48 少年とジン
『いくら人外の理をもつ神秘を利用したとしてもそこには何かしらの意図や動機がある。相手の行動を観察し、分析すればそれらも見えてくる筈だ。薔薇は俺達にその事を思い出させてくれる』
薔薇は俺にメメント・モリについての詳細を聞いてくる。
彼らは未だに謎が多いが俺は知っている事を共有する。
「彼らは死神の使徒を自認している。全ての死を目指している」
「狂信者の類か」
「ああ。見境なき盲目的信仰者の集まりだ」
「それは厄介な集団だな」
あの連中は死による救い、あるいは浄化を目指している。
本来、人は死から逃れようとする。
しかし、彼らは死の甘き包容を良しとする。
「彼らはその目的の為ならどんな手段でも用いる」
「俺には彼らの目的も手段も同じ様に見える」
「ああ、全ては死だ」
そこでザフラが俺達の話に入ってくる。
彼女もメメント・モリに興味を持ったのたろう。
彼女なりの意見を述べる。
「急がなくても人はいずれ死を迎える運命だわ。随分とせっかちね」
「お前が好きな傲慢なタイプか?イフリーターよ」
「いいえ、気に入らないわ」
それは以外な事だった。
我を通す者を好む彼女は彼らの行動を好まないという。
俺は彼女に何故かを聞いてみたくなった。
「そこには選択の美学がないわ。只々終わりだけを望んでいる」
「ああ、自由意志なぞ彼らからすれば持つべき物じゃないだろう」
「それは傲慢じゃないわ、諦めた負け犬共よ」
彼女は言う。
死とは人生の集大成だと。
如何に輝き誇りながら生き、地上に死後も忘れ得ぬ名声を遺すのが人という戦士達がすべき事だとも。
終わりだけ見つめ、戦いを放棄した負け犬にはなんの魅力も感じないと。
「私は知っているわ、抗え難い困難に直面してなお、死を拒み、その身が焼かれようと生きる事を諦めなかった者を」
彼女は真剣な眼差しで薔薇を見つめる。
そして続ける。
「その少年は狂った父親の禁断の儀式の為に生贄にされたわ。妻も我が子も炎に焚べ、ジンを呼び出したわ」
「拝火教か?」
「そんなもんじゃないわよ。自分の力を過信していのよ、自分なら炎の力を我が物に出来る、其の為の犠牲ならどれだけでも払うと」
「して成功したのか?」
「成功?怒り狂ったジンはその男に望み通り炎を与えたわ。彼は全身をその炎に包まれて灰になった」
ザフラは何かを思い出し、怒りに満ちた態度で話す。
「そのジンが求める生贄は死ではなかった。それを哀れで愚かな男は理解していなかった」
「では、ジンの求める生贄はなんだ?」
「戦いよ。ジンは生きようと戦う者達を守る存在だった」
ザフラは喋ってる間もずっと薔薇を見つめていた。
薔薇はその視線を無言で受け止め続ける。
「ジンは自分の世界に帰ろうとした時、生贄にされ、全身を焼かれた一人の少年と目があった。少年はまだかろうじて息をしていた。そしてジンに向かって言ったのよ」
「此処で終わる訳にはいかない」
ザフラに対して薔薇がそう言う。
ザフラは笑みを浮かべて頷く。
そして続ける。
「ジンはその少年に問いかけた。父親を、ジンを憎むか?母親を殺し、自分を焼き尽くす炎を憎むかと」
「少年は怒りに包まれていた。力を持たない非力な自分に対しての怒りだ」
「ええ。その怒りはどんな炎よりも強く燃え盛っていたわ。しかも少年はジンに向かってこう言い放ったのよ」
美しい火の精よ、悲しむな、怒るな。
火は燃やすために存在するだけだ、その存在意義を責めるものか。
ならばとそのジンは少年に対して彼の存在意義を問う。
そして薔薇は言う。
「戦いだ。最期の瞬間まで戦い抜く事が俺の目的だ。だからこの炎は俺を殺せない」
ザフラは薔薇に近付くと膝を折り、彼の手の甲に接吻をする。
「そのジンは少年に己の力を与えたわ、そしてジンは代わりにこの世で見たことのないぐらい、どんな宝石よりも美しいものを手に入れたわ」




