46 傷と愛
『ルビーは古代から強力な魔除けの石として知られる。又、その持ち主に強い覚悟と勝利をもたらしてくれるという。後者の覚悟と勝利なら少佐は既に持ち合わせている。それでは魔除けを目的とした贈り物だろうか?それも勿論あるだろ。しかし、俺の推測はこうだ。戦場に身を置きながらも強い葛藤を持つ少佐、その少佐の負担が少しでも軽減出来るように死にゆく者への最期の手向けだろう。せめて少佐が手に掛ける者達が恐怖ではなく、美しさの中で終わりを迎えれるようにと』
モーゼスが少佐に贈られた首飾りを眺めて害が無いことを確認する。
宝石の首飾りと言えば呪いが付き物だ。
何故かは知らないが、恐らく宝石が持つ、人を惹きつける力を利用してるのだろう。
そんなモーゼスに対してザフラは心外だという態度を示す。
「女の贈り物が怖いのかしら?ご老人」
「いや、あんたが怖いのさ、イフリート」
「そう?まぁ、いい心掛けね」
自分が人間に恐れられる存在という事はザフラも了承済みだ。
だからこそ、モーゼスの不安も当たり前だと言う。
しかし、害を及ぼしたいなら彼女は呪いの宝石ではなく火を贈るだろう。
彼女ならきっとそうする筈だ。
実際に身を持って体験しているからな。
モーゼスはなぜ少佐に贈り物をしたかと問いかける。
「彼に迷いがあるからよ」
「それだけか?」
「ええ。私にはないモノだからね」
実際に彼女は迷いとは無縁だろう。
したいがままに振る舞うし、その力も持ち合わせてる。
その答えにモーゼスは納得しかねる。
「迷いなぞ人間なら誰しもが持つものだろ?」
「そうね。でも、彼の場合はその並外れた才能を行使する事に葛藤があるわ」
それはね、傲慢なのよ。とザフラは笑う。
それを聞いた少佐は少しばかり肩を震わせる。
恐らく図星だろう。
強さ故の葛藤。
それを嘲笑い、愛し、良しとする。
それがザフラというイフリーターなのだ。
「良いかしら?ジブリール。その才能を無駄にしては駄目よ」
「人を傷付ける才能でもですか?」
「ハッハッハ!!」
ザフラが腹を抱えて大笑いをする。
その態度に少佐は少しばかり嫌な表情を浮かべる。
しかし彼女は気にせずに可笑しい事を言うわねと続ける。
「人間なら誰しもが誰かを傷付けるわ、そこに才能の有無は関係ないわ」
「人間は傷つけ合うものだというのですか!」
「ええ。誰もが傷を負い、誰もが傷を与える。でもね、同事に人間は誰しもが誰かを愛する事が出来るのよ」
戦いなくして愛は有りえない。
ザフラははっきりとそう断言する。
全ての恋人は戦士だと付け加える。
力強い言葉に少佐は感銘を受ける。
「全ての愛、そう、愛の戦士に私は敬意と愛を持って接するわ」
「貴婦人、貴方は愛の女神でしょうか?」
「いいえ、周りが言うには気狂いのジンらしいわ」
ザフラは愉快に笑う。
それに対して薔薇は微笑を贈る。
モーゼスはザフラの行動に偽りはないと確信すると少佐に言葉を掛ける。
「少佐も隅に置けねぇな。良かったな、色男」
「大佐までそんな事を言うのはお止め下さい」
「さぁ、本題に戻ろう」
モーゼス達が飛び出して来た角を曲がると数体のグールの遺灰と戦いの痕跡が目に入る。
やはり認識していた数よりも明らかに多い。
恐らくこのままだと更に増え続けるだろう。
迅速にこの異常な召喚の原因を突き止めなきゃならない。
そう思っているとモーゼスが俺に言葉を掛ける。
「ヨエル、俺の推測だが、敵は連続行方不明の件にも関わっている」
「隠れ蓑にしたって事か?」
「ああ、裏社会の人間を雇っていたのだろう」
モーゼスは怒りを滲ませながら続ける。
その行動を後悔させてやると。
「誰だかしらねぇが、俺の魔術を拝ませてやろう」
一人の魔術師が静かにそう宣言をするのであった。




