45 赤いルビー
『モーゼス達と薔薇の出会いは良い形で迎える事が出来た。モーゼスの中にある暗殺者への悪印象は薔薇の人徳のお陰で妨げにはならなかったようだ。恐らくハサンはそれらも想定して薔薇を送ってきたのだろう。やはり彼の人を見る目はずば抜けている。それだけに彼が言うエコーの危うさが現実味を浴びてくる事に俺は不安を覚えてしまう』
薔薇のシミターをじっくりと鑑賞し終えた少佐はシミターを持ち主に返す。
しかし少佐の予想とは裏腹にその剣から一切魔力を感じ取れない。
先程の斬撃は薔薇の剣術と火の魔力によるものだった。
少佐が彼の剣に対して感想を述べる。
「しかし見事な装飾ですね。しかし、いささか実用性には欠ける気がします」
「ああ、実際にこの装飾はなんの意味も持たない、飾りだ」
薔薇は特に宝石といった装飾品には拘りをもっていないようだ。
恐らくはあのイフリーターの趣味によるものだろう。
彼を着飾る数々の宝石もそうだろう。
二人の会話を聞いていただろうザフラがローブから出てくる。
いきなりの出現にモーゼスと少佐は驚き、警戒する。
特に魔力感知に長けてる魔術師モーゼスは、だ。
「えらい別嬪さんだな、何者だ?」
「始めまして、ご老人。何者に見えるのかしら?」
「その魔力は上級の霊のものだ。見た目だけなら女神か天女の類に思えるがな、善の類ではねぇだろう」
「あら、善悪の話をするの?お前の手も随分と血に塗れてるように見えるわ」
ザフラはモーゼスに対して人の事が言えるのかしらと返す。
ハサンとの件を思い出したのかモーゼスは舌打ちをする。
相手の神経を逆撫で出来たことにザフラは喜びの笑みを浮かべる。
俺は話がややこしくなる前に間に入る事にした。
「コイツはイフリーターだ。名はザフラだ」
「イフリートか!初めてマジモンを目にするぜ、長生きするもんだな」
モーゼスもジンについては知ってるようだ。
もっとも魔術に関わっている者なら当然だろう。
そしてジンの恐ろしさも良く理解しているのか先程のちょっかいについては追求する気はないらしい。
賢明だ。
ザフラは少佐に話しかける。
「そこの男、ジブリールと言ったかしら?宝石は好きじゃないのかしら?」
「いえ!そんな事はありません!戦場暮らしが長いせいか感性が鈍ってるだけです!」
「あら、そうなのね?なら、感性を取り戻して頂戴」
そう言うとザフラは宝石の首飾りを一つ、少佐に手渡す。
そしてそれを身に着けるように言う。
しかし突然の事で少佐は萎縮してしまう。
「失礼ですが貴婦人、こんな高価な物は自分のような人間には相応しくありません」
「あら、貴婦人?フフフ。良いから貰いなさい、命令よ」
「わ、分かりました!それでは有り難く頂戴します!」
その首飾りは見る者を魅了するような赤いルビーだった。
軍人には似つかわしくないと思っていたが、少佐が身に着けると何故かしっくりとくるものがあった。
ジンが宝石を与えるとは中々に珍しい事だ。
それはザフラは気紛れなのだろうか?それとも少佐になにか感じるものでもあったのか。
「良いかしら?ジブリール。真に強い男は美しくなきゃいけないわ」
「美しく、ですか?」
「ええ。お前がもたらす死を直前にした人間は最期の思い出としてそのルビーを見惚れる事でしょう」
並外れた美への執着を持つザフラは死にゆく者達の最期の表情にまで美を添えるように少佐に促す。
それは慈悲なのか、果てしない強欲なのか。
戦場で赤い輝きを誇る宝石のジブリール、その名が語られるのはのちの話である。




