1 からくり
『シノビ·オーダーの歴史は古い。かの魔術的大災害以前から存在しているとされる。名を変え、形を変え、今もなお脈々と続いている。本来知られてはならないが、完全に無いもの扱いされるのも良くないらしく、不可視の抑止力として働いている』
巡礼者達の出現はまさに災いの前触れだ。
早速、目撃者に会いにシノビ·オーダーを訪れた。
彼らはこの街の街長、正式には市長ではあるが、通称ドンと呼ばれる男が抱える私設の諜報部隊、あるいは機関だ。
表向きには存在しないという事になってはいるものの、この街の人間なら誰しも彼らの存在を疑う者はいない。
彼らはドンの目であり、耳であり、時には剣にも盾にもなる存在だ。
しかし、自らそう名乗る事もないから誰が所属しているのか知らないし、その規模も分からない。
彼らは己だけで自己完結しており、部外のものと働くことは基本的にはない。
それにも関わらずに何故、俺やマザーがそれに所属している人間を知っているのかと言うと、その兄妹は神秘協会が以前に保護をし、ドンに紹介したからである。
「ここだな」
俺は戦闘用のハイテク装備や機械、又はそれら関連の部品を取り扱う店、「KARAKURI」の前に来ている。
これは兄妹がカモフラージュする為に店員として働いてる店だ。
俺は早速と入店をする。
「いらっしゃいませ!ってヨエルさんですか」
「久しいな、例の件で来たぞ」
綺麗なストレートな黒髪に切れ長の目、東洋人の血が濃く現れた顔立ちをしており、店の制服を着用した女性が声をかけてくる。
兄妹の片割れ、右京だ。
用件を単刀直入に告げると彼女はとぼけてみせる。
「はて?例の件とは?」
「またそれか」
「ちょっと分かりかねますね」
任務絡みだとこの兄妹は初手は必ず知らぬ存じぬで済ませるのだ。
本人達が言うには様式美との事だが一々面倒な事だ。
俺は合言葉を言う。
「収穫祭だ、草の者」
「お待ちしておりましたよ、ヨエルさん」
俺はこのやり取りに短く溜息をつく。
俺は彼女に奥の部屋に案内される。
そこには甲冑のデザインを施した最新のテクノロジーを詰め込んだサイバーアーマーに身を包んだ男が一人、電子煙管を吹かしていた。
兄妹のもう片割れ、左近だ。
彼も妹と同じく黒髪だが短く切り揃えており、目も切れ長なのは変わらないが、右京が子猫のような愛嬌のある目付きなら、彼の目はまるで狐を連想させるような細く、鋭い目付きをしていた。
「待っていましたよ、補佐官」
「元気にしていたか?左近」
「ええ、まぁぼちぼちですね」
彼は煙管の一服を勧めるが俺は自分のがあると言って煙草を取り出す。
俺が煙草を口に加えるといつの間にか兄と同じく最新のテクノロジーウェアの上に黒い猫の刺繍が施された黒い羽織を羽織った右京が隣に立っており、マッチで火を起こし煙草に火をつけてくれる。
「悪いな」
「いえいえ、どうですか?」
「火薬、燐の香りがいいアクセントだ」
俺は香りにノスタルジーを感じながらも話を進める。
「それで?巡礼者達の目撃は確かなのか?左近よ」
「はい。情報に照らしあわせた所、間違いないかと」
「この街はとことん面倒事を好むようだな」
「賑やかで良いじゃないですか、補佐官」
左近はどこか楽しそうに笑う。
歳は二十代半ば、刺激が欲しい年頃なのだろう。
しかし今回の件は笑えない。
俺は気を引き締めるように促す。
「ええ、分かっておりますとも補佐官。そうだろう?右京」
「ええ、兄上。七人ミサキ退治といきましょう!」




