30 ピースメーカー
『戦場の射撃手。それは時には姿なき死神として遠方から敵を死を贈る者。時には武装ヘリのバルカン砲を用いて死体の山を築く者。そして時には自ら前線へ赴き類稀なるガンマンとして名を馳せる者の事だ。大抵の敵対者は戦場で魔術大佐の業を目にするも事なく一人の男により人生の幕を降ろすことになる。』
少佐のお陰で標的の人数を減らす事に成功した。
先程の煙は感知魔術ともいうべきもの。
そして相手は神秘だ。
人類よりも魔術の類に敏感である以上、こちらの存在を認識したと思って良いだろう。
逃げられる前に急ごう。
「さて、俺達も向かうとしようじゃねぇか」
「そうですね!機を逃してはなりません!」
どうやらモーゼスとエコーも俺と同意見だ。
準備をしながらエコーが敵の弱点について尋ねる。
「グールは弱点とかありますか?やはり銀が有効でしょうか?」
「いや、彼らは鉄でも充分に通用する。ただし、同じ箇所を二度攻撃してはならない。傷が塞いでしまう」
「先程の射撃みたいに一撃で仕留めちまうのが理想だが、敵はこちらを警戒してんだろうな。不意打ちは効果が薄いだろう」
俺とモーゼスがエコーに説明をする。
火なども有効なのだが、街中で火の魔術や火炎放射器などはなるべく使いたくない。
騒ぎになればそれに乗じて脱走を図られるかもしれないからだ。
「出来れば私がもう一人、二人ぐらい仕留めれば良かったのですが」
「路地裏や建物内ならしょうがねぇ。そもそも全員野外にいたら少佐一人で片がついちまうじゃねぇか」
モーゼスは少佐の言葉に対して圧倒的な信頼を持って応える。
先程の射撃を見るとモーゼスの言い過ぎではないだろう。
少佐の言う通りここでもう少し敵の数を減らせれば良かったが遠距離からの狙撃を警戒された以上は無闇に外を歩き回る事はしないだろう。
少佐には近くからの後方射撃での援護をしてもらおう。
「もっとヨイチにも活躍させたかったのですが残念です」
「少佐は他にどんな銃器を使うのですか?」
エコーが興味津々の様子で少佐に尋ねる。
少佐は待っていましたと言わんばかりに先程のケースからホルスター付きの革ベルトを取り出す。
ウエスタンホルスターとして知られる物だ。
そのベルトを腰に装着するとホルスターから一丁のリボルバーを抜く。
そしてそれをグルグルと指を使って器用に回す。
モーゼスはそれを見るとやれやれと言った感じで口を開く。
「相変わらずだな、その骨董品。今時カウボーイは流行らねぇぞ、少佐」
「オートマチックみたいにジャムる事も無ければ、スマート武器みたいにハッキングもされませんよ」
「装填が面倒だろう、そんなもん」
「浪漫ですよ、大佐」
モーゼスには少佐の拘り、いや、浪漫というのが理解出来ないらしい。
そんな銃を玩具代わりにグルグル回してる少佐をエコーが興奮した様に見つめる。
瞬きすら忘れるほどだ。
「そ、それは!そんな物、一体何処で入手したんですか!!」
「知人に頼んでプライベートなオークションで競り落として貰いました。お陰様で貯金がパーです」
「ここまでのクラシックスタイルは初めて見ました!まさか純正品ではないですよね?」
「流石に古すぎて使い物にならないので色々リペアして貰いましたよ」
俺の古い思い出の彼方にこの銃があった。
名前は確か、ピースメーカー。
なんとも皮肉なネーミングセンスだ。
なんとも言えない顔でそのリボルバーを睨む俺に少佐が銃を見せてくれる。
「ヨエルさんはこの銃を、その歴史をご存知ですね?」
「ああ」
「確かに褒められた物ではないですね」
見て下さいと少佐がリボルバーのバレルに刻まれた文字を俺に見せる。
そのリボルバーのバレルにはこう刻まれていた。
Peace Never Come.
「銃で平和を作れるはずがないのです」
だからこそ業を背負うつもりだと少佐が己の決意を見せる。
少佐もまた葛藤を抱える一人の男だった。
修羅の道を歩む男に対して俺もエコーもモーゼスも何も言えなかった。




