8 酸性
『異形相手に人類の利器がどこまで効くかは不明だ。魔術もどこまで通用するか分からない。それでもこいつをここで止めなければならない。俺は古い友人であるとある大佐の言葉を思い出し、戦う事にした。
血が流れるなら殺せる』
突然の命令に呆気にとられていた右京にサンは再度、撃つように命令をする。
「さぁ、早く撃つんだ!」
右京は焦りながらも言われるままに短機関銃を構え、異形に向かって乱射する。
途中、巡礼者が雄叫びを上げながら、異形を庇おうと射線上に割って入ろうとするが左近により防がれる。
数十発の弾丸を浴びた異形は黒い液体を撒き散らしながらもよろよろとこちらに向かってくる。
一本の触手を異様に伸ばし、右京を捉えようとするが、サンが高周波ブレードを抜き、それを一閃のもと叩き斬る。
「ダメージは負っている筈だ!続けるんだ!」
サンが右京に向かってそのまま続行するように言う。
異形から飛び散った黒い液体がゴロツキの死体にかかると音を立てて死体の一部を溶かし始める。
俺はそれを目撃すると皆に注意を促す。
「気をつけろ!こいつの体液は酸性だ!」
「了解!」
高周波ブレードで触手の相手をしていたサンが異形から大きく距離を取る。
巡礼者の方を見ると左近によって縛り上げられていた。
良し。
下手にこれ以上血を流してこの異形をもう数体召喚されてしまったら手に負えなくなる。
相手に怪我をさせずに縛り上げるとは流石シノビの捕縛術といった所だろう。
サンが俺に魔術をもって助太刀するように言う。
「ヨエル!こいつに魔術は効くのか?」
「試せば分かる!」
俺は人には聞き取れない速さで呪文を唱える。
唱え終わると同事に短剣を取り出し、異形に向けて放つ。
異形に命中するとそのまま短剣は光り輝き、爆破する。
爆発は異形の胴体の半分を破損させる。
しかし、異形かろうじて息をしていた。
そこで左近は瀕死状態の異形に素早く駆け寄り、二対の小刀をもって異形の無貌の頭を切り落とす。
これでおしまいだ。
異形はついには動かなくなる。
左近はフーっと息を整えて言う。
「異形一匹に短機関銃のマガジン一個、短剣を一つを消費しました」
「ああ。恐るべき生命力だ」
「こんなのが数体、数十体、召喚されたら止められませんね」
「あっという間にこの街はかれらの巣窟になるだろうな」
俺の冷静な分析を聞いて、右京が身震いをする。
一体相手に此処まで苦労をさせられたんだ。
こんな異形が大群で押し掛けてきたら街は一瞬で壊滅だ。
俺達がそんな事を話してる間も巡礼者は気が狂ったように雄叫びを上げている。
巡礼者は酷い興奮状態になっていた。
俺は懐から一つの小袋を取り出し、巡礼者に嗅がせる。
特製のハーブと川の底から採取した泥を乾燥させた物をブレンドしたそれを嗅いだ巡礼者の興奮は収まり、朦朧とする。
取り敢えずこれで暴れまわる事はないだろう。
気絶させても良かったがそれがどういう結果を引き起こすのが分からない以上は無難に済ませたい。
俺はふっとサンを見ると彼はまだ高周波ブレードを抜き身のまま持っていた。
彼の目には強い憤怒が現れていた。
彼は巡礼者に近付こうとするが、俺が急いでそれを阻止する。
「どうするつもりだ、兄弟」
「分かってるだろ?兄弟。悪を断つんだよ」
「彼はまだ人間だ!」
「相変わらず甘いな」
サンは俺の制止を振り払い、巡礼者に向けて高周波ブレードを振るう。
しかし、その一振りは捕縛縄と巡礼者の黄色のローブを切り裂くに留まった。
巡礼者のローブの下の肉体が露わになるとそこにいた皆が驚愕の声をあげる。
「これが人の形か?兄弟よ」




