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43 訳あり

『エコーは神人合一の力をなんとか制御する事に成功した。神の能力と使える権限は大幅に減りはしたものの元から人間に扱える力ではない。それにこれは仮初の力だ。神の方はともかく、魔人の力は彼女の信仰体系とは異なる。いずれ自然に消滅するだろう』


俺達一同はモーゼスらがいる場所へ急ぐ。

ちなみにザフラは薔薇のローブの中へと戻っている。

エコーは走りながらも俺に質問を投げかける。


「ヨエル、先程の魔術は?」

「お前には理解出来ないものだ。気にするな」

「先程言った正体に関係があるのですか?」

「そうだ」


俺はその事に関して喋る気はない。

言ってしまえば全てが変わってしまうからだ。

その事はエコーを含め、親しい人達からすれば暗黙の了解だ。

いずれ時が来れば全てが明らかになるだろう。


「分かりました。詮索はしません」

「ああ、悪いな」

「大丈夫です。信頼していますから!」


エコーは屈託ない笑顔を俺に向ける。

少しの申し訳なさを感じるが、今はその気持ちに甘んじよう。

そんな俺達のやり取りを見ていた薔薇が沈黙を破る。


「我が師からヨエル殿は特殊と聞いている」

「何を聞いたかは知らないが、訳ありだと思ってくれれば良い」

「心配するな。暗殺教団は皆、訳ありだ」


薔薇の方も特に詮索するつもりはないらしい。

しかし、共に戦う者の素性が知らないのは安心出来ないだろう。

そんな俺の思いを薔薇が汲み取る。


「俺は任務を頂いている。それをこなすだけだ」

「月下美人に対する信頼か?」

「それは勿論。しかし、ヨエル殿の行動を見ていれば悪人には見えない」

「その認識が外れていた場合は?」

「暗殺教団の名の下に断罪をするまでだ」


薔薇は場合によっては敵となると宣言をする。

一瞬、空気が張り詰めるが、エコーがそれを取り除く。


「ヨエルなら大丈夫です!」


エコーが即答でそう応える。

それに対して薔薇はフッと軽く笑みを浮かべて頷く。

短い間だが、薔薇は暗殺者とは思えない。

素質もそうだが性格が真っ直ぐ過ぎる。

良くも悪くもだ。


「ああ、俺もそう思う。ヨエル殿なら大丈夫だろう」

「はい!間違いないです!」

「それに相手をするのも骨が折れそうだ」


薔薇がそう言うとゲホゲホと咳き込む。

痛々しいその咳も薔薇はいつもの事だと言わんばかりに気にもとめない。

俺は余計なお世話だとは思いながらも喉の治療を勧めてみる。


「その喉は今の技術なら直せるだろう」

「そうだろうな」

「直す気はないのか?」

「このままでいい。全ての始まりがこの痛みに詰まっている」


薔薇は自分が何者であるかを忘れない為に敢えて苦痛を受け入れる。

初心を忘れないといえば聞こえは良いだろうが、これは苦行の一種だ。

彼は暗殺を生業にする者とは思えない精神性と高潔さを持っている。

それは俺に興味を抱かせたが、お互いに詮索は無しだ。


「ヨエル殿とは長い仲になりそうだ。いずれ色々と話す機会もあるだろう」

「そうだな、いつかお酒でも酌み交わしながらな」

「悪いが酒は飲まん」

「そういえば月下美人のせいで忘れていたが、教義だったな」


いや、喉に染みて痛むと薔薇が答える。

さぁ、話もここまでだ。

この曲がり角の先にモーゼス達がいるはずだ。


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