかなぁ。この店は結構早い時間でし閉店するんですね。
仕方がないかぁ。最後に、5つ何かお願いしようかな。最後の一つ。」
「どういうのがいいですか?」
「そうだなぁ。弓弦さんの思うままに、作ってくれていいけど。
なぁ、何かリクエストはあるか?」
「俺はないぜ?」
「俺も、て言うかなにを作ってくれるか楽しみ。」
「弓弦さんにお任せしていいんじゃない?」
「んだな。俺も弓弦さんにお任せで。」
「そうですか・・・・・・・難しいですね。」
そういいながら、一人ひとり顔を見つめた。
見つめながら質問をしていった。
「まず、あたしは何も大宮様たちのことをあまり知らない。
少しでも満足していただけるものを口にしていただきたいから
少し質問を。良いでしょうか?(笑)」
「難しくないことをお願いしたいなぁ(笑)」
「それじゃ、それぞれの性格がわかんないじゃないですか。
答えづらいのであれば質問を変えますが、とりあえず。」
「お手柔らかにお願いしたいな。」
「なぁ、弓弦さん。弓弦さんには僕たちはどんなふうに映ってるんだろう。」
「もちろん、すごく男らしい5人に見えてますよ。まず、大宮様から。」
「僕から?」
「えぇ。まず、大宮様は田中様をどう思われていますか?
どんな人に見えていますか?」
「直球で聞くなぁ。みんないるところでその質問は恥ずかしいな。
でも、田中かぁ。年は田中が下なんだけど、しっかりしているよな。
でさ、はじめっから5人このじゃなくってメンバーじゃなくって
始め正式に決まったのは僕と田中だったんだ。
でさ、通達があって呼ばれて会議室で顔を合わせた時
すごくうれしそうな満面の笑顔でよろしくお願いしますと言われて
こいつ僕と組むということを心から喜んでくれていると
そう思ったらすごく僕もうれしくなった。
たくさんいる研修生の中から組めることを心から喜んだんだ。」
「では、田中様。田中様は初めて大川様と会ってどう感じました?」
「圭一郎?そうだなぁ。こいつ結構ちゃらちゃらしてるように見えるだろ?
ちゃらちゃらしている割には何に対しても真剣でさ。
一緒にやるようになって、振り付けとか練習している顔がさ、
すごくいい顔でさ、男でも惚れる顔になってた。
初めての顔合わせでやる気あんのかなぁとか思ったりしたけど
やると決まって一緒に居るようになってさこいつすごく見た目と違うって。
俺はすごい勘違いしててすまなかったなぁって思ったりした。
こいつの俺たちへの態度や仕事への真剣さは誰もが認める真面目な努力家なんだよな。」
「では島崎様。槙村様のことをどう感じていますか?」
「えぇ、槙村かぁ。難しいなぁ。槙村が一番最後だったよな。
僕らの中で一番年下んなんだ。だけどさ、一番大人かも。
すごい子供が好きでさ子役とすぐ仲良くなるよな。
ロケの間も、遊んであげたり勉強見てあげたり付き合ってた彼女にも、
見せたことのない笑顔でさ面倒見がいいんだ。
それが、最後の最後にマネージャーが連れてきた槙村なんだ。
連れてこられた来たときは本当に子供子供してたんだけどさ、
時がたつにつれて男の顔になってきやがってさ5人の中で
一番の色男になっちまったんだよなぁ。」
「槙村様。槙村様から感じた大宮様は?
あ、でも槙村様が思う仲間とは?にしようかな。(笑)」
「俺だけ難しくねぇかぁ?」
「そう?(笑)」
「んとなぁ。俺ってさ、この中で一番の若輩者でさいっつも置いてけぼりで
気が付くと、なんでも先に行ってしまっててそれに追いつくのが
いつも精一杯だった。でもさ、それに追いつくとか追いつかないとか
そういう風に考えるんじゃなくって、出来たらいいんだって
そう思うようにリーダーに言われたんだ。
そうだよなって思った。一緒にチームワーク乱さないようにすることと
自分を表現することは別で、自分を言うすべてを確立させてしまえばいいんだって。
そしてこのチームの中で俺ができるためにはといろいろ考えて始めは
リーダーや田中のまねで始まって、でも違うって思った。
島崎についてっていろいろとやんちゃなこと教わったし
圭一郎とは気が合うし歳が一つしか変わらないんだ。
だから、いろいろ話をしてても共通なこと多くて楽しかった。
だけど、俺のやることなすこと迷惑かけたなぁ。
いろいろとみんなに迷惑かけながらもさ、前に進むことができた。
それにやんちゃして悪さしていたことすまないと思いながらも、
そんな俺を悪いことは悪いと怒ってくれるし
成長した分は成長した分としてきちんと評価して褒めてくれたんだ。
みんながあっての俺なんだって、そう思った。」
「みんな思っていることはそんなもんじゃないでしょう?」
「そうなのかなぁ。」
「仲間に対しての気持ちは言葉にはできないからさ。あたしだってそうだもの。
ここの人がいるからあたしがいて誠さんがいて健がいて
そしてオーナーがいて。貴志も。
で、ひかりがいて叔母がいて叔父がいてそして西村さんがいる。
こんな自分でも、必要としてくれている人がいるから
ここで存在することが出来るんだと思ってるんだ。
だから、これからもあたしは男でもないし女でもないし。
ただ存在する`弓弦´という人間ということ。
言葉に出せる気持ちは本当の気持ちを表せてはいないだろうから
思って感謝して自分の時間を作っていかなければいけないと
自分でそう思っている。」
「難しいこと弓弦さんは考えているんだね。」
「そういう風にいろんなことを考えないと、
これまでに起こった事にきちんと向き合えない。
だからこれからは逃げずに自分自身と向き合って行くため
親類と仲間以外では一人。これまでも、これからも。」
そういいながら弓弦の手もとは忙しく動いていた。
「はじめに大宮さんに。
《Singapore・Sling》と言って、のRaffles Hotelのオリジナルを。
田中様には
《Piña Colada》はパイナップルとココナッツミルクを使った南の島をイメージしたもので。
そして、島崎様。
《apple・collins》さわやかな甘さのお人柄に見えましたので。
大川様には
《Matador》を。パイナップルを使った闘牛士のイメージのカクテル。
槙村様には
林檎を使った《applemint・julep》です。
5つのカクテルはパイナップルを使ったのが3つ
林檎を使ったのが2つ、パイナップルは`完全無欠´で
林檎は`誘惑´です。
2つの意味を合わせた時のあたしの思いは、
C&C5人で「完全無欠の仲間」ってところですかね。
だって、世の中の女性を虜にしているでしょう?
あたしたちはそれがうらやましい。この部屋にはないものだから。
どうですか?お気に召されました?」
「ねぇ。弓弦さんはどうしてそう思われるんですか?」
「だって、ねぇ。」
「だって?」
「これから皆様は夢の中に行かれます。ただでさえ世の中の
女性を虜にし夢の中に連れてってくださるのだから
自分たちも、幸せな夢にいざなわれなければいけないでしょう?」
「ということは?」
「明日に差し支えないように、ぐっすりと。
あまり夜更かしをされませんように、まっすぐにご帰宅くださいね。」
「お気遣い、ありがとう。」
「まだまだこれからガンガン勉強しなければいけません。
誠さんや西村さんや皆さんを観察して自分を磨かなければいけません。
これからもご贔屓に。そして、ひかりをよろしくお願いしますね。
さぁ、閉店です。夢の中へいざなわれてください。taxiを手配しますね。」
「弓弦さんは帰るの?」
「えぇ、自宅に帰ります。」
「俺たちは、このまま家に帰らなければいけないのか?(笑)」
「そうですね、ひかりからのメールで朝早くからロケがあるから
早く返してくださいねって。お酒が残らないようにって(笑)」
「おしゃべりめ(笑)」
「そういう風に言われるということは、
そういうことをしたことがあるということではありませんか?
だめですよ?仕事は仕事です。
あたしはしっかりと仕事をこなすあなたたちの後姿が好きなんですから。」
「言われたなぁ。さぁ、帰って休もう。明日は早いからな。」
「あぁ。そうだな。」
「今宵も楽しい時間をありがとう、またお越しください。」
「こちらこそ、お休み。good night」
そういってお店の前で少し話し込んだ5人はそれぞれの部屋に帰宅していった。
そんな少し蒸し暑い夜が明け、朝を迎えようとしていた。
次の日はひかりと約束していた湘南へ遊びに行く日だった。
弓弦も休みをとり、ひかりと一緒に湘南で一日遊ぶと約束をしてたし
この日だけはひかりと二人で遊びに行くことを楽しみに朝から早く起きたのだ。
確かその日は、誠が言っていたチャリティーコンサートについての
話し合いがあるはずだったことを忘れて弓弦は休みだけ頭の中にあった。
「おはよう、ひかり。」
「おはよう弓弦。今日は大丈夫?」
「あぁ。大丈夫。ひかり準備は?」
「昨日のうちにしてたから、OKよん。」
「えっと今は7時前か。道路混まないうちに出かけよう。
海開き初日に二人で泳ぐのは恒例だしね。」
「弓弦は水着は?」
「もちろん、Pāreuももったし大丈夫。」
「んふふ。女な弓弦と泳げる、それがすごくうれしい。」
「まったく。水着だけはごまかせないでしょ?
仕方なく思ってるんだから突っ込まないで。」
「それよりも、今日は本当に二人だけ?」
「ひかりとあたしと二人だよ?」
「だってさ、弓弦の女っぷりも誰かに見てほしいんだけどなぁ。」
「あたしは嫌よ?」
「もったいないなぁ。」
「もぅ。さて、行こうかな。」
「はぁい、行ってくるねぇ。父さん母さん。」
「気を付けて行っておいで。弓弦、気を付けて。」
「はい、んじゃ。」




