5 燃える火柱
『神秘がこの世に降臨してから協会、学会、教団、その他様々な組織が生まれた。しかし人類は手を取り合う事をせずに内輪揉めに興じる。神秘を管理しようとするもの、又は利用とするもの、人を逸脱しようとするもの。これ以上は・・・いや、よしておこう。これも自由意志だからな』
マザーとの通信を終えると俺は洋館の探索を再開した。
レッドキャップの遺灰は適切に処分を済ました。
彼らの灰で作れるのは人を異常に興奮させ理性を薄めさせる、いわゆる魔薬の類だ。
周りを警戒しながら更に上階へ続く階段を探す。
事前に貰っていた情報と間取りがかなり食い違っているな。
「ねぇ、ねぇ」
どこからか子供のような声が呼びかけてくるがそれを無視しながらひたすら探索を続ける。
しかし外から見た以上に中が広すぎる。
ここは既に異界に侵食されていると認識を改め、警戒を強める。
「そっちじゃないよ、無視しないでよー」
尚も語りかけてくる子供の声に意識を割くまいと歩き続ける。
確かになんの事前準備もせずにくれば新人狩人には荷が重いだろうな。
まぁ、いくら準備をしても神秘は常に未知に溢れてるからな。
「あったまきたー!!」
怒声と共に爆音と辺りを焦がすかのような火柱が現れる。
廊下に広がる熱気が浅黒い俺の肌を更に焦がしにかかる。
火柱は螺旋状に渦巻き始め更に勢いを増す。
「もう十分に日焼けしてるんだがな」
こんな建物内で火柱か。
おおよその正体の見当は分かるが交渉に応じてくれるだろうか?
まぁ、やってみるしかなさそうだな。
「おい、落ち着け精霊よ」
「なに?降参するのかな?」
「交渉がしたい」
霊の類との交渉は大抵碌な終わり方にならない。
しかし、それは彼らとの交渉のルールを知らないからだ。
明確にすればいい交渉が出来る事も多々ある。
おすすめはしないけどな。
「お兄さんは何をくれるのー?」
ここでこのまま進めるのが素人にありがちなミスだ。
あやふやの状態で進めるのはまずい。
貰うものを貰い、こっちの言い分を曲解してくる可能性がある。
「まずはお互いの自己紹介を済ませよう。ヨエルだ」
「僕はこの家に住んでいる妖精だよー」
「コボルトか」
よろしくと挨拶を済ませるとコボルトとの交渉を進める。
「まずはその形態をやめてくれないか?」
「えー無視するからじゃん!」
「俺が悪かったよ」
ふーんと素っ気ない返事が聞こえると火柱の勢いが減っていく。
しかし、こういった妖精達の呼びかけに応じればそれはそれで面倒だから無視したんだけどな。
最悪の場合この洋館の中で迷子になる可能性もある。
「なにが希望の姿はあるかな?」
「特にない、童でも老人でも動物でも何でもいい」
「了解ー」
弱くなった火柱から大きな白い犬に跨った子供が出てきた。
途端に火柱が綺麗に消え去る。
子供の姿はマントを羽織っており、顔は幼く男女の区別が付きにくい。
「改めてよろしくコボルトよ」
「よろしくね!ヨエル」
「まずは俺の事情を説明したい」
自分がこの洋館で起きてる怪異の捜査に来ていること。
元々この洋館に住んでいるコボルトを含め、家住み妖精達を脅かす意図は無いこと。
解決次第この洋館から速やかに立ち去る旨を伝えた。
「なるほどーわかったー」
「そうか助かるよ」
「では交渉しよっかー!」
コボルトは無邪気な笑顔を浮かべた。




