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入院しているときも・・・・。

「おはようございます、原田さん。ご機嫌はいかがですか?(笑)」

「またまた、先生。すこぶるご機嫌ですけど?(笑)」

「それはまたいいことで。」

「さぁ熱を計ったぶんは?」

「今朝の原田さんの・・・・・は・・・・・。36.3です。」

「良好だね。やっぱり20代は治るのが早いな。」

「先生?外出はいつからできます?」

「外出したいんですか?(笑)」

「えぇ、きちんとご迷惑かけましたと頭を下げに行かないと。

 少しづつ、行かないと退院してからだと無理なもので。」

「まだ早いのですがとりあえずの血液検査をこの後してみますか?

 数値が平均値に近ければ、許可を出せるでしょう。

 なんせ感染症が怖い。風邪など怖いしね。

 それに伸びていた記者会見。来週、この病院の向こう側にある

 どこだっけ?新聞社の会議室を使うそうだよ?」

「その連絡はいつ?」

「今朝だが、まだ原田さんの方には?」

「連絡はまだ。PCのメールの方にも携帯の方にも。」

「では、詰めて詳しいことが決まり次第れんらぅということだろう。

 だから、まだなのかもなぁ。とりあえず、その記者会見の日までに

 体調を整えて外出できるようにならないとまずいですからね。」

「そうですね、毎日ここだと結構きついものもあるし気分転換したい。

 そのほうが精神的にも楽だし。」

「原田さんは自由なのが基本好きみたいですね。

 そうそう、外科の石田先生とほらあなたの手術をした先生ですね。

 と、婦人科の是枝先生があなたに一つお伺いしたいと言ってましたが。」

「何を聞きたいんでしょうか・・・・・。」

「あなたが見つかった時に怪我に対しての手術をしたでしょう?

 その時にあなたの衣類をすべて剥ぎ取り、怪我の度合いを見て

 おなかの傷に気づかれたそうです。

 骨折とか内出血とかの検査でCTスキャンとレントゲンをとり

 手術に入ったわけですが、おなかのその一文字の傷と

 子宮の手術跡を見てどなたが手術したのかと気になさってました。

 素晴らしい手段での女性のために行われた手術だとわかると。

 あなたの体のために考えられた手術だとわかると感心されてました。

 いつかあなたは母となるときのために最善の手立てを尽くされている。」

「あたしが母になる時のために?あたしは子供は無理だと聞かされた。」

「少し違うかもしれないが、あなたのその話を午後から僕も一緒に  

 お聞きしたいと思ってるけど時間は取れるかい?」

「えぇ、今日はまだお見舞いに来る予定のはいませんし

 そういう連絡も来てませんから。」

「では、お昼を食べてゆっくりしてから3人で来ますね。」

「えぇ、私のこの傷の事でしたら覚えていること全部お話しできますよ。

 理解していただけるのであれば、

 こちらをかかりつけとして通わせていただけと嬉しいけど。」

「嬉しい言葉ですね。では、あとできますね。」

「待っています。」


午前中には携帯にもPCにも沢山のメールが来ていたが、

今日お見舞いに来るというメールは確認できなかった。先生たちとの話で

待ったりゆっくりと過ごすことができると、内心ほっとしていた。

毎日毎日泣いたり笑ったり、起伏の激しい日が続いていたから

少し何もない時間があってもいいとそう思っている弓弦だった。

先生が部屋から出た後、もうすぐお昼だねと峰さんが部屋に来た。

今日は仕事がお休みなんだけど、「原田さんとおしゃべりがしたい」と

病院に来たらしいのだ。


「原田さん。元気にしとん?さっそくお邪魔しに来たけど?」

「峰さぁん。今日は休みなんですか?」

「そうさぁ、休みさぁ。近くまで来たけんちょっち寄ってみたんやけど

 なぁんや、元気が顔しちょるやん。よかったねぇ。」

「あはははは、気兼ねなく喋れるっていいねぇ。

 なんだか長崎に帰った気分やん。これって幸せぇ。(笑)」

「一緒に居た人は?」

「先に退院しちゃった。でも先に退院しておらんごとなった方が

 楽かもぉ。自由やけんさ、かなーり自由やっけん気持ちも楽々。」

「でも、あん人原田さんの旦那さんになる人やなかと?」

「まだ結婚し取らんとけどね。でもあの人はあたしを嫁にするって

 うちの爺ちゃんに頼み込んでしもうたけん、きっと嫁がされる。」

「うそうそ。原田さんがこの人と一緒になるって言い張ったんやろ?

 聞いたもん、その話聞いたもん。」

「おーばーちゃーんっ!また余計なことを。」

「でもおめでとうやん。幸せにならんとな。」

「ありがとう、おばちゃん。」

「そうやったそうやった。これ。長崎の友達から送ってもらったんよ。」

「なぁに?」

「懐かしいやろぉ。カステラやで?」

「おばちゃん大好き!あたしカステラ大好きなん。」

「やっぱり福砂屋のカステラが一番やけんねぇ、食べさせとうして

 持ってきたんよ。これが一番の今日の仕事や。」

「涙出るー!おばちゃん本当にありがとう。」

「でもお昼食うたばっかりやろ?15時のお茶の時間にでもたべたらえぇ。」

「そうする!もうおばちゃんと知り合いになれてよかったぁ。マジ幸せ。」

「その幸せそうな顔は、旦那はんに見せてあげなぁな。」

「あははは、はずい。」

「んじゃ、あっちの先生の所にもいかんといけんからいくなぁ。」

「うん、おばちゃんありがとぉ。また来てなぁ」

「おぅ。またねぇ。」


峰さんというおばさんは弓弦に部屋に福砂屋のカステラをおいて行った。

1斤もカステラを弓弦はどうしようとも悩んだが、血液検査もあるしと

食べるのを我慢しそれが終わってから開けようと楽しみになおした。

長崎にいるときはよくカステラ屋さんに行って、

カステラの切れ端をたくさん詰めた袋をみんなで買っておやつによく食べたなぁと

思いだし、今でも連絡が取れる同級生からメールが来ていないかPCをチェックし始めた。

お昼を過ぎて14時前、看護婦さんが呼びに来た。


「原田さーん。行きましょうか。」

「えぇ、ちょっと待ってPCの電源オフにする。」

「ほんの15分ぐらいですよ?結果は、一時間ぐらいで出ますけど

 その間こっちに帰ってきますし、結果は先生がこちらで。」

「そうなの?んじゃこのままでいいのね?」

「車いすは大丈夫ですか?」

「ぜんぜん、大丈夫ですよ。ほらっ」

「ではいきましょうか?お嬢様(笑)」

「お嬢様はやめてくださいよ、もうすぐ26なんですし。」

「でも、原田さんはいいところのお嬢様なのに。

 ちゃんと気品もうかがえますよ?」

「そうですか?でも、あたし言葉遣い悪いし結構育ち悪い方ですよ?

 問題児だったしさ。」

「そうですか?わたくしたちにはそうは見えませんが。」

「退院して仕事復帰した時にはご招待しないといけませんね」

「何のお仕事してるんですか?」

「銀座の`mask’というバーでバーテンダーしています。ぜひ来てください。

 一見さんお断りのお店なので招待状をお持ちしますから。」

「そうなの?みんなで行かせていただくわ。

 でも退院まで遠いわねぇ。でも両肩の骨折はつながってリハビリで

 早く動けるようになるといいのにね。」

「今お店ではあたし専用のブースを改造しているらしいです。

 しばらくは車いすだろうし、きちんと長い時間立てる様になるまでは

 椅子に座っての接客なるだろうからってオーナーが工事を入れているらしいです。」

「あなたあってのお店なのね。がんばらないと復帰もきっと待ってられるわ。」

「えぇ、だから外出する体力も退院する体力も早くつけないと。」






「原田さん連れてきました。」

「原田さん、こちらへどうぞ。少し多めに採血しますが大丈夫ですか?」

「えぇ大丈夫です。顔色もここの所いい顔色でしょ?」

「血色よさそうですね。とりあえず、検査で必要な分を採血しますね。」

「はい。」





「では、1,2時間ほどで結果が出ます。簡易検査ですから

 とりあえず外出できるかどうかわかればいいんですよね?」

「病室ばっかりだと、気が滅入ってしまって。

 お見舞いに来る人もいるけど、やっぱり自分自身が外の空気に触れたい。」

「でも採血だけではなくって、きちんと大久保先生の診察も受けてくださいね。

 本当にいいかどうかはきちんと聞かないとね(笑)」

「はぁい。」




看護師と一緒に病室に戻る弓弦。部屋に戻るといつもは西村が待っていたのだけれど

退院した後仕事がつまってて忙しいらしく、夜遅くにここに来る。

疲れているのに、毎日ここに帰ってくる西村。

退院した後会社のスタッフに手伝ってもらい、

弓弦がいるあの離れに引っ越ししたはずなのだけれどここに来る。

あの部屋の一人でいるのが寒しいのかなぁとも思いつつも

ただいまと言いながら笑顔でここに帰ってくる西村を弓弦は微笑んで迎える。

今日は大阪の方に行っているらしく。携帯にメールが入っていた。


 `弓弦。

   今日は大阪の堺市に来ています。急な仕事で夜遅くなるので

   終わる時間に新幹線がいない。なのでこっちに泊まります。

   夜そっちに行けない。さみしいなぁ。

   俺はかなりさみしい弓弦の顔を見れないのが。

   23時までは仕事なので電話もかけれない、声が聞けない。

   なぁ、早く退院してほしいな。仕事もあるだろうけど、

   しばらくきちんと動けるまで俺と一緒に居てほしい。

   弓弦が心配で気が変になりそうだ。

   仕事が終わったら携帯に電話入れるから。寝てたらごめんな。

   弓弦の声を聴かないと不安で眠れないから。´


心配性なんだなぁ、西村さんは。そう思いながら弓弦はにやにやとしている。

すると、次々と弓弦が携帯を触っているのがあたかもわかっているかのように

メールが次々と入り始めた。PCの分もその前の携帯のメールの分も

返信をしていないのに、まぁ次々と。

きっと先生の診察が終わったら夕食まではメールの返信で時間がつぶれそうな感じだ。


 `こんにちわ、貴志だよ。

 

   今大丈夫?病院のロビーにいます。


んぁ?貴志じゃん。携帯はまずいなぁ・・・・。メールを。



 `Re:


   久しぶり、上がっておいでよ。今病室にいる。

   6Fの677号室さ。´


そう送信して5分もしないうちに、貴志が来た。


「おひさぶり!弓弦さん、会いたかった!まじで会いたかったっ!」

「貴志っ!ごめんなぁ、あたしのせいでごめん本当にごめん。

 せっかくみんなで練習したのに、披露できなくなって本当にごめん。」

「弓弦さん泣かない。泣くのは似合わないって。

 ねぇ、泣かないでよ。俺は弓弦さんが生きて帰ってきただけでうれしいんだから。

 泣きたいのは俺の方なんだからっ!」

「ごめんなぁ。心配させて、本当に。」

「んだよ。なのに復帰する前に人の物になっちまって。それが一番悲しいんだよ。」

「黙っててごめん、貴志は一番あたしのそばにいるのに

 何にも相談もせずにいろいろと迷惑かけてごめん。

 でも、西村さんからのプロポーズは前からだし

 たまたま沖縄から帰ってきたときに返事をしただけで。

 でもそういう気持ちなんだってこと、話しておかなければいけなかったなぁ。」

「んだよ。俺も弓弦さんが大切なのは知ってただろ?

 て言うか、俺。振られたショックでその夜はじめて泣いちまったよ。」

「貴志、泣いちゃったのか?(笑)」

「振られたんだ、泣くにきまってるだろう。

 でもさ、仕事上これからずっと一緒なんだ。

 一緒に居ることができるとそう思えば楽になったさ。」

「貴志はあたしの中では、誠さんやみんなと同じ。

 そばにいて一緒に仕事してないとダメな仲間なんだからな。

 貴志こそあたしから離れていかないでよ?」

「わかってるって。」

「それときちんと言っておかなきゃね。」

「誠さんの事?あれは冗談じゃないの?

 俺さ。弓弦さんが見つかって西村さんと結婚するって婚約するって

 知らされる寸前まで誠さんと弓弦さんが男と女の関係だってそう信じてて

 その誠さんから弓弦さんを奪ってやるってそう思ってた。」

「誠さん。ちゃうちゃう、誠兄さんだよ。本当に。

 先日誠さんがここに来た時にあたしの爺さんが来てて

 あたしの口からじゃなく、爺さんの口から直接聞かせた。

 本当に、誠さんはあたしの腹違いの兄さんだって

 爺さんの口からきかせた。だからそれは本当の事だよ。」

「兄弟と知ったのはいつだった?」

「3年前ぐらいかな。爺さんがあたしを店まで送った時にさ

 入り口であたしを待ってた誠さんを見て、もしやって思って調べたんだって。

 で、判明。母違いの兄弟だって。」

「誠さんが知ったのは?」

「チャリコンの前の日。一緒に帰っただろ?あたしと誠さんと。」

「あの日に?んじゃ、それまで全く知らなかったんだ。

 ていうか、弓弦さん知ってて教えなかったんだ。」

「だって、男と女になりそうだったらきちんと言わないといけないんだろうけど

 本当に妹みたいにかわいがってくれてただろ?だからさ。」

「誠さんさ、本当に弓弦さんが気になって仕方なかったんだぜ?

 それが突然妹だって知った時気分はどん底だったんだろうなぁ。」

「なんで?振ったりふられたりして縁が切れるよりそのほうがいいじゃん。」

「良くないさ。愛していた女が実は兄弟でしただなんて最悪。

 穏やかで寡黙な誠さんの心の中はわからないけどさ。

 俺だったら確実にぐれてるな。(笑)」

「貴志。」

「なんだ?」

「ありがとうな。こんなあたしと友達でいてくれて。」

「いまさら何を。」

「そして貴志。ごめん。」

「何が?」

「誠さんが言ってた。」

「何を?」

「前にさ、誠さん殴ったんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・あぁ。殴った。」

「ごめんな、あたしははっきりとした態度とらないから。」

「いや、あれはさ俺が一方的な気持ちで殴っちゃっただけで。」

「配達のねぇちゃんと誠さんと3人で騒いでたところを貴志見てたんだろ?

 で、3人でkissしたりしてふざけてて。

 それを誠さんが一人になった時に貴志が問い詰めて

 誠さんが答えたのに対し貴志が殴ったって聞いた。」

「それね。あぁ、殴った。なんだかさ、そうだったらどうするって言われたらさ

 俺は弓弦さんを誠さん一人の物になってほしくなかったし

 いつまでも俺の方を見てとびっきりの笑顔でいてほしかったからさ

 なんだか返事にムカついて。」

「でもそういう気持ちだったんだよね。」

「あぁ、俺は弓弦さんがこの世で一番大好きだよ。

 もし二人っきりになれるんだったらここからかっさらいたいぐらいにさ。」

「貴志、あたしも貴志のことが大好きだよ。だけど、一番は西村さんだ。

 この世の終わりに一緒に居るはずの人は西村さんだとそう思っている。

 あの人はそう思わせられるぐらいに、あたしを愛しているとあたしに感じさせた。

 だから、ごめん。でも、西村さんと接触しない仕事の世界では

 誠さんと一緒で一番信用信頼しているパートナーだから。

 これからもあたしをよろしくお願いします。

 貴志がいないと、あの場所で仕事はできないから。」

「そう言われるとちょっと複雑?」

「んじゃどういえばいい?」

「貴志、愛してるからそばから離れないで?とか?」

「それは無理。相手が違う(笑)でも仕事のパートナーとしては誰よりも愛しているよ。

 貴志しかそう言えないから安心して。」

「それ聞いて俺今日は仕事がんばれる、頑張ってくるよ。」

「もうそんな時間?」

「今日は俊哉が弓弦さんのブースの掃除当番だなぁ。俺が一昨日だったから。」

「本当に、早く復帰したいなぁ。」

「なぁ、弓弦さん。俺と弓弦さんってもう5年もなるんだな。」

「そうだなぁ。貴志がスタンダードで優勝してさそれからだからもう5年もたつのかな?」

「あんときさ、女のくせにそれもすげぇ若いしって見てた。

 隣に立つと俺とたっぱが変わらなかったしさ、

 こいつ俺のライバルになるんじゃないかって見てたんだ。」

「光栄だなぁライバルと認めてくれてたんだ。」

「でもさ、先に`mask´に入店してて、先輩になるとは恐れ入ったよ。」

「貴志はいつ入店だっけ?」

「いつだっけなぁ。コンクールがあったろ?それから半年はたってたと思うけど。」

「あたしはコンクールの終わった3日後だったかな。」

「偉く早いな。なんで?」

「コンクールの終わった次の日に`mask´に行って、

 そこで出されたものを飲んでそれに感動してさ、

 そこのオーナーに面接を申し込んたんだっけ?そしたら次の日から来てって言われて。」

「弓弦さんは即決めしてたんだ、オーナー。

 俺は面接が終わってから一週間待たされたぞ?」

「そうなんだ。でも貴志と真志と3,4日しか違わないんじゃない?」

「そうだなぁ。でも面接日は一緒だったんだぜ?」

「そういう詳しいことは誠さんが知っているのかなぁ。」

「だと思うけどさ。あの中での一番の古株だし最近壊れているから

 何でもしゃべるかもな。でもさ、弓弦さん、誠さんと兄弟でよかったな。

 あんなできた兄さんはいないぜ?」

「だなぁ。でもそのほうがよかったのは貴志の方なんじゃないのか?」

「それは弓弦さんが西村さんと結婚しなければ俺の出番だったと

 そう思うけど。でも、もう決まっちゃってるしなぁ。」

「ちょっと遅かったな。」

「もっと早ければ、弓弦さんにもっと早くに気持ち伝えてたら少しは違ってたかな。」

「どうだろうなぁ。俊哉なんて入ってきたときからあたしに

 スキスキビーム送ってきてたけど。」

「俊哉は弓弦さんに一目ぼれだったらしいよ?弓弦さんに一目ぼれして、

 何回か通っているうちに表の募集の張り紙見て応募したらしい(笑)」

「あたし俊哉が通ってたこと聞いたことないけど?」

「知らなかったの?誰だっけ・・・・・そうそう。

 そうだ、峻が知ってる。かよっても弓弦さんを指名する勇気がなくって

 峻を指名してたらしいからさ。」

「初耳だっ(笑)」

「あの中ではさ、一番が誠さん二番目が弓弦さん三番目が峻さん

 真志、俺、健って続くけど、俺からあと俊哉とかの代から下は

 みんな入店して弓弦さんに一目ぼれしているんだよ?

 知ってた?」

「知らないって、そういうに気づいてたら違う行動してるって」

「みんなさ彼女いないだろ?」

「あぁ。」

「みんな、自分たちの中では弓弦さんを彼女って意識しながら

 あの場で頑張ってるんだって。弓弦さんを超えた時に

 気持ちを伝えるんだって。みんなの恋ごころつかんじゃって

 弓弦さんはずるいよな。なのに、西村さんと婚約するんだろ?」

「西村さんと結婚するのはまだね先の話なんだけどさ

 あたしの気持ちは決まっているのに、まだ一人でこの世の中を

 泳がせるつもりらしいよ?」

「それだと、弓弦さんがもし別の人に気持ち奪われちゃったりしたら

 西村さん後悔するよ、きちんとつかまえておけばよかったって。」

「どうだろうねぇ。でも、あの人あぁ見えてさ焼きもちやきなんだよ?

 今日もさぁ、いきなり仕事で大阪に行ったらしいんだけど

 最終の新幹線に乗ることができないんだって。

 で、大阪に泊まるからここに帰って来れないでしょ?」

「あぁ。」

「23時回るけど電話を入れるからって。声を聴かないと寝れないって。」

「それはあまりにも(笑)」

「ね?どう思う?これだとどっちが年上なんだかわかんない(笑)」

「弓弦は愛されているんだなぁ。そこまで心配されて。

 割り込む隙もないぐらい?かなぁ。」

「割り込めるとしたら、西村さんが浮気したら割り込めるかもよ。

 あたし浮気とか大っ嫌いだからさ。」

「んじゃ、次に西村さんに会ったら浮気の勧めを教えようっと(笑)」

「ったく。貴志はずるいなぁ。」

「なぁ弓弦さん。」

「なに?」

「ベッドからそうやって上半身起こしててきつくない?」

「えぇ、今はきつくないわよ?」


弓弦がそう答えると、横にいた貴志が急に立ち上がり近づいてきた。


「弓弦さん。抱きしめていい?」

「駄目だよ、まだ鎖骨もくっついてないし肩甲骨もくっついてない。」

「そうじゃなくって、それは言い訳でしょ?」

「貴志。もうあたしは・・・・・」

「本当に生きて帰ってきてくれてありがとう。神様に感謝だなぁ。」

「貴志、そう思ってくれてありがとう。」

「んじゃ、抱きしめてもいい?」

「え?」

「だって、誰か来たり見てたりしたらできないし。

 ここだと弓弦さんに張り倒されなくていいし(笑)」

「普通に駄目でしょう?」


そういう言葉を無視して貴志は弓弦を抱きしめた。

大切なものを抱え込むように、優しく。


「弓弦さん。いつまでも愛しているから、大好きだから。」

「ありがとう、貴志。いつもあたしには優しいんだな。」

「お願いがあるんだ。」

「なに?無理なことでなければ。」

「これはさ、みんなからのお願い。」

「なに?」

「店内では、女に戻ること。

 俺らはシャツにネクタイで黒だろ?いわゆるギャルソンスタイルじゃん。

 弓弦さんはシャツにネクタイは一緒だけど、

 黒のタイトスカートにするって。オーナーが準備していると思うけど。」

「まじでスカートはかされるの?」

「いや、弓弦さんだと絶対あのブースでは黒のタイトスカートででも十分に

 似合うって。足きれいだし細いし長いし。

 十分、弓弦さんは女に戻ってもあそこでは一番だよ。」

「嫌だなぁ、オーナー指令だと仕方ないけどさ

 あたしいつもの格好での仕事がしやすいんだけどな。」

「今抱きついたから弓弦さんのサイズ分かったし、それで制服の注文入れておくから。」

「貴志それってずるくない?」

「いやいや、調べただけですって。上からDの65だろ?

 でも弓弦さん痩せたよな?」

「痩せてはいないと思うけど、貴志お前なんで的確にわかるんだ?」

「内緒さ。でもウエスト60無いよな。56?57?だろ?」

「まじで触感でわかるんだ。すごいってそれ・・・。でも誰にも言うなよ?恥ずかしい。」

「でもういっちょ!スカート注文できねぇだろ?」

「言うの?言わなきゃダメか?」

「だめ。だってマジ注文困るもんオーナーが。」

「まじ誰にも言うなよ?」

「あぁ(笑)」

「なんかばらされそうだなぁ。」

「言わないって(笑)俺と弓弦さんだけの秘密じゃん(笑)」

「・・・・・・・・・・・・・・80だ。」

「なに?聞こえないよ?(ニヤニヤっ)」

「だから・・・・・・・・・80だって。もぅ。」

「 80ね?」

「うそ。77。」

「ちっちぇぇ。」

「でも図ったとこないし、ここ数年。」

「んじゃ図ろうよ。どうせ病室にはメジャーとかおいてないだろ?」

「だね、計れないじゃん(笑)」

「そう油断するといけないんだぞ?ほれ。俺のベルトがある!」

「ずるい・・・・・・貴志すげぇずるい!」

「はい、弓弦さん。腰上げて、自分で測る?」

「自分で測る!ちょっと待って!」

「立てる?立ちあがれるのか?」

「左足は大丈夫だし。」

「んじゃ。」

「よいしょっと。ねぇベルト。腰に回して。」

「ほい。えっと、ここ。ここに印っと。」

「でいいの?」


そういうと弓弦が倒れそうになった。

貴志がすぐに抱きつき倒れずにはすんだが、弓弦は慌てた。


「あ、ありがとう貴志。助かった。」

「いいんだけどさ。なんだかなぁ・・・・俺の弓弦さんじゃないから

 抱きしめてもなんかむなしいな。」

「そうだね、仕方ないじゃん。そう言わない。だけどなぁ・・・・・。役得?貴志。」

「役得、考えると・・・・(笑)やっぱり役得だな(笑)」

「んもぅ。貴志。何があってもkissしてあげない。」

「それは卑怯だって弓弦さん。コンテストが来年あるの

 弓弦さんも出るんだろうけど俺も出るんだぜ?

 もちろん俺が勝ったらおまけしてもらおうと思ってたのに。」

「コンテストって何?」

「`mask´からは5人でる予定でさ、誠さんと弓弦さん

 俺と峻と俊哉が出る予定なんだけど。何にも聞かされてない?」

「あぁ、何にも。でもたぶんそれ出れないかも。」

「なんで?」

「退院したらさ、秋山さんとの仕事があるしかなり先の話だけど映画の話がある。

 それが落ち着くころには結婚式だもん。」

「仕事・・・・・仕事辞めるの?」

「仕事は辞めない。辞めたくない。あたしからバーテンダーの仕事を

 取ったら何にも残らない。辞めないわ。」

「でも、この仕事との両立は難しくない?」

「西村さんが言ったの。`俺の妻は天性のバーテンダーで俺の自慢なんだ´って。

 だから、辞めない。絶対に。」

「そっか。秋山さんの仕事は長くなる仕事みたいなの?」

「まだわからない。」

「映画は?」

「映画はさ久原氏の作品だから断れないよ。

 あたしのために書き下ろした作品で、あたしがそれをしなければ

 その書き下ろしたものはお蔵入りにするんだって。」

「弓弦さんのためにだけ書いた作品かぁ。」

「断れる?断れないでしょう?」

「だなぁ。頑張れ、弓弦さん。(笑)」

「まだ2年3年先の話だろうけれど少しづつ詰めていくって話。

 それに何年もかかっての撮影じゃないだろうからがんばるさ。

 撮影たって西村さんも言ってたけど、仕事するぐらいの

 開いた期間も出てくるだろうから気にするなって言ってた。」

「そっか。とりあえず、ふたは開いてみないとわからない(笑)」

「何が何でもがんばるさ。こうやってみんなに迷惑かけているんだもの。」

「そういう弓弦さんがみんな大好きなんだよなぁ。」

「そんなこと言ったって何にも出ないぞ?」

「んじゃ、弓弦さん。俺仕事に行きます。」

「今日も一日頑張ってな。あたしの顧客を頼む。」

「yessir、弓弦さん(笑)」

「貴志、ちょっと。」

「もう帰るんだけど、なに?」

「こっち来て。耳かして。」

「なに?」


貴志をそばまで寄せて耳打ちしようとしぐさを見せる弓弦。

貴志も素直に耳を貸そうと弓弦に近づいいた。









その瞬間、手で顔の向きを変えて軽くkissした弓弦。








「貴志、勘違いしないでよ?ありがとうのkiss。」

「これで俺、かなりがんばれるかも。」

「単純だなぁ。仕事がんばってね。」

「あぁ、行ってくるね。」







部屋に着た貴志は少し疲れてて元気がなさそうにしてたのが

帰り際の弓弦のkissでそれまでのことがなかったように

明るい笑顔で部屋を出て行った。本当に単純なやつだなぁと弓弦は

笑って見せた。

しばらくして、担当医が呼んでいると看護師が弓弦を迎えに来た。


「原田さん、迎えに来ました。結果数値が出て先生が呼んでいますよ。」

「んじゃ、車いすっと。」

「はい、もう慣れてしまいましたね。うまい具合にbedから移れるように。」

「でしょ?何度も自分でしないと退院したり外出したりすると

 慣れてないと大変になるし、周りに迷惑かけるから。」

「でもそれだけ動けると、外出は楽ですよ。きっと。」

「そう思う?でも、先生は感染症が怖いから

 そうそうには外出させたくないみたいに言われてた。」

「それは誰だって怖いから嫌ですよ?

 でも、それは気持ちの問題でしょう。原田さんはどうなの?」

「怖いけどそれだけきちんとマスクしたりうがいしたり

 基本的なことをしてれば大丈夫だとおもうけどな。」

「さぁ着きましたよ。先生、原田さん連れてきました。」

「こちらに。」


入ると担当医の大久保先生と、後二人の先生がいた。


「初めましてではないのですが、外科の大橋です。」

「婦人科の竹下です。」

「原田です。大久保先生?どうしたんですか?」

「3人で囲むとびっくりされてしまうな。でもこれから診察の後

 私たちの質問に答えていただくだけだよ。」

「簡単で単純な質問だけにしてくださいね(笑)」

「んじゃ、とりあえず怪我の診察から。そっちにあるのに着替えて。」

「はい。」

「はじめにCTスキャンするよ。そのあと上半身はレントゲン。

 おなかはエコーで検査だ。」




「息を吸ってそのまま。」




「じっとしてて。」




「はい、次はレントゲンね。そっちのレントゲン室に移動してください。」






そう言って検査が進む。前よりも、動いての痛みが少ない分

弓弦も気持ちが楽に受けられた。


「おなかのエコーもするんですか?怪我してもいないのに。」

「それは、こっちの婦人科の竹下と外科の大橋がな。」

「エコーで使うジェルが冷たいですが、我慢してくださいね。」

「それ辛いぃ」

「我慢我慢。」

「エコーの写真を撮りますね。そのまま動かないで。」





冷たい感触の上をエコーのスキャナが滑るようにおなかの傷跡をなぞる。

その感触が気持ち悪いようでもあるしくすぐったい。

我慢できずに少し動くと怒られまたエコーの写真を撮り直すために

またスキャナがおなかの上を移動する。




「先生くすぐったいですよ。もうだめです、笑っちゃう。」

「仕方がない、この写りのいいので説明しながら話を聞くこととしようかね。」

「なんでしょう。」

「まず先に、原田さん。回復が早い、多分外出しても

 感染症を起こさないように気を付けていただけるという約束ができるのであれば

 外出はある程度許可しましょう。」

「本当ですか?」

「ただし。骨折したところに負荷がかかるような行為は厳禁ですよ。」

「わかってますって、歩けないから車いすでの外出になると思うし

 一人では外出はさせてくれないでしょうし。」

「あなたの周りはあなたを大切にする人ばかりですものね。

 きっと無理をさせる人はいないでしょう。」

「記者会見後からの外出はOKとしましょう。」

「では、私からの質問です。答えたくないことは答えなくてもいいですよ。」

「でも話の上で話さなければいけないことが出てくるかも。」

「それは原田さんが話しても差し支えがなければ。」

「隠すことは何もないですが。」

「では、原田さんのこの子宮の手術はいつの意手術だったのかそこから。」

「少し前なのですが、高校2年の時に若気の至りと申しますか

 自分を相手を傷つけたことがありまして。」

「それはお話しできますか?」

「えぇ。終わったことですから。あたし妊娠しちゃったんです。

 相手からは産んで欲しいとと言われたけど

 産婦人科に行ったら大学病院に回されて詳しく検査しましょうと言われ

 検査したんです。すると、小さい赤ちゃんのすぐそばに

 子宮癌が見つかったんです。

 その時の先生の説明だと、左の卵巣が成長するときに子宮本体に

 くっつき食い込んだまま育ってしまって。

 そのくっついていた部分がポリープになり腫瘍になってしまってそれがその時の検査では

 stage1と判断されました。」

「まだ高校2年で妊娠はなぁ。でもその人はおろせと言わずに

 産んでくれと言ったんだろう?」

「えぇ、産んでくれと言われました。

 それは幸せなことだったと今でも思っています。」

「でもなぁ、やっぱりstage1の子宮癌としては、

 小さい赤ちゃんのそばにあるのはリスクあり過ぎだなぁ。」

「で、高校2年というあたしの命と赤ちゃんとだと

 あたしの命を優先するべきだという意見と

 母が生きてほしいと願ったから、手術をしました。

 その時に赤ちゃんはおろしてしまうという最悪な結果になってしまったけど

 その時の先生や看護師さんたちが言うんです。

 あなたが生きてくれさえすれば、この天国に行った命は

 またあなたのもとに帰ってくるかたらと慰められました。」

「あなたは幸せだ。」

「その時の先生が、将来あなたが愛しい人との子供が欲しいと思うときが

 絶対出てくるだろうと。その時のために最低限の分しか取り除いていないと。

 だから再発の危険はあるが、再発につながるものはすべて取った。

 そして赤ちゃんがまた舞い降りた時に子宮の筋力が耐えられるように

 温存する手術の仕方をしている。

 だから心配しなくても大丈夫だと言われました。

 それから毎年、がん検診だけは欠かさずしています。」

「そうだったのか。でも、それだけではないだろう?

 それだけだとこんなに大きな傷は残らない。」

「その手術のあと、いろいろありまして。」

「ありまして?」

「あたし、ここを刺されたんです。一文字に切り裂かれて。

 その時に子宮の筋肉が完全に切断された状態になったって

 執刀医の方が言われました。妊娠しても子宮が大きくならないかもと。

 それからピルを服用するようになりました。

 悲しいですが今あたしのおなかの中で赤ちゃんができても

 あたしのおなかはそれに耐えられない状態だと。」

 でもそれから何年経つ?」

「今25ですから9年経ちました。」

「原田さんはその9年間のうちにその子宮に負担がかかる手術とか病気はしましたか?」

「いえ、検診をかかさず受けてたし病気は何も。」

「原田さん、この事件がある前まではピルを服用していましたか?」

「えぇ、この事件の起こる前までは常用していました。」

「というと、ここに運ばれてきて今までピルは服用していないということですね?」

「えぇ。」

「原田さん、一度ピルの常用をやめましょう。

 この9年間癌検診受けて発病している兆しは確認できていないでしょう?

 ということは、あなたの体は健康に成長してきたという証拠だ。

 私たち医師は、この間からの検査できっと大丈夫という思いがある。」

「先生。本当に?あたし子供が産める?」

「たとえ、妊娠した後何が起ころうと、私たちは原田さんをバックアップすることができる。」

「だから原田さん、その時手術をした病院と先生を教えてほしい。」

「原田さん、その時はどちらにおられたのですか?」

「もちろん長崎ですよ?長崎市内。」

「その子宮癌の手術をしたのはどちらで?」

「その時は市内のクリニックから福岡の医大の方に紹介してもらって

 福岡の方で。確か、伊藤先生と言われてました。執刀医。」

「あぁ、福大の伊藤先生かぁ。さすがだなぁ。」

「伊藤先生の信用があるからこそ、そのクリニックの先生は

 伊藤先生執刀での手術で押したんだな。」

「原田君は、本当に幸せだ。伊藤さんの執刀なら再発はしないだろう。

 妊娠が可能なのか可能な成長をしたのか

 それは婦人科での診察と検査ではっきりしましょう。」

「刺されたときはどちらで?」

「長崎港メディカルセンターに担ぎ込まれたんですが警察が来たり通報とかで

 救急車も一応来てたんですね。その救急の連絡の中で

 たまたまその伊藤先生が長崎大学の方に来られてて

 伊藤先生の耳にも入り、長崎大学に回され手術が行われたんです。

 その刺された手術も伊藤先生が。」

「では、福岡大学の伊藤先生に連絡をとればその手術のカルテを

 見せてもらえるということか。」

「今伊藤教授は確かどこだっけ・・・・・・。」

「神戸大だっけな。すぐに連絡を取ってみよう。」

「伊藤先生は教授になってらっしゃるんですか?」

「あの腕ですよ?有名な方ですしね。あちこちで引っ張りだこですよ。」

「連絡を取られると伊藤先生に会えるんですか?」

「今回の事件だ伊藤教授の耳には届いていると思うよ。多分連絡を取ると、

 すぐに飛んでくるだろう。君の体を心配して。」

「先生。本当に伊藤先生に連絡入れるんですか?」

「あぁ。君の体にメスを入れて助けた先生だ。君も会いたいだろう?」

「もちろん。あれから、全然会えていないし、お礼も。

 こんなになってもまだ覚えてもらえているかなぁ。」

「癌の手術だけだと沢山手術をするだろうから覚えてはいないだろうけど、

 でも原田さんの場合は、偶然に偶然が重なって再び伊藤先生が執刀した。」

「原田さんのその事件は報道されなかったんですか?」

「あたしがまだ未成年だったってことと、相手があたしの彼だったってことで

 いろいろと白状させられましたが最後にあたしは警察の方からどうしましょうかと

 言われて・・・・・・事件にしますかどうしますかって。」

「一応あなたは被害者ですし拘留されているその人は加害者だしなぁ。」

「でも、その人はみんなから尊敬される教師でしたし

 部活でも信頼されている顧問でしたし、指導者でした。

 17歳のあたしを一人の人間として愛してくれた人だったし

 これからも、一緒に歩いて行く人だとそう信じていたので

 留置所から出てあたしが学校を卒業したら一緒に暮らすものと

 そう思っていたのに、学校は突然辞めるし連絡取れなくなるし

 結局あたし一人を置いてこの世からいなくなってしまわれました。

 そんな事件です。報道も何も知っている人は関係者だけだと思います。」

「でもそれでもその事件が起こりあなたが怪我をして

 救急の搬送の連絡に伊藤先生の耳が気が付いた。すごい偶然だよ。」

「市民病院で手術する準備をしてかかろうとする直前に連絡が入り

 伊藤先生が、自分の患者だと言ってそっちに向かうとまで言われたのですが

 大学病院まで運ぶ話になっったらしく、運ばれていったんです。

 気が付いたら、目の前に母と先生の顔が見えて泣いちゃいましたけど。

 お礼を言うどころか、良かったなぁ。と声をかけていただいた。

 2度もあたしは伊藤先生に助けられたんですよね。」

「だから、連絡をとればきっと飛んでくると思うよ?」

「あたしのカルテはそれぞれの病院ではなんですか?」

「すぐ取り寄せはできるさ。」

「良いかなぁ?君の許可と伊藤先生の力がなければ

 私たちはその素晴らしい手術の情報を見させてもらえない。

 私たちも見せていただきたくてね。」

「なんだかあたしも恥ずかしくなってきたけど。」

「原田君は、その後そのカルテが来て婦人科を受診していただく。

 きちんとした検査をしよう。癌検診は毎年受けているのだろうが

 一番近いところでいつだった?」

「いつも誕生日に受けているので3月です。」

「年明け早々検診だったのか。だったら、伊藤先生が来てからでも

 早いが検査しましょう。多分にあなたの体はすこぶる元気ですよ。」

「いや、大久保先生。カルテを見ないとわかりませんが

 伊藤先生ときちんと話をし検査しないと。期待を裏切ってはいけませんからね。」

「あたしは大丈夫です。

 あの時あたしの子宮は上下に二つに切り裂かれてしまったんですから。

 伊藤先生もこの分だと妊娠は無理だとそうおっしゃられてましたし

 自分でもそのことをきちんと説明していただいた上でくっついたとしても、

 普通に妊娠するための力はないものだとそう思っています。」

「真っ二つだったのか?」

「えぇ。そう聞きました。」

「まぁ、カルテと伊藤先生と検査待ちだ。」

「あの先生。」

「なんだ?」

「この話はあの人にはしないでください。期待させても可哀想だし。

 あたしは向き合っている人には、子供は望めないときちんと話をしていますから。」

「そうだなぁ。ぬか喜びさせてもかわいそうだしな。」

「検査の事も、このここで話しているすべてあの人には。

 お願いします、先生。もしいい報告ができるのであれば自分から話をしますから。」

「わかった、そうしよう。」

「今日の結果は記者会見後の外出は認めるということ。

 それが検査の結果だな、うれしいでしょう?」

「えぇ。外の空気を早く吸いたい。約束もたくさんさせられちゃったし

 迷惑かけた人たちにも頭を下げに行かなければいけないし事務所にもお店にも。」

「大変ですね(笑)」

「でも、外の空気は吸えるのなら大変さなんて気にならないですよ。」

「さぁ、原田さん、病室に戻りましょうか?」

「ですね。何か連絡があったら困りますし、記者会見の事

 もしかしたら連絡が入っているかも。」

「では、伊藤先生とカルテの件。原田さんの個人的な情報ですが

 寄せてみても大丈夫ですね?」

「はい、遠慮なく。何かわからないことがあったら呼んで下さい。」

「看護婦さん、部屋までは一人で行けますから。」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫ですって。しっかりと全部がリハビリですよ(笑)」


先生たちも笑いながら診察室から弓弦を見送った。

そのあと処方している薬の事とかを話ししながら、伊藤教授への連絡を

つなぐために連絡先を探し始めた。一方部屋に戻るとドアが開いている。

その開いている隙間から楽しそうに話声が聞こえてくるのだけど・・・・

と自分の部屋を覗いてみた。


「俊哉っ!」

「弓弦さーーーーーーーんっ!」

「お前騒がしいなぁ、外まで聞こえてたぞ?」

「弓弦さんこそ。どうして部屋にいなかったの?」

「お前、明日だろ?来るって言ってたの明日だったじゃないか?」

「明日って思ったけど、朝起きたら会いたくてさ。来ちゃった(照)」

「お前さぁ・・・・いっつもびっくりさせるなぁ。

 看護師さんごめんねぇ、こんな奴の相手させて。」

「いいえぇ、楽しいお話でしたよ。では、失礼しますね。」

「俊哉さぁ・・・・・お前もうびっくり。」

「だって、だって・・・・・弓弦さんに会いたかったんだもん。」

「甘えん坊だなぁ。そんなんだからいつまでたってもお子ちゃま扱いなんだ。」

「わかってるけどさ、でも本当に弓弦さんに会いたかったんだ。」

「俊哉落ち着けよ。で、今日は?」

「今日はって、貴志先輩は?」

「貴志ならもう帰ったけど?」

「良かったぁ。貴志先輩、僕が弓弦さんのことを話ししてただけで睨むんだもん。」

「おいおい先輩に向かって(笑)」

「貴志先輩はさ、弓弦先輩に近づこうとすると必ず邪魔するんだもん。」

「違うけど違わないかも?どっちだか。(笑)」

「でね、弓弦先輩。」

「なに?」

「コンテスト、聞いた?」

「さっき貴志が来た時に誠さんと貴志とあたしと峻と俊哉で出させるとか。」

「誠先輩と貴志先輩がスタンダード。弓弦先輩と俺がオリジナルフレッシュで。

 峻先輩は・・・・・・なんだっけ(汗」

「スタンダードじゃないのか?」

「多分。そうだったかも、わかんないや(笑」

「お前はいつもそうなんだよなぁ。」

「そう言わないでよ。でね、それまでには弓弦先輩と出ても恥ずかしくないように

 きちんと基礎から教えてもらって来いって、オーナーが。」

「退院はまだまだ先だけど、コンテストはいつなの?」

「来年の10月だよ。」

「あたしね、多分そのコンテストは辞退すると思うけど?」

「なんで?なんでなの?」

「秋山さんとの仕事が入る。何の仕事かわからないけど

 一緒に仕事をする予定なんだ。」

「弓弦先輩とうとうタレント稼業始まっちゃうんだ。」

「忙しくなるんだろうなぁ。」

「なんだか弓弦先輩が遠くに行ってしまうなぁ。」

「でも、するとしたら前の通り西村さんの仕事だけさ。

 でないとバーテンダーを辞めなければならなくなる。」

「弓弦先輩が辞めると、店の大半が辞めてしまうよぉ。」

「お前も辞めるのか?」

「多分。で、弓弦さんの仕事先を追って就職する(笑)」

「俊哉だとタレント稼業でも大丈夫じゃない?

 俊哉可愛いもん、これからだといい男に成長しそうだし。」

「いっそのこと弓弦先輩とユニットで出たら売れるかなぁ?」

「それもいいなぁ。て言うかそれすると多分槙村さんや

 圭一郎さんが混じってくるぞ(笑)

 そういう話好きそうだもんなぁ。」

「ねぇねぇ、弓弦先輩。聞きたいんだけどさ。」

「何を?」

「本当に結婚するの?」

「それ誰から聞いたんだ?」

「誠先輩と貴志先輩が話しててさ、たまたま聞こえちゃって。」

「結婚は随分と先の話だぞ?ただもうあたしも25だし

 オーナーがさ、あたしの復帰後の制服はタイトスカートにするそうよ。

 貴志がサイズを確認していった(笑)」

「俺もそう思うよ?せっかくの美人なんだしそれを押し殺すような

 スタイルってすごくもったいない。

 この間だってさ、あんなにきれいな髪をバッサリ切っちゃったでしょう?

 もったいないなぁって、俺弓弦さんの腰まで伸びた髪を

 束ねてない姿大好きだったのに。」

「あれはねぇ、ちょっと暑かったしずっと長いまんまだったから

 髪自体傷んでたしな。また伸ばすよ、きれいにね。」

「弓弦先輩は何でもに会うけど、短い髪はmartinの翔太さんに

 似てしまうから、やっぱり長い方がいい。」

「でもそれを狙って切ったんだしなぁ。チャリティー前だったし。

 本当に心配かけてごめんな、俊哉。」

「だから無事に帰ってきたんだからいいんだって。」

「でもさ、チャリティーは中止だった。

 一生懸命練習もしたのに。あれはどうしたらいいんだ?」

「弓弦先輩は足の骨折もあるからリハビリまで入れると

 かなり動けるまで時間かかるでしょう?」

「どうだろうかなぁ。複雑な骨折じゃないし、腱が切れている訳じゃない。

 きちんと骨がつながればいいんだけどね。」

「来年に向けて練習しようよ、来年のチャリティーでやろうよ。

 沖縄まで行って完璧に練習して仕上げたのいがもったいない。

 5人で来年、頑張ろうよ。」

「そうだなぁ。できるといいな。」

「俺また弓弦先輩と練習したい。ずっと一緒に居たいよ。」

「そんなにかわいい顔をしたら嫌とは言えないだろ?」

「言わせませんって。でも弓弦先輩のその笑顔西村さんの物なんだよね。」

「俊哉?だから結婚するのはまだまだ先の話。

 たまたまあたしのお爺ちゃんがお見舞いに来ててその時に

 西村さんが嫁にくださいって言っただけ。

 まぁ、反対はされなかったけどきちんと順を踏んで婚約だけはとさ。

 退院したらきちんと挨拶に行く約束もしたし。」

「やっぱり弓弦先輩はみんなの弓弦先輩じゃなくって

 西村さんの所の弓弦先輩になってしまうんじゃないですか。

 誰かの物になってしまった弓弦先輩じゃ、悲しいな。」

「あたしはあたしよ?西村さんだって仕事に関しては何も言わない。

 あたしの天性の仕事だからとバーテンダーの仕事を続けることは反対していない。

 むしろそれを誇りに思うって言ってる。だから辞めない。

 みんなで一緒にあそこで働くんだ。それは変わらないことだよ。」

「本当に?本当なの?」

「本当だって。たださ、川上社長とマネージメント契約をしたし

 山本社長の所の会社とも契約をしたから、

 仕事が入ってくればそっちもしなければいけなくなる。

 するとブースに立つ時間は今よりも少なくなってくるだろうなぁ。

 これまでの西村さんとの仕事もあるから、早々単独の仕事はないだろうけど。

 バーテンダーの仕事ができなくなるぐらいならタレントとしてのこの契約は

 なかったことにしてもらうつもりだけどさ。」

「両立できるところだけでいいんじゃない?

 無理しない程度で。俺らはあそこでずっと弓弦先輩を待てるし。」

「俊哉だけには言っていくよ。

 あたし秋山さんとの仕事TVの仕事なら断ろうと思うんだ。

 歌を歌うとかアルバムを手伝うとか、モデルの仕事とかいろいろあるんだろうけど

 単独ですぐ終わる仕事はするけど時間をかけて出る仕事はすべて断るつもり。

 久原氏の書き下ろしがあるんだけれどさ、

 あたしがいい返事をしなければお蔵入りとか

 そういう卑怯な手立てで攻めてくるのは断る。

 今回は久原氏のだから断らないけどね。そのほかは断る。

 西村さんのアルバムを手伝うのか今までどおりでもきちんとできる仕事だし。」

「弓弦先輩の意志が一番なんだから、無理はしないでよ。

 すぐ無理するから俺心配しちゃうよ。」

「俊哉は心配性なのか?(笑)」

「違うけどさ。でもなぁ、でも、今日は顔を見れて安心した。

 今日の仕事も頑張れそう。明日の休み、何かゲームでももってこようか?」

「俊哉さ、彼女いないのか?彼女いるなら彼女の相手しなきゃ

 捨てられちゃうぞ?」

「ほぇ?俺に彼女なんていないですよ?」

「誰からか聞いたんだけどなぁ。本当にいないのか?」

「いないんですって。て言うか、弓弦先輩以上の人が現れたら

 考えますって。すべてで一番は弓弦先輩だけですから。」

「おいおい、それって告白?」

「て言うか、俺は弓弦先輩一筋ですよ?でも弓弦先輩には

 西村さんや誠先輩貴志先輩健先輩とかみんないますし

 俺は話しかけてくれるそれだけで幸せですから。」

「俊哉はおとなしいな。槙村さんは何が何でもあたしを手に入れようとしたし

 圭一郎さんはがっつり肉食系。あたしに正面から向かってくるしさ。

 貴志はすっかり俺のもん気分だった(笑)

 それを面白おかしく想像してみているのが西村さん。

 もし、西村さんと結婚しないとなった時のことを想像すると

 面白いんだろうけどな。万が一その時は俊哉も参戦する?」

「もちろん。もっともっとかわいい俊哉って言われないぐらいに

 男前になって参戦しますって。」

「そかそか、でもそういう意気込みは何にでも必要だから。

 俊哉ももう21だろ?いい男なんだからな(笑)」

「そろそろ買い出しもあるから行きますね。

 明日も来ますから、何か持ってきてほしいものがあれば

 なんでもいってください、持ってきます。」

「わかった、あったらメール入れるよ。」

「んじゃ、弓弦先輩。また明日ね。」 

「そうそう、俊哉。ちょっと待って。」

「なに?先輩。」

「これ持って行ってよ。」

「福砂屋のカステラじゃないですかっ。先輩食べないの?」

「もらったんだけどさ、2つあるんだ。

 2つも食べれないし、1つはこれから開けるけど

 もう一つは俊哉がお店にもっていって早いもん勝ちで分けて食べて。

 もし俊哉が食べれなくても明日あたしと一緒に食べれるから気にするなよ?」

「いいの?先輩。オーナーにもらったって伝えたらみんなで分けるよ。」

「そうして。そうだ、もしあたっらでいいから、

 お抹茶のラテの缶があるだろ?病院内の自販機には入ってないんだ。

 そのお抹茶のラテ明日一つだけお願いしていい?」

「お抹茶ラテね?そうかぁ、カステラにはぴったりだもんね。

 わかった!忘れずに買ってくる。んじゃ、行くね先輩。」

「あぁ、行ってらっしゃい。今日も一日粗相のないように(笑)」

「はぁい」


一瞬でにぎやかで楽しい空間になったかと思えば、一瞬で静かになった弓弦の病室。

また一人の時間になった。PCの電源を入れメールのチェックを始めた。

事務所からのmailが来ている。


 `原田弓弦さんへ

  かなり怪我も良くなったみたいだな。川上です。

  記者会見の事と、正式に君のマネージャーが決まったのでメールをしたところだ。

  一応記者会見は、その君が入院している病院の道向かいにある

  記者クラブの建物の1階で行う。

  私と西村君、そして君。新しく決まった君のマネージャーとうちの会社ではその面々。

  山本さんのM'scompanyさんからは、山本さんと橋本翔太さん。あと警察の方が2名。

  そして`mask´の社長・小林さんも。君の祖父、原田一郎さんも出席するということだ。

  かなり記者が集まりごった返すが、原田君は被害者だ。堂々と座っていればいい。

  事件の記者会見ではその人数で受けるが、西村君と原田君の婚約発表だ。

  始めに君の祖父が話をするが、原田君は黙ってていい。君のことを話すらしい。

  西村君からきちんと結婚の申し込みを受け整ったとの発表だ。

  結婚式もまだ先だし、席を入れるのもかなり先の話だけど、

  きちんと順を追って結婚するということを西村の口からも話をするそうだ。

  原田君、君は幸せだよなぁ。君の祖父の原田一郎さんも

  先日西村君を訪ねてうちに来られ、私にも挨拶をしていかれた。

  いい家族がいて本当に幸せだよ、君は。

  だから西村君も日本のしきたりというか、今では珍しい

  きちんと順を踏んで結婚したいというんだな。

  これは日本中が君たちを祝福してくれるよ。安心して記者会見に臨めばいい。

  そして君のマネージャーだが、西村君についている山田と同期のやつで

  渡辺というのがいる。渡辺はしっかりとした堅実な人間だ。

  山田と違って、しっかりと落ち着いた態度で仕事をこなすやつで

  西村君からの信用も厚い。山田の前にこの渡辺が西村君のマネージャーをしていたんでな。

  記者会見の前に、一度そっちに行くからその時に連れて行く。

  その時にはまた連絡を入れるから。では。´


西村さんのマネージャーをしてた人ならあたしも知ってるよなぁと少し考えていた。

でもそういう人なら安心して自分の仕事を任せられるのだろうなと思った。

でも、自分の考えていることもしっかりと伝えないと困るなと。

マネージメント契約も読み直しておかなければいけないなぁ。

社長からも何も聞いていないし、少し不安になってきた弓弦。

次こられる時っていつだろう、きちんと話を聞かないといけないなと思った。

するとまたメールが読み進まないうちに来たのがあった。

川上社長からだ。


 `追伸

  事件の進展があったそうだよ。詳しいことはあとで話すが

  君の所の小林社長が、解決の糸口を持ってたらしい。

  小林社長がいたからこそ、みんなが助かったみたいだな。

  詳しいことは、メールでは話せない複雑さだから後で。

  警察に事情聴取に連れて行かれたらしいが悪いことで

  連れて行かれたのではないからな。すぐに署から出てきたらしい。

  君の所の社長はどれだけ顔の広い人なんだ。

  小林社長のもとで働いている君は幸せだよ。では。´


何だろうなぁ、うちのオーナーはお父さんが特殊だからなのかもと弓弦はそう思った。

社長も記者会見の時には来るだろうからちょっと聞いてみよっと。あ、ひかりのメール。

早く返信しないと。



 `ひかりへ

  怪我は大丈夫だよ。擦り傷もかなり治って来たし瘡蓋も剥げてきたし、

  赤みも取れはじめたよ。縫ったところも、良好だし。聞いて、ひかり。

  記者会見があるんだけどさ、その記者会見が終わったら外出を許可してくれるって。

  まださ、足の骨折したところもくっついてないし鎖骨も肩甲骨も大丈夫じゃないけど。

  でもね。でも、あたし自身がきちんと気をつけたら大丈夫だろうからって。

  ひかり。ひかりにはたくさんたくさん心配かけちゃったね。

  本当にごめんね、ひかりには何度謝っても済むことじゃない。

  外出許可が下りたら一番にひかりに会いに行くよ。ひかりと伯母ぁと伯父ぃ。

  大切なあたしの家族。その家族に心配をかけてしまった。本当に、ごめんね。


  記者会見は次の金曜日になるそうだよ。


  だから土曜は休みで家にいるだろう?土曜日に行く。家に帰ってくるよ。

  もちろん西村さんも一緒だと思う。西村さんはいないほうがいい?

  何か話があるんだろ?何?あたしでひかりの元気?勇気?

  そういうのになれるのかな?あたしでいいの?

  とりあえず、ひかりに会いに行けると思うとすごくうれしい。

  家に帰れるのがうれしい。みんなに会えるのが本当にうれしい。

  待ってて、ひかり。会いに行くから、待っててね。´


 `渉さん

  携帯のメールだと受信難しいだろうから手短にごめんね。

  渉さんにも多大に心配をかけてすみません。

  でも、心配してくれてありがとう。そしてごめんなさい。

  自分の気持ちがわかってなかったわけじゃなかったんだ。

  ただ、あたしの中では西村さん以外に誰も考えられてなかったんだ。

  なのに、優柔不断ではっきりと気持ちを伝えきれなかった。

  渉さんに抱かれても、やっぱり。

  ごめんなさい、本当にごめんなさい。渉さんの気持ちには答えきれない。

  あたしは西村さんの所へ嫁ぎます。

  来週記者会見があるんだけど、その時に事件のあらかたの事

  発表されるし、きっとあたしの事でいろいろと聞かれる。

  そんな中、西村さんの口から婚約の話をすると言われた。

  公の場で西村さんとあたしの婚約を発表されてしまうから

  きっと二人で出は出かけることはできないと。

  それに、しばらくすると怪我の具合によっては退院も

  早くできそう。事務所には、週明けにでも顔を出します。

  本当に心配かけてごめんなさい。´


 `渉さん:追伸

  二人では出かけることは難しいかも。

  たとえ出かけたとしても、きっと渉さんはあたしの気持ちを

  揺るがそうとするから出かけることは難しいかも。

  退院したら秋山さんとの仕事が入るらしいし、久原護氏の映画の話がある。

  仕事が満載ですよ。でもそれ以外の仕事はしない。

  バーテンダーの仕事ができなくなるから。

  秋山さんの仕事の話も、長期間になる仕事だったら断るつもりなんだけどね。

  ごめんね。渉さん。あたしの中では良き理解者としか思えない。

  本当にごめんね。本当に。´


 `久原様

  長くご心配かけさせてすみません。あたしの怪我もそうひどいものはなく

  あとは骨折した箇所との戦いだけです。

  それぐらいできちんとくっついて完全に治るのかかが

  いまいちわからないのですが、記者会見の後からは

  外出していいとの許可が出ましたからそれなりに早い回復かと。

  そして映画のお話ですね。

  

  久原様。卑怯ですよ?(笑)

  何度もあたしなんかを久原氏の小説に出させていただいていることは

  うれしいし全然かまわないのですが映画なのでしょう?

  ちょっと恥ずかしいのですけど(笑)

  でも、こんなにあたしのことを心配してくれる久原氏の事です。

  その映画だけ、お受けするつもりでいます。

  久原氏のためだけ一度だけ。でも、次はだめですよ?

  これ以上忙しくなってしまったらバーテンダーの仕事が

  できなくなってしまう。それは一番困るんです。

  だから、この映画一つだけでお願いします。

  その代り決して久原氏が恥ずかしいと思うような出来上がりには

  決してならないように、命を懸けて演じます。


  記者会見が少し気になるところですが

  久原氏が`mask’に来店される日を狙って、私も外出して

  お店によります。その時まで。´


 `愛しの亜紀ちゃん

  元気だよ、めっさ元気。怪我したけどそれはそれ。全然大丈夫だからね。

  でも今回はみんなにも心配かけさせちゃった、ごめんね。

  笹原先生もハラハラしてたんでしょう?でも無事に帰って来ました。

  みんなに伝えて、あたしは大丈夫だって。

  来週記者会見があればもっと驚くだろうけどあたしはあたし。

  何にも変わらないんだからね。それよりも何よりも、亜紀ちゃん。おめでとうなの?

  決まりそうじゃなくってそれ絶対決まるって。亜紀ちゃんおめでとう。

  詳しいことはまたあとででいいね。亜紀ちゃんの部屋を、準備しなきゃね。

  あたしが使っていた部屋をきちんと亜紀ちゃんが使えるように準備するよ。

  

  亜紀ちゃん。心配してくれてありがとう。

  みんなにもよろしく伝えておいて、あたしは元気だよって。´


 `圭一郎さん

  きっぱりお断りしますよ?

  圭一郎さんとデートしたら無事には帰れないとわかっていますもの。

  でもありがとう、明るい心遣い嬉しいです。心配かけましたが、あたしは大丈夫。

  来週記者会見があるので、きっとびっくりするんだろうなぁ。

  そんな内容の記者会見になるらしいですよ。


  圭一郎さん。

  優しい心遣いありがとう。本当はその心がうれしいです。

  だけど、絶対デートは無理。そう言っても聞かないんだろうなぁ。

  記者会見が終わったあたりから外出許可が取れます。

  ランチぐらいならお付き合いしますよ。んじゃ。´


 `元原君。

  気にしないで。来てくれたことが一番うれしかった。

  みんなの顔を見れたそれだけで、嬉しくって。来週記者会見なのね。

  で、そのあと外出許可が取れるんだけどすぐに、

  ひかりの家に行くしその次の日は事務所へで、その次の日はお店へ。

  だから少し一人になる時間ってないかもしれないけど

  かえってリーダーが時間のある日を教えてくれるといつって決められるかも。

  面会時間ぎりぎりが一番いいかもね。連絡を待っています。´


 `秋山さん

  心配させてすみません。そしてありがとうございます。

  仕事の話は少し条件があるのですが、秋山さんが

  あたしと仕事をしたいって言ってくれるなんて本当に光栄です。

  うれしいのですが、少しやはり気になることがあって。

  記者会見の前に一度会いませんか?

  都合のいい日を教えていただけたら、また連絡を入れます。

  秋山さん。あなたと出会えてうれしいですよ。

  仕事をするパートナーとしてはいい仕事をさせてくれると聞きました。

  でもあたしの本業はバーテンダーです。

  その仕事に支障をきたす仕事は、お断りするつもりです。

  いろいろとご迷惑ばかりかけているのにわがままを言ってすみません。´


 `翔太君

  携帯のメールでは返事が無理なのでPCのアドレスもっていませんか?

  もし持っているのであればそのアドレスを教えてもらいたいんですけど。´


 `健。

  退院はまだ。怪我もまだしっかりとは治ってないし。

  来週記者会見でびっくりするだろうけど、絶対そこに戻るから。

  きちんとあたしの場所をお願いするよ。

  記者会見が終わったら外出も許可を出してくれるらしい。

  だから、チェックしにいくさ。待ってな。´


 `明海ちゃん。

  心配してくれてありがとう。かなり怪我も良くなってきたよ。

  旦那さんとはうまくいってるみたいね。幸せそうでよかった。

  結婚式は終わったころかしら。

  次は明海ちゃんが驚く番よ。来週記者会見があるから

  明海ちゃんの次はあたしだからね。びっくりしないでよ。

  外出できるようになったらまた連絡入れるね。´


あ。西村さんからのメール。今は何時だっけ・・・・・。

まだ仕事中だろうなぁ。そう思うと携帯が気になり始めてどうしようもない弓弦。

忙しかった一日貴志から始まり3人の先生との診察。

部屋に帰ると俊哉がいて、メールを返信するだけでも大変な量になっている。

そんな忙しく思えた一日の最後に気づいたのは西村からのメールに返信をしてなかったこと。

もうすぐ夕飯の時間だしと、続きはあとでのPCを片付けた。

「原田さん、お食事ですよ。」

「峰さん。こんばんわぁ、いつもありがとうございます。」

「なんの、今日はご機嫌みたいだねぇ。」 

「そう見える?さっきまでメールば返しまくっててつかれた。

 おばちゃんは今日は夕勤やったと?」

「やね。片づけまで終わって22時上がりやったかな。」

「きつかねぇ。でも、おばちゃんよう頑張るよねぇ。

 おばちゃんの手ば煩わせんごと、きちんと食べんばね。」

「原田さんも、かなり器用に箸ば使うごとなったねぇ。

 ちゃんとリハビリになっとるとたい。

 そこまで動けるごとなってよかったねぇ。」

「早く何でもできるごとならんばね。今日も一日ありがとう。いただきます。」

「おかわりいるならあるけんね。看護師さんに言うてね。

 すぐ山盛りにしてやるけん(笑)」

「はぁい。」


炊き立てのご飯。炊き込みご飯にしてある。

ご飯のおこげが何気にたくさんあるような・・・・・・。

具だくさんのお味噌汁に、厚焼き玉子。いろんなものが詰められた

少し量が多めの食事。自分だけがなんでこんなに多いのかが最近気になるようになっていた。

弓弦の身長に対し体重の軽いことも担当医はどうにかしないとと。

どうにか退院するまでに少しは標準な体形になってもらわないとと

栄養士に相談をしているみたいだった。

一人部屋だしなかなかほかの人の食事は見ないから気づきはしないだろうと

こっそりと担当医が指示を出していたのだ。

今日の夕飯の多さも、少しきつく感じていたのか

弓弦はカステラが食べれないことを気にしてる。

運んできてくれた峰さんがせっかくくれたのに、手も付けずに

おいているところを見られては申し訳ない気がして。


「原田さーん。食べ終わってますか?」


そう言って峰さんが声をかけてきた。


「はぁい。どうぞぉ。」


ドア越しに返事をすると峰さんがドアを開けて顔を出した。


「おばちゃん。」

「なんだぃ?」

「なんかさぁ、あたしのご飯多くない?」

「そうかねぇ、まぁ人それぞれ栄養士の人が調整しているからねぇ。

 原田さんのは、さかなや海藻類も多いだろ?

 骨折という怪我だからねぇ。きちんとその人それぞれの

 身長体重年齢や病気怪我に合わせてきちんと考えてあるものだから

 きっと、原田さんのは原田さんに合わせてあるけん気にせんでもいいと思うよ?」

「そうなのかなぁ。これだとあたし太っちゃう気がしてさ。」

「ん?原田さんは少しやせすぎなんじゃない?おばちゃんにしたら

 すごーくうらやましい体系やけど。」

「あたし太れないんだよねぇ。どんなに食べても太らないんだ。

 最近は少ししか食べれなかったからそれになれちゃってるんやけど

 普段はすごいんよ。普通にマックのエビフィレオなんてセットで3つはいくもん。」

「そりゃ食べるなぁ。でも一番はきちんと平均的に何でも食べるんが一番やで?」

「そうなんやけどさ、でもこの病院の病院食は美味しいけんねぇ。」

「先生の思惑に乗せられて、子豚ちゃんになっちゃうかもね(笑)」

「そんなこと言うと不安になってしまうやん。」

「でもちゃんと食べんばね。じゃぁ、また今度なぁ。」

「おばちゃんありがとう、お疲れ様っ!」


峰さんが食器を持っていき片づけて行った後、また部屋に一人になった。

静かで弓弦がメールを返信しているPCのキーの音しか響いていない。

TVを見ない弓弦にしたら部屋にあるTVは箱でしかないのかもしれない。

西村が一緒に入院していた時は少なからずともTVが付いてて

それから聞こえる話題で盛り上がったものだけれど、それも一人になると

ありえない時間になってしまっていた。

19時をまわりまたPCでいろんなものをcheckし始めた。

すると病室のドアを`コンコン’とノックする音。


「はい、誰?」

「俺です。」


そう言ってドアを開け顔をのぞかせたのは翔太だった。


「こんばんわ、弓弦さん」

「翔太君仕事は?」

「さっき終わって帰ってきたんです。」

「一人で?」

「弓弦さんに会いたくて。」

「どうしたの。いつもの翔太君じゃないじゃない。」

「ちょっとね。」

「どうかしたの?なんだか・・・・・。」

「あのさ、弓弦さん。」

「とりあえずこっちにきなよ、そこに椅子があるから。」

「うん。」

「人に聞かれたくない話?」

「そうじゃないんだけどさ。」

「んじゃなに?何かあったの?」

「いやさ・・・・・・・・・・・本当に西村さんと結婚するの?」

「なんで?」

「弓弦さんと知り合ってそんなに西村さんのように深くはないけど

 仲良くなれて、これから先弓弦さんを知っていくというのに

 弓弦さんが西村さんと一緒になるとそう知ったら、俺・・・・・俺・・・。」

「翔太君。多分ね、あたし言葉も汚いし男みたいな態度だし

 仕事をしている間は対等に自分のことを男として扱ってた。

 自分を男だってね。でも、彼にはきちんと原田弓弦に見えていたらしい。」

「俺だってそうです。社長が呼び出したときなんで俺らが受付嬢のひかりさんと

 その友人の人と一緒にって思った。連絡があった時にさ、

 槙村先輩のことで世話になったから食事に行くけど

 君らも仕事が終わったら来ないかって言われたとき

 正直あんまり気が進まなかったんだ。」

「あれはねぇ。あたしも、まさか単純に槙村さんのことに対しての

 気持ちの食事だとしか思ってなかったし、

 社長が君たちを呼んだのは少しびっくりしたんだけどね。」

「でもさ、部屋に通されて正面を見ると自分がいてびっくりして。」

「まぁね。こうやって翔太君と面と向かってても

 自分と自問自答しているみたいだもんね。」

「はじめは少し不思議な感触だったけど、あの食事の時にいろいろと話ができて

 なんだかうれしくて。考え方も似ているし初めて会った気がしなくなっていったんだ。」

「こんなに似ている人間がいるなんて、それもよりによってこんな近くにって

 そう思ったんでしょう?」

「あぁ。それも俺さもうすぐ29なんだよね。弓弦さんは今度の誕生日で・・・・。」

「25だよ。来年の3月で26。」

「俺の方が年下なのに、弓弦さんの方が年が上に見えるし…なんで?」

「なんでだろうね。沖縄でさ、槙村さんと翔太君が看病してくれたよね。

 あれ、うれしかったんだ。 本当に、うれしかった。」

「あの時さ、俺は槙村先輩に負けたくないって思った。

 弓弦さんの横顔を見ていると、双子みたいに似ているだけなんじゃなくって

 きちんと弓弦さんって思ってしまったんだと思う。

 だからこの間西村さんがいて結婚するって聞いても

 二人で長崎まで出かけたいって言ったんだ。」

「ありがとう。そこまでこんなあたしを思ってくれるのは

 素直にうれしい。翔太君だから。」

「本当に結婚するの?西村さんと。」

「えぇ、本当の事よ。」

「なぜ?」

「翔太君にはあたしがどう映っているかわからないけど

 あたしはそこまで思われる人じゃないよ?」

「俺はそうは思わない。弓弦さんが一番俺のそばにいてほしい人なんだ。」

「西村さんとはね、あたしがこっちに大学入学で出てきたときから

 付き合いがあって、OB会っていうのがあってそれで知り合った。

 あたし自身はそんな有名な人とは知らず、普通にしゃべってたんだけど

 幾日かして、友人と一緒に来たと指名を受けて案内をするため入口に行ったとき

 本当に有名な人と一緒だったらこの人何者って思っちゃった。

 何度も何度もお店に通っていただいているうちに

 西村さんのスタッフが一人辞めちゃって手が足りないとか話してたのを

 カウンターで聞こえてて、不意にあたしに楽器できたよねって話を振ってきたのよ。」

「共通の話しができるっていい事ですよね。」

「えぇ。で、それから手伝っているうちにいつも呼び出されたりして。

 で、あたしもバイク転がすでしょ?

 西村さんもだし、ツーリングも一緒に行くようになった。

 そうこうしているうちに、いつも一緒でしょう。

 お互いに考えていることとか感じていることが似てきたし

 いつの間にか、一緒に居て当たり前の空間ができてなんだろうなぁ。

 いつのころからか、あたしもさ西村さんがいないと不安になるようになったし

 あの強引な会話がないとさみしい気がしてきててさ

 自分でも信じたくはなかったけど、西村さんがかけがえのない人と

 そう思えるようになってさ。自分でもびっくりしたのは

 槙村さんが口説きにかかるようになったぐらいから

 この世の終わりを迎えるとき一緒に居るのは西村さんだけ

 そう思うようになった。初めは西村さんが言い継つけてた事なんだけどね。」

「西村さんはいつから?」

「どれぐらい前だか覚えてないけど、翔太君たちと知り合うずっと前から

 いつだったか西村さんのアルバムのレコーディングで遅くなった時、帰る電車もなくなって

 そうしようかなぁって思ってたら、みんな帰ってしまって二人っきりになったんだ。

 今考えたらその時はめられたんだなって思うけどさ。

 レコーディングは終わって控室に行くとみんないなくて後ろに西村さんだろ?

 振り向いたらすぐそばにさ顔があってドキドキしちゃった。

 普通の女の子ならつれちゃうんだろうね。」

「西村さんそれって計画的?(笑)」

「かもしれないね。でさ、振り向くといるでしょう。どうしようもなくってさ。」

「で?」

「すごく近い場所で、西村さんが言うのさ。

 `原田さん、真面目に聞いていい?好きな人いる?´って。

 嘘ついてもしょうがないから`いないですよ´って言ったらさ

 真面目な顔して言うんだ。

 `弓弦って呼んでいい?´っていうと、抱きしめられた。」

「びっくりするよね突然抱きしめられるとさ。」

「うん、びっくりした顔をしていると言うんだ。

 `弓弦を誰にも渡したくない。俺は弓弦を愛している´って

 言ってなかなか離れてくれなくってさ困った。

 その時は困った人だなぁとしか思ってなかったんだけど

 でもね、一つ一つあたしを大切に扱うんだ。」

「そうなんだ。」

「煙草をやめろとか、言葉遣いが悪いとか(笑)女なんだから、少しはってね。」

「それはみんな思ってる事じゃん。弓弦さん俺に似てても

 すごくきれいなんだし、誰が見てもいい人にしか見えないもんな。」

「でね、それからは何度も何度も愛してるって二人になると

 必ずそう言って抱きしめられてた。何度も何度も。

 ある時ね、あたしの誕生日の日にね西村さんが自分の部屋に

 招待してくれた時があってさ、そこでプロポーズされた。」

「一度目のプロポーズ?」

「そう。その時はまだ大学生だったし、バーテンダーの仕事も

 のってきてて単独ではなかったけどカウンター内に

 立てるようになってきた頃だったかな。

 だから、そのころからはずっと断ってきたんだ。」

「でも、弓弦さんはこの世の終わりの時は西村さんと一緒だって

 そう気持ちは決まっているって話をしてたじゃない?」

「そう思えるようになったのはさ、いつだったかなぁ・・・・・。

 プロポーズされた誕生日の後、あたし風邪をこじらせてお店で倒れたんだ。

 ちょうどその時西村さんがあたし指名でブースにいて

 その目の前で倒れちゃったんだ。誠さんや貴志が駆け寄ってきたんだけど

 すぐに西村さんがカウンターに入ってきてあたしを抱き起してあたしの家に運んだんだ。

 タクシー呼んで自宅まで。タクシーにはあたしだけを乗せて、

 あたしのバイクと荷物を西村さんが。その頃はひかりの家に居候してたんだけど

 伯母ぁも伯父ぃもひかりも驚いてさ、荷物を運んでもらって

 タクシーから抱き上げて部屋まで運んでくれて。

 その晩ずっと起きて看病して次の日も自分は自由だからって

 一日中そばにいてくれた。そしてその夜も次の日も。

 自分がレコーディングで無理させてしまったからって。

 あたしの熱が下がって動けるようになった4日目まで一緒に居たんだ。

 そんなに一生懸命思われて好きにならないはずがないだろう?」

「そうだなぁ。俺でも自分の一番大切な人がそうなったら

 大丈夫になるまでそばにいるかもな。」

「あんなに一生懸命に愛していると言わんばかりにそばにいられたら

 誰だって、この人になら自分をまかせてもと考えるさ。

 まぁ、それ以外でもいろいろとあったけどね。

 今ではあたしの方が西村さんの顔を見ないと声を聴かないと

 落ち着かなくなってしまっちゃったけど。」

「もう割り込める隙間もないんだ。」

「チャンスがあるとしたら、西村さんが浮気したらかな。(笑)」

「そこまで一生懸命な西村さんが浮気はしないでしょう。

 したらもう西村さんに弓弦さんは渡しませんって。」

「あら。渡しませんって言い方。すでに自分の物みたいな言い方ね?(笑)」

「だって、仕事仲間の人たちだって同じでしょう?

 俺だって同じです。槙村先輩や大川先輩に負けませんし俺。」

「西村さん、大変だなぁ。」

「誰だってどうなるかわからないじゃないですか。

 だから人生どうなるかわからないから持っている思いを

 素直に伝えようとするんじゃない?

 俺は弓弦さんが大好きで愛してて、西村さんの所に嫁いでも

 きっとずっと愛し続けると思う。」

「ありがとう、翔太君。気持ちはうれしいよ。

 きっと違う世界で二人ならば、素直に受け入れてたかもしれないね。」

「そう言ってもらえると俺もうれしいかな。」

「でも、記者会見来週の金曜日にあるんだ。その時に翔太君山本社長と一緒でしょ?」

「はい、でるように言われました。一応弓弦さんと一緒で事件の被害者なので。」

「その事件での記者会見の最後に西村さんの口からあたしとの婚約の発表がある。

 それ以後はお互いスキャンダルに発展するような行動は慎まなければならない。

 わかる?多分二人だけで長崎に行けばそういうことになる。

 悲しいけど、翔太君。二人だけでは旅行はできない。

 ごめんね。本当に約束できずにごめんね。」

「いえ、仕方ないです。そういうことはきちんと慎まなければ。」

「でも、記者会見の後は外出も許可が出る。」

「大川さんにもメールでは伝えたけれど、ランチぐらいは

 一緒に行けると思うよ。(笑)」

「外出許可が出るということはその許可が出た時間内なら

 出かけることが気でるということですね?」

「えぇ、きっと記者会見後は女にならないといけないのよね。

 おかしいでしょう?あたしは今まで通りの姿でいいと思ってるんだけど。」

「でも自然に、自然な弓弦さんならどんな姿でもいいんじゃないですか?」

「自然なあたしにね、戻ることができるかな。」

「今のままでいいんじゃないんですか?今のままの弓弦さんで。」

「翔太君。」

「なんですか?」

「記者会見が終わって外出できるようになったら海が見たいな。」

「海ですか?それって?」

「二人で海を見に行こう。だめ?」

「俺車の免許もってないんですって。」

「そっかぁ・・・・・。んじゃ、あたしの家に招待しようか。」

「あの家にですか?」

「あ。多分もう西村さんが引越ししているかもなぁ。」

「でしょう?やっぱり無理なんですね。」

「ねぇ、翔太君。明日はお休み?」

「休みですよ?」

「んじゃ、一度家に帰ってきてきちんと身支度整えてここに来ない?」

「それって?」

「今日は西村さんも来ないしさみしいからそばにいてもらおうかなっ。

 でも、何にもないけど。それでもいい?」

「一晩一緒のデートってことですか。」

「看護師さんにはきちんと言っておくから。ここの屋上から見る夜空は

 星が見えてきれいよ。夜景もきれい。それを眺めるだけのデートだけど。」

「んじゃ、一度家に帰ってくる。弓弦さん、待っててね。」

「えぇ、行ってらっしゃい、翔太君。」


翔太を送り出した弓弦は、看護師さんの所まで車いすで行き、

その旨を伝えると真っ向から反対された。当たり前だ。

わかっているけど、と弓弦は何度も頼み込む。何度も、何度も。

車いすで上がるし無理はしないと。ただ、一人看病で呼んだので

その人がいるから大丈夫と。看護師たちは口をそろえて反対する。

看病に来るのはmartinの翔太君だから騒がれると大変なので

夜は立ち入り禁止になる屋上で少し話がしたいんだとそう伝えると

長くても2時間だけですよとしぶしぶOKしてもらった。


しばらくして翔太が戻ってきた。

弓弦は看護師さんからブランケットを2枚受け取り、屋上へ移動する。

携帯を持ち、翔太と一緒に。

もちろん翔太はカメラ持参。少しでも、近くにいる弓弦を残したいからだと。

「看護師さんごめんね、無理は絶対しないから内緒で」

「2時間だけですよ?でも内緒のお話だなんて。」

「彼はアイドルだから、言いたいことも気持ちの中に押し込めてがんばっているんです。

 だから、話があって話をしたいというんだから聞いてあげないとと思って。

 何か悩んでいるんでしょう。ただ、誰にも聞かれたくないだろし。」

「原田さん、寒いから早めに病室に戻ってきてくださいね。

 風邪ひいたりすると、外出できなくなりますよ?」

「わかってますって。」  

「すみません俺のために。」

「早目にね。早めに。」

「はい、弓弦さんの体調を気にしながら。」

「わかってる、わかってる。無理はしないから。」


少し肌寒くなった外だとわかっている分、

きちんと着こみ車いすを翔太に押してもらってエレベーターで上に上がる。

いい天気の今夜は星がきれいに見える。都会では珍しい夜空だ。

少し周りのビルよりも高い病院の屋上からは、

見える景色も街明かりだけの景色になって見えるのがきれいで。


「ようこそ、我が庭へ(笑)」

「弓弦さん寒くない?俺はいいけど、弓弦さんはまだ。」

「大丈夫、きちんと着こんだしさっき看護師さんがカイロをくれた。」

「そう、俺もたくさん着てきたし弓弦さんがいるから大丈夫。」

「と言いつつもカメラ持参だし(笑)」

「どんなときだって、その瞬間だけしか存在しない弓弦さんを写したいから。」

「そんなうまいこと言って(笑)」

「それに、はい。」

「ありがとう、翔太君気が利くね(笑)」

「二人だけって、沖縄の夜以来だよね。」

「あの時はありがとうね、翔太君。熱だしたの久しぶりでさ。」

「俺もびっくりで焦りましたよ。」

「でも、翔太君はあたしを襲いもしなかった。」

「当たり前でしょう?大切な人が具合悪いのに襲えますか?」

「そだな、襲ったらそこで運命は途切れる。」

「俺は弓弦さんとの運命をまだ信じていますから途切れさせちゃいますし。」

「まだ?もう手遅れよ?」

「もう手遅れではなくて、運命のいたずらに期待しています。(笑)」

「しつこいね、翔太君は。」

「あはは(笑)頑固さは負けますけどね。」

「ねぇ、翔太君。」

「なんですか?」

「翔太君とあたしってどうしてこんなに似てるんだろうね。」

「どうしてでしょうね。初めて会ったとき、

 僕は僕が喋ってるって見つめちゃったし。」

「あたしは、まずひかりが翔太君の会社にいるでしょう?

 多分、翔太君がTVに映り始めてから知っているわ。翔太君の存在。」

「そうなんだ。ていうか、そうですよね。」

「だって似てるって周りから言われ続けてるのよ?

 意識しないでいられないでしょう?」

「そうですね、あの夕食のときメールが来たじゃないですか。」

「あぁ、西村さんからの呼び出しのメールね。」

「そんとき、その時にさ・・・・・・・・・・。

 この人はどれだけの人なのかって知りたくなったって言うか

 西村さんが公園で待ってたでしょう?」

「街頭の明かりしかない場所で一人待ってたね」

「弓弦さんを見つけて立ち上がってこっちを見た時の西村さんのあの嬉しそうな顔。

 その時は弓弦さん西村さんと付き合っているのという質問に

 違うって答えたじゃないですか。でも、俺は付き合ってると思った。」

「なぜそう思うの?」

「だって、俺ら5人の影と西村さんと弓弦さんの影は別々に地面に映った。」

「それだけ?」

「それだけ。人の影というものはその人たちのつながりを表すんですよ。

 付き合っているんですかという言葉にNOと言いながらも

 西村さんと弓弦さんの影は寄り添いあってた。」

「翔太君は不思議なことを言うのね。」

「でも、そういう迷信だと思われることは大抵当たる。

 だから、初めて西村さんと弓弦さんが結婚すると聞いた時驚きはしなかったんだ。」

「そう。」

「西村さんと結婚するということ、弓弦さんの中ではいつから?」

「そうね。この人と最後は一緒に居たいと思い始めたのはいつからかな。

 さっきも言ったじゃない?風邪で倒れてって。何日も看病してくれてさ。

 その時はうっすらとこの人と一緒になるのかな?なりたいのか?っておもっててさ。

 でもしっかりと意識したのは湘南の海開きで中学生を助けた時かな。」

「どうしてその時って?」

「助けた中学生ね、女の子だったんだけどレスキューの人たちはみんな男でしょう?

 女はあたし一人しかいなかったわけじゃない?助けた人たちの中でさ。

 なんにでも敏感でナイーブな年頃の女の子に人工呼吸だからって

 kissするのはあんまりでしょう?だからあたしがやったんだけど。

 自分の中にもあんな頃があって、好きだの嫌いだの気にしたことがあったなぁって。」

「それだけで?」

「いや、違う。その助けた女の子の両親がさ、どうしても娘の命を助けてもらった

 そのお礼をと言って翌日だっけご両親と娘さんと`mask´に来られたんだ。

 そのご両親の仲睦まじさを見て女の子のその両親の間で幸せに笑ってて

 そういう家族もいいなぁって思った時、西村さんの顔が浮かんだんだ。

 ダンディーなお父さんと、優しく笑ったお母さん。

 その間で嬉しそうに幸せそうに笑う女の子。

 あたしにもそんな小さいころがあったのにと思いだしてうらやましかった半面

 ふと西村さんがこっちを見てにっこり笑ってる顔が浮かんだんだ。

 自分の気持ちの奥底で知らない自分が西村さんを頼りにしているんだって。

 どう話したらいいのかなぁ。難しいけど。」

「ふとした瞬間に思い出す人が一番自分の中で知らないうちに愛している人なんだよなぁ。

 それが俺じゃなかった。俺じゃなかったんだ。」

「そうだね。でも、きっと出会いがもっと違う形だったらわからないよね。

 だって、翔太君を初めて見た時何かが動いた気がしたもの。」

「そうなんだ。

 でも弓弦さんは西村さんとの運命を信じてついていくことになったから

 それも気のせいに終わる。」

「そうだね。でも、あたしは翔太君をの運命はこのまま続いていくものだと思うよ。」

「なんで?」

「社長から何も聞いてないの?」

「何を?」

「久原護氏からの映画のオファー。」

「まだ、聞いていない。」

「久原護氏はあたしを大切にしてくれる`mask´での常連さんで

 あたしが主演するためだけの書き下ろした作品が今度映画になる。

 その映画に推理小説家の山村諒一さんと同じく推理小説家の久原護氏が

 話をして映画の主要な出演者を決めたらしい。

 その話がそろそろ聞こえてくるはずなんだが。

 何にも聞いていないの?」

「えぇ本当に何にも。」

「その主演候補4人がさ、あたしと翔太君。そしてひかりと

 大川さん。この4人。」

「本当に?本当に弓弦さんと仕事ができるの?」

「えぇ、久原氏にはせっかくあたしのために書き下ろした作品で

 あたしが出演を断ればお蔵入りするこの作品と言われて

 あたしが断れると思う?この作品だけですよと。

 この作品だけ出演しますとないないにOKしたんだ。」

「んじゃ、映画。俺も始めて話をいただくんです。

 その初めての映画に弓弦さんと出れるのはうれしい。

 俺は絶対その話断りません。変われって言われたって変わらない。

 弓弦さんと出るんだ。今日はうれしい、こんなうれしい話が聞けるなんて。」

「そうなの?でもこれもめるわよ?きっと。」

「なんで?」

「単純にミステリー映画だと思うの?」

「わかんない。」

「久原護氏の書くミステリーは、ラヴサスペンス仕立て。わかるでしょ?」

「もしかしてそういうシーンが含まれていると?」

「えぇ。間違いなく。」

「となると・・・・・・。誰が誰都ということを考えるとかなりもめますね。

 あたしは、息が合いそうな翔太君とだとうれしいんだけど

 大川さんとなるとねぇ、あの人がっつり肉食系だし。」

「わかるわかる。もし弓弦さんの相手役が俺だと俺は大川先輩や

 槙村先輩にめっちゃ脅されるのかな。西村さんにも何か言われそう。」

「彼は大丈夫よ。ラヴシーンがあれば率先して経験を積まないとと言ってたし、

 その練習台は俺がやるって(笑)」

「でも、弓弦さんの相手役が大川さんだとしたらと考えるとひかりちゃんの相手役は俺?」

「そうなるかなぁ。」

「それもめる。かなりもめる。」

「なんで?」

「ひかりちゃんとリーダーは付き合ってるんだよ。」

「やきもち焼かれるなぁ。」

「やきもち焼かれるどころか彼じゃない人とと演技とわかってても

 ラヴシーンはひかりちゃんショック受けるだろうなぁ。」

「それは、まだ久原氏がどういう風に考えているかだから

 配役を考え直してもらうか、オファーを変更するように考えさせるか。」

「弓弦さん、こういうのはやっぱり弓弦さんに頼んだがいいと思ってそれで今日来たんだ。」

「ひかりからメールが来てた。あたしにだけ相談があるって。そして元原君からもメールがね。」

「二人同じこと考えてるんだ。たぶん、それだよ、相談したいって。」

「でも二人の気持ちが正直に本当ならば応援することが本当じゃない?」

「事務所はさ、社内恋愛禁止なんだよね。」

「それは、やっぱり世の中認められない恋愛も多いから

 そこの所だけはしっかりとと考えているんじゃない?

 本人たちがだれにばれても恥ずかしくない関係であれば

 恋愛しても構わないんだと思うよ?」

「こっそりさぁ。弓弦さん、山本社長とそういう話をさらっとして

 社内恋愛禁止になったことを聞いてもらえない?」 

「そうね一度聞いてみようかなぁ。でも社長そういうことは

 どんな努力して隠しても気づくような気がする。」

「でも、弓弦さんしか相談する人いないんだ。お願い。」

「わかった。2,3日したら来るらしいからそれとなくね。」

「リーダーとひかりと。何か惹かれるものがあったんだな。」

「ひかりちゃんが入社してきて、あの受付に立つようになってさ

 リーダーはいつも顔を見るときちんと挨拶してたんだ。」

「それ聞いた。ひかりがね、受けつけにいて一番うれしいのが

 いろんな人からおはようとか声かけられたり、

 ちょっとしたことなんだけど、今日もご苦労様とか

 そう言われるのがうれしいって。」

「そういうのの積み重ねなのか。

 多分挨拶だけの会話じゃなくなったんだろうなぁ。」

「ひかりはさ、奥手じゃないんだけどさ用心深いというか。

 でもね、声かけられたりしても感じのいい紳士な人だと仲良くなっていくんだよ?」

「ひかりちゃんは弓弦さんとも似ているよね。

 俺には似てないけど、笑った時の口元とかがよく似ている。」

「そう?でも従妹だもん、似てて当然だよ。」

「ひかりちゃんとリーダー。

 多分さ、多分なんだけど弓弦さんが事件に巻き込まれて

 あまりにもショックな出来事だっただろうと思うんだ。」

「そうだなぁ。ひかりはあたしとあまり離れたことなかったから。」

「それに事件だから無事かどうかわからないし。

 それにさ、槙村先輩の飛行機乗り遅れ事件の時ぐらいから

 山本社長と知り合い、俺ら5人とも知り合いになり

 槙村先輩や秋山先輩とかとも交流が始まって、

 弓弦さんともひかりさんとも距離が縮まったじゃない?」

「そうだねぇ。それぐらいからかなぁ。

 君らともよく話したりしたし、お店にも来てくれたし。」

「それぐらいからかなぁ。リーダーとメアド交換して

 ひかりちゃんすごく明るくなったって言うかさ。」

「仕事上知っていることもあるんだろうけれど

 ひかりの場合は完全にプライベートなものだもんな。」

「ひかりちゃん、弓弦さんがいなかった間すごく悲しそうな顔で受付にいたんだ。」

「ひかり、そんなにあたしのこと心配してくれてたんだ。」

「でもさ、やっぱりそんなのを見てたらリーダーだって

 弓弦さんも心配だけどそれよりも目の前にいるひかりちゃんのことが

 気になったんだろうな。俺らにこそこそと。」

「ほら、社長があなたたち5人を呼び出したときもさ

 リーダーはひかりの顔を見て`受付嬢じゃん´って声かけた時

 すごくにっこりと嬉しそうな顔をしたての見てた?」

「それは俺も思った。で、弓弦さんがひかりって呼んだら

 `ひかりちゃんっていうんだ´ってにっこり笑った。」

「だろ?だからリーダー的には初めからひかりが一番気になってたんじゃない?」

「そうなのかなぁ。でも俺はさ、そのあとお店に行ったでしょ。

 ほら、リーダーと悠太と三人で。あの時、俺真面目に免許取ろうと思った。

 だって、悠太とバイクの話しているときすごく弓弦さんがいきいきと綺麗に輝いて見えてた。

 その時何かが自分の中に生まれる気がした。」

「そうなの?翔太君、免許取る?」

「ん、考える。その時から、弓弦さんと二人でどこか遠くに行きたいって思ったんだ。」

「とるなら車の免許だよ。バイクの免許は落ち着いてからゆっくりとった方がいい。

 限定解除とかは免許所得してからいろいろ条件があるから。

 車の免許を取って、事故を起こさないようになってから

 いい車を買うんだ。それまではすごく楽しいよ。」

「弓弦さんは車の免許いつ取ったの?」

「こっちに来てからかな。」

「バイクは?」

「高校入学してすぐ。学校では遠くから通学している人もいたし

 事故とか起こさないとかいろいろと決まりごとはあったけど

 免許を取ってはいけないとは言ってなかったし

 限定解除したのは、こっちに来て車の教習所に行っているときに

 車の免許取るのと同時に限定解除。」

「初めての運転での自分の車は?」

「ないよ。だってbikeあるし。車はお爺ちゃんが買ってくれたんだけど

 買い物に出た時にさ、駐車場に止めててぶつけられて

 その車廃車になっちゃった(笑)」

「えぇ?もったいない。せっかくお爺さんが買ってくれたんでしょう?」

「それはさ初心者だから、ぼろでいいって安い車だったんだ。」

「今の車は?」

「あぁ、あのBMWね。あれは5年前に亡くなった母の車。

 母が気に入って乗ってた車だったんだ。」

「お母さんの形見なんだ。だからいつみてもピカピカできれいにしてあるんだ。」

「そうだね、母もいつもきちんと洗って手入れしてたし。あの車気になる?」

「免許取ったら同じの買おうかな。」

「お揃いにするの?」

「お揃いだと何か怪しまれるかな。」

「翔太君となら西村さんは何も言わないさ。」

「そうかなぁ・・・・。」

「とにかく免許を取るのでしょ?取れたら、翔太君の運転でドライブに出かけよう。」

「車は?車買わなきゃ。」

「車はあたしのを運転すればいいさ。」

「弓弦さんのBMWを?ぶつけたら怖い。もったいない、あんなにきれいなのに。」

「そういう緊張感を持って運転したらぶつけないって、大丈夫。」

「ねぇ、弓弦さん。一枚撮っていい?」

「そう言わなくてもとるつもりでしょう?」


月明かりの下での屋上の写真。弓弦のシルエットが儚くきれい。

街の明かりに弓弦のシルエット。二人で手をつないでその影をとる。

誰もいない屋上に冷たい風が吹き付けてきた。かなり寒くなってきた。

翔太は弓弦の体を心配して部屋に戻ろうと促す。


「弓弦さん、戻ろう。部屋にさ、戻ろうよ。」

「寒くなってきたね。」


黙って屋上からの眺めを似ている弓弦の後姿はなぜはそのまま消えていきそうな

そんな気配を漂わせ、翔太は心配になってきた。


「弓弦さん?」

「なぁに?」

「なんでそんなに悲しい背中なのさ。

 誰から見ても幸せいっぱいな弓弦さんなのに、なんで?」

「なんでそう見えるの?」

「わからないけど、そう見える。」

「部屋に戻ろうかな。ここでは翔太君に心配かけてしまう。」

「そうですね(笑)さぁ戻りましょうよ。」


弓弦の車いすを押しながら病棟への入り口に向かう。

入り口のドアを開けると、踊り場があってそこでエレベーターを待つ。

その待つ間、翔太は冷たくなった弓弦の手を握り温めた。

エレベーターが来ると二人乗り込む、ドアが閉まったその瞬間。

翔太が握っていた手がすっと離れ、逆に翔太に絡みついた。


「どうしたの?」

「何でもない。何でもないんだけど、翔太君温かい(笑)」

「なぁんだ。本当は翔太君が好きとか言うのかと思った。」

「ん?大好きよ?だけど一番は西村さん。あたしはもうあの人なしでは生きていけない。」

「なんだか当てられっぱなしだな。」

「明日は休みなんでしょう?」

「休みですけど・・・・・・・・・・・・。」

「西村さんが今日は帰ってこないんだ。この間から仕事で夜に帰ってこないんだ。」

「それって・・・・・・・・・・・・・。」

「一人が怖い、さみしい。横にいてよ、話しよう。」

「いいですよ?でもそれはどういう意味です?」

「そういう意味。そばにいてほしいだけ。いろいろ話がしたいだけ。」

「んじゃ部屋に戻りましょう。」


そう言ってエレベーターを降りると、目の前にある看護師さんたちの

待機しているカウンターがあってそのカウンターの向こう側から

看護師さんたちがおかえり寒かったでしょうと声をかけてくれた。

一人の看護師さんが後ろから声をかける。


「原田さん、部屋は暖かくしてありますからね。

 暑かったらエアコン消してくださいね。」

「はぁい。」


そう言って部屋に向かってそこを離れようとしたとき、

弓弦は思い出したように逆に看護師に声をかけた。


「あの。この子が西村さんの代わりに部屋に泊まっていきたいらしいのですが

 その準備をしてもらってもいいですか?」

「えぇ。泊まっていかれるのですね。

 でも、一晩中話し込んではだめですからね(笑)」

「何でもお見通しだな。翔太君、悪さはできないぞ(笑)」

「悪さできませんって、西村さんから怒られる。

 俺は西村さんに変わって弓弦さんを見張る役ですから。」

「それは困ったなぁ。何かあると西村さんにちくるんだろ?」

「弓弦さんはちくられること話すんですか?俺に。」


部屋に行くと看護師さんがソファベッドを用意し、ブランケットをおいて行った。

部屋に戻ってきた二人。時計は21時の消灯を過ぎていた。

明るい部屋の中で、弓弦と翔太は何気ない話に笑いながら飲み物をと

弓弦が冷蔵庫を覗く。その間に、ベッドの間にあったテーブルを

どけて弓弦のベッドの横に翔太の簡易ソファベッドをくっつけた。

その頭の方には窓があり、冷たい月明かりが差し込んでいる。


「翔太君何しているの?」

「弓弦さんのベッドのそばに俺のを付けたんだ。」

「そうするとあたしが車いすからベッドに移れないじゃない。」

「そっか。んじゃ、立てる?」

「左足は全然大丈夫だから立てるけど?」

「んじゃ立って。」

 

翔太がそう弓弦に言って立たせると、ひざからふわっと抱き上げた。


「びっくりするじゃない、おろして。」

「ベッドに降ろしますからそんなに暴れないでよ弓弦さん。」

「だって。」


そう言って暴れる弓弦を翔太は自分の胸に抑え込み抱きかかえてベッドに運んだ。


「ね。何もしてません。そして何にもしませんから。」

「翔太君だとそんなに身構えなくてもいいんだ。」

「弓弦さん、言葉遣い。今のうちに弓弦さんらしい言葉を

 女性の弓弦さんらしい言葉にね。」

「翔太君の前ではかなり言葉は自然よ?」

「そう?今まではさ、すごく言葉が男だったじゃん。」

「そうだっけ?(笑)」

「そうです。俺らと知り合った時もさ、ひかりちゃんと話しているときはさ

 ひかりは俺の彼女だと言わんばかりの鋭い目つきと言葉遣いでさ。」

「いやいや。あれはあのままがあたしなんだって。」

「でも、あのままだっていってもあのままの状態になるまでは

 かなり言葉遣いを考えてたんでしょう?」

「違うよ。`mask´に勤めてて、周りがそういう男ばっかりでしょう?

 自然に言葉を覚えてしまうんだって(笑)」

「本当に?」

「本当だって、あんな男社会にいたら誰だってそうなるさ。

 それよりもPCとって。喋っていると、消灯時間過ぎているから寝てくださいって

 看護師さんたちが乱入してくるから。」

「PCつけるの?」

「えぇ、メール確認しなくちゃ。何の連絡が入っているかわかんないし

 返信していないメールもあるし。」

「返信は最低限でいいじゃない。

 携帯のメールもチェックしなきゃいけないんでしょ?」

「そうねぇ。せっかく翔太君が来ているのにそれに時間を費やしては

 かなり失礼かな。翔太君は眠くないの?」

「えぇ、全然。弓弦さんとせっかく一緒なのに眠れませんって。」

「そう言われると照れる。」

「その言い方男と女が逆転している感じだなぁ。」

「あたしが男で翔太君が女性。感じわかる気がする。

 翔太君はさあたしから見ても繊細で心遣いがきれいで

 かなり女性的な性格だよね。あ。悪い意味でじゃないからね?」

「弓弦さんだって、弓弦さんの考えていることや言葉遣いだけじゃなくって  

 根本的な性格まで男勝りなんだもんなぁ。」

「いっそのこと入れ替わる?(笑)」

「そんなことしたって西村さんからは逃げれないだろうな、弓弦さん。」

「白無垢着てさ、角隠しつけたらわかんないもんなぁ。

 きっとばれないって。それやってみたい気がする(笑)」

「そんなことしたら俺首絞められちゃいますよ勘弁ですっ!」

「翔太君からかってないで真面目にメールをチェックしなきゃ。」

「そうしてください(笑)」


弓弦がPCのメールのチェックを始めるとその横で翔太は弓弦のPCを覗き込み始めた。


「ねぇ、弓弦さん。メールは見ても大丈夫?」

「大丈夫よ。別に怪しいことしてないし(笑)」

「でも毎日よくメールが絶えなく来るね。」

「常連さんからの、無事でよかったとか早く復帰期待しているよとか

 お見舞いの話とかいろいろとね。嬉しいメールが多いよ。」

「弓弦さんは西村さんだけの弓弦さんじゃないんだもんな。

 みんな大勢いるみんなの弓弦さんなんだもんな。

 記者会見で西村さん一人の物になるって発表されるとどうなるんだろう。」

「きっとPCの電源は入れられなくなるよね。

 メールの容量は無限に設定されているhotmailだけどきっとパンクする。」

「弓弦さんもメールサイトも大変だ。(笑)」

「こまめにさ、こまめに整理して返信していかないと

 誰に返信したかわからないしさ消去していかないと大変。」

「そうだろうなぁ。一日になんかPC覗いているんだか(笑)」

「ほら、西村さんからもメールが来ている。」


 `弓弦。

  今日はごめん、大阪の仕事は長くてまだ終わらない。

  そっちに行きたいのだけれど、最終はもう間に合わないらしい。

  ここの所一人にさせてすまない。明日は休みなのでそっちに行きます。

  多分打ち合わせもあるらしいから行かないとな。

  そっちの方はどう?リハビリは大丈夫?

  鎖骨と肩甲骨は固定されているしな大丈夫だろうけど

  気になるのは右足だなぁ。まだ動かしてはいないんだろう?

  きっと痩せている弓弦の足はもっと細くなっているんだろうなぁ。

  リハビリできるようになったらきちんと運動をして筋肉を戻さないと

  ダンスはできなくなるぞ?わかってる?

  今は休憩中なんだけど、メールしている間中スタッフがうるさい。

  早く終われば最終ででもそっちに行けたのになぁ。

  一人での病室には慣れたか?慣れるはずないよな。

  早く明日にならないかな。俺だけがさみしいのか?

  なぁ、弓弦。やっぱり帰れないと俺だけが落ち着かないのかな。

  あと2時間で終わると思うから、終わったら電話するけどいい?

  これから2時間だと何時になるかな。消灯が21時だけど

  多分23時前になるかな。起きててくれたらうれしいけど。

  んじゃ、またあとで。´


「うっわっ。弓弦さん、これ本当に?西村さんからなの?」

「でしょ?そう思うでしょ?

 結構さ、さみしがり屋というか甘えん坊というか

 仕事でここに来れないときは頻繁にメールが来るのよ。

 多分今日もかかってくるわこの調子だと。」

「弓弦さんも大変だ(笑)」

「かかってきたら、代わってあげるよ。多分翔太君が出てもよろこぶよ。」

「いや、遠慮しておきますって。逆になんでお前がそこにいるんだって怒られます。」

「そぅ?」

「怖いですって、だって弓弦さん一人の部屋に俺とはいえ

 西村さん以外の男がここにいるんですよ?」

「そっか、当たり前に考えたらそれはおかしいことだもんな。」

「だよ。でも、翔太君がここに泊まること誰か知っているの?」

「誰も?明日俺も休みだし、みんな仕事終わって帰ると

 誰がどこにいるかなんてお互い知らないしさ。」

「携帯あるから用事あったらかけるしね。でもどうしてここに泊まるって決めてたの?」

「どうしてって・・・・・。なんとなく、そばにいたいなぁって。」

「もし西村さんが戻ってきたらどうするの。」

「その時はその時さ。いてもいなくても。3人で夜更かししても楽しいじゃん。」

「ったく。」


弓弦がPCに向かってカタカタと返信している姿を横目で見ながら

翔太も携帯を取出し、来ているメールに返信をした。

それにしても、弓弦の打ち込むそのスピードの速い事。

何通ものメールを短時間で返していっている。翔太も自分のメールの返信が終わると

また、弓弦のそばに行き弓弦のベッドに頭を乗せ弓弦を気にしながら

本を読み始めた。

まるで弓弦のその用事が済むのを待っているかのように。


「翔太君」

「なに?」

「眠い?眠いんじゃない?うるさいでしょう。もうちょっとで終わるから。」

「大丈夫ですよ、眠くないから。」

「そう?でももうすぐ終わるし。」

「西村さんからも電話が入る時間ではないですか?」

「そうだね。あたしのことを思っているのなら、電話はかけてこないでほしいけど。」

「そうですか?でもしっかり待っているんじゃないですか?」

「そう見えるの?」

「えぇ、そう見えます(笑)」

「それよりもさ、翔太君。」

「ん?」

「Martinというグループ。リーダーの元原君でしょ。

 で、背が高くていつも明るいのが中村君でしょう?」

「弓弦さんと同じでバイクが大好きなのが青井で、俺らの中でも単独での仕事があるのが上村。」

「なんだかみんな繋がりがなさそうで、仲がいいよね。」

「弓弦さんの他の`mask´もそうじゃないですか。

 寡黙で優しそうな誠さんを筆頭に、貴志さんとか。」

「どういう風に見えているのかなぁ。あたしたち`mask´。」

「誠さんかっこいいじゃないですか。みんなかっこいいけど

 俺の目には誠さんが一番。寡黙で優しそうで。」

「あたしが好きなのもそこなんだよね。

 `mask´に入店してからさ、かなり女だということでいろんなことがあった。

 だけど、あたしはきちんとバーテンダーになりたくて

 先輩たちについて仕事していろんな技術を学んだんだ。

 一人一人ついていろいろ勉強しているうちにさ

 よく誠さんから指名で手伝わされることが多くなっていったんだ。

 何かあると誠さんのブースに呼ばれ手伝わされてた。

 仕事以外でも、よく呼ばれていろんなことを教えてもらったんだ。

 わかりやすく、丁寧に。

 自分のわかっている範囲での物事はすべてという感じでさ。」

「誠さんが弓弦さんの`mask´での師匠なんだ。」

「`mask´に入る前にさ、あたしはバーテンダーだけの参加の

 コンクールに出たことがあって、大学一年の時にオリジナルフレッシュという

 部門で優勝したんだ。」

「弓弦さんってすごいじゃん。」

「でもさそのあとに`mask´に行ったことがあって´、

 自分がそのコンクールで優勝したことがなんだか意味がないように思える出来事があってさ

 落ち込んだなぁ・・・・・すごく落ち込んだ。

 このままでは母さんに申し訳がないと思って、

 `mask´の従業員募集の張り紙見て飛び込んだんだ。それが始まり。」

「なんにしてもきっかけがないとそれには飛びつかないもんな。」

「貴志もあたしもあの`mask´に来る前からお互い知ってたんだ。」

「なんで?」

「貴志はあたしと一緒にコンクールに出てたやつでさ、

 あたしの優勝した部門とは別でスタンダードの部門で優勝した人なんだ。」

「それってすごい人なんじゃん。」

「翔太君は貴志の年がわかる?」

「弓弦さん呼び捨てにしているけど・・・・・・。」

「貴志は翔太君よりも上だぞ?今年33になるんじゃない?」

「見えない・・・・俺と同じぐらいか弓弦さんと一緒かって思ってた。」

「あたしがオリジナルフレッシュっていう部門で優勝したのが18でさ。」

「18って未成年じゃないですか?いいんですか?それって。」

「オリジナルフレッシュってね、必ずしもアルコールを使わなければいけあいってことじゃなくってさ

 自分で考えたものを発表することに意義がある部門なんだ。

 だから、ノンアルコールでもOKだしアルコールがあっても素晴らしいというものを

 考えて発表するんだ。」

「そうなんだ。今からだと勉強するの遅いかな。」

「なんで?」

「時間があるときに俺にも教えてほしいんだ。基礎から。」

「翔太君がバーテンダーの仕事を勉強したいの?」

「この間からそう思い始めちゃってさ。弓弦さん。弓弦さんたちから習いたい。

 `mask´の人たちからあの中にまじって俺もシェイカー振りたい。

 そう思いはじめたんだ。」

「翔太君もまたチャレンジ精神旺盛ね。だったら誠さんに話してあげようか?

 仕事があるから、仕事がないときに勉強したいんでしょ?」

「そう。俺らの仕事はそう続けられる仕事でもないし

 続けていくためには何か人と違う技術を持ってないとね。」

「で、あたしの仕事を?」

「単純にかっこいいだけじゃなくってさ、初めて`mask´に行ったときに感じた

 大切なあの感触を自分でも味わいたいって。

 あそこで提供される物すべてにいろんないわれがあり

 それをきちんと理解し提供するまでいろいろと考えるんでしょう?

 目の前に座った自分の大切な人のためにすごく考えるんでしょう?

 俺はそういう誰かのために一生懸命考えて目の前にいるその人のために

 自分で提供し、それに喜んでくれた顔を見たいと思った。」

「翔太君と知り合って、2度目に会ったじゃない?お店に来てくれて。」

「あぁ、ちょうど夕方に終わって悠太の家でゲームしててさ

 突然リーダーが夕飯どうするって話し始めてみんなで考えてたんだ。

 するとさ、とりあえず食べに行くと騒がれていたから外に行くのが面倒で

 出前取って食べたんだ。でもさ、なんだかつまんなくって

 社長がめぐり合わせてくれた弓弦さんのことを思い出したんだ。」

「ひかりとあたしと社長だけではなししてた夕食にさ、社長が

 martinの5人も招待したがいいかねと言って呼んだんだよね。」

「その夕飯の後のあの夜中の帰りの西村さんだったでしょう。

 5人で帰るときにさ、弓弦さんと知り合いになれたこと、

 弓弦さん繋がりで西村さんと喋れたことすごくうれしくってさ、

 んで、3人しかいなかったけど連絡入れてみるかと言って

 リーダーにメールを入れてもらったんだ。」

「ひかりはリーダーから飲みに行くから弓弦さんのアドレス教えてって言って

 リーダーに教えたことあたしに言うの忘れててさ、リーダーのメールに気づかなくて

 ひかりがゆかりさんとお店に来て山村男爵と話しているときにさ

 リーダーからメール来てない?って言われてそんな話だったんだっけ。」

「リーダーはさ、弓弦さんにメールしたのに返事が来ないなって言ってたんだ。

 するとさひかりちゃんからメール来て弓弦にね、

 リーダーのアドレス教えたよっていうの忘れてたって

 で、電話していい?電話番号教えてってメール来て、リーダー爆笑。」

「でもそのころからお互いに携帯の番号もアドレスも二人して知ってたんだ。

 そうなると何かあったらメールしたり電話したりするよな。」

「でもさ、ひかりちゃんとリーダーの間を結んだのは弓弦さんだな。」

「きっかけにはなってしまったかもね。」

「多分今頃二人でいるのかなぁ、なんかリーダー夕飯食べに行くって言ってたし。」

「うちの料亭の方じゃない、食べに行くとしたら。

 ひかりもリーダーもあたしに相談したいことがあるらしいから

 やっぱりそういうことなんだろうな。」

「あたしたちは何にも進展はしなかったね。」

「だって弓弦さんの後ろにはいつも西村さんがいた。

 誰だって西村さんを超えたかったけど超えれなかったし。」

「翔太君。」

「西村さんを超える人なんてあたしの中にはいない。たとえ翔太君でも、槙村さんでも。」

「あはは、もともと眼中にないからkissしないとか平気で言えるんだもんな。」

「そうじゃないけど、そうだとだれとでもkissできるじゃん。」

「弓弦さんは一途だったんだよな、それ考えると。」

「どうなんだろう。西村さんとの話はこれでおしまい。

 いろいろと話していると恥ずかしいからさ。」

「でもいろいろ聞きたいことはたくさんあるけどなぁ。」

「でももうだめよ。」

「弓弦さん、でも弓弦さんが復帰してからでいいから弓弦さんから習いたい。」

「んじゃ、初めに誠さんについてデスクからね。誠さんにはいっておくから、

 自分で`mask´に行って誠さんから基礎と接客を学んでおいて。

 退院するころにはきっと横について立てるようにはしてくれるはずだから。」

「本当に?いいの?」

「その代り、行けるときは行って誠さんの言うことをがんばること。」

「弓弦さんと同じカウンターに立ちたい。勝てるとしたら

 西村さんに勝てるとしたらそこしかないもん。」

「そういう所で競うか?(笑)」

「そこぐらいしかないもん。」

「写真は?良いカメラもってるし、ポイント押さえているし。

 アルバムのジャケットやフォトブックもあたしを捉えた写真使うほどじゃん。

 あたしね、あんな風に撮られたのは初めてなんだ。」

「出来上がりはすごく良かったでしょう?」

「褒めるとまたつかわれちゃうから褒めないけど。」

「でも、それはそれ。あれは悠太に刺激されてさ。」

「そうなんだ。やっぱり遠くまで出かける人は感性が違うんだな。」

「そう思うでしょう?悠太はいつか個展を開きたいんだって。」

「今でもできるぐらいに作品はあるんだろうに。」

「自分で納得したもので個展をしたいからってまだまだ見たいだよ。」

「なかなかしっかりしたやつなんだな。」

「上村だって、単独でMCの仕事があるでしょ。

 アナウンサーの仕事が決まった時にさ、その手の専門学校に入学して

 ちゃんと卒業したんだよ。

 それに、俺ら小学生ぐらいから一緒なんだけどさ

 中学のころから仕事が入ったりして忙しかったんだ。

 そんな俺たちも高校だけはきっちりと卒業したんだ。

 たださ、俺ら5人はここまでうまくいく仕事とは思っていなかったから

 もしそのままTVから消えて行ったときに何もできないと困るから

 きちんと何か自分たちのやりたい仕事を見つけてやりたいなって言って・・・・・・。」

「それで悠太君は写真。翔太君はあたしの仕事を勉強したいと。」

「上村はあぁ見えても今は現役の大学生。仕事が落ち着きを見せ始めたころにさ

 社長に直談判して、大学受験したんだけど見事に受かった。」

「すごいじゃん。彼は根性あるなぁ。」

「リーダーだって。あいつは何をどうしたいのかがわからないらしいけど

 船舶免許もってるし衛生管理責任者も。調理師の免許もってるしさ

 フグの講習も受けているからアイドルを辞めても食っていける。」

「中村君は?」

「あいつはもともとモデルだし、その道は今も続けているから

 ある程度はあいつこの世界で食っていける。」

「アイドルと言えども、どうなるかはわからないからなぁ。

 でもしっかりしてるじゃんmartin組は。」



 `turururururururur turrurururururururururu’



「西村さんだ。ちょっと出るね。」

「どうぞ(笑)」

 



「はい。」

「ごめんな、寝てたか?」

「起きてた、電話するってメールはいってたから。」

「帰れなくてごめん。明日から二日休みだから朝一番で帰ってくる。」

「急がなくても大丈夫だよ。」

「体調は?」

「大丈夫。痛みも少なくなったし、両腕のリハビリ明日から少しプログラムを変えるって。」

「そっか、無理はするなよ。でも痛いとかはないのか?」

「右足はね。右足は床につくと痛いけど先生が痛みが取れたら

 動かすことからリハビリしましょうって。」

「そっか、順調に回復してるんだ。早く弓弦の顔を見たい。」

「そんなこと喋っているとだれがどこで聞いているかわかんないんだからね?」

「そういうこと言う?」

「とりあえず、消灯中だし。」

「そうだな、お休み弓弦。明日そっちに行ったときに記者会見のことで話があるから。」

「それ嫌だな・・・・。」

「すぐだぞ?すぐ。記者会見の日はすぐだからさ。」

「わかった。んじゃ、お休みなさい。」

「お休み、弓弦。」

「夜中なのに・・・・冬なのに・・・・暑いな、非常に暑い(笑)」

「来れないとこうやって電話が入るんだ。でもやっとこれで寝れる。

 さぁ、病院の朝は早く起こされる。客人でもだから翔太君も寝よう。」

「そうですね。でも、前より弓弦さんまでの距離が遠い。」

「当たり前。あたしはけが人。そしてここはあたし用の怪我人のベッド。」

「俺は客人だからソファベッド。」

「でもくっついている訳じゃない。手はとどく範囲だよ?」

「んじゃ、手を握って寝てもいい?」

「あたし寝相悪いからきっとつないだ手は振りほどかれちゃうよ?」

「それでもいいんだ。」

「そうなんだ、振りほどかれて打ち叩かれても知らない(笑)」

「いたいけな青年に弓弦さんはそういうことするんだ(笑)」

「あー言えばこういう。さ、お休み翔太殿。」

「お休み、弓弦さん。」







月明かりに照らされるベッドの上の二人の寝顔。

手だけをつないだまま眠る二人の姿の似ていること。

夜中の見回りの時、看護婦がのぞいた部屋は月明かりに真白く二人が浮かび上がっていた。

まるで映画のワンシーンのように。そんな夜の時間は静かに過ぎて行った。



「ん・・・。」



弓弦は何気に起きた。まだ翔太は寝ている。しっかりと弓弦の手を握りしめて寝ていた。

起こすのが可哀想なぐらいに、翔太の顔がかわいすぎて弓弦はそのまま見つめる。

長い睫にすっと通った鼻、自分によく似た唇。

男の子らしい顔の形。なのに、女の子のような髪。触ると滑らかで滑るような感触。

弓弦は握られていた左の手をそっとはずしベッドから抜け出した。

裸足のままの左足で病室の床に降ろすとすごく冷たくて声が出そうになったのを

弓弦は我慢して足をつけ、壁伝いに移動。

そういえばこの間3人で来た時にCDをおいていったなぁと思いだし

CDを探す。デッキに入ったままになっていたCD。ヘッドフォンを付けて

椅子に座りCDをかけアルバムを聞く。

聞きながら自分が映っているフォトブックを一枚一枚めくり写真を確認。

それがどうしたらそんなに映るのかが不思議に思えるぐらいに

写っている弓弦の姿は自分だとは信じられないぐらいに

他人に映っていた。確かに顔は出ていない。自分とわかる写真は少ない。

少ないというよりも、無いに等しい。

これが自分なのかと目を疑うほどの出来上がりだった。

そしてCDを聞いているうちに、翔太がソロで歌っている曲が聞こえてきた。



     acaciaの花の下で

     待ち合わせしよう

     きっとぼく達だけのはずだから


     acaciaの花の下で

     待ち合わせしよう

     きっと誰も来ないから


     acaciaの花の下は

     安らぎの甘い香りに包まれて

     あなたと二人、夢の中


     acaciaの花の下は

     幸せな時間だけがそこにあって

     あなたと二人、夢の中


     この花の下で

     時間を共にするなら

     あなたしか

     ぼくには、考えられない・・・・

     今のぼくには




聞こえているその翔太君の声が、耳に響く。

フォトブックの中ほどの頁に詳細が書いてあるのだけれど。


 `acacia´ 作詞・作曲 橋本翔太 編曲・arrange 元宮達哉


あんなに繊細なものを作り上げるんだと、弓弦は内心びっくりしていた。

アルバムの中のテクノ的な歌の中に一人一人その特徴を捉えたようなソロの歌。

弓弦はmartinの5人ってだけで何かを勘違いしていたようにも思った。

翔太のこの「acacia」を繰り返して聞いているうちに朝日が差してきた。

6時を回ったらしい。まだ翔太は寝ている、その寝ている顔を覗き込んでも

気づきもしないで寝ている。弓弦はおこすのが本当にかわいそうになってきて

そっと音を立てずに、部屋を出た。右足が痛まないときは、松葉づえで移動しているのだ。

車いすだと音がするから、翔太君に気を使ったのか松葉づえで。

トイレの横の洗面に行くと、口をゆすぎ顔を洗いすがすがしい顔をしてその場所を離れた。

すると看護師さんが弓弦を見つけ、声をかけた。


「おはようございます、原田さん。」

「おはようございます。」

「今日は松葉づえですね。大丈夫?」

「えぇ、床に右足をつかなければ全然大丈夫です。」

「でも肩に負担がかかりませんか?」

「右の鎖骨の骨折。どうなんだろう。

 松葉づえを始め使うときは結構痛かったんですけどこの2,3日痛くないんですよね。」

「今日肩のレントゲン取ってみますか?先生にそれとなく伝えて

 先生にレントゲンって言わせましょ。」

「そうですね。診察の時にでもレントゲンでの確認もしてもらえたら

 何か嬉しいことでも起きそうだし。」

「では、そういうことで。

 そうそう、あの男性はやはり泊まっていったのですね。

 先ほど原田さんに声をかけようと覗いたら、まだぐっすりと寝てられました。」

「そうなんです。あれじゃ起こせないでしょう?

 だからあたしも、そっと音を立てずに出てきたんですが

 まだ寝ているんですかぁ・・・・・。戻りづらいなぁ。」

「原田さん、歩いて出てこれたのでしたらこのまま朝ごはん

 食堂でいただきますか?お箸使えるようになったんですもの。」

「今何時です?」

「もうすぐ7時。7時前ですよ。」

「だったら、少ししゃべっていたら7時の朝ごはんですね。」

「えぇ。このままぐっすりと寝かしておきましょう。」

「彼の朝ごはんは、どうしよう。」

「それは起きられてからでもいいのではないですか?」

「ですね。それよりも彼は仕事で疲れているんだろうから

 寝れるときに寝かせてあげないとですね。」

「でも、彼はかわいい顔で寝てましたねぇ。」

「えぇ、あれで3つも年上ですよ?信じられますか?」

「あんな可愛い顔で甘えられたら、落ちますね。」

「看護師さんもそう思う?そう思いますよねぇ」

「でも原田さんには西村さんがおられるのですから駄目ですよ(笑)」

「はいはい。多分朝一でここに来ると思いますけどね(笑)」

「とりあえず、あたしはおなかがすいているのでお先に。」

「行ってらっしゃい。たくさん食べてね。」

「はい!がっつりと!(笑)」



朝早い時間から病院は忙しくなってくる。

通勤の前にと早々と混み始める前にと患者さんたちのラッシュが始まる。

病院の外では通院の人と出勤に人たちでいっぱいで駐車場も仕出しに混雑してきている。

それを食堂から眺める弓弦。

まだ来ている人が少ない食堂の端の眺めのいい場所で弓弦のために作られた朝食を

いただきます。という言葉と同時に弓弦は食べ始めた。

炊き立ての白いご飯。塩分が控えめに作られた麦みそのお味噌汁。

弓弦の腕にはかなわないんだろうが厚焼き卵が大根おろしと共に。

それとハンバーグ。なぜかハンバーグ。

朝から肉なんてきついなぁと言う顔をして食べている弓弦。

隣りにいた人がそれに気づいたのか、弓弦におはようと声をかけてきた。

そしてなぜ朝から肉系のおかずが出てくるのかを説明してくれた。

弓弦はその説明を聞いて、自分がほかの人よりも回復の度合いが早いんだと

そう感じたのだった。

全部きちんと食べ終わると席を立ち、自分のお膳をカウンターに返す。

いつもおいしいご飯をありがとうと言い、にっこり笑ってご馳走様でしたと最後に言う。

その弓弦の笑顔が一日一日きれいになっていくのをみんなは喜ばしく見ていた。

待合の方に行き自販機でブラックの缶コーヒーを買い部屋に戻ろうとしていた。

その時弓弦の後ろから声がする。遠くから弓弦の名前を呼ぶ声がする。

振り返ると西村がいた。にっこりと笑って弓弦に声をかけてきたのだ。


「弓弦、おはよう。」

「おはよう、なんで?なんでこんな時間に?」

「一番早いので帰ってきたんだ。」

「一番早いって・・・・・?」

「夜行バスみたいなもん(笑)」

「きつかったんじゃない?車でしょ?で一晩だなんて。」

「一晩て言うかさ、別の番組のスタッフがさ東京に今晩中に戻るって話を

 局内の廊下で聞いちゃって、それに便乗してきたってわけ。」

「でも疲れたでしょう。あっちは何時に出てきたの?」

「夜中の3時。だけど、運転する人がいたから

 俺は後ろでがっつり寝かさせていただいた。」

「お仕事お疲れ様でした、西村さん。」

「なぁ。前にも言おう言おうと思ったんだけどさ、いい加減西村さんはやめないか?」

「んじゃ何て呼んだらいいのさ。」

「だなぁ。あなたとか(笑)」

「だからそれはあたしの性格上そうは呼べない。あたし壊れちゃう。」

「んじゃ何て呼んでくれるんだ?」

「それは・・・・いつか。」

「なぁ、記者会見が終わって婚約してそれまでは西村さんでもおかしくはないけどさ

 結婚したらちゃんと俺を呼んでくれよ?」

「ちゃんと、旦那さんを呼ぶ呼び方に変わるだろうから

 それまでは見逃してくださいよ。」

「で?朝食は済んだんだろ?」

「えぇ。たくさん食べさせられましたよ。」

「で、部屋に戻るのにブラックか?それは胃にきついんじゃないか?」

「これあたしのじゃないのよ。びっくりするわよ?

 だって、あたし一晩男と一緒だったのよ(笑)」

「・・・・・・誰?誰なんだ?」

「まだ部屋で寝てるわよ。いい加減起こさないと。」

「弓弦・・・・・・・お前。」

「別にやましいことはしてないわよ?彼も西村さんがいなくて自分ができるときは

 自分が看病しますって言い張ってたし。」

「誰だ?」


部屋の引き戸をそっと開ける。

奥の弓弦のベッドにくっつけてソファベッドがある。まだ寝ているらしい。

寝息が聞こえる。窓からの朝の陽射しが入り込んでかなり部屋の中は明るくなっているのに

ブランケットを頭からすっぽりかぶり、まだ寝ている。

西村はブランケットから見えている足元を見て、

ふとこれはと思いブランケットの頭と思われる部分を、押さえつけた。

びっくりして彼は起きてもがく。弓弦が大笑いしている声が部屋中に響いた。



「おはよう、翔太。」

「げぇっ!西村さんじゃん。」

「だーかーらーおはようって(笑)翔太!」

「おはようございます、西村さん。」

「おはよう、翔太君。あまりにも気持ちよく寝息立ててたから

 起こさないでいたのに、西村さんが(笑)」

「もう帰ってきたんですか?西村さん。」

「あぁ、早々と帰ってきましたよ。でないと弓弦がね。弓弦が心配でさ(笑)」

「俺も用心されてるんだ。」

「翔太はなぁ。とりあえず、弓弦とは切っても切れないだろうし

 俺から連れ去りさえしなければいいんだけど?」

「え?俺?西村さんがいるのに槙村さんよりは安心でしょ?

 大川先輩は確実に連れ去りますしね。」

「そうだなぁ。危ないなぁ・・・・・あの近辺は危ない。」

「それはそうとさ、はいコーヒー。」

「ありがとうございます。」

「二人とも、朝ごはんは?西村さんはまだなんでしょう?」

「あぁ。一緒にって思ったけど、先に食べちゃったんだな。

 おい、翔太。男の話をしに朝飯食べに行こう。」

「俺もおなかすきました。もちろん西村さんのおごりでしょ?

 おいしいものがっつり食べなきゃ!」

「お前真面目に食べそうだなぁ。んじゃ弓弦。行ってくる。」

「行ってらっしゃい。お二人さん。」

エレベーターで1階まで下りると、二人揃って病院の通用口へ向かう。

正面玄関から出るには少し勇気がいるような状態で人もかなり多くなっていた。

病院の通用口のそばにバイクを止めていたのだが、その横を通り過ぎ

通りに出ていく。

もちろん、帽子を目深にかぶり翔太にも帽子をかぶせた。


「おい、翔太。これかぶっとけよ。」

「あ、ありがとうございます。」

「ありがとうとかは抜きだ。とりあえず、つかまらないように

 喫茶店まで走るぞ(笑)」

「はいっ!」


そう言って少し離れたところで、ビルの地下に入っている`garnet´に向かった。

狭い階段を下り、黒いドアを開けるとそこのマスターと思われる人物が

閉店の時間なのですがとカウンターの中から声を出した。


「マスターごめん。おれおれ。帰りが遅くなって今来たんだ。

 腹ペコでさ。マスターの所しか浮かばなかったんだ。」

「まさじゃないか。どうしたんだ?」

「いやさ、大阪から帰って来たばっかりでさ、食べてないんだ。」

「でそっちは?」

「あぁ、かわいい後輩さ。」

「そっちも?」

「腹ペコです(笑)」

「んじゃ、ぼうず。ドアの外に、準備中の札かけて来い。特製カレーでも準備してやる。」

「マスターのカレーは弓弦のカレーの次にうまいんだ。」

「俺弓弦さんのカレー食べたことないっすけど?」

「いつかな。弓弦がカレーつくった時にでも呼んでやるから。」

「お前たちは黒と赤とどっちがいいんだ?」

「俺は黒で!マスターの黒は絶品だもんな。」

「まさ・・・・(笑)お前さっきまで彼女のカレーが一番うまいって言ってたじゃないか。

 都合がいいなぁ、まさは。」

「俺も黒でお願いします。」

「坊主は辛いの大丈夫か?」

「どれぐらいですか?」

「どれぐらいと言ってもなぁ・・・・・・。なぁ、まさ。」

「黒はな、コクがあるんだ。コクがあってスパイスの香りがよくってさ

 野菜の甘みがすごい。かなり煮込んで手をかけている感じ。

 赤は、本格的に辛い。南国で食べる感じの辛さでさ、初めての人には黒を進めるけど。」

「んじゃ次来た時は赤にするとして、今日は黒でお願いします。」

「了解、二人とも黒だな。待ってな。」

「`garnet´っていうんだ。病院とは関係なく前から知っててさ

 吞みに出るときとかにここで食べてからくりだしてたんだ。

 食べてから吞まないと胃に悪いしな。」

「ここはもう閉店ってさっきマスターがおっしゃってましたが・・・。」

「`garnet´は17時開店で翌朝8時が閉店なんだ。」

「へぇ。なんだかバーみたいなんですね。」

「ここは夜の仕事の人間が通う所さ。あっちにステージがあるだろ?」

「ありますねぇ。ドラムとか置いてある。」

「売れない頃はあそこで歌ったりしたものさ。」

「西村さんにそんな時代があったんですか?びっくり。」

「こっちに出てきて2,3年はバイトしながら仲間とここで歌ってた。

 つらかったなぁ。だけどマスターだけが俺らの歌をいつかは売れるから

 売れるまで頑張れって励まされながらあそこで歌ってた。

 客からひっこめのへたくそのいろんな罵声を浴びせられながらも

 俺はそれでもそれは逆の声援なんだって頑張った。

 ギターだってベースだってへたっぴでさ、ここに来る客の人たちから

 鍛えられたもんさ。」

「俺らは出来上がった先輩たちの後ろで踊ることから始まり

 コーラスに加わったりして歌を教えてもらった。

 仲間と一緒に人を笑顔になってもらうためにどうしたらいいかって

 それから始まったんだ。」

「まぁ、お前たちは事務所にいるそれが歌手として合格だったってことであって

 そこが始まりの一歩だもんな。」

「いつかは大宮先輩たちを追い越したいし、

 その上の秋山さんたちをぶっちぎりで追い越したい。

 そのためには自分たちがその間に実って自分たちを確立させて

 どんどん登り詰めないといけないんだ。」

「大した意気込みだなぁ。俺はエスカレーター式で登っていく君らだと

 始めは思っていたけど、のし上がっていきたいという欲望はすごいんだな。」

「あの事務所の中では仲良く上下関係があるように見えてますが

 実際足の引っ張り合いはすごいもんですよ。」

「でも、そういうことう言う翔太のいるmartinは5人仲がいいじゃん。」

「同じメンバー同士だと仲がいいんですよ。親兄弟よりも仲間同士が家族みたいに。」

「音楽の世界にいてここまで来るのにはお互いにいろいろあった感じかな?」

「そうですね。でも俺は西村さんたちみたいにたたき上げじゃないから

 きっと社外の人につぶされそうになったらそれを返せる根性はないかもしれない。

 そういうのを感じたり対処したことないから。」

「免疫力はなさそうだなぁ(笑)」

「でも、足の引っ張り合いをするよりも一緒に自分たちの音楽を

 議論したり成長させていくための刺激を受けあったりするのは

 すごくしてみたい。いろんなものに触れたいしやってみたい。」

「翔太は何にでも興味がある方じゃない?

 できるものはこなせるものはすべて自分でもやってみたいとか。」

「えぇ、出来るものはすべて自分でやってみたいし人に負けるのは嫌な方です。」

「弓弦にそっくりだなぁ。本当に外見だけじゃなくって

 中身も似ている。そっくりだな。」

「そうですか?あ。来た来た!」

「はい、お待たせしたな。特製黒だ。」

「おぉぉぉぉぉぉ。すごい引き込まれるぐらいに香りが抜群!」

「一口食べると虜になるぞ(笑)」

「まさ、まさもそうだったなぁ。」

「俺も虜になってもう20年だもん。」

「そんなに立つか。早いなぁ。」

「西村さんってどんな人だったんですか?」

「まさか?まさはなぁ、ひょろんと痩せててその割には貪欲でさ

 はじめのころは下手でさ、客にも聞かせられなくって

 しばらく聞かせれるようになるまで他の人につかせて楽器の練習させて

 3年目ぐらいから自分のバンドだけでやったんだよな。」

「そうそう。マスターに駄目だしされてさ、何度も何度も

 あーだこーだ注意されてしかられて。

 でもマスターのダメ出しがあったからこそ今の俺があるんだもんな。」

「・・・・・・・・。」

「おい、翔太。おいっ!」

「なんっすか?」

「黙ってるけどどうしたんだ?」

「うまいっす。俺明日も来ますよ、ここ。」

「そういうことか。明日も明後日も、いつでも来い。営業時間はさっき言った時間だし、

 よほどのことがないと店休日以外やすまねぇから。」

「やった。俺行きつけとかなくっていつもそういうのがないかなって

 探してたんだ。やったっ。マスターおかわりお願いしますっ!」

「おいおい朝だぞ?よく食べるなぁ。」

「まさは?どうする。」

「俺もおかわり(笑)」

「待ってな。」


そういうとマスターはまた奥に入っていった。

西村が若かりし頃からここに通ってた事を知った翔太は

自分しか知らない兄貴分というのがうれしくって、にやにやしていた。


「これが最後のカレーだ。2,3日作るのに時間がかかるから

 カレー食いに来るんだったら、3,4日後がいいぞ、ぼうず。」

「わかりましたっ。て言うか坊主じゃなくって橋本翔太って言います。」

「マスター。ほら、今の時代を背負っているunionMartinの一人だよ。」

「あぁ。この間、まさとまさの彼女と3人でいて一緒にけがしたぼうずか。」

「あはははは。若いやつはみんなぼうずだもんなマスター。」

「まいるな(笑)」

「冷たいのはいるか?」

「お水ください。」

「あ。俺も。」

「良く食べるなぁ、二人とも。」

「マスターのは特別。美味しすぎて。」

「そうそう。ご馳走様でしたっ!」

「よく食ったなぁ。食いっぷりがいい。」

「そうっすか?でもまた来ます、美味しすぎですって。」

「さぁ戻ろうか、翔太。」

「だね、西村さん。」

「マスターお会計。」

「おかわり込みで一人1,000円。」

「それでいいの?」

「あぁ、もう閉店だし最後をしっかりと食べてくれたからな。」

「マスターいいの?」

「あぁ。」

「んじゃ。」

「またな。また来いよ、ぼうず。」

「はぁい。」


時計を見るともう9時をまわっている。

弓弦の診察の時間はそれぐらいだったんじゃないかとそう思い

急いで病院に戻る。翔太も西村の背中を追いかけながら付いて行った。

病院の通用口からまた6階に上がり、弓弦の病室に向かう。


「弓弦。いる?」

「いないんじゃない、西村さん。」

「ほんとだ。もう診察に行ったんだ。」

「んじゃ、待つとするか。翔太。」

「そうですね、西村さん。西村さんは眠たくないんですか?」

「おい、西村さんと呼ぶのはやめないか?歌い手としては対等だと思うんだが。」

「駄目ですよ、やっぱりおれにとっては西村さんは西村さん。

 対等でもなんでもないです。大大大先輩なんですから。」

「駄目か(笑)渉もさ、渉って呼んでっていう割には俺の事、西村さんだもんな。」

「そりゃそうですよ。

 うちの会社ではきっと西村さんは山本社長と待遇は同じだよ、絶対。」

「それこそ違うと思うぞ。俺は俺だもんな。弓弦と同じ。」

「どこまで似ているんですかお二人は(笑)」

「お前だって弓弦によく似ている。きっと俺から弓弦が離れた時

 渉か翔太のどちらかが弓弦をかっさらっていくんだろうな。」

「槙村先輩には負けませんって。」

「弓弦はどっちかっていうと翔太をかわいがっているもんな。」

「どうですかねぇ(笑)俺の前では西村さん西村さんうるさくて。」

「なぁ、翔太。」

「なんですか?西村さん。」

「お前いい歌つくるなぁ。」

「なんでですか?」

「この間のアルバム。何曲目はか忘れたが歌ってるだろう?ソロで。」

「俺のソロのですか?」

「あぁ、あのワルツ。`acacia´いいなぁあれ。」

「あの曲俺にも歌わせてくれないか?」

「俺の曲をですか?本当に、西村さんがカヴァーしてくれるんですか?」

「あの曲のように繊細で素直な曲は俺には作ろうとしても無理だもんな。

 聞いてさ、この曲欲しいって思った。」

「そうなの?本当に?そんなに?」

「あぁ、お前のはすごくいいと思う。うちの社長に話してもいいか?」

「もちろん。俺の曲を西村さんがカヴァーして歌ってくれるなんて

 すげぇ嬉しい。」

「んじゃ、カヴァーの連絡は会社を通して連絡を入れるよ。」

「んじゃ俺も頼んでいいですか?」

「なんだ?」

「西村さんのプロデュースで、martinから離れてソロで歌いたい。

 で、弓弦さんと歌いたい。西村さんの手でソロデビューしたい。」

「それは無理っぽくないか?会社が違うし、弓弦が歌うというかどうか。」

「期間限定でいいんです。ずっとではなくって、期間限定で。」

「その話はうちの社長と山本社長と弓弦がいいと言えば先に進められる話だな。

 俺は喜んで二人をプロデュースするよ。

 だからその話は先に山本社長にしな。大丈夫だ、真剣に考えているんだって言って

 社長を口説き落とすんだ、翔太。」

「わかりました。なんだかそういうことをちょっとだけでも口に出して

 すすめられたらって思うとなんだかうれしくなってきますね。」

「弓弦のいないところで話が進むと弓弦へそ曲げるぞ(笑)」

「それはおいおい弓弦さんに話して、口説きますよ。

 俺絶対弓弦さんと歌を出したい。頑張ります、頑張らせて西村さん。」

「おぅ。頑張れ、それをプロデュースしたい俺がいるんだな(笑)」

「まだ帰ってこないかなぁ。」

「どうかなぁ。でもまだこの話はしないでくださいね。まだ退院も決まってないのに。

 秋山さんの仕事もまだどういうのかわかってないし。

 西村さんもまだ黙っておいてくださいね?わかってます?」

「あぁ、わかってるって。(笑)」

「TVつけます?西村さん。」

「待ってる間、男2人暇だな(笑)」

「ですね。西村さんは今日は?」

「社長が打ち合わせに来るはずなんだけど。新しい弓弦専属のマネージャー連れてさ。」

「すると俺、思いっきり邪魔ですか?」

「いや、記者会見の事だろうからいてもいいんじゃね?」

「いいんですか?」

「だって翔太も一緒だろ?記者会見。」

「そうですけど、うちの社長まだ何も言わないんですが(笑)」

「とりあえず、ゆっくりしてなよ。休みなんだろ?」

「えぇ、明日までお休みですけど。」

「なら今日の夜はうちに泊まるか(笑)」

「いいんっすか?西村さんちに泊まっても。」

「呑もうよ。翔太と吞んだら楽しそう。」

「んじゃ悠太も呼びます?悠太は昔っから西村さんのファンだし。

 西村さん一人占めすると悠太に口きいてもらえない(笑)」

「いいんじゃない?」

「んじゃ、あとで電話しようかな。」

「いつでもいいんじゃない?」


そうソファで二人喋りながら座ってTVを見ていると

弓弦が看護婦さんに連れられて帰ってきた。それも松葉づえで。


「おかえり、二人とも(笑)」

「おぅ、おかえり弓弦。」

「なんで二人たのしそうなの?」

「嫌なんでもないけど、弓弦大丈夫なのか?お前右鎖骨骨折しているんだろ?

 なのに右足のために松葉づえか?」

「左足でけんけんするよりは全然大丈夫よ(笑)」

「右肩痛くないのか?」

「ここんところ2,3日かな。松葉づえ使ってても

 痛くなくなったんだよね。大事をとって車いすで移動してることが大半だけど。」

「痛くないのか?本当に。」

「でさ、松葉づえでうろうろするもんだから先生が検査しようって言って

 今日は早めに診察に呼ばれたんだ。で、レントゲン撮って。」

「どうだった?」

「どうだったの?弓弦さん」

「両肩のリハビリは、リハビリ室で専門の人から受けるように言われた。」

「それって、動かしても大丈夫なぐらいになってるってことじゃん。

 お前すげぇぞ。早くね?」

「でも痛くない動きならば、早めに筋肉を動かさないと

 筋力落ちていくでしょ?落ちる前に元に戻していかないと。」

「だなぁ。そうそう、今日午後から社長が来るぞ。渡辺連れて。」

「今日なの?今日は午後から俊哉が来るって言ってたんだけど。」

「時間が被らないといいんだけどな。」

「俊哉、そこにある福砂屋のカステラ楽しみに来るからさ。(笑)」

「あんの?福砂屋!弓弦誰からもらったんだ?」

「ほら、峰さん。おばちゃんからもらったのよ、懐かしいでしょうって。」

「俺も懐かしい。食べていい?」

「西村さんの腹はブラックホールなの?さっきあんなにカレー食べたのに。」

「翔太君は?」

「食べたいけど、まだいいや。俊哉君が来るときに食べるんでしょう?

 俺もその時でいいや。」

「翔太も食うって言えよ。俺食べれないじゃん。」

「どんだけなんですか?社長とか来るんでしょう。

 その時弓弦さんが出せばいいじゃないですか。」

「ちぇっ。翔太はっ。」

「大人げないですよ?西村さん。(笑)

 俊哉には昨日もらったぶんのもう一つをお店でってあげたから

 一緒に食べたんじゃない?だから食べちゃってもいいけど、

 でも俊哉の分も残せたら残してあげてよ。」

「OKOK。弓弦は食べないの?」

「あたしは食べれなかったら、取り寄せるし。」

「何気にずるくない、弓弦。それ俺の口にも入る?」

「どうだろうなぁ、取り寄せてここに来た時に運よくいればの話じゃない?」

「俺がいる時を見計らって取り寄せてよ。」

「わかった、わかった(笑)ねぇ、それよりもあたしベッドに上がりたいんだけど?」

「おぅ、どら。」

「一人で大丈夫だから、ねぇおろしてよ恥ずかしいって。」

「けが人が何言ってるんだ(笑)」

「んもぅ。でもありがとう。でさ、PCとって。」

「はい。メールの確認か?」

「そうそう、何の連絡が来るかわからないからね。」

「俺は今日の午後から、ここに社長が渡辺連れてくるって聞いたけどさ

 記者会見前だしいろいろと話すことがあるんだろう。」

「それ聞いた。でも今日の午後なんだ。

 まぁ、予定はないしあっても変更できるから大丈夫だけどね。」

西村達と話しながらも弓弦はPCを開き、メールの確認をしてみた。

朝一で社長からのメールがいはいっている。


 `原田君。

  今日の午後、14時にそっちに行くこととなった。

  大丈夫だろうか。検査など入っているのであれば早急に連絡をくれると助かるが。

  それと西村がそっちに朝から行くと思うのでよろしく頼む。

  そこにいるように伝えてくれ。

  そして山本社長も、同じく`mask´のオーナーも来る。

  みんな14時にそこに集まることとなった。

  多分、君のお爺さんも来ると思われるが。

  とりあえず、その連絡だ。あとで電話する。´


社長からのメールだと記者会見で話すことの打ち合わせみたいだなと。


「西村さん。川上社長からメール来てた。

 martinの所の社長もうちのオーナーもお爺ちゃんも来るらしい。」

「真面目に直近の打ち合わせだな。

 翔太。真面目にお前もここにいたほうがいいぞ。」

「まじですか?でも楽しく過ごせるなら一緒にここにいたほうがいいかな。」

「なんだか翔太がいると弓弦といちゃつけないじゃんかぁ。」

「そういうこと口に出す?西村さん!」

「弓弦さんといちゃいちゃさせませんよ?弓弦さんはみんなのアイドルなんですから。」

「ねぇ。あたし一人でゆっくり過ごしたいんだけど・・・・・。」

「弓弦にプライバシーなんてあったっけ(笑)」

「そういうこと言うかなぁ(怒)」

「西村さんだって退院してから仕事が多くてそばにいることできないんだから

 そばにいたいって思うの当然じゃん。

 俺だって退院して仕事づくめでさ、弓弦さんのおしゃべりしたいのに

 できないんだもん。俺だってそばにいておしゃべりしたいよ。」

「わかるわかる。そうだよなぁ翔太。」

「そうですって。」

「んじゃ、静かにしてよ?」

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