37 イフリーター
『薔薇はイフリートに取り憑かれた者、いや契約者だ。ジンの上位種であるイフリートが人間と契約を結ぶ事ほぼない。不躾な召喚を行うだけで召喚者を焼き殺してしまう気性の荒い魔人だ。なぜ薔薇は彼女に選ばれたのか?それは俺には分からない』
薔薇はエルダーグールの首を強く握り締める。
遂にはその首を素手で握りつぶしてしまう。
薔薇の握られた手が再度熱を浴び、発火する。
エルダーグールに火がつくとそのまま地面に投げ捨ててしまう。
エルダーグールの回復能力が追いつかずにそのまま力果て、灰となる。
イフリーターは満足気にそれを見つめる。
「ハッハッハ!醜いものでも燃える時は美しいじゃないか!」
そう言って笑うイフリーターの魔性の美貌には嗜虐性を帯びた表情が宿っていた。
薔薇は再びエコーに歩み寄ると言葉をかける。
「我が師が言うにはお前は未来の宝というやつらしい。それならば俺にとっても守るべき宝になる」
エコーは何処か熱を浴びた表情で薔薇の言葉を聞いている。
「お前を守りにきた、怪我はないか?我が宝よ」
薔薇はエコーに手を差し伸べるが、エコーは顔を真っ赤にしながら大丈夫です!と跳ね上がる。
成る程。
この薔薇という男はあのイフリーターの持つ性質、炎とその魅力を継承しているのだな。
唯でさえの美丈夫だ。
それに火の持つ、魔性の魅力を併せ持ったら魔力耐性の少ない者ならやられてしまうな。
俺は懐から取り出したハーブを調合して作った気付け薬を嗅がせる。
彼女はチャームの影響下から抜け出す事に成功する。
薔薇が少し苦しそうに咳き込む。
「気にしないでくれ、喉の火傷のせいだ。長く喋ると喉が痛む」
よく見ると薔薇の顔以外の全身のあらゆる所に大小の火傷の跡がある。
それは彼本来の魅力のせいか、又は魔の魅力のせいかその火傷さえも彼の戦歴を象るメダルかのように思えた。
そんな彼の堂々とした態度と服装も相まって王のような威厳が溢れ出ている。
そんな薔薇に絡みつくイフリーターもまた高貴な雰囲気を醸し出していた。
俺はふっと疑問に思い、イフリーターに問いかける。
「なぜお前が火傷を直さないんだ?イフリーターよ」
「ふん、下賎な人間とは口を聞く気はないが、お前は少々違うらしいな?」
「…神秘協会所属、ヨエルだ」
イフリーターは俺の正体をなんとなく把握する。
自分とは口を聞く事を許してやってもいい立場にいると判断されたらしい。
イフリーターは俺の問いに応える。
「私の趣味だ。口数の少ない男が好きでな」
イフリーターは薔薇に残された火傷の跡を触りながら妖しく笑う。
イフリーターは今度はエコーの方に目を向けると更に加虐的な笑みで続ける。
「これは好い男だろう?小娘」
「え?」
「欲しくなるだろう?私が育て上げたのよ」
イフリーターは自分の作品を誇示するように薔薇の顔に手をやる。
薔薇は黙ってイフリーターの好きにさせる。
イフリーターは悪意のある笑みでエコーの目を見つめる。
「さぁ、お前も来なさい」
イフリーターの目が妖しく光り、逆らう事の出来ない強い魅力にエコーの身体が勝手に動き始める。
エコーは困惑した様子で抵抗を試みる。
しかし身体が言う事を聞かない。
それまで黙っていた薔薇がイフリーターの手首を掴み、一言を放つ。
「やめろ」
それはイフリーターに対する命令だった。
薔薇の突然の命令にイフリーターは一瞬驚いたかのように止まり、そして恍惚とした表情を薔薇に向ける。
まるで支配される事が快感かのようだ。
「そうよ、男は堂々としないと」
イフリーターは今度は支配されるという被虐的な快楽に身を委ねる。
このイフリーターは人格破綻者、いや、欲望のままに動く魔人だった。
これがハサンが最強と認定した暗殺者、薔薇とそのジンだ。




