第14話 それぞれの仕事
道はつづら折りに下りながら山影に回り、後にしてきた村はやがて見えなくなった。
シンは眠っている間に村へ運ばれたので、この山道を自分の目で見るのは初めてだ。
高所の景色は見晴らしがよく、空と山の重なりがどこまでも続いていた。昨日見たタカと同じだろうか、数羽の鳥がゆったりと飛んでいるのが眼下に見える。
いくつか坂を折り返して少し開けた場所に出たところで、アロウがハクを制止した。シンが手綱を握るセキも、アロウの元へと歩み寄る。
「少し荷物を整理する」
アロウはハクの背中の荷物を動かし始めた。
「え、さっき積んだばかりなのになんで?」
「うん……ちょっとな」
アロウは答えを濁したまま作業を続ける。
帰りの荷物は、スコルト村で作られた毛織物や乳製品、薬草などだ。いずれも山の恵みを生かして作られ、価値が高く比較的軽い。セキに載せていた荷物の一部を乗せてもハクは涼しい顔をしている。
「ロバって強いんだねえ」
「馬や大鳥に比べると足は遅いけどな、力や体力はあるし賢い」
褒められているのがわかるのか、ハクが嬉しそうに頭を擦り付けるのをアロウが撫でる。
「さて、こんなもんか」
最後にセキの荷運び用の鞍を外してハクに積むと、アロウはセキの背中に毛布を鞍代わりに敷いてシンに示す。
「ほらシン、ここに乗って」
「えっ?」
当然町まで歩くものと思っていたシンは面食らう。
「なんで!?アロウは?」
「俺は歩き慣れてるからいい。お前、行きに靴擦れになってただろ」
「な、なんで……」
バレていないと思っていたシンは慌てる。足が痛い、疲れたなんて言ったら帰されると思って黙っていたのだ。アロウはため息をつく。
「それくらいわかるさ。歩き方がおかしかったし……初めての靴なんだから当たり前だったんだ。丸太橋で足が滑ったのだって、そのせいもあるだろ」
「そ、そんなこと……」
ないとは言い切れない。実際痛みで注意力散漫にはなっていたのかもしれない。
「責めてるわけじゃない。早めに休憩を取らなかった俺にも落ち度はある」
うつむくシンに、アロウは膝を落としてシンに目線を合わせた。
「シン、今日会った村人の名前は覚えたか?」
「え?うん、農家のアトラドさんに、水車小屋のソラルさん、ヤギ飼いのレトスンさん……」
指折り数えていくシンに、アロウは頷いてみせる。
「そうだ、今回はその客との顔つなぎが仕事。お前は十分仕事ができてる」
そしてそっと手を伸ばす。シンが怖がらないのを確認して、そっと手の甲で目尻のあたりを撫でる。昨日の涙のあとをぬぐうように。
「移動は少しずつ距離を伸ばしていけばいい。自分を大切にしろ、無理をする必要はない……いいな?」
「……うん」
アロウの手の温かさに促されるように、シンはそっとうなずいた。
「じゃあ行くぞ、せーの!」
掛け声とともにしゃがみ込んだアロウがシンを一気に抱え上げる。
一気に視点が高くなり、毛布を敷いたセキの背中が視界いっぱいに広がる。
「片足を向こうへ、跨れ!」
「そう言われても……」
不安定な姿勢からシンは倒れ込むようにセキの背中に乗り上げた。
もたもたと足をかけて背にまたがり、アロウに支えられて何とか身を起こす。
へたくそ、とでも言うようにセキがいなないた。
「ごめんってえ」
しょぼしょぼと謝るシンに鼻を鳴らすセキを、アロウが撫でる。
「シンを頼むな。ハク、悪いがセキの後ろについてくれ」
その一言でおとなしく頭を寄せて来るハクの頭の馬具にロープをかけ、セキの荷の固定帯に結び付ける。2頭を縦に並ばせると、アロウはセキの手綱を取った。
「背筋は伸ばして、足で挟んで落ちないように」
「なんか……落ち着かないんだけど」
ゆらゆら馬の背でバランスを取ろうと必死なシンに、アロウは笑う。
「これはこれでいい運動になるぞ」
「アロウ」
シンの勘が、ふと「うそつき」の気配を感じ取る。
「ん?」
「……ううん、なんでもない」
シンはあえて尋ねなかった。
アロウの嘘は、きっとシンや、他の誰かのためだから。
「じゃあ出発だ」
2人と2頭は再びゆっくりと山道を下り始める。
黒々とした森が、眼下に近づいてきていた。




