39 戦力外
『エンパス気質の者にとって一番の敵は力のある敵ではない。悪意のある者だ。彼らはそれを人一倍に感じ取ってしまうからだ。能力的にエコーはグールらを上回ってはいるが、それでもいとも容易く無力化されたのはそれが理由だ』
俺は薔薇にグールの召喚者の心当たりはないかと聞く。
「暗殺教団は召喚者について何か掴んでいないか?」
「未だ不明だ」
「暗殺教団、いや、月下美人が何も掴めないとはな」
「ああ、我が師の目を逃れるとは驚きだ」
ハサンの目を掻い潜り、暗躍するとは相手は相当用意周到だ。
以前起きた洋館の件もそうだ。
近頃はこういった事件が良く目立つ。
何が、何が大きな力が働いてるように感じる。
思い過ごしなら良いのだが、残念ながらこういう時の俺の感は外れた試しがない。
俺は軽く溜息を漏らす。
「考えても埒が明かない。さぁ、モーゼス達と合流するとしよう」
「マグス·モーゼスか。噂通りの傑物なら問題はなさそうだが」
「心配はしていない。しかし、異常な事態が良く起きる」
エルダーグールの件もそうだ。
この事件の黒幕は一体何を企む?
相手の意図を掴めないでいる事に俺は少しばかりの焦りを覚える。
そんな俺に対してイフリーターは軽い調子で言う。
「劣化種如きに何を焦ってるのかしら?」
「イフリーターからすれば脅威ではないが、人間からすればそうではない」
「ふーん。まぁ、どうでも良いけどね」
イフリーターは心底どうでも良さそうな態度を示す。
グールも人間も彼女からすれば取るに足らないのだ。
彼女が興味を示すのは自分の欲求を満たしてくれる存在だけだ。
彼女は薔薇のローブの中に潜り込むと姿を消してしまう。
薔薇は少し困ったような顔を浮かべて俺達に言う。
「コイツ、ザフラの事は気にしないでくれ。いつもこの調子だ」
「魔人は変わり者が多いとは言うが、此処までの者は俺も初めてだ」
「ああ。慣れれば可愛く思えてくる」
薔薇のローブが少しばかりもぞっと蠢く。
イフリーターのザフラか。
仲間でいる内は良いが、正直信用は出来ない。
彼女の持つ善悪の概念は俺達とは違う。
そして、きっと自分の欲求にのみ、従うのだろう。
しかし、神秘とはそういう物だ。
人間が創り出した法など、彼らからすれば関係ないのだ。
薔薇はエコーをどうするか聞いてくる。
「腕を失っている。我が宝は避難させるべきか?」
「私はまだ戦えます!」
エコーは強い魔力を当てられた精神的消耗による疲れを色濃く見せていた。
彼女はまんまと敵の術中にハマり、いとも容易く無力化されてしまった。
彼女が非力なわけではない。
騙し合い、心理戦、搦手、この手の技を使いこなす相手にエコーは未だ上手く対処を出来ない。
相性が悪かったと言えばそこまでだ。
俺は率直に彼女はすでに戦力外である事を告げる。
「残念ながら今回はここまでだ、エコーよ」
「そんな!まだやれます!」
「腕を無くし、精神的汚染も残っている、それでもか?」
「やれるって言ってるでしょ!!」
エコーは必死に懇願をする。
自分を置いていかないようにと。
そんなエコーを薔薇は黙って見つめている。
今回は学びとして次に活かせば良い。
俺が諦めるように彼女を説得しようとすると薔薇が間に入る。
「ヨエル殿、俺が我が宝を守ろう」
「駄目だ。事態は既に予測不能だ」
「…過保護だな」
薔薇は俺に甘いと言い放つ。
薔薇は疲労困憊なエコーの前に立つとじっと彼女の目の奥を見つめる。
そして、心が折れていないと告げる。
薔薇は無茶を言っている。
このまま続ければ彼女は壊れてしまうかもしれない。
「ヨエル殿には弱い者の気持ち、悔しさが分からないのだな」
「無駄よ、彼は私と同類よ」
薔薇の呟きに応じてイフリーターのザフラがひょこりとローブから顔を出す。
「力がある者が守ればいい、いえ、支配すれば良い」
ザフラは傲慢な男は好きよと俺に魔性の笑顔を見せながらそう言うのであった。




