41 黒神
『神秘種の体は人間のそれらとは異なる。彼らは霊的なエーテル体で出来ており、この世に顕現する際の肉体は仮初の物だ。それ故に彼らの肉体を一部でも取り込むと彼らの本質的な霊的素質を取り込む事になる。その影響は未知数だ。それらを好んで自ら取り込み、己の力にしようとする食の神人合一派というのもあるが、その話は今度にしておこう』
魔人の腕を取り込んだエコーに俺は心配を隠せずにいた。
神秘、それも上位の魔人の物だ。
エンパス能力が並外れているエコーが受ける影響は計り知れない。
俺はエコーに様子を尋ねる。
「大丈夫か?エコー?」
「大丈夫?最高の気分ですよ、ヨエル!」
「おい、なんだその顔は?様子がおかしいぞ!」
エコーの額には白い三日月の模様が浮かび上がっていた。
いや、それだけではない。
譲り貰った魔人の腕がみるみる黒く染まってゆき、その皮膚には星空を思わせるような模様が浮かび上がる。
俺はこの現象に覚えがある。
神人合一。
深い信仰と巨大な神秘を組み合わせることによって人間が神憑りを起こす現象だ。
俺はその神の正体を口にする。
「黒神」
「ブラックゴッド?確か森の方の火と星の神だったか」
「ああ。そこの魔人はどんでもない事をしてくれたな」
俺は薔薇に対してザフラが巻き起こした現象に文句を付ける。
それに対してザフラは特に気にすることもなくそれを見て笑い出す。
「ハッハッハ!最高だわ、小娘!まるで昔に見たあの巫女共を思い出すわ!」
「笑い事じゃないぞ!巫女の憑依とはものが違う!人間が自分の内に神を顕現して無事な訳がないだろう!」
「文句の多い男ね。神の手前よ?もっとお行儀良くなさったら?」
「ふざけてる場合か!」
俺は今まで神人合一を三度見たことがある。
結果はどれも同じだ。
人間が神の力に耐えれなくなり、肉体、精神的に崩壊を迎える。
当たり前の話だ。
それはこの魔人も知っている筈だ。
「ヨエルは心配ばかりですね!私は大丈夫ですよ!今までに感じた事のない力が溢れ出るのを感じます!」
「落ち着け、エコー」
「ほら!グールがやってきますよ!」
エコーは神の力に酔いしれていた。
どうしたものかと迷っていると新たなグールと思わしき人物が二人、ビルの影から現れる。
エコーがどのようにしてグールの出現を予測できたのか?それは俺には分からない。
それにしてもおかしい、グールの数が多すぎる。
エコーの煙の探知を掻い潜ったのか?
いや、その可能性は低い。
となると答えはシンプルだ。
この瞬間にグールらの召喚を行なっている者がいるという事だ。
現れたグール達はイフリーターのザフラを見て一瞬驚くが、エコーが秘めている魔力を感じ取ると青ざめて、その場から逃げ出そうとする。
「星々の目から逃げられませんよ」
エコーがそう告げ、神の腕を空に向けて星々を指さす。
すると空、いや星からだろうか?
強烈な閃光が空からグール達を目掛けて振り注ぐ。
星の光を浴びたグール達は断末魔を上げる暇も無く灰燼と化す。
まるで衛星から放たれるレーザー兵器のような威力だ。
それを見たザフラがエコーを褒める。
「やるじゃない小娘!」
「小娘はやめてください、私の名はエコーです!」
「へぇ。黒き星々の残響か、素敵じゃないか」
ザフラは自分が影響を与えた作品の出来に満足していた。
しかし、その影響は力に留まらず、エコーの精神にまで及んでいた。
「この力は最高!有り難く頂きますね」
そう言うとなんとエコーはザフラの頬にに手を添え、彼女の頬に接吻をする。
一瞬驚くザフラだったが、満更でもないような笑顔でどういたしましてと言う。
俺は頭痛に聞くハーブを調合した煙草を取り出すと一服し始めるのだった。




