55 別れの挨拶
『これにて街でのモーゼスから依頼されていた連続行方不明の一件は終わりを迎えた。残念ながら主犯を生きて捕らえる事は叶わなかった。しかし敵の思惑を知る事が出来た。警戒を更に高めなくてはならない』
俺は薔薇とザフラに今回の一件の助太刀に感謝をする。
彼らが居なければ戦いは更に厳しいものになっていただろう。
「薔薇とザフラよ。お前達のお陰で全員無事に生き延びる事が出来た。感謝をする」
「気にするな、共に戦えて光栄だった、ヨエル殿」
「まぁ、中々楽しかったわ、ヨエル」
薔薇は俺と握手を交わし、ザフラは飄々とした様子で手をヒラヒラとさせる。
モーゼスも改めて礼を述べる。
「ありがとう、暗殺教団に借りが出来ちまったな」
「先の大戦で戦ってくれた恩を返したまでだ、英雄殿」
「おう、暗殺教団を抜ける気になったら何時でも頼ってこい。いい役職を用意するぞ」
「考えておこう」
モーゼスも薔薇と握手を交わす。
ザフラに対してはなにも言わずに深々と頭を下げるに留めた。
ザフラはそれに対してカーテシーに似たポーズを取る。
それからザフラは少佐に向かい同じポーズを取るが、一言を添える。
「ジブリール、火が貴方を導いてくれるわ」
「火の貴婦人の御加護、確かに頂きました」
少佐はザフラに敬礼をする。
少佐も今回での一件で色々と収穫があった事だろう。
彼はモーゼスにも劣らない戦士になる事だろう。
それには俺だけではなく、薔薇とザフラも同意見だろう。
最期に二人はエコーに別れの挨拶をする。
「未来の宝よ、多くは言わない。自分の道を行くがよい」
「戦いに疲れたら尋ねてらっしゃい、癒やしてあげるわ」
薔薇は多くを語らず、ザフラはウィンクを送り、最後までエコーをからかう。
エコーは森の部族の礼儀に従い、感謝の意を示す。
「ありがとうございました!お二人にグレートスピリッツの御加護がありますように!」
エコーは力強く地面を踏む。
それに薔薇は頷き、御加護、確かに頂戴したと言う。
さぁ、これで別れの挨拶は充分だろう。
いや、後一つ、別れが残されているな。
俺は薔薇を見つめる。
薔薇はそれを受け取り、俺の前まで来ると跪く。
俺は彼の許可を取ると彼の頭に手を置く。
「ヨエル殿」
「何も言うな。運命の導きだ」
「よろしく、頼む」
「任された」
俺は任命の儀を始める。
「我が友、月下美人、月の華ハサンの名に置いて薔薇、この者を暗殺教団の新たな長と任命する。
人類の為に良きに計らえ」
俺はあらかじめハサンに頼まれていた任を遂行する。
そしてハサンの言伝を薔薇に託す。
「暗殺を必要とする時代は終わり、教団も幕を閉じる。我が愛しい子よ。教団は新たな長の炎で浄化され、新しく生まれ変わる。して、その名は?」
薔薇はザフラを一瞥し、口を開く。
「我が最愛の月、ハサン。我が最愛の宝石、ザフラ。この両名の名に恥じぬ様にこう付けようかと思います」
月長石の騎士団。
それが薔薇が名付けた暗殺教団の新たな道を示す名だ。
彼らは後に月の騎士として知られる事になる。
しかしそれは後の話だ。
モーゼスがそれを聞いて失笑をする。
「かの十字軍と敵対していた暗殺教団が騎士を名乗るとはなんとも面白い話だな」
「モーゼス殿は反対か?」
「いや、フルーシヤーには敬意を持っている。せっかくの縁だ、騎士らしくしようじゃねぇか」
モーゼスは跪いている薔薇の前に立つ。
生憎、長剣はないが、勘弁してくれと言うと自前の短剣を抜くと薔薇の肩に置く。
「テンプル騎士団、兜のジャンゴの弟子、モーゼスがこの者を騎士と任命する。騎士の名に恥じぬ様にな」
「はっ!」
「これで俺達は騎士の契りを交わした兄弟だ。信仰は違うから異母兄弟って所だな」
モーゼスはそういうと高らかに笑う。
薔薇は感銘を受け、黙るばかりであった。
これでここでやるべき事は終わった。
俺はやり残した事をする為に解散をする。
「皆、よく戦ってくれた。ありがとう。それでは、またな」




