54 終わり
『火を司るジン、サハト。彼もザフラ同様、イフリートである。ザフラが火の熱情ならば彼の性質は憤怒だろう。彼の出現によりメメント・モリの一員を捕らえることは叶わなくなってしまった』
薔薇に続き、モーゼスが魔術師としてジン、サハトに挨拶をする。
モーゼスは床にしゃがみ、身を低くする。
「魔術師、モーゼス。火の上級霊に挨拶を申し上げる」
「マギか。くるしゅうない、面を上げよ」
サハトはモーゼスに楽な姿勢を取るように促す。
そしてそれから少佐とエコーを見ると言う。
「そこな二人は何故、我に挨拶をせぬのだ?」
「失礼、サハト師よ。彼らは魔術関連の者ではない故に作法を存じないのです」
「そうか。知らぬなら責める事はせぬ」
薔薇が少佐とエコーの二人を庇う。
会話を聞いた二人が直ぐ様、慌ててサハトにお辞儀をする。
サハトはそれに対して軽く頷く。
そして改めて己の紹介をする。
「我はイフリート。名はサハト。この様な無様な姿での挨拶、失礼をする」
「どんな姿でも素敵だわ、サハト」
「そなたもだ。腕はどうした?ザフラよ」
サハトはザフラに何故片腕がないのか問う。
ザフラはエコーに与えたと短く応える。
それを聞いたサハトはエコーの腕を見る。
それからザフラに向かって言う。
「あまり人の世の理を乱すでない、ザフラよ」
「私の霊的本質、心に従ったまでよ」
「そうか、ならば致し方ない」
サハトはザフラの理由に納得を見せる。
そしてようやく俺の方を見ると俺の目を見つめる。
俺はサハトに近付き、片腕を上げて彼を称える。
サハトも俺と同じく腕を上げて俺を称える。
「神の子に加護あれ」
「主が与えられた火よ、永遠たれ」
俺達の挨拶はこれで充分だった。
それを見たザフラが俺に文句を付ける。
しかしサハトがそれを窘める。
「何よ、私の時とは違って随分と丁寧じゃない?」
「そなたに非は無かったか、ザフラよ」
「ないわね」
ザフラが堂々と言い放つ。
このイフリーターの身勝手には随分と慣れたものだ。
しかし求められたのならしっかりとしよう。
俺はサハトにしたと同様の挨拶を行う。
彼女は同じくそれに応える。
「愛の炎よ、消える事なかれ」
「人を補佐する者よ、栄光あれ」
どうやらザフラもこれで満足したようだ。
足を持たぬサハトは滑るようにエコーに近付くと失礼と言って、彼女の腕に触れる。
「この腕はそなたを蝕む。悪いが返して貰おう」
そういうとサハトはエコーの腕を引っ張ると魔法のように腕が彼女から引っこ抜かれる。
エコーはびっくりするが痛みは感じ無いようだ。
それからザフラに近付き、腕を彼女に戻す。
そして再び、エコーに向かい合う。
「望むならそなたの腕を再生してやろう」
サハトはエコーの生身の腕を再生する事を提案する。
しかしエコーはそれを断る。
「いえ、大丈夫です。私には機械の腕の方が性に合っています」
「そうか。ならば良い」
サハトは事態が収束した事を確認すると帰ると言う。
俺達はそれを見届ける。
「グール達が迷惑をかけたな、許されよ」
そういうとサハトの脚の部分にあった炎が彼の全身を包む。
一瞬にして燃え上がると炎は綺麗に消え去る。
これで本当に終わりだ。
俺はモーゼスに向かって頷くと彼もそれを返す。
そして終わりを宣言する。
「皆のもの!勇敢な戦い振りであった!この戦、我々の勝ちである!」




