31 来る道ゆく道
『神が人に与える力の目的とはなんだろう?主の思惑は俺では計り知れない。しかし俺はこう思う。神が与え給うた力はそれが必要な道を切り拓く為にあるのだと。しかし多くの人々が力に飲まれ、私利私欲の為に使っている。それではモーゼスや少佐の様な軍人はどうだろうか?己の正義、信じるもの、大多数の人々の為に戦をする力。その結果が自分の精神を蝕む程の強い葛藤や後悔の日々だ。それらの内的な聖戦を乗り越えた時に主の意思が垣間見えるのだろうか?俺にはまだその問いの答えを見いだせないでいた』
「すみません。戦いの前だと言うのに士気が下がっちゃいますね」
少佐は申し訳なさそうに微笑む。
しかし俺からすれば一人前の戦士の心が垣間見える事は特にエコーのような駆け出しには良い事と思える。
いずれ長になる日が訪れた時に彼女が自分なりに戦いというもの対してどう向き合うか?
早い内から考えさせられる事は非常に幸運だ。
自分なりに決心が付いた時こそ彼女の準備が整うのだ。
「俺は偉そうな事は何も言えねぇ。言う立場でもないしな」
モーゼスが自分の部下の葛藤に対して真摯に向き合う。
少佐と、それからエコーも真剣な顔でそれを聞く。
「最近知り合った野郎に俺も悪の道を歩む同士だと言われたんだ。理想、信念は違えとな」
「大佐は国と人々の為に戦った英雄じゃないですか!」
「お前らにとっての英雄は敵からすれば虐殺者なんだよ」
少佐が英雄と呼んでも現実は違うとモーゼスは言う。
モーゼスはつまらなさそうに腕を組むと話を続ける。
「あの野郎に言われなくても分かってんだよ、んなもん」
「大佐は腹が立ちましたか?」
「勿論だ、冷静を装ったがな。」
「自分でも分かってるとおっしゃいましたが?」
「分かってるし、踏ん切りも付けたつもりだったんだよ」
モーゼスは上を向くとふーっと長い溜息を漏らす。
「割り切れねぇよ」
「…大佐」
「この戦いでも答えは出ねぇだろうな。この先に出るかも分からねぇ」
「ではどうすれば良いのですか!!」
それまで黙っていたエコーが感情のままにモーゼスに対して叫ぶ。
その叫びは心が千切れそうな程の悲痛を浴びていた。
モーゼスは優しそうな、何処か無理をしたような笑顔をエコーに向ける。
「それは自分で見つけるしかねぇんだよ、エコー」
一生をかけてな、とモーゼスはエコーの頭を撫でる。
エコーは泣きそうな顔を隠すかのように下を向く。
弱く、脆く、そして勇敢な人間達がそこにはいた。
「俺の来た道、そして行く道を見届けてくれ。その道が間違っていたならお前は違う方を選べ」
後輩に新たな時代を託す男の言葉。
それに応じる男がもう一人。
少佐だ。
「お供しますよ、大佐。貴方は突っ込むしか出来ませんから私がいなければ直ぐに死んじゃいますよ」
「おうおう、言うじゃねぇか少佐!」
「お供しますよ、ずっと」
俺には正解を知る事は出来ない。
しかし、願う事ぐらいなら許されるはずだ。
どうか彼らの最期、その最期の時に我が主の導きにより彼らの心を一切の曇りもなく晴らしてくれ給え。




