6 思惑
『邪神は人の心の影を利用する。それは例えば憤怒、嫉妬、傲慢などあらゆる負の感情を増幅させ、それを利用する。そしてそこには我が主の様な慈悲や慈しみはない』
俺達は思考を切り替えて、行方不明になっている最後の巡礼者をどう探すかを話し合う。
この広大な街で探すにはシノビ·オーダーの力が必要不可欠だ。
ここでシノビの兄妹は他のシノビ達とコンタクトを取るべく別行動をする事になった。
これらはシノビ·オーダーの秘匿性を保つ為でもある。
「それでは行ってきます。補佐官、サン」
「ああ。何か分かったら連絡をくれ」
兄妹は街の人混みの中へと消えていく。
あんな黒尽くめの格好でも人混みの中に入ると違和感無く溶け込み、認識出来なくなる。
これは魔術ではなくシノビの技なんだろう。
それを見届けるとサンが口を開く。
「あれも人の叡智の結晶か。実に素晴らしい」
「ああ。人の進化には驚くばかりだ」
「実に羨ましいな。そうだろう?兄弟」
「主は己の写し身として創造なされたのだ。彼らはあまりそれを上手く扱えてはいないが、とてつもない可能性を秘めている」
サンは普段、他の人と接するとは違った口調で俺に話しかける。
それは何処か俺に似た口調であり、何処か荘厳な雰囲気を漂わせていた。
「ヨエル。我ら兄弟は何処まで介入を許されるのだ?」
「それは人の自由意志次第だ」
「邪神共はこの宇宙の理の外にある。正直に言えば不快極まりない」
「憤るな、兄弟。出来る事をしよう」
サンの普段の穏やかさはなりを潜め、激しさを伴った感情的な一面を見せる。
しかし、彼の考えには同意見だ。
外なる邪神が我らが主が見守るこの地上に混沌をもたらす事は見逃すつもりはない。
ならばこそ。
「サン」
「ああ、ヨエルの考えは分かっている」
「巡礼者達を滅ぼすぞ」
「最初からそのつもりだ」
依頼された任務とは違うが、俺達兄弟は彼ら巡礼者達を見逃すつもりはない。
残念ながら彼らの魂はもう主の加護の元にはいない。
彼らは邪神に取り込まれ、人としての機能や心は既に無くしている。
俺達は人類の補佐官であり、守護者だ。
これは俺達兄弟二人の聖戦だ。
「して、どうする?ヨエル」
「邪神の影響が厄介だ」
「ならば、他の兄弟を招集するか?」
「まだその時期ではない」
最終決戦の時は遠い。
人類はその段階には達していない。
俺達二人でやるしかない。
まだコートを脱ぐには早い。
「今は行方不明になっている最後の一人の巡礼者の情報を待とう」
「承知した」
俺は煙草を取り出すと火をつけ、吹かす。
一服するとその煙草をサンに渡す。
サンは顔を覆っている布をズラすと俺によく似た顔を晒し、煙草を加える。
彼は深く煙草を吸い、また俺に煙草を戻す。
特製のハーブをブレンドしたこの煙草は俺達兄弟の気を静めてくれる。
サンはいつもの調子に戻り、俺に話しかける。
「実に上手い。手巻きの腕が上がったじゃないかい?」
「巻く回数が増えたからな」
「苦労が多い事だ。皺が増えたね」
「言ってくれるな、兄弟」
サンは楽しそうに笑う。
そんな時にシノビの兄弟が戻ってくる。
何か収穫はあっただろうか?




