44 曲がり角
『神秘と相対するものは普通の精神感や倫理観を持たない者が多い。訳ありな人間が多いのはそのせいだ。しかし逆に真っ当な人間が彼らと真っ向から勝負出来るだろうか?答えは否だ。人ならざる者と相対する時は自分も片足をそちら側に踏み入れる必要があるという事だ』
もう少しの所でモーゼス達と合流できる所まで来た。
後は曲がり角を曲がればすぐだ、と思っていると二人の人間が角の向こう側から飛び出してくる。
いや、腹部に損傷が見られる。
あの傷で動けるという事は人ではない事だ。
恐らくはグール。
そう思っていると彼らに続いてモーゼスと少佐が後を追う形で飛び出してくる。
「ヨエル!グールだ!!」
「了解!対処する!」
俺がモーゼスにそう返事をすると同事に二人の影がグール達に向かう。
エコーと薔薇の二人だ。
エコーは新たな腕でグールの頭を捉えると腕を発光させる。
それはまるで星の輝きかのようだった。
「もう恐れない!」
彼女はそういうと神の力をグールの頭に流し込む。
その凝縮された光はグールの目や口、鼻などから漏れ出す。
相当な熱量の光を頭に注入されたグールは煙を立ててその場に倒れ込む。
薔薇の方はすれ違いざまにグールの胴体を豪華な装飾がなされた湾曲した剣で切断するが、それと同事に一発の弾丸がグールの頭を撃ち抜く。
少佐だ。
少佐の方を見ると既に銃をホルスターに仕舞い終わっている。
モーゼスと少佐は俺達の所へ駆け寄る。
「おう、お嬢ちゃん。その腕はイメチェンか?」
「切断面が焼き切れてる、そのシミターは魔剣の類ですか?」
モーゼスはエコーの新たな腕について尋ねる。
少佐の方はというと薔薇の武器に興味を惹かれたようだ。
モーゼスも少佐も怪我はないようだ。
「二人とも無事で良かった」
「なんだ?俺等がグールなんかに遅れを取ると思ってんのかよ?」
「いや、要らない心配だったな」
「当たり前だ。所でそちらの大男はどちら様だ?」
モーゼスは薔薇について尋ねる。
俺は二人に薔薇の紹介をする。
「暗殺教団の薔薇だ。助太刀をしてもらっている」
「幹部か。俺はモーゼスだ」
モーゼスが自己紹介をすると薔薇は片方の手を胸の前に当て、お辞儀をする。
まるで貴族かのような礼儀作法を見せる薔薇にモーゼスと少佐が困惑を見せる。
確かに暗殺者のイメージとは異なるだろう。
「我が師、月下美人の命によりエコー殿の警護をしている、薔薇だ。以後お見知りおきを」
「随分と丁寧だな、俺もやり直させてくれ」
薔薇の礼儀正しい紹介にモーゼスが姿勢を正す。
礼儀には礼儀を持って接する。
モーゼスはそういう男だ。
「先程は失礼した。俺は魔術師モーゼスだ。軍にて大佐の任を預からせて頂いている。よろしく頼む」
「高名なお方だ。枝分かれの獅子団は語り継がれるべき武勇の数々だ」
「そんな古いもん良く知ってるな?」
「お気に障ったのなら失礼した」
「いや、構わねぇよ」
薔薇がモーゼスの武勇伝は心躍るものばかりだと絶賛する。
ハサンの件で暗殺者に良くない印象を抱いているモーゼスは薔薇の態度にきまりが悪そうだ。
そして薔薇は今度は少佐に名を尋ねる。
「モーゼス大佐の下で少佐をやらさて頂いています。ジブリールと申します」
「ほう、その名。同郷のものか?それではシミターはなじみ深いだろう」
長く喋りすぎた薔薇は咳き込みながらも少佐にシミターを手渡す。
少佐は薔薇の体調を心配するが、曲剣を渡されると夢中で眺める。
まぁ、何はともあれお互いに好印象を持ったようでなによりだ。




