34 挑発
『魔は人の心の弱みを利用する。いや、それは魔に限った話ではないだろう。人の弱みにつけ入り、利用し、それを持って相手を破滅に追いやる。マインドゲームだ。特にグールなど高い知性を持つ神秘などはそれが厄介だ。人よりも高い能力を持つ者がさらに心理戦まで行えるとなるといかに恐ろしいかは想像しやすいだろう』
エコーが更にグールを挑発する。
「ハハハ!かかってきなさいよ!」
「図に乗るなよ、人間!」
グールは既に冷静さを失っていた。
簡単な餌食と思っていた人間に深手を負わされたのだ。
怒りがグールの身を包んでいくのが分かる。
グールは無事な方の片手でそこら辺の椅子を掴むと乱暴にエコーに投げつける。
人外の力で投げ出されたそれは物凄い勢いでエコーに向かって飛来する。
エコーは身を低くしてそれを避けるが、既にグールはそれを予見していたかのようにエコーに向かって走り出していた。
「おら!!」
グールは身を低くしているエコーに蹴りを食らわす。
エコーは機械腕でそれを防ぐか大きく後ろに飛ばされる。
あまりの衝撃にエコーはうめき声を漏らす。
グールはそれを見るとニヤリと笑う。
「軽いねぇ。食事はちゃんと取っているか?」
「女性に体重の話はデリカシーがないですよ」
「これは失礼。ふくよかな女性が好みなんでね」
グールは軽口を叩く。
歪に折り曲げられた腕をぶら下げながらも平気な顔をしている。
これは普通の人から見れば恐怖を覚える事だろう。
しかし、エコーなら、もう大丈夫だ。
「そっちこそ大丈夫ですか?骨が脆いですよ?カルシウムは足りてますか?」
エコーは返し言葉で煽る。
ふむ、状況的には五分、多少エコーの方が有利だろうか?
俺は懐から短剣をもう一振り取り出すと、再度、グールに投げつける。
それを見たグールが舌打ちしながら大きく避ける。
その機を逃さずにエコーが腕を変形させた弓でグールを射抜く。
流石の早業だ。
矢は見事にグールの頭部に命中する。
しかし、頭部に矢を受けたのにも関わらず、グールはまだ倒れていなかった。
「くっ、やって…くれたな!!」
凄まじい生命力だ。
しかし、エコーはもう終わりだと告げる。
グールは最期の足掻きに再度、エコーに襲いかかろうとするが、エコーは微動だにせずに立っている。
「もう、来ないでくださいね」
エコーが機械腕にあるスイッチを押すとグールの頭部に刺さっていた矢が爆発する。
グールの頭が跡形もなく吹っ飛ぶ。
遂にグールの身体は地面に倒れ込み、そして灰になる。
これで取り敢えずこの場は収めることに成功したな。
しかし、エコーは浮かない顔をしている。
「すいません、ヨエル。飲み込まれました」
「ああ。俺がいなかったらやられていたな」
「すいませんでした…」
「其の為に俺がいる」
俺はエコーに大丈夫だと言う。
若さもあるが、エコーは何処まで行っても素直だ。
感情のコントロールは今後の課題だな。
なに、焦らずに成長すればいいさ。
其の為の補佐官だからな。
「能力的には私の方が上でした」
「戦いは身体能力、装備の差だけでは決まらない」
「はい。しっかり認識できました」
「お前の事は良く理解している、信頼している」
エコーは少しばかり胸を打たれる。
これぐらいの失敗はなんてことない。
これを糧に出来る強さと賢明さを彼女は持っているからな。
「頼ってくれ」
俺はエコーの肩に手をやると彼女は涙を滲ませる。
お前は大丈夫だ。
さぁ、次に行こう。




