36 招待
『戦いでは相手の戦力を見抜き、弱点、すなわち一番弱いものを叩くのがセオリーだ。もし、それが人だったのなら、負傷させ、足手まといにさせる事で戦力を大きく削る事が出来る』
エコーが戦闘不能になった今、彼女を庇いながらエルダーグールを撃退、あるいは、逃走を図れるだろうか?
残念ながらどちらも無理だろう。
俺は奥の手を使う事にした。
懐に手をやるとエルダーグールがまたか、と言った口調で喋る。
「祝福の短剣は効かないぞ?」
「別の手だ」
俺はハサンから持たされた手紙、薔薇の招待状を取り出す。
それをライターをもって燃やす。
燃えてる手紙を地面に投げると、更に勢い良く燃え上がり、巨大な炎となる。
エルダーグールは燃え盛る炎をつまらなさそうに見ていたが、その炎が徐々に帯び始める魔力を感知するとその場から大きく飛び退く。
その炎から一人の男が現れる。
見た目は三十代、身長は大きく190cmはあろう。
逞しい身体付きをしていて、それを革鎧で覆い、その上を宝石があしらわれた紫のローブで羽織っている。
髪は赤く、ウェーブの掛かったロングでライオンの如き威厳を放っていた。
その顔はギリシャの彫刻を思わせるほど、凛々しい。
その美丈夫はグルっと周りを見回すと状況を把握する。
そしてそこに居る者達全員に告げる。
「招待に応じて参上した」
エルダーグールを見つめるとその正体を見破る。
「下位魔神か」
「その名で呼ぶな!」
エルダーグールは侮辱言葉に激怒をするが、男を前に身動きを取れずにいた。
それは男が纏う魔力のせいだ。
遂にしびれを切らしたエルダーグールが呪文を唱え、火炎玉を男に放つ。
男は己のローブで全身を覆い隠すとそのまま火炎玉を受け止める。
大きな爆発が起きるが、男がローブでそれを追い払うと炎は綺麗に消え去る。
眼の前の男との実力の差を感じ取ってしまったエルダーグールは絶望で膝から崩れ落ちる。
男はそれを見届けるとエルダーグールに背を向け、エコーに歩み寄る。
エコーが呪いの力の影響下にいると察知した男は彼女の脚の傷の上に手をやる。
「失礼、肌に触れるぞ」
男の手は色んな種類の宝石で出来た指輪やブレスレットで飾られていた。
まるで王か、宝石商かのようだ。
その手が突然赤くなり、煙を立てるほど熱くなる。
しかしエコーは熱くはなさそうだ。
「浄化しろ」
男がそう告げるとエコーの身体を蝕んていた呪いが解呪される。
エコーの顔に生気が再び宿る。
それを確認した男はエコーから離れる。
再びエルダーグールと相まみえると男は敵に向けて告げる。
「暗殺者、薔薇だ。命によりお前の命を戴く」
「薔薇?噂の憑きものか!気狂いのジンに気に入られたという奴か!」
「気狂いとは私の事か?」
薔薇と名乗った男のローブがもぞもぞと蠢くと中から一人の女性が出てくる。
非常に美しい顔立ちをしており長い赤髪を無造作に下ろしていた。
赤色のチョリと同色のハーレムパンツを履いており、まるで踊り子のような格好をしていた。
そして指輪やネックレスといった宝石類を沢山身につけていた。
女性は再度、妖艶な音色のする声でエルダーグールに聞く。
「気狂いとは私の事かと聞いている、紛いもの」
「くっ、イフリーターだと!」
「なぜレッサー如きに気狂いと呼ばれるのかしら?」
イフリーターは双眼を妖しく光らせるとエルダーグールに手招きをする。
エルダーグールは魔性の魅力に逆らえず自分の意思とは反対に手招きに応じる。
エルダーグールがもう少しでイフリーターに近付く所で薔薇の腕が伸びエルダーグールの首を宝石だらけの手で掴む。
薔薇は一言だけ告げる。
「終わりだ」




