7 異形のモノ
『主の御加護を得た者は得てして救世主、聖人、あるいは英雄的な人物へと変化していく。では逆に邪神と呼ばれるモノの加護を得た者はどうだろうか?彼らは秩序を破壊し、人が創り出したものを破壊することに快楽を覚える。そもそも邪神の加護なんかありはしない。彼らは悪戯に力を与え、その者と周りが堕落し、混沌が生まれるのを楽しそうに眺めるだけだ』
俺は戻ってきたシノビの兄妹を労ってから報告を聞く。
「御苦労。なにか掴めたか?」
「非常に不味い事になりました。移動しながら話しましょう」
左近が俺達に急ぐように言う。
そして彼の顔には焦りがはっきり見て取れた。
俺達は分かったと言うと直ぐに彼に連れられて移動を開始する。
そして移動しながらも報告を受ける。
「最後の巡礼者の居場所が分かりました」
「でかしたな。それで不味い事態とは?」
「襲われていました」
報告を受け、俺の脚が一瞬止まる。
サンが俺の肩を叩き、先に進むように促す。
しかし、早足に進むサンの背中には俺と同じく、動揺が見て取れた。
俺達は進むペースを上げる。
早歩きしていた俺達は気付けば走っていた。
左近は走りながら事の成り行きを説明する。
「彷徨い、路地裏に入った所、ゴロツキ達に襲われたそうです」
「なんて事だ。巡礼者は無事か?」
「シノビの者が介入し、阻止はしたようですが、腕に切り傷が負ったそうです」
「血が流れたのか!急ぐぞ!」
俺達は全力で走り、その路地裏に到着する。
そこには黄色のローブの者が一人、既に息絶えた者が二人、そして異形のモノが一つあった。
二人の死者は恐らく、例のゴロツキとシノビの者だろう。
巡礼者は突如現れた俺達に目向きもせず、膝を折り、召喚された異形を祈りによって崇めていた。
その祈りの言葉は人が発するどんな言語にも似てはなく、獣の唸り声に近かった。
冒涜的な雰囲気が漂うその祈りは聞くものを不快にさせ、嫌悪感を覚えさせる。
召喚された異形は強いていうなら犬に似ていた。
しかし、本来なら顔がある筈の部分は無貌になっており、身体のいたる部分から触手が生えていた。
異形はぎこちない動きで巡礼者に近付く。
それはまるで下手な犬の真似をしているかのようだった。
異形の触手の一本がそっと巡礼者の頭を撫でる。
巡礼者はそれをただ受け入れるだけでなく、喜びのあまりに涙を流し、嗚咽が混じった祈りは更に激しさを帯びていく。
しかし、巡礼者は大きな勘違いをしている。
我が子を慈しむようなその行動にはなにも意味はない。
異形はただ訳も分からないまま、人の真似をしているに過ぎない。
彼ら、異形は愛や慈悲といった人の心を持ち合わせてはいない。
けれど、信仰的盲目状態に陥っている巡礼者にはそれが分からないのだろう。
哀れな人の子は既に魔に魅入られ、堕ちたのだ。
異形のモノは俺達を見つけると犬のように触手の一本を尻尾に見立てて振る。
シノビの兄妹、特に右京はそれに強い嫌悪感を示し、一歩後ずさる。
左近はそんな妹を守るために彼女の前に立つが、やはり大きな動揺を隠せずにいた。
それを見たサンが左近に右京の前から退くように言う。
そしてそれから右京に銃を撃つように命令する。
「右京、撃て」




