40 燃える愛
『焦りとは人間がもつ弱点の中でも一番付け込まれやすいだろう。なぜならそれは敵に私はここが弱いと告知をしているようなものだからだ。しかし、短い人生を生きる人間にはそれを簡単には克服できない。生き急ぐ事は死に急ぐ事と同様だ。なぜそれが理解出来ないのだ、エコーよ』
イフリーターのザフラは俺を傲慢だと言う。
薔薇のローブからニヤけた顔を出す。
人を見下しながらも何処かそれを良しとする愉悦に満ちた顔。
人間の持つ様々な弱さを彼女は好んでいるようだ。
「支配欲が強い男はそそられるわ」
「戯言に付き合う気はない、イフリーターよ」
「あら、本当に戯言かしら?」
薔薇はそれを傍観している。
彼も同じ想いなのだろうか?
ザフラは薔薇のローブから完全に出てくると焦燥しているエコーの方を見る。
「いつまで小娘を庇い続ける気かしら?」
「人の成長には段階がある。今は危険に挑む時ではない」
「信頼がないのね」
信頼されていない。
その言葉を聞いたエコーの顔が更に曇る。
違うのだ、エコー。
俺の意図を理解できないエコーに対して俺は説得を試みる。
「良く聞け、エコーよ。」
「なんでしょうか?」
「急ぐな。もっと周りを頼るんだ」
「ハハハ、聞き慣れた言葉ですね」
俺の言葉はエコーには響かない。
若い彼女には分からないのだ。
今、歩み始めたばかりの彼女は自分の価値を世界に示したいという欲に駆られている。
「今を大事にするんだ、此処で終わりじゃない」
「今なんですよ、ヨエル」
「なんだと?」
「今!この瞬間に逃げて未来に迎えるとは思わない!!」
エコーは強い覚悟で俺を見据える。
しかし、それは無謀だ。
恐らく本人も理解はしているのだろう。
理解はしている、しかし、納得は出来ない。
それが彼女の本音なんだろう。
「これ以上言っても無駄、か」
「無駄でしょうね」
「自由意志、か」
「ええ、自由意志だわ」
俺の言葉にザフラは同意する。
まったく、魔人という者は苦手だ。
どこでまでも自由で強欲。
そのクセに誰よりも人の心を理解している。
「小娘!戦う意思はあるわね?」
「はい!」
「良いわ!最高だわ!アッハッハ!」
ザフラは素早くエコーにすり寄ると彼女をハグする。
いきなりの出来事にエコーはきょとんとしてしまう。
突如、二人の身体を淡い火に包まれる。
「可愛い小娘よ。母の恩寵を受けているのね?」
「は、はい!」
「可愛い雛鳥の時代は終わりを迎えた。さぁ、飛び立ちなさい、若き鷹の子よ」
ザフラの片腕が火に包まれて燃え尽きていく。
すると、なんと、エコーの失くなっていた腕にザフラの腕が生えてくる。
魔人の片腕を譲渡したのか!
それは魔人が人間に施す慈悲、愛。
エコーはザフラの身を焦がすような愛を受け、訳もわからないまま涙を流す。
溢れ出る涙を止めれないエコーの頭をザフラが優しく撫でる。
それはなんと美しい光景なのだろうか。
自分の腕ではないそれをエコーが動かして感触を確かめる。
譲渡を完了したザフラはエコーから離れる。
「良し。これで戦えるわね」
「イフリーターのザフラよ。俺はお前を多少誤解していたかもしれない」
「あら?男に私の底が見えると思ったのかしら?」
ミステリアスな方が魅力的でしょ?とザフラはウィンクをする。
炎の如く燃え盛る愛。
それは自己満足ではあるけど何処までも素直な愛だった。
それがこの魔人の本当の姿なのかもしれない。
「私はあらゆる愛を肯定するわ」
「多少、歪んている様にも思えるがな」
「愛は険しいものよ?」
ザフラはエコーはいずれ自分のコレクションに加えるのだからこれは投資だと言う。
圧倒的なまでの傲慢で強欲な愛情。
今までそれを傍観していた薔薇が初めて微笑みを見せる。
それに対してザフラは今までにないほどの満面の笑みを返すのだった。




